狂愛闘乱――Chaos Loving――   作:のれん

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うーん、リアルが忙しい。
最近気づいたことは忙しいことと充実は全然違うことですね、実感しました。

というわけで、新章開幕です。


モードレッドと王の継承
第一話 でこぼこパーティー


 匂いすら消えてこびり付く大量の血痕は誰かの死を伝える最後のものか。

 薄暗く、消えたはずの死体の幻臭が漂う陰惨な地下。

 殺人鬼の根城、と言われたなら信じる以外ない場所もそうそうないだろう。

 

 俺も最初の感想はそうだった。……がそれは今の光景が見事に破壊してしまっている。

 

「おい、次はどいつだ。このオレに斬られたいバカどもは」

「Arrrr……」

「先輩、先輩。索敵の邪魔になる意味の無い声をまき散らす輩がいるのですが、どうします?」

「あ? うんなもん捨てちまえばいいじゃねぇか。戦う騎士はオレだけで十分だし、さっきからまるで働いてねぇしよ」

「先輩、賛成2です。先輩が賛成してくだされば全員一致なのですが」

「Arrrrrrr……!」

 

 テンションMAXな3人組。まるで旅行気分だ(約1名旅行先で遭難してるが)。

 このメンバーが行動する発端は、やはりいつもの特異点発見から始まった。

 

 

 

「特異点の場所が、分からない?」

 

 いつものように特異点が発見され、ロマンから最低限の情報を聞くブリーフィングが開かれたのだが……

 

「ドクター、説明の補足をお願いします。観測はできたのですから地形や時代が大まかには測定できるかと……」

「いや、普通はそうなんだけどね。今回は、いや今回もかなり特殊でね」

「まぁ、普通だったら特異点が起きないけど」

「そうなんだよねぇ。調べる度に前提が崩れてくって精神に響く……」

「ドクター」

「おおっと、ゴメン。話しが逸れた……今回はどうやら切り離された結界のような世界なんだ」

「結界?」

「そう、影響が強く表れている場所だけが切り離されている。しかもその場所がどうやら地下らしくてね。年代が特定できないんだ。石材があるため、かろうじて西側と思うけど、確定じゃないし、年代も全然分からないし……まとめると、分からないってことしか分からなかった」

「それはなにかの魔術で?」

「人工的な可能性はゼロじゃないけど、恐らく今は特異点の揺らぎがその程度の規模でしかないということだと思う。……正直、ここまで小さい時点での発見は珍しいんだ。普通はもっと英霊たちが召喚されて、時代を変えて揺らぎが大きくなる。そこで初めて異変を観測できるぐらいなんだから」

 

 神妙に語るロマンだったが、後ろに万能という名の引っかき回し屋がニヤニヤしながらやってきた。

 

「ほほぉ、つまり遠回しに自分のこと誉めてないかい?」

「………………そ、そんなわけないじゃないかぁ! ダウィンチちゃんの言うことはキツイね」

「そのどもりとちゃんづけで説得力ゼロなんですが」

「仕方ありません。ドクターの手の回せない所を手伝うも私たちの使命です」

「マシュちゃんは優しいねぇ。じゃあ、今回連れてって欲しい子がいるんだけど……」

 

 いつも通りの読めない笑顔でマシュを誘うダウィンチ。俺に用事はなかったようで、その場はそこで小休憩となった。

 俺はほぼ敵の予測ができないまま、連れて行くサーヴァントを決めていかねばならないが、今回はそれが少し難航しそうだったからだ。

 いつもはやる気があったり、与えられた情報から相性がいいなと思った人を連れて行く。

 

 迷う今回に関しては、1人1人に話しを聞くかと思ったのだが、いきなりやる気がありすぎる彼女、モードレッドと当たった。

 

「おい、マスター。新しい特異点つったな」

「おお、引き受けてくれるかい?」

「たりめぇだ。だが条件がある。オレ以外サーヴァントは連れてくるな」

「えっ?」

 

 一度の特異点で例外が無ければマシュを含め、6人ぐらい連れて行くのが我がカルデアの通例だ。最初の頃やたまに人間関係でそれが3,4人に減ることはあるが、1人だけというのは、多分ほぼない。

 

「もしかして手柄の独り占め……」

「もしかしてなくても武勲を立てるために決まってんだろ!」

 

 モードレッドが怒鳴り散らし、腰に提げている剣が呼応するように光り出す。漏れ出る魔力の奔流。彼女は既に今、敵が目の前にいるかのように興奮していた。その臨戦態勢になった理由を俺はまぁ思いついてしまう。

 

「あー、まさかアルトリ……」

「父上の名を軽々しく出すんじゃねぇ」

「じゃあ、青王」

「……それなら」

 

 カルデアでは通称「アルトリア顔」と呼ばれるほど同じ顔ぶれがある。分かる人には分かるらしいが、誰にとっても呼び名には困るらしいので、そういう俗名があるのだ。

 言い出しといてなんだが、それでいいのか、とたまに思う。

 

「で、またケンカ……というか話せなかったのか?」

「ああ、会話どころか目も向けてもられねぇ。……いや、本当は会った瞬間、斬り殺されてもおかしくねぇし、逆の立場ならオレだってそうする。でも、その、最近は、さ……他の円卓連中も増えてきたし」

「ええっと、ガウェインとか」

「ああ。あと変に隠してるが、浮気変態野郎も」

「いや、それは……事情が」

「とりあえず、ここの空気も悪くなってきた。だが、オレはここで逃げるわけにはいかねぇからな。なんとしても信頼、とまでは言わないけど会話ぐらいは……」

 

 アルトリア・ペン・ドラゴン。アーサー王という存在だった彼女にとって今の状況でさえも、譲歩し尽くした結果なのかもしれない。

 世界のため1人でも優秀な戦士が必要なのだから、円卓に名を連ねたモードレッドの実力は協力せざるを得ない。

だから個人的な感情は押し殺して、良くも悪くも仕事上だけの仲間、という感じの冷え切った関係を続けている。

 だが、それでは納得できないのだ。この大きくて強くて、でも弱くて小さいこの騎士は。

 

「分かった。ただし、マシュともう1人付き合うけどそこは我慢してくれ」

「……チッ。戦闘系じゃないマシュはともかく、オレの邪魔しないよう言えよ。むかつくヤツだと指の握り方がおかしくなりそうだからな」

 

 彼女の言葉は比喩ではない。集中出来ない要素があると、彼女はそれを優先的に黙らせたくなるらしい。

 水着を着たモードレッドが召喚された時など、その悩みを全て吹っ飛ばしたかのような精神の違いようにかなりショックを受けていた。モーさん、とまで呼ばれた可愛さ全開の彼女に、モードレッドは嵐のように暴れ、その後ショックから抜け出すのに1週間かかった。

 

女の子とも男の子とも言えない幼い騎士の心はとても、繊細なのだ。

 

 底知れぬ不安をなんとなく感じながらも、彼女の気骨さを信じて、俺はモードレッドと共に元いた場所に戻ったのだった。

 

 

 

 レイシフト場にはマロンとダウィンチ。それとマシュといつも通りのメンバーが揃っていたが、イレギュラーが1名混ざっていた。

 

「だ、ダウィンチちゃん……その、この人選は如何なものかと」

「大丈夫、大丈夫。見て彼大人しくなったでしょ。」

「Arrrr……」

「大人しくなるクスリを作ったからマシュちゃんもコレを使うといいよ♪」

「全力でお断りします」

 

 そこにいたのはいつも纏っているオーラすら消している黒騎士、ランスロットだった。心なしか肩を落としているようにも見える。

 

「バーサーカーなので理性はありませんし、細かいことは言いません。ですが、ここまで生気を失った彼に戦うことができるのですか?」

「マシュちゃん?」

「今の彼にとってアーサー王への偏屈な執着が原動力なのでしょう?」

「……細かくはないけど、言い方が、そのぉ、キツくない?」

「全くもって公平です」

 

 誰にでも優しい俺の後輩は湖の騎士だけには厳しい。彼女とデミ・サーヴァントの契約を交わす英霊と関係があるのだが、心優しい彼女のキツめの言葉はそれだけでかなり心を抉ってくる。

 案の定、黒鎧に身を固めた騎士は剣に刺されたかのように縮こまらせている。

 思春期の娘の一言に傷つく父親。それ以外にこの姿にハマる言葉を俺は知らない。

 

「クソッタレ。コイツがいるとか聞いてねぇ。手柄が横取りされるなんて我慢ならねぇぞ!」

「落ち着きたまえ、モードレット卿。彼は今、私のクスリで大人しくなっている。君の戦闘の邪魔はしないだろう。ねぇ、マシュちゃん?」

「ええ、唯でさえ切り離されたという狭い地下なのに、そこで暴れ回れでもしたら置いていきます。……なにもしなのなら来ない、という選択もありますが」

「マシュ……それはあまりにもキツイから。ほら泣いちゃうから」

「むぅ、先輩がそういうのなら……」

 

 不詳、不詳というのが聞こえてくるぐらい分かりやすい反応を示してくれる後輩。これは父親どころか騎士としての尊敬の念すらゼロだろう。

 俺は黒騎士に近づく。すでにヤツは膝すら震えている。どんだけダメージがあったんだろうか。と、思ったときには素早く俺にしか聞こえない範囲で威厳なしの湖の騎士は叫んできた(・・・・・)

 

「助けてください」

「ムリです」

 

 俺は感想を聞いてそのまま戻ろうとしたが、その華麗な身体裁きで追い込んでくる。俺に使ってくれるなよ。

 

「即答はあんありでは!?」

「あんま叫ぶなよ。聞こえるぞ」

「いや……そうですね。落ち着きましょう。私も現実の壁の高さに少し、動揺しました」

「絶望だろ、アンタの場合」

 

 そう、このランスロットは狂気に墜ちたバーサーカーではない。セイバー。凜とした精錬な湖の騎士として現界したランスロットなのだ。

 それが、わざわざ黒い鎧を着込んでいる(宝具ではないので認識防止のモヤはそもそもでていない)のは、我が子(のデミ・サーヴァント)と会話するためであった。

 

「正直、ここまでとは思いませんでした。ギャラハッドは辛辣ではありましたが、その力を継いでいる彼女までにも……」

「確かにランスロットと喋るときだけ、多分影響受けてるんじゃないかと思うぐらい、マシュはキツいな」

「彼女はあと10年もすれば美しい妻となっているでしょうに、あのような言葉使いを。息子とはいえ憤りを隠せません」

「前言撤回。あれぐらい軽い方だわ」

「いえ、違います。人の妻となり、その優しさ故に疲れた彼女の介抱を……」

「未来の旦那の代わりに俺が殴ってやろうか!?」

「ハイハイ~2人とも落ち着いて」

 

 気がつけばみんな、俺たちの方を向いていた。

一瞬ギクッとするが、ダウィンチちゃんが簡単な命令なら魔力をエサに聞くよぉ、と説明していた。さすが万能の天才は舌の回し方さえ天才らしい。なんだかんだ解析関係で活躍しているロマンでさえ、信じているようだった。

 

「彼女の協力を仰いでおいてよかった。やはり美人に悪はいませんね」

「その美人で破滅した男はいるけどな」

 

 ランスロットは俺の言葉に、少し肩を揺らして否定してみせる。男の毒舌ではあまり効かないようだった。

 

「じゃあレイシフト行くけど準備は……」

「クソッ。偵察ぐらいに使ってやる」

「はい、その路線で行きましょう。使えなければ……」

「Arrrrrrrr!!」

「ハイハイ! 行くぞ!!」

 

 

 

 こうしてこのパーティーは完成し、今のグダグダに至るわけだ。

 既にランスロットは過去を含めたマシュの辛辣な正論にボコボコにされていた。休憩中の今はすみっこの端に入り込むようにじっとしている。

 マシュもこのときばかりは少し反省したかのような顔を見せるが、その度合いは非常に低い。容赦ない言葉による槍の雨を降らすのを止める気は、恐らく無い。

 今回ほぼ戦闘を任せているモードレッドは静かに愛剣の整備をしていた。見たところ歪みも汚れもないが、己の命を預ける以上、慎重すぎて困ることはないだろう。

 

 ランスロットもマシュも話しを聞ける状況ではない。俺はモードレットの側に座った。

 

「モードレッドはどう思う?」

「は? なにがだよ」

「この場所だよ。なにか手がかりはないかなって」

「そんなこと、オレが知るかよ。オレの仕事は敵を斬ることだけだ」

「でも、それは戦士でも出来る。モードレッドは騎士、それも円卓だろう? きっと敵からなにか掴んでると思うんだ」

「……それはお前の仕事だろう」

「この通り未熟でさ。誰かの力を借りないと立てやしない」

「……フン、偉そうに言えることじゃねぇだろ」

「ああ、命令できる立場でもねぇから、頼んでる。俺の仲間として考えてくれるか?」

「…………チッ。あくまでオレ個人の見解だぞ」

「それでいい。そうじゃないとお前が手に入れた情報じゃないからな」

 

 モードレッドは手を顎に当てて、考える仕草をする。ただそれは10秒も続かず、仕方ねぇ、と繰り出した。

 彼女はこういうストレートかつ自発に任せた頼みに弱い。そういう所は童話に出てくるような騎士っぽいとよく思う。憧れるというヤツだ。

 

「ここは地下だって話しだがそこは合ってる。ただ洞窟とか抜け穴とかじゃねぇ。地下水路だ」

「水路? 水はないし、潮の匂いもないけど」

「バカ。水路だって1年中回ってるわけじゃねぇ。廃止されたり、点検のために水を抜く機会はある。……恐らくだが、ここは点検なんだろうな。乾きつつあるが所々湿ってる石があるし敵が着てた服も濡れていた。潮の匂いがないんなら川から引いてたんだろよ」

 

 モードレッドの説明は観察の結果で得られた情報を繋ぎ合わせた、とても納得のいくものだった。

 激しい戦闘中でここまで読み取るなんて素質というか、王の片鱗を感じる。アルトリアもなんだかんだ腕以外も見込んではいたんじゃないだろうか?

 

「うん、どうした? なんか変だったか?」

「いや、納得できたよ。てか、スゴいな。俺より観察してる」

「なっ……自分の仕事だろ。誉める前に落ち込めよッ」

「悪い悪い」

「…………クソッタレ」

 

 顎を腕にくっつけて小さく罵倒してくる。彼女の分かりやすい照れ隠しだ。だから俺の裾を掴むのも、その一環だと思った。なんせ彼女は結構、根に持つタイプなのだ。

 

「……どうした?」

「伏せろ、マスター」

 

 その一言は腕を引っ張られると同時に言われた。俺は地上でさらに地球に引っ張られたかのように、勢いよく地面とキスをする。

 だが感触よりも先に頭に響いたのは真上から鳴る雷光のような剣戟。

 ビビった鼓膜が震えるのすら止めかける。それは身を守るための逃亡だ。少しも身体は慣れないが、慣れたと意識できる理性が間違いない、と教える。

 

 顔も見えない敵が襲ってきたのだと。

 




ランスロットェ……これ以上下がることがないと思っていたzeroの頃を思い出して泣いた。

お前をいじるネタは我が王だけじゃなかったんだなぁ

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