モモンが店から飛び出すと巨大な骨の竜が羽ばたき、空に舞い上がる所だった。辺りにいる通行人達から悲鳴が上がり、家々の窓や植樹されている街路樹が骨の竜の起こす突風に大きく揺れ悲鳴のような音をあげていた。
「スケリトル・ドラゴン…?…ナーベ!ハムスケ!何処だ!?無事か!?」
今の、ナーベラル・ガンマではなくナーベではスケリトル・ドラゴンに勝つのは簡単では無い。ハムスケでも負けはしないだろうが、他のメンバー達を守りながらだとキツいかもしれない。
「殿!こちらでござる!」
「モモンさん!!」
「ナーベ!ハムスケ!何が有った!?…ん?ンフィーレアさんはどうした?」
「それが…」
ナーベが言うには、急にスケリトル・ドラゴンが襲ってきて、ハムスケや漆黒の剣のメンバーを守りながら戦おうとしたのだが、後ろから走ってきたローブを来た男にンフィーレアは連れ去られてしまったのだという。
そのまま男はスケリトル・ドラゴンの手に乗り飛び立ったというのがモモンが飛び出してきた場面だったようだ。
「なる程な。その男は何か言っていたか?」
「いえ。ですが、スケリトル・ドラゴンを自慢するような事を言ってました。」
モモンはそれを聞き鼻で笑う。スケリトル・ドラゴン如きを自慢?と。
「…ふん。そうか、他の漆黒の剣の方々…ん?」
モモンが漆黒の剣のメンバー達の方に振り向くと皆固まりモモンの顔を驚愕の目で見ている。
ナーベラルも彼等の視線に気づき、下げていた頭を上げモモンの顔を見上げると突然驚愕の表情になる。
「アイっ!?__モモモ、モモンさーーん!?そそそ、そのお顔の物はっ!?」
顔を凝視していたナーベラルが最近では無くなって来た間抜けな呼び方で、しかも声が裏返り、狂った音程でモモンに聞いてくる。ハムスケも気付いたようで心配そうな声を出した。
「と、と、殿…?大丈夫なのでござるか!?」
「何言ってるんだ?顔…?…!」
モモンは顔を手で触れると何やら頭の角以外は丸みを帯びているはずのヘルムに、カチャリと指に当たる出っ張っている物が有った。そこでモモンはようやく気づいた。
「あ。」
スティレットが刺さりっぱなしだった。
見れば、周りにいる通行人達もモモンの顔をヤバい物を見る目で凝視している。
(不味い!全く違和感無くて忘れていた!どうする!?…いや、もうこうなったら堂々とするしかない!!)
そう考えたモモンは堂々とスティレットを抜くと、通行人達にも聞こえるように大声で言う。
「いやあ!危なかった!!ヘルメットが無かったら即死でした!!」
(そんな訳無いでしょ!このバカァっ!)
こんな往来の多い所で大声を出すなどモモンの顔が鈴木悟の物なら恥ずかしさで真っ赤になっていただろう。骨でも、ヘルムでも真っ赤だったが。
「とと、兎に角、私は無事だ!皆さんも怪我は無いようですね!?ハムスケも!」
そう言うと、やや訝しそうな顔をしていたが何とか納得してくれたようだった。通行人達も安堵の溜め息を漏らしている。
「ナーベも怪我は無いんだな?うむ、良かった。」
そう言うと、ナーベラルは悔しそうな顔をし、〈
『申し訳有りません!アインズ様!!』
『ん?何がだ?』
『アインズ様に命令を受けておきながら、あの人間を連れ去られてしまいました。…いかようなる罰でもお受けいたします!』
『いや、罰など与えるつもりはない。』
そう言うと、モモンはナーベの近くに寄り、頭をポンと撫でる。
『ア、アインズ様…?』
『寧ろ、誉めてやりたいぐらいだ。お前はよくスケリトル・ドラゴンに襲われても高位の魔法を使うのを我慢したな。…お前も成長していると言う事だな。』
モモンの中ではまずはナザリックの安全が第一だ。これはどんなにナザリック以外の人間達と多少親しくなったとしても揺るぎない物だ。
もしナーベラルがこの人混みの中で高位の_スケリトル・ドラゴンを倒すとしたら第七位階以上の_魔法を使った場合、大きな騒ぎになっていただろう。
その騒ぎの過程で、ナザリックにも影響が出てしまうかもしれない。そう思えば今回のナーベラルは全く間違いの無い判断だったと言える。
『ナーベラルよ、もう一度言うが私の最初の言い付けを守り、良く我慢したな。今回のお前の判断は素晴らしかったぞ!』
『あ、ありがとうございます!アインズ様!』
『しかも、今回はオマケ付きだ。くくく、我々で彼を救いに行こうじゃないか!見ろ!』
モモンは近くにいた老婆に向き直る。先程から攫われたンフィーレアの名を連呼し、漆黒の剣のメンバーに事情を聞いている老婆に。
「貴方がリイジー・バレアレさんですか?もし良ければ、我々がこのままンフィーレアさんの奪還に行きましょう。」
「ンフィーレア、ンフィーレア…。うぅ、お、おぬし達は…?」
「今回、ンフィーレアさんの依頼で同行していた冒険者です。」
今回の依頼の過程、薬草採取の依頼を受けた事、森の賢王を力で屈服させた実力が有ること、…そして恐らくこの街でスケリトル・ドラゴンを相手に回して_最悪それより強いアンデッドを相手取ったとして_自分達以外ではンフィーレアを救出出来る者は居ないことを簡単に説明する。
そのモモンの話に漆黒の剣のメンバーも全員が賛同してくれた事でモモンの話は信憑性が増していく。
そうして、リイジー・バレアレはモモン達に依頼をしてくれる事になった。
漆黒の剣のメンバーには辺りの転んだ通行人達や、怪我をした人達の治療や避難誘導をしてもらい、モモンとリィジーは店の中で話をする事にする。
…その際、店の荒れようにリイジーが悲鳴を上げたが、モモンはクレーマーが大暴れしたと報告しておいた。
「だが、今回の依頼の報酬は少し高く付くぞ?」
「孫を救ってくれるというのなら…幾らでも払おう!幾らだ!?」
「お前の全てを貰おう。お前の過去と未来全てだ。コレが作れるか試して貰いたい。」
モモンは赤いポーションを取り出しながらリイジーに突き出す。
「そ、それは…神の血!?そうか、お前さん達が…。分かった!やろう!ワシの全てを!…しかし、お主は悪魔では無かろうな?悪魔は人間の魂を対価に貰い願いを叶えると聞くが…。」
(違う!骸骨だ!しかも赤くて角の生えたな!)
「悪魔だとして問題が有るか?孫を助ける。それが、お前の望みなんだろう。それに…、まだお前の孫からも今回の依頼の報酬、いや対価を貰っていないんだ。必ず助けて来てやるさ。」
「…ふふふ、問題など無いな。それに、そのポーションは私の夢でも有る!…うむ、雇おう。孫を救ってくれ!」
モモン、いやアインズは内心ガッツポーズした。この店の惨状を無かった事にし、更にリイジーを囲い込む事でポーションの事も秘匿し、ンフィーレアからの報酬も得られる。更に街の有名人ンフィーレアを救い出したと有れば名声も得られるという一石二鳥ならぬ一石四鳥だぜ!と。
しかし、同時にアインズの戦術の師である、ぷにっと萌えさんから言われた事が有る、二兎を追う者は一兎をも得ず。という諺も思い出し、入念に準備することにした。
奴の行き先は、モモンのスキルで追跡し続け、リイジーに地図を見せて貰い、マジックアイテムでナーベラルに〈
間違いなく、奴は墓地にいる。
それをリィジーと、戻って来た漆黒の剣のメンバーに告げる。
「奴は墓地だ。千体以上のアンデッドと共にな。」
「それを…突破出来るのか?」
「突破は容易だ。だが、…ぅ、戦いなどは所詮はその前後の戦術の優劣で全てが決します。我々の判断の正しさを信じましょう。…という事だ。アンデッドを墓地から出さず、我々のうち漏らしたアンデッドを掃除する人間も必要だ。漆黒の剣のメンバーにはリィジーさんと冒険者組合に行き、援軍を呼んで貰いたい。リィジーさんと一緒なら信用してくれるだろう。」
「我々もモモンさんと行きます!」
そう叫んだのはニニャだ。恐らくンフィーレアを守れなかった事を悔しがっているんだろう。
「こんな事は君達には言いたくないが…今の君達では力不足だ。」
「そんな…モモンさん…」
「ニーニャ!よくモモンさんの話を聞けよ!」
「悔しいのであるが、モモン氏の言うとおりなのである。」
「ですね。それにニニャ、モモンさんは『今の』と言ったんですよ。」
「あっ!」
「モモンさん、我々は今の我々に出来る事をします!」
「ええ、申し訳有りませんが、宜しくお願いします、ペテルさん、ダインさん、ルクルットさん、ニニャ。…では行きましょう!」
モモンが一人一人の名前を呼びぐるっと見回しながら言うと、彼等からも、勿論ニニャからも元気な返事が返ってきた。
そうして、モモン達は墓地へと向かい、漆黒の剣のメンバー達はリイジーと共に冒険者組合へと向かって走りだした。
エ・ランテル外周部の城壁内のおよそ四分の一。西側地区の大半を使った巨大な一区画。そここそ、エ・ランテルの共同墓地である。
その墓地を壁がぐるりと取り囲んでいた。据えられた門もしっかりした物で容易く破られたりはしないだろう。そう思われていた、今までは。
門の左右には階段が作られ、隣に隣接した見張り台がある。そこで衛兵達が必死にアンデッドと戦っていた。
「下がれ!壁の下まで後退するんだ!」
全員が階段を降りると後ろで扉を叩く音がする。扉は既に悲鳴を上げ、いつ破壊されても不思議ではない。
この場にいる衛兵達の顔が絶望に染まった時、後ろからガチャンと金属音が響いた。
全員が反射的に後ろを見ると、そこにいたのは英知を感じさせる魔獣に乗った真紅の全身鎧の戦士だ。その横には1人の信じられない程の美女を連れている。
「お、おい!ここは危険だ!すぐに離れろ!」
その衛兵は既に気づいていた。この男の胸にあるプレートが銅の物で有ることに。最低ランクの冒険者がここに来てもアンデッドが1人増えるだけだ。
男は話を聞かず、魔獣から飛び降りると二本のグレートソードを背中から引き抜く。
周りの衛兵、そして自分も息を飲むのを感じた。あの巨大なグレートソードがまるで棒きれだ。有り得ない。
「後ろにも少しは注意しろ。危ないぞ?」
男はそう言うと右手に持ったグレートソードを槍投げのように投擲する。衛兵達は目では追えなかった。慌てて全員が後ろを見ると、
「邪魔な奴らだ。」
それだけ言うと真紅の戦士はこちらに歩いてくる。
「門を開けてくれるか?」
「な、何言ってるんだ!?向こうはアンデッドだらけだぞ!!」
「それが?この私…モモン!!…クワトロ・バジーナ…に関係有るのかね?」
「な、何を…?」
「まあ、仕方ない。ただ、この後私の『仲間達』が冒険者達を呼んでここに来る筈だ。そうしたら開けてやってくれ。なるべく門の周辺は片付けておこう。それまで君たちはここを死守して貰いたい。宜しく頼む。」
真紅の英雄はそれだけ言うと、四メートルは有ろうかという壁を軽く飛び越えて向こう側に行ってしまった。
それを追うように美女と魔獣も向こうに続く。
残された衛兵達は雷のようにやってきた真紅の英雄に魂を吸い取られたようにポカンとしていた。
「な、なあ?夢じゃ無いよな?」
「あ、ああ。俺も信じられない。あれが銅の冒険者だと?はは、ははは。」
「なあ、聞こえるか?アンデッドの上げる音が」
衛兵達がその声に耳を済ますと、壁の向こうから金属を何かに叩きつけているような音が聞こえてくるのみだ。アンデッドの上げる扉を叩く音はもう聞こえなくなっていた。
「嘘だろ!?い、行くぞ!」
そうして先程逃げ出して来た階段の上に登り、墓地を見下ろすと、もう一度信じられないような光景を目撃する。
「あ、あの戦士は一体?」
そこに転がっているのは見ただけで巨大な剣に切り裂かれたと思しき死体だらけだった。
「俺達は…新たな英雄の誕生に立ち会ったのかもな。」
「ああ。赤い…いや、真紅の稲妻だな!」
そう衛兵が言うと、遠くから
「「それは違う男だ!!!」」
と壁に反響した大声が、先程の真紅の戦士、モモンの声が聞こえてきた。
モモン達はアンデッドを切りとばしながら段々と進んでいるが余りにもアンデッドが多い為、なかなかスピードが上がらなかった。その原因の一つが、怪我をする可能性のあるハムスケをナーベラルが持ち上げて空を飛んでいるため、魔法が使えない為でも有った。
「モモンさん。先程、大声を上げられたのはどうされたのですか?」
「…何かとても…絶対に間違われてはいけないことを言われた気がしたのだ。まあ、気にするな。」
モモンはそう言うと後ろ、門の方に振り返る。
「このままでは何時まで経っても奥に行けん。…よし、もういいだろう。」
モモンは能力を解放する。
中位アンデッド作成・
スキルの発動に合わせて二体のアンデッドが出現する。
同時に勝手にモモンの口が開く。
「アポリー!ロベルト!遅れるなよ!…へ?…どちら様ですか?」
だが、どうやら名前を付けられたらのが嬉しいようで、
「モモンさん。一体その名前は?」
私も知らないよ?という言葉が一瞬喉まで出掛かるが何とか飲み込み、らしい言い訳をなんとか思い付く。
「…確か!歴史に残る殺人犯の名前だったな!」
(こいつらの元ネタも確かそんなだった
気がする…!あと世界中のアポリーさん、ロベルトさん…ごめんなさい!!)
「おお…!素晴らしい方のお名前なのですね!」
「ええ…」
モモンは一瞬、ドン引きしかけるがどうやらアポリーもロベルトも嬉しそうなのでもうどうでも良かった。
「アポリー、ロベルト!頼んだぞ!」
そう言うと二人?二体?は凄いテンションの高さで殺戮を開始した。
「…大丈夫…だよな。それとこちらもやっておくか。」
下位アンデッド作成、
「行け!ファンネル!…ファンネル?…まあいい、おまえ達はこの墓地に何者かが侵入してきたら追い返せ。あの衛兵達は殺すな。…ん?お、おい?」
どうやらこいつらも複数体の癖に名前で呼んで貰ったのが嬉しいようでヒュンヒュンと、とても素早く良い動きで飛んで行ってしまった。
心配になったモモンはもう一度思念でやりすぎるなよ?と命令を送ると墓地の奥の方に向き直る。
「さ、さて、行くか。待ってろンフィーレア。」
モモンは剣を両手で握りしめると、アポリーとロベルトが開けてくれたアンデッドの隙間に飛び込んで行った。
世界中のアポリー様、ロベルト様申し訳有りませんでした!!
一つ聞きたいのですが…もっとはっちゃけても良いのでしょうか?