最近、無性に格ゲーがやりたくなります。
フェイトのアンコだとランサーとアサシン……という最強格か最弱格しか使わないのに強さは常に安定しています。
この意味が分かるな?(言わなくていいです)
すまない。
今日も紡がれるその言葉。彼は何かある度、そう言って許しを請う。
別に謝る必要も、頭を下げる立場でもない。
でも彼は必ず、本気で自分の行為を罪として受け止め、償いのために謝る。その謝罪には一切の妥協もない。
故に誰もが彼を英雄と呼び、讃えた。非があれば誰にでも下げられる頭の重みは永劫変わることも無かった。
だが、その言葉が最も向けられた者はその言葉を一番嫌っていた。
地位も名誉も、強さも勇気も、なにより謙虚など、誠実などと!
そんなものいらない。必要すら無い。
求めるのは、そばにいる、という事実。
なにもいらない。そう、なにも。
だから、もう……
その言葉が向けられた先は……
日に当てられた影の揺れが眠気をざわつかせていく。
「…………こ、ここは?」
「気がついたようだな、マスター」
「あ、ああ。ジークフリート」
「どこかの特異点に飛ばされたようだ。正確な時代は分からんが、マナの濃さを見る限り現代より千年以上前だ。俺のいた時代と似た雰囲気をこの森から感じる」
「せ、千年? ……ずいぶん昔に来たなぁ」
「む、俺は君がマシュが近くにいない事に驚くものだと思っていたが、以外と動じないのだな」
「そりゃあ、いつも一緒ってわけでもないしな」
予感はしていたのだ。
マスターとなっている俺は、自前ではないとはいえ魔力の供給のため全てのサーヴァントとパスを繋いでいる。
それの作用の1つとして、近くにいるサーヴァントの夢を見ることがあるのだ。
すまない、などというワードを頻繁に使うのは1人しかいない。
「あれ? でもあの視点は俺のじゃあ、ないよな」
では、あれはいったいだれの思考だったんだろうか?
「思案中にすまない、マスター。だが、何か来る」
「なっ」
サーヴァントの警告は一般人にとって戦闘を無事生き残るための命綱と等しい。
なにがなんでもその金言に従わなければ、待っているのは暗い絶望だけだ。
すでにジークフリートは大剣を構えている。下段へと下げているものの、その構えはあらゆるセイバーたちのほとんどが「隙がない」と言わせる。
俺とどこぞのDEBUにはさっぱりだったが。
「しっかり俺の後ろにいてくれ、マスター」
「分かってる。分からないことだらけなのは慣れっ子さ」
俺の台詞が言い終わった瞬間、近くの木の葉が揺れる。なにかが草をかきわけ――いやだれかが、だ――近づく。
俺でもわかる。じれったいぐらいにゆっくり、でも震えるぐらいに素早く。蛇のように、鷹のように、首を落とす刃のように。
いるのはヒトから外れた、化け物だ。
「…………あ、あの」
「……」
「………………」
人影と同時に姿を現したのは1人の美女だった。
艶のある黒髪をなびかせ、翡翠色の瞳が悲壮ささえ感じさせる。
近寄りがたい高潔な美しさと、支えなくてはと使命感にすら感じさせる脆い雰囲気。矛盾した思考が世の男を惑わせるであろう美貌だった。
サーヴァントなどという特殊な人物ばかり見ているが、美女にはなぜか飽きない。彼女もまたその容姿のみで国を傾けられそうな、罪ですらある美しさを持つ女性だった。
そんな美女が木で編んだバスケットを片手に恥ずかしそうにしている。さっきまでの思考をぶん殴ってやりたい。
まさか男に会うだけで恥ずかしがる初心な人だったんなんて……アレ? なんか見ている方向に違いが……
女性の視線は俺よりも若干高く、その先はとある大剣を持ったまま呆けている男へと寄せられていた。
そのとき、魔剣にして聖剣を手に執り竜殺しの異名を誇る大英雄、ジークフリートは一般人たる俺の10倍は隙だらけだった。
「クリーム……クリーム、ヒルト……!」
ジークフリートがそう叫んだ瞬間、美女はバスケットを放り投げて、彼に抱きついた。
「ああ、ジーク、ジーク! 会いたかったわ、本当に」
「つまり、あれがアンタの奥さんということで?」
「ああ、そうだ。……すまない、なんか蚊帳の外にしてしまって」
「さすがに夫婦水入らずの空間に茶々はいれないって」
ジークフリートと奇跡の再会を果たしたというクリームヒルトは、その後彼女が住んでいるという家に連れて行って貰った。
なんでも彼女も既に英霊らしく、なにかに召喚されてしまったのだという。いわゆる特異点の揺らぎというヤツだ。
仕方ないので、見た目からは想像もつかない生活力で家まで建ててしまったらしい。
そうして今、その家の部屋のリビングで彼女特性の料理を作って貰っている最中なのだ。
「召喚されてからすぐに他人に家まで建てさせるとか、どんな交渉したんだ……?」
「彼女によれば、近くにすむ村人に協力させたようだが、確かに……奇妙だ」
「い、いや。俺はすごいな~って思っただけで、別に他意があったわけじゃ……」
「いや、そうではない」
ジークフリートのその言葉は真剣にこれまでの話し全てに疑問を投げていた。英雄は力だけでなく知恵も持たねばならない。
こうなると、俺なんかは話しを聞いていた方が良い。
「彼女は言ってはなんだが箱入り娘だった。仮にも一国の姫だ。料理はおろか家事など絶対してはいけない。下々の者との会話などもってのほかだ。もちろん例外はあるが、少なくとも彼女は真っ当な王族の思考の持ち主であったし、姫の鏡のような人だった」
「……彼女は嘘を言っている?」
「そこまでは。……だがなにか含みがあると思う。少なくとも彼女は俺が知るクリームヒルトよりも態度が砕けている。以前なら、俺のことを呼び捨てでしかも略称で『ジーク』などと呼ばなかった」
「ノロケですか?」
「マスター……真面目な話しだぞ」
声が曇りを隠すことも無くなってきたのがジークフリートの苦しさを表している。なんせ彼は悩んだり、自分を責めたりするときはいつでも本気だ。しかも今回は身内がらみ。かなり堪えるだろう。
「難しいけど、まぁあまり悩まなくても良いんじゃないかな? まず旦那が信じないと始まんないだろ。疑うのは俺がやるし」
「マスター、あなたの気遣いは心にしみる。だが、彼女には俺を恨む権利とそれに足る理由がある」
ジークフリートはなんの気負いもなく、でも同時に煙に巻くわけでもなく、ただ淡々と事実を語るように言った。
「俺は彼女には謝りきれない罪を犯した。だれよりも俺を敬愛してくれていた姫、クリームヒルトに、俺は」
「呼びましたか?」
「うわぁ!?」
叫んだのはもちろん俺だ。今の会話を聞かれていたらマズい。普通はサーヴァントが注意して聞き耳立てていれば、アサシンでも無い限りバレないのだが……
「……すまない、マスター」
聞き耳全然出来てなかったみたいだ。
「お取り込み中でしたか? お食事が出来たので運ぼうと思ったのですが……」
「へ? ……わ、分かりましたっ。大丈夫ですよ」
「あ、ああ。クリームヒルト、料理が出来たのなら運ぶのを手伝おう」
「いいですよ、これぐらい。今持ってきましたし」
クリームヒルトがそう言って出したのは、ホワイトシチューだった。湯気がもくもくと立っているがそれが逆に匂いを部屋全体へと循環させる。具材もぱっと見てジャガイモやにんじん、臭みのない肉が使われていて、まるで現代食のような香りを漂わせる。
恐らく、聖杯からの知識を使用しているのだろうが、それでもこのレベルは驚く以外にない。
「これは……クリームヒルト。これを君が?」
「そういえば手製の料理など振る舞ったこともありませんでしたね。互いに滅んだ身ですが、再会の晩餐が妻の初手料理というのも悪くないのでは?」
彼女がにこやかに微笑むと、ジークフリートはまるで少年のようにほほを紅く染めながら口元を綻ばす。
見ていて恥ずかしくなる甘酸っぱい光景だ。
全くシチューは人肌より少し温かいぐらいでぬるま湯みたいな温度なのに、胸焼けしちまうぜ。ん、ぬるま湯? おかしいさっきまで湯気が出てくるぐらい「マ……タ」熱かったのに。
え、っていうか俺声が出てる? いや出てない? とにかく喉がカラカラだ。体も部屋もおかしい。なんでジークフリートは横に倒れて「……sタ」い、ル?
なにかが激しく倒れる、音。誰かの声? 分からない。分からない、あの剣は……赤い朱い紅い、血だ。
「クリームヒルト……殺すのは俺、だけに」
「殺しませんよ。愛する人をこの手で殺すなどと出来るはずもありません。当然でしょ?」
クリームヒルトは竜の鎧から剣を引き抜く。するりと抜けるその刃は彼の大剣と同じ輝きを煌めかせていた。
即ち呪いの聖剣、バルムンクだ。
登場しました、オリ鯖。
次回以降、考えたステータスとか書くかも