狂愛闘乱――Chaos Loving――   作:のれん

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またまた遅れてしまいました。

ネタは多いのでエタらんよう、注意していきたいです。


第二話 新たな継承者

「クソが、顔もなにも隠してんじゃねぇぞ」

 

 モードレッドは開口一番に悪態をつく。もちろん、その間に直接戦闘には役に立たないマスターを下がらせ(良い具合に転がってくれた)、剣は既に敵の首を狙う軌道に乗せている。

 騎士としてというより、敵を殺す軍人として当然にして最適な行動。

 

 その言葉以外無駄のない一撃を受けたのは顔の見えない敵の槍だった。大きなマントについたフードを深く被っており、顔全体が隠れている。

 普通なら、被っている側からも見えないだろうが、そこから微かに漏れる魔力からモードレッドは直感した。

 

「正体隠蔽の宝具か……弱ぇヤツの常套だな」

「……貴殿が申しますと自虐にしか聞こえませんな」

「ああん?」

 

 顔の見えない騎士――マント以外は青色の鎧を着ており、正装の騎士といえた――は思いの外敬語で話しかけてきた。低いとも高いともいえない無機質な声。

 聖杯の知識を借りるならば、機械音声というのだろうか? 姿からもだが声を合わせても男か女なのかすら分からない。

だがそれよりも気になるのは、言葉の内容だ。敵はこちらの手の内を知っているのだ。

 

「テメェ、なぜオレの宝具を知っている?」

「貴方の鎧は貴方の存在を隠すもの。貴方の剣は貴方の簒奪の証。私は貴方の在り方を述べたままです」

「テメェ、訳の分からねぇことを……」

「訳が分からぬとはおかしな事を。モードレッド卿の武勇は知れ渡っております。その叛逆の精神は誰もが剣を執って旗を翻すでしょう」

「ほざくな!」

 

 モードレッドは叫ぶ。

 敬語による皮肉にもなってない侮蔑を表す賞賛。騎士を逆撫でするに打って付けだろう。

 モードレッドは槍と合わせていた剣を下ろし、身体を捻って蹴りを繰り出す。バネと踏み出した軸足で間合いを広げた一撃は顔の見えない騎士の脇を捉える。

 敵が少しよろけながらも体制を整えようと、隙ができた瞬間。

 赤い叛逆の魔剣は逃さなかった。

 

「これでも喰らっとけ!」

 

 しかして当たれば大きい上段からの一撃は、その軌跡のなかどれとも当たらず、ただ空を流れていった。

 モードレッドはその一部始終を見ていた。敵のよろけはブラフではない。むしろ隙でしかないはずのふらつきを踏ん張らず、そのまま姿勢を下げることで剣の軌道を避けたのだ。

 

 驚愕は終わらない。

 今度はモードレッドが体制を整える前に、敵が斬り払いを仕掛けた。

 太古から戦の主武装は槍とは相場が決まっていた。一度に大勢の敵を攻撃し、警戒させる斬り払い。決まりのない戦場で真価を発揮できる、槍の真骨頂だ。

 

 だが、モードレッドもそんなことは百も承知だ。逆を言えば、小回りが槍よりも効く剣で出来る対策も身体には染みついている。だからこの騎士を驚かせたのは別のこと。

 敵の武器から放出される魔力。爆発と呼ばれかねない勢い、いや世界を飲み込こまんとする圧倒的な暴力。それはまるで竜の顎のようで――

 

「ま、魔力放出!?」

「はぁああああ!」

 

 思考と肉体は切り離される。脊髄が感じ取る死を回避するため、モードレッドの肉体は全力で回転を始める。と、同時に己に刻まれる竜の心臓も解放する。

 それは偉大なる騎士王から受け継がれる赤き竜の心臓。ギアが等しく繋がり、ピストンが加速し、エンジンが咆哮に酷似した唸りを上げるように、圧縮された魔力が放出される。

 

 敵の正体は依然不明だが、こちらもなりふり構っていられない。この一撃はまともに受ければ、五体がバラバラになってしまうだろう。

 だが、モードレッドの抵抗は嘲笑われるかのように、赤い石が敵の騎士に掲げられる。そこから溢れる赤光が降り注ぐと同時に彼女の心臓からの魔力が止まる。

 

「は?」

 

 まるで、下手くそなドライバーが起こすエンストのような間抜けな浮遊感を感じる。モードレッドは予想もしなかった状態に思考が止まる。

 切り離された肉体も推力を失ったことで動きが鈍る。その鈍感さはまるで時間の流れが止まったかのようで。

 そして、敵が打ち出す槍の突きがモードレッドの胸を。

 

「Arrrrrrrrrr!!」

 

 突きは空中へと流された。竜の敵を屠らんとする灼熱の吐息(ブレス)のような魔力を纏った槍の一撃を。

 そんなことを剣1つでできる戦士などそうそうおりはしない。そう、円卓最強と偽りのない賞賛をうけた誉れ高い騎士。

 

「おいぃ! この変態野郎、勝手に入ってきてんじゃねぇぞ!」

「なっ……貴殿はこの騎士に救われたのではありませんか! それを恥じるならともかく、侮辱など!」

「敵のお前にどうこう言われる筋合いはねぇだろが。てか、このバカには偵察しか任せてねぇよ」

「すみません、モードレッドさん。援護が遅れました」

 

 共にマシュが加勢に入る。マスターも後ろにいるが恐らく介入するタイミングを計ったのだろう。癪だが、良いタイミングだと言わざるを得ない。

 

 しかし、敵は正体を隠すなどその戦い方の割には、思ったより高潔なようだった。それは叛逆にはほど遠い精神で、モードレッドの心を逆撫でする。

 

「テメェの名前も言えねぇ。顔を見合わせることもしねぇ。そんなヤツに卑怯どうこう言われたくないもんだがな」

「卑怯、卑劣は仰る通り。しかして礼儀を尽くさぬのは騎士の名折れです」

「オレはその騎士像に叛逆したヤツだぜ。それにコイツはオレが個人的に嫌ってるヤツだからな」

「ではこの方は……」

「オレの宝具まで知ってんだ。湖の騎士ぐらいわかんだろ」

「…………ランスロット卿。そのお姿は」

「…………Arr」

 

 すまない、答えることはできない。

 などという某すまないさん風の幻聴が聞こえてきそうな、歯切れの悪い声に、心なしか顔の見えない騎士も肩を落としているように見える。

 

「……で、何者だ。名前も言わないで最後までやる気か?」

「いえ、こちらとしても貴殿には聴きたいことがあります。まずは、貴殿に話しを聞いて貰うため、無力化しようと思っただけです」

「無力化……」

「そうでもないと、貴殿から斬りかかるでしょうから」

「Arr……」

「「なに納得した声だしてるんだ(ですか)!」」

 

 マシュとモードレッドの批判が感情表現が鋭い黒騎士に注がれる。最早、彼らの信用度はストップ安に陥り、ゴミをみる目と化している。

 

「……話しを戻しましょう。貴方からモードレッドさんへと話したいこととは?」

「マシュさんでしたか? 簡単です。貴殿の継承の主張を取り下げて頂きたい」

「継承?」

「ええ、叛逆の首謀者がブリデンの後継など不愉快ですから」

「……で、どのツラよこして、くたばりてぇんだ?」

 

 モードレッドが凄む。その瞳は一連の流れで一番の激情がありありと映し出されていた。顔の見えない騎士は左手に掲げていた赤い石を見せる。その赤光は未だ健在で、モードレッドを含めた全員を射貫いている。

 

「貴殿に竜の心臓は使えませんよ」

「それとテメェの首を落とせないのに、なんか関係があんのかよ」

「武術の流れとは、人体から繰り出せる効果的な攻撃が考えられています。型破りなだけでは戦いを制すことはできません」

「フン、説教をグダグダ言うことは武術の流れか?」

 

 モードレッドが否定の言葉を煽る。それは弁舌とは少し違うかも知れないが、扇動に近い人を揺らす言葉の剣戟だった。

 だが次の一言が、傍目から見てもモードレッドの心を動揺させた。

 

「私自身の主張をしましょう。後継は私が名乗り出ます」

「なっ……」

「なぜか? 簡単です。貴殿がブリデンを治める赤き竜の象徴、アーサー王の嫡子を名乗るように。私もアーサー王の娘だからです」

「む、娘?」

「ええ。無論、王位は男が継ぐものですが男装を通した者も歴史にはあります。無能な王が国の大地を腐らせるよりはそれを阻止するのは義務です」

「……ハッ。クソが、ここまで頭にきたのは父上以外じゃ、初めてだぜ」

 

 モードレッドが自嘲気味に呟く。その腕にぶら下がるように揺れる剣が振り上げられた瞬間、モードレッドの姿は天井スレスレに踊り出た。

 

「かき消えろ!」

 

 モードレッドが瞬きの間に振り下ろす剣は、あろうことか音速を超えるランスロットに止められた。

 

「あぁ!? テメェ、アイツの妄言を信じんのか!?」

「違います! アレを見てください!」

 

 ランスロットの代わりにマシュが叫ぶ。その瞬間、モードレッドは激情で塗りつぶされていた直感が鳴らす警報を聞いた。そう、災害という驚異がやってくることを。

 

「こ、洪水です、先輩!」

「分かってる。走るぞ!」

 

 マスターとマシュ、そしてランスロットに抱えられたモードレッドは全速力で駆ける中、彼の敵の名乗りが暗闇の壁に反響していった。

 

「私はアーサー王の娘にして次代を継承する騎士、メローラである!」

 

 その実に立派な雄叫びも流れ込む洪水に飲み込まれていった。

 

 

 

 モードレッドたちが戦闘していた場所から数百メートル離れた某所。離れたといっても、そこも変わらず切り離された地下であることは変わらない。

そしてそこに召喚された彼女らも、特異点による揺らぎの結果だった。

 

「ここはいったいどこなんでしょうか?」

「黙れ。なにがあろうと蹂躙以外ないだろう。……そこの腑抜けは知らんが」

「聞き捨てなりませんね。悪意に飲み込まれた貴方に言われる筋合いはありません」

「少し静かにしろ。誰か、いえ、なにか来る」

「そうですね。これは災害、天の攻撃を再現する類。迎撃の準備を」

「「「……」」」

「3人ともなにをしているのです」

「呆けるな。唯でさえ小さいのだから」

「「なにが小さいと?」」

「……いえ、こちらは馬に乗っているので」

「いえそれ以外の含みがありました」

「全くだ。こればかりは賛同せざるを得まい」

「いえいえ、みなさん! 割れてる場合じゃないですよっ」

 

 他人とも言えぬ、されど別人の5人の会話。影に隠れていたが、知る人が聞けばその透き通る声にその正体に感銘を受けただろう。

 

 まぎれもない騎士王たちがそこにいた。

 




モーさんの三人称の呼びかけって難しい……

彼とも彼女ともいえない繊細な子。獅子劫さんのスゴさがしみじみと伝わってきます。

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