狂愛闘乱――Chaos Loving――   作:のれん

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初めまして。
ハーメルンでは初投稿になります。

読んで頂けるとうれしいです。


ジークフリートと家族の重み
第一話 異変


 見えるのは、赤の群れ。

 

 愛する人を亡くし、その復讐のためだけに駆け抜けた日々。

 それが今、終わった。いま赤で塗りつぶされた男がその証明だ。ずっと願っていたのに

 この男の死を、破滅を、滅亡を。

 

 なのに、

 なのになんの感慨も覚えない。

 本当にこの光景を私は待っていたのだろうか?

 

 ガリガリガリ。

 赤の世界が騒ぎ始める。きっと外野がようやく気づいたのだろう。

 

 目障りな音が急かす赤い世界。だが塗りつぶされた世界は鈍く輝き、思考が働かない。

 

 ああ、

 

 私は、なにが、あの人と……死、

 

 そして…………紅い、光。

 

 そのとき私は願いを思い出して、そして己が喉を刺し貫いたのだ。

 

 

 

 

 その日、カルデアの予定は珍しい「何もない日」だった。

 

 正確に言えば英霊たちの修行などは行われているが、戦闘を本能とする彼らにとっては娯楽に近いモノであり、ありふれた日常の1コマであった。

 

 現在観測されている特異点は見つからず、小さな規模の歴史の改編も行われてはいない。

 

 というわけで久しぶりに羽を伸ばしてご飯を食べているマスターたる俺。珍しい日には違いないが、変わっていることはそれだけでない。

 

 俺の前に座るのは、いつもの後輩デミサーヴァントではなく、極太の大剣を背負う男。

 見てくれだけみると、話しかけるのさえ躊躇うほどの偉丈夫だが、その悩ましげな眼差しと……

「……すまない」

「いや、なにが!?」

「久しく時間をかけて食べられる豪華な朝食。それを共にするのが君の相棒たるマシュではなく俺などと……」

「……相変わらずだな」

 という低すぎる自己評価から起こる、英雄らしからぬ謙虚さ。

 

 すまないさん。それがドイツ民話「ニーデルンゲンの歌」の主役にして竜殺し、ジークフリートのあだ名だった。

 

「いや、お昼前でブーディカ姉さんの出来たて料理作ったって言うからさ。1人分じゃないし、他のみんなは昼前で修行のラストスパートに入ってるし」

「唯一暇そうだったのが俺ということか……すまない修行もしないで」

「いやいやいや、家事手伝ってくれたお礼だって言ってたじゃん!」

 

 ジークフリートの謙虚さは止まらず、結局「家事の手伝い、エミヤも誉めてたよ」という伝家の宝刀を使うまで彼の「すまない」の呟きは終わることは無かった。

 

 

 

 お昼の刻。

 他のサーヴァントとの会話から帰ってきたマシュと合流し、カルデアゲート前で待機。

 一定時刻ごとに特異点の調査を行うため、迅速な動きができるように待機するのももう慣れっこである。

 

 そうして2人のそこでの会話は他のサーヴァントの話しになるのが常だった。

 今日はもちろん今朝の竜殺しの話題だ。

 

「うーん、あそこまで下手になられると会話も一苦労になるんだなぁ」

「でもそれがジークフリートさんの良さでもありますし」

 

 マシュは後輩という立場や境遇などから、マスターに対して謙虚な姿勢ではあるが、ジークフリートはそれ以上だ。

 ドイツ最大、ヨーロッパでも屈指の実力を誇る大英雄が主従の関係とはいえ、一般人に向ける態度ではないだろう。

 

「あれはきっと性分の問題なんだろうけど、部下とかはどうしてたんだろ?」

「ジークフリートさんに限らず、将軍などを除いて英雄はほぼ単独行動が多かったと聞いています」

「まぁ、英有譚ってそんな感じか」

「それに英雄を支える役目としては奥さんがいますし」

「えっ! いたの、ジークフリートに!?」

「む、いたぞ」

 

 マシュとは違う方向から、マシュより低い声で、肯定の声が応える。

 

「ええっと……」

「……すまない、盗み聞きするつもりはなかったのだが」

「いつから……」

「つい今し方だ。待機中に同じようにしても良いと聞いてな」

「そ、そう……」

「………………すまない」

「いや、なんで!?」

「竜を殺すこと以外取り立てて目立たない俺ごときが妻帯者などと信じられんだろうが……」

「いくらなんでも自己評価低すぎだよ!」

 

 俺は叫んでおく。ジークフリートが己を下げるほど、竜殺しもできない彼女すらいない男がさらにその下へと下がるからだ。

 だが、落ち込むと同時にふつふつと男だからこそ怒気がにじみ出る。

 だから俺は、少しだけ肩をふるわせて叫んだ。

 

「謙虚なのはいいけど、そこだけは自信もってよ。奥さんでしょうが」

「先輩!!」

「ま、マシュ?」

 今度はマシュが会話に乗り込んできた。その叫びは焦りの色がありありと乗せられている。

  まるで戦いの瞬間、間違った指示を出してしまったときのようだ。

 

「ど、どうしたん……」

「Emergency! Emergency!!」

  突然鳴り響く機械音声。合成音であるはずなのに上擦って聞こえる、と思ったときには俺の足は立てなくなっていた。

 三半規管の混乱、それは地震と錯覚するほどの空間そのものの歪み。

 全てが音もなく崩れていくなかで、マシュの叫びも聞こえなくなってしまう。

 

 俺が最後に見たのは同じように歪んでいくジークフリートの姿。その口先が聞き慣れた言葉を呟いている、と分かると同時に世界は歪んだ闇に消えた。

 




FGOやってます。

ちょっと前になるけどネロ祭のときに一番手こずったのはジークフリート。
フレンドに金時いなかったら攻略なんてできなかった……

さすが竜殺し!

え、フィナーレ? ネロちゃまを立てるために、ですね……(結局クリアできなかった)

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