それと感想欄でご意見を貰ったんですが、前回のようにモモンさんとアインズが乱舞する回はモモンに統一しようと思います。
「どうしたんです、モモンさん?いきなり敵が見えるって…何も見えませんが。」
とニニャが聞いてくる。
それはアインズが誰かに聞きたいぐらいだったが、〈
「私のマジックアイテムに反応が有りました。…どうやら、バレアレ商店の中に何者かがいるようです。あまり居て欲しく無い何者かですが…。取り敢えず皆さんはここに居てください。私が中に入って見てきましょう。」
「モモンさん、私も共を。」
「…。ナーベ、お前は残ってンフィーレアさん達を守ってくれ。そして、ハムスケ、おまえには初めての命令だ。ナーベと皆を守れ。いいな?」
「畏まったでござるよ!」
「モモンさん!!」
恐らくこのままではナーベラルは納得しないだろう。なので〈
『ナーベラル、命令だ。私の事は心配するな。きちんと考えて有るとも。最悪の場合切り札を切るさ。』
『…畏まりました。アインズ様。どうかお気を付けを。』
切り札なんて無い。しいて言えばこの鎧を消し、魔法での全力戦闘を行う事ぐらいか?それでもワンテンポ遅れるだろう。もしこの中にいるのが同格の相手だった場合、かなり不利になる。
それでも、正体不明の敵がいる場所にアインズ自ら行くのはナーベラルが心配だということと、最悪相手が同格のプレイヤー、ましてや人間種だった場合ナーベラルでは不味いからだ。初手を間違えると、下手をすれば全面戦争だ。
(…まあ、プレイヤーの可能性は低いだろうが、ここでナーベラルを行かせて高みの見物では未来の英雄モモンとしてどうなんだ?ここは俺が行った方が良いだろうな。…それに、ナーベラルに怪我なんてなるべくして欲しく無いし、相手がプレイヤーだったら、下手をすれば殺されてしまう…。そんな事をされたら俺も引けない…戦争しかなくなってしまう。)
アインズはゆっくりバレアレ商店の中に入っていく。流石にこの時間は暗いが、アインズは暗闇でも問題無く見える為、店内は簡単に見渡せた。
(…こっちだな。〈
入って直ぐの色々な物が陳列してあるスペースの奥に部屋のドアが見えた。そのドアが少し開いているのが分かる。
アインズはゆっくりとその部屋に近づいて行く。
アインズは暗闇でも見通せる目が有るのだが、余りにもその部屋の先にいるで有ろう敵に気を取られ過ぎ、床に落ちている丸い瓶に気付かなかった。
そこか?と言おうとした瞬間その上に見事に足の裏が乗り、そしてコロンと転がった。
「そこかぅあああああっ!!!」
バランスを崩し、何かに掴まろうとするが、周りには陳列棚しかなく、余計に瓶が落ち、踏まないように気を付ける度に他の瓶が落ちていく。
気づけば目指していた部屋の壁に猛スピードで突っ込んでいく。何しろLV30の戦士職だ。凄いパワーとスピードでこけまいと必死になり壁に近づいていく。
「そこだ!」
(言ってる場合じゃ無いだろうが!うわあ!止まらねえ!)
アインズはそのまま壁に頭から突っ込んだ。
もし、アインズの頭がただの骸骨なら、ただ頭を壁に強かにぶつけて終わりだっただろう。だが今のアインズには短剣のような角が生えているのだ。
その硬度はアインズの骨の身体と同じで、下手な金属よりよっぽど硬く、頑丈だった。
その先端に全体重を乗せ、助走を付けて壁に突っ込んだのだ。当然壁を貫通し、アインズは頭だけ壁の向こう側にでてしまった。
その時「うぎゃあ!」という女の悲鳴が聞こえたアインズは余りの混乱に絶望のオーラや後光を背負ったりしてしまう。
(あっぶねぇ!絶望のオーラをレベル1にセットしといて良かった!…ん?)
アインズは目的の部屋に頭だけを突き出し壁の向こうを見ているのだが、目の前に、額にタンコブを作り尻餅を着いた女がいた。
その女と目が合うと、女が「ヒッ!」と悲鳴を上げる。
(…こいつが〈
アインズはその時頭の電球に光が灯ったのを感じた。
(なる程。間違いない。…こいつ!クレーマーか!)
アインズはかつてリアルの世界でのクレーマーの姿を思い出す。アレほどの怒りと敵意を表に出していれば〈
(いくらデミウルゴスでも流石にクレーマーに〈
アインズはようやくそこで悟る。
クレーマーでも客は客と言うことに。
(不味い!思いっ切り頭突きかましちゃったぞ!あんなに大きなタンコブが…。冒険者組合に言われたらどうしよう…。というかこの格好…。)
アインズは壁から頭を突き出しっ放しという間抜けな格好で考えるのは止めようと、頭を壁から引っこ抜く。そこでもう一つ気づく。
(壁に穴が!!薬の瓶もこんなに!!)
アインズは客の店を荒らし、壁に穴を開け、更に客の客に怪我をさせてしまったのだ。
今アインズは一文無しだ。今回の報酬が無くなれば…とても不味い!ならどうするか。
(彼女に誠心誠意謝るしかない!)
とアインズの中の社会人、鈴木悟が言っていた。
クレマンティーヌはその日、バレアレ商店にずっと潜んでいた。『色々』な方法で集めた情報に寄れば今日帰ってくるだろう、と当たりを付けていたのだ。
目的はンフィーレアの誘拐と…その護衛の冒険者と少し遊ぶ事だった。
どうやって遊ぶかと考えていると、外から声が聞こえてきた。まだ遠いがここに近づいてくる。そしてこの建物の前で止まる。
「遅かったじゃない。待ちくたびれちゃったよ?」
そんなことを呟いていると、「敵が見える!」と外から叫び声が聞こえた。
チッ!と舌打ちするとクレマンティーヌは考える。
(探知系の魔法!?そんな奴がいるなんて聞いてない!護衛は銅と銀の冒険者だって…)
と、そこで先程の男の声で「私が見てきましょう。」と聞こえた。
クレマンティーヌは近くの部屋に入るとドアの隙間からその男を見る。その男はどう見ても赤い全身鎧を着た戦士だ。探知系の魔法を使える訳が無い。例外を除いて。
(流石にそんな訳無いよね…。無い無い!何かのマジックアイテムでしょ?)
クレマンティーヌは半分自分に言い聞かせるようにそう考えるとまた赤い男を見る。
赤い男は真っ直ぐ近づいてくると、急に「そこかあああああ!!」と叫び突っ込んで来た。
(う、嘘でしょ?ちょっ待っ!)
クレマンティーヌはドアから離れ、壁の影に身を隠す。だがいきなり「そこだ!」と聞こえたので咄嗟に振り向くと、額に衝撃を感じ、
「うぎゃあ!」
と悲鳴を上げていた。一瞬意識が飛び、気づけば尻餅を着いていた。
ふと顔を上げると、さっきの赤い男が顔だけを壁から突き出し、此方を見ていた。その男と目があった瞬間「ヒッ!」と自分の口から信じられない悲鳴が漏れる。
気づけばクレマンティーヌは全身が震えていた。
(な、何で!?何でこんなに!!怖くてたまらないの!!)
カチカチと自分の口の歯が鳴り、身体が震える。抑えていないと絶叫しそうな程の恐怖心がこみ上げてくる。
赤い男は首を引き抜き、此方の部屋に入ってくる所だった。
(一撃で…殺す!)
クレマンティーヌは自らの得物で有るスティレットを抜き震える右手で持つ。そしてそれを震える左手で更に掴む。
男の鎧はかなり上質そうだ。恐らく一撃ではキツいだろう。だが一撃で決めないともう何も出来なくなってしまう程の恐怖心で一杯だった。
ならあのヘルムのスリットだ。
(あそこなら…この魔法を込めたスティレットで!)
赤い男は此方の前に立つと屈んで顔を近づけてくる。
「っ今だ!!死ねぇっ!!」
クレマンティーヌの突き出したスティレットはギャリッとヘルムのスリットと擦れ火花を上げながら突き刺さる。
カツンと骨に当たる感触と共にクレマンティーヌの殺意に反応し魔法が発動する。〈
だが、
「へ?」
とクレマンティーヌは声を上げる。その男は何も無かったように姿勢を直すと、此方を見下ろしてくる。
「き、効いて…ないの?」
「ああ、ヘルメットが無ければ即死だった。」
と赤い男はヘルムのスリットに深々とスティレットを突き立てたまま言った。
クレマンティーヌはそれを聞き、全てを諦めた。もう恐怖で身体が竦み、動けない。
(…あれ、どんな全身鎧なのよ…。とてつもない魔法を込めた鎧?うちのくそったれな国にもそんなの無かったのに…。だーめだこりゃ…、勝てっこないわ。あーあ、死にたくないな~…)
「ああ…ぅ…ヘルメットが無ければ即死だった。…ぇ?」
(いやいやいや、思いっ切り刺さってるだろう!ヘルム関係無いわ!…というかこの女!謝ろうとしてるのにいきなり刺してくるとか…、凄い危ない奴だな。ナーベラルを来させ無くて良かった。さて…。)
アインズの頭の中で『頭に来たから殺してしまうか?』という考えが一瞬よぎるがすぐに取り消す。先に手を…頭を出したのは此方なのだ。むしろこれでイーブンだろう。
取り敢えずこの女の怪我を治そう。
「怪我をしているようだな?」
どこかで言った台詞だと思いながら女に声をかける。
クレマンティーヌは
『おめえがやったんだろうが!!』
という言葉を必死に飲み込む。
そして見た、見てしまった。その男が差し出して来た物を。
「か、神の…血?」
口伝で聞いたことが有る。昔の神様達が使っていたポーションは赤かったと。神様達の血だからだと。と言うことはこいつは……!
「これは血に見えるかも知れないがポーションだ。これを使ってその怪我を治してくれ。幾つか条件が有るがな。」
「条件…ですか?」
「ああ。今回の事(頭突きをかましたこと)を誰にも言わない事。それとこのポーションはこの場で使うこと。出来るか?」
今回の事とはこの赤い男、神、若しくは神人と出会ってから全ての事を言わない事。つまり今日の事は忘れろと言うことだろう。
(え??もしかして許してくれるの!?死ななくて済むの!?)
「は、はい!約束出来ます!貴方の事は誰にも言いません!」
「あ、ああ。ありがとう。ではこれを飲むんだ。」
クレマンティーヌは差し出して来たポーションを受け取る。しかし、これを飲むのは少し怖い。毒が入っているとかでは無くて、もしコレが本物だった場合、この赤い男は本物の神、若しくは神人と言う事だからだ。
「ん!」
だが覚悟を決め、一気に飲み干す。
すると額の痛みが一気に消え、身体が軽くなる感覚が有った。
…間違いない。これは本物だ。
赤い男を見ると此方をじっと見つめていた。
「アルテイシア……。別れた妹の……いや、違う。彼女にしては、つ、強すぎる…」
そう、男が呟いた。
(違うに決まってるだろ!俺がそのアルテイシアを知らないんだから!そもそも俺には妹なんていないぞ!)
アインズは焦るがまた口が勝手に開く。
「お前ももう良い大人だろう?戦いから離れろ。良い女になるのだな。」
(歳の事を女性に言うのは失礼だってやまいこさんが言ってた。と言うか殴られた。…ぐぅ!おのれ!また失礼な事を…!)
だがアインズが女の方を向くと、女の顔が、つき物が取れたように晴れやかな顔をしているのに気付いた。
「…貴方にも、妹がいるの?…ですか?」
と彼女が聞いてくる。
「…へ?あ、ああ!うむ、そうらし…いや、そうなのだ。君に良く似ていた。」(もうっ!知らない!)
「私に…?戦いから離れろって…もしかして私を心配してくれてるの?…ですか?」
アインズは一瞬考えてみたが、やはり女性が戦い、そして死ぬというのは良くない。という結論に至る。
「ああ、そうだな。戦いから離れられるのなら離れて生きるべきだ。」
クレマンティーヌは生まれてからこの方、ずっと兄と比べられ、戦い続けて生きてきた。上辺だけは心配してくれた奴もいたが、さっきの言葉は違う。本当に実の妹に言うように、本物の心配をしてくれていた気がする。
そしてもう一つ。兄が、あのくそったれな兄貴がアホみたいに信仰していた神様が、自分を心配してくれた。という優越感が今までの暗い感情全てを霧散させてくれた気がしていた。
「本当に(心配してくれて)ありがとうございます!貴方の事は誰にも言いません!これからは戦いから離れて生きて行きます!」
「ああ。此方こそ(見逃してくれて)ありがとう。」
(あのポーションでそんなに感謝されるとは…。どこか体が悪かったんだな。だからこそクレーマーになってしまったのか…。)
「それと…良い女になってみせます!」
と最後に言って裏口から出ていく。女。名前は聞かなかった。教えると自分の名前を言わなくてはならないからだ。後で考えを変えられては不味いのだ。
「もう充分綺麗だと思うけどな…。」
とアインズは呟いた。
クレマンティーヌは考える。
取り敢えず、法国の秘宝はその辺の風花に渡して自分は聖王国に行こうと。
「流石に良い人?…神様?だったけど…あんな怖い思いはもうしたくないしねぇ。聖王国なら風花とか法国の連中もあんましいないしのびのび出来るでしょ!それにしても名前を聞かれなくて良かったぁ。後で考えを変えられたら怖いもんねぇ。嘘とかすぐバレそうだし…。」
クレマンティーヌさん、聖王国に行って怖い思いをしないと良いね!
アインズは女を見送ると、店に戻る。
「これ…どうしよう?…一回刺されたし…あの女のせいにしてしまうか?」
と悩んでいたが、すぐに外から轟音と、アインズのスキルに引っかかるアンデッド反応が有った事ですぐに外に飛び出した。
「やれやれ!今度は何だ!?」
視点が飛び飛びで読みにくいかもしれません。申し訳ないです!
クレマンティーヌさんを助けたい!という事でこうなりました。
取り敢えずクレマンティーヌさんはweb版同様に聖王国に旅行に行って貰います。