書き続けるというのは難しいと痛感します。まぁ、ぼちぼち書いたり、ブレイブエリちゃん育てていきますか!(←遅れた原因)
忘却の果て。
その先にあるものとは希望でもなんでもなく、ただひたすらと絶望があるだけである。
そう、私が気づくのは遅かった。とてもとても、でも仕方ないことに運命は決まっていた。
なにより彼が受け入れていた。
では、貞淑な妻はそれを受け止めなければならない。
愛を語るなら、思い人を信じなければ。
好きを伝えるなら、覚悟を決めなければ。
炎の景色、鉄の匂い、そして血の味。
全てを愛おしいと受け止めて、貴方に会いに行きます。
それが、私
また夢だ。
しかも、さらにも増して過激になっているような感じさえある。
「つーか、輪郭がぼやけてないか、あれ? なんか2人以上の視点をムリヤリ同時に見せられてるような……」
『ほう、それは興味深いね』
「…………」
『………………………………ハッ』
「は、じゃねぇだろ! ロマンさんよぉ!」
小屋を飛び出して辺りを見回すと、通信機から朧気ながらホログラムらしいゆらぎが見えた。
ゆっくり詰め寄って俺は詰問する。
「いつからだ?」
「ええっと……君が気絶してたころにようやくカルデアから発見できたんだ。そのときには一緒に飛ばされたジークフリートも観測できたんだけどすぐいなくなってね」
「絶妙に役に立たないタイミングで来ますね」
「うう、その通りだけどストレートに辛辣だね。……マシュにも言われたよ」
「二度言われたんなら忘れないでしょ?」
「年上の威厳、どこで消えたのか……」
「いや、初対面からあんまり……じゃなくてマシュはもう向かってます?」
「ああ、もう送ったよ。他のサーヴァントたちも既に何人か送っている。君とすぐ合流できるはずだ」
よし、あの夢以外はなんとかなりそうだと、自分のことについてはひとまず把握する。あとはジークフリートだ。
「ドクター、ジークフリートの妻クリームヒルトの伝説を教えてください」
「今回は彼女がか……ぼくは伝承しか知らないけど、彼には複雑な思いがあるはずだ」
「複雑?」
ロマンの言葉は含みがある。こういう時、もっと英雄譚知ってなきゃダメだな、と毎回思う。
「彼女は竜殺しを既に為した後のジークフリートと出会うんだが、そのときに彼女の父親、つまりは一国の王に頼み事をされるんだ。
とある国の女王と結婚したい。だがそのためには彼女と決闘して勝たねばならない。そんな条件を掲げるぐらいだ。もちろん彼女はめっぽう強かった。それの手助けをしてくれたら娘の結婚を許そう、と提案したんだ」
「そ、それでジークフリートも王様も結婚を?」
「そう。当然この内容は女王どころか最重要機密さ。知っているのは国王、ジークフリート、そして娘のクリームヒルトだけだった。でもね、既婚者同士の会話ってのはね、大抵自慢話は愚痴かって相場が決まってるんだ」
「いや、アンタ独身だろ」
話しのコシを折るにしても突っ込まなければならないときは突っ込む。そうじゃないとボケがかわいそうだ。
「いや確かに独身だけどボケじゃないよ!! ……いかん話しがそれた。
とにかく互いの夫自慢から始まった口論でクリームヒルトはうっかり機密をもらしてしまうんだ。その後、女王の奸計によりジークフリートは殺された。……かの竜殺しのことだから恐らくは命を差し出した、というのが正確なんだろうけどね」
「物語はそこで終わり?」
「いや……まだ続きがある。というか、彼女の物語はそこから始まるのさ」
その瞬間、俺の背中が震えた。背骨を通して冷たい音が全身に響く。
「ん、どうしたんだい? 温度とかは観測上、そこまで低温じゃないけど……」
「俺が振りかえった先を見れば多分わかる」
そうして俺は振り向く。俺としても推測は間違ってほしいのだが、この振動には聞き覚えがある。
大地を荒々しく踏みならし、大気を空間ごと揺らす。存在そのものが生物の枠を超え、神秘の体現するある種の化身。
竜が、それも白骨の竜が、カタカタと音を立ててそこにいた。
「ドクターからの命令だ。……逃げて」
「言われなくてもやるけどッ、ムリだろ!?」
白骨をたたいて鳴らしていた翼の骨がピタリと止まると、ぐるんと一回転する。
展開が分かった瞬間には、俺は走っていた。アレが殺到するのだ。
だが鳴らしていたときとは違い、骨は音を立てなかった。空気すら音を立てず、骨は俺の視界全てを覆い尽くした。
不気味な沈黙を続けながら、翼の骨は地面へと食い込んでいく。スカスカだった骨は歪な変形を遂げ、牢獄のように逃げ道を防いだ。
『この竜は、彼女の使い魔なのか!? だとしてもそんな伝説はないし、骨だけの竜だなんて聞いたこともない!』
ロマンの台詞にも応える余裕もない。
たかが経験を積んだだけの人間。何度危機にさらされようと、一度の失敗で俺は死ぬ。
だが、分かる。アレに俺は会ったことがある。
だから俺は対処できる。俺は1人じゃない。
白骨の口が裂かれたかのように一気に開いた瞬間、俺は令呪を全て解放した。
「来い、俺の竜殺し!」
森を塗りつぶす白光。その光にひるみもせず迷わず向かう竜の牙。
だが、俺に届く前に、それこそ音も無く斬られた。
その場に佇むは、無骨に、だが堂々と塞ぐ盾。
「大丈夫ですか、先輩っ」
光すら吸い込む闇色の短剣。
「魔術師殿には爪1つ届くこと叶わぬと知れ」
鈍色に輝く刃。
「奇怪とはいえ、これも竜――斬りがいがあるというものだな」
かつて墜ちた聖女が荒らしたオルレアンの地で数多くの竜を屠った
それが今再び、令呪によってだが、俺の元へと集まったのだ。
「……しかし、魔術師殿も無茶をする。いくら回復するとは言え、元々それは我らを服従させるものなのですぞ?」
「そうでもしなきゃ、竜には勝てないさ。それに……」
俺は言葉を句切ってマシュを見る。俺の無事を確認した彼女はすでに盾を構え、攻撃に備えている。その意志を表すかのような隙がない防御に竜も派手に動けずにいた。
「ええ、先輩と絆を深めた方々です。いまさら裏切るなどあり得ません」
「まだ主とは酒も酌み交わしておらぬのだ。この程度の前座で退場など私が困る」
彼らの自然にも関わらず全幅の信頼を据えた台詞に、俺の眼前の恐怖が薄らいでいく。
そこでやっと俺は彼についても聞いた。
「マシュ。他のサーヴァントもここに来ているか?」
「はい。私とほぼ同時にレイシフトした方がいます。それ以降の人数はドクターに聞かなければなりませんが……」
「いや大丈夫だ。……ドクター、そのサーヴァントにジークフリートを見つけたらすぐ報告してあげくれ。俺たちよりもつくのは早いはずだ」
「え!? あ、そ、そうだね。うん」
ドクターの変な返しの真意を聞くことよりも俺は目の前の戦闘に集中した。命取りになる要因を外すのは基本だし、そんな大した理由ではないと踏んだからだ。
だから俺はその後に続く言葉を聞き逃した。
「いや、多分なんだけど……ぼくより見つけるのは早いんじゃないかな、彼女」
濡れた赤黒は血ではなく鉄だ。
目が見えぬ暗闇で匂いも音もまったく動かない。
そんなものよりも、
触りもせずとも舐め回されるように感じる悪寒。
暗闇に眠る冷えた鉄が命の熱を奪っていく。
それを時間の認識も忘れ、永遠と続けられていく。
分かっている。これは唯、ひたすらに己に向けられる
(僅かながら英雄などと呼ばれる程度には胆力をつけておかなければ、ろくでもない竜殺しなど発狂していただろうな)
自己を貶しながら周辺の状況を掴むジークフリートだったが、その顔には焦りの色がありありと浮かんでいた。
それは隠すこともできず、隠してもいけない。彼女の前で己を偽るなど言語道断。
「そうであろう、クリームヒルトよ」
「いえ、別に虚言など構いませんよ?」
それは前にいた。
正面。気配すら感じさせず、戦士の前に立つ姫。
ジークフリートは二重で驚く。
前に立つ姫、それに直前まで気づかぬ自分。そして、姫を前にして無意識に膝を曲げ、頭を下げている自分にだ。
「……な、これ、は」
「これでも私は貴方に会うまで引く手あまたの絶世の美姫でしたのよ? 本来なら、戦士に嘘など
誰もが婿にへと、恋い焦がれた。ジークフリートもまたその内の1人。自ら出向き求婚したのだ。
当然、それに魅惑の術があるのなら操作されてもおかしくない。
「昔は自制していたのです。操られる恋など願い下げですし、誠実な貴方には縁遠きもの。実際、あの時まで私は使おうとすら思ったこともなかった」
「……クリームヒルトよ。お前の願いは、なんだ? その刃で果たしたい復讐は俺の心臓にあるのだろう?」
ジークフリートはただ海しか見えない世界に置き去りにされた感覚を感じていた。
復讐。それは己を含めた全てを崩壊へと導いた元凶。その原因たるジークフリート自身を殺すことが目的だと、刺された時点で確信していた。
だが、どうやら彼女にそんな意図はないらしい。
状況もわからぬまま、子供ように漠然とした不安を抱え質問をぶつけるしかなかった。
「そもそもおかしい話しです。なぜ私が夫を殺さねば? やっと再会できた最愛の存在に……もしや、ジークは私といたく、な……」
「そうではない。ただ、お前は俺を憎悪し、それに身を委ねるであろう理由がある。俺はお前の人生を破滅させてしまった……誰1人救えずに」
「その後起こした全ては私の人生です、ジーク。貴方は責任を感じる必要はありませんし、私が許しません」
毅然とした姿でジークフリートを見つめる瞳は生前の姫と同じ。いや、それ以上の女王と呼ぶべき気品ささえあった。
夫と別れた後にフン族の王、アッティラの王妃となった彼女。そこまでの権力を手にして彼女は復讐を誓った。その覚悟は死した自分には一生理解できない。
「す、すまな……」
「その言葉を聞き飽きました。……ジーク、生者は己が人生を形作りますが、死者にその必要は本来ありません。私は貞淑な妻になろうとした。貴方は……正義の味方になりたかった。それで良いではないですか。死者が生前の望みを持つなど詮無きことでしょう?」
「それは……今のカルデアでの戦いを捨てろという意味か?」
「カルデアというのですね。ええ、どこだろうと興味もありません。ただここにいてくだされば」
クリームヒルトは流れるように、当然のように要求を繰り出す。自然、薄く唇が弧に描かれているのは、目の前の男が断わらないと知っているからだろうか。
「私は悪い女です。でも貴方ももう必要以上に目に見える人を救おうとしないで。死者として消えるまで一緒にいれれば……」
「人理が崩壊すればお前も俺も消滅する。それでも構わないのか?」
「構いません。そもそも死者同士が会うというのが奇跡です。奇跡とは夢と同じいつ消えても良きモノ。泡が弾けることを防ごうとすら輩がいますか? そんな要らぬ心配をするより、果たせなかった、手に入れられなかったことを優先すべきです! そうでしょう!?」
ここにいて初めてクリームヒルトの荒れた声が響く。
彼女の願い。それは最愛の夫との生活。ただ自前の料理すら交わすことはなかった。英雄といえど、夫といえど立場が消えるわけではない。
ましては竜殺しと呼ばれたこの身体は常に戦場に立っていた。彼女と会っていた時間はどれだけあっただろう。どれだけ己の感情を伝えていただろう。
それを退け、誰1人救えず死んだ男に妻の奇跡を断る権利があるのだろうか?
「俺は、だが……」
「っ! ジーク、伏せて!」
彼女の叫びが響くと同時、周囲が爆音に包まれる。周囲が狭いのか爆撃の密度が高くジークフリートは目の前の妻を見失い、身体が軽くなるのを感じた。
「くそっ、くそっ。いったい誰が……」
「そこに、いるのですか?」
クリームヒルトが煙の先に行くと、敵は隠れもせずにいた。
白い、そうイメージさせる特徴的な長髪を垂らしている女。身の丈すら超える大槍を重そうに抱える姿は、振り回すどころか持って動くことさえ難しいだろう。
だが、そんなことはクリームヒルトの眼中になかった。
クリームヒルトは理解した。コレはあらゆる意味で己の敵だと。
「ああ、シグルドは……どこ?」
ぐだ男「それって一番ダメな人選じゃあ」
ロマン「」
マシュ「返事がありませんね。ただの」
微妙にダメ男「屍じゃないよ!?」
大丈夫、ロマン。
お前の評価は数々のイベントとキャラクエで分かっているから(遠い目)