赤い骸骨 シャア専用モモンガ   作:なかじめ

20 / 32
一つだけアイテム捏造注意です! 今回限り…かな? シャアの戦い方をするのに必要でした…。

やっぱり週刊だと長くなりますね…。

vsシャルティア戦です。魔法戦は原作丸被りになるので、バッサリカットになりました…。というか今回は舌戦になってますね…。

多数のお気に入り、閲覧、感想、それと誤字脱字報告、毎回本当にありがとうございます!本当に励みになります!


AOG-19S

「しかし、ここまでノコノコやってきたのに、攻撃してくる者も…それどころかこの場所を監視している者もいないとは…どういう事なのだろうな?…シャルティア。」

 

アインズはシャルティアに向かい、そう問うが、空虚な表情をしたシャルティアからは何の返答も無い。

 

「ふ、しかし…アルベドには…私の大嘘がバレていたかな?…私はな、シャルティア。お前たち、かつての仲間達が作った愛子達が殺し合う所なんて見たく無いんだよ。」

 

それがアインズの偽らざる本心。アインズは、かつての親友達に託された子供達に殺し合いをさせるなど、考えただけで自分自身が許せなくなりそうだった。

呟き終えたその時、アインズにパンドラズ・アクターから〈伝言(メッセージ)〉による連絡が届いた。

 

「調べ終わったのか?」

 

『はい! アインズ様の仰る通りでした。』

 

「やはりか、彗星などと言うくらいだからもしかしたら、と思ってはいたが…持ってきたアイテムが役に立ちそうだ。」

 

「それは宜しゅうございました!ン〜アインズ様っ! …では御武運を…!」

 

「うむ、御苦労だった。」

 

これで準備が無駄にならなかった事に少しホッとした。何しろ再びドレスルームに入り、昔その性能を見たきりゴミだと判断し、ずっと仕舞い込んでいたアイテムをあちこちひっくり返しながら見つけ出し、引っ張り出してきたのだから。

 

「さて…始めるかな。お前を取り戻す為の戦いを。〈光輝緑の体(ボディ・オブ・イファルジェントベリル)〉」

 

アインズの体が緑色に薄く輝く。そして

 

「くくく! やはりな! ゲームの時と同じ、完全な敵対行動を取らない限り攻撃体制には入らないようだな! …ならばシャルティア、万全に準備させて貰うぞ!」

 

そこからアインズは立て続けに魔法を発動させる。数十の魔法を発動させると、アインズはシャルティアを見据える。

 

「さあて! やるか!」

 

シャルティアと、自分に活を入れる為にそう叫ぶと、魔法をまた発動させる。アインズが初手に選んだ魔法は、その名も超位魔法。位階を超えた所に存在する究極の魔法。長いクールタイムと使用回数制限、それに長い発動時間が掛かり、普通のPVPで初手に選ぶ事はまず無い魔法だ。

しかし、アインズの顔に焦りは無く、選択ミスではない。

アインズの周りを巨大なドーム型の魔法陣が包み込む。その魔法陣はグルグルと周り、その模様を目まぐるしく変化させていた。

 

「…絶好の攻撃チャンスなんだがな…。全く訳が分からんな。なぁ、シャルティア?」

 

アインズはそう呟くと懐から一つのアイテムを取り出した。薄い鉄の細長い板の様な、丁度腕に嵌められるような形のアイテムだ。それを先ずは腕に嵌める前に少しいじる。すると…

 

『モモンガお兄ちゃん! 時間を設定するよ!』

 

無理矢理に甘ったるく、幼くした声が辺りに響いた。

 

「ふふ、さっき宝物殿で…まぁあれは幻聴だったけど…幻聴だったんだよな…?…聞いた声とは全然違いますね…茶釜さん。…力を貸して貰いますよ?」

 

そう呟くと腕にそのアイテムを嵌め、時間を設定する。

そして次に空間に腕を突っ込むと、15センチ程のアイスの棒のような物を取り出し、一本一本確認しながら腰の、本来は魔法の巻物を入れられるホルダーに差し込んでいく。

 

それら、全ての準備が終わった頃、魔法陣の発光が一際強くなる。発動の準備が終わった合図だ。

 

「さぁ、行くぞ!」

 

覚悟を決め、シャルティアを見据えると魔法を発動させる。

 

「超位魔法_〈失墜する天空(フォールンダウン)〉」

 

 

 

 

その瞬間、辺りから影と音が消えた。唯一、ジュッという音だけが響く。効果範囲内の全てを光が飲み込み、灼き尽くす。

その時間は五秒程の短い時間だったが、体感的にはもっと、ずっと長く感じられた。

 

魔法が終了し、辺りを見れば、効果範囲外は何時もと変わらない、森が広がり、恐らく野生の動物等は何時もと変わらない生活をしているだろう。…しかし魔法の効果範囲内は…死の世界に変貌していた。岩が転がり、土は蓄えた水分が蒸発しほぼ砂になっている。辺りは岩の転がる砂漠と化していた。

その砂漠に立つ人影が二つ有った。奇しくも、両者共に赤を基調とした色をした2つの人影が。

方や全身が赤く染まった鎧を着込み、方や露出した頭部が赤く、天に向かって角が生えている。しばらくすると、赤い鎧を着込んだ方が口を開いた。満面の笑みで。

 

「あっはっはっはっは! 痛かったですよぉ! アインズ様ぁ!」

 

「つまらない物だが…少しは気に入ってくれたようで何よりだ。」

 

「残念です! これほどの力を持つアインズ様を殺さなくてはならないなんて!」

 

「…アインズ…『様』か…。なぁ、シャルティア、何でお前は私を殺すんだ?」

 

「アインズ様が私を攻撃したから?……殺さなくてはならないんです!…アインズ様、ナザリックの中で平和に自由にしているのが正しい選択でした…なのに、何故ここに来てしまったんですっ!?」

 

アインズはシャルティアのその言葉に少しだけ驚く。言葉の意味にではなく、顔は変わらず満面の笑顔だったが、言葉の最後に悲痛さが混じっていたのを確かに感じられたからだ。

 

(…今のは…本心なんだろうな。 洗脳されながら俺の身を案じているのか?…これが…王道の物語とかだったら…この後説得すればヒロインの洗脳が解けたりするんだろうがな…。)

 

(…クソが。) ふん、…確かにな。ナザリックの奥で平和に、自由に、楽しく過ごすのが正しい選択なのかもな…。だがな! シャルティア! お前の居ないナザリックでの平和や自由など、所詮仮初の物に過ぎん!」

 

それは魔王ロールでも、アイテムに言わされたのでも無い、アインズの本心だった。

 

「…どういう事ですか?」

 

「ふ、分からんか? ならば答えよう。…お前は私達アインズ・ウール・ゴウンの守護者だ。 私の親友が作り上げ、最後に私に託していった…掛け替えの無い宝物だ! シャルティア…私は、非常に我が儘なんだよ。 その私がお前を手放す訳が無いだろう? 今の私の望みは平和より、自由より、それを選ぶ正しさよりも、お前だけが全てだ! お前を取り戻す、それだけだ!」

 

アインズは右手を差し出しながら、最後に握り締めながらそう、言葉をぶつける。シャルティアが精神支配を受けていない、何時ものシャルティアであれば、歓喜の涙を流すだろう本心を、自身も覚悟を決める為にぶつける。事実、アインズの覚悟は、…シャルティアを殺し、再び自らの元に取り戻す覚悟は決まった。

 

対してシャルティアは

 

「ア、アインズ様…。ぅぐっ!ぐぅぅうぅうぅ! 何で! 何でこんなに愛している、愛しいアインズ様を殺さなければ…いけないんだぁぁあっ!!」

 

頭を抱え、苦しんでいた。目からは涙をボロボロとこぼし、非常に辛そうだった。

 

(本当に済まん、シャルティア。無駄にお前を苦しめているだけかもしれん…許してくれ…。だが…今のが俺の本心だ。お前を取り戻す。 平和や自由なんてその後に楽しめばいい。)

 

アインズはシャルティアが立ち直るまで待つ。今のは絶好の攻撃チャンスだったが、流石に不意打ちなどしたくなかった。

これから…シャルティアをもっと、もっと騙し、罠に嵌めるのだ。最初ぐらいはギルドの長として恥ずかしく無いように、正々堂々と戦いたかった。

そうして見ていると、シャルティアがバッと此方に向き直った。

 

「…いや…違う…!…アナタがっ!」

 

「何?」

 

アインズは突如此方に向き直ったシャルティアに対し、身構える。いつでも…殺し合いが始められるように。

 

「…アナタが悪いんだっ!! アナタが…攻撃なんてしてくるからぁっ!!」

 

「はっ、クックック、それで良い! その通りだ。お前には何の罪もない! さぁ、かかってこい、シャルティア!」

 

アインズがそう言うと、シャルティアは自身の身の丈程の…いや、それ以上の巨大な武器、スポイトランスを正面に両手で構え、普段は隠している翼を大きく広げる。

 

「アインズ様は……私が討つ!」

 

シャルティアも覚悟が決まったようだ。

 

「…フン、ならば……見せて貰おうか。最強の階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールンの…性能とやらを!」

 

アインズの、この世界に来て初めての同格との、100レベルの『敵』との長い戦いが始まった。

 

 

 

 

その戦いを、ナザリックのアインズの執務室で観戦している者達が居た。デミウルゴス、コキュートス、そしてアルベドの三人だ。

 

「…始まってしまいましたね。」

 

「…ウム。」

 

「ギリギリ…ギリギリ…ギリギリ。」

 

デミウルゴスは触れなかった。先程アインズがシャルティアに画面越しで何かを言った後から明らかにアルベドがおかしいのだ。ずっと歯軋りしていて、とてもうるさかった。観戦に集中出来ないぐらいだ。

…しかし、触れてしまえば此方にも火の粉が降ってきかねない。だが、アルベドは聞いて欲しそうに此方をチラチラ見てきているのだ。

 

(触れてはダメですね。しかし、このままアインズ様の勇姿を見せていればその内…。ん?)

 

しかし、デミウルゴスがチラッと見たところ、コキュートスが余りの煩さにアルベドの方をチラッと見て、悲しい事に…目が合ってしまったようだった。

 

(駄目だ!コキュー「…ア、アルベド、一体、ド、ドウシタノダ?」

 

(コキュートスうぅぅっ…)

 

「どうしたですってっ!? 先程のアインズ様のシャルティアに言った言葉を聞いていなかったの!? あれは…あれはもう愛の告白…違うわっ!!否よっ! 断じて否っ!!そうでしょうっ!?」

 

「な、何を言っているのです? こ、このモニターは音までは聞こえないでしょう?」

 

「ウ、ウム、アルベド、ドウイウコトダ?」

 

「貴方達こそ何を言っているのよ! 口唇術に決まってるでしょうっ!!」

 

デミウルゴスは心の中で叫んだ、

(アインズ様には唇が無いだろうが!)

と。しかし、ここで激高しては水掛け論に発展しかねない。横をチラッと見ると、コキュートスが面倒臭そうに視線をモニターに戻した所だった。

 

(…コキュートス!)

「…ア、アルベド? アインズ様には、唇が無いのにどうやって?」

 

「…はぁ? 私が…私がどれだけ何時でも、どんな時でも、アインズ様を監視…観察していると思ってるの!? 将来の妻として当然でしょ!?」

 

「さ、流石はアルベドですね。さぁ、ならいつも通りアインズ様の勇姿を拝見致しましょう。」

(この女は本当に恐ろしいですね…。アインズ様の最大の敵はアルベドなのでは無いだろうか…)

 

「シカシ、先程カラアインズ様ハ押サレテイル。ソロソロMPモ尽キル頃ダ。…コレカラドウサレルオツモリナノダロウカ?」

 

流石にデミウルゴスもアルベドも視線を完全に外す事は無く、アインズの戦闘を見ていたが、ここまではデミウルゴスの想像通りの戦い方だった。アルベドの顔にもそう現れている。つまり、アインズの不利は未だ変わらない。

…若干、気になる事といえば、シャルティアがアインズを舐めすぎてスキルを使い過ぎな気がする事ぐらいだ。あとは…

(先程から…アインズ様はわざと魔法を外している?…どんな意味が?分かりませんね…。)

デミウルゴスがコキュートスの顔を見ると、若干の焦りと心配が表情に出ている。…恐らく自分もこのような顔をしているのだろう。

そう考えていると、アルベドがコキュートスとデミウルゴスの顔を見回し、薄く笑う。 

 

「あら、もしかして心配しているの? ふふ、私は心配なんてしてないわ。 あのアインズ様が…このまま終わる訳が無いもの。」

 

「…そうですね。貴女を倒した例の新しい必殺技も出していな「だ・か・ら!」

 

デミウルゴスが言い切る前にアルベドが声を被せて来る。そして身を乗り出してデミウルゴスに向かい頭をグワングワンしながら叫ぶ。

…ギプスをしている首は大丈夫なんだろうか?

 

「あ・れ・はっ!! 私への特別よっ!! それに…あのヤツメウナギはさっきアレに匹敵するぐらいの…ゴホン! 兎に角、アインズ様を信じなさいっ!」

 

「ワカッタ。」

 

「ふぅ、そうですね。畏まりました。…(全く!)

 

「…デミウルゴス、何か言ったかしら?」

 

「い、いえいえ!」

(地獄耳まで完備とは…本当に恐ろしい…。アインズ様、本当においたわしや…)

 

 

 

 

「さて、そろそろMPも尽きる頃ですね。アインズ様?」

 

シャルティアは空に浮き、見下ろしながらアインズに問う。

 

「ふぅ、そうだな。あと第十位階の魔法を三回使えるくらいか。」

 

「さっきの…メガバズーカ・クライ・オブ・ザ・バンシーとか言うのには少し焦りましたが…まあペロロンチーノ様が御下賜して下さった蘇生アイテムのお陰で何とも有りませんでしたねぇ? まあ、エインヘリヤルがあっさりやられたのには少しイラっとしましたが。」

 

(…何なんだ!?あのメガ・バズーカ何某ってのは!? 範囲攻撃を使おうとすると言ってしまうのか!? 超位魔法の時には何も無かったから油断していた…恥ずかしいっ!!)

 

「まあ、あの程度でお前を倒せるとは思って無かったさ。」

 

「ふふふ、さっきから思ってたんですが…あんまり強く無いですね?アインズ様。こんなんでギルドマスターだってんだから…昔は凄かったって奴?ですか? …あっははは!冗談ですよ!アインズ様! ここまで良く頑張りました!」

 

煽られたのなんていつぶりだろうか?とアインズはシャルティアの一言に苦笑する。別段腹は立たない。ここまでシャルティアはそういう風に余裕になれる程、自分に対して優勢に戦いを進めているのだ。尤も、全てアインズの作戦通りだったが。

 

(やはり強いな。流石は守護者最強といった所か。…尤も、ここで…それだけスキルや魔法を後先考えずに使って、私が優勢になっているようでは今後、困るからな。…ククク! こうも私の想定通りに戦ってくれるとは!…シャルティア、後でPVPのお勉強だな!)

 

アインズは自身の計画通りに事が運んでいる事に薄く笑っていたが、シャルティアが再び口を開くのを察し、シャルティアの方をを見やる。

 

「本当に…ナザリックの奥で、平和に自由に楽しく過ごしていればこんな所で死ぬことは無かったんですよ?アインズ様。出て来なければ、やられなかったのに!」

 

「まだそれを言うか!? お前にそんな決定権が有るのか!?」

 

「ええ、何度でも言います! アインズ様が逃げるか…私がアインズ様を殺すまで!」

 

「ふん、戦闘開始前に言った筈だ。それにな、今の私の望みは、お前を取り戻す事だけだっ! それを忘れるな! シャルティア!」

 

 

「ぐっ、くぅぅぅ! しかしっ! 無理ですっ! もうアナタの負けなんですから! さっさとナザリックに帰って下さいっ!!」

 

「何を言っている? 私はまだ負けてなどいないぞ? …それどころか、勝ちが漸く見えてきたというのに、ふふふ」

 

シャルティアは、アインズのその言葉に瞬時にヘイトが高まる。今すぐアインズ様を殺さねば、と。

 

「…まだ戦闘がしたいのか!? アナタは!?」

 

「まだ? ふ、まだ終わっていないと何度言わせる。 …さぁ、かかってこい!」

 

アインズはシャルティアにかかってこいと手を動かす。

 

「私は…止めようとしたのにぃいいいっ!!!」

 

シャルティアはスポイトランスを振りかぶり、羽根を広げて、全速力で突進する。

 

「ならば! 此方も前に出る!〈完全なる戦士化(パーフェクト・ウォリアー)〉!!」

 

アインズは残り少ないMPで、魔法を一つ発動すると共に、簡単に、想定通りに挑発に乗ってくれたシャルティアに心の中で感謝と…これから直接、殴り、蹴り、斬りつける事を謝罪する。

 

(何故、逃げない! このままでは本当に突き刺さってしまいますよっ!)

 

シャルティアは憤怒の表情で、そんな事を考えながら突き進む。

 

「はああああああっ!!!っな!?」

 

だが、今正に、殴打属性を乗せたスポイトランスで突き刺そうと思った瞬間、シャルティアの視界からアインズが消えた。そして、次の瞬間_

 

ガゴッ「うああっ!」

 

シャルティアは左の脇腹に強い衝撃を受けて、吹き飛んでいた。シャルティアは吹き飛びながらも左方向を確認すると、アインズが右足を前に突き出した、跳び蹴りを今放ち終わったポーズと言うようなポーズで、此方を見据えていた。

シャルティアは翼を広げて、ブレーキにし、漸く止まる。それと同時に背筋に冷たい物が走った。

アインズは全速力のシャルティアの攻撃を避けて、跳び蹴りを放った、言葉にすればなんと言うことは無いその2つの動作だが、それをあの一瞬で? そう、シャルティアの頭の中で疑問が浮かぶ。

 

「アインズ様、今…何をしたんですか? まさか、魔法?」

 

シャルティアのその問いにアインズはゆっくりと着地しながら答える。

 

「何を言うかと思えば、今のが魔法だと? ふふふ、確かに戦士化の魔法を使ったが…それだけだ。当然だろ?戦士化してしまえば魔法は使えん。 今のはお前の攻撃を避けて、蹴った。 それだけだ。」

 

信じられない。いくら戦士化したとしてもあり得ないスピードだ。シャルティアの全身を悪寒が走る。

 

「でも…負けられないっ!! こんな、こんな事で私はっ!! 負けるもんかああああっ!!!」

 

シャルティアは自身に、喝を入れ、震えを止める。

 

「フッフッフ、ハッハッハッハ! ここまでは…完全な作戦だった。」

 

アインズは言いながら全身から冷や汗が出る錯覚を感じた。 自身の余りにも想定外のスピードに。

 

(ちょ、ちょっと、速すぎじゃないか…?いや、圧倒するにはあれぐらい必要か…。)

 

「…いや、想定通りだ。 私ではやはり制御は不可能か…。クク!」

 

それだけ言ってシャルティアを見ると、蹴り飛ばされた衝撃から立ち直ったようだった。

 

「マグレは何度も続きませんよっ! …そうですね。フフ、私が勝ったら…アインズ様の二つ名、赤い彗星を貰いましょう!」

 

アインズは思わず、今すぐどうぞ。と言いそうになるのを堪える。…前から思っていたが、シャルティアの方が似合うんじゃないか?という気持ちと、少し恥ずかしい気持ちからだ。

しかし、その二つ名を冒険者組合でぶち上げてしまったのを思い出して留まった。

 

「お前が欲しかったのは…本当にそんな名前か? しかし、その異名を欲しがるとは…随分な自信家だな。…フン、ならばお前にその名を名乗る資格が有るか、私が試してやろう。」

(…さっきから、俺はテンションがおかしくないか? セリフがポンポン出てくる…。戦士化した事でまたこいつに近づいた…?)

 

そう言うと、シャルティアはまた満面の笑みになる。

 

「ええ…お願い致します!」

 

「胸を貸してやろう、お嬢さん。」

 

「ふん、舐めた事ばかり!流石に頭に来ました! …何時までもそうやって…やれると思うなあぁぁぁっ!!」

 

「来い、ビルドの真剣さ(ガチさ)と互いのステータスの差が、戦力の決定的な差では無いことをっ!! ()()()()教えてやる!!」

 

シャルティアのやる事は変わらない、たった一つだ、魔力もスキルの使用回数ももう無いので近づいての接近戦。どの道、接近戦で勝てなければ自分に勝利など有り得ない。

シャルティアは再び全速力で、元居た場所に残像を残しながら、アインズに対して急接近する。マジックキャスターでは反応は不可能だ。…普通なら。

 

ティキーン(NT風SE音)

「見えた! そこだあああうわああっ!!速っ!! 殺人的な加速だっ!!」

 

アインズは全力で、今のスピードの全力で回避行動を取るが、余りの急加速に悲鳴を上げる。そして、転がっている大岩にぶつかり止まった。

 

「それみたことか。付け焼刃に何ができるというか!…全く持ってその通りだが…自分自身に言う言葉か…?…もしかして、馬鹿にされてる?」

 

「早いっ!…けどまだだ! 逃がすかっ!」

 

シャルティアはそれに向かって更に追撃してくる。

…そんな事を何度か繰り返し、今戦場に転がっている全ての大岩にぶつかった所でアインズは漸く止まった。というか途中からシャルティアは訝しげに見ているだけで攻撃してこなかった。

 

「…さっきから何を?」

 

「これで…全部だな。魔法を使う時に流れ弾で地面を砕いて岩をわざわざ作っておいて良かった。」

 

「はぁ?」

 

「まあ、見ていろ。戦場をコーディネートしてやろう。」

 

アインズはそう言うと、左手に隠していたマジックアイテムを起動する。

このマジックアイテムは拠点の飾り付け用のマジックアイテムで、物を宙に浮かし、飾り付けるというだけのシンプルなマジックアイテム。ユグドラシル時代は拠点から持ち出し不可だったが、今では問題なく持ち出ししている。目の前の守護者と同様に。

今までアインズがぶつか…触れた大岩が宙に浮き上がる。

 

「はぁ。こんな物で何を…ん?」

 

シャルティアは途中で言葉を切った。アインズが更に空間からマジックアイテムを取り出していたからだ。

 

「それは…何ですか?クラッカー?」

 

「ほぅ、クラッカーを知っているのか。だが、違う。こいつはな、どんな種族だろうと、精神耐性をゼロにするなかなか強力なマジックアイテムだ。その名も、完全なる狂騒。」

 

「完全なる狂騒…。まさかそれで私の精神耐性を…?」

 

「違うさ、こうするんだ!」

(さあて、…大博打だ。 頼むぞ!アインズ・ウール・ゴウンの皆、そして…赤い彗星!)

 

アインズは迷い無く自分に向かってそれを引く。パンっ!という乾いた音がし、アインズの体に紙吹雪と、紙テープが巻きつく。

音の鳴った瞬間、思考がクリアになるような、何とも言えない感覚がアインズを支配した。

 

「…なる程、こういう感覚か…。赤い彗星の力とは。…この感覚…行けるか?」

 

「私が目の前にいるっていうのに!さっきから舐めた真似ばかり…!」

 

アインズはシャルティアの方に向き直ると、

 

「ああ、悪いな。自分の事で手一杯なんだ。お前の事をもう少し気にかけるべきだったかな、お嬢さん?」

 

と全く悪びれずに言う。

 

「なっ!? ふざけるなあああああぁぁっ!!」

 

シャルティアはそう言うとまた、スポイトランスを構えて突進してくる。だが…

 

「そこだ!」

 

「な、何!?」

 

シャルティアは目を剥いた。アインズが先程の無様なかわし方では無く、必要最低限の動きで簡単にかわした事に。そして、すぐにアインズの方に向き直ると、更に驚いた。アインズの身に纏う装備が、茶色のマントから、真っ赤な全身鎧に変化していたからだ。シャルティアにはその鎧に見覚えが有った。冒険者になり着用すると言っていた魔法で作った鎧、それに酷似した鎧だった。違う所と言えばグレートソードが無いと言ったところだろうか。

 

「ま、魔法の鎧?」

 

「ああ、違うぞ。これは鍛治長に作らせていた物だ。」

 

最初はたっち・みーの鎧を着ようと思っていたが、アインズにはやや重すぎるのだ。あれでは唯一シャルティアに接近戦で勝っている、アドバンテージであるスピードを殺してしまう。なので急造の鎧に素早さを上昇させるデータクリスタルを突っ込めるだけ突っ込んだ、酷く脆い鎧になってしまったが、それでもアインズはこの鎧を選んだ。少しでもスピードを上げる為と、これから行う作戦の為に。

 

「…良いんですか?その鎧、見たところ良くて伝説級と言った所ですけど、私の神器級のスポイトランスは防げませんよ。…それどころか普通の攻撃で穴が空くぐらいに脆そうですね!」

 

「ふん、ならば試してみるがいい!」

 

シャルティアは当然!と言わんばかりにスポイトランスを振りかぶり、何度目かも分からない突進を敢行し、スポイトランスの射程距離に入るとそのままアインズに向けて振り下ろす。

 

バガアアン!という音が鳴り響き、地面が大きく揺れる。だが

 

「いない、どこに!?」

 

「フッフッフ、大した威力だが…当たらなければどうという事は無い!」

 

その言葉と共に、シャルティアは今度は背後から蹴り飛ばされる。

 

ドカッ!「うわあぁっ!」

 

シャルティアは翼で制動を掛け、アインズに向き直る。

 

「シャルティア、何をしてくるか分からん相手に無策で突っ込んで来るのは愚策だぞ?…その程度で私の異名を継ごうとはな…」

 

「何ですって!?」

 

「フ、覚えておけ。…戦いとは常に二手三手先を読んで行う物だ。」

 

「ぐぅう! お前は誰だ!?」

 

「何?」

 

「…本当にアインズ様!?あり得ないっ!?私が接近戦で遅れを取るなんて!アナタは…アンタは一体、何なんだあああっ!? 」

 

シャルティアは驚愕をその表情に浮かべ、本気で混乱している。接近戦になった所で苦戦などする筈が無いと思っていたのだろう。

 

「フッ、当然の事だが…敢えて答えよう。私こそ、お前が継ぐと言っていた、赤い彗星だよ、シャルティア。…アインズ・ウール・ゴウン、至高の41人全員で作り上げたその力、その目に焼き付けるが良い!」

 

そう言いながら、アインズは飛行のネックレスを空間から取り出して首に付けると、マントを翻しながら宙に浮き上がる。

 

「何をするかと思えば…なる程、空戦ですか? 選択を誤りましたね!?」

 

シャルティアは笑う。吸血鬼の能力、翼での飛翔能力を持つ自分に空戦で勝てるわけが無いと。

 

「違うな、宙域戦といったところか。」

 

「宙域?」

 

シャルティアは訳も分からずにアインズの周りを見回し、気付いた。アインズの周りには大岩が大量に浮き上がり、まるでナザリックのどこかでいつか見た、宇宙のデブリの映像のようだった。

 

「気を付けろ? デブリにぶつかって事故死など、階層守護者にあるまじき行為だぞ? ふっふっふ!」

 

「そんな奴は居るわけ有りません。そろそろ…本気で行かせて頂きます、アインズ様、アナタは…いえ、…アンタは私が討つんだ! 今日っ! ここでっ!!」

 

シャルティアはスポイトランスを構えてそう言い放つ。再び『討つ』という単語を使ったシャルティアの今の一言には、今までのような迷いは一切無く、確実に殺すと告げていた。しかし、今のアインズはその迫力に押される事無く堂々と言い返す。アインズ・ウール・ゴウン、至高の41人の頂点に相応しい堂々とした姿で。

 

「…ふ、私が赤い彗星ならば、ここで退くことはすまいよ! それと、今の台詞はそのままお前に返しておこう。…お前は何としても此処で落とさせて貰うぞ、シャルティア・ブラッドフォールンっ!」

(全てはお前を取り戻す為だ! 許せ、シャルティア!)

 

 

 

 




赤い人にシリアスを壊させようと思っていたのに白い悪魔に先を越された…。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。