狂愛闘乱――Chaos Loving――   作:のれん

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悩みまくりな原稿……というか腹が痛い。

皆さん、明らかに腐ったモンを食べるのはよしましょう(自業自得)。


第三話 アルトリアーズ

 かつて世界を覆うほどの大洪水が起こったと記す神話は多い。

 なぜかはわからないが、それだけ人類にとって身近な災害だったんだろうなとは思う。今でも尚、一度起きたら止めることは難しい災害だ。

 自らを潤してくれるはずの水が、そこら辺の草みたいに人間を押しつぶす。そんなインパクトはきっと忘れられないものなんだろう。

 今のおれならそう確信できる。

 

だって、その洪水に追っかけられてるんだから。

 

「変態! 次はどっちだー!!」

「Arrrrrr!」

 

 その声は弁明を求めるかのように切実だが、動きそのものは即時丁寧なランスロット。すぐさままだ水が入ってない通路を見つけ出してくれる。

 水は洞窟を、いや水路を満タンにする勢いでそこら中を走っている。その水量は不明だが、モードレッドの言う通り大きな河川から引っ張ってきてるならおかしくはない。

 奇跡なのか、途中で巨大な岩盤(多分壁が崩れた)が何カ所か防いであったから、少しの間時間稼ぎができるだろうとのことだった。

 

「先輩、大丈夫ですか?」

「いや、なんか疲れてきたけどなんとか」

「流れる洪水に追われているとはいえ、サーヴァントと同じスピードで走るなんて先輩は本当に」

「人間なのか?」

 

 マシュの横入りしてモードレッドが話しかけてくる。ちなみに猛抵抗の末、ランスロットの腕の中という監獄からは脱獄している。

 マシュはいえ違います。私は先輩はすごいなと、などと訂正しようとするが、俺自身少しずつ人間離れしてるなと思ってるぐらいだ。たまにだが人間が火事場のバカ力というヤツを発揮するらしい。

 だがそんな事を言い合っている中、ランスロットが俺たちの動きを制止した。

 

 こんなとき、真っ先に文句を言いそうなのはモードレッドだが、彼女もまた無言で正面を見つめていた。

 

「……マシュ。なにか見えるか?」

「いいえ。しかし、気配は感じます。とても大きな魔力を」

「魔力? ってことは」

「Arther」

 

 明瞭にそれだけ呟くランスロット。狂気をを被っているフリでも、この言葉だけは言わざるを得ないらしい。

 それは純粋で優しく力強い赤き竜の化身。誰もが願った理想の王、騎士王の魔力。

 

「貴方たちと出会うとは、運命は分からないものですね」

「反逆者との邂逅。そばにいるものに免じ今宵の裁きは許す」

「この場において優先される事項はそれではないでしょう」

「当然。先の会議により議長が決まった筈だ」

「ええっと、みなさん。 せーの!」

 

『問おう。貴方が私のマスターか』

 

 総勢5人分。全員から同じ台詞。

 

「あ、貴方たちの名前は……?」

 

 俺からの質問に答える者はいなかったが、その表情と顔の造形から一目瞭然だ。同一人物の別側面からの呼び出し。

 アルトリア・ペン・ドラゴンまさかの5人である。

 

 

 

 セイバー・アルトリア。

 セイバー・アルトリア・オルタ。

 ランサー・アルトリア。

 ランサー・アルトリア・オルタ。

 アルトリア・リリィ。

 以上が全て1人の人物からの派生であろうという。にわかには信じがたい話しだ。

 我がカルデアでもここまで(本当の意味での)アルトリアーズはいなかったぞ。

 だが、彼女たちの視界の隅っこで縮こまりながら、平服するモードレッドとランスロットの姿がそれを証明していた。

 

「それで皆さんは一斉に召喚されたと?」

「そうなんです。召喚された直後に洪水があると直感したのでみんなで迎撃をしようとしたんです。でも……」

「こちらの軟弱な騎士がまずは索敵して、救難を優先すべきだとほざいてだな」

「救出は第一優先事項です。手当たり次第に壁ごと破壊しようとるよりはよっぽど建設的かと」

「いや、違うな。結局は貴様ら剣での出力が足りんのだ。わが聖槍をもってすれば……」

「それも違います。持つべきものは視点です。優先すべきはより優良なものなればこの狭い閉じた世界は必要ないと言えます。不要なものを捨てられない貴方たち自身に問題があるかと」

「それはおかしい」

「いや貴様こそ」

「何度言えば分かるのです」

「黙れ」

「……とこんな感じでして」

「自分だから遠慮無くボロボロに言い合えるってか」

「それでは戦闘などは……」

「いえ、そこまでは。でも議論が平行線だから唯一話しに加わらなかった私がまとめ役として選出されまして。壁を何カ所か小規模に破壊することで合意したんです」

 

 容易に想像できる。

 王としての認識は違えど、皆優秀であることに違いはないのだろう。

 そこでふと、セイバーオルタが平服している騎士たちに言葉を投げかけた。

 

「なにを平伏している」

「はっ、いえ、オレたちは……」

「返事は期待していない。横にいるのは狂戦士のようであるしな。私への謀反の謝罪はどうした、湖の騎士よ」

「オルタ! 貴方は……」

「許せ、と言うのか。軟弱な私よ。騎士王として正しいのはそちらだろう。だが、どんな王であっても叛逆を許すことはあってはならない」

「こればかりは同感だ。槍を持とうと剣を持とうと、理想を貫くのは信仰が必要だ。人心を掌握する手立ては信頼と恐怖。謀反を許せば、あらゆる違反に余裕が生まれ行き着く先は……我らが知る未来だけだ」

「……っ」

 

 セイバーは唯1人立ち尽くしてしまった。彼らの言い分に是があると感じたのだろうか。それを裁定したのはランサーの方のアルトリアだった。

 

「罪を償うのは生前であるから出来る行為だ。我ら英霊に罪はあっても贖罪はない」

「フン、であれば許せと?」

「然らば、我らとの接触と対話をさせなければよい。ランスロット、2人とも(・・・・)この場を立ち去れ」

「Arrrr……」

「ランスロット卿。お願いします。言葉を交わせない貴方に今の私は対話できそうにない」

 

 セイバーの呟きが地下に僅かに響く。それが契機とでもいう風に、ランスロットは即座に立ち上がり、モードレッドを担ぎ上げた。

 モードレッドは抵抗しなかった。

 それよりも彼女にとっての衝撃があったからだろう。拒絶すらされない。反応すらされない。会話も対話も許されない。

 王たちにとって正体不明、理解不能な反逆者。それが彼女の総意であり、モードレッドの絶望の証だった。

 

 

 

 2人が見えないぐらいに離れると、アルトリアたちはその目を切り替え俺たちに向けてくる。さすが王さま。誰かに尋ねられる謁見は慣れっこということか。

 

「アルトリアたち。聞きたいことがある」

「なんでしょう」

「子ども欲しい?」

『…………は?』

 

 全員からの総どん引きである。ハマり声なのが笑いではなく引きつり声を引き出す。

 マシュが後ろから脇を小突いてくる。どうやら端から見ても失敗だったようだ。

 

「質問の意図は計りかねますが、私に子どもはいません。少なくとも後継となる存在は決めていませんでした」

「そうだな、私の治世そのものは王としても長いものではないし、もう少し年を重ねてからゆっくりと後継を選ぶつもりではあった。ブリデンの目的は緩やかな滅亡でもあったからな」

「ええ、モードレッドの件においてもアレは魔女モルガンの策略の面が大きいので」

 

 会話の中でもモードレッドの評価はだだ下がりだ。確かにこれでは会話そのものを拒否されているレベルだと納得できる。

 

「モードレッドって実の息子ってか、子どもじゃないの?」

「それは難しいところです。確かにあの容姿と出生の謎を含めれば、私の血を継いでる可能性は否定できません。しかし、モルガンの魔術によるものなので確証を私は得られていないのです」

「それどころか、まるで口もきかぬ、兜をほとんど外さぬ、と信頼も円卓の中では薄かった。私の世界ではまた姿は違ったが、それでもモードレッドの末路はどこも変わらぬだろう」

 

 王として、信頼もおけぬ魔女から生まれた騎士。正体も分からぬ、信頼も築けぬ、それは円卓の誰もが納得しきれない分からない存在だったということなのか。

 カルデアだとあんなに情に厚いというか激情家なのに。

 

「では娘は? 今回アーサー王の娘を名乗る方と会ったのですが」

「む、娘?」

「なにを言っている。子どもがいないのに娘がいるわけないだろう」

 

 マシュが問うと、オルタが半眼で一蹴する。彼女たちにも斜め上の話題になったようだった。

 

「娘、子ども、後継と。耳が痛くなる話しが多いですね」

「フン、大方ほら吹きよ。意味などない」

「しかし、後継を名乗るとは問題だ。いかなる理由があろうと王の推薦もないまま宣言など、処罰が必要だ」

「もしかしては、娘なのかもしれません」

「えっ」

 

 他のアルトリアたちと真逆の言葉を話したのはあろうことかリリィである。一番最年少である彼女は実感も数少ない。そんな彼女が『娘がいたかもしれない』?

 

「そ、そんなあり得ません! 私に子どもが……」

「ええっ! ち、違いますよ。私が言いたいのは願いの結集かなって……」

「なるほど、その手がありますね」

「おい白いランサー。納得しないで会話をしろ」

「落ち着け黒いの。つまり、人々の願いにより小さな地域の民話の英雄の伝説が肥大化したと言いたいのだろう」

「そ、そうです。私の旅の間でも人の願いで生まれた秘境や怪物はたくさんいました。それと同じでどこかの英雄さんが泊づけのために『アーサー王の娘』っていいだしたのかなって」

 

 なるほど。所謂理由付けってヤツだろう。

 某雑誌とかにもある、なんでコイツこんな強いの? 親父がこんなに強いから血統さ。とかいう話しと同じだろう。民話だか物語でもキャラ付けにすでにある存在を利用したっておかしくはない。

 

「可能性は高い。私たちに憶えがないとすれば、彼女はそういう設定を遵守している、または思い込んでいるわけと言える」

「しかし、排除対象に変わりはない。勝手な後継名乗りは叛逆にも取られかねない」

 

 物騒な話をしながらも、話しが収束しそうになった今。待っていたかのように壁がひび割れる音が大きく響いた。

 時間稼ぎはどうやらここまでのようだった。

 

「マスターたちは脱出を! 私たちが後方を守ります」

「いや、ここら辺全部水で沈むぞ。逃げる場所なんて……」

「大丈夫です。ランサーの私が持つ聖槍ならこの世界ごと穴を開けられます」

「穴?」

 

 ランサーオルタとランサーは2人とも対照的な明暗2本の槍を掲げてくる。洗練された美しい反射光は空まで届きそうなぐらい大きく伸びていた。

 

「元々ここは特異点があるもとで、なんらかの魔術ないし宝具により閉じ込められているようです。最低でも私たちが召喚された時点でもっと世界は広がっていないといけませんからね。」

「故にこの最果てを駆けることのできる聖槍をもってこじ開ける。洪水の方は聖剣に任せるという図式だ。」

「元々からしようとはしてたんですが、敵の正体が掴めなくて。……でも後継を名乗る存在と分かった以上見過ごしてはおけませんから」

 

 リリィの説明で締めくくると、既に水のする潰す音がすぐそこまで来ていた。巨大な怪物がやってくる音。

 いや、あれはまさしく怪物そのものだろう。意志がなく目の前のものを容赦なく破壊する分ドラゴンととかよりもタチが悪い。

 急いでマシュにランスロットを呼び出させると、時間をまたず仲間が集結する。モードレッドも走ってやってくるが、その表情は暗く、会話することもできないだろう。

 アルトリアとの会話は絶望的だ。生前の行いが行いだけに簡単な話ではないだろうが、もうちょっとなんとかできないものか。

 

 そんな思考をしながらもマシュに地味に強く引っ張られ、俺たちはランサーアルトリアたちの周りに集まる。

 その正面には巨大な爆竜水。文字通り、竜がとぐろを巻いて襲いかかるようだった。

 絶望を抱えるしかない光景を打破できるのは竜を滅ぼした英雄において他はいない。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガーン)!!」

 

 騎士の王だけが許された極光の輝きと、暴君が放つ全ての光を呑む邪道たる漆黒。

 だが、その2つの剣は混じり合うことも反発することもなく、まっすぐに重なり水へと直撃。瞬間、巨大な蒸気が無差別に降りかかる。

熱湯そのものの熱さで叩きつけるような勢いを持った蒸気が俺を壁へと吹っ飛ばす。

 

「先輩!」

「任せてください」

 

 瞬間リリィが俺を掴み、彼女たちは宝具の真名解放が完了した。

 

「「――最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)」」

 

 打って変わった水面をすこし騒がせる程度の響き合い。だがそれとは裏腹に槍から放たれた光はなにもかもを貫いた。

 それは俺には見えない。だが微力ながら魔力を持つ未熟な魔術使いとして感じる。アレは制御された爆発だ。

 一方向に指定されるばかりかそれが収束している。ミサイルすら超えるエネルギー全てが槍の穂先から放たれる2つの輝きに込められている。

 それが持つ神秘が俺たちを持ち上げたとき、蒸気の熱さも感じることもなく、俺たちは落下する。

 

「時間を待たず、すぐそちらへ」

 

 だれか、でもアルトリアがそう言ったのだけは俺の耳は拾っていた。

 

 

 

 

 

「……来たわね、みなさん。これで始められるというわけだわ。ヴィヴ・ラ・フランス♪」

 

 静かな王宮のなかで回答者もおらぬ言葉を呟く女。

 18世紀フランス。それが、マスターたちが拡張した世界の先の名だった。

 




アルトリアのそれぞれ、ちょっとずつ違う口調は難しいなぁ

ちなみに今ソシャゲで活躍中のサンタさんは出てきません。なぜって? ユメを運ぶサンタさんがモーさんをいじめちゃうじゃないですか……

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