複数のゲームのイベントが重なると、本当キツイです……。
積みゲーを減らさなきゃ……積みプラも減らさなきゃ……。
あ、最新のガンプラとフレームアームズガールとメガミデバイスとスーパーミニプラだ~……うふふふふふ。
それではまたあとがきで。
全ては、およそ一時間ほど前のことだった。
本来のルートから外れ、運送船団との戦闘になった。艦隊旗艦は龍田、以下名取・球磨・多摩・電・曙の六名が今回の出撃メンバーである。
羅針盤の運には恵まれなかったが、それでも戦闘に関しては順調だった。輸送ワ級に駆逐ニ級。この二種は問題なく撃沈し、戦艦ル級も名取と多摩が中破しつつも沈めることが出来た。――――
「………………」
守る者がいなくなった海の上、軽巡ト級は未だ動きを見せず、ぼんやりとしたまま佇んでいた。身動ぎ一つせず、ただ他の船に守られていたその姿はあまりにも不可解であり、また不気味な印象を抱かせる。
最後の一隻であるト級を沈めんと艦娘が動く。……その刹那、ト級の身体から、ゆらりと陽炎のようなものが立ち上る。
端末越しにそれを見た横島の背筋に電流が走り、直感のままに指示を叫ぶ。
『――――全員、攻撃は最小限にして防御と回避に専念しろっ!!』
「えっ!?」
「ちょ、クソ提督いきなり何を……っ!?」
いきなりの強い焦りを含んだ命令に、艦娘達は思わずト級から意識を逸らしてしまう。……致命的な隙だ。
『来るぞっ!』
注意を促す横島――――瞬間、ト級がその姿に似合わぬ猛烈なスピードで突進を繰り出す。
「く――――っ!!」
向かうは曙。狙われた曙は咄嗟に主砲の照準を合わせ、何度か引き金を絞る。
狙い通り進んだ砲弾はト級に命中し、爆煙を広げる。駆逐艦の砲撃とはいえ、通常ならばまともに命中すればただではすまない。
そう、
「なっ!?」
爆煙を突き破り、ト級が勢いそのままに突っ込んでくる。驚いたことに、ト級の身体は完全な無傷であった。驚愕に身を固めるのも束の間、曙はぐんぐんと迫り来るト級に対し、苦し紛れに機銃を浴びせる。だが、相手には砲撃も通用しなかったのだ。当然、機銃が戦果を挙げることはなく……。
『龍田っ!! 球磨っ!!』
「任せるクマーーーっ!!」
「了解よぉっ!!」
ト級の突進が決まる直前、横島の声に応えた球磨が曙を抱え、横っ飛びに回避する。そして、龍田はすれ違い様にト級の身体に薙刀を這わせ、流し斬りを叩き込んだ。傷も付かなかったが。
「ほぉら、鬼さんこちら~!!」
通じるかは不明だが、龍田は囮も兼ねてト級を挑発しながら曙達から距離を取る。幸いト級は龍田を追っていくのだが、それも挑発に乗ったというような様子ではなく、ただ
曙達から充分に距離を取った龍田はUターンし、猛然とト級に向かう。先ほどの流し斬りがまるで効かなかったのが彼女のプライドを刺激したのだろう。ト級は両肩の巨大な口の上部に存在する主砲の照準を龍田に合わせ、砲撃を開始する。しかし、その動きは龍田からすれば緩慢なもの。撃った時には既に射線上にはおらず、ト級の死角に潜り込んでいた。
「――――シッ!!」
ト級に繰り出される無数の斬撃。それはト級の身体にいくつもの筋を刻み――――それだけで、終わった。
「……あらぁ~」
龍田の頬がここに来て引きつってしまう。それも当然だろう。何せ、彼女の自慢の薙刀の刃はボロボロに欠けてしまい、だというのに敵の身体には明確な傷を残すことも出来なかったのだから。
気付けば、龍田の眼前にはト級の主砲が。この距離でそれを受ければ、ひとたまりもないだろう。次の瞬間に訪れる死の砲撃に、龍田の身は固まってしまう。そして、ト級の主砲が火を吹いた。
「――――ホームランッ!! なのですっ!!」
まるで稲妻が落ちたかのような轟音と共に、ト級の身体が大きく揺らぐ。ト級が放った砲撃は龍田から外れ、遠く海の彼方へと消えていった。
電が間に合ったのだ。彼女は手に持った錨をフルスイングし、ト級の身体に強烈な一打を文字通り叩き込んだのだ。それによってト級の黒い装甲に亀裂が走る。初めての有効打に龍田と電の表情が和らぐが、それも一瞬のこと。
「う、そでしょう……!?」
ト級は揺らいだ態勢そのままに二人に主砲を向ける。確かに装甲に亀裂が走った。確かにそれは今までにない、強力な一撃だった。
龍田は電をト級の砲撃から守るために抱きかかえ、電はそんな龍田を守るために艤装のサブアームを動かし、盾で龍田を覆う。そして、ト級から放たれた砲弾は二人に直撃し、爆炎と共に吹き飛ばす。
「うああぁぁっ!?」
「きゃあああぁっ!?」
二人の艤装が砕け、身に纏う制服も削られる。続け様に二発、三発と命中する砲弾。龍田・電――――共に大破。
これで球磨と曙を除く四人が中破以上となってしまう。今は無傷の球磨と曙、そして中破した名取と多摩が龍田と電の救援に向かう。ト級の気を引くのは球磨と曙だ。
ト級は既に龍田達から興味を失くしたのか、今度は球磨達を追いかける。あるいは、興味など最初から無かったのかもしれない。そんなト級の振る舞いに曙は苛立ちを募らせていく。
「く……っ」
「落ち着くクマよ。相手に攻撃が通じないなら突っ込んでも無駄クマ。提督の言う通り回避に専念するクマ」
「分かってるわよ……!!」
冷静に行動する球磨は曙にとっても頼りになる存在だ。それだけに曙の苛立ちは収まることは無い。この球磨という艦娘でさえ、強さでは
曙の胸中でドロドロとした感情が渦巻きだす。それを何とか抑えつけ、敵の攻撃から身をかわす中、不意にその会話は聞こえてきた。
『司令官、あのト級、もしかして天龍さんや加賀さん達みたいな……!?』
『……ああ。どうやら、そうみたいだな。
「――――」
その言葉に、身体の芯から
通信機からは横島からの命令が聞こえる。球磨の戸惑いを含んだ静止の声が聞こえる。しかし、曙にとって、それらは既にただの雑音になってしまっていた。
反転しての突撃。曙は大きな叫び声を上げながら、真正面から攻撃を仕掛ける。今までの攻防から自分の攻撃が通用しないのは理解している。それでも攻撃せずにはいられなかった。自分は――――
――――結果、曙を助けるために球磨が割って入り大破。曙も球磨が大破したことによりようやく理性を取り戻したが、その隙を突かれて砲撃をもらい、中破となる。
戦闘はその時点で終了し、横島から撤退命令が出る。ト級は撤退する曙達を何をするでもなくぼうっと見送り、
曙はその様子を見ていた。悔しさと共に、双眸からは涙が流れ出る。口から零れる悪態は……止みそうにない。
「……」
重苦しい雰囲気が執務室の一同を包む。
現在執務室には横島以外に吹雪、霞、天龍、雷、大淀がいるが、誰もが口を開けないでいた。
戦艦をも圧倒した第一艦隊。しかし、そんな彼女たちもたった一体の深海棲艦に撤退を余儀なくされた。
その深海棲艦の名は“軽巡ト級”――――強力な霊波を纏った深海棲艦だった。
「……ずっとこうしてても仕方ないな。吹雪、霞、それから雷。三人でみんなの分の毛布を用意してきてくれ」
「……あっ、はいっ!」
「分かったわ」
軽く溜め息を吐き、横島は吹雪達に命令――――お願いをする。その言葉に吹雪達もようやく正気に戻り、言う通りに動く。
部屋を出て行く三人を見やり、一度天井を見上げ、今度は深い溜め息を吐く。大きく息を吸い込み、長く長く吐き出す。
「……なんだったんだ、あいつ」
そして、ぽつりと呟かれたのはそんな言葉だった。それは回答を期待したものではなく、ただ疑問を口にしただけのもの。
横島としては、霊力を操る深海棲艦の登場に関してはそれほど衝撃を受けていない。まさか、という思いはあったが、それでも艦娘だって霊力を使えるのだ。敵側が使ってきても何ら不思議ではない。だからこそ、横島は天龍をはじめ、扶桑や那珂、空母達に霊力の扱い方を教えていたのだ。
しかし、横島はゴーストスイーパーとしての実力は高いが、彼が持ち得る知識は精々が三流もいいところである。美神から色々と師事を仰いでいるが、それでもあまり上手くはいっていない様子。ある程度の力量を持った者達を率い、それぞれの特徴を活かして成果を出させることは得意でも、技量で劣る者達を教え導き、力を身に付けさせることは不向きのようだ。
名選手が名監督――この場合はコーチだろうか? ――になれるとは限らない、という典型であるといえよう。とにかく、横島に足りないのは知識と経験だ。実戦経験ならば有り余るほどだが……それも、今はあまり関係ない。
今回のように、対策として霊力の扱い方を教えるのならば、それは少数に限定してのことではなく、ちゃんと全員に教えるべきだったのだ。確かに少数に密度の高い修行をつけるのは効果的かもしれないが、こういった軍隊での場合、求められるのは個の力よりも数の力である。
天龍や加賀など数を無視する力を持った艦娘も存在するが、それも無敵ではない。現に天龍は油断から中破したことがある。いくら個の力が強くても、強い個が集まった数には勝てないのだ。
だが、
「あの防御力……異常だな」
そう、横島が何よりも驚いたのは敵の尋常ならざる防御力だ。機銃はおろか主砲ですらまともなダメージが入らず、砲弾を打ち返す威力を持つイナズマ・ホームランですら装甲に傷を付けるので精一杯だったのだ。その防御力は驚嘆に値する。
敵の詳細な情報が分かる者はここにはいない。それを分かっていてもついつい口に出してしまった言葉なのだが、それに、答えられる者は存在していたのだ。
「――――ありゃあ、
その言葉に、横島、そして大淀が発言者に身体ごと向き直る。二人の視線の先、こめかみの辺りを指で押さえた天龍がいた。
「……あいつのこと、なんか知ってんのか?」
「ああ。知ってるっつーか、
天龍は頭をぼりぼりと掻き、詳細を加えていく。その表情は歪んでおり、まるで頭痛に耐えているかのようだ。
「深海棲艦っつーのは、元々海に沈んだ船や人間の怨念だか何だかが形になったもんでな。eliteとかは特別その怨念とかが強い奴なんだよ。んで、そいつらの『沈みたくない』『死にたくない』っていう強い思いが霊力になって、あんだけの防御力を発揮してるらしい。
実際攻撃力とかはそこまでのもんでもなかっただろ? それは、あいつらの意識……つーか、本能? まあ、そんな感じのが防御に力を割いてるからなんだそうだ」
天龍はやはり歪んだ表情を見せながらも、横島に情報を開示する。今はどんな些細な情報でも欲しい。天龍からの情報はとても貴重なものだ。
「そうだったのですか……私もそこまでは知りませんでした」
大淀も疑問には思っているようだが、それでも齎された情報には大変に感心しており、しきりに頷いている。天龍とは反対に彼女の表情は明るい。情報が入るということは、それだけで武器になる。
「ふー……ん」
横島も大淀のように頷き、天龍を横目で見やり――――
「……
――――と、声に出さずに呟いた。
「……
「天龍さん……」
天龍は表情を先ほどまでよりも強く歪め、謝罪を口にする。どうしてこんな大事な情報を相手を見るまで思い出せなかったのか、痛恨の思いだ。大淀も天龍の様子に何も言えないでいる。
今の天龍には未だ痛みを発する頭よりも、胸を刺す罪悪感や自分に対する怒り、失望の方が余程に痛い。思わずシャツの胸元を握り締めてしまうほどだ。
横島はそんな天龍をただ見ていることは出来ず、席を立ち、天龍の髪をそっと撫でる。
「今回の事はしょうがねーって。むしろ謝らなきゃならねーのは俺の方なんだ。……頭、痛いんだろ? どうする、医務室で休んでくるか?」
「ん……いや……」
目の前にいる横島から優しく声を掛けられ、天龍の頬が赤く染まる。こんなことを考えている場合ではないのだが、どうしても意識してしまう。ちらり、と自分よりも背の高い彼の顔を見やれば、真剣な表情でこちらを心配してくれている。それが天龍には嬉しかった。
「……あ」
と、天龍が何事かを言いかけた瞬間、執務室の扉が開け放たれ、毛布を持った吹雪達三人が入室してきた。
「司令官! 毛布の準備、完了しました!」
「おお、サンキュ」
横島は吹雪達を労わるために天龍から離れる。それを残念に思うが、自分の場違いな感情等は本来なら二の次なのだ。残念は残念だが……これが正しい。天龍は一つ頷いた。
「提督、まもなく龍田さん達も帰投するようです」
「うし、じゃあ迎えに行くか」
「はいっ!」
大淀から報告を受けた横島の言葉に、吹雪が力強く応える。無論皆も異存は無く、少々早歩きで港へと向かう。誰一人沈んでいないとはいえ、それでも中破・大破という状態なのだ。早くその身を癒してやりたい。
――――身体の傷はすぐに癒せても、心の傷はそうそう簡単には癒せない。横島はそれを改めて思い知ることになる。
「んあーっ! 疲れたクマー!!」
「本当にゃ……美味しい魚と膝を所望するにゃ……」
「おう、今回はきつかったな。まともな指示を出せなくてすまん。それと、今日の晩飯は焼き魚だ」
「そんなことはないクマよ。提督はいちいち気にしすぎクマ」
「……鮭かにゃ? 鯖かにゃ?」
第一艦隊が帰投した。疲れたというわりには元気に叫んでいる球磨だが、彼女は大破状態である。艦娘の中破・大破状態が人間で言うところの重傷といった状態ではないことは理解しているが、それでも彼女の体力は相当のものであるようだ。多摩は……いつも通りである。
「龍田、大丈夫かっ!?」
「あらぁ、心配してくれるのね、天龍ちゃん」
「電ーっ!! 心配したんだからぁ゛ーっ!!」
「ちょっ、痛い、痛いのです雷ちゃんっ!?」
姉妹艦が大破して帰ってきた二人は大慌てで駆け寄り、重大な怪我がないかを確認する。その際雷は少々力を込め過ぎたらしく、怪我をした部分まで思い切り触れてしまっていた。これには流石の電も雷から逃げてしまう。
「名取さん、お疲れ様です。怪我の方は大丈夫ですか……?」
「うん。ありがとう、吹雪ちゃん」
疲れの色が濃く見える名取を、吹雪が労わる。肩に毛布を羽織り、やや生気に欠けているとはいえ笑顔を浮かべられるあたり、大丈夫そうだ。
「……」
「あなたもお疲れ様。怪我は大丈夫? 入渠の準備は出来てるから、すぐに入れるけど……」
霞は力なく項垂れている曙に毛布を掛けてやり、優しく声を掛ける。声に出しはしないが、曙は小さく頷き、ゆっくりと歩く。
「あ、曙。今回は大丈夫だったけど、今度からはあんまり無茶はすんなよ? 傷は高速修復材ですぐに治るとはいえ、あんまり無理に突っ込まれてもな……」
横島からの言葉に曙の肩が震える。だが、それは言われても仕方のないことである。命令を無視し、勝手に突っ込んで仲間を危険に晒し、自分もまた中破したのだ。
――――惨めだ。曙は自らのあまりの無力さに頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。
「……そうね。私みたいな役立たずなんて使わずに、天龍や加賀さんを使った方がいいんじゃないの? そうすれば中破して無駄な資材を使わずに済むだろうし……」
「え……」
「おい、曙……?」
未だ俯いている彼女の顔は、横島達からは窺い知れない。だが、その言葉に込められた感情――――諦観は、その場の誰にも感じ取ることが出来た。
横島も、曙と仲の良い霞も何と声を掛ければいいのか迷う中、それでも雷は曙に歩み寄る。
「もう、失敗して落ち込むのは分かるけど、自分をそんな風に言っちゃうのはダメよっ! 今回は負けたけど次また頑張って勝ったらいいじゃない! 私も手伝うからさ、ねっ?」
それは純粋に曙のことを心配しての言葉だ。優しく声を掛けられた曙は身体を震わせる。ぽろぽろと水滴が落ち、地面を濡らす。それは曙の涙だ。
「――――……の、よ」
「ん?」
小さく、か細い声が曙から漏れる。雷にはその内容が聞こえなく、最後の部分しか分からなかった。それが伝わったのかは不明だが、曙は深く息を吸い込み、ゆっくりと顔を上げる。
ゆっくり、ゆっくりと……やがて、雷と向かい合う曙は。
「……え」
曙は――――強く強く、雷を睨んでいた。
「……アンタに、何が分かるっていうのよっ!!」
感情の爆発――――。先ほどの雷の言葉を引き金に、彼女の中に
「次に勝てばいい……!? そうでしょうね、それが出来ればいいわよねぇ!! でも攻撃が通じない相手にどうやって勝てっていうのよ!?
曙が叫ぶ内容は、横島鎮守府に存在するほぼ全ての艦娘が抱いていた不満でもある。天龍に加賀、扶桑や那珂といったごく一部の艦娘は横島から特別な扱いを受けている現状は、多かれ少なかれ艦娘に似たような感想を抱かせているのだ。今までは表立っていなかったが、今回、ついにそれが噴出したことになる。
「ちょっと、曙……」
「それに、アンタが手伝ったところで無駄に決まってるでしょうが……!!
「な……んですってぇっ!?」
曙の言葉に、今度は雷の心に怒りが灯る。互いに、もう冷静な判断は出来なくなっていた。
「食堂の手伝いをしてれば痛い思いもしないし、愛しのクソ提督とも一緒にいれるもんねぇっ!! 戦いもしないくせに提督に言い寄ってばっかりで!!」
「こ、の……っ!!」
感情が昂ったのか、雷が大きく右手を振り上げる。このままにすれば、彼女の手は曙の頬を打つだろう。しかし、そうはならない。横島が雷の手を止めたからだ。
「司令官……!!」
「あ……っ」
二人の視線が横島へと向く。雷はなぜ止めたのかと非難するかのように彼を見上げ、曙は横島の顔を見たためか幾分か冷静さを取り戻し、ばつが悪そうな表情を浮かべる。しかし、言った言葉はもう戻らないし、無かったことにも出来ない。
曙が視線を雷に戻せば、彼女は涙を流し、先ほどまでの自分のように強く強く自分を睨みつけてくる。それに思わずたじろいでしまいそうになるが、また同じように睨み返してしまう。意固地になってしまっているのだ。
「……曙」
「……なによ」
「とにかく、今は入渠して傷を治してこい。
「……分かったわ」
身を翻し、曙はドックへと進む。最後に彼女の顔に浮かんでいたものは、後悔だった。
「……もん」
曙が去ったあと、不意に雷から小さな嗚咽と共に言葉が零れる。横島は雷の手を離し、屈んで雷と目線を合わせる。
「逃げ、てなんか、ないもん……っ。私、逃げてないもん……っ!」
「……ああ、分かってるよ。みんな、それは分かってる。……
「~~~~~~っ」
横島は自分にすがり付いてくる雷の頭を撫でる。本当に、曙もそのことは知っている。
「……でも、私……曙ちゃんが言ってたこと、分かります……」
「え……っ!?」
「あ、ち、違うの雷ちゃんっ!! 雷ちゃんのことじゃなくて、その……霊力について……」
思わぬ勘違いを生みそうになったが、名取は言い辛そうにしながらもはっきりと
「んー……まあ、そうクマねぇ」
「にゃぁ……」
名取に賛同するように、球磨と多摩も頷きを返す。
「ああ。俺も痛感してるよ」
横島自身も今までの対応が悪かったことに今更ながら実感を得る。考えはあったのだが、それを周知されていなければ意味はない。
言い訳になるけど、と前置きし、横島は自分の考えを説明する。
「天龍や加賀さん達、霊力を使える艦娘達を個人的に傍に置いていたのは、その霊力を鍛えるためだっていうのは間違いない。でも、それと同時に霊力の基本を覚えてもらって、みんなの講師役をしてもらいたかったためでもあるんだよ」
「講師役クマ?」
「ああ。俺一人じゃ全員に教えるなんて無理だし、何より悪く言えば実験でもあったからな。俺自身誰かに霊力の扱い方を教えるなんてのは不慣れだし、そんなんで多人数に教えても逆効果になりそうだしな」
「にゃ……にゃるほど」
横島は頭をガリガリと掻き、最後に加える。
「それに……今まで何度か“みんなにも霊力はある”って説明してたから、そこらへんは飲み込んでるかと思ってた」
「そういえば……言……ってましたね、提督さん」
そう、全ての艦娘は霊力を持っている。確かに横島はそれを皆の前で説明をしたことがある。だが、それでも横島は特定の艦娘以外の霊力を鍛えようとはしなかったし、訓練の仕方も教えはしなかった。師がいない状態で独自に霊力を扱うのは危険を伴うとはいえ、これではそれを信じない艦娘が多くいてもおかしくはないだろう。
「あと、もうすぐ天龍達が基本を習得しそうだったから、それからみんなに訓練をつけてもらうつもりだったんだよ」
「あ゛ー……何というか、タイミングが悪かったクマね」
「俺の説明不足に違いはないけどな」
横島は考える。敵の軽巡ト級eliteについてだが、確かに難敵であると言える。しかし、はっきりと言ってしまえば脅威であるわけではまったくない。沈めるならばすぐにでも可能だ。
天龍、加賀……あるいは扶桑といった強い霊力を持った者をあの海域に向かわせればいい。横島の見立てでは、あのト級eliteはそれで片が付く程度の強さだ。しかし、それでは何の意味もない。
――――あの軽巡ト級eliteは、
「……」
あのことが脳裏を掠める。横島はその為の手段に当たりをつけていた。それが正しいのだろうという予感もある。だが、それを行うと
……決心は、つかない。
「……天龍」
「ん、何だよ提督」
真剣な声音で名を呼ぶ横島に、天龍は首を傾げる。彼女は落ち着いているようだが、実は曙が感情を爆発させた辺りからずっと混乱しっぱなしである。龍田の服の裾をずっと握り締めているのがその証拠だ。……龍田は龍田で少々興奮してしまっている。そして、次の横島の発言で天龍は更に混乱してしまうことになるのだ。
「刀、貸してくれ」
「……何で?」
天龍の頭に疑問符が浮かぶ。「いや、別にいいけどさ……?」と、困惑しながらも愛用の刀を差し出す天龍は人が良い。
横島は天龍から受け取った刀を空へと翳す。忌々しいほどに青い空だ。
青い空を見つめ、不意に横島は笑みを漏らす。そして、手に持った鞘に収まったままの刀を、思い切り、力いっぱい自らの股間に叩き付けた――――!!
「ちょおおおおおおおおっ!!? ナニやってんだ提督うううううううっ!!?」
天龍のその叫びが全てを物語っている。刀がナニに衝突した瞬間、『チーン』という金属音がしたような気がするがそれはこの際どうでもいい。何故自分の股間を刀で強かに打ったのか。何故自前の武器ではなく他人の武器を使ったのか。そもそもそんなことをして大丈夫なのかなど、疑問はいくらでも出てくる。
「ふ、ふふふふふふふふふふ……っ!!」
「ヒィッ!?」
突然横島の口から漏れる怪しげな笑い声。当然皆はドン引きだ。彼の心はついに壊れてしまったのか……!? 断っておくが、断じてそうではない。
彼は、“痛み”を欲したのだ。心的な痛みを誤魔化すための、肉体的な痛み。それは爪を噛み切るような、指の皮を噛み千切るような、そんな行為。
――――痛い。とても痛い。それも当然だ。金的とは男女共通の最大の急所である。そこを刀という鉄の塊でぶん殴れば痛いに決まっている。横島は今回の行動を少し後悔していた。
「……そうだな。そうだよな……」
「な、何がですか司令官!?」
不意に呟く横島に身体をビクリと震わせ、吹雪が横島の顔を覗きこむ。患部は大丈夫なのかと、横島の股間に手を伸ばしかけたのは彼女だけの秘密だ。
横島はゆっくりと立ち上がる。そしてもう一度空を見上げ、大きく息を吐く。――――決心がついたのだ。後ろ向きではあるが、それでも、前に進むための決心が。
まず、吹雪。次いで天龍、龍田、球磨、多摩、名取と――――艦娘の皆を見回していく。皆は「気でも狂っちゃったの?」という表情をしていたが、それは置いておこう。ともかく、横島はこう思うのだ。
――――目の前のみんなを蔑ろにして、
「……どーせ後悔するなら」
「え?」
ぽつりと零れた言葉に反応する吹雪だが、横島は首を横に振るだけ。
このまま何もせずにいるのも、行動を起こすのも、どちらも後悔するというのなら――――全ては、行動を起こしてからだ。
「吹雪、霞」
「は、はいっ」
「……何よ?」
横島に声を掛けられた二人はやや身を竦めている。やはり先ほどの一連の行動は彼女達に恐怖を与えてしまったのだろう。それも当然と言えるのだが。
「みんなの入渠が済んでから……そうだな、一時間後に全艦娘を会議室に集めてくれ」
「みんなを会議室に、ですか?」
「ああ。色々と説明しなきゃいけないことがあるし、何より……」
「……?」
言葉を濁す横島に吹雪は疑問を抱くが、それでもそれはきっと艦娘にとって良いことなのだろうと信頼を寄せる。そして霞は横島へと歩み寄り、その背中をバシッと叩く。
「何をするのかは知らないけど、思うようにやってみたらいいわ。もしも、何か大変なことになったら私も場を収めるのを協力するから、好きなようにやりなさい」
「――――おうっ!」
霞は曙の親友の一人だ。そんな彼女が、今回の件について横島を信じ、全てを委ねてくれている。その信頼に報いねばならない。
横島は自分らしくないと自嘲する。自分らしくない。自分らしくないが――――自分を信頼してくれる彼女達の見る目が正しかったことを、証明してみせる。
――――曙。そうすれば、お前も許してくれるかな。
横島は決意も新たに、曙がいるだろうドックを見つめる。やり遂げなければならない。この鎮守府の司令官として、
例え後悔するとしても、横島は決断を下さなければならない。この鎮守府の、司令官として。
第二十九話
『後悔するなら』
~了~
大淀「……」
大淀「……」
大淀「……あれ、私は?」
すまぬ……すまぬ……っ!! 大淀さんはドックの用意をしていたということで、どうか一つ……!!
お疲れ様でした。
とりあえず切りの良いところで分割しました。
……それで前回の約2.3倍の文章量……だから私は何をしているのかと。
同じようなことになったら、みんなも曙みたいにキレると思います。
キレますよね? ……キレませんかね……?
ト級eliteは簡単に言えば黒光りし、大きく、そしてとても固い……そんな深海棲艦です。口を慎みたまえ。嘘は言ってません。特徴を詳しく語っているだけです。
……簡単に言えばぶっちゃけ固いだけですね。eliteではあるので攻撃力はそこそこですが、防御力の方が圧倒的です。
例えるならレベル100のイワークとかそんな感じでしょうか……。
とりあえず次回で諸々の所は解決します。無理矢理にでも解決させます。
今回と次回は反応が色々と怖いなぁ……。
それではまた次回。
追伸
ねんがんの ニンテンドースイッチをてにいれたぞ!