でも円卓1人間臭いです。ZEROでもマスター同様、一番常人(豆腐)メンタルだったかも。
派手な催しがあり、絢爛な衣装が振り向かれ、そして醜悪な笑顔があった。
ランスロットは知っている。
これは王とその家臣たる貴族たちによる祭り。
歓喜と絶望。打算と狂気。怠惰と野心。全てが集まる場所だ。
彼もまた王に忠誠を誓う円卓の筆頭の1人として、このようなパーティーに参加していたこともある。
しかし、このような場所を夢想したことはあまりない。
これが自身の心を写した場所だと言われると、いささか首をかしげる。
ふと、人だかりがとある一点を囲うように集まっているのに気づく。
年も、性別も、恐らくだが階級の差関係なく、集まる人は呟いていた。
「彼女が……」
「ええ、甘言で騙したとか」
「たかが下級の娘が、なんておぞましい」
「いえいえ、アレは足を引きずるような醜女ですからなぁ」
「私は当時からあんな売女にだと反対でしたよ」
口々に零れるのは怨嗟と侮辱のみ。
それらは公の今でこそ小鳥のように囀るだけだが、巷や私生活で激流のように喧伝されているに違いない。
他者を、蹴落とせる敵であれば殺す。それも自らの手を汚すどころか、なんの落ち度もないように見せかける。
社会が時折見せる悪夢だ。
ランスロットはすぐさま、その集団をかき分ける。
しかして、その中心の光景には彼の想像よりも人数が多かった。
背筋を自然と伸ばし、しかしていつ消えるとも分からぬ薄明かりを連想させる憂いの表情。ルイズの前には恰幅の良い男とそれに控える女豹の女がいた。
男の装いや纏う王の気質。それを喰い潰さず、むしろ追随し、しかして圧迫感は残す。王妃の鏡のような女。
ランスロットは直感する。この女の下にある闇は魔女のそれだ。時代が時代ならモルガンのような力を持っていたかも知れない。
背筋が凍るような思いで見つめると、女は小鳥がさえずる姿を可愛がる少女のように、にこやかに笑った。
王も首を一瞬落とすが、顔を上げる頃には朗らかに笑い、ルイズの腰を抱く。それは親愛や愛情と言うより、謝罪や弁明のような意味にとれた。
でなければ、抱く男はあれほどまでにつまらなそうに、抱かれる女はこの世の終わりのように瞳を潤ませるはずがない。
男は女と共に去り、消えた。
群衆も消え、宮殿も消える。
すると生えてきたのは鉄の柱の森。空は低い木になり、光は薄まり、静寂が絶望を告げる。
監獄へと変貌した風景が完成したとき、ランスロットはルイズに訪ねた。
「これが貴方の心なのですね」
「ええ、その通りです。私の説明では不足かと思いまして、私を例にしてみました」
「そんな、理由で……」
「構いません。むしろ私にとってこの思い返しは懺悔なのです。この監獄のような修道院で消えるあの日まで、ずっとずっとずっと繰り返し見ていました。人が罵り、王妃が見下し、王が私を見限るあの光景を」
ルイズは目を瞑る。
何度繰り返そうと、心の曇りは晴れない。当たり前だ。晴れるということは、思い返さず記憶を薄れさせる以外ないのだから。
「身を引き裂かれるように苦しみ続けて、貴方はなにを得るのですか?」
「なにも。だから終わらせたいのですよ、誰も求めていない愛を。そのために貴方に来て頂いたのです。王道の騎士。見せてください、愛の神髄とはいかなるものかを」
呟いたと同時に、ルイズは消え去り、監獄も白色に覆われ消えた。
色が徐々に世界の輪郭を取り戻した時、ランスロットの瞳に映ったのは、この世で最も会いたくない女だった。
「ぎ、ギネヴィア様……!」
女は答えない。ただ、少し顔を傾け手のひらを差し出す。
隠された表情が笑うとき、ランスロットはここが地獄への入り口だと理解した。
「受け取ることがなぜ、出来ましょうか。私が犯した罪がその手をとることは永劫ありませぬ」
ランスロットは断言した。その瞳は王妃を写さない。見ないと律しているのではない。恐怖しているのだ。
己を、国を、そして自分自身も破滅させた少女。どの騎士からも賞賛されながら精錬で強い魂を持たなかった騎士。
誰もが理解しなかった脆い心を吐露したのも認められたのも彼女だけだ。
だからこそ受け取れない。この手が導く先は地獄しかないと知っている。
「後ろです、ランスロット卿!」
いつの間にか見ている地面は草原になっていた。
顔を上げると境界の半面を緑の大海原が覆っている。
だが背景のようにぽつん、と主張するように建っている城があった。知っている。あの城は恐ろしいほど知っている。その名に違わずアーサー王からの猛攻を防いだ悪鬼鳴る城。そしてランスロットが立て籠もって、謀反を証明し、国を分けさせて、全ての人生を変えた……
「ランスロットぉおお!!」
声では無く気迫がランスロットの手を動かした。
回転と同時に煌めいた剣は太陽を背にした剣と火花を咲かせる。
もしありえないことではあったが、声で反応していたら途中で手を止めていたであろう。愛した王妃の危険を知らせる声と、斬りかかる親友であった男の殺意ある声。この2つの声を聞く度に、重力に敗北するように押しつぶされるからだ。
「ガウェイン卿……」
「此度は言葉で決着をつけに来たのではない。剣により、技により、武によってのみ、貴様を斬りに参った!」
ああ、これは記憶だ。
ルイズが言っていた通りだ。懺悔するためにこの宝具はある。つまり自身で最も思い出したくない記憶を繰り返すことで、心を摩耗させ、封じて忘れさせるのだ。
淑女を通り越して死神だ。いや、彼女自身が魂の死を繰り返しているのだから亡霊なのかもしれない。
太陽の影で黒く染まったガラティーンは振るわれるだけで炎のような熱き烈風を生み出す。しかしその、烈風も雲にまで届きそうな旋風が穴を開ける。太陽の力が加わった恐るべき怪力でも、繰り出される度に絹のようにひらり、と躱して流す。
彼の正当な怒りと憎しみすらランスロットは黙って受けられない。それはきっと恐怖や離反の覚悟、ましてや死の恐怖などでは決してない。
ただ、どんな形であれ愛しているのだ、そしてまだ愛していたいのだ、王妃を。
なんと弱いことか。私は未だに私を罰せられないのだ。
「申し訳ありません。貴方の、私が認めた円卓の罪は私の罪です」
ガウェインが消えた。ギネヴィアが消えた。いや必要があればまた出てくるだろう。
そうではない。今目の前にいるのは。
「ランスロット卿。私は貴方を裁ききれない。同時に私の愚かさも。だから……」
「いえ、違います我が王よ! その聖剣で我が悪しき首を断てばよろしい。貴方の手ならば納得します。悪しき憐憫など忠義が打ち倒します! ですからッ……!」
「ありがとう。こうなる運命だったのですね」
我が王は、アーサー王は今にも涙をこぼしそうな悲しい瞳をしていた。
ランスロットは王の子ども時代を知らないが、きっと悲しんだときはこんな風にこらえたのではないのか。
記憶にない。こんな王の顔は見たことがない。どうなっている。なぜ、王は自信の首に剣を押し当てている!
「お止めください! 何を……」
「終えましょう、なにもかも」
少女にしか見えないか細い唇が唱えたとき、ランスロットを含んで斬撃の光が2人を飲み込んだ。
そして理解する。また繰り返すのだと。湖の騎士が「王への忠義」という心を忘れるまで。この地獄の愛は繰り返される。
脱する方法はただ1つ。
犯した罪たる愛に、決着をつけることだ。
うむむ、自分で作っといてなんですが、ルイズの宝具むちゃくちゃシェイクスピアっぽいですね。
ただ、彼女の宝具は一番大切な記憶(感情や願い)を想像できる範囲内でトラウマに変えて忘れさせる、というモノ。
簡単に言えば、忠義が大切ならそれを破るイメージを、愛する人ならばその人が死ぬイメージを永遠と見せつけて懺悔させるって感じです。
忘れる頃にはきっと廃人かそれに近いものになっているでしょうね。むしろタチ悪くなっとるかw