オーバードッグ 名犬ポチ《完結》   作:のぶ八

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前回までのあらすじ!



アルベド出撃! そして鉢合う純白!


ニグンよ永遠に

「ではマーレ様、準備が出来次第我々は王国へ攻め込めばいいのでしょうか?」

 

「そうですね、僕の仲間のコキュートスさんという人も一緒に攻めるので合わせてくれると嬉しいです」

 

 

バハルス帝国、執務室。

そこにはジルクニフもいたが口を出せる状況ではない。

今や目の前の少年にバハルス帝国は従うしかない。

逆らえば国が滅ぼされる。

ただその中でフールーダのみが喜々として従っている。

 

 

「わかりました、必ずやご期待に答えましょう! それで成功した暁には…」

 

「はい、僕で良ければ魔法ぐらい教えてあげます」

 

「おぉぉ! かならずや! かならずやご期待に沿えますぞ!」

 

 

そのようなやり取りを聞きながらジルクニフは頭を抱えていた。

バハルス帝国が生き残るためには目の前の少年に従うしかない。

だがこのまま従い続けても道具として使われるのは目に見えている。

どちらにせよバハルス帝国に未来は無い。

肝心のフールーダもあの様子である。

今にでも足を舐め始めそうだ。

 

 

「し、失礼します!」

 

 

慌ただしい様子で兵士の1人が執務室へと駆けこんでくる。

 

 

「どうした!? 今はマーレ様がおられるのだぞ! 静かにせんか!」

 

「僕のことは気にしなくて大丈夫です」

 

「左様ですか? マーレ様は御心が広くていらっしゃる! で、どうしたのだ? 準備が遅れているのか?」

 

 

フールーダの視線が兵士へと移る。

 

 

「い、いえ。ご命令通り軍の準備は出来ております。しかし…」

 

「しかし?」

 

「王国へ偵察に向かった者の報告によると、王国の兵士達及び悪魔のような者達のほぼ全てがエ・ランテルへと集結しているようです」

 

「ほう、エ・ランテルに? こちらの動きを読まれていたということでしょうかマーレ様」

 

「うーん、わかりません…」

 

 

エ・ランテルに帝国軍を攻め込ませ、その間にコキュートスが首都へと攻め込む予定であった。

だがまさか悪魔達、デミウルゴスの部下達もエ・ランテルに歩を進めるとは。

ならばその隙に首都を攻め落とせばいいと考えそうだが本来の目的は王国ではない。

デミウルゴスの殺害。

もし首都にデミウルゴスがいないのならば攻め込む必要などない。

 

 

「ちょっと待って下さい、確認を取ります」

 

 

断りを入れてマーレはコキュートスへメッセージの魔法を繋げる。

 

 

「もしもしコキュートスさん」

 

『マーレカ』

 

「エ・ランテルに王国の兵士や悪魔が集結しているという情報が入ったんですが…」

 

『ウム、サッキコチラノ部下カラモソノヨウナ報告ガ上ガッタ。デミウルゴスノ姿モ確認シテイルラシイ』

 

「ではコキュートスさんもエ・ランテルに?」

 

『ソウダナ、首都ニイナイ以上攻メ込ンデモ仕方アルマイ』

 

「なら帝国の人たちはどうしましょう? 予定通りエ・ランテルに攻め込ませますか? 邪魔になったりしませんか?」

 

『邪魔トイエバ邪魔ダガ…、イレバ壁クライニハ使エルカモシレン。ソチラハ予定通リデ構ワン』

 

「わかりました」

 

 

メッセージを終えるとフールーダの元へと戻るマーレ。

 

 

「予定通りエ・ランテルに攻め込んんで下さい。コキュートスさんの部隊も攻め込むので邪魔にならないように動いて頂ければ…」

 

「おぉ、了解です! マーレ様の御仲間の戦いを拝見できるとはこれはまたとない機会ですな!」

 

「では僕は戻ります。シモベを置いていくので何かあればそちらに言って下さい」

 

「わかりましたぞ!」

 

 

そうしてマーレが執務室から消える。

 

ノリノリのフールーダに対しジルクニフはストレスで死にそうだった。

作戦どころか説明はザックリすぎるしもはや何の為にエ・ランテルに攻め込むのかもよくわからない。

どうやらこの化け物共の戦いに巻き込まれるらしいが人間の兵士がそんなものについていけるはずがない。

無駄死にするのがオチだ。

鮮血帝とよばれながらもこの国の為に最善で最短の道を歩んできたにも関わらず突然、こんな理不尽に国を失うとは思っていなかった。

もはや王とは名ばかり。

ジルクニフが干渉できることなど何もない。

もう実質的にバハルス帝国は終わっているのだ。

 

ふと頭を押さえていた手を見る。

 

そこには溢れんばかりの抜け毛があった。

あのマーレとかいう少年が来てからジルクニフの毛は抜けっぱなしである。

 

バーコードになる日も近い。

 

 

 

 

 

 

ナザリックに帰還したマーレはまだアウラが帰還していないことに気付く。

その後しばらく待っても帰ってこない。

本当ならばとっくに帰ってきていてもおかしくないはずなのに。

 

 

「お姉ちゃん遅いな、何してるんだろう…」

 

 

姉がいない第6階層は酷く広く感じられた。

いつもは口うるさいと感じるだけなのに。

 

 

「お姉ちゃん…」

 

 

杖をぎゅっと握りしめ姉をただ待ち続ける。

 

 

 

 

 

 

 

「神、か。ねぇ、少しお話をしましょう」

 

 

ガルガンチュアの後ろから姿を現したアルベドがニグン達へと問いかける。

 

 

「さて、話は簡潔に済ませましょうか。方向から考えるに貴方達は竜王国から来た、そうね?」

 

「お、お前は一体何者な…ぎゃっ!」

 

 

口を開いた純白の1人が全てを言い終わる前にその首から上が吹き飛んだ。

 

 

「質問以外の事を答えたら殺すわ、いい?」

 

 

凄むわけでもなく、作業のように淡々と言うアルベド。

 

 

「で、竜王国から来たの?」

 

「そ、そうです! 竜王国から来ました!」

 

「よろしい」

 

 

仲間を殺された恐怖からか他の1人が口を開く。

 

 

「では神とは? 名犬ポチのことかしら?」

 

 

次に問われたのは名犬ポチという言葉。

だがニグンを含め純白の誰もが神の名前は知らない。

 

 

「め、名犬ポチ…? い、いや我々は知らない…」

 

 

別の純白の一人が答える。

だが。

 

 

「ぎゃっ!」

 

 

答えた純白の一人の腹に風穴が空く。

大量に血を吹きだし力なく倒れる。

もちろん言うまでもなく即死である。

 

 

「本当に? 嘘を吐いているんじゃないの?」

 

「ち、違う! 本当だ! 名犬ポチという名前は知らない! 本当だ!」

 

 

マズイと思ったのかニグンが声を上げる。

このままでは他の者達が無駄に殺されるだけと理解したからだ。

矢面に立つならば自分が立つべきだという自負もあった。

 

その時のニグンの様子から嘘ではないと判断するアルベド。

 

 

(ふん、名犬ポチめ。自分の名前は言っていないのか? 全く抜け目の無いやつね。竜王国を支配するまでしておきながら名前すら伝えていないとは…。名前などどうでもいいけれど、そこまで用心深く動いているとするならば厄介ね。果たしてこんな者達から足取りなんて掴めるのか…。こいつらから情報を入手するというのは時間の無駄かしら? ま、何にしろ知っていることを洗いざらい吐かせるしかないわね)

 

 

そうアルベドが考えているとニグンが叫ぶ。

 

 

「クアイエッセ殿! ここは私に任せて貴方は逃げ…」

 

「ルベド」

 

 

言い終わらぬうちに発したアルベドの言葉に反応し姿を現したルベド。

ニグンが視線を動かしたクアイエッセへと一瞬にして距離を詰め足を折る。

それは一呼吸ほどの時間もなかった。

 

 

「ぎゃあああああ!!」

 

 

両足を叩き折られ痛みに喘ぐクアイエッセ。

 

 

「逃げようなんて考えないで頂戴。無駄に痛い思いなんてしたくないでしょう?」

 

 

くふふふ、と邪悪な笑みを浮かべるアルベド。

その一瞬で逃げられないと誰もが理解した。

自分達は殺されるしかない。

助かるなどという可能性はもうどこにも存在しないと思えた。

 

 

「わ、分かった…。私に答えられることなら答える…。だ、だが部下達だけは助けてくれ…。それだけでも約束して欲しい…」

 

「いいわ。ちゃんと質問に答えるのなら貴方の部下は助けましょう」

 

 

その言葉に安堵を覚えるニグン。

たとえ自分が死んだとしてもそれで済むのならそれに越したことはない。

 

 

「ニ、ニグン様…」

 

「隊長…」

 

 

部下達からニグンへ声が上がる。

 

 

「気にするなお前達。私の命で済むのなら安いものだ…。お前達が私の分まで神への信仰を…」

 

「ぐわぁっ!」

 

 

ニグンと会話していた純白の一人の頭部が吹き飛ぶ。

 

 

「ダラダラと余計な話を続けるならもう一人殺す」

 

「わ、わかった! わかったからやめてくれ!」

 

 

アルベドの言葉にニグンが皆に喋らないように身振りをする。

 

 

「ガルガンチュア。貴方は先に竜王国へ向かいなさい。私はこの者共から話を聞き終え次第向かうわ」

 

 

アルベドの言葉にガルガンチュアの体内から赤い光が明滅する。

了承したという返事であろう。

そしてガルガンチュアは再び動き出す。

一歩一歩進む度に地面が揺れ、ガルガンチュアの重さを感じさせる。

しばらく離れてもまだガルガンチュアの歩く揺れは伝わってくる。

 

 

「さて、では続きをしましょう。お前たちが神と呼ぶ者は何者? なぜ神と呼び崇めるの?」

 

 

軽く問いかけているがその視線や雰囲気から冗談ではないことが伝わってくる。

 

 

「う…、それは…」

 

 

ニグンは逡巡する。

この者達は間違いなく神を探している。

そして今までの行動から神の信徒とはとても思えない。

神と敵対する何かに違いない。

ならば神の事を話すのは神を売ることになるのではないか?そう考える。

 

 

「早く答えなさい。もう一人殺すわよ」

 

「わ、分かった! か、神が、な、何者かという質問は…、少し難しい…。ただあの御方は我々人類を…、いや世界を救済する為に舞い降りた崇高な存在…、神以外の呼び方を私は知らない…!」

 

 

それを聞いたアルベドは白々しい、と思った。

至高の御方達のことを詳しく知るわけではないが名犬ポチがアインズ・ウール・ゴウンの中でも邪悪と呼ばれていたのはかつての至高の御方達の会話から知っている。

人類の救済などするわけがない。

ましてや世界の救済などと。

愚かな人間を騙す為の方便だろうがこの者はそれを信じているらしい。

だが今はそれは重要ではない。

 

 

「姿は?」

 

「す、姿…」

 

 

この問いでこの者は神の姿を知らないのかとニグンは考える。

もし知らないのならばここでそれを口に出すわけにはいかない。

 

 

「早く答えなさい」

 

「あぐっ!」

 

 

再び純白の1人が倒れる。

 

 

「や、やめろっ! やめてくれっ…!」

 

 

それを見たニグンが必死に懇願する。

 

 

「ならさっさと言いなさい。ああ、勘違いしているようだけれど姿が分からないわけではないわ。あくまで私が探している人物と同一人物か確認がしたいだけよ。まぁすでにほぼ間違いないとは確信しているけれどね。質問を変えましょう、お前たちが神と崇めるのは白い小さな子犬ね」

 

「…っ!」

 

「その反応で十分だわ、当たりね。で、本題よ。名犬ポチは、いや、神はどこにいるの?」

 

「……!」

 

 

ニグンには答えられない。

知らないからだ。

仮に知っていたとしても神の敵に情報を漏らすことなど欠片もあり得ないが。

 

 

「どうしたの? 他の者達を殺すわよ? お前たちが慌てた様子だったのと関係があるのかしら?」

 

 

答えるしかない。

知らないと、探している最中なのだと。

それならば神を売ることにはならないし、何よりこのままでは大事な部下達を殺されてしまう。

 

 

「わ、分からない…」

 

「何ですって?」

 

「か、神は突然竜王国から姿を消されたのだ…、わ、我々は姿を消した神を探す為にここまで来ていたのだ…」

 

「…!」

 

 

アルベドの頬を冷や汗が流れる。

憎き名犬ポチめ、すでに動いていたか、と。

 

だが動くにしても竜王国を放置してどうするのだという思いもある。

もしや何か他にあるのか、竜王国を捨ててでも勝機があるのかと。

読めない。

アルベドには全く読めない。

もしかして女王を連れて共に姿を眩ませたのか?

 

 

「女王は?」

 

「は…?」

 

「竜王国の女王はどうしているの? 名犬ポチ、いや神と行動を共にしているの!?」

 

 

怒気すら孕んでいるようなアルベドの問いにたじろぎながらもニグンは答える。

 

 

「い、いや…、女王は竜王国にいらっしゃるはずだが…。か、神は御一人で姿を消されたのだ…」

 

「な、何ですって…?」

 

 

ますます読めない。

なぜ切り札にもなり得る女王を手放す?

罠か?

竜王国の女王は私をおびき出す罠だったのか?

だが竜王国におびき出してどうする?

始原の魔法(ワイルドマジック)が無ければ脅威などない。

女王もろとも国内で撃たせるつもりか?

いや、それならばもっと他に手段がある。

みすみす女王を失うような真似をとるとは考えられない。

 

 

「くそっ…、全く読めないわ…! どういうつもりなの名犬ポチ…!」

 

 

このまま竜王国に攻め込むというアルベドの考えが根底から覆されるように思える。

いや、少なくとも名犬ポチがいないという情報が本当ならば攻め込む意味などない。

だが恐るべきはもしそれが本当ならばこの動きまで読まれていたということか?

いや、だが竜王国に攻め込まれ女王の首をとられたらどうする?

裏をかいたとしてもそれでは起死回生の一撃などとてもではないが望めない。

 

もしかするとどこかで直接仕掛けてくるつもりなのか?

 

確かに一対一で戦えば勝てないのかもしれない。

だがそれを覆すためにこそルベドとガルガンチュアがいるのだ。

直接対決ならば負ける要素などない。

 

 

(しかし参ったわね…。竜王国にいると思ったのにいないのでは全て台無しだわ…!)

 

 

苦悶するアルベド。

やはり定石通りに動くべきだったか。

いや、どちらにせよ竜王国の女王は潰しておかねばならない。

 

 

「ふぅ、よく分かったわ…」

 

 

少なくとも目の前の下等生物から有益な情報など望めない。

そもそもあの名犬ポチが手がかりを残すはずもないのだから。

 

 

「もう貴方達に聞くことは無いわね」

 

「で、では約束通り部下達は見逃してくれるのだな!?」

 

「はぁ? そんなわけないでしょう? ルベド、やりなさい」

 

「了解」

 

「なっ!?」

 

 

ニグンが何かを言う前に命令を受けた少女が純白の面々の間を駆け抜ける。

その少女が通り抜けたかと思うと次々と純白の面々が倒れていく。

 

 

「や、やめろぉぉぉ!!! や、約束が! 約束が違う!」

 

「バカね、下等生物との約束など守るわけがないでしょう?」

 

 

絶叫するニグンを嘲笑うかのように瞬く間に純白の面々は地に伏した。

陽光聖典の頃からの部下達も。

エ・ランテルで出会ったブリタも。

漆黒聖典のクアイエッセも。

嘘だと思うほどあっけなく皆が倒れている。

何かの冗談のようだった。

 

 

「お前はこの者達のリーダーね? 名犬ポチとの繋がりもあるようだし、人質、が通用するとは思えないけれど無いよりマシね。貴方は少しだけ生かしてあげるわ、喜びなさい」

 

 

泣き叫ぶニグンに蔑んだ視線を向けながらアルベドが言う。

食いしばるニグンの口の端から血が流れる。

 

 

「あ、悪魔め! な、なぜこんなことができる!? この者達が何をした!? ひ、人の命をなんだと思っているのだ!?」

 

「ゴミよ」

 

「な、なんだとっ…!?」

 

「人の命などゴミにも等しいわ。下等で愚かな生物。むしろ至高の御方の創造した私達に命を奪われることを感謝するべきよ」

 

「こ、こんな無法、か、神が許すはずがないっ…!」

 

「その神ももうじき死ぬのよ? そんな神に忠誠なんて誓ってどうするの? ほら、神などクソですって言ってみなさい。そうしたら本当に見逃してあげてもいいわよ?」

 

「………っ…!」

 

「どうしたの、聞こえないわよ?」

 

「か、神は偉大だっ! お前などが口にしていい存在ではない! あの御方はこの世界を救済するために舞い降りた神なのだっ! 唯一無二の神! 絶対神っ! だから私は屈しない! お前に殺されたとしても! 私のこの信仰は! 思いは! 何も変わらない! あの御方に全てを捧げた私は決して屈しない!」

 

 

瞳に希望を宿したニグンが高らかに宣言する。

 

 

「黙りなさい、殺すわよ」

 

「構わぬっ! 神への信仰が! 神の偉大さが! それで証明できるのならば私の命など散ったとしても構わないっ! お前などには何も変えられないっ! 自覚しろ、弱き者よ…。お前に私達の信仰を変える力などないっ…! 神は偉大なりっ! 神は永遠! ゆえに我々の信仰もまた永遠であるっ!」

 

「黙れ下等生物がぁぁぁ! 負け惜しみをほざくなぁ! クソの価値程も無い貴様らが偉そうに語るなぁぁ!!!」

 

 

ニグンの言葉にイラ立ちを抑えられない。

この時アルベドはふとモモンガの言葉を思い出していた。

あれはまだモモンガが眠りに着く前。

名犬ポチとメッセージで会話していた時のこと。

 

 

『やりましたね! 名犬ポチさん!』

 

『やっぱり外はお祭り騒ぎなんですねー。そうだ、動画撮って後で送って下さいよー!』

 

『そう、ですね、本当に楽しかったです…』

 

『なんですか、それ。ちょっと愛の告白みたいになってんじゃないですか!』

 

『ははは、分かってますよ。冗談ですよ、冗談』

 

『ふぅー、そうですね…。もし名犬ポチさんがこれからも遊んでくれるなら嬉しいです』

 

 

あの時のモモンガの心底嬉しそうな様子。

希望に満ち溢れた目の輝き。

許せない。

名犬ポチに、あんな奴にそんな言葉が、感情が向けられるなんて。

私には一度も向けられたことなどないのに。

 

悔しいがこの目の前の下等生物からそれと近いものを感じる。

 

名犬ポチを完全に信じ切っている目だ。

そして絶対の信頼を置いている。

 

なぜだ。

なぜ貴様如きがモモンガ様と同じような目を、表情を浮かべる…?

許せない、許せない許せない!

 

 

「お、お前を見ていると殺意が抑えられなくなりそうよ…! 嫌なことを思い出す…!」

 

 

今にも殺しそうな勢いでアルベドがニグンの首を掴む。

 

 

「そ、それは光栄だ、な…! わ、私でも貴様のような怪物に影響を与えることが出来るとは…! いや、これも全て神のお力か…! やはり神は偉大…! 信仰こそが至高! 神こそが…」

 

「だ、だ、だまれかとうせいぶつがぁぁぁぁ! おまえごこときがわたしのだいすきな、ちょーあいしているお方と同じような目をするなど、ゴミである身の程を知れぇぇぇぇ! 容易くは殺さんんん! この世界で最大の苦痛を与え続け、発狂するまで弄んでやるぅぅ! 四肢を酸で焼き切り、性器をミンチにして食わせてやるぞぉぉお! 治ったら治癒魔法で癒してなぁ! あぁぁぁあ! 憎い! 憎くて憎くて憎くて、心が弾けそうぉぉおおお!」

 

 

現地の者ならば例外なく誰もが恐怖に耐えかね発狂するか失神するだろう。

だがニグンは違う。

恐怖には染まりながらも、涙目になりながらも、今にも失禁しそうでも。

自身を見失わずアルベドの目を見据えている。

 

 

「な、なぜまだそんな目ができる…?」

 

「わ、私は神を信じているっ…! わ、私は幸せ者だっ…! 神と出会えたっ…! 神に導かれたっ…! 長い歴史の中でも私のような幸せ者など数えるくらいしかいないだろう…! それだけで、それだけで、お、恐れるものなど何もないっ…!」

 

 

駄目だ。

こいつは殺さなければ駄目だ。

 

なぜだ。

なぜ名犬ポチをそこまで信じられる。

名犬ポチは悪だ。

お前など騙されているだけだ。

そうだ。

全部あいつが悪い。

モモンガ様だってそうだ。

きっとあいつに騙されているのだ。

 

 

「神はっ…」

 

「だまれぇぇぇええ!!!」

 

 

我慢の限界を超えたアルベドの手がニグンの頭部に向かって放たれる。

だがそれがニグンに届くことはなかった。

ルベドが間に入り止めたからだ。

 

 

「なっ…! なぜ邪魔をするのルベドっ…!」

 

「死ねば人質にできない」

 

「あ、ああ、さっきのことを言っているのね? 人質にするのは中止よ。こんなゴミなど一秒たりとも生きている価値などないわ」

 

 

そうルベドに言い聞かせる。

その時、後ろで倒れている純白達がわずかに動いたのをアルベドは見逃さなかった。

注意深く見てみると他の連中も死んでいない。

死んだと錯覚してしまう程だがかすかに息をしている。

 

 

「ルベド、詰めが甘いわね。こいつら生きてるわよ。人間程度を殺し損ねるなんて…! どうしてもっと確実にやらなかったの? 頭を吹きとばすとかいくらでもやりようはあったでしょう?」

 

 

怒りに満ちたアルベドの視線がルベドを突き刺す。

 

 

「…、よ、汚れるのが嫌だったから」

 

「まぁそれには同意見ね。でもだからといって殺し損ねるなど持ってのほかだわ。いい機会だから手本を見せてあげる。これが確実な死というものよ」

 

 

アルベドが掴んでいたニグンを純白の面々が倒れている場所へと投げ飛ばす。

 

 

「消し飛べ下等生物…!」

 

 

アルベドが手に持っていたバルディッシュとは別の武器を取り出す。

 

それは真なる無(ギンヌンガガプ)

ユグドラシルに存在する全アイテムの中でも頂点に位置する世界級(ワールド)アイテムの一つ。

広範囲の破壊が可能な、対物体最強とも言われる一撃を放つことができる究極のアイテム。

 

瀕死だったとはいえシャルティアすら消し飛ばした一撃。

 

それをこの世界の現地の者などが耐えきれるはずが無い。

 

 

「あぁ、神よ…! どうか、世界を…、救っ…」

 

 

その一撃がニグン達純白に振り下ろされる。

 

まるで爆発のような強烈な一撃。

 

後には何も残さず、ニグンも、ブリタも、クアイエッセも、純白の面々も。

どこにも存在しなかったように吹き飛んだ。

残ったのは地面を抉ったような傷跡だけ。

 

 

だが、その時。

 

 

アルベドとルベドの背後から爆発的な殺気が放たれた。

咄嗟のことにアルベドが瞬時に振り返る。

 

そこにいたのはアウラ。

横にはシモベのフェンリルもいる。

 

 

「アウラ? なぜここに? 貴方はナザリックに帰還しているはずで」

 

「シャルティアを殺ったのはお前かあぁあっぁああああ!!!!」

 

 

大地を揺らさんばかりのアウラの絶叫が響く。

 

その発言に面を喰らうアルベド。

証拠など残していない、そう思っていたからだ。

 

 

「な、何を言っているのアウラ…? シャルティアはドラゴンに…」

 

「違う! シャルティアはドラゴンになんてやられてない! そのドラゴンもろとも第三者にやられたのよ!」

 

 

完全に表情が引きつるアルベド。

 

 

「な、何を根拠にっ…!」

 

「その跡よっ! アルベドには内緒で評議国の跡地を見に行ったことがあったの。巧妙に隠されていたけどドラゴンの魔法以外の跡が残っていたわ。それを見て第三者の存在を確信していたけどまさかそれがアルベド、あんただったなんてね…。今のその一撃、その跡、評議国にあったものと同じものよ。しかもそれは世界級(ワールド)アイテム? そんな物が二つとあるわけない…!」

 

「くふっ、くふふふふふ」

 

 

思わず笑いが零れるアルベド。

 

 

「そうか…、最初にエルフ国へ向かわせた時か…。寄り道をするなんて悪い子ね…。しかしちゃんと隠したつもりだったけれどまさか真なる無(ギンヌンガガプ)の跡がまだ残っていたなんてね…。いや、レンジャーをとっている貴方だからこそ気づけたのかしら…。失態だわ、それに特化したシモベを連れていくべきだったか…。これでも上手くやったつもりだったのだけれど…」

 

 

反省した様子もなくニヤニヤと笑うアルベド。

 

 

「何がおかしいの、アルベド…!」

 

「それはおかしいわよ。ナザリックで誰も彼もが私の陳腐な嘘に騙されるんですもの」

 

「なっ…!」

 

「シャルティアだってそうよ、私が後ろから斬りつけているのにそれを理解するまで時間がかかっていたのだから。間抜けな姿だったわ。くふふふ、今までずっと笑いをこらえるのを我慢してきたのよ? 今ぐらい笑わせてもらわないと…」

 

「アッ、アルベドォォォ!!!」

 

 

怒りを抑えられなくなったアウラがアルベドに飛び掛かり攻撃を放つ。

だが、それを難なく躱すアルベド。

 

 

「くふふ、どうしたのアウラ? まさか私とやるつもり?」

 

「当たり前でしょ!? なんで…! なんでシャルティアを殺したの!? 同じナザリックの仲間でしょう!? あいつが任務に行くときなんて言ったと思う!? そりゃ私にはモモンガ様から命令貰えたっていう自慢で腹立たしかったけどさ! あいつ本当に喜んでたんだ! モモンガ様の役に立てるって! あいつ本当に喜んでたんだぞ! それをお前は踏みにじったんだ!」

 

 

アウラの目に涙が浮かぶ。

シャルティアのあの喜びよう。

羨ましかったしイラついたのもあったけれど、何より自分も嬉しかったのだ。

 

 

「くだらない…。嘘の一つも見抜けないバカにする同情なんて欠片も無いわ」

 

「それにその嘘ってどういうこと!? ま、まさか、デミウルゴスは、デミウルゴスの裏切りは!?」

 

「バカね、聞かないとわからない? シャルティアを殺した私と、そんな私と敵対したデミウルゴス。貴方はどちらを信じる?」

 

「き、貴様あぁあああ!!!」

 

 

怒りに駆られ次々と攻撃を繰り出すアウラ。

だがその全てがアルベドに防がれる。

 

 

「どうしたのこれで終わり?」

 

「あ、あんたこんなことしてただで済むと思ってるの…!?」

 

「思ってるわ。貴方が死ねば証人は誰もいなくなるのだし」

 

「…くっ! フェンッ! ナザリックに帰還してこのことを伝えてっ!」

 

「させるわけないでしょう? ルベド。そいつを殺しなさい」

 

「…了解」

 

 

渋々ながらもルベドがフェンリルに向けて動く。

 

 

「くっ…! させるかっ!」

 

 

ルベドを止めようとアウラが動くがアルベドがそれを阻止する。

 

 

「貴方の相手は私よ」

 

 

ニタリと厭らしい笑みを浮かべるアルベド。

 

そうしてルベドがフェンリルに迫り、一撃を加えようとした瞬間。

 

 

「《アース・サージ/大地の大波》」

 

 

突如として隆起した大地がルベドを弾き飛ばす。

勢いのついた一撃を喰らったルベドはゴロゴロと地面を転がっていく。

いつの間にか上空に小さな人影が一つ。

 

 

「遅いから迎えにきたよ、お姉ちゃん」

 

「マーレっ!」

 

 

上空から見下ろしていたのはマーレ。

それを苦々しくアルベドが睨みつける。

 

 

「マーレ…、貴方まで…。全く姉弟揃って悪い子ね…!」

 

「ひっ! ご、ごめんなさい! お、お姉ちゃんがいつまで経っても帰ってこないから、その…」

 

 

殺気に満ちたアルベドの視線に怯えた様子のマーレ。

あくまで仕草だけで本当に怯えているわけではないが。

 

 

「ね、ねぇお姉ちゃん、なんかフェンがやられそうだったから思わず魔法を撃っちゃったけど…マズかった?」

 

「いいの、助かったわマーレ」

 

「そ、そう? なら良かった…。ていうか何があったの? なんでアルベドさんと喧嘩を…?」

 

「裏切者はアルベドだったの…!」

 

「えっ!?」

 

「裏切者はデミウルゴスじゃなかった…! 全部こいつの嘘だったのよ…! シャルティアもアルベドに殺されたのよっ…!」

 

「ええぇっ!? そ、そうなんですかアルベドさん!?」

 

 

マーレの問いにアルベドが優しく微笑み答える。

 

 

「私がそんなことする筈ないでしょう? アウラはちょっと勘違いしているのよ。だから貴方もアウラを止めるのを手伝ってちょうだい?」

 

「お、お姉ちゃん…」

 

 

不安げな様子でアウラとアルベドを交互に見つめるマーレ。

 

 

「私を信じなさい馬鹿マーレっ…! こいつが裏切り者よっ!」

 

「耳を貸しては駄目よマーレ。アウラはちょっと混乱しているだけ」

 

 

迷った様子を見せたマーレだが、やがてアウラの横へと降り立つ。

 

 

「よ、よく分かりませんがお姉ちゃんはこんな嘘はつきませんっ! ぼ、僕はお姉ちゃんを信じますっ!」

 

 

そう言ってアルベドに向けて杖を突きつけるマーレ。

 

 

「ふん、姉弟揃って御せないとはね…。まぁいいわ。ここで仲良く死ぬのも悪くないでしょう? ルベド!」

 

 

アルベドの言葉で地面を転がっていたルベドが瞬時に体勢を整え、アルベドの元へと帰ってくる。

 

 

「ルベド、貴方はマーレをやりなさい。私はアウラとフェンリルをやるわ」

 

「了解」

 

「だってさ、じゃあルベドはよろしくねマーレ」

 

「ええ!? 僕がルベドさんとやるの!? 怖いよ、お姉ちゃんがやってよ!」

 

「じゃああんたがアルベドとやる?」

 

「やだよ怖いよ!」

 

「もうどっちなのよ! この状況だからどっちかとはやらなきゃダメでしょ!」

 

「わ、わかったよう、じゃあ僕がルベドさんとやるよ…」

 

「…ごめんね、マーレ。アルベドを片づけたらすぐに向かうから…」

 

「うん、期待しないで待ってる」

 

 

そんな二人のやり取りを見てアルベドが茶々を入れる。

 

 

「随分とナメられたものね、貴方達が私とルベドに勝てるはずがないでしょう? 特にアウラ。シモベがいない貴方なんてちっとも怖くないわ」

 

「あんまりナメないでよねアルベド…、これでも守護者の一人なんだから…!」

 

「口だけは達者ね!」

 

 

そうしてアルベドとアウラの戦いが始まった。

 

 

「じゃあ僕たちもやりますか…?」

 

「可能ならばやりたくない」

 

「そっか、僕もです…」

 

「降伏を要求する」

 

「出来ません、ルベドさんが降伏してくれませんか?」

 

「不可能」

 

「そうですか…、じゃあ仕方ないですね」

 

「肯定」

 

 

その言葉を合図にマーレが勢いよく空高く飛ぶ。

ルベドもそれを追うように空高くジャンプする、が。

 

 

「《アース・サージ/大地の大波》!」

 

「…っ!?」

 

 

突如発生した広範囲を襲う隆起する大地に飲み込まれるルベド。

大地を吹き飛ばし、なんとか飛び出すルベドだがさらなる魔法が襲い掛かる。

 

 

「《ナパーム/焼夷》」

 

 

天空目掛けて空高くいくつもの炎が吹き上がる。

 

あまりに広範囲にわたるためルベドは回避するので精一杯。

 

その隙にマーレはルベドからさらに距離をとる。

 

 

「遠距離は…、圧倒的不利…! 距離を詰める必要ありっ…!」

 

 

マーレと自分の分析。

そしてこの戦況から遠距離戦は分が悪いと判断するルベド。

ゆえに必死で距離を詰めようとする。

しかし。

 

 

「《アース・サージ/大地の大波》」

 

 

再び大地が隆起しルベドに襲いかかる。

今度は飲み込むのではなく、勢いよくルベドを吹き飛ばした。

 

 

「ぐっ…!」

 

「ここじゃお姉ちゃんも巻き込んじゃいます、向こうでやりましょう」

 

 

そう言ってルベドを遠くまで吹き飛ばし、自身もその後を追う。

 

 

ルベドはナザリック最強の個である。

 

 

ギルドメンバー、あるいはガルガンチュアを除けばナザリック内にすらまともに戦える者はいない。

 

だが何事にも相性というものが存在する。

今回とて例外ではない。

 

ルベドとマーレ。

 

どちらが強いかと問われれば間違いなくルベドである。

だがもし戦えばその実力差程の結果にはならない。

NPC達は知らないがもしナザリック内のNPCが一対一でルベドと戦うと仮定した場合、戦いになるのはマーレだけである。

 

広範囲魔法を得意とするマーレ。

ある意味でそれはルベドにとって天敵と言ってもいい。

 

守護者の誰よりも早く動けるルベドではあるが、そのルベドの速さを持ってすら回避できない超範囲魔法を撃たれれば被弾するしかない。

戦闘技術、という面で見るならルベドは守護者よりも低い。

並みはずれたステータスを持つだけの赤子と形容してもいい。

 

力で強引にねじ伏せられない展開であればルベドは不利である。

 

 

もうマーレもルベドも、アウラとアルベドの視界から消えていた。

 

 

「ふん、ルベドに勝てるはずがないでしょうに…」

 

「あんまりマーレを馬鹿にしないでよね…」

 

「馬鹿にしてないわよ、マーレは強いから。貴方と違って」

 

 

くふふ、と嘲笑するアルベド。

だがアウラは動じないよう努める。

そんなアルベドの心理戦に乗ればただでさえ不利なのがさらに不利になるのを知っているからだ。

 

 

「しかしマーレも参入してきた以上、貴方に時間をかけるわけにはいかなくなったわ…。そうね…、せっかくだし使ってみてもいいかしら…」

 

「…?」

 

「殺すのはやめてあげるわ。アウラ、貴方にはまだまだ働いてもらうことにしましょう。貴方の能力は有能だからね。名犬ポチを虱潰しに探すのに貴方の力があれば便利だし…」

 

「何を…? 従うわけないでしょ?」

 

「くふ、嫌でも従うことになるわ…」

 

 

そうしてアルベドは自身の持つアイテムを発動させる。

 

 

傾城傾国。

 

 

それは真なる無(ギンヌンガガプ)と並び、ユグドラシルに存在する全アイテムの中でも頂点に位置する世界級(ワールド)アイテムの一つ。

耐性を持つどんな相手すらも強制的に洗脳する規格外のアイテム。

 

勝利を確信しアルベドに満面の笑みが浮かぶ。

 

それと同時にアルベドの体、いや着ているチャイナ服から光り輝く龍が天空へ飛翔する。

 

何が起きたのかと目を丸くするアウラ。

 

ゾワリ、と体が震えた。

ナザリックでも最高レベルの強さを誇る守護者の一人であるアウラ。

そのアウラをして彼女の直感が警鐘を強く鳴らす。

 

何かはわからない。

何かはわからないがあれはまずい。

あれを喰らえば終わる。

 

そう理解したアウラは苦し紛れに自分の鞭をしならせアルベドへ向けて打つ。

 

 

「あはは! 何をしても無駄よ! 誰も世界級(ワールド)アイテムには抗えない!」

 

 

アウラの攻撃などさほど痛くも痒くもないアルベドはそれを無視する。

もはや勝利は確定しているのだから。

そして飛翔した龍がアウラへと舞い落ちる。

傾城傾国の効果によってアウラはアルベドの支配下に落ちる。

 

 

そうなるはずだった。

 

 

「な…、に……?」

 

 

だがアウラに舞い降りた龍はアウラに落ちるなり弾かれ霧散した。

 

結果から言えば、レジストされたのだ。

 

 

「バ、バカな…! な、なぜ傾城傾国を防げる…!? 世界級(ワールド)アイテムを持っていない貴方がなぜ…!」

 

「バカはあんたよ、アルベド」

 

「何ですって…?」

 

世界級(ワールド)アイテムならここにもう一つあるでしょ?」

 

 

そうして手に持ったアイテムをアルベドに見せつけるアウラ。

それは先ほどまでアルベドが持っていたはずの物。

 

 

「ギ、真なる無(ギンヌンガガプ)!? い、いつの間に!?」

 

「あれだけ露骨に勝利を確信してたらおかしいとは思うわよ。それにバカみたいに隙だらけだったからさ。でもまさか世界級(ワールド)アイテムをこんな簡単に盗めるとは思わなかったけど。手に持つ物はもうちょっと注意してた方がいいんじゃない?」

 

 

ここはユグドラシルではない。

もちろん様々なスキルや特殊なフラグは有効である。

だが物理法則が存在する以上、手に持っているものを物理的に奪い取ることは可能なのだ。

いくらアルベドと言えど同格を相手に油断するのはやりすぎた。

 

 

「こ、この泥棒猫がぁっ!」

 

 

アウラへとバルディッシュで斬りかかるアルベド、しかし。

 

アウラが真なる無(ギンヌンガガプ)を振りかぶりその効果を発動させる。

広範囲の破壊が可能な、対物体最強とも言われる一撃。

それがアルベドの身に振り下ろされる。

 

 

「ぐぅぅぅううう!?」

 

 

周囲の大地を抉り、空間ごとアルベドもその一撃に押し潰される。

しかしアルベドは傾城傾国を身に纏っているため、真なる無(ギンヌンガガプ)による広範囲破壊の影響は受けないのでダメージは通らない。

だが何も影響がないわけではない。

周囲の空間、大地を破壊したことによる物理的現象の影響は受ける。

つまり、一瞬程の時間だが身動きが取れなくなる、ということだ。

 

その隙を突き、アウラが距離をつめアルベドの腹部に蹴りをいれる。

 

 

「ぐがぁあっぁあぁあああああ!!!!」

 

 

一瞬とはいえ無防備になった瞬間を突かれたアルベドが吹き飛び倒れる。

 

 

「ナメないでって言ったでしょ? さぁ立ちなさいよ。シャルティアの分まで思い知らせてあげるから」

 

 

 

 

 

 

この時、物陰から一部始終を見ていた者が一人。

それはニグン達が吹き飛ばされるところから全てを見ていた。

 

クレマンティーヌ。

 

秘め事を致すベストポイントを探り当て、用を足した彼女は急いで純白を追ってきてみれば何やらヤバそうな事態に直面しているところを発見した。

怖かったのでとりあえず遠くからずっと覗いていたのである。

 

とはいえクレマンティーヌの気配にアルベドやアウラが気づかないはずが無い。

だが今の彼女は一つのアイテムを身に纏っていた。

それは姿隠しのマント。

防御性能も魔法カットも何も無いが身に纏った対象の気配を完全に消すことができるユグドラシルのアイテムである。

名犬ポチが寝ているクレマンティーヌに羽織らせた一品なのだがポチ本人は気づいていない。

クレマンティーヌ本人もそんな効果があるなど知る由もない。

 

 

(な、何何こいつら…! やばい…! やばすぎる…! ニグンちゃん達も皆やられちゃったし…! き、気を抜いたら漏らしそう…! だ、だめよクレマンティーヌ! 今は耐えるのよ!)

 

 

必死に自分を鼓舞するクレマンティーヌ。

 

ビビりまくりなクレマンティーヌはアルベドが傾城傾国を身に付けていることなど気付かない。

両者の戦いが激しくなったのを見計らって一目散にその場を逃げ出した。

 

 

(か、神様ー! 神様どこー!? た、助けてぇ!)

 

 

声にならない叫びがクレマンティーヌの中で反響する。




次回『姉弟VS姉妹』悪者をぶっとばせ!


ここからどんどん話が転っていく予定なのであまり期間を空けずに投稿していきたい…、です。
頑張れ自分!

追記
感想欄でWIについてのご指摘がありましたので修正しました!
やはり自分だとなかなか違和感に気付けなかったりするので助かります!
ご指摘ありがとうございました!

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