煩悩日和   作:タナボルタ

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今回は考察(?)回です。
色々と判明することがありますし、「つまり……どういうことだってばよ?」となる部分があります。


この鎮守府の、司令官

 

ごぼがばごぼごぼぼ(すみませんでしたぁ)っ!!」

 

 現在、天龍は海上で吹雪達に土下座をしている。しかも海面に頭を突っ込んで、だ。そのお陰で吹雪達には何を言っているかが全く伝わっておらず、更には突然の奇行を止めようとしている吹雪達の言葉も頭が海中なのでまるで聞こえていない。

 

「う~ん、困った天龍ちゃんね~……」

 

 これには龍田も苦笑い。彼女は天龍の奇行が何であるか、そしてその理由も理解出来ているのだが、それを自分から言い出すのもつまらない。

 結局、天龍は自分の息が続く限り土下座を続け、吹雪達はそれまで困惑と混乱の直中に放り出されるのであった。

 

 

 

「あ、あの……彼女は大丈夫なんですか……?」

 

 酸素が足りなくてふらふらしている天龍を眺めている龍田の背後から、か細くおどおどとした声が掛けられた。少々警戒して振り向いてみれば、そこには新たな艦娘の姿があった。

 背中までかかる茶色のロングヘアー、那珂と同様の制服姿。川内型2番艦“神通”だ。

 

「あら……あなたがドロップ艦なの~?」

「は、はいっ、そうです。すみませんっ!」

 

 龍田に話しかけられ、神通は思わず謝ってしまう。訓練中などではこのようなことはないのだが、普段は何も悪くないのにすぐに謝ってしまったりと、引っ込み思案であり内気であるのが玉に瑕。

 龍田も「怒ってないんだけどな~」と少々戸惑う。それはさておき、天龍も復活し、神通とも挨拶を交わした。もはやここで出来ることは何もないと言って良いだろう。あとは皆揃って帰るだけだ。

 

「よし、そんじゃあ鎮守府に帰ろうぜ!!」

 

 天龍が前に出る。ついに第1海域を突破したのだ。この1歩はこの世界にとって小さな1歩かもしれないが、艦娘達、そして横島にとっては大きな1歩である。

 そうして意気揚々と1歩を踏み出した天龍は、そのまま踏み出した足を基点にスライドするかのように、綺麗に90度傾いて海面にビターンと叩きつけられた。

 

「……え?」

 

 皆いきなりのことに驚いて声が出ない。しかしそれもほんの一瞬。叢雲は溜め息を吐きつつも天龍の身体を起こす。

 

「あのね、そんな何回も訳の分かんないことをやってんじゃ……?」

 

 ぶつくさと文句を言いながら助け起こそうとする叢雲だが、それ以上言葉が続かない。天龍の身体は完全に脱力しきっている。

 何とか天龍の上半身を起こしてみると、彼女は見事に眼を回しており、「きゅ~……」などと小さな声で唸っている。

 

「……」

 

 沈黙が場を支配する。そんな中、龍田が天龍を横抱きに抱き上げ、皆に指示を出す。

 

「みんな……ダッシュで鎮守府(いえ)に帰るわよ!!」

「了解です!!」

 

 龍田はまるで怪我をしていないかのようなスピードで疾走し、鎮守府を目指す。大破状態とは思えない走りっぷりだ。ただ、その腕の中でガックンガックンと揺られる天龍は時間が経つにつれてどんどんと顔色が悪くなっていったが……ご愁傷様である。

 

 

 

 

「――着いた!!」

 

 それから無事に鎮守府へと帰ることが出来た龍田は、そのままドックを目指す。しかし、丁度前方からやってくる人物を視界に捉えたため、彼女の足は途中で止まることになる。

 

「龍田ー!! 天龍は大丈夫かー!?」

「提督!! 見ての通り天龍ちゃんが気ぜ……キャーーーーーーッ!!?」

 

 龍田は横島の姿を見て、恐怖に引きつったような悲鳴を上げる。それも仕方がないだろう。何せ彼が着ている軍服には、赤黒い血がべっとりと付着しているのだから――!!

 

「て、ててて提督っ!? そ、その血は一体どうしたの~!!?」

 

 恐怖に慄きながらも龍田は横島の服に付いた血の痕に言及する。今の横島の姿はまるで猟奇殺人犯のような出で立ちだ。

 

「心配すんな。ちょっと血を吐いただけだから」

「ちょっとって量じゃないし充分心配なことなんですけど~!!?」

 

 ご尤もである。

 しかし元気にボケをかますあたりはまだまだ心配はないのだろうが、それよりも今は天龍のことだと龍田は頭を切り替える。

 

「ええっと、それよりも天龍ちゃんが突然倒れて「きゅ~」とか可愛い声で唸ってて、どうしたらいいのか……!!」

「落ち着けって龍田。とりあえず天龍のその症状は多分俺が知ってるやつだから」

 

 横島は龍田を落ち着かせるために冷静に話を進めていく。それが功を奏したのか、徐々に龍田にも落ち着きが戻ってくる。そして横島が言う症状の心当たりを聞き出そうとしたのだが、今度はどこからか「ドドド……」という何かが走り寄ってくるような音が聞こえ始める。

 

(司令官ーーーーーー!!)

「この声は……叢雲?」

 

 遠くから聞こえる声の出所を特定し、その方向へ視線をやれば、槍を持った叢雲が猛烈な勢いで走ってくるのが見えた。

 

「司令官ーーーーーー!!」

「どうした、叢雲!! 何が――」

「龍田に悲鳴を上げさせて……!!」

「――へ?」

 

 叢雲が跳ぶ。猛烈な助走から跳躍により勢いが増す。叢雲は両足を揃え、それを横島に思い切り食らわせる!!

 

「何やってんのよアンタはーーーーーーっ!!!」

「ぎゃぼーーーーーーっ!!?」

 

 横島の顔面に、叢雲の見事なドロップキックが突き刺さった。

 横島はもんどりうって吹っ飛び、叢雲は綺麗に着地を決める。吹き飛んだ横島は仰向けに倒れており、頭やら鼻やらから血を流していた。

 

「アンタって奴は駆逐艦以外には本当に誰彼見境のない……!!」

「い、いやあの叢雲ちゃん。誤解、誤解だから」

 

 さすがの龍田もこれほどの暴挙を見たのは初めてなのだろう。すっかり叢雲に対して萎縮している。当の叢雲は横島へと歩み寄って追撃を叩き込もうとしていたのだが、龍田の言葉によって顔を青ざめる。

 

「叢雲ちゃん、待ってー!」

 

 そこに現れるのは龍田と叢雲に置いていかれた残りの艦娘達。必死の思いで走り、ようやく叢雲達に追いついたのだ。そこで彼女達が見たものは、血で赤黒く染まった横島と、それを前に槍を持って佇む叢雲の姿!!

 彼女達の灰色の脳細胞が瞬時に回答を導き出す――――!!

 

「猟奇殺人発生ーーーーーーっ!!?」

「違ーーーーーーうっ!!?」

 

 その後、何やかんやありましたが誤解はちゃんと解けました。

 

 

 

 

「で、アンタ本当に天龍のこの状態について知ってんの?」

「ああ。俺の考えが合ってたらな」

 

 現在、天龍はドックの待合室の床に艤装を外された状態で寝かされている。

 横島は眼を回している天龍に徐に近付き、額に手を当てる。そして空いている方の手に文珠を握り、『診』の文字を刻んだ。

 

「――っ! やっぱり、か……」

 

 手を天龍の額から離した横島は小さく呟く。それは相当に小さな声だったのだが、それでもやはり周囲の艦娘達には聞こえてしまう。

 

「やっぱりって、本当にアンタが知ってる症状だったの?」

「それで、天龍ちゃんは大丈夫なの~?」

 

 龍田と叢雲の2人がずずいと顔を寄せて問い掛ける。横島はその勢いに圧されながらも「大丈夫だから」と宥める。

 

「簡単に言えば霊力の過剰使用だな。限界を超えて霊力を使ったから霊的中枢(チャクラ)と経絡が負荷に耐え切れずにボロボロになったんだ。……要するに霊的な筋肉痛だよ」

 

 そう言って横島が思い出すのは初めて龍神の装具を身に付けた美神の姿。人間の体が龍神の力に耐え切れるはずもなく、彼女は後日酷い霊的な筋肉痛に悩まされた。

 今回の天龍も同じことだ。天龍が最後に放った一撃は、明らかに今の天龍の限界を超えていたものだった。あれほどの力を使ったのなら、今の天龍の状態も頷ける。

 

「えーっと……よく分かんないけど、とにかく天龍は大丈夫なのね?」

「ああ。ただ、これは霊的な症状だからな。バケツですぐに治るかどうか……」

 

 横島はちらりと天龍を見やる。すると、彼女は苦しげに呻きながらも「俺を前線から外すな……死ぬまで戦わせろぉ……」と呟いている。どうやらいつの間にか眼が覚めていたらしい。

 

「うん、こりゃじっくりと体を治してもらわないとな」

「そうね~」

「そんなぁー……」

 

 横島と龍田の言葉に天龍は涙目になる。彼女はバトルジャンキー。戦えないのが何よりも辛いのだ。

 横島は天龍から眼を離し、今度は龍田へと視線を向ける。横島は申し訳無さそうにしていながらも真剣な表情をしており、龍田も真っ直ぐに横島と視線を交わす。

 

「龍田、とりあえずお前は天龍の看病に専念してくれ。しばらくは1人で動くことも出来ないだろうしな」

「……ええ、分かったわ~」

 

 横島の言葉について来ていた吹雪達が眼を合わせる。事実上の謹慎処分ということなのだろう。

 

「……食事とか風呂とかトイレとか大変だろうけど、頑張ってくれ!!」

「ええ、精一杯頑張っちゃおうっと!!」

「おいいいぃぃぃっ!!?」

 

 とても爽やかな顔で語り合う横島と龍田の姿には嫌らしさなど一切存在していない。これは本当に事実上の謹慎処分……なのだろうか? 少なくとも1人は四六時中一緒に居れるのでとても嬉しそうだ。もう1人は絶望の叫びを上げていたが……。

 

「くそおおおおお……!! 今の俺じゃあ、あんな程度で限界なのかよぉ……!!」

「限界以上だっての。……んじゃ龍田、それから吹雪達も、みんなで協力して天龍を風呂に入れてやってくれ。大変だとは思うが、よろしく頼む」

 

 横島は天龍を龍田達に任せ、1人置いてけぼりにされている神通と向かい合った。

 

「えっと、何かドタバタして悪いな。俺はここの司令官の横島忠夫。よろしくな、神通」

「は、はい。よろしくお願いいたします、提督……」

 

 神通は慌てた様子で深々と頭を下げる。その様子に横島は苦笑いを浮かべる。彼女のおどおどとした態度は磯波に似ていると言える。磯波も横島に完全に慣れたわけではなく、まだまだ親しいと呼べるような距離感ではない。……ちなみに神通がおどおどとしているのは横島の服に問題があるのだが、悲しいことに自らの流血に慣れすぎてしまった横島では気付けない。

 とりあえず横島はこの空気を打破するために、とある人物を呼ぶことにする。

 

「ちょっと待っててな、神通。今那珂ちゃんを呼ぶから」

「え、那珂ちゃんが鎮守府に居るんですか……?」

 

 やはりこういう時には姉妹艦の話をするに限る。狙い通りに神通の興味を引いた横島が端末の通信機能を使って那珂を呼び出そうとするが、それよりも早く彼女は動いていたのだ。

 

「神・通・ちゃん」

「ひゃああっ!?」

 

 神通の背後から耳に息を吹きかけたのは、先程話しに出した那珂だ。彼女は誰にも気付かれないように息を潜め、今の今までずっと隠れていたのだ。

 驚き飛び上がった神通は涙目になりながらも那珂に抗議する。しかし那珂はそれをどこ吹く風と受け流し、さっさと走り去ってしまった。

 

「……もしかして照れ隠しなのか?」

「どうでしょうか……。あ、あの、提督、私……」

 

 少々上目遣いに神通が話を切り出すが、横島も彼女の言わんとすることは理解している。横島は首肯し、神通に那珂を追うように言ってあげた。

 

「那珂ちゃんはこの後予定もないはずだし、ゆっくりと話をしてきな。鎮守府内の案内もそのまま那珂ちゃんにしてもらうってことで」

「あ、ありがとうございます……!!」

 

 神通は横島に頭を下げると、那珂が去っていった方に向かって走っていった。その後姿をしばらく眺めていると、物陰から那珂が飛び出し、またも驚かされている神通の姿が見えた。那珂は横島に手を振り、今度は神通と共に笑い合いながらゆっくりと歩いて鎮守府を進む。

 神通の気苦労が耐えなさそうだが、やはり姉妹仲は良さそうだ。

 

「さて、これからどうしようかな……」

 

 横島は1人になり、ドックから出る。これからの時間をどう過ごそうかと考えていたのだが、そんな横島に声を掛ける者がいる。

 

「提督……もう話は済みましたか?」

「あ、大淀」

 

 そう、大淀だ。彼女は横島を軽く睨みつけ、唇を尖らせている。どうやら少々怒っているようだ。

 

「あの……どうかした?」

「どうかした、じゃありません。提督は服がそんなになるまで血を吐いているんですよ? いくらギャグ描写の中だからって、そのままでいるのは看過出来ません。きちんと休んでください」

 

 何か大淀らしからぬ台詞が聞こえたような気がするが、それでも彼女は横島を気遣ってくれているのだ。美少女の心配、これに応えない横島ではない。丁度()()()()()()もあったことだし、横島は大淀の求めに応じることにする。

 

 

 

「んじゃ、何かあったら気にせず呼んでくれよー?」

「了解しました。でも、抜け出しちゃダメですからね」

「分かってるって」

 

 血で汚れた服を着替え、横島は執務室に程近い私室で休む。胸元に錨のマークがあるパジャマは着心地が良く、横島はいつもこの姿で眠りに就く。とはいえまだまだ陽は高い。今寝てしまうと夜に眠れなくなりそうだ。

 横島の言葉に嘘はないと見た大淀はそれ以上何も言うことなく静かに退室していった。横島はそれを見送った後、眼をゆっくりと閉じて考えを巡らせる。

 

(……やっぱり、思っていた通りだった)

 

 横島は天龍の身体を『診』た時のことを思い出す。文珠を使って良かった、と言える。これで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それと同時に()()()()()()()()()()()()()()()

 

(天龍には……艦娘達は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()())

 

 それが、横島が確信を得た事柄だ。

 吹雪と初めて会ったとき、初めから彼はそれに気付いていた。吹雪は生体発光(オーラ)を放っていたからだ。

 生体発光とは魂が発するものではない。文字通り、()()()()()()()()()()()なのだ。つまり、彼女達の身体を構成するものはデータといった電子的なものではなく、自分達と同じ、有機的なものであることが分かる。

 

 そして、それが理解出来たと同時に新たな謎が生まれてくる。

 何故艦娘に肉体があるのか、本当に艦娘とはゲームのキャラクターなのか。そもそも、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(……キャラバンクエストの時とは何もかもが違い過ぎるしな)

 

 思い返せば、以前キャラバンクエストの世界に入ったときにはここまでリアルな世界ではなかった。頭身は縮み、物に触ることも出来ず、誰かに話しかけても全く同じことしか喋らない。

 それが、この世界はどうだ。今自分はパジャマに着替え、ベッドに横になり、夜眠れなくなることを心配している。更には物を食べることが出来るし、胃が痛みを訴えて血を吐くことも出来る。そして何より()()()()()()使()()()()()のだ。もはや何もかもがゲームでは有り得ない。

 こんなもの、作りこみがどうと言えるレベルではないのだ。いっそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言われた方が余程納得出来る。

 

 ――――しかし、だ。

 

(でも、ゲームの中ってのも信憑性があるんだよなぁ……任務とかもそうだし、建造やらドロップやら任務報酬やら……)

 

 そう、これが新たな疑問だ。もしこの世界がゲームではないとしたら、今まで体験してきたゲームでしか有り得ないような現象の説明がつかない。いくつか心当たりが無いでは無いが……。

 唸る横島はそれを一旦頭の隅に追いやり、別のことを考えることにした。美神除霊事務所に依頼してきた、家須と佐多という男達についてだ。

 

「……よくよく考えるとおかしいよな、あの2人」

 

 横島は思わず呟いてしまう。

 よくよく考えなくてもあの2人は怪しさ満点だったのだが、横島はここに来てようやくあの2人の怪しさに気が付いた様だ。

 

(依頼を達成するまで週に1000万とかいう訳分からん程の超高額の依頼料だし、期限は無しでいくら時間を掛けてもいいとか、ただ美神さんに金を渡してるだけだしなぁ)

 

 裏を返せば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のかな? と横島は考える。尤も、それはすぐにないと断じたが。それこそただ美神に貢ぐだけの結果に終わる。2人の考えが分からない。

 

(……そういや)

 

 横島が家須達の言葉を思い返す。

 部下・ゲームの元となる部分を大量に作った・その部下は死んでいる・そして、そいつは3界でも1番の技術力を持っている……。

 このゲームにもそれが使われているのだろう。横島が脳裏に思い浮かべる()が作ったものならば、色々と納得もいく。

 

「――――()()()()()()

 

 もし本当にかの魔神が手がけたものだとすれば、この世界の元になった物というのは“宇宙のタマゴ”のことだろう。あれは相当数が存在していたし、アレが元になっているというのならば、ゲームでしか有り得ないような現象の数々にも説明がつく。何せアレは演算することが出来れば、様々な設定を付加させることが出来るからだ。そう、()()()()()()()()()()()

 

(そんで、もし本当に“艦これ”が宇宙のタマゴの中だとしたら……アシュタロスのヤローを部下だと言ったあの2人の正体は――)

 

 横島はようやくその存在に辿り着く。魔神たるアシュタロスよりも上位の存在達。即ち、彼等こそが、神魔の最高指導者――――。

 

(まさか、キーやんとサっちゃんがな……多分、これは美神さんも気付いてないだろう。俺だけが辿り着いた真実ってやつだな。……うっは、俺カッコいいーーーーーー!!)

 

 この男、本気である。

 美神はもう見た瞬間から彼等の正体を看破していたのだが、横島はそれにまるで気付いていない。普段の彼なぞそんなものである。

 

(さて、艦娘やらこの世界やらキーやん達についてやら色々と考えたわけだが……どうしようかね?)

 

 恐らく自分はこの世界と艦娘達の真実に近付いているだろう。しかし、キーやんとサっちゃんの考えがまるで理解出来ない。本当に艦娘達に魂が宿った理由を調べてほしいのか? 宇宙のタマゴを使って、()()()()()()()()()()()に魂が宿った理由を?

 

(多分……違う、な)

 

 彼等が最高指導者ならば、そんなことは人間に調べてもらうまでもなくすぐさま答えを導き出すことが出来るだろう。自分達で出来なくてもヒャクメや土偶羅魔具羅(ドグラマグラ)だっているのだ。人間に頼らずともそっちに調査させたほうがよほど効率が良い。

 

(となると……()()()()()()()()()()()?)

 

 ――――分からない。色々と答えに辿り着いたような気はするが、それ以上に多くの謎を抱えてしまったようだ。思わず深い深い溜め息を吐いてしまう。

 だが、それでも分かっている――否、心に決めたことはある。それは、この依頼から降りないということだ。

 状況から考えてこの依頼は明らかに内容が異なっていると言えるだろう。だが、それを言ってどうなるというのだ。もしこの依頼から降りてしまえば、美神のところに金は入らないし、もしそうなったら横島は忽ち血の海に沈んでしまうだろう。艦娘達よりも先に深海棲艦になってしまうのはいただけない。

 

(……それに)

 

 そう、もしこの依頼から降りてしまえば、艦娘の皆がどうなってしまうかが分からない。これは以前横島がジークに聞いた話なのだが、アシュタロスとの戦いの折、神魔の最高指導者は世界の存続に対してあまり興味を示さなかったという。()()()()()()、とは言っていたようだが、それだけである。

 もし自分が依頼から降りれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。最悪、消されてしまうこともあるかもしれないのだ。そんなことは、絶対に認められない。

 横島の瞳に決意が宿る。そうだ。この世界を、艦娘達を絶対に消させはしない!!

 

(だって艦娘達にはちゃんとした肉体があるって分かったんだもんねー!! これで俺が艦娘の誰かとヤっても何の問題もないことが分かったんや!! 俺はヤる!! ヤらいでかあああぁぁぁーーーーーーっ!!!)

 

 横島の身体から煩悩の炎が噴き上がる。彼の瞳には固い固い決意が宿っていた。自分好みの艦娘と“ヤる”という決意が。

 

「……そこで見てないで、入ってきたらどうだ?」

「――――っ!!?」

 

 と、ここで横島がドアに向かって声を掛ける。ドアの向こうにはうろたえる数人の気配。やがて観念したのか、その少女達は部屋へと入ってきた。

 

「よく私達がいるって気付いたね、司令官」

「それも霊能力というものですか?」

「あ、あの……お休みのところすみません、司令官」

「ごめんなさーい」

 

 入ってきたのは響、雷、不知火、磯波の4人だ。磯波と雷は怒られると思っているのか恐縮しているが、響と不知火の2人はマイペースを保っている。そんな対照的な彼女達に呆れもし、そして微笑ましくも思う。どうやら血を吐いた自分の様子を見に来てくれたようだが、これは丁度良かった。考え事も煮詰まっていたし、何より美少女達が傍に居るというのが何よりも良い。

 

「ちょうど退屈してたんだ。話し相手になってくれよ」

「勿論です。この不知火にお任せください」

「不知火だけに格好はつけさせないよ。――私も行こう」

「何で2人ともそんなにカッコつけてるのよ?」

「あ、あの、失礼しますね、司令官」

 

 ずい、ずずいと前に出る響と不知火。それに呆れる雷と、そんな3人を越えてベッドに腰掛けてちゃっかり横島の隣に座る磯波。意外な子が積極的に行動を開始している。

 

「くっ……!! まさか、君がここまでやるとはね、磯波……!!」

「また、この不知火が出遅れた……!?」

「磯波ったらずるーい!! 司令官、私もー!!」

「あ、あのっ、私はそんな……!?」

 

 響達に指摘されて顔を真っ赤にする磯波。わちゃわちゃと騒がしい彼女達を眺めて、横島は柔らかく微笑む。それは、慈愛の笑みだ。

 

(そうだよな……。俺は――――この子達の、司令官なんだ)

 

 この世界を、そしてこの子達を。――――絶対に、消させはしない。絶対に見捨てない。

 

 何故ならば自分は。

 何故ならば横島忠夫は――――この鎮守府の、司令官なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

第十八話

『この鎮守府の、司令官』

~了~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この後騒ぎ過ぎでめちゃくちゃ大淀に怒られた。




うおおおおおおおおお!!
第1部・完っっっ!!!


まあ普通に続くんですけどね。


第2部でも色々と判明していくと思います。

さて、第2部は「南西諸島海域」攻略編です。沖ノ島のトラウマが……。


それではまた次回。

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