パンドラズ・アクターを倒したアインズ。次なる相手はナザリックの白い悪魔こと、アルベド。
何でだろう…オーバーロードのSSを書いたのが久し振りに感じる…今までの話はぶっ飛び過ぎだったのか…?
まさかまさかの休日の変更。社畜は辛いぜ…。なので月曜日と書いたのですが今後土曜日に投稿出来そうです。
コロコロ変わってしまい本当に申し訳有りませんm(_ _)m
アインズはアルベドを伴い進んで行く。流石に精神が回復したので、アルベドには少し離れるように言うと、非常に名残り惜しそうに離れて行った。
内緒だが…アインズも若干、名残惜しい気持ちも有った。だが流石に腕を組んで入って行く場所では無い。
『柔らかい物が離れるのがちょっとだけ……い、いや!なんでも無い!』
と、不埒な事を考えているとアルベドから声が掛かり、一瞬ビクッとした。
「アインズ様、あ、あれは?」
アルベドが指を指したのは、自分が制作したかつてのギルドメンバーを模した像、アヴァターラ達だった。
「…あれは私が制作した物だ。指輪を、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを着けたままここに立ち入るとあれらに襲われるのだ。指輪が無ければ出入り出来ない宝物殿に指輪を着けたまま入ると襲われる。…陰険だろう?」
「そ、そんな事はありません!」
アルベドはそう言い、アヴァターラを見回す。
「あれはもしかして…至高の御方々を模した物なのでしょうか?」
「うむ。その通りだ。…しかし、良く分かったな。本物の至高の41人のカッコ良さの半分も出せていないと思うのだが…。」
「至高の御方々を見間違う筈は有りません。…し、しかし、アインズ様…ここの名前といい、御方々を模した像といい…至高の御方々はお亡くなりになられたのでしょうか?」
「…それは、…正しくは無いな」
正しくは無い。それは間違い無いだろう。だが…二度と会えない、会える可能性が殆ど無いに等しい者を、表現するのには正しい表現なのかもしれない。
(…それでも、可能性は限りなく低いが…、この世界にもしかしたら…!おっと、いかん)
そんな考えを頭を振って追い出すと、それを感づかれまいと無理矢理明るい声を作り、アルベドに話かける。
「ほら、あそこを見ろ! 空白の席があるだろ? あそこには私のアヴァターラを設置する予定なのだ」
しかし、アルベドには気付かれていたのだろう。俯き、その黒い前髪の隙間からうっすらと見える目は、やや赤く充血していた。
そして…バッと顔を上げると今まで見たことも無い、非常に悲しそうな顔をアインズに向けて来た。
そして、思いのたけを全て込めたようや悲痛な声が通路一杯に響いた。
「そんな事を仰…言わないで下さいっ!!」
「アルベド…?」
「アインズ様…どうかお願い致します。 こらからもずっと…ずっと私達の上に君臨し続けて下さい…。私達と共に居て頂けるだけで良いのです…。」
アルベドはそれを言い終わると、膝を付き、頭を下げて土下座した。頭を下げる前に見せたその目からは止めどない涙が溢れ落ちていた。
アインズは今まで仲間を惜しんでいた…寂寥感は一気に消失した。今まで生きてきた中でこれ程自分を擲とうとした者は見た事が無かった。故にアインズはどうすればいいか分からない。
「…アルベド。 済まない。」
アインズがそう言うと、アルベドはバッと顔を上げ再び沈痛な声を上げる。
「ど、どうして…どうしてお約束して下さらないのです…。他の…他の御方々と同じように…私達をお捨てになるのですか…?」
捨てる。その単語にアインズは一瞬とは言え動揺する。捨てたのでは無く、リアルを選んだ、それがごく普通の選択なのだろう。納得はしていた。だが、アインズは考えた事は無かっただろうか? 皆が自分を、ナザリックを捨てたと。
アインズは自分の強がりでアルベドからそんな単語が出る程動揺させた事を酷く後悔した。
「許せ。だが、お前達を捨てたりなどするものか!」
アインズはそう言うと膝を付き、不器用ながらもアルベドの涙を取り出したハンカチで拭う。
しかし、何故かアルベドはそのアインズの手をガシっと掴んだ。
「ア、アルベド?」
「アインズ様、申し訳有りません。 貴方はこれからシャルティアと…一人で戦いに行かれるおつもりですね?」
「…バレていたか。」
「…はい。 ですが…守護者統括として…行かせる訳には行きません。 ここで止めさせて頂きます!」
「…そうきたか。」
アインズはそう言った物の、単なる強がりだ。この距離から、もし、アルベドに本気の戦闘を挑まれた場合、アインズには恐らく勝ち目は無いだろう。そんな事の前に、アインズはアルベドと戦いなどする気は無かった。 彼女に自分自ら怪我をさせるなど、これ以上アルベドを汚すなど、絶対にしたくなかった。
「アルベド、行かせてくれ。 私で無ければ駄目なのだ。」
「何故です! アインズ様はシャルティアとは相性が悪過ぎます! 討伐隊を編成しアインズ様は後方で指揮を執って頂くだけで充分でございます!」
「その通り。私はシャルティアと相性は最悪の部類だろう。」
「それが分かっていながら何故っ!」
「…今回、ワールドアイテムの存在を全く考えていなかった。これは完全なる私のミスだ。 シャルティアには全く非は無い。 本当に情けない主人だ。」
「そんな事は…アインズ様?」
アルベドの言葉をアインズは手を上げて制した。
「まあ聞け。 お前達に…この世界に来て、初めて忠誠の儀を見せて貰った時に言った言葉を覚えているか?」
「は、はい。」
「…あれは嘘偽りの無い本心だ。お前達は素晴らしい。…そこで、私は今回思ったのだよ、私はその素晴らしい者達の主人に相応しいのだろうか?とな。」
「アインズ様…何を仰るのですか!?」
「お前達には素晴らしい物を見せて貰った。 今度は私の番だ、違うか?」
アルベドの、アインズの腕を握る力が強くなる。正直痛い程だ。アインズは自らの動かない顔に感謝した。 堂々と、至高の41人の頂点らしい態度で…誤魔化さなければならないのだから。
「行かせる訳には参りません!」
「行かせて貰わねばならんのだ! 今回ばかりは我を通させて貰うぞ! しかし、…そして、アルベド、約束しよう。」
「な、何をですか?」
「私は帰って来るさ。…私は戦闘に行っても必ず帰って来る主義だ。死にたくない一心でな。…そして、お前達にもう一度会う為にな」
途中で発作が起きたが、奇跡的に自分が言いたい事とほぼ同様な、少し格好いい言い方だったので、アインズは周りにあるアヴァターラ達、至高の40人達に感謝した。
「ア、アインズ様…」
アルベドの手が少しだけ緩む。掴んでいたアルベドの腕をゆっくりと解くと、アインズはアルベドの頭を撫でる。そして頭を抱きかかえるようにアルベドを見つめると、
「もう一つ、必ず…ぅぁ…」
必ず勝ってシャルティアを復活させる、と言おうとしたのだが…
「勝利の栄光を、君に!」
アルベドの瞳を真っ直ぐに見つめ、吐息が届きそうな距離で、真剣な声色で、アルベドの頭を抱きかかえながら、アインズはそう言い放った!…いや、言わされた。至高の40人に…。これは流石に…必要以上に格好良すぎだった。
それはまさしく一撃必殺だった。アルベドの頭は一瞬で沸騰したが、その一瞬の中で脳は全力で回転していた。
以下要約。
(君に…? 君って私!? 私の為に勝利をっ!? くふふふふ!!くっふっーー! 格好良すぎ死ぬ! 殺される! アインズ様の格好良さに殺される!! ん? いえ、それは本望じゃないの? 全く本望だわ。うん本望だ。死のう)
アルベドは鼻血を吹き出し、崩折れた。アインズの腕の中で。
これだけ聞けば、他の守護者、いやナザリックに住まう全員から眉を顰められるだろう。至高の御方々の頂点の方の腕の中で鼻血を出すなど言語道断だと。
しかし、そこは流石守護者統括だった。自分の鼻に血が昇って来るのを100レベル戦士職に相応しい反射神経で感じ取ると、100レベル戦士職に相応しいスピードで、首を思いっ切り捻ったのだ。アインズに鼻血を吹き掛けない為だけに。ボキゴキボコっと言う、折れてはいけない物が折れ、外れてはいけない物が外れた音と共に。
当然、アインズはその瞬間を見ていた。吐息が届きそうな距離で。
「うおおおおおおっ!! 首ぃっ!! …首が変な方向いて…。おおおおい!!しっかりしろ!アルベド! ペス…駄目だ、指輪が無い! これ、マジックアイテムで治るのか…? やるしかない!」
アインズは我武者羅にアイテムを引っ張り出すとアルベドに使用した。
(…疲れた。もう寝たい。…あ)
そう思い、天を見上げる。 すると一体のアヴァターラと目が合った。そこは奇しくも、アルベドの創造主にしてぷにっと燃えと双璧を成すアインズ・ウール・ゴウンの頭脳、タブラ・スマラグディナのアヴァターラの前だった。
「あ、タ、タブラ…さん…」
タブラのアヴァターラはアインズを見下ろしていた。その目は、そんな機能を付けていないにも関わらず、アインズを責めているような気がした。
『謀ったな、モモンガ! アルベドの設定を汚しただけでは飽きたらず、大怪我までさせるとは!』と。
「ご、ごめん、タブラさん……でも!」
アインズの頭の中は複雑だった。確かに俺のせいだけど…半分このリストバンドのせいじゃね?と。それに…
「やりました…やったんですよ!必死にっ!! やった結果がこれなんですよ! シャルティアを救おうとして…アルベドに止められて…気づいたらアルベドの首が折れてる…! これ以上何をどうしろって言うんです! 何をすれば良かったんです!?」
アインズはそう怒鳴ると下を向き、俯く。すると、『モモンガさん』とタブラの声で呼ばれた気がした。
アインズはその声に再び上を向く。
「タブラ…さん?」
タブラ・スマラグディナは怒ってなんて居なかった。その顔は動かないにも関わらず、笑っているように見えた。…いや、というよりは…腹を抱えて笑っていた。アインズは他のアヴァターラを見回すと…皆、指を指してアインズを笑っていた。
「…クックック……そうだよなぁ! 貴方達はこの為にこのリストバンドを作ったんだもんなぁ!! ぐゥゥ!」
『モモンガさん…悲しいね………プwww』
「うるせええええっ!! やってやるよ!! シャルティアを救ってやるぜ!! 見てろよ!!」
アインズはもう一度、アヴァターラを見回すと、皆、動いてなどいない。当たり前だ。そんな機能は無いのだから。
「余りにも疲れて幻覚でも見たか?…だが…力を貰った気がするよ…。シャルティアと戦う前に来れて良かった。皆、ありがとう。」
そしてアヴァターからアルベドに、視線を戻した時、
『モモンガさん…今のそれ、ちょっと死亡フラグっぽい…』
『弟…それは私も思ったけど流石に黙れ。…つうかおめぇ、他に言うことあんだろ?…この※◎●¶☆野郎がっ!!…おめぇ、ちょっとこっち来いや、こら。』
『あ、ちょ、待っ』
という、シャルティアの創造主とその姉の声が、最後の最後に聞こえた気がした。……色々と台無しだった。
その後、何とか回復したアルベドと、
ワールドアイテムを回収すると、再びパンドラズ・アクター達の待つ部屋まで戻った。
「お待ちしておりました。ン〜アインズ様。」
「うむ。此方は終わった。ユリ達は?」
「今も、運び出している最中でございます。」
「…お前に頼んだ仕事はどうなった?」
実はパンドラズ・アクターにはシャルティアの復活に使用するユグドラシル金貨を運び出すのとは別にもう1つ仕事を与えていた。このリストバンドに関する事だ。
「勿論、終わっております。此方でございます。」
「アインズ様、それは?」
「このリストバンドに使用されたデータクリスタルの予備だ。宝物殿に有るかもしれんと思っていたが、本当に有るとはな。……取り敢えずお前は先に戻ってペストーニャにちゃんと診てもらえ。まだ首がフラフラだぞ…。」
「も、申し訳ありません、では先に戻ります。出発前には声をお掛け下さいね!絶対に!」
「あ、ああ。分かっているとも。」
そして、首の据わっていない、ボブルヘッドのようなアルベドを見送るとパンドラズ・アクターに向き直る。
「で、どうだった?」
「はい。アインズ様の読み通り、これはかなぁり特殊なデータクリスタルですね。…恐らくですが、通常では入手出来ないデータかと。」
「やはり課金アイテムか…、良く予備が有ったな…。鑑定の結果は?」
「精神にアプローチし、言動や行動に影響を与える、と言った所でしょうか。 いやはや…凄いですな。 ン〜アンデッドである、ン〜アインズ様にも影響を与えるとは!」
「…しかし、まだ完璧に影響を受けた訳では無いのだろうな。」
「ええ! 精神への完全耐性を少しとはいえ突破しましたが…完全に突破したとは言えませんね!」
「…もし、完全に影響を受けたらどうなると思う?」
「ン〜フッフッフ。それは正しくアインズ様が赤い彗星の力を…。ファーハッハ!」
(やはりそう言う事か。精神にアプローチなどユグドラシルではあり得ない。この世界に転移した事で、ウィッシュ・アポン・ア・スターと同じく変質してしまったと言う事か。)
「そして、このアイテムは戦士職のみにしか効果が無いのですが、戦士職のスキルは全て使えなくなるようですね。」
「はぁ? つまり戦士職にしか使えないのに戦士職からしたらスキルを封印されるゴミアイテムという事か?」
「その通ぉりですっ!」
パンドラズ・アクターは背を向け、帽子を被りながら堂々とゴミアイテム宣言した。…それと、その堂々としたパンドラズ・アクターを見ていたアインズの精神の安定化が起こった。
「何故自信満々なんだか…。しかし…フッフッフ、ハッハッハ!なる程な、まるで私に使えと言わんばかりの…」
「しかし、アインズ様。そのアイテムの真価を発揮するには精神耐性を完全に突破せねばなりません。アンデッドの精神耐性は鉄壁です。それはどうするので?」
「それは私に考えが有るさ。」
「なる程、流石はン〜アインズ様っ!」
「このことは他言無用だ。良いな?」
「畏まりました!ン〜アインズ様! それで、アインズ様、このままアルベド様にお伝えし出発なさるのですか?」
「いや、自室に行き、取ってくるアイテムが有るのでな、それからだ。 お前はこのままユリ達を手伝ってやってくれ。」
「畏まりました。…アインズ様、どうか…御無事で!」
パンドラズ・アクターは最後に、演技では無い素の顔を見せてくれたような気がした。
「ああ、お前とは…まだ話を殆ど出来ていないしな…。では行ってくる。」
デミウルゴスは彼には珍しく、怒りの感情を表情に出し歩いていた。理由は当然アルベドから、アインズが一人で戦う為にナザリックを出発したという連絡を受けたからだ。
(あの女には守護者統括を降りて頂く必要が有りますね。 理性では無く感情で行動するとは…何と愚かな!)
そして、彼女が待つ執務室に到着すると乱暴にノックする。ドアの向こうから入りなさいという声が掛かり、デミウルゴスは乱暴にドアを開けた。
「アルベドっ! 一体どういう…………なっ!? アル…ベド?」
デミウルゴスは宝石の目を見開く。デミウルゴスが見たアルベドが、首にギプスを着け、鼻から夥しい出血の跡があり、今も丸めたティッシュが鼻に詰まった彼女らしくない、悲惨な、とても痛々しい姿だったからだ。
「ま、まさか! その怪我はアインズ様にっ!?」
「ええ。ごめんなさい、止めようとしたのだけれど…やられてしまったわ。」
デミウルゴスはそれを聞き、アルベドの元に近づくと頭を下げる。
「どうしたのかしら?」
「申し訳ありません! アルベド! 私は貴方が情に流されアインズ様を行かせたと勘違いしていました! 本当に申し訳無い! 貴方はそんな姿になるまで、愛する御方と戦ってまで止めようとしていたというのに!」
「…良いのよ。私が貴方の立場なら同じ事を考えたでしょうから。」
「…しかし、貴方をそこまで追い詰めたとしたら…アインズ様も相当消耗しているのでは?」
アルベドはナザリック最高の盾。完全に防御に回ったアルベドを戦闘不能にしようとすれば守護者全員でかかったとしても少なくないリソースを消費するだろう。例えアインズが一緒に戦ったとしても。
しかしアルベドから返ってきた返事は全く予想外の言葉だった。
「いえ。アインズ様は全くリソースを消費してはいないわ。」
「え?」
「何しろ…私は一撃でやられてしまったのだから。」
デミウルゴスはそれを聞き、落雷に打たれた気分だった。そして、先程から黙って自分達のやり取りを見ている盟友に顔を向ける。盟友は直ぐにデミウルゴスの考えを理解してくれたようだった。
「ワタシデハ無理ダ、デミウルゴス。 セバスデモ、マーレデモ、ソシテ…コレカラ御方自ラ戦オウトシテイル、シャルティアデモ不可能ダ。」
デミウルゴスは爪先から頭の天辺まで、先程落ちた雷が昇って行くのを感じる。
「素晴らしい。本当に何という…何という素晴らしい御方だ!…未だそんな隠し玉を持っているとは…しかし…」
「勿論、分かっているわ。もしアインズ様に何か有った場合のシャルティア討伐隊の編成は終わっているわ。そしてアインズ様にはその許可も貰っています。」
「…貴方は、大丈夫なのですか?」
その討伐隊には勿論、アルベドも組み込むのは確実だろう。盾役がいなければ最悪更なる犠牲が出るかも知れない。シャルティアとはそれ程の相手だ。
「ええ、勿論。意地でも出るわ。 …それとアインズ様の復活の手段…それは貴方に任せたいのだけど、良いかしら? 絶対に…どんな手段を使っても良いわ。」
「勿論、お任せください。必ずや! …しかし、貴女を一撃とは…一体…いや、それを聞くのはヤボですね。」
「ソノトオリダ、デミウルゴス。コレカラ御方自ラオ見セ下サルダロウ。」
「…絶対にそれは無いわっ! あれは私だけの特別よっ!!」
「え?」「エ?」
「あら、ごめんなさい。…兎に角、我々はアインズ様を見守りましょう」
コキュートスとデミウルゴスは若干戸惑うが守護者統括に従い、椅子に着席した。
「それで今アインズ様は何処に?」
「今はシャルティアがいる場所の近くに、アウラとマーレを連れて行ったわ。 ああ、二人は戦う為では無く伏兵を警戒してだけどね。」
「ナルホド。コノモニターデ見レルノカ?」
「ええ、では、姉さんに言って映して貰いましょう」
デミウルゴスとコキュートスの評価をストップ高から更に上げた、正に時の人、アインズは先程アルベドが言った通り戦場となる場所からほど近い場所でアウラとマーレに撤退優先、ワールドアイテムだけは絶対に死守しろ、という旨の命令を済ませ、別れを告げる所だった。
「…ワールドアイテムを優先せよ、と言ったばかりだが…もし、シャルティアを洗脳した者が現れたら…絶対に撤退を優先するんだぞ? 私は私で何とかするからな。」
「…畏まりました、アインズ様」
「ぼ、僕も分かりました。」
二人共に元気が無い。当たり前だろう。シャルティアがこんな事になり、自分達も戦いたいだろうに…アインズは『命令』して戦うなと言ったのだから。
「…では、行って来るぞ。」
「はい。…お気を付けて。」
「本当に、き、気を付けてください!」
アインズは背中を向け、歩き出す…歩き出そうとして今日何度めか分からない発作が起きた。
「茶釜ァ…私を導いてくれ…ぐぁ!」
(よ、よりによってこの二人の前でっ!! 茶釜さんはマズイだろっ!! 自分の親に甘えた事を言う、別人のおっさんって…うわぁ…)
しかし、アインズは確かにぶくぶく茶釜には導かれていたことを思い出していた。
『モモンガさん、退いてください!邪魔です!』←調子に乗って前に出た時。
『そういう言い方、嫌いです。社畜っぽくて』←ゲームを続ける事を、残業して行きましょうとか言った時。
など、色々辛辣な言葉を言われた過去が思い出された。
(…いや、そんな事では無く、色々ゲームのプレイヤースキル的な事を教えて貰ったのに…なんでこんな事を今思い出したのだろうか…。確かに導かれてはいたかも知れないけど…この二人に嫌われたら…俺はナザリックに帰れない…シャルティアに勝っても帰る所が無くなってしまう…)
と打ちひしがれていると、二人から声が掛かった。
「あ、アインズ様!」「アインズ様!」
「はっ!? な、何だ?ふ、二人共?」
アインズはビクウッとなったあと、油が切れた機械のような、ギギギという擬音が付きそうなぎこちない動きで振り返る。
そこに有ったのは…アインズの予想に反し、満面の笑顔だった。
「…………ぇ?」
「私達も、茶釜様にお祈りします!」
「あ、あ、アインズ様をお守りしてくれるように、ち、茶釜様にお願いします!」
「あ、ああ、…ああ! 頼む! シャルティアの創造主であるペロロンチーノさんの姉で有る、ぶくぶく茶釜さんの力を借りられれば百人力だからな!」
(何て、何て良い子達なんだ!…ああ、まだ俺にも帰る所が有る…こんなに嬉しい事は無い…)
そんな温かい気持ちで再び歩き出した。アインズは、ぶくぶく茶釜にとても感謝した。あんな良い子を作っておいてくれてありがとうと。
そして二人の影が小さくなってきたぐらいで…また発作が起きた。
「…ぐ、こ、今度は何だ!?……戦いの中でシャルティアを救う方法もある筈だ。それを探せ!…なっ!?」
アウラとマーレはとても温かい気持ちで至高の主人を見送る。
「お、お姉ちゃん?」
「ん、なあに?」
「ア、アインズ様はやっぱり、す、凄い、か、格好いいね!」
「そうだね、さっきのは私達がナーバスになってたから、あえてぶくぶく茶釜様の名前を出してくれたんだよね。それに…、自分達の創造主様に頼られるのって、こんなにも嬉しい事なんだね。…本当にありがとうございます、アインズ様。」
「う、うん、僕も、そう思うよ。あ、ありがとうございます!アインズ様!」
アウラは視線をマーレから去って行くアインズに向けた。
「アインズ様、絶対に帰って来てください。勝って帰って来て、あのバカを……。私もあのバカに一言言ってやりたいですから。
最後にボソッと言った言葉は、マーレには届かなかった。
「な、なあに、お姉ちゃん?」
「何でも…あれ?」
「うん?」
アウラが言葉を止めたので、マーレもそちらを見ると、敬愛する偉大な主人、アインズが立ち止まっていた。なにをしているんだろうと思って見ていると突然アインズが天に向かい顔を上げ、
「有る訳無いだろっ!!!!」
と咆哮を上げた。アウラとマーレはビクッとしたが、アインズはそのまま一瞬こちらをチラッと見て、手を少し振ると歩いて行ってしまった。
「ど、どうしたのかな? お姉ちゃん?」
「ん〜、どーせアルベドが何か言ったんでしょ? ったく、あのバカ! こんな時に!」
「ああ、あ、有り得そう。 そ、そうだよね、こ、こんな時に!」
こうして、本人が居ない所で、本人に何も罪が無いのに、双子の姉弟のアルベドに対する評価がストップ安になった。
一方、デミウルゴス達は…
「くしゅん! も、もしやアインズ様が私の事を…!」
「アルベドオオオッ! 血ガ! 血ガ飛ンデ来タゾ!!」
「は、鼻から血が! また血が出ています! ペストーニャっ! 早くペストーニャを呼んで来なさい!」
と、彼等はお祭り騒ぎだった。
アインズは森の中をひたすら歩く。さっきまであの双子から《伝言/メッセージ》の魔法が飛んで来ないかビクビクしていた。
「…さっきは迂闊に怒鳴ってしまった…。手を振って誤魔化せただろうか…?…もう大丈夫だよな?…ふぅ。」
アインズは一息つくと、長かった、本当に長かった一日を振り返る。
「パンドラズ・アクターを倒し?、アルベドを倒し?、漸くシャルティアか。 これ、ソロでやるの大分難易度高過ぎないか? しかし…やっとここまで来たぞ! 待ってろよ! シャルティア! そして…待ってろよ。 シャルティアを洗脳した奴は…確実に…! …アインズ・ウール・ゴウンに喧嘩を売った事、絶対に後悔させてやる…」
赤いリストバンドのデータは戦士職限定で戦士職のスキル全て封印する代わりに格好いいセリフと格好いいアクションが(勝手に)出せるよ!というゴミアイテムという捏造設定にしました。現実になった転移後では、今のアインズのようになってしまうのかなぁ…と。
というか死の宝珠のようなインテリジェンスアイテムに近いんですかね?
シャルティアとの戦いは結構ガチ目に書いてみようかなぁと思います。シリアスはぶっ壊しますけど、赤い人が。