Fate/EXTRA 汝、復讐の徒よ   作:キングフロスト

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森の賢人、無貌の王

 

 エレベーターから降り立った私の目にまず映ったもの、それはやはりというか、アリーナからも見えていたあのコロッセオの舞台上だった。

 ここから見える景色には、逆にそのアリーナの影も形も見当たらず、既にあそこが私達にとって、後戻りの許されないもはや完全に閉ざされた世界となったのだと思い知らせてくるようだ。

 それが意味する事───つまりはもう前に進むしかないという事を。

 

 水底に沈んだこの闘技場。敗者は文字通り、敗北と同時にこの闘技場と共に沈みゆく運命を辿る。

 すなわち、この闘技場はまさしく私達か、彼らへの戦場にして墓場であるに他ならない。

 

 私が辺りを観察する中で、敵マスター──ダンは、既に戦闘へと意識が固定されているのか、一点をひたすら見つめていた。

 

 そう。戦うべきである、私の事を、彼は黙って見据えていたのだ。

 私を見つめるその瞳には、どこか憂いが滲んでいるようにも思えるが……?

 

「……これが戦争なのだと理解はしている。だが、前途ある若者の、それもまだ年端もいかぬ少女の未来を、こんな先の長くない老人が摘み取ってしまっても良いものかとさえも思ってしまう。やはり、わしも年を取ったという事か」

 

「おいおいダンナ、(はな)から分かってたはずだぜ? 命のやりとりに女も子どもも関係ないってもんだ。戦場に立った以上、それが誰であれ倒すべき敵であり、殺すべき敵でしかねぇってよ。どの道、向こうさんが死んだって自己責任なんすって。嫌なら最初から聖杯戦争に参加するなっつうね」

 

「……ああ、分かっているとも。どうあれ、戦うのみ。それが礼儀であろう」

 

 ダンにしては珍しく弱気な発言であったが、それもアーチャーからの進言により、キレイさっぱりに払拭される。

 目つきが戦士のそれへと変わるのが、素人の私からでも一目で感じ取れた。

 

「ここで決めるぞ、アーチャー」

 

「ああ、そうしようか。そろそろあのひねくれたお嬢さんに、世の中の厳しさを教えてやらねぇとな!」

 

 アーチャーのその言葉に、ピクリと眉を動かしたのは、私ではなく───

 

「……あ゙あ゙?」

 

 彼の視線から、それが自分へと向けられた言葉であると認識したアヴェンジャーは、いつもの三割増でドスの利いた声を出す。

 明らかに今のでアヴェンジャーの機嫌が悪くなったのは、火を見るよりも明らかだった。

 

「アーチャー。今、何と言いましたか? 聞き間違いかしら……貴方が私を、世間知らずのお嬢さん、と言ったように聞こえたのだけど?」

 

「ああ、言ったとも。何も間違っちゃいないね。お前さんは身の程知らずにも、オレらに勝てると勘違いした夢見がちな小娘じゃねぇの?」

 

 

 ──プチン。

 

 

 ……、今聞こえてはならないものが、確かに聞こえた気がした。

 私はアーチャーからの挑発に、俯いて動かなくなったアヴェンジャーの顔を恐る恐る覗き込む。

 

「……す」

 

「え?」

 

 ポツリと何かを呟いたと思った瞬間、アヴェンジャーは勢いよく顔を上げると、犬歯を剥き出し、目は見開いて黄金の瞳を最大限まで覗かせて、巨大な殺意を露わにアーチャーを睨み付けた。

 

「殺す。貴様は殺す。是が非でも殺す。否が応でも殺す。完膚なきまでに殺す。私が世間知らずのお嬢さん……? 夢見がちな小娘……? 知ったような口をきくな、薄汚い鼠風情が!! ああいいとも。ならば見せてやりましょう、この身にくすぶる深淵よりも深く醸造された憎悪の刃、煉獄で鍛えた憤怒の炎を!! その体で思い知らせてあげる……!!!」

 

 宣言と同時に、大鎌を顕現させるアヴェンジャー。彼女がここまで怒る姿は、私も初めて目にしただけに、戸惑いを禁じ得ない。

 何がアヴェンジャーの琴線に触れてしまったのか。それは明白ではあるが、その理由までは計り知れない。

 今のやりとりから、彼女の生前と関係があるのかもしれないが、ともあれアーチャーはそれを刺激してしまった。それが狙っての事なのか、もしくは偶発的な事であったのか。

 どっちにしろ、アヴェンジャーが本気でキレた事に変わりない。

 

「おっと、コイツは地雷だったか。まさかそこまでキレるとは想定外」

 

「馬鹿者が。挑発は時に逆効果にもなるものだ。お前は少しやりすぎるきらいがあるな、アーチャー。多少は弁える事も覚えるのだ」

 

「あ~……これはちっとばかし反省モンっすわ。了解、騎士様ならこんな真似はしないと覚えときますんで」

 

 アヴェンジャーの鬼気迫る迫力を前にしても、ダンもアーチャーもまるで堪えた様子はない。マスターである私ですら、溢れ出す彼女の殺気に、手に汗握っているというのに。

 

「無駄口はそこまでです。飼い犬の粗相は飼い主の責任。特別に、老い先短いその命をもって償いとする事を許しましょう。なに、未来ある若者(わがマスター)の糧となれるのです。枯れた大木にはこれ以上ない(ほま)れでしょう?」

 

 途方もない殺気を撒き散らして、アヴェンジャーはその殺意の刃の矛先をダンへと移す。復讐の魔女に相応しい、憎悪に満ち溢れた悪意ある笑顔を浮かべて。

 先程までの怒りを、その全てを憎しみへと変換させた彼女は、これまでになく最高に冷静さを保つ。怒りに身を任せて力を振るうのではなく、確実に標的を仕留めんが為に。

 

「ほう……。怒りに我を忘れる程、愚かではないと見える。なるほど、確かに難敵。細心の警戒を怠るな、アーチャーよ」

 

「あいよ。んじゃま、始めるとするかねぇ!!」

 

 挑発の応酬は、その一言で終わりを告げる。

 アーチャーはマントを翻し、右腕に備え付けのボウガンのような弓を出現させた。こうしてゆっくり見るのは初めてだが、あの控えめな装飾で小振りの弓が、彼の宝具である『祈りの弓(イー・バウ)』だ。

 

「手加減無しだ。最初からトバすぜぇ! 『無貌の王』、参る……!!」

 

 何か仕掛けてくる。そう思い身構えた私達だったが、次の瞬間には、その顔を驚愕が支配していた。

 

「消えた!?」

 

 目の前で起きた現象に、私は思わず声を上げて驚く。それもそのはず、目の前にあったアーチャーの姿が忽然と消失したからだ。

 

 いや、姿を隠す宝具やらスキルが有るのは知っていた。だけど、それをただ知っているのと目前で見るのとでは、大きく異なってくるのも仕方ないだろう。

 

 現実では有り得ない光景も、この魔術と電脳の世界、殊更サーヴァント達からすれば当たり前でもある日常(ふつう)に、私は考え直しが必要だと思い知らされる。

 

 私にとっての異常は、この世界に生きる者達にとっては通常なのである、と。

 こんな事でいちいち驚いていては、この先もっと奇怪な力を持つ相手にも苦戦するだろう。驚くよりも先にまずしなければならない事、それは対抗策を打ち出す事に他ならない。

 

「やっぱり厄介な宝具を持ってるわね」

 

 それを既に行っているようで、アヴェンジャーはアーチャーが消えた事に驚いたのも束の間、即座に警戒心全開で周囲の異変の察知に努めていた。

 

(マスター。聞こえてるわね?)

 

「!」

 

 と、いきなりの念話に、私は全身がびくりと震えた。使い慣れていない上に、念頭に置いていなければびっくりするな、コレ。

 

(聞こえてるよ。何か対抗策があるの、アヴェンジャー?)

 

(有るには有ります。おそらく、攻撃の瞬間は透明化を解除する必要があるはず。その一瞬の隙を狙うわ)

 

 なるほど。確かに強力な宝具であれスキルにしろ、何かしらのデメリットは存在するはず。現に、共に透明化しているはずの弓と、そこから放たれたであろう矢が私を襲ったあの時、飛来する矢を私は視認出来ていた。

 あの時は、先に放たれた矢のせいで気付かなかったというだけで、二発目も透明だった訳ではなかったはずだ。

 

 アヴェンジャーの狙いは理解した。だけど───

 

(そうだとしても、それは現実的な案には程遠いよ)

 

 どこから攻撃してくるかも分からない。それどころか、彼が今どこに居るのかすら分からない。そんな状態で、その一瞬の隙を突くなんて無茶にも程がある。

 

(なら、どうしろと? 他に策があるのかしら、マスター?)

 

 少し苛立ちながらも問い返してくるアヴェンジャー。まあ、自分の意見を否定されたのだから、彼女の性格からすれば当然とも言えるか。

 だが、いつまでも無駄口ばかりも叩いていられない。アーチャーがいつ攻撃してきても最早おかしくはないのだ。

 

 なら、早急に立てるべき策は……、

 

「……そうだ」

 

 一つだけ。たった一つだけ、彼の透明化に対抗出来るかもしれない手がある。

 それで透明化を破れるかは正直言って、かなりの賭けではあるが、それでも何もやらないよりはマシだろう。

 

(いい、アヴェンジャー……? ──────、)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵はこちらが姿を消してから、気配を掴めないからか動く気配はない。

 無闇に当たるより、来るであろう機会を窺っている、といったところか。

 

 だが、それは無意味。その機会を与えてやる程、こっちも甘くはない。敵に己の位置を知られずに、それも複数を仕留める時に最適な方策とは、射撃位置を悟られぬように次から次へと狙撃ポイントを変える事だ。今回は狙いが一人だが、それでもやり方に変わりはない。

 この宝具は、それを簡単に可能にする。攻撃の瞬間は解除されるという難点こそあるが、それも攻撃後すぐに姿を消して場所を転々とする事でクリア出来る。

 

 撃っては隠れ、移動してまた撃つ。そしてまた隠れ、移動して───それの繰り返しで、獲物の視界も思考もいとも簡単に混乱に陥れる。あっという間に死体の一丁上がりという訳だ。

 

 さて、そろそろ仕掛けるとしよう。脳天を狙うには、あのサークレットが邪魔になる。やるなら側頭部、それか後頭部。

 サーヴァント相手に矢を射て殺すというのも、なかなかに難儀だ。たいていは化け物じみた反応速度で打ち落とされる。

 だが、だからこその、『顔のない王』だ。

 

 姿を消し、気配を絶ち、息を殺して獲物に狙いを定める。この三つが揃った状態で、突如飛来する矢に対応するのは至難の技であるだろう。

 

(つっても、ホンモノの化け物にゃ即対応されるんだろうがね。いやいや、だから決戦は面倒なんだって話。見ろよあの敵マスターのお嬢ちゃん、あんなに無防備なのに決戦での故意のマスターへの攻撃はセラフから禁止とか、オレに対するお預けにも程があるってもんでしょ)

 

 ──だからこそ、あの時、彼女を仕留められなかった事が悔やまれる。猶予期間のみ、サーヴァントは敵マスターへの危害を加える事が許されるのだ。それをみすみす逃してしまったが故に、今こうしてステータス低下というハンデまで受けて決戦に臨んでいるのだから。

 

(あー、撃ちてぇ。あんな無防備なターゲット、確実に殺せるんだがね……。ほら、決戦だってのに片眼鏡とか取り出しちゃって。なに? オシャレなの? 命のやり取りの最中でも、女にゃ身だしなみと化粧は大事ってか?)

 

 どうあれ、サーヴァントを撃つ以上、あの素人マスターはほっといても問題ない。素人に『顔のない王』を攻略出来るはずもなし。

 

 敵から見て左方の少し離れた位置に陣取り、アヴェンジャーの左側頭部に狙いを定める。

 出来ればコレで死んでくれたら僥倖。外しても、すぐに死角に移動して次を射れば良い。

 こちらは常に先手を許されているようなもの。後手後手に回る相手には反撃すらも許さない。

 

(……)

 

 だが、何だ?

 微かに感じる、妙な違和感。この場の誰もが、マスターであるダンさえもが、自分の位置を把握していないというのに。

 なのに、ここに留まるべきではないと直感が告げているような、予感めいた悪寒。

 

(まさか)

 

 そう思った瞬間、ふと、あの素人マスターである少女に視線を向けた。

 

(マジか……!!)

 

 こちらが彼女を見ているのと同じように、彼女もまた、こちらを()()()()

 片目は閉じて、モノクルの掛かった方の瞳だけが、真っ直ぐに見つめてくる。

 

 姿が見えないこちらの姿を、あの少女は明確に捉えているとでも言うのだろうか。

 だけど、その瞳は一点を見つめて動こうとはしない。

 戸惑いを隠せず、バレているのなら撃つべきか計りかねていると、

 

「アヴェンジャー、あっち!」

 

 やはりというべきか、あの敵マスター───岸波白野は、こちらを指差してサーヴァントに位置を教えてきた。

 

(チィッ! やっぱ見えてやがる!!)

 

 岸波白野の声に反応し、アヴェンジャーもこっちに振り向くや、即座に手にした大鎌を横に薙いだ。いや、振り向き様に同時に鎌を振ったというのが正しいか。

 刃に炎を乗せたその一撃は、こっちに向かって炎の斬撃となって一直線に飛来してくる。

 

「うおお!?」

 

 あまりの不意打ちに、無我夢中で咄嗟に回避した為に『顔のない王』が半強制的に解除される形となる。透明化が解かれ、敵に己の姿が露わとなった。

 

「危ねえ~……。そんな事まで出来んのオタク!? 斬撃飛ばすとかマンガかっての!! つうか、ちょっと多芸すぎんでしょ!?」

 

「見つけたわよ、アーチャー。コソコソしないと戦えないとか、情けない英霊も居たものね?」

 

 姿を視認出来た途端にこれだ。あれを看破したのはマスターであって、彼女自身ではないのだが、それでもこう得意気にされるのは癪ではある。

 

「言うじゃねえの。ま、『顔のない王』を破ったのは誉めてやるよ。アンタじゃなくてそっちのお嬢さんにだがな」

 

 だが、これは厄介だ。侮っていたが、まさかこんなにもすぐに『顔のない王』に対応する手を打ってくるとは。

 やはり、仕損じたあの日に感じたアレは間違いではなかった、という事か。

 頭の回転の速さも、洞察力の鋭さも、機転の良さも、戦闘での勘も、全てがこのたった一週間という短い猶予期間(モラトリアム)の間で急成長を見せている。

 このマスターが、とんでもない大物へと化ける可能性をその華奢な体の内に秘めているという事実は、もはや否定のしようがないだろう。

 

「さて、どうするかね……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、これで透明化の問題は解決だ……!」

 

 もしもの可能性に賭けてみたが、幸いにも賭けには勝った。

 片眼鏡──つまりは『聖者のモノクル』には、端末からスロットに装備(セット)する以外にも、直接身に着ける事で効果がある。

 第一回戦の際に、慎二が仕掛けたトラップを見破った時のように、この目に見えないものを暴く力なら、アーチャーの透明化も無効に出来るかもしれない……といった、淡い期待ではあったのだが。

 

「……これは驚いた」

 

 アーチャーの透明化を破ったからか、ダンはそれこそ面食らったように私へと驚愕の視線を送ってくる。

 

「いや、礼装を直接身に着ける事もだが、まさかそのような効力を秘めているとは。若さゆえの柔軟な発想の賜物か、それとも魔術師として未熟であるゆえの偶然の産物か。いずれにせよ、敵であれ賞賛に値する機転の良さだ」

 

「え……? その、えっと、ど、どうも……?」

 

 こうも素直に褒められるのは、少しこそばゆいというか奇妙な感覚だ。

 慎二なんかは、自分の実力とライダーの強さを過信するあまり、戦法や作戦を突破されると頑なに認めようとしなかった。

 まして、私を賞賛などするはずもなく、だからこそダンにそんな言葉を掛けられて、違和感のように感じてしまったのだ。

 

「おいおいダンナ、敵を挑発するのは有りで、褒めるのは無しってなモンだって。いやね? それで敵さんが調子に乗って自滅してくれる分には結構なんですよ? でも、それも時と場合があるんすよね。ほら、そこのサーヴァントの顔見てくれよ」

 

 アーチャーに言われて、ダンと、私も釣られてアヴェンジャーの顔を窺うと、そこにはとても面白く無さそうな、明らかな不満顔があった。

 

「ほら。独占欲の強いお嬢さんだコトで、他人、それも敵に自分のマスターが褒められて、しかもそのマスターもデレデレと嬉しそうにするもんだから、一気に不機嫌ってワケっすよ」

 

「う、うるさい!! てきとうな事を言うな!!」

 

 指摘されたのが図星だったのか、みるみるうちに顔を紅くして、すごい剣幕で怒鳴り立てるアヴェンジャー。かわいい。

 

「……。決戦であるというのに、なんとも締まらん空気なものだ。アーチャー、気を引き締めよ。これよりはふざける事も許さん。宝具の解放も認めよう。森の賢人よ、その力を余す事なく発揮するが良い」

 

 静かな闘志を燃やして、老騎士は弓兵へと制限の禁を解く。

 そうだ、これは戦いなのだ。いつまでもお遊び気分でいる事の方が間違い。

 

「おっと。なら遺憾なく、オレのやり方でやれる。悪く思うなよ、これから先は毒の横行。神経毒に麻痺毒、仕込み毒に毒粉末玉と、あらゆる毒のオンパレードだぜ」

 

 透明化を破った程度では、彼らの闘牙はまるで弱まらない。むしろ、毒こそがアーチャーの本領。一発でも喰らえば、途端に窮地に陥るは必至。

 

(アヴェンジャー、治療薬は多めに買ってあるけど、なるべく毒は受けないで。向こうはほぼ無限に毒を強いてくるだろうけど、こっちは解毒するにも限りがあるよ)

 

(分かってる。アイツ、麻痺毒と口走っていた。動きを封じられるような毒以外は治療薬を使わなくても良いわ。それと、敵の宝具の真名解放には注意して。マテリアルにあった通りなら、毒を受けたまま宝具を喰らうのは拙いでしょうから)

 

 アーチャーの宝具……、確か対象の体内にある不浄を膨れ上がらせて爆発させる──だったか?

 毒を受けた身で宝具を受ければ、体内から爆発する可能性が高い。

 常にいつ爆発するかも分からない爆弾を抱えながら、起爆スイッチを持った相手と戦わされるようなものだ。

 

「そら、美味しい毒だ。喰らっときな!」

 

 言うや、アーチャーは早業で矢を射てきた。一発放ってからの間髪入れずの連射は、さながら西部劇のガンマンのようだ。

 

 狙いは全てアヴェンジャーの肌が露出している部分。すなわち、甲冑やガントレットが無い箇所だ。確実に、掠り傷でも毒を与えようという意図が丸分かりである。

 

「フン……ナメられたもんね」

 

 どこを狙ってくるかが分かっているなら、対応するのは難しい話ではない。アヴェンジャーは鎌を用いて飛来する数本の矢を器用に一凪ぎにて打ち払う。

 

「……! アヴェンジャー、下がって!!」

 

 アーチャーがすぐに次の矢を射てくるが、その際に小さな丸い袋も投擲されているのに気付く。

 

「ハッ! 気付いたところで意味無いぜ」

 

 アーチャーは私がそれに気付くのも計算の内だと言わんばかりに、自信に満ちた顔で、鼻で笑い飛ばすと、小袋を的確に射抜いた。

 矢が小袋を貫くと同時に、中に詰まっていた緑色の粉末が辺り一面へと散布される。あの粉は絶対に毒だ。

 

「……!!」

 

 アヴェンジャーも毒を吸わないように手で鼻と口を塞ぐと、後ろに下がりながら炎で毒の粉末を焼き払う。

 

「隙だらけってねぇ!」

 

 が、毒に気を取られている間に、素早く回り込んできたアーチャーが斜め前方で弓を構えていた。

 当然、回避行動真っ最中のアヴェンジャーは顔だけをそちらに向ける事しか出来ず、頭、腕、内股に目掛けて放たれた凶刃ならぬ凶矢を、致命傷である頭のみを首を逸らして回避するだけで精一杯だった。

 

「あぐっ」

 

 腕と太腿に傷を負い、更にはそこから回った毒のためか、アヴェンジャーは上手く着地出来ずに背中から地面に落ちる。

 

「体、が……動、か……!!」

 

 麻痺毒……!

 私は受けた毒が麻痺毒だと察知するや、アーチャーを守り刀による魔弾で牽制しながら、アヴェンジャーに治療薬を投与する。

 

「おっと。なんだ、アンタそんなもんまで使えるのか。迂闊に手出しするなっての? でもまあ、オレもナメられたもんだ、なっと!!」

 

「!!」

 

 牽制の甲斐も虚しく、アーチャーはアヴェンジャーにトドメを刺そうと毒矢を射る。

 ただ、私は既に治療薬を()()()()だ。故に、

 

「クソがッ!」

 

 自身へと迫り来る矢を、握り直した鎌を雑に振り回し、それを払い落とした。

 

「チッ。解毒が間に合ってたか。んじゃあ次行くぜぇ!」

 

 トドメが刺せなかったと見るや、アーチャーはすぐに毒の詰まった小袋を数個を懐から取り出すと、さっきのように投げてからそれぞれを矢で射抜いていく。

 

 破けた袋は宙で毒の粉末をばらまき、再び空間を、空気を毒で満たしていく。

 

「マスター、口を塞ぎなさい!」

 

 言われ、私は慌てて口元を両手で覆った。幸いにも、毒が広がっているのは前方だけ。後ろはまだ毒の魔の手が及んではいない。

 急ぎ後ろへ下がるが、地味に厳しい状況だ。場を相手にコントロールされる上に、動ける範囲も制限され、戦い辛いことこの上ない。

 炎で焼き払えるといえども、さっきのように不意を打たれる可能性も大きい。

 かといって、動かなければ敵の良い的になる。

 

 さて、この難関……どう突破するべきか?

 

 




 
活動報告にてFGO二周年と、『Fate/EXTRA 汝、復讐の徒よ』のお気に入り1000人越えとUA10万越えを記念(と言う名の便乗)して、先日にFGOユーザーIDを公開した訳ですが……、


それもあってか、最近結構な数のフレンド申し込みを頂きました。


あまり目にする事が少ない場ではあると思いましたが、意外ではありますね。空いてる枠もあと2人しか残ってないですし。
まあ、今はフレンド用編成も夏仕様(イベント終わりかけには戻します)で攻略メインではないので、夏気分を味わう程度のつもりでどうぞ。

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