アインズはカルネ村から戻り色々な後始末を終え、ようやく自室に戻ってこれた。そのままアルベドから様々な報告を聞き終えたが、その後に守護者やそのシモベの前でアインズと名前を変えた事やこれからの指針を発表せねばならない。
しかし、本当に色々有りとにかく疲れたので1人になりたかったアインズはアルベドに
「一時間後にしよう。皆を集めるのに時間がかかるだろうからな。」
と提案してみたのだがそのアルベドに、
「いえ、この指輪が有れば直ぐに皆を集められます。」
と左手の薬指に嵌めた指輪をさすりながらぐうの音も出ない完璧な切り返し方をされてしまった。
困ったアインズは
「ぐっ…、いや、お、お前も私にずっと付き添い禄に休憩も取れなかっただろう?これから忙しく働いてもらうのだ。お前にもしもの事が有っては困るからな!これは半分命令だ。そして半分はお願いだ。休憩の要らない身体で有っても少しでいいから休め。」
と、とにかくまくしたてる事にする。
これに対しアルベドは
「く、くふー!わ、私の為にそこまで!…ゴホン、申し訳有りませんでした。…畏まりました。それでは一時間後に参ります!」
とかなり興奮しながらも納得してくれた。
「あ、ああ。ではな。」
と、ようやくアルベドの背中を見送り、今度はメイドを退室させる為に同じようなやり取りをし、本当にようやく独りになれた。
(…いや、まだいたんだった。)
アインズは天井を向くと、
「お前らも一度退室せよ。入り口を固め、一時間後まで誰も入れるな。」
とエイトエッジアサシン達に命令する。
「はぁ…疲れたなぁ。異世界転移して初めての戦闘に捕虜の獲得。まあ戦果は上々か。…まあいいや、取り敢えず休憩だ!そう、これからナザリックはヘロヘロさんのような者を作らないという労働環境を目指すんだから、トップの俺が休憩するのも必要な事だ!そうこれは必要な事なんだ!」
そう自分に言い聞かせベッドにダイブする。だがそこはやはりアンデッド。全く眠くならない。何しろ身体は元気そのものなのだ。骨だけど。
「…これは…暇なだけだな。仕方ない、ドレスルームの整理でもするか。」
アインズの自室に隣接するドレスルームは取り敢えず買ったようなアイテムを放り込んで置く部屋で、かなり混沌としていた。しかし、それだけでなく外に持ち出して万が一ドロップする訳にはいかないが、宝物殿に仕舞う訳にもいかない完全な私物も仕舞ってあるのだ。今日はその辺りの整理をしようとアインズはドレスルームに向かう。
アインズがドレスルームに入り30分がたったが整理は全くといって良いほど進んでいない。片付けを始めたら懐かしい漫画を見付け読みふけってしまうアレだ。アインズは失敗したと悟る。
だが、当のアインズは笑顔だった。顔は勿論動かないが。
「仕方ないよなぁ。こんな懐かしい物が目に入っちゃったんだから!」
それは嘗てギルド、アインズ・ウール・ゴウンの全盛期だった頃、ギルドメンバー達から誕生日プレゼントとして貰った宝箱だった。彼等はあるメンバーは共同で、あるメンバーは1人で、様々な物をサプライズでこの宝箱に詰めて贈ってくれたのだ。どれが誰からの物かは内緒という言葉と共に。
「これはペロロンチーノさんだな。はは、シャルティアのスクリーンショット集って…これを見た茶釜さんは怒っていたなぁ…。でもその茶釜さんだってアインズ・ウール・ゴウン3人娘のスクリーンショットだもんな…。異形種のスクリーンショット貰ってもどうしろと…。やっぱり兄弟だよな…。というかこれ、メイド達や守護者…特にアルベドとシャルティアには見せられないな…恐ろしい事になりそうだ…。お?これは確か…」
種のスクリーンショット貰ってもどうしろと…。やっぱり兄弟だよな…。というかこれ、メイド達や守護者…特にアルベドとシャルティアには見せられないな…恐ろしい事になりそうだ…。お?これは確か…」
ずっとこんな具合だ。流石にもう片付けを諦めたアインズはそのアイテム達を宝箱に大事そうに仕舞っていく。
と、その時覚えの無いアイテムがアインズの手に触れる。真っ赤なリストバンドのような形で、表にこれまた真っ赤な金属のプレートが付いている。
「んー?なんだっけ、これ?この中に入ってるんだからプレゼントだよなぁ。ん?このプレート、字が書いて、いや彫ってあるのか?」
AOG-01S、そう彫ってあった。アインズはその単語に付いて考えてみる。
(…AOGは間違いなくアインズ・ウール・ゴウンだよな。01は一番だからギルド長という意味か?Sは何だろう、スペシャル?スーパー?うーん、分からないな。でもこのリストバンド…)
アインズはしげしげとそのリストバンドを手にとり眺める。何だかこのリストバンドにはアインズの未だ残滓のようにこびりつく中二精神に訴えかける物が有った。
「格好いいよな?間違いなく。これを付けてこの世界で活動するのも悪く無いんじゃないか?嘗てのギルドメンバー達からの贈り物を付けて頑張るか。いや良いかもしれない!」
そう思い、何も考えずそのリストバンドを左手に嵌めようとする、鑑定の魔法も使わずに。
アインズはこのことを今後、少しだけ後悔する事になる。
アインズがそのリストバンドをパチンという音と共に嵌めた瞬間バシュウッ!という音がドレスルームに鳴り響き、アインズの着ていたローブが激しくはためく。
「へ?え?何が?…うおっ!」
アインズはそのリストバンドを嵌めた腕を見て驚愕の声を上げる。何故なら
「うわああ!!何だ!?腕が真っ赤に…はっ!?まさか…」
アインズは恐る恐る姿見の鏡を見る。
「げぇ!全身が真っ赤に!ん?いやいや、なんだ!?頭から角が!!」
その言葉通り、アインズの頭から短刀のような角が後方に反るように生えているのだ。
「…どう考えてもこのリストバンドのせいだよな。」
〈道具上位鑑定〉
アインズは今になってようやく鑑定の魔法を発動する。___全ては遅すぎたのだが。
「何々?モモンガ専用アイテム。型番のSは赤い彗星及びその再来の証。赤い彗星の名に相応しい言動をオートで取ってくれます?…全く意味が分からん、追加の効果で物理攻撃が少しアップ、素早さが大幅アップ『通常の3倍』?…ふむふむ成る程、魔法職の俺にはまっっったく、意味が無いな。いや、素早さアップはなかなか良いかな?…これはジョークグッズだな。これを嵌めて来た俺を笑うつもりだったな!全く!」
そう言いながら、言葉と裏腹に笑顔のアインズはリストバンドを外そうとするが全く外れない。
「あれ?何で?…まさかこれ使い切り型のジョークグッズか?破壊しなきゃ外れないタイプの…。やられた!」
アインズの頭の中をそういう事をしそうなギルドメンバー達の顔が浮かんでは消えて行く。その顔はユグドラシルでは顔を動かす機能が無い為有り得ない筈なのにニヤニヤと笑っているようだった。
「くっそー。こうやって焦っている所まで笑うつもりだったな。まあいいや。取り敢えず」
〈道具上位破…〉
そのアイテム破壊の魔法の詠唱を途中で止めるアインズ。これは確かにタチの悪いジョークグッズだが、ギルドメンバー達がアインズに、いやモモンガに贈ってくれた物なのだ。破壊してしまうのは違う気がした。それに…
「…このアイテムを鑑定もせずに嵌めてしまうとは…もしこのリストバンドに攻撃魔法が込められていたら…ユグドラシルでは笑い話だがフレンドリーファイアが解禁されているこの世界では下手をすればこの部屋が吹き飛んでいたな。そうなれば他のプレゼントも…失態だな。」
そこまで喋るとそのまま何故か口が止まらず言葉が続く。アインズの意志とは関係無く。
「認めたくは無いものだな。自分自身の、若さ故の過ちという物を。」
(…え?はっ!?何だって!?)
その混乱の最中、アインズの自室のドアがノックされる。
「アインズ様、お時間です。」
(げぇ!アルベドか!マズい!この姿を見られたら…)
「私もよくよく運の無い男だな……ええい!お前は黙ってろ!」
「アインズ様!?まさか!?」
その声と共にバーン!と扉を破壊し入ってくるアルベド。
(おいっ!別に壊さなくても入れたでしょーが!!)
入ってきたアルベドはアインズを見るなりトサリと膝を付く。
(ぎゃあああ!!見られちゃったよ!真っ赤になって角の生えた俺を!)
アルベドはアインズを見つめ震える声でアインズに問う。
「モモンガ様…なのですか?そのお体はもしやご病気では…ど、どうすれば…」
呼び名がアインズからモモンガに戻ってしまう程の衝撃なのだろう。アインズは自分のした事に罪悪感を感じていた。
「すまないアルベド。これはこのリストバンドのせいなのだ。お前に心配をかけるとは…、ギルド長失格だな…。」
「そ、そうだったのですか…、それにしても…とてもお美しいお体に…」
「え?」
「情熱的な真っ赤なモモンガ様!…いえ、今はアインズ様でした。申し訳有りません。」
構わない。と言おうとするが口は全く違う言葉を紡ぐ。
「いや、私をモモンガと呼びたいのなら呼んでくれても構わんよ?2人だけの時にしてもらえればな。」
(ぐふっ!2人だけの時だと!)
「くっふー!2人きりの時!!」
「と、とにかく!アルベド!皆の所に行くぞ!というか、この姿のままでも平気だろうか?」
「いえ、完璧だったアインズ様が別の魅力まで手に入れたお姿です。まっっったく!問題無いかと!」
「そ、そうか…では行くか!…アインズ・ウール・ゴウン、出るぞ!……ええっ!?」
まるで出撃するかのような勇ましい声で言うアインズ。
「だ、大丈夫ですか?」
「うむ!行こう、早く!早く行こう!」
(ていうかさっきから精神の安定化が行われていないんじゃないの!?これからどうなってしまうの!!??)
シャア専用モモンガ改め、シャア専用アインズ、これからどうなるかは神のみぞ知る。
シャア専用モモンガという謎の単語が頭から離れず勢いで書いてしまいました。