駆逐かな? 駆逐かな? そ・れ・と・も・駆・逐?
現在横島と数人の艦娘は工廠を目指して移動している。
横島に同行しているのは明石・大淀・吹雪・叢雲・電・不知火・皐月・夕立の八人。明石と大淀は横島と鎮守府の運営について話し合っている。横島の表情は完全に緩みきっているが、一応真面目に話してはいる。明石の胸や大淀の太腿に目が行くのは仕方がない。
「ふんっ。何よ、デレデレしちゃって……」
不機嫌そうに吐き捨てたのは叢雲だ。叢雲は自分の容姿に自信がある。だというのに横島は自分のことをお子様扱いし、新たにやってきた明石・大淀・間宮には顔面崩壊級に緩んだ表情を見せている。それが叢雲には気に食わない。
「叢雲ちゃん、プライド高いもんねー」
イライラした様子を見せる妹に比べ、そこまで気にしていない様子の吹雪。彼女の言葉を聞いた叢雲はギロリと吹雪を睨む。
「なーに他人事みたいに言ってんのよ。私はあんたが司令官にむっすりとした顔してたの知ってんだからね」
「ええっ!?」
やはり何だかんだで吹雪も色々と気にしていたようで、自分達の目の前で明石達に煩悩を発揮する横島には不満があるようだ。
吹雪は叢雲に慌てて反論をするが、どれも効果は薄く、逆にいいようにあしらわれて「うぅ~」と唸る。口げんかでは叢雲の方が強いようで、吹雪は悔しげな顔を見せ、叢雲は勝ち誇った顔を見せる。
「……でも、司令の気持ちは分かりますよ」
そんな二人に割って入ってきたのは不知火だった。
「分かるって……何がよ?」
「あの二人を見てください」
不知火の発言に首を傾げる叢雲だが、とりあえずは不知火の言うように明石と大淀を見る。
明石はピンクの長髪にセーラー服を着た、横島と同じくらいの外見年齢の美少女。大淀は黒の長髪に聡明さを感じさせる眼鏡、そして明石と同じセーラー服を着た美少女。もちろんこちらも外見年齢は横島と同じくらいだ。
「……まあ二人は美人だけどさ」
叢雲もそこは認めている。それだけでなく、明石は自分と比べるべくもないほどにプロポーションが良い。大きな胸にくびれた腰、ほどよい肉付きの太腿。大淀は明石とは違ってスレンダーな体型だが、それでも叢雲よりも胸は大きいし、腰から足へのラインがとても綺麗だと思う。
「ええ、それもあるけれど……一番の理由は
「あれ……?」
不知火が指差す先にあったもの。それは、二人が着用しているスカートであった。
「見なさい。あれほどまでに腰元を露出しているスカート……不知火は見たことがないわ。美人の二人があんなスケベなスカートをはいているのよ? 司令が夢中になるのも仕方がないわ」
明石と大淀がはいているスカートには何故か腰骨の辺りに大きなスリットが入っており、腰元を露出するデザインになっている。
「あれなら簡単に手を滑り込ませることも可能……本当にスケベなスカートね」
「スケベなスカート……」
「二人のスカートはスケベ……」
「進入可能なスケベスカート……」
「つまりそんなスケベなスカートをはいている二人は……」
ぼそぼそとスケベなスカートについて駆逐艦娘達が話している。幸いにして明石達には聞こえていないようだが、もし聞こえていたらと思うと相当に危ない内容である。
駆逐艦娘達の二人を見る目が若干生暖かくなってきたところで、ようやく工廠に到着した。明石は目をキラキラと輝かせ、これから自分の城となる場所の諸々の確認を行っていく。そのスピードは尋常ではなく、一通りの物の確認を数分で終わらせた。
「いやー、やっぱり工廠はいいですねー! 今から仕事が楽しみですよ!」
笑顔を浮かべる明石の肌はツヤツヤになり、その魅力を最大限に引き立てる。それほどに機械いじりが好きなのだろうか。
「さて、それでは提督。これから開発と建造の任務を行うわけですが、投入する資材はどうされますか?」
大淀は横島から預かった端末を操作し、任務を受注する。横島は少々考える素振りを見せた後、軽く答えた。
「とりあえず全部最低値で」
「……よろしいのですか? データの修復が終わったことで、駆逐艦以外の艦種も建造されるようになりましたが……」
大淀は横島の言葉に疑問を持つ。そしてそれは大淀だけでなく、他の皆もそうだ。横島のことだからてっきり資材を大量に投入して、戦艦や空母といった外見年齢が同世代から年上のお姉さんの艦娘の建造に力を入れると思っていたのだが……。
「そりゃ確かに戦艦とか空母は魅力的だけどさ、こんな序盤から戦艦とかを運用してたら資材がいくらあっても足んねーだろ? 第一一発で建造できるとも限らないし、それなら軽巡がけっこうな割合で出るっていう最低値を回していったほうがいいだろ。さすがに序盤から難易度高いってわけでもないはずだし、皆の実力なら戦艦に頼らなくても心配ないしな」
横島の説明に、皆は感心する。思ったよりも真面目に鎮守府の運営を考えてくれている。それに何より、最後の言葉だ。憶測や楽観からくる言葉なのは分かっているのだが、それでも自分達のことを信頼してくれている。それが艦娘の皆には嬉しかった。
「了解しました。では、資材は全て最低値で投入しますね」
大淀は横島を見直したのか、真っ直ぐな瞳で横島に復唱する。周りの駆逐艦娘達は先ほどの横島の台詞に照れたり感動したりと落ち着かない様子でそわそわとしている。特に秘書艦である吹雪は輝かんばかりの笑顔で横島の隣に立っている。皐月も横島の背によじ登り、笑顔でしがみついている。
「提督さん、夕立も戦艦に負けないくらい頑張るっぽい!」
「おう、よろしくなー」
鼻息荒く意気込む夕立の頭を横島は優しく撫でる。夕立は「ぽい~」と言いながらも笑顔でそれを受け入れている。電はそれを羨ましそうに眺めており、何かアピールしようとするが何も思いつかなく、とりあえず横島の近くに立っておくのであった。
「皆さん、建造一人目と二人目の結果が出ましたよ。どちらも駆逐艦です」
和気藹々とした雰囲気を出していた横島と駆逐艦娘達の前に大淀と明石が帰ってくる。大淀の端末が示す時間はそれぞれ二十分前後。横島は高速建造材を使用し、建造を終わらせる。ドックから出てきたのは、紫の長髪に扇子を持った少女と銀の長髪の少女。
「わらわが初春じゃ。よろしく頼みますぞ」
「響だよ。その活躍ぶりから、不死鳥の通り名もあるよ」
建造されたのは初春型一番艦“初春”と暁型二番艦“響”。これにいち早く反応したのは電だった。
「響ちゃん!」
「電? 先に建造されていたんだね」
飛びつく電を優しく受け止める響。久しぶりの姉との再会に電は思わず涙腺が緩んでしまう。
「どうしたんだい、電?」
「ようやく姉妹艦が来たから嬉しいんだろ」
電の様子に困惑していた響のもとに横島が歩み寄る。響は声を掛けられたことに少々驚くが、真っ直ぐに横島の目を見つめる。
「俺はここの司令官の横島忠夫。よろしくな、響。それからそっちの初春も」
「……うん。よろしく、司令官」
「ふむ。おまけのような扱いじゃが、まあ構わん。これからわらわを慕ってゆくとよいぞ?」
響は言葉少なめに、初春は古風ながらも高飛車な物言いで挨拶を返す。二人とも独特な性格の持ち主のようだが、横島のことは嫌っていない様子である。
「それにしても……」
横島は改めて二人を見やる。
銀の長髪にクールな……いや、これは無表情と言ってもいいだろう。表情にあまり動きがなく、言動もあまり抑揚がない。無愛想というわけではないが、これから信用されていけば変わってくるだろうか。電との会話には所々ロシア語が飛び出しており、知的な雰囲気も有している。
そしてもう一人、紫の長髪に見た目にそぐわぬ古風な口調。髪飾りには
横島は思う。「濃いなぁ……」と。要素だけを抜き出せば、二人は今まで現れた艦娘の中でも屈指の濃さを誇る。この濃さは横島が所属している美神除霊事務所やその関係者達にも劣るまい。
「大淀、残りの二回は?」
横島は新たに加わった二人を吹雪と電に任せ、大淀に建造の状態を聞く。すると、大淀と明石は笑顔で横島の元に端末を持ってきた。
「一つは駆逐艦ですが、最後の一つは軽巡洋艦ですよ、提督!」
「マジか!?」
大淀の報告に周囲が沸いた。今の所艦娘ではない明石達を除けば、初めての駆逐艦以外の艦娘である。端末を見せてもらえば、建造時間は確かに今までで最長の一時間だった。
「高速建造材を使用しますか?」
「……いや、せっかくだからこのまま待とうかな。初めての軽巡洋艦娘だし」
「はあ、そうですか……?」
横島の言葉に大淀は首を傾げるが、明石はうんうんと頷いていた。「この待ってる時間がいいんですよねー」と理解を示している。
それから一時間、横島は響と初春を中心に色々と会話をしていた。今まで何があったのか、どのくらい攻略が進んでいるかなどといった真面目なこと。横島の煩悩やそれに関する仕事の出来栄えなどのことなど。初春には呆れられ、響には「ハラショー」と言われたりと散々だったのか有意義だったのか分かり辛い一時間だった。
ちなみにもう一つのドックで建造されたのは叢雲であり、横島鎮守府では六隻目である。
「叢雲よく出るな」
「そんなに司令が好きですか?」
「あ゛?」
「叢雲、顔が怖いっぽい……」
それはともかく、待ちに待った建造終了の時がついに訪れた。
横島は明石や大淀達みたいな美少女が建造されることを期待して胸を躍らせ、ドックが開くのを待つ。周りの皆はそんな横島に若干引きつつも同じく期待を胸にドックを見つめる。
そして……ドックが開く、その瞬間!
「――っ!?」
「何だ!?」
工廠の照明が全て消え、また全ての機材がその動きを止める。明らかな異常事態……横島達に緊張が走る。
「みんな、落ち着いて一箇所に固まって周りの警戒をしろ! 何が起こるか分かんねーぞ!」
「りょ、了解!!」
皆は横島を中心に集まり、警戒を強める。その様はさすが艦娘と言えるものであり、何としても横島だけは傷つけさせないという気概が滲み出ている。
そのまま十秒、二十秒……。何も起こらないまま時間が過ぎるが、ついに変化が訪れる。
「っ!?」
「照明が……!?」
軽巡洋艦の建造を終えたドックに、三方向からスポットライトの強烈な光が浴びせられる。いつのまにやら足元にはスモークが立ちこめ、更にはミラーボールが出現し、工廠に目に悪いキラキラとした光を放出する。
「ん、んん……?」
「これは……」
この珍妙な事態に皆も困惑する。しかし、そんな皆を置いてけぼりに更に事態は加速し、ついにドックが開く。
ドックから現れたのは……。
「艦隊のアイドルッ! 那珂ちゃんだよーーーっ!! よっろしくーーー!!」
アイドルを自称する、女の子だった。
「あれっ? どうしたの、こんなに集まって? ……あっ、もしかして那珂ちゃんのために集まってくれたのっ?」
マイクを片手に大げさな素振りで自らの憶測を話す少女“那珂”。彼女は俯き、体を震わせる。呆然としている横島達を完全に置き去りに、那珂は感極まった様子で顔を上げる。
「嬉しい……! 那珂ちゃん、嬉しいっ!! こんなにも那珂ちゃんのことを思ってくれてるなんて……!! やっぱり、那珂ちゃんのファンは世界一のファンだよ……!!」
何やら那珂は感動している様子。照明もまだ暗く普段通りではないが、工廠を照らしている。そしていつの間にやらポップでライトな曲が流れており、那珂はそのリズムに乗るように体を揺らしている。
「みんなの思いに応えないと、アイドル失格だよね!! 私、心を込めてみんなのために歌っちゃうよー!! みんなも一緒に……『恋の2―4―11』!!」
そしてそのままノリノリで歌いだしました。
「……」
皆は那珂の行動に呆気に取られ、何も行動出来ないでいる。そんな中、横島が一言。
「――アイドル艦!! そういうのもあるのか!!」
「ないわよ」
世の中は広い!! と感心する横島に、叢雲の疲れたようなツッコミが入る。
最後に建造された艦娘は、横島鎮守府の全艦娘を足しても敵わないくらいに濃い女の子でした。
第十二話
『濃厚建造』
~了~
建造されたのは那珂ちゃんでした。
那珂ちゃんけっこう好きなんですよね。
ちなみに煩悩日和での外見年齢は大体14歳~16歳くらいでしょうか。
あまり高校生っぽく見えないので、中三辺り? とか思ったり。
それではまた次回。