狂愛闘乱――Chaos Loving――   作:のれん

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 ついに迫るEXTELLA発売日。
 皆さん、購入の予定は?

 もちろん私にはありません(我が家の現役PS2を見ながら)


第四話 摩擦

 クリームヒルトは自身のことを美しいと自覚している。

 それは自惚れでも自信家でもなく、周りの評価を受けた結果だ。他人にほぼ必ず美しいと呼ばれるのに綺麗ではないと否定し続けたら、それは謙遜ではなく遠回しの嫌味に近い。

 最愛の夫に誉められてからはそのことに関しては疑いなどなくなっていった。

 

 だからこそ驚く。自分に匹敵すると素直に思えた女と出会った事実に。

 

 目の前にいる女は長い銀髪を垂らしながら無防備だった。持ち上げることさえできなさそうな巨大な槍を構えようともしない。

 戦闘経験はないに等しいクリームヒルトだったが、これでは彼女から見ても簡単に倒せそうな気さえする。

 

「貴方は……?」

「シグルドを探しています。どこかにいませんか?」

「シグ……いません。ジークフリート、私の夫しかここにはいませんよ」

 

 クリームヒルトは首を傾げながら、会話を続ける。この女はなにをしに来たのだろう? どうして私は、

 

「ブリュンヒルデ! すまないが離れて……」

 

 呪いの聖剣を彼女に向かって振り上げているのだろう?

 

 衝撃。

 普通の人間がその場をそれ以外の表現を咄嗟にするのは困難であろう。目をつぶらないと潰れそうなほどの見えないエネルギーが地面を空気を駆け巡る。

 クリームヒルトのジークフリートより少し小さめの剣――それでも刀身だけで90センチメートルを超え、柄を含めると彼女の胸まで行きそうな大剣だが――は見事な上段からの唐竹割りを放った。

 岩でさえバターのように切り裂くであろう一撃は大剣すら超える巨大な槍によって防がれていた。女、ブリュンヒルデの槍だ。しかも槍の大きさは先ほどよりさらに巨大になっている。

 

大剣と大槍をぶつけるのはお互い今にも消えそうなほどか細い女。その構図はおかしい話しを通り越して謎の恐怖すら醸し出していた。

 

「……なにをするんですか? わたしはシグルドに(あい)を届けたいだけなのに」

「そうですね、ごめんなさい。……でもではなぜここに?」

 

 キリキリキリ…………槍が大きくなる。

 

「それはもちろんシグルドに……」

「ここにはいませんよ。ここにいるのは私が(・・)愛しているジークだけです」

「いいえ、わたし(・・・)が愛しているシグルドはいます、ここに」

 

ギリ、ギリ……槍は一目で見れないほど大きくなり、空間が軋む。

 

「ここ?」

「ええ、ここに」

 

「「死ね」」

 

 2人が同時に呟くと同時、ゴムのように2人は逆方向に弾け下がる。だが息を吐く間もなく、同時に斬りかかる。

 最初に届くのはブリュンヒルデだ。槍の刃先だけで馬車の荷台の大きさすら超えている。その大きさは最早人間が持てる大きさではないだろう。

 だがクリームヒルトはそれに驚くこともなく大剣を掲げると槍に優しく当てて、いなす。しかも流しながら支点として身体全体を槍の上に乗せる。

 

 ジークフリートですら驚く戦い方だ。文明を破壊すると言われたフン族の妻へとなった彼女は彼の死後、強くなっていったのだろうか。

 彼の知らないところで。

 

「クリームヒルト……」

 

 ジークフリートが呟き終わる頃には、クリームヒルトはブリュンヒルデの大槍を駆けて、彼女の目の前まで到達していた。

 しかし、ブリュンヒルデは英雄の命を狩りとるヴァルキリーの1人。戦闘において彼女はそうそう遅れをとることはない。

 大槍を回転させ相手を空中へと放り投げると、避けられぬ距離での投槍を放つ。クリームヒルトはそれを剣の腹で受けるが、その勢いのまま地面へと叩きつけられた。なにかが削られ砕かれる音が響く。

 

 ブリュンヒルデが確認に向かうと、槍は自然と彼女に帰っていく。その様子を一部始終見たジークフリートは、はっとしたように叫んだ。

 

「待ってくれ! 彼女とは俺が話しをつける。だから彼女の霊核には……」

 

 しかしブリュンヒルデは聞いてもいないのか、振り返りもせず自分が起こした破壊の跡へと立った。

 そこには大剣を握りしめ、悠然と立っているクリームヒルトがいた。

 

「なぜ倒れないのです?」

「そうですね。恋敵ならともかく、私のジークを誰かと間違えていくなんて罪にもほどがありますから」

「み、間違い?」

「そうです。どこぞの馬の骨が知りませんが、ジークと間違えないで」

「馬……それは、シグルドのこと?」

「ええ、どこぞの激情に流された女にそのまま殺された間抜けな男ですよ」

 

 クリームヒルトの明らかな挑発が分からない戦乙女ではない。しかして、それを流せるならば、本能すら取り込んで男を愛してはいない。恋に生き恋に死んだ女というのはそういう生き物なのだ。

 

 ブリュンヒルデは息もつかせぬ速度で槍を突く。その勢いは文字通り目に追えぬ早さ。

 雷光を形にしたような神速はまさしく彼女の怒りを、憎しみを表す。

 

 そう愛する男のための純粋な嫌悪(・・)だ。

 

 その槍を避けることもなく進んだクリームヒルトを刺しながらも刃先は貫くことはなかった。まるで紙で出来ているかのように彼女の服を伝って流れていく。

 

「えっ」

幻想大剣・怖姫堕落(バルムンク)

 

 そう彼女が呟く、静かな解放が振り下ろされる刃の合図だった。

 

 

 

 人を超越するのが怪物の使命ならば、英雄の使命とは怪物とすらいえる存在の打倒にある。

 ではどうすれば怪物を倒せるだろうか。武器、術、数、技……種類は豊富だが、1つだけ言えることがある。

 それらは人へと向けるには強すぎる、ということだ。

 

 人類最後かもしれない俺にとって、燕返しとはすなわちそういう技だった。

 

「秘剣――燕返し!」

「グラァァァァァァ……ッ!」

 

 骨でしか構成されていない竜が一瞬でバラバラになっていく。元々、その名の通り燕を斬るためだったらしいが、アレを斬れるなら車でも余裕で斬れそうだ。

 と、そこで小次郎がなにやら神妙な顔つきを見せる。経験則で分かる。アレは不満顔だ。

 

「なぜ、こうも歯ごたえがないのか。かの竜に近しいと感じるのだがな」

「そこの侍、貴様は戦うのか楽しむのかはっきりしてほしいものだな。それも貴殿の愛する風流か?」

「敵という命を持つものと真剣のやり奪りをするのだぞ? それこそ磨きに磨いた剣技で望みたいもの。これは風流どころか戦士としての嗜み程度よ」

 

 ハサンと小次郎が嫌味なやり取りをする。2人は浅はかならぬ因縁があるのかと思うが、生前の繋がりはまったくないらしい。

 特に小次郎は「なぜか分からぬが、彼をかるであで初めて見たとき、紫色の髪をした少女を探してしまった」と意味不明の言葉を吐くくらい、変な意識をしているらしい。

 

「先輩、ドクターからの通信によると、ジークフリートさんは前方約4キロ先の洞窟内だそうです」

「よし、ハサンはマシュをお願い。走るぞ」

「御意」

「えっと、先輩は……」

「ん、俺がどうかした?」

「いえ、えっと、そうではなくて……」

「なるほどさしずめ、主殿に抱えてほしいと」

「そ、そんなわけっ……!」

「いや~、その、マシュを傷つけるわけじゃないんだけど、やっぱり大の大人に近い女の子を抱えて全力疾走はつらいというか、着いた瞬間息が持たないっていうか……」

「ち、違います違います違います-! わ、私は先輩の体力を心配して……そう、そうです私が抱っこしようかなと!」

「ええ~ホントにござ」

「いや、なにをしているお前たち」

 

 ハサンの台詞に一気にテンションを戻される。

 

「あ、えっと」

「魔術師殿の命が決まったのなら迅速に行動するのがサーヴァントの努め。阿呆極まりない言葉は戦いが終わった後にでもするんだな、侍」

「ではいかに迅速に行動できるかでその者の真価が量れるというものだな、暗殺者」

 

 言い終わると、風のように飛び去る影。2人の影はみるみる小さくなっていく。ちなみにハサンは命令通りマシュを抱えていた。

 

(おーい、君だけ向かってないぞ? 状況の説明を……)

「今すぐ向かう!」

 

 全力で走る。

 恐らくというか、冷静さを忘れてはいないであろう2人はきちんとスピードを調節しているらしく、俺でもギリギリ(本当に)だが2人の後をつけられた。

 というか明らかにカルデアでの生活で筋力ついたな、俺。

 

 4キロ近い距離を陸上選手以上の速度で(多分英霊的にはそこそこ早い程度)進みついた洞窟は目が慣れるまで時間がかなりかかるほどの暗闇だ。慣れたあとでも細かいところとなるとほぼ見えない。

 

「真っ暗すぎてなにも見えない……マシュは?」

「私はデミ・サーヴァントなので視力も強化されています。おかげで見えますが先輩も心配ないですよ」

 

 聞き返す前に、通信の光が強くなり辺りを照らす。特に前方へはちょっとした照明レベルだ。

 ロマンに感謝した時、洞窟の壁が急に遠くなった。

 

「奥は広場になってたんだ……」

「先ぱ……っ」

 

 マシュの大きくは無いけれど悲痛さ極まる言葉が、洞窟の反響なしで俺の鼓膜に届く。

 その先には……

 

「お久しぶりですね」

 

 クリームヒルトが俺の目の前で大剣を振りかぶっていた。

 




 中々進まない……

 ちなみに俺はブリュンヒルデ大好きですね。性格もそうですが中の人的に(作中の扱いが良いとは言ってない)

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