煩悩日和   作:タナボルタ

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今回から第二章『南西諸島海域』攻略編がスタートです。
さっそく新たな艦娘が登場いたします。さて、一体誰が登場するのでしょうか(すっとぼけ)


『南西諸島海域』攻略編
独特なシルエットは希少価値だ!!


 

 ――デーエムエム社長室。

 この日、家須と佐多……キーやんとサっちゃんの2人は横島からのレポートを読んでいた。

 

「いやー、よこっちはレポートをこまめに提出してくれるから助かりますね」

「ホンマにのう。他の奴らは攻略や育成、研究に熱中し過ぎて全然送ってこーへんからなあ。送ってきたと思ったら惚気られたりとかこっちは知るかっちゅー話や」

 

 サっちゃんの愚痴にキーやんはうんうんと頷く。流石にこの2人にも他人の惚気話を楽しむことは出来なかったようだ。それが特に親しくもない人物ならば尚更である。

 そのままキーやん達は横島のレポートを読み進めていくのだが、2人は次第に読むスピードが落ちていく。

 

「……何やろな。何か、よこっちの機嫌が悪いっちゅーか、ワシらに対するそこはかとない嫌悪感が滲んでるというか……」

「確かに何かしらの悪感情を感じますね……」

 

 2人は首を傾げる。確かに色々とあったせいで横島の鎮守府がおかしなことになってしまったこともあるが、それは既に解決済みであるし、何よりその後のレポートでは特に妙な感情も込められていなかった。だと言うのに、今回のレポートには何かしらの念が込められている。

 一体何故? と思う2人ではあるが、一応心当たりがないでもなかったりする。

 

「……これは、私達の正体がバレてしまったのかもしれませんね」

「あー……それはあるかもしれんなあ……」

 

 キーやんの言葉にサっちゃんは頭を掻く。

 キーやんとサっちゃんの正体。それは即ち神魔の最高指導者であるということ。2人には、横島が自分達に対して悪感情を向ける理由も承知している。

 

「……あんなことがあったんです。彼が私達に良い感情を抱くことはないでしょうね」

「そりゃあ……まあなあ……」

 

 2人の間の空気は沈んでいく。今や横島は2人にとってお気に入りの存在だ。だからこそ、そんな横島に嫌われるのは少々堪えるものがある。

 だが、同時に2人は横島に何とも言いがたい感情を抱いてもいるのだ。その原因はレポートにある。

 

「……自己嫌悪も感じられますね。他には拒絶や許容……感謝なども」

「ええ子やなあ、よこっちは……おっちゃん、泣きそうや」

 

 サっちゃんはふざけてハンカチを目元に当てて「よよよ……」と泣き真似をしているが、実際にそれくらいに気が高まっていると言える。

 現在彼等は正体を隠すために自ら創った人間の身体の中に入っているのだが、どうもそれが影響しているらしい。元々サっちゃんの涙腺が弱いというのも無関係ではないだろう。

 

 レポートに込められている横島の感情は、キーやん達への怒りや失望、拒絶。更に彼等にそんな風な感情を抱いてしまった自分への嫌悪と彼等を許容する心、そして彼等に対する感謝である。

 横島はあの戦いのことを未だ吹っ切れずにいるが、それでも前を向いて生きている。あんなことになった原因の1つである者達をも、彼は赦そうとしているのだ。

 

 キーやんとサっちゃんの2人は暫し「ジーン……」とわざわざ口に出して感動を顕にする。横島が自分達に対してネガティブではなく、ポジティブな感情を抱こうとしているのだ。自分達もそれに肖り、ポジティブに行こうと気持ちを切り替える。

 

「それにしても私達の完璧な変装を見破るとは……流石はあの美神令子の弟子ですね。かなりの洞察力です」

「せやな。ワシらの変装はジークも小竜姫も絶賛してくれたんやけどな」

 

 この2人、本気である。付き合わされた小竜姫達には同情を禁じえない。

 

「さて、それじゃあ気分を変えてよこっちの鎮守府の戦闘シーンを見てみますか」

「そやな。まだ戦艦も空母もないよこっち鎮守府やけど、それがまたえーねんよなー」

 

 2人はいそいそとパソコンを操作し、横島鎮守府の戦闘記録を閲覧する。

 始めに選んだのは駆逐艦だけでの攻略戦。敵軽巡相手に切った張ったの大立ち回りだ。

 

「おー、それぞれはまだまだ弱いけど、何やえらい士気高いな。お猿のとこは直伝の拳法とかで滅茶苦茶な強さやけど、反対に士気は低いほうやのに……」

 

 サっちゃんは横島鎮守府所属の艦娘達の士気の高さに注目する。皆が横島を慕い、戦果を挙げようとする様は見ていて中々に気持ちが良い。まあ、中には反発している艦娘もいるが、それでも指示には従っている。これからの展開に期待である。

 

「おや、サっちゃんには理由が分からないのですか?」

「ん? キーやんには分かるんか? お猿のおかげで強うなってんのに士気が低い理由」

 

 きょとんとしているキーやんに対し、サっちゃんは懐疑的な視線を向ける。圧倒的な力を手にした艦娘達の士気が低い理由とは一体?

 

「艦娘だって女の子です。自分達の司令官がお猿のじじいと人間の若い男の子では、彼女達の士気に雲泥の差が出るのは当然ですよ」

「………………ああ、うん。そやな……。キーやんの言う通りやな……」

 

 キーやんのどこまでも真っ直ぐな言葉に、サっちゃんは涙を禁じえない。気持ちは分かる。とてもよく分かるのだが……サっちゃんはお猿のじじい――斉天大聖に同情の念を送った。ついでに何か高級なお菓子も送ろうと決めた。

 

「ほらほら、次の映像を流しますよ。お次は1―4の攻略映像です」

「へいへい……」

 

 ウキウキとした様子のキーやんと、反対に疲れたかのような様子のサっちゃん。2人は対照的ながらも仲良く映像を眺め、そして同じ疑問を抱く。

 

「……何や、この天龍えらい強いな? この時点でこの強さはちょい不自然やけど……」

「そうですね。確かにこれは……」

 

 天龍の強さに注目し、注意深く映像を眺める。戦闘も終盤にさしかかった頃、2人の疑問はあっさりと氷解した。

 

「……ああ、なるほど。そういうことですか」

()()()()()()……強いわけや。よこっちはガチャ運もあるんやな」

 

 2人は天龍から立ち上る2色の霊力光を見て納得を示す。サっちゃんの台詞からすると珍しいことではあるが有り得ないことではなく、何らかの理由が存在しているようだ。

 

()()()の差し金やろか?」

「いえ、それはないでしょう。()()()はともかく、()()()は好んでこのようなことはしないでしょうし……」

「それもそうか……」

 

 どうやら2人にはこういったことを人為的に引き起こせる存在と知己であるらしい。2人の表情には物理的に影が差し、いかにも悪人のような雰囲気を漂わせている。

 

「それにしても、この戦闘と言いさっきの戦闘と言い……」

 

 映像を流し終えた画面を消し、キーやんは一息吐く。その表情は少し困ったように歪んでいる。

 

「ああ。このままやと()()()()()()()()()()()()()

 

 ばふーと長い息を吐き、サっちゃんは備え付けのソファーに寝転がる。キーやんとは違い、退屈そうな表情だ。

 

「またレポートが分厚くなりそうですねえ……」

「正確にはデータが嵩張りそうとかやろか」

 

 2人は何ともいえない表情を浮かべたまま仕事に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「空母が欲しい」

「……いきなりどうしたんですか、司令官?」

 

 横島は今日も秘書艦としての職務を全うしてくれている吹雪に、唐突にそんなことを言い出した。

 

「だってさー、1―4でのヲ級の開幕爆撃って滅茶苦茶強かったじゃんか。あーゆーの見たらウチも欲しいってなるじゃん」

「気持ちは分かりますけど……」

 

 横島の言葉に吹雪は苦笑を浮かべる。ああいった分かりやすい強さは確かに魅力的だ。未だに駆逐艦と軽巡しかいない横島鎮守府では余計に。しかし、問題だって多く存在しているのだ。

 

「空母は資材を物凄く消費するんですよ? まだ第3艦隊も開放出来ていませんし、もう少し後でもいいんじゃないですか?」

 

 吹雪は横島に正論で返すのだが、横島は諦められないようで「そりゃ分かってるけどさー」等と唇を尖らせて不満を述べる。何ともわがままなことだが、彼は普段この世界ではあまりわがままを言うことはない。出来れば叶えてあげたいと思う吹雪ではあるが、やはり資材の問題があるので厳しいところだ。

 

「軽空母ならまだ大丈夫だとは思うんですけどね……」

「軽空母? ……あー、ヌ級とかか。そういえばそんな艦種もあったなあ」

 

 そういえばで片付けられるのはいただけない。霞が聞いていれば確実に怒りだすだろう。幸い現在執務室にいるのは横島と吹雪、昼寝中の初雪と望月だけだったのでその心配は無用だったが。

 

「……で、空母と軽空母はどう違うんだ?」

「えーっと、そうですね……」

 

 横島の質問に吹雪が答える。

 簡単に言えば軽空母は正規空母よりも燃費が良く、潜水艦にも攻撃が出来る。デメリットは装甲が薄く、速度もほとんどが低速だ。艦載機の搭載数も正規空母と比べると劣っている。

 

「私達の鎮守府において1番の魅力になるのは、やっぱり燃費の良さでしょうか。確か、正規空母と比べて5割~6割くらいの燃費の良さだったと思いますけど……」

「そりゃいいな! じゃあ軽空母を建造しに行こうぜー」

「ちょ、ちょっと司令官!?」

 

 横島はご機嫌な様子で吹雪の手を引いて工廠を目指す。突然手を繋がれた吹雪は顔を赤く染め、為されるがままの状態だ。そのまま執務室を出て行った2人。執務室の中で、昼寝をしていたはずの2人が徐に起き上がる。

 

「……撮った?」

「……勿論」

 

 初雪と望月がニヤリとした笑みを浮かべながら携帯端末――スマートフォンのようなものを取り出す。どうやら先程の様子を写真に収めたようだ。

 

「いい写真が手に入ったねえ……」

「今度の出撃を代わってもらおう……」

 

 2人は怪しく笑い合う。彼女達のサボり根性は逞しいのだ。

 

 

 

 

 

「軽空母を建造しに来ました」

「……はあ、そうですか」

 

 吹雪の手を引いてやって来た横島は開口一番明石にそう言った。明石はそれに特に反応することもなく、ただ頷いておく。横島の突拍子のない行動は時々見られる光景であり、明石もそれに大分慣れてきている。

 ちなみにだが吹雪はもう真っ赤になっており、とても会話できそうな状況ではない。そんな吹雪の可愛さに明石の頬がニヤつきそうになるが、それは気合で防いだ。男性にニヤついた顔を見られるのは流石に恥ずかしいのである。

 

「で、軽空母を建造したいとのことですけど……レシピはご存知ですか?」

「ああ。前に色々とあってさ。その時に教えてもらった」

「そうですか。でも、空母のレシピは基本的に正規空母・軽空母・水上機母艦・重巡・軽巡・駆逐が建造されます。一発で建造出来るとは限りませんので資材には気を付けて下さいよ?」

「あー、そんなに幅が広いのか……。了解、2回くらいで止めとくよ」

 

 空母レシピで建造される艦娘の幅の広さに、横島はお手上げとばかりに両手を上げる。その際に吹雪はようやく横島から手を離されたのだが、彼女はつい寂しげな声を上げてしまったことをここに記載しておく。

 

「さーて、レシピは燃料300・弾薬30・鋼材400・ボーキ300っと」

 

 横島はひょいひょいと機材を操作し、次々に資材を投入していく。その鮮やかな手並みは明石を感心させるほどだ。

 

「さーて、建造時間は……?」

 

『02:50:00』

 

 2時間50分。

 

「軽空母……ですね」

「いよっしゃー!!」

 

 まさかの一発建造に横島は歓喜する。キーやん達の言う通り中々に運が良いらしい。だったら駆逐艦しか建造出来ないという問題も発生しないはずだとかそういう意見は完全に無視し、横島は高速建造材を使用する。

 

「いつもなら待ってるとこだけど、今日は吹雪もいるし手早く済ませよう」

 

 小型ドックを火炎放射器からの爆炎が包み込む。何度見ても意味の分からない光景だ。やがて炎が治まり、妖精さんが手を振って元の仕事に戻る。そしてドックが開き、元気良く1人の少女が歩み出る。

 

「軽空母“龍驤(りゅうじょう)”や! 独特なシルエットでしょ? でも、艦載機を次々繰り出す――――」

「そんなこったろーと思ったよどちくしょおおおおおおおおーーーーーー!!!」

「ぅええぇっ!!?」

 

 新たに建造された龍驤の台詞を遮り、横島が男泣きに泣きながら怨嗟の雄叫びを上げる。出会って数秒の奇行に龍驤は変な声を出してしまう。

 

「ちょちょちょ、君、どないしたん!?」

「恐らくですが……」

「うわぁっ、君も突然やな明石っ!? それで、この子はどないしたんよ?」

 

 今も横島は悔しそうに恨みのこもりまくった叫びをキーやん達に上げている。今明かされる衝撃の真実なのだが、横島が冒頭のレポートを送ったのはこの出来事があった後だったりする。何て奴だ。

 

「恐らく提督は『空母っていうくらいなんだからきっとチチシリフトモモが母性的な感じに違いない!!』みたいに考えていたのではないかと」

「ほっほぉ~~~う?」

 

 明石の推測に龍驤が横島をギヌロと睨む。確かに彼女は独特なシルエットをしているが、それは同時に彼女のコンプレックスでもあるのだ。その独特なシルエットをここまで露骨に馬鹿にされては許してはおけない。独特なシルエットにだってかなりの需要があるのだ。

 

「でも龍驤もかなりの美少女だし別にいいや」

「ってあっさりと立ち直った!?」

 

 今泣いた烏がもう笑う。まさにお子様な感情の動きだ。横島は身体についた埃を払い、キリッとした表情で龍驤へと向き直る。

 

「俺はこの鎮守府の司令官の横島忠夫。よろしくな、龍驤」

「あ、ああうん。よろしく……。何や随分と浮き沈みの激しい子やな……」

 

 2人はしっかりと握手をし、言葉を交わす。と、段々と横島の手を握る龍驤の力が強くなってきた。

 

「それはそうと君ィ? 司令官もお年頃の男の子やし? おっぱいバインバイーンなんが好きなんも分かるけどさ、流石にさっきみたいのはウチ失礼だと思うんよ」

「あ゛……」

 

 凄む龍驤に横島の顔が青くなる。久しぶりの大失態だ。まさか普通の人間(?)の身で爆撃を受けるような事態になってしまうのか。怖過ぎる未来予想図に少し震えてしまう。

 

「まあその後ウチのこと“美少女”って言ったことは嬉しいけどさ。そんなんでウチは誤魔化されへんよ? ………………んふふ」

「……」

「んふ、んふふふふ……」

「……」

「ふへへ、美少女……美少女かぁ……見る目あるやんか、君ィ」

 

 龍驤は顔を赤らめ、イヤンイヤンと身体をくねらせる。これには横島も傍から見ていた明石も「何だこの可愛い生き物」という感想を抱いた。

 横島は先程独特なシルエットに落胆してしまったことに自己嫌悪する。確かに独特なシルエットだが、それはルシオラもそうだったじゃないか、と。

 かつて愛した、そして今も愛する彼女も独特なシルエットだったのだ。自分はそれをも受け入れるべきなのだ。そしてキーやん達に感謝を捧げよう。こんなにもバリエーション豊かな美少女をたくさん生み出してくれたことを。でも龍驤含め、ロリっ娘が多いのはちょっとどうかと思う。そんな失望と拒絶の意思も込める。何て奴だ。

 

「何はともあれ、これからよろしくな龍驤」

「ふふんっ。任せとき! ウチが来たからには100人力や!!」

 

 こうして横島鎮守府に新しい艦娘が所属した。独特なシルエットの胸を反らし、ふんぞり返る姿は可愛らしい。きっと、これからの海域攻略で大いに活躍してくれることだろう。

 

 

 

 

 ――しかし、横島は知らない。

 とある任務の報酬で、正規空母“赤城(あかぎ)”が手に入るということを。

 しかもそれが、うっかり選択するのを忘れていた任務だったということを――――。

 

 ――任務『敵空母を撃沈せよ!』未達成――

 

 

 

 

第十九話

『独特なシルエットは希少価値だ!!』

~了~

 




新しい艦娘はなんと龍驤でした。(白目)
龍驤の関西弁って難しいんですよね……。関西弁というかアタシ弁というか。とにかく普通の関西弁じゃないんですよね。
コナンのとあるエピソードが思い出されるなぁ……。

あと今後独特なシルエットネタはほとんど登場しないと思います。今回はちょっとやりすぎたかな? って感じですしね。

それではまた次回。

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