というか同列進行だから、中々進まないですね……
夕日の赤は何を想起させるだろう。
それは青春だったり失恋だったり、あるいは望郷かもしれない。
モードレッドにとっては血だった。それも滴るような鮮血では決してない。留まること無く流れ出た命の灯火。それが赤黒く固まった冷たい血。
自身の最後の戦場は夕日の下でそれに地面が覆われていた。誇り高き騎士たちの骸の山。その上で剣を突き立てる王。それは凱旋に酔いしれるのではなく、心を凍らせるため。
その光景は叛逆の騎士にとって忘れられない世界だ。
「さすがにこの光景は貴方の心でも思うところがあるようですね」
言葉を返すこと無く振り返る。その先には会いたい敵がいて、見たくもない顔が目に入る。
メローラ。
アーサー王の娘云々が嘘だということがバレていることは知っているのだろう。でもなければ、その明らかな茶髪の髪を堂々と出しているわけがない。
「単刀直入に訊くぜ。お前の目的はなんだ?」
「……私はただ聞きたいだけなのです。この惨劇がなぜ起きたのか」
「歴史家か何かか? ランスロットの馬鹿がやらかして、国が割れて、そしてオレが叛逆して……国が滅びた。それだけだ」
モードレッドは切り捨てるように言う。彼女は起きたことに思うことがあるにしても、その事実を探求するような研究者目線の感情は持ち合わせてはいなかった。
だがメローラはそれを否定するように頭を振る。
「私はそのような道筋を聞いているのではなく、ただ貴方の叛逆の意図が知りたいのです」
「なに?」
「私はかつてブリデンの騎士でした」
その一言がモードレッドの呼吸を止めた。思考するまでもなく目の前の少女の真意にたどり着く。
ブリデンの、王に仕えた、誇りある騎士。つまりこの女はこの丘で。
「1兵士で、地元で多少の冒険をした私は、後世の別の地方からの脚色で我が王の娘にして、ローランなどという騎士の嫁になったとされました。何一つ真実ではなく、この力も仮初めのもの。……でもこの恥ずべき力を持ってでも、この丘で死ぬまで王に仕え続けた1人の騎士として、どうしても問わなければならなかったことがあった……!」
「お、お前……」
メローラは背中に差した槍を取る。その瞬間、槍は魔力を発露させ、騎士の髪は煌々と巻き上がる。
夕日は永遠に下がらず、時が止まった世界で吹き荒れる嵐。それに呼応するように別の嵐が沸き立った。モードレッドではない、透き通るような心のない色の嵐。叛逆の騎士から見る倒すべき『心が分からない』王。
「父上!? ここはオレの世界じゃ……」
「貴方の世界だからこそです。大切なモノを忘れさせる宝具。……つまりこの世界は貴方に我が王を忘れさせる世界なのですよ。」
モードレッドが遅まきながら剣を構える。だが、どうしたって笑ってしまうぐらい腕が、身体が、いや心が震えてしまっていた。
初めて敵を目の前にして、怒りでも、高揚でもなく恐怖を感じた。
「我が名はメローラ。叛逆の騎士の真意を知り、ブリデン不滅の栄光を。そう、
その名乗りから戦争は始まった。
一見なにもない空間にしか見えないが、よく見ると薄い膜のようなものが漂うに感じるのが分かる。これは現実の空間どうしの境界に穴が開いてる証拠、というのはダウィンチちゃんの言だ。
「恐らく固有結界の亜種の1つ。生前魔術師でもなく、強大な魔力も持たなかった一個人であるが、鉄の心を持って何十年もかけて編んだ心情の結界……ということですね」
『要約するとそうなるね。まとめありがとう、マシュちゃん』
「そこまでしてやることが大切な気持ちを忘れること、か。俺にはまだその気持ちを理解してやれないな」
「先輩、それは正常な感情だと思います」
「そうですね。精神性を無視して相手の感情に寄り添うことだけが優しさではないと私も思います」
マシュとリリィがフォローというか、同意をしてくれる。
基本的に一般的な日本人の生活をしてきた俺にとって過酷な世界で生きていた人への共感は難しい。だからこそ彼ら彼女らを『人』として見るのがマスターとしての役割だ。
「でもなぜ送り出してしまったの? 貴方の言い分も分かるけど、急ぎすぎだと私は思うわ」
マリーが訪ねてくる。『2人なら帰ってくると信じている』だけじゃ、彼女は納得できなかったらしい。戦闘の要だった2人を共に敵地に送るのは確かにリスキーだ。現にあの時俺以外は反対の姿勢だったしな。
「俺がそれ以外を考えてると?」
「思ったわ。だってそのぐらい考えてないと、ここまでたどり着いてないんじゃないかしら」
「手厳しいな。俺が唯のバカの可能性もあるよ」
「ふふふ。お馬鹿さんなら底抜けたお馬鹿さんじゃないとダメね」
「誉めてるんでしょうか……?」
マシュが真剣に考え込み始めた。こうなると彼女は他の考えを出すまで止まらない。仕方ないので俺は自分の考えを出すことにした。
「いや、さっきルイズたちが言ってたじゃん。自分たちは呼び出された、って」
「呼び出した人が分かったということですか!?」
「いいや、リリィ。それをここから見つけるために俺は戦うように言ったんだ」
「つまり、黒幕がこの戦いを見に来ると?」
「その可能性はあると思うんだ。前回のクリームヒルトに手を貸した人と同一なら目的はカルデアにあると思う」
「カルデアの殲滅でしょうか?」
「それなら直接殴り込みに来たり、俺を狙うと思うんだけど、そうでもないしね。もしかしたらサーヴァントの捕獲とかに目的があるのかもしれない」
『面白い意見だね。それなら接点がある他のサーヴァントを呼んでいるのも納得がいく』
「では今回はモードレッドさんとランスロット卿が目的?」
「いや、それだけじゃなくて……」
「不思議なことを言うのね。あの軟弱と捻くれの塊を欲しがるなんて」
会話が途切れる。物理的ではない。かといって空気が一変して殺伐になったわけでもない。見える景色も変わらない豪奢な宮殿の部屋だ。
なのに喋ることが死刑確定の罪であるかのように、恐怖が喉を凍らせている。
魔術とは決して物理現象に干渉させる類だけではない。もっと原始的で誰にも見えない力で興す術もある。
魔術とか信じてなかった時に聞けば、威厳とか格の違いとかで言い表すのかも知れない。
それは相手を格上だと、自分は弱者だと立場を勝手に決めてしまう。
王の御前で跪く兵のように、鬼を前にした村人のように。
「お前がマスターか? 意外と可愛いじゃないか」
魔女に騙される馬鹿のように。
黒幕の魔女の正体は意外とスパッと答え出します。
多分、あと2話ぐらいで(予定)