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「シャルティア・ブラッドフォールン、行きますっ!!」
シャルティアはそう叫び、宙に浮くアインズに向けて翼を広げて一直線に飛翔する。確かにアインズは想像を遥かに超えた近接戦闘の能力を持っていたが、未だに無手。シャルティアは手痛いダメージは未だ受けていない。反撃で大したダメージを受けないのならばスポイトランスで叩く事が出来ればお釣りが来る。問題は当たるかと言う事だ。何しろ今までの戦いの中で、アインズが戦士化してからの回避能力は尋常では無い。だが、飛行の能力は吸血鬼の翼を持つ自分の方が小回りが効き有利。…そう考えての突撃だった。
「はああああっ!!喰らええええっ!!」
シャルティアはスポイトランスを全力で振り切る。しかし、アインズがそれに対して取った行動はシャルティアの想像とは全く違った。
「何っ!?」
「先程言った筈だ、戦いとは二手三手先を読んで行う物だとな!」
アインズはシャルティアの突き出したスポイトランスを側転、バレルロールして避けると、直ぐ横に浮いていた岩を蹴り急加速してシャルティアから距離を取った。そして、距離を取ったかと思うと、進行方向に有った岩を蹴る、それを何度も繰り返しグングンとシャルティアから離れて行った。
「は、速すぎる! 地上で戦った時より…!」
「フッ、さて…私が何故赤い彗星などと呼ばれているか…それを知るが良い!」
離れて行ったアインズが再びガコンと岩を蹴り、此方に近づいて来る。そのスピードは最早、シャルティアですら目で追うのが困難な程だ。
岩を蹴る音だけが不気味にガコン、ガコンと鳴り響きその音だけが此方に近づいて来る感覚だ。
「いや、赤い残像が…これが、赤い彗星!?……でも、まだだっ!やられてたまるかぁあああっ!!」
シャルティアはその音と残像を頼りに進行方向を予測し、自分もそこ向けてに羽ばたいて行く。
「そこだああっ!!」
ゴオンッ!という音が響き、岩が砕け散る。しかしアインズの姿は何処にも無い。あのガコンという、岩を蹴る音も止んでいる。
「…ど、何処にっ!」
シャルティアは辺りをキョロキョロと見回す。すると__
「今のは見事だ!と言いたい所だが…まだ甘いな。」
その言葉と共に、上下逆さまになったアインズの
「う、うわあっ! がっ!!」
シャルティアは驚愕からスポイトランスを振り回すが、それより早く繰り出されたアインズの蹴りにより、真後ろに蹴り飛ばされ、後ろに浮いていた岩に激突する。
「ぐううっ!」
「貰った!」
シャルティアは岩に激突し、一瞬意識が飛びかけるも、アインズが自分に向けて突き進んで来るのを視界の端で捉え、迎撃の手を瞬時に考え実行する。ギリギリまで引き付け、相打ち覚悟でスポイトランスで撃ち抜く、というそれを。
「させるかあああっ!」
「チィっ!やるな!」
ガキイン!という音と、そんな言葉が聞こえ、シャルティアのスポイトランスの柄に何か硬質な物が当たった手応えが有る。その手応えに薄暗い喜びの表情を浮かべ、前を向いた。
「ようやく…捉えた。…え?」
「フッ、果たしてそうかな?」
シャルティアが前を向くと同時にそんな声が聞こえ、一瞬苛つくもその言葉の意味を知る。アインズの左腕に突き立つ筈だったスポイトランスの先端が、その左腕に取り付けられた銀色の盾によって阻まれていた。
「そ…その盾は…アースリカバーっ!?」
「光栄に思うが良い。この私に盾を使わせたのは、ゲーム時代も含めてお前が初めてだ。…まあ、魔法職だったから当たり前だが。」
その光景はナザリックで見守る守護者三人組も見ていた。最初に反応したのはバン!と机を叩き、立ち上がったコキュートスだった。
「ア、アレハ! タッチ・ミー様ノ!」
「あ、あれならば神器級のスポイトランスを防ぐ事が出来ますね…。あんな物まで用意されていたとは…」
「ぐぬぬ!」
「ン? ドウシタノダ、アルベド?」
「あの…あの盾の代わりになりたい…!私こそが最強の盾なのに…私もアインズ様の腕にくっつきたいっ!!」
「えぇ…」
流石のデミウルゴスでもドン引きだった。そのデミウルゴスの困惑した声を聞き、アルベドがキッとデミウルゴスを睨んで怒鳴り声を上げる。
「何よっ!? 良いじゃない!! 腕に括り付けられて盾になって、それでも戦いには手を出さなければ問題無いでしょう!? それに、しょうがないじゃないっ!? さっきからアインズ様が…アインズ様がカッコ良すぎて…!超カッコ良すぎ!好き!愛してる! くふうううーっ!!! …あ。駄目だもう…はばぁっ!!」
一人で盛り上がり、一人で興奮し、一人で鼻血を吹き出す。実に人生を楽しんでいる守護者統括の姿が、そこには有った。
「アルベドオオオッ!! 血ヲコッチニ飛バスナ!!」
「やはりこの女には守護者統括を降りて頂く必要が…。…いえ、面倒臭いので止めておきましょう。アインズ様、本当においたわしや…。ほら、アルベド…とコキュートスも血を拭いて下さい。」
何だか端から見るととても楽しそうな、観戦者達だった。
「くっ、でも目の前に!」
シャルティアは迎撃の突きは防がれたものの、目の前に獲物が居て逃がす程甘くは無い。自分とアインズの位置を入れ替える様にスポイトランスを手繰り、アインズに岩を背負わせた。
「ほう、やる物だな。」
「私が薙払ってやるっ!! 全てっ!!」
シャルティアは怒りのままに、打撃属性を付与されたスポイトランスで盾を装備していない、アインズの右手側から全力で薙ぎ払う。
「ならば!」
シャルティアはその一瞬の時間の中、アインズが右手で何か、アイスの棒のような物を折るのを見逃さなかった。
ガキィン!と、金属と金属のぶつかる音が響き、スポイトランスが停止する。
「なっ!? まさか…建御雷八式ぃ!?」
「言ったよな、シャルティア。アインズ・ウール・ゴウン、至高の41人全員で作り上げた力を見せると。これで神器級同士、対等な戦いだな。」
「い、いくら建御雷八式でも…な、何でそんなに簡単に私の全力の攻撃を!?」
シャルティアは建御雷八式を出しただけで無く、片手持ちの刀で両手で薙ぎ払ったスポイトランスを受け止められた。その2つの事柄に大いに、アンデッドらしくなく、とても困惑していた。
「ふ、一番力の入らない根本を、全力で刀を振って受け止めたに過ぎんよ。これもあのデス・ナイトとの戦いのお陰だな。グレートソードをそれより小さいフランベルジュで何度防がれたか…。」
「くっ!」
シャルティアは目の前で自分の知らない事を話し出したアインズに苛つき、一先ず距離を取る。
しかしこれで、先程アインズが言った通り戦力は五分と五分。我武者羅な突撃作戦は取れなくなった。
「でも、私は決めたんだ、アインズ様を討つって!」
シャルティアは自分に喝を入れ、アインズに向かい突撃する。今度は一直線ではなく、凄まじいスピードでジグザグに、左右に大きく動きながらのフェイントを入れて、残像を残しながらの突進。これこそ、吸血鬼の翼を活かした飛行の魔法では出来ない飛び方だった。
「チィっ!これは厄介な!」
アインズはそれを見て直ぐに後ろに下がるが、シャルティアも食いついて離さない。
「ならば…、使えるものは使う!」
アインズは真横に有った岩をシャルティア目掛けて蹴り飛ばす。が流石にシャルティアはお見通しとばかりにスライド移動してそれを簡単に避けた。
「これで、どうだぁぁあ!」
シャルティアはその岩を蹴った直後のアインズ目掛けて全速力で飛翔し、肉薄する。
「させるかぁ! ぐぅ!」
アインズはスポイトランスに向けて盾を突き出すと何とか防いだが、シャルティアはアインズに一撃を入れると再び速度を上げて距離を取り、此方に左右に大きく動きながら向かって来た。
「これが、シャルティア・ブラッドフォールンの力だ!」
「大した物だが、そうそう何度も当たる物では無い!」
アインズは今度は後ろに退くのでは無く、自身も近場の岩を蹴り飛ばして加速を繰り返し、シャルティアに向かって行く。
「はあああああっ!」
「うおおおおお!」
シャルティアはスポイトランスを、アインズは建御雷八式を振り、両者が激突する。
ガキイン!と音が響き、両者が停止した。鍔迫り合いの格好になり、お互いに手の中の獲物をギリギリとぶつけ合っている。
「く、ナザリック最強の階層守護者は化物か!」
「その通りです!漸く分かりましたか!?私は残酷で冷酷で非道で__そして可憐な、化物です!」
「ふ、実際に戦って見なければ分からんからな! その力でナザリックを、私を守ってきてくれたという訳だ!今更だが改めて礼を言わせて貰おうか、シャルティア!」
「ぐうう!今更何を!私は決めたんだアインズ様を討つって! 私はアインズ様に剣を向けてしまった…、だったらやるしか無いじゃないですかっ!? アンタが正しいって言うのなら、私に勝って見せろっ!!」
「勿論!そうさせて貰うさ! しかし、今の私は正しさなど考えていない!何度も言うが!お前を取り戻す事だけだ!」
そのまま、逃がすまいとするシャルティアと、退くまいとするアインズの意地のぶつかり合いのような激しい剣と槍の打ち合いとなった。シャルティアの振るうスポイトランスを盾で弾き、アインズも建御雷八式を振るうが流石に守護者最強といった所か、身を捻ってギリギリで躱す。すぐ様シャルティアがスポイトランスで薙ぎ払うも、アインズも直近の岩を蹴り飛ばしてバレルロールして躱す。そうしてずっとその戦いが続くと思われるような、一進一退の攻防が続いていく。その内、お互いの攻撃が当り始め、お互いの鎧に穴が空き、装甲が拉げて行く。
(嘘でしょ…?何で私と互角…いえ、私より強い…?このままじゃマズイっ!…だったら!!)
一瞬の隙を突き、シャルティアのスポイトランスがアインズの持つ建御雷八式を弾き飛ばした。だが、無理矢理建御雷八式を叩いた事で姿勢を崩した隙に、アインズは渾身の回し蹴りをシャルティアに叩き込み、吹き飛ばす。
「ぐうっ、ぐふっ!…ふ、ふふふふ!ははははは!」
「うん?何を笑っているんだ?」
「私の勝ちですね!建御雷八式の無いアインズ様なんて恐く有りません!岩を蹴って逃げ続ければ良かったものを!! アインズ様の頑張り過ぎです!!」
「舐めるな!たかが守護者一人!この戦士化した身体で押し返してやる!」
「止めて下さい!武器が無いんですよ!?無駄な抵抗は止して下さい!痛みを感じず楽にしてあげますよ!」
アインズはシャルティアの警告を無視し、真後ろの岩を蹴って加速し、シャルティアに向かって行く。
そして、シャルティアは見た。再びアインズがアイスの棒のような物をへし折るのを。そしてその瞬間、アインズの両手が棘に覆われたガントレットで覆われたのを。
「しまっ「うおおおおっ!」
アインズは咆哮を上げると両手のガントレット、女教師怒りの鉄拳で殴り掛かる。まずは左フックがシャルティアにヒットし、怯んだ所にタックルでシャルティアの姿勢を崩す。そしてそこからアインズの左ジャブが二発シャルティアを捉え、シャルティアがスポイトランスで反撃しようとした所に締めの右ストレートでシャルティアを吹き飛ばした。
「モモンガS型は伊達じゃ無い!…という事だ!」
「くううっ!私の顔をよくも!……え?」
シャルティアがダメージから立ち直り、アインズを睨み付けると、そこには有ってはいけない、有って欲しく無い武器を構えて此方に向けるアインズが居た。
アインズはここには居ない、だが居れば自分と同じ事をしていただろう親友に願う。
「私はシャルティアを止めたい…止めなきゃならないんだ! お前がエロい事以外の人の心を…哀しみを感じる心を知るものなら…ペロロンチーノ!私に力を貸せ!!」
「うそぉ…ゲイボウ…!?」
「当たれええええっ!!!」
アインズはそう言い放つと、この武器の本来の持ち主の愛娘、シャルティアに向けて、ゲイボウを発射した。放たれた魔法のエネルギーの塊がシャルティアに殺到し飲み込む。
「ぎああああっ!!」
(スキルが有れば防げたのに!…スキルが…有れば?…まさか!?)
シャルティアは漸く気付き、驚愕の表情をアインズに向ける。
「ほぅ、その顔は…漸く気づいたのか?」
「まさか…まさか…!最初から…!」
「戦いは始まる前に終わっている、そして戦いとは二手三手先を読んで行う物だと何度も教えたろう? 今のもスキルを残しておけばノーダメージだったろうな。」
「く〜っ!…ですが…今の隙に新しい武器を出して攻撃して来ない所を見ると…もうネタ切れですか?」
「…そうだな、用意したアイテムは全て使い切ったな。」
「私の勝ちですね! 結局時間稼ぎにしかなりませんでした。」
「ほう、今日お前は初めて私の事を読み当てたな。少しは成長したということか。」
シャルティアはアインズの心の底から関心したような、しかしどこか馬鹿にしたような言い方の中に余裕を感じ苛つくも、自分の事を認めた発言に笑顔で返す。
「フッ、その顔は、何かを勘違いしてるようだな?」
「え?」
「私は別に負けを認めた訳では無いぞ。」
「何を!? さっき…読み当てたって…」
「ああ、そちらでは無く…時間稼ぎの方さ、そろそろ」
アインズがそこまで言った所で、可憐な声が戦場に響いた。
『『時間だぞっ!!! 俗物っ!!!』』
その、身体の芯から震えが来るような、しかしカリスマの塊のような声、というより咆哮を聞き、アインズは身体が仰け反るぐらいに驚愕した。
「うおおっ!!今完全なる狂騒使ってるからビックリ系はダメなんだよっ!!……え?というか、今の…この時計からか!?…いや、今の声は聞き覚えが有る…ハマーン・カーン…ジオンの亡霊めっ!! え?ハマーンという人は何時もこんな話し方なのか?…怖っ!!って、違う違う! 今のは茶釜さんの声だ! 良くペロさんがあの声で…。まさか沢山有る隠しボイスの一つか…?…まあ、原因はこれだよなぁ…。」
アインズは自分の左腕に、この腕時計のすぐ上に巻いてあるリストバンドに目を向けた所で、致命的な隙を晒している事に気づいた。
「…はっ!? シャルティアが目の前に居るのに俺は何を!?」
アインズはシャルティアの方に直ぐに向き直るが、全く要らない心配だった。
「いいいい、今のはぶ、ぶぶぶぶくぶく茶釜様っ!!」
シャルティアは…、アインズ以上に驚愕し、若干怯えていた。
「よ、良く分かったな。私でも少し悩んだのに…」
「わ、忘れる筈が有りません! こ、この声で何度もペロロンチーノ様が…うぅ!」
「ああ、なるほ…
『『2度言われなければ分からんとはな…恥を知れっ!!俗物っ!!』』
アインズの声を遮るように再びハマーン…ぶくぶく茶釜の声が戦場に響き渡った。傍目から見ると、敵対している2人が共にビクッと仰け反るという珍しい光景だった。
「うおっほうっ!! スヌーズを切り忘れてたぁ!!」
アインズは仰け反った後急いで腕時計を操作し、スヌーズを解除した。
「申し訳ありません!!ぶくぶく茶釜様っ!!」
シャルティアは腰を直角90°に曲げ、ここにはいない自らの創造主の姉に頭を下げている。
「えぇ…」
アインズはそれを見て、少し複雑になった。自分とは違い過ぎる態度に。
(まぁ、ペロさんの娘だしなぁ…。仕方ない…のか?)
「ゴホン! とは言え、今ぶくぶく茶釜さんが教えてくれた通り、時間だぞ。」
「教えてくれたというより怒られた気が…。時間…?何の時間だと言うのですか?」
「…分からないか? フッフッフ!ハッハッハッハ!」
「な、何…?」
「先程の台詞、そのまま返しておこう。…私の勝ちだな!今計算してみたが、このまま行けばお前の体力は一撃で削り切れる…お前の言うとおり、私の頑張り過ぎだ!…うん?何かおかしいような?…まあ、そう言う事だ。」
「…何を言って……はっ!?…まさか…!まさかっ!?」
「その通り…超位魔法一撃で倒し切れないのなら…倒し切れるまで体力を削れば良い…簡単な事だろう?」
シャルティアはそれを聞きながら、対抗策を必死に考え、一つ思い付く。超位魔法を撃たせる暇など与えなければいいという、これまた簡単な方法を。
「そんな事…させるかああっ!!」
シャルティアは真っ直ぐアインズに向けて飛翔する。それに対しアインズは地面に落下するという単純な方法でシャルティアの突進を避けると、着地してシャルティアを待ち構える。
(上手い…けどっ!まだ大丈夫な筈、今アインズ様は今地面にいる、岩を蹴って逃げられない!!)
シャルティアは空中で旋回して向きを変えると再びアインズに向けて突進した。
「吹っ飛べえええええっ!!」
シャルティアはその勢いのまま、スポイトランスを全力で振り下ろす。今まで見てきたアインズの動きでは到底躱しきれないスピードで。
だが…
ドゴオオオンッ!!という音と地響きが辺りを襲うが、シャルティアは驚愕に目を剥いた。何故ならスポイトランスから伝わってきた手応えの中には、金属を叩いた感触が全く無かったからだ。
「え…いない?どこに…?」
シャルティアが辺りをキョロキョロと見回していると、真後ろ、それもかなり離れた所から声が響いた。
「今のは見事だった! 先程までの私なら避けきれなかっただろうな。…そう…先程までの私ならな。」
「なんで…そんな所に…?まさか…転移の魔法?」
「私はまだ鎧を着ているだろう?魔法はまだ使えんさ。それに魔力は先程まで飛行の魔法で飛び回っていたせいでスッカラカンだ。」
シャルティアは、カタカタと身体が震えるのを必至で我慢する。この距離を一気に詰めるのは不可能だ。…シャルティアは理解していた。チェックメイトだと。
「で、ではどうやってそこまで…?」
「お前は本当に素直な良い子だな。将来変な男に騙されないか心配になって来たぞ。…簡単な事だ。フッ、先程までのスピードが限界だと…何時私が言ったんだ? 出来る男は、隠し玉を持っている物だ。」
その最後の一言に、シャルティアは雷が落ちた気分だった。それも悪い感情では無く、矢張りこの人は、アインズ・ウール・ゴウンは素晴らしい、偉大な男だと改めて分からされたという事に。
今言った通り、アインズはまだトップギアに入れては居なかった。と言うより戦闘機動では制御不可能な為に入れられ無かったと言ったほうが正しい。だが、今のは制御する必要は無く、ただ空から突っ込んで来るシャルティアの下を全力で駆け抜ければ良かった為に全速力で走れたのだ。
「完敗ですね…。アインズ様、一つ言わせてもらえますか?」
そう言いながら、シャルティアはカランと、スポイトランスを取り落とす。
「何だ?」
「先程、変な男にと仰い…いえ、言われたで
一瞬、アインズは洗脳が解けたのでは、と期待するが…あり得ない。ワールドアイテムによる効果はこの程度では解けないという事は、数有るギルドでもワールドアイテム所持数最大のギルドのギルドマスターであるアインズが、最も良く知っていた。
「シャ、シャルティア…。ああ。」
「その心配は要りんせん! 私は、今までもこれからも、ずっとアインズ様の物でありんすから!!」
アインズは、ここに来て決心が揺らぎ、このまま何とかならないか?と考えそうになるのを必死にこらえた。今そんな事を考え始めれば何も出来なくなってしまいそうだから。
「本当に…すまん…!絶対に復活させる!…少しだけ…お別れだ!」
「ありがとうございます、アインズ様。それに…謝られる必要はございんせん。」
「それでもだ…済まない! では…行くぞ?」
アインズはそう言うと戦士化の魔法を解除する。辺りにガラン、という音がし、アインズの周りに今まで着ていた鎧が転がった。
「お願い致しんす。」
「ペロロンチーノ…済まない。 本当に少しの間だけ…逝け、シャルティア…忌まわしき記憶と共に…」
その言葉と共に超位魔法_
大量の金貨が溶け、一つの塊になり人型に集まっていく。そして徐々にそれが先程別れを告げたシャルティアの…生まれたままの姿になって行った。
「アルベド!」
「はい。洗脳は解けています。」
アインズはそれを聞き、安堵の息を付くとシャルティアの元に駆け寄るが…
(ぐぅぅ…未だ完全なる狂騒の効果が解けていないからこの光景は…マズイ!刺激が強過ぎる!!)
美女脆弱属性を持つアインズには効果は抜群だった。アインズはなるべく見ないように近くに寄ると、空間から布を取り出しシャルティアに被せるように投げる。後ろからアルベドが何か言っていたが、全く耳に入らない程アインズは混乱していた。
そうしてバタバタとシャルティアに駆け寄るとシャルティアの華奢な身体を抱き抱える。…後ろからギリギリと歯ぎしりの音とかギチィリと何かをキツく握りしめるような音がしたが今は無視だ。
「ふぇ…アインズ様っ!? つ、ついにこの日が!!」
とか抱きしめているシャルティアから聞こえたのもシャルティアからも抱きついてきてその背中に回された手がワキワキと動いているのも無視だ。
「シャルティア、良くぞ無事にもどったな…」
「…え? なんの、事でありんすか?」
「うん?」
「アインズ様、シャルティアも少し疲れているようです。少し離れた方が宜しいかと。」
「あぁん?今良いとこ「そうだな!そうしよう!」
こんな事で折角阻止した守護者同士の戦いになってはたまらない。アルベドの笑顔に青筋が大量に浮かんでいるのを見つけたアインズはサッとシャルティアから離れた。
「あっ…」
と、シャルティアが残念そうにしてくるが、兎に角今はそれどころでは無いので、可哀想だが再び無視した。
「シャルティア、何か…身体に異常は無いか?」
「異常…でありんすか?ん〜と…」
そう言うとシャルティアは布を捲くって自分の身体を眺め始めたのでアインズはサッと視線をシャルティアから外し、横に立っていたマーレの目も隠した。
「う、うわ。ど、どうしたんですか?アインズ様?」
「マーレ、お前にはまだ早い。」
「?」
マーレは不思議そうに首を傾げたが、仕方ない。そんな事をやっているとシャルティアが声を上げた。
「アインズ様っ!!」
その、何かあったのだろう大声にアインズはバッと振り向いた。
「む、胸が…胸が無くなっていんす!」
「…は?」
そのシャルティアのあんまりにもあんまりな答えに、アインズはヨロヨロと後退り、ペタンと尻もちを着いた。
その後は、アルベドを筆頭に守護者各位から叱られるシャルティアという、かつてのペロロンチーノを彷彿とさせる光景がアインズの前で繰り広げられ、アインズは思わず笑ってしまった。
「…全く…懐かしい物を見せてくれる。」
そう独りごちていると、アルベドが此方に振り向き、アインズに手を伸ばして来た。
「アインズ様!アインズ様からも言ってやって下さい!」
その、一言に他の守護者も賛同し、シャルティアがアワアワと涙目で此方を見てきた。アインズはアルベドに手を引かれ、守護者の輪の中に戻っていく。
「シャルティア…」
「は、はい。アインズ様…」
(シャルティアには罪は無い…慰めてやらないとな。)
「ふ、…シャルティア…お前…所詮Mk-IIはMk-IIという事か…ぁぃぃぇ?」
非常に失望した声色のその一言で、世界が停止した。
(…Mk-IIってどういう事?生き返ったから二人目って事か…?それを言うならシャルティアは3人目なんだが…。ゲーム時代はウチのシマじゃノーカンだからって事?…いやいやいや!!そんな事考えてる場合じゃない!!)
アインズは出ない筈のツバをゴクリと飲み込むと、周りをチラチラと確認していく。
大体守護者のリアクションとしては口をアングリと開け、驚愕に目を剥いてアインズを見ている。…これだった。
アウラとシャルティアの二人だけは違い、涙を目に一杯に貯めて、カタカタと震えていた。
(…これは駄目な奴だろ!!マズイ!!どうする!?もう…謝るしかないだろ!!)
アインズは勢いに任せて再びシャルティアを抱きしめる。
「…え?アインズ様…?」
「済まない!! 今のは違うのだっ!! 本心では無く、言わねばならんというか…その、兎に角私の本心ではないんだ!!」
「なる程、そう言う事でしたか。」
「ええっ!?」
「ど、どうされましたか?アインズ様?」
「い、いや…」
(ここでその台詞が聞けるとは思わなかった…こいつ…すげぇ!!)
「ど、どういう事でありんすか?デミウルゴス…。」
デミウルゴスが此方を向いて来たのでアインズは訳も分からず頷いた。
「…シャルティア、今のはアインズ様からの最低限の罰だよ。」
「罰…?」
「ああ、今の一言で…絶望しなかったかい?シャルティア以外の皆も。」
そうデミウルゴスが聞くと、守護者全員が頷いた。
「そうだろう。それで君の罰は完了、という事ですよね?アインズ様。」
「そ、その通りだ…。シャルティア、お前には何の罪も無いのだが…済まなかったな。」
「は、はい。…え、えと何か私がしてしまったのでありんしょうか?…というか私は何故ここに…?」
「覚えて…いないのか?」
結論から言えば、シャルティアにはここ数日の記憶が欠落していた。まあ覚えていないのは仕方ない、と簡単では無かったが割り切り、もっと大事な事に目を向ける。
「…仕方ない。残念だが、シャルティアが無事に戻った。それで良しとしよう。」
その一言に、守護者達が笑顔になる。
「しかし、今回の事を起こした奴には…キッチリと報復せねばなるまい…。アルベド、デミウルゴス!」
「「は!」」
「お前達、それとパンドラズ・アクターを加えた、このナザリックの最高の頭脳三人で、この近隣でワールドアイテムを所持している可能性の有る者、集団、組織、今集まっている情報だけでは厳しいかもしれんが…少し考えてみてくれないか?」
「畏まりました。出来るだけやってみます。」
「そのついでに、パンドラズ・アクターにも今集まっている情報を伝えてやってくれ。奴なら役に立つだろう。」
「はっ!」
「その他の者はこのナザリックの警備に当たってくれ。シャルティアを取り戻し、油断している所に襲撃では目も当てられん。…アウラ。」
「はい!」
「お前から、シャルティアに今回の件を説明してやってくれ。勿論、罪は無いのだ。アウラなら分かってくれると思うが、責めたりしないようにな。」
「畏まりました!アインズ様!罰も終わってますもんね!」
「う、うむ。そ、そうだな。それと、アルベド、私は一度エ・ランテルに戻るぞ。」
「冒険者組合への報告ですね?畏まりました。あと報告したい事がある程度たまっております。いかがしましょうか?」
「お前達からの報告は明日纏めて聞こう。今日は無理をしないで皆早く休め。交代で出来る事は交代で行う事、良いな?」
「「はい!」」
「ではまた明日だ。各自、行動を開始せよ!」
「「は!」」
その返事を聞き、アインズもエ・ランテルに戻る為に行動を開始した。
漸くシャルティア戦終了…、長かったなぁ…。