狩人の証   作:グレーテル

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ぶっちゃけアランよりガッシュの方が書き易いと感じる今日この頃。
各キャラの個性を上手く引き出せるような書き方を目指したいですね。


第4話「二人と一匹」

 「うっしゃあ! 今日も絶好の狩り日和、ってな!」

 

 雲の上を行く飛行船の旅も終わり、飛行船から古代林のベースキャンプへ降り立ったガッシュは上機嫌に伸びをしていた。主人と同じく上機嫌なオトモのキッカが続き、いつも通りのアランが最後に降りる。ガッシュが絶好というだけあり、天候は快晴そのもの。吹く風がそれほど強くないというのもガッシュ個人としては喜ばしい事だった。

 

 「キャンプに着いたら、まずは腹ごしらえだな。……って、アランはまた携帯食料か? 不味いだろそれ」

 「ああ。物凄く不味い」

 

 二つのある物(・・・)を取り出していたガッシュは、同じくベースキャンプに設置されている支給品ボックスを調べていたアランを一瞥する。呆れ声のガッシュを横に、アランは簡素な作りの包装を破き、中に入っているブロック状の形をした茶褐色の固形物を口に含んだ。スタミナを回復させる為のアイテム、携帯食料である。

 口に含み、まずは噛む。固形物が形を崩していき、パサパサとした食感が口内の水分を一気に奪っていく。そうして細かく砕いたのちに、一気に嚥下して胃の中へと叩き送る。喉を通る際にぞわぞわと背筋をなぞっていく悪寒と口内にねっとりと残っている後味に、アランは顔を顰める。

 食料と名は付いているが、これに味を楽しむなどという高尚な行為は望めない。

 物凄く、不味いのだ。

 

 「良く食うなぁ、そんなもん。アイテムが結構整った今だと余計そう思うわ。俺にはとても真似できないぜ」

 「今は整っていても、モンスターと戦っている最中にビンが割れて使い物にならなくなる場合もあるだろう? なるべく節約したいんだ」

 

 非常食としても用いられる事のあるこの携帯食料はお世辞にも美味とは言えない。これは細菌の繁殖を防止する事と長期間の保存を可能にする事を目的に作られた結果、こういった味になってしまったからだ。また、この携帯食料は高いカロリーも含んでいる為、菓子と同じ感覚で頻繁に摂取した場合、短時間に著しくエネルギーを消費するハンターでもなければぶくぶくに肥えたみっともない体型になってしまう事は想像に難くない。

 それでもアランが携帯食料を使用するのは先程本人の口から述べられた、傷やスタミナを回復させる効果を持つ薬液の入ったビンの節約の為だった。ハンターが武器や防具とは別に装備しているアイテムポーチは持ち込める物の数に限りがあり、モンスターとの戦闘中にこれらのビンが破損してしまう場合がある。いくつか破損してしまっても問題なく狩猟を続行できるように、消費は最小限に留めておきたい。

 そこで、クエストに向かうハンターを支援する目的で用意された支給品の一つである、この携帯食料でスタミナを回復させるのだ。これはハンター各自があらかじめ調合する手間も無く、ショップで販売されている物と違って料金はかからない。つまりタダで使えるのだ。アイテムを節約したい時はこの上なく頼りになる事だろう。

 が、前述の通り味は最悪の部類に入るので使用するハンターは少ない。物資不足に嘆く新米ハンターも敬遠する事があり、資材を揃えられている中堅以降のハンターは聞くまでもない。

 

 「……それと、お前がそれ(・・)を持って来る為にポーチを詰まらせてるから、っているのもあるけどな」

 「ああ、それに関しては勘弁してくれ」

 

 若干の不満を持たせたアランの物言いに、何かを組み立てているガッシュはあっさりとそう返した。火を熾すための窪みが出来た台座、その両端に立てられたY字型の支え棒。実用性に重きを置き、携帯食料の包装に勝るとも劣らぬ簡素な外観のそれは、肉焼きセットと呼ばれる代物だった。

 

 「旦那さん、火の方もばっちりにゃ!」

 「おーし、ナイスだキッカ。それじゃ、早速やろうぜ」

 

 組み立て終わった肉焼きセットにキッカが火を点け、ガッシュがモンスターから剥ぎ取った生肉に手回し用のハンドルを取り付けた。肉焼きセットの名が示す通り、これは火を用いて肉を調理するための道具であり、その肉焼きセットには未調理のままの生の肉が使われる。

 ガッシュはこの肉を焼くつもりなのだ。

 

 「いつもの事とはいえ、良く用意するな。毎回毎回……」

 「あんな不味いモン食いたくないんだよ。アランと狩りに行く時だから出来る、っていうのもあるけどな」

 

 初めて携帯食料を食べた時の、あの何とも形容し難い不味さを思い出しては苦い顔をするガッシュ。多少の手間と時間が掛かろうが、ガッシュは肉の方が何百倍もマシだった。

 

 「今だって、ほら。待ってくれてるじゃん。アランってなんだかんだ言ってても大目に見てくれるんだよ」

 

 また、今回のクエストにアランが同行してるのもガッシュが安心して肉を焼ける理由に入っていた。肉を焼き終えてスタミナを回復させるまで、アランはガッシュを待っている。昔からガッシュがこういう性格である事、ガッシュとコンビを組んでの狩りが久々である事も加味して、今まで通り見逃していた。

 

 「別に、大目に見てる訳じゃないからな」

 「どっちにしても、こっちが助かってるのには変わらないんだけどな」

 

 生肉を支え棒へ乗せ、火で炙りながら慣れた手つきでぐるぐると生肉を回す。火の熱が肉に加えられ、表面にうっすらと焼き目がついていき、やがて肉の脂が垂れ落ちては火に燃やされ、じゅうじゅうと音を立てて火の勢いを一層強くする。

 

 「むっふっふ……」

 

 音の次にやって来るのは、匂い。焼けた脂の匂いが小腹の空いた胃袋を刺激し、ガッシュは頬を綻ばせる。このまま、今すぐに齧り(かじ)付きたい衝動を抑え込みながら二回、三回とハンドルを回し、肉全体に熱を加えていく。

 

 「上手に……焼けましたー!」

 「焼けたにゃーっ!」

 

 ハンドルを握る手を高らかに掲げるガッシュと、その隣でぴょこぴょこと飛び跳ねて祝うキッカ。一つ一つの工程をじっくり丁寧に仕上げ、ついにそれは完成した。肉焼きセットとガッシュの手によって、しっかりと焼き色が付けられた大きな肉の塊。焼けたばかりの肉の表面を熱せられた脂がじゅわじゅわと泡立ち、白い湯気を上らせていた。

 アランが摂取した携帯食料とは異なる、もう一つのスタミナ回復アイテム。こんがり肉である。

 

 「携帯食料じゃあ、こうはいかないよなぁ」

 

 ごくりと生唾を飲み、こんがり肉に噛み付く。外はカリカリ、中はふっくらとした食感。噛む程に溢れ出る肉汁を味わい、あつあつの肉を頬張り、はふはふと息をしながら飲み込む。

 自分の手の中で徐々に出来上がっていく工程を眺めながら、焼けたばかりの大きな肉に食らい付く。野性的でロマンに満ちたこのこんがり肉の魅力は、携帯食料では到底味わう事は出来ないだろう。ガッシュがこんがり肉に拘るのは、この一手間を掛けた食べるという行為を楽しむ為なのだ。

 

 「っぷはー、食った食った! さて、こっからは狩り(ハンティング)の時間だぜ」

 

 肉焼きセットの火を消し、骨だけになった元こんがり肉を片付けたガッシュは背中で二つ折りにされていた武器に手を伸ばす。ロックを外し、蝶番で繋げられたフレーム同士がガチリと重い金属音を鳴らして連結される。取り回しの悪さと引き換えに高い破壊力を得た弩砲、それがこのヘビィボウガンである。

 

 「よいせ……っと」

 

 ガッシュの扱うヘビィボウガンは鉱石素材を用いて製作された物で、名をアルバレストという。実用性と規格化を重視した構造の武骨で安価なヘビィボウガンだが、それ故に維持費を安く抑える事が出来、性能自体も決して悪い物ではない。じっくりと強化を重ね、オプションパーツのパワーバレルを取り付けたアルバレストにレベル2通常弾を装填し、再び折り畳んで背負う。

 

 「武器(そっち)は新しくしないのか?」

 「んぁ? あー……。今から新しいのを作ると手間が掛かるだろうからなぁ。このままこいつを強化し続けた方がいい気がしてな。防具新しくしたばっかだし、あんまり使いすぎると拙いんだよ」

 

 ショップが半額の時に弾を買い溜め出来なくなるからな。ため息交じりにガッシュがそう締め括る。まとめ買いや大量の調合によって弾丸を調達するガンナーの維持費は決して馬鹿には出来ない。そんな中でもし防具や武器を何度も新調し続けていたら懐事情は悲惨になる事は誰の目にも明らかだ。

 

 「まあ、愛着が湧いた、っていうのもあるけどな」

 「そっちが本当の理由だな?」

 「ばれたか」

 

 武器への愛着。それを聞いたアランは腰に納められていた自身の得物を引き抜く。紫色の甲殻を骨組にし、薄緑色の皮膜で作られた刀身。黒狼鳥イャンガルルガの素材を用いて製作された片手剣、ツルギ【烏】。製作してから実戦に投入されたのはつい最近の事だが、片手剣の特性である扱い易さを持ちながら良質な切れ味を持っている。マイハウスにある毒や麻痺属性の片手剣と合わせて、このツルギ【烏】も主力として長く使えそうだとアランは考えていた。

 

 「さて、と……」

 

 アランはツルギ【烏】を納刀し、ガッシュはキッカを見る。

 

 「キッカ、位置は分かるな?」

 「にゃうっ、ボクに任せてにゃ! にゃむむむぅ……」

 

 キッカは目を閉じ、両頬から生えているヒゲをぴくぴくと動かす。ガッシュのオトモ、キッカの能力であるモンスター探知の術である。通常、クエスト開始時はモンスターを探す為に各エリアを探索する必要がある。しかし、サポート傾向のオトモアイルーであるキッカがこのモンスター探知の術を使う事で、モンスターの位置を特定するのだ。

 

 「にゃむっ、見つけたにゃ! ボクに付いて来るにゃあーっ!」

 

 ぱっちりと目を開いたキッカがベースキャンプからエリア1へと走り出す。その意気揚々とした様子にアランは苦笑しながらガッシュを一瞥する。

 

 「行くか」

 「ああ」

 

 走るキッカに二人も続く。迅竜ナルガクルガの狩猟の為、ベースキャンプを後にした。

 

 

 

 

 

 「この辺りから気配を感じるにゃ。二人とも気を付けてにゃ」

 「……ここだったか」

 

 キッカ先導の下、アランとガッシュはエリア2からエリア4へ着いた。前回もここで遭遇した事をアランは思い出す。盾を装備した右腕に力を入れ、左手は腰のツルギ【烏】の柄へと伸びていた。

 

 「さぁーて、どこから来るか……」

 

 ガッシュも背負っていたアルバレストを両手で構え、周囲を見渡している。周囲の木々ががさがさと揺れる音を立てている。静かな古代林に聞こえるその音に、ブレイブネコランスを構えていたキッカが小さく震える。この場にいる何かの存在を感じる今、それがいつ来てもおかしくない状態だった。

 

 「にゃう……」

 「ビビんなよキッカ。腰が抜けたら終わりだ」

 「大丈夫にゃ。旦那さんも、あらんもいるにゃ。絶対負けないにゃ」

 「おし、いいぞ。その調子だ」

 

 出発前の快活さは無く、その体いっぱいに緊張を表していたが、ガッシュの言葉とアランの姿を見てキッカは奮い立つ。ふにゃふにゃになっていたヒゲをピンと伸ばし、ブレイブネコランスをしっかりと握った。

 

 「ガッシュ!!」

 「分かってらい!」

 「に、にゃうっ!?」

 

 突然のアランの叫びと共に二人は同時に、キッカが一拍置いてその場から飛び退く。飛び退いてから僅かな間を置いて、二人と一匹がいた場所に何かが飛来する。複数本の黒く太い棘のような物が一塊に纏まって地面に突き刺さっていた。

 木々の揺れる音が徐々に強まり、先程の棘を放った主がアラン達の前に姿を現した。全身を覆う黒毛と切り裂く為の発達を遂げた刃翼、長くしなやかな尻尾を持つ飛竜、ナルガクルガである。

 

 「お出ましみたいだな!」

 「ああ、行くぞガッシュ!」

 「ボクも頑張るにゃあっ!」

 

 体勢を立て直した二人と一匹は、それぞれの武器を構えてナルガクルガへ向き直る。

 

 「グャオオオオオオッ!!」

 

 空気をいっぱいに吸い込んだ肺から吐き出されるバインドボイスが古代林中に響く。ナルガクルガの相貌から溢れる明確な攻撃の意思がアラン達に向けられた。




次回で狩りの描写をしっかりと書いていきたいです。頑張りますとも。

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