煩悩日和   作:タナボルタ

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新型コロナウィルスに感染して臥せってました/(^o^)\(挨拶)

そんなわけで大変お待たせいたしました。
今は快復したんですけどまだ味覚と嗅覚が戻り切ってない感じなんですよね……おのれ後遺症め……


出逢い

 

 カオスが提督として鎮守府に着任してから、ゲーム内時間で十日が過ぎた。

 秘書艦として選んだ電を筆頭に艦娘達との関係も概ね良好であり、現在はそれなりのペースで海域の攻略を行っている。

 書類と格闘するカオスの傍らにはマリアの姿がある。調整に思ったよりも時間が掛かったが、パソコンと接続する事で無事に()()()()()()に来る事が出来た。

 マリアはカオスを監督する一方で、こちらの世界での己の身体の調子を確認する。

 

 ――――定期セルフチェック・終了・問題ありません。

 

 現実世界でもこちらの世界でも、一日足りとて欠かさないセルフチェック。どちらの世界でも変わらない。()()()()()()()()()()()()()()

 さりとてマリアの鋼の肉体がこちらの世界に物理的に入り込んだわけではない。

 マリアの身体も、そしてカオスの身体もちゃんと現実世界に存在している。(当然横島も、である)

 これはとある存在の能力の成果であり、またこの事を知った時のカオスは凄絶な笑みを浮かべていた。

 

「ドクター・カオス・そろそろ・休憩の時間です」

「む? おお、もうそんな時間か」

 

 マリアの体内時計は十五時五分前を指し示している。十五時――――午後三時はおやつの時間。これは全鎮守府の共通事項である。この時間になると何人もの艦娘が執務室にやって来て、バカ話に盛り上がりつつ仲良くおやつを食するのだ。

 カオスは背筋を伸ばし、固まった肩をぐるぐると回して解しながら息を吐く。

 

「うーむ、この歳になるとすぐに肩が凝るのう」

「あ、じゃあ後でまた電がお爺ちゃんの肩を揉んであげるのです」

「おお、頼めるか」

「はいなのです」

 

 可可と笑い、大きな手で電の頭を撫でる。それを享受する電は嬉しそうに笑みを浮かべている。

 正直な話し、電は力が弱く、肩もみも上手いとは言えない。しかし、一生懸命に肩を揉む電の優しさがカオスには嬉しかった。

 マリアの目から見ても、カオスと電の二人は祖父と孫の様に見える。二人にそう告げると、二人共が満更でもなさそうに笑みを浮かべたのは記憶に新しい。

 そしてその際に電から「……という事は、マリアさんは電のお母さんなのです?」と問われた時の衝撃は、生涯忘れる事は出来ないだろう。

 思わず思い描いてしまったのだ。親として共に(こども)を育む、己と横島の姿を。

 ――――その後、マリアから異音や警報音が鳴り響き、熱暴走を始めたのは余談である。

 

 

 

 今日のおやつはクリームの入った大判焼き。鎮守府のいたる所で「今川焼き!」「人形焼きだ!」「御座候でそうろう!」など、呼び名に関して戦争が巻き起こっている。

 中には「クリームなんて邪道よ!」と言いながら至福の表情で大判焼きを頬張っている者もいる。

 ちなみに翌日のおやつは『きのこの里』と『たけのこの山』の選択式だ。きっと血の雨が降る事だろう。

 

「だからね、ご主人様。特別感が無さすぎると思うんですよ」

「……いきなり何の話じゃ、(さざなみ)よ」

 

 大判焼きをもっちもっちと食らいつつ、駆逐艦“漣”は酒も呑んでないのにカオスにくだを巻いていた。

 

「大淀さんと明石さんの事ですよ」

「……ふむ」

 

 一応カオスにも心当たりはあった。

 

「せっかく隠しキャラ扱いで任務娘、アイテム屋娘として正体(?)を隠してるのにさー、二人の艤装が1-1、1-2とかでバンバンドロップするのはもったいないと思うんですよ!」

「それはまあ確かに」

 

 各鎮守府に於いて大淀と明石の艤装は最初から装備されている訳ではなく、何処かの海域で低確率でドロップする艤装を探し出さなくてはならない。

 しかし、この時のカオス鎮守府では二人の艤装は全ての海域のマス目でドロップ出来る状態であった。何ともロマンに欠ける話である。

 

「うちの鎮守府は()()()()()()()()そういった意味で配慮されてるのかもしんないけど、これじゃモチベ下がっちゃうっていうか何というかー……」

「うむ……。まあ、気持ちは分かる。レア物は困難を乗り越え、苦労の先に手に入れてこそありがたみが分かるというもの。今の状態では……まあ、健全とは言い難いの」

「マジでそうですよ。さっすがご主人様、話が分かるぅ♪」

 

 どうやらカオスも漣と同意見の様で、現状に少々不満があるようだ。

 

「でもさー、何回も何回も周回せずに済むんだから楽出来て良いじゃんか」

 

 と、二人に意見する者が現れる。重巡洋艦“鈴谷”だ。

 

「カーッ! なんちゃってJKはこれだから! 楽する事ばっか考えてないで少しは努力する事を覚えたらどうなんだ!」

「はぁー!? こっちはあんたの自己満足と違って効率の話をしてるんですけどー!? オタクって自分の事ばっかで他人の事なんて全然考えないくせに口だけは達者でエラソーじゃん!」

「にゃにおう!?」

「何よ!?」

「やめんか、お主ら」

 

 意見の違いからか、漣と鈴谷の二人は口喧嘩を始める。額をゴリゴリとぶつけ合い、超至近距離からにらみ合うその姿は最早カオス鎮守府では見慣れた光景となっていた。

 やがて二人は化粧や髪のセットが崩れるのも構わず互いの頬や髪を引っ張り合い、取っ組み合いのケンカへと発展する。

 結局二人はマリアに拳骨を落とされ、ぐったりとした状態で執務室から放り出された。これもいつもの事である。

 

「まったく……。普段は仲が良いのに、あやつらにも困ったもんじゃ」

「あはははは……」

 

 カオスの言葉に、その場にいた者は呆れた様に笑った。

 そう。その実、漣と鈴谷は仲が良い。漣は鈴谷にオシャレについて教えてもらい、鈴谷は漣に流行の漫画などを教えてもらっている。

 しかし、こと出撃任務に対するスタンスの違いでよく衝突しているのだ。それでも二人の友情は篤く、何だかんだ一緒に行動している姿がよく見られる。

 

「……それで・どうされますか・ドクター・カオス」

「うむ。我が鎮守府に課せられた任務は海域の攻略に加え、兵装の研究・開発・改造、そして特殊艦艇の試用じゃから、今の方がありがたいと言えばありがたい」

 

 そう、カオス鎮守府でドロップ率が高いのは何も大淀・明石の艤装だけではない。

 潜水艦、海防艦など、特殊な運用をする艦娘のドロップ率・建造率が高くなっている。

 

「でもさー、それが任務だって言うなら最初っからそういった艦娘で固めておいた方が効率が良いと思うんだけど……何でそうならなかったんだろ?」

 

 そう疑問を口にしたのは正規空母“蒼龍”。

 一人だけあんこ入りの大判焼きを上下に切り分け、間にバターを塗ったスライスチーズを数枚挟むという珍しい食べ方をしている彼女は、後にカオスから聞いた『チーズあんシメサババーガー』に興味を示し、再現しようと試みる事になる……のだが、今は関係ない。

 

「ふむ。ワシも以前それが気になって尋ねた事があるんじゃが……」

 

 各鎮守府――――宇宙のタマゴには、それぞれ神魔の最高指導部から任命された担当者が付いている。

 例えば横島の担当は“阿部テル”こと“熾天使アブデル”という少々特殊な趣味をお持ちの方なのであるが、カオスを担当する者は非常に真面目な性格の持ち主だ。

 ――――その名は“熾天使ミカエル”。天使の中の天使と称され、全ての天使たちを統括する『大天使長』である。()()は家須からの命で自らの力を封じ、人間としてデーエムエムで働いていた。

 

 横島が提督となってから現実世界で数日、ようやくマリアの調整が終わり、パソコンと接続出来るようになった。ミカエルは仕事がようやく一段落付き、ほっと息を吐く。

 ここまで来れば後は楽なものだ。仕様書と入力された設定の最終確認を済ませ、家須に報告を上げるだけだ。

 

「さて、後はこれが終われば――――っ!?」

 

 ペラペラと仕様書を捲っていると、突如として社内にほんの一瞬だけ莫大な神力と魔力が満ちる。その二つの力をミカエルは知っている。神魔の最高指導者達の力だ。

 

「一体何があった……!?」

 

 ミカエルは困惑しながらも力の発生源――――仮眠室へと向かう。本来の彼女ならば一瞬で転移出来るのだが、力を封じているので走っていくしかない。

 人間界にこれ以上の混乱を齎さない様に、という理由で為された措置であり、ミカエルもそれには納得していたのだが、今この時はどうしても煩わしく感じてしまう。

 やがて辿り着いた仮眠室はすっかりと異界化してしまっていた。自分以外にも何人かが来ていたが、いずれもそれを眺めているしかない状況である。

 

「な、何なのだこれは……。結界が敷かれているおかげで周囲に影響はないようだが……」

 

 対応に迷うミカエル達であったが、次の瞬間、結界は異界ごとその身をギュッと収縮させ消滅した。

 そしてその場の皆が見守る中、常の姿を取り戻した仮眠室から出てきたのは、苦虫を噛み潰した様な顔をしている家須と、阿部(アブデル)を肩に担ぎ、不機嫌なのを隠そうともしない佐多の二人であった。

 

「お、お二人共……一体、何があったのです……?」

 

 家須達の様子を見て誰もが尻込みする中、ミカエルが代表して二人に問い掛けた。

 

「ああ、見神(みかん)さん。それなのですが……」

 

 ――――熾堂(しどう) 見神。それがミカエルの人間としての名だ。デーエムエム本社内では基本的に人間名を呼び合う規則となっている。

 家須と佐多は目を見合わせ、同時に深く長い溜め息を吐くと、家須がミカエル――――見神へと事の仔細を説明した。

 

「……一体何をしているんだ、こいつは……」

「ホンマにな」

 

 見神は頭痛を抑える事が出来なかった。痛むこめかみを押さえつつ、新宿二丁目に阿部を連行していく佐多に「ご苦労をおかけします」と頭を下げる。佐多に対してこれほど申し訳ない気持ちになったのは、それこそ生まれて初めてだろう。

 その後家須がその場を解散させ、皆に通常業務に戻るよう指示を出す。あと少しで仕事が終わるという所で妙な邪魔が入ったものだ。

 見神は自分のデスクに戻り、仕様書と設定を再確認。そして――――猛烈な勢いで設定を変更し始めた。

 

「……む? 何をしている見神。設定はもう終わったはずではなかったのか?」

 

 パソコンの画面を見つめ、超高速でタイピングする見神に、一人の男性が声を掛ける。

 二メートルに程近い長身、さらりと風に流れる金の髪、鼻筋は通り、前を見据える双眸には強い意志と固い決意が宿っている。

 まさに美丈夫と呼ぶに相応しい容姿の持ち主だ。彼がその場に現われるだけで周囲の女性社員がうっとりと溜め息を零す。

 しかし、見神はそんな彼に一瞥もせず、モニターに顔を向けたままだ。

 

「ああ、ウリエルか。なに、設定を変更しなくてはならなくなってな」

「ここでは人間の名で呼べ。……それで、何をどう変更するのだ? 可能な範囲であれば私も手を貸すが」

 

 見神に“ウリエル”と呼ばれた男性はまた仕事を背負い込んでしまった同僚を手伝うべく詳細を聞こうとする。

 

「ありがたい。変更する点は初期艦候補達、任務報酬の艦娘、建造可能な艦娘、各海域でのドロップ艦、またそれらの確率の調整だ」

「――――……何だと?」

 

 ウリエルは見神が語った変更内容に耳を疑った。それはもはや独断で変更して良い範疇を飛び越え過ぎている。

 

「待て、この事は最高指導者のお二人も知って――――ええい、手を止めろ!!」

「離せウリエル! これには私の名誉に関わるんだ!」

「何を訳の分からぬ事を……!?」

 

 ウリエルの制止も聞かず、見神は必死の形相で拘束を振り払う。

 

「私は……私は……!!」

 

 二人のやり取りに俄かに注目が集まる中、見神は本当に切羽詰まった様な声で叫びを上げる。

 

「私は――――断じてロリコンなどではない!!!」

「本当に何の話だ!!?」

 

 それは魂からの咆哮だった。

 カオス鎮守府では他の鎮守府よりも特殊艦艇が建造・ドロップしやすい設定となっている。

 現在実装されている特殊艦艇のほとんどが潜水艦と海防艦である。その外見は、ほとんどの者が非常に幼い見た目をしていたのだ――――。

 その後、何やかんやあって騒動が家須の耳にも入り、何とかドロップ率の調整で妥協する事となった。

 今回の件で見神は家須からお叱りを受ける事となったが、普段の勤務態度も真面目であるし、理由が理由なだけに処分は厳重注意に留まった。

 某所で阿部が「何故私だけがこんな目にいいいぃ!!」と呪詛を吐いていたが、それを聞いてくれる者は誰も居てはくれないのであった……。

 

 

 

「――――という様な事があったらしくての」

「うわぁ……」

 

 カオスの話に聞いていた皆は頬を引きつらせる。

 

「それで今に繋がっている訳なんじゃが……どうも初期案ではうちの鎮守府は特殊艦艇だけの編成になる予定じゃったらしい」

「え、そうなの?」

 

 驚く蒼龍にカオスは「うむ」と頷いた。

 

「それに待ったをかけたのがいての。ワシ以外の()()()()()の内、二人がそれに異議を唱えたんじゃ。

 何でも『ゲームのテストプレイも兼ねているのだから最低限の条件は揃えるべき』『場合によっては詰みかねないからある程度余裕が出来てから研究は行うべき』とか」

「……ん˝ん~」

 

 言いたい事は分かる。特殊艦艇は一芸に特化した能力・性能の艦娘が多く、それ以外の能力が軒並み低いという問題点も抱えている。

 それを何とかするのがカオスの任務と言えるのだが、二人の提督はそれを踏まえてこう言ってのけた。

 

「曰く――――『まずは真っ当にゲームを楽しんでほしい』……じゃと」

「……そういう事言ってる場合じゃなくない?」

 

 その言葉を聞いた蒼龍は表情をムッと歪ませる。蒼龍だけではない。その場の艦娘全員が同じ様に顔をしかめていた。

 

「っていうか、よくそんな理由で通ったね?」

 

 気怠そうに軽巡洋艦“北上”が問う。

 

「うむ。その二人の内一人は神界でもかなり発言力が高い存在なんじゃ。そしてもう一人は……そやつが居らんとそもそも作戦が成り立たん。そういう立場の者でな」

「あー……それってつまり……?」

「そう。断るに断れん」

「なるほどなー」

 

 ソファーに座っていた北上の身体が背もたれに沿ってズリズリと沈む。彼女の心境を表しているのだろうが、その分腰が前へと突き出され、少々はしたない格好だ。スカートも捲れ、もう少しで下着が見えてしまう所まで来ている。

 ここに横島と横島鎮守府の大井が居れば身を乗り出してかぶりつくところだが、カオスは一顧だにせず思考を巡らせる。

 それに、と。

 

 ――――ワシらは深海霊団棲姫の討伐メンバーからは外れとるからのう。

 

 ゲームを楽しんでほしい、とはそういう意味も込められていた。

 

「まあ文句を言っても始まらん。今出来る事をやっていくしかないんじゃからな」

 

 そう言ってカオスは徐に立ち上がる。

 

「差し当たっては()()じゃ」

 

 カオスはやや傾き始めている陽光の差し込む窓まで歩き、外を指差す。

 見なくても皆はその場所を理解している。そして、カオスがやろうとしている事も。

 

()()()()……試してみようか」

 

 大型建造――――正しくは大型艦建造。大量の資材を使用することで巨大戦艦、中小型新鋭艦、空母を建造する事が出来るシステムだ。

 各基本資材の最低投入値は燃料:1500、弾薬:1500、鋼材:2000、ボーキサイト:1000であり、最大値は各7000。開発資材は1、20、100からの選択式であり、高速建造材を使う際には一度に10個を消費する。

 これらの量とバランスを調整する事で、建造出来る艦艇の種類をある程度はコントロールする事が可能となる。しかし、だからといって望む艦を絶対に手に入れる事が出来るという事は無く、建造される艦娘も中々に幅が広い。通常の建造で手に入れられる艦娘もこの大型建造に数多く含まれている。

 要するに多少の違いがあるだけで基本は通常の建造とほぼ変わらないのだ。

 

「……まあ、今のところは、じゃが」

「いやー、提督! 楽しみですねー大型建造! 昨日これが出来てからずっと楽しみにしてたんですよ!!」

「ええい纏わりつくでない!」

 

 工廠に着くや否やカオスは明石に纏わりつかれた。明石の目はらんらんと輝いており、新たな技術を使う事に酷く興奮している事が良く分かる。

 そんな二人の視線の先、建造ドックの一画には特殊な建造ドックが新たに作られている。これが大型建造用のドックだ。

 現在このドックが存在するのはカオス鎮守府だけであり、他の鎮守府にはまだ実装されていない。カオスが検証を進める事でいずれ他の各鎮守府にも実装されていく事になる。

 なおカオスが大型建造に使用する資材はある程度補填される事になっている。かなりの数をこなさなければならないので、大本営(うんえい)が気を利かせてくれたのだ。

 

「どーせなら全部タダにしてくれたらいいのにねー」

「流石にそういう訳にもいくまいて。何事にも限界や制限はある。それに、こういった縛りがあった方が面白いもんじゃよ」

「おお、かっこいいねー!」

 

 唇を尖らせて文句を言う北上にカオスは苦笑しつつそう答えた。

 ちなみにだがカオスは大型建造について家須達から説明があった際、「全部タダでええじゃろ!?」と3時間程交渉(おねだり)しているが、それが受け入れられる事は流石になかった。背後のマリアの視線が痛い。

 

「さて、では投入する資材じゃが……個人的には戦艦が欲しい。とりあえず通常の建造と同じく鋼材を多めにしてみるか」

 

 カオスは早速明石と投入する資材について相談し、端末に打ち込んでいく。補填されると言ってもそれはすぐに、という訳ではない。大本営(うんえい)にどの資材をどれだけ使いましたよ、という書類を作成し、それが受理されてからになる。どうしてもタイムラグは発生するので節約はしなくてはならない。

 

「……では燃料:4000、弾薬:7000、鋼材:7000、ボーキサイト:2000、開発資材:20でやってみましょうか」

「うむ。……一度に大量の資材を使うのは何とも気持ちが良いな……!!」

「癖になりますよね!」

 

 興奮した面持ちで大型建造用ドックを見つめるカオスと明石。二人の表情を見ている北上は何とも言い難い微妙な気分になる。

 

「どうでもいいけど無駄使いはやめてよー? それで苦労するのは私らなんだからさ」

「分かっとるわい。こういうのは偶にやるから気持ちいいんじゃ」

「……あー、うん。分かってるならいいや」

 

 北上の注意も何のその。カオスは視線すら向けずに言葉だけを返す。一応理性は残っている様なので北上もそれ以上は言わなかったが、どことなく危険な雰囲気は未だ漂っている。

 

「……さて、提督。実はまだ大型建造が可能なのですが」

「うむ。……やるか!」

「はい!」

「ぅおーい!? 舌の根も乾かぬ内にー!!」

 

 とりあえず全資材を投入! ……とならなかったのは救いだろうか。

 

「では資材の残りも考えて燃料:4000、弾薬:2000、鋼材:5000、ボーキサイト:5500、開発資材:20でいきましょう」

「うむ」

「うおおぉ……あれだけあった資材がぁ……」

 

 満足そうな顔をしているカオスと明石は絶望の表情を浮かべて打ちひしがれる北上に気付かない。カオス達は後続建造材は使わずにそのまま建造を開始する。

 それぞれの建造時間は『4:00:00』『02:30:00』であった。

 

「ふむ。一方は戦艦じゃと思うが、もう一方は重巡か……?」

「それなら最上型の誰かに来てほしいですねー。鈴谷さんが姉妹艦に来てほしいってずっと言ってましたし」

「どうなるかのう」

 

 これより数時間、カオスと明石は現状について色々と話し合った。今回の大型建造で残りの資材が僅かになってしまったためだ。後ろで北上が涙目で何事かを喚いていたが、二人はそれを全く気にしない。二人の悪い面がここに来て炸裂している。

 がっくりと項垂れる北上の肩に、マリアが慰める様に手を置いた。

 

「……慰めるくらいならまずお爺ちゃんを止めてよ」

「……」

 

 マリアは北上から目を逸らした。

 

「さて、どんな艦娘が建造されるか」

「良い子だといいですね。あと、提督好みの女の子だったらもっといいですね?」

「何を言っとる」

 

 ニマニマといやらしい笑みを浮かべる明石の頭に、カオスは軽くチョップを入れる。「キャー」と言いつつ笑いながら逃げる明石に、カオスは呆れた様な表情を浮かべる。

 

「……?」

 

 視線を大型建造ドックに向ける。何となくではあるが、自分に関わる何かが変わる様な、そんな気がした。それは霊能力者としての勘だろうか。

 

 

 

 ――――この日、カオスは運命と出逢った。

 

 

 

 

 

第五十七話

『出逢い』

~了~

 

 

 

☆おまけ☆

 

熾天使ミカエル

 

四大天使の一人。その名は“神のごとき者”を意味する。

火の属性を司り、今はこの世界から離れた古き神より“炎の神剣レーヴァテイン”を受け継いでいる。

カオス鎮守府がある宇宙のタマゴの担当者。家須の右腕であり、今回の任務に家須から直々に指名された。

 

人間としての名前は“熾堂 見神”。ウェーブの掛かった金の長髪の美人なお姉さん。

 

 

熾天使ウリエル

 

四大天使の一人。その名は“神の光”“神の炎”を意味する。

地の属性を司り、今はこの世界から離れた古き神より“神槍グングニル”を受け継いでいる。

ミカエルの補佐をしており、基本的にカオス達とはあまり関わらない。人間があまり好きではない。

 

人間としての名前は“瓜江(うりえ) (りゅう)”。変な眉毛の美形なお兄さん。

 

 

 

 

間宮「明日の晩御飯はお好み焼きにしましょう」

伊良湖「はい。……もちろん関西風、広島風の選択式ですよね」

間宮「ふふふ……」

伊良湖「ふふふふふ……」

間宮「争え……」

伊良湖「もっと争え……」

 

 




出逢ってなくない?(挨拶)

これはタイトル詐欺。許されない。

今回もカオスの話。とある艦娘達が建造されるところですね。
一体誰と誰なんだ……?

次回はこの続きかあるいはあえて斉天大聖のところにしようか……。

それではまた次回。

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