狩人の証   作:グレーテル

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期間が空いてしまいました。これも全てXXの仕業です。
防具合成、楽しいですね。


第15話「泡狐竜タマミツネ」

 重く感じる足取りに、アランは拭えない不安を抱く。そんな折にナルガ装備の少女から声を掛けられたのは、ベースキャンプを抜け、更にエリア1を出ようとしていた時だった。

 

 「あの……」

 

 背後から聞こえる声に一度立ち止り、アランはゆっくりと振り返る。色々な物が、彼女の中で尾を引いているのだろう。少女、サヤカの表情はお世辞にも晴れやかとは言えなかった。そうなれる状況でもなかった。

 

 「教えてほしいの。今の状況で、どれくらいの勝算があるのか。そもそも、今の私達に勝てる見込みがあるのかを」

 「やりようならあるさ。考えがある」

 

 エリア1から続く、広く平坦な場所。所々に人が使っていたであろう廃屋が横たわるエリア4の入口で立ち止っていたアランが歩みを再開し、サヤカもそれに続いた。

 

 「タマミツネが泡を使って地上を移動するのは、もう分かってるだろう。俺達は足が滑って、奴は自由自在に動き回れた。アレはかなり厄介な特性だ。警戒と対策を怠ったら、まず生き残れない」

 

 タマミツネはあの泡を辺り一帯にばら撒いて、外敵を絡め取る算段なのだろう。あの泡を浴びる事で、外敵にとっては足場を不安定にするトラップとなり、逆にタマミツネ自身にとっては素早い身のこなしを可能にする機動力の要となる。

 この厄介な特性によってアラン達は見事に翻弄され、結果的、撤退を余儀なくされた。忘れようにも、忘れられない。サヤカにとって、もそれは身を以て思い知らされた事なのだから。

 

 「それともう一つ。あいつの爪が硬かったんだ。片手剣が弾かれるくらいだから、あの部位は相当硬く出来てる」

 「爪……? 何か関係があるの?」

 「憶測だが、大きな関係がある」

 

 ツルギ【烏】を引き抜き、その切れ味を目視で確かめる。サヤカが意識を失っている間に研いでおいた刃はいつもと変わらぬ鋭さを持っていた。

 ほんの一瞬、アランは過去の出来事を振り返る。この剣が弾かれたのは、あの黒狼鳥を狩猟した時以来だろうか、と。

 

 「あれは泡で滑る体を支える為の物なんじゃないか、俺はそう考えてる。俺達の足は泡の所為で滑っていたが、タマミツネはあの硬い爪を使って地面を捉えてる。地面に爪を引っ掛けるようにしてな」

 

 人間の足はつま先が地面をしっかりと蹴る事で走る事が出来る。しかしタマミツネの発する泡によってそれが阻害され、結果地面を滑り回る事になってしまう。泡で滑るという同じ条件の下でタマミツネが地上を自在に滑走できるのは、あの長く固い爪が地面を引っ掻いて勢いを付けているからだとアランは考えていた。

 

 「それじゃあ、あの爪に傷を与える事ができれば……」

 「いや、それはどうだろうな。あの速さに追い付いた上であの小さな爪を狙うのは相当難しいと思う。たとえ急所じゃなくても、奴に攻撃を加えるだけだったら、恐らくは難しくない筈だ」

 

 サヤカの考えに、アランは賛同しかねた。確かに、原因が分かれば元を断とうとするのは間違いではないが、それが出来るかどうかは別なのだ。比較的小回りの利くアランの片手剣では弾かれてしまい、サヤカのハンマーは高い破壊力を持つものの、どうしても一拍の間を置いてからでないと攻撃を繰り出せない。

 無理に攻撃をねじ込もうとすれば、その分だけリスクも高まる。言うまでもなく、そんな力押しは愚策であり、彼女にそんな負担を強いる訳にはいかない。それに、今の自分の身体がどこまで持つのかも分からない。念の為に持ってきた、ある物を使ったとしても。

 故に、アランは考えた。可能な限りリスクを抑えて、尚且つ着実にタマミツネを追い詰められる方法を。

 

 「攻撃を加えるだけなら? 一体どういう事よ」

 「……これと、君のハンマーが鍵になる」

 

 曖昧さの見当たらないアランの言葉に、サヤカは疑問を抱いた。タマミツネの機動力の要となるであろう爪を無理に狙う事なく狩猟できる方法があるのかと。リリィナの証言によれば、彼が持って来ていた閃光玉はもう尽きている。それを踏まえた上で、あの動きを封じる事が出来るのだろうかと。

 

 「奴の疲労を狙うんだ」

 

 そんなサヤカの疑問に答えたのは、アランのポーチから出された青い液体の入った瓶だった。

 

 

 

 

 

 微かに残っていたペイントボールの匂いを頼りに、歩を進めて辿り着いたのはエリア5。大きな切り株が目につきやすいこのエリアで、アランとサヤカはタマミツネとの二度目の交戦を繰り広げていた。

 

 「来る……っ!」

 

 短く跳躍して繰り出す、タマミツネのサマーソルト。一回、二回と。アランを打ち払おうと振り上げたタマミツネの尻尾は空を切り、僅かに土を巻き上げるだけに止まった。

 

 「本当に、これで良いのかしらっ!」

 

 アランがタマミツネの尻尾を避けている間に、隙を窺っていたサヤカのヒドゥンブレイカーがタマミツネの肩を殴打する。小さな力を溜めた、浅い手応えの攻撃。片方が注意を引き付けつつ、もう片方が小出しに攻撃して離脱する。先程からこれの繰り返しだった。

 

 「ああ、今はこれでいい!」

 

 肩に感じた感触に振り返るタマミツネの顎を、アランのツルギ【烏】が切り上げる。これも、傷を与えているとはとても考えられない。が、今はこれでいいのだ。あくまでも、今は。

 

 「ふっ!」

 

 アランに向けられたタマミツネの牙が、ツルギ【烏】の盾と擦れて火花を散らす。盾にぶつかるタマミツネの牙を受け流し、続け様にもう一撃。タマミツネの喉へ向けて刃を振り抜く。減気の刃薬に覆われた分厚い刃が、鈍器で叩きつけたかのような鈍い手応えを感じさせた。

 

 「はぁっ!」

 

 タマミツネの尻尾に叩き込まれる、サヤカのヒドゥンブレイカー。前からはアランが、背後からサヤカが。先程現れた邪魔者がまたしてもしつこく付き纏ってくる。

 

 「グルルル、グオォ……ッ!」

 

 アラン達から距離を取るように大きく跳躍するタマミツネ。大きなヒレをほんのりと紅く変色させたタマミツネが、抱いた苛立ちを表すように尻尾を荒っぽく地面にに擦り付けている。タマミツネの感情が乗り移った泡は大小の均整が取れていない、不揃いな大きさの泡の数々を生み出していた。

 間合いを離したタマミツネを警戒し、アランとサヤカは体勢を立て直す。そんな折、アランは視線を横へ移してリリィナ達を一瞥した。

 

 「えい、にゃっ」

 「うにゃあぁーっ!」

 

 ブーメランが飛び、武者ネコノ太刀が振るわれる。リリィナとハンゾーが行っている事、それはタマミツネが設置していく泡の塊を壊していく事だった。

 ベースキャンプから移動し、タマミツネと交戦している現在まで、リリィナとハンゾーはタマミツネと直接的な戦闘は一切行っていない。アランとサヤカの行動範囲を狭め、尚且つ自分に有利な状況を作り出している機動力の要を除去するという、ただ一つの目的の下に行動していた。

 

 「今の所は上手く行ってるけど、油断は禁物にゃ」

 「承知ですニャ!」

 「それと、気を引かれやすくなるから、あまり大声を出さない方が良いにゃ」

 「にゃぐ……承知、ですニャ」

 

 着々と課せられた任務をこなしていくリリィナとハンゾー。アラン達はフィールド内を自由に駆ける事が出来、タマミツネを狩猟する為の立ち回りを展開していく。彼女らは全く戦闘に参加していないが、しかしアラン達の狩りに大きく貢献していた。

 

 「ハンゾー達、上手くやってるみたいね」

 「ああ、細かい修正はリリィナに任せよう。俺達はこっちだ」

 

 アランとサヤカの会話を遮るように、タマミツネが迫ってくる。分泌された滑液を体毛で擦らせ、生み出した泡を利用した体当たりを、二手に分かれて回避する。初撃を躱されたものの、タマミツネはすぐさま反転。標的を分散させ、片方に狙いを定める。タマミツネの突進が向かったのは、ガルルガ装備を纏うアランだった。

 

 「こっちに―――――」

 

 タマミツネの動き、彼我の距離を見極めながら回避行動をしようとした時だった。突如、アランの両足がかくりと曲がり、地面に膝が付いたのだ。それを引き金に、末端から脱力していく感覚がアランを襲う。先程見せていた立ち回りが嘘のように倦怠感に満ち満ちていた。

 

 「っ、ぅ……」

 

 眼前にタマミツネが迫っている状況で、回避は間に合わない。アランは何とかして、片手剣の小さな盾で受け止める。が、タマミツネの巨体から繰り出された突進の前では有効な防御策とは言えず、アランの身体はあっさりと弾き飛ばされた。

 

 「グルル……」

 

 アランを弾いたタマミツネが背後を振り返る。視線の先には横たわるアランの姿があった。散々付き纏われていたお返しが出来た事に清々したのか、まるで挑発しているかのように紅く変色した頭部のヒレをひらひらと動かしている。

 

 「……効き目が、切れてきたのか」

 

 手早くポーチに押し込んであった瓶を一つ取り出し、その中身を一気に飲み下した。喉を通り、胃の中へ向かっていく液体が体中の疲労を消していく中、同じくタマミツネの突進を避けていたサヤカがアランへ駆け寄る。まだ関わりの浅い彼女にも、今のアランの様子が変に見えていたのだ。

 

 「平気?」

 「問題、ない」

 

 サヤカに短く返したアランがタマミツネへ向けて駆け出す。小振りな得物の片手剣に似つかわしい軽快な足取りだが、サヤカは妙な違和感を感じていた。

 まるで、彼が何かを誤魔化そうとしているかのような、そんな違和感を。

 

 「グルルォ……ッ!」

 

 小さく跳ねるタマミツネが、泡玉を一つ吐きだす。続け様にもう一度跳ねて、今度は泡玉を三方向へ放った。そうして二連続で吐きだされた泡の後に繰り出された、タマミツネの本命の一撃。突進で手応えを感じたアランへ目掛けて大きく跳躍。着地と同時に独楽のように激しく回転し、桃色の飛沫を上げながら辺りの木々や草花を蹴散らしていた。

 が、タマミツネから見れば残念な事に、アランには避けられていた。タマミツネが着地したすぐ傍で減気の刃薬を付与し直し、即座に反撃に転じている。減気効果の乗ったツルギ【烏】の刃がタマミツネの肩に狙いを付けていた。

 

 「だあぁっ!」

 

 ツルギ【烏】を振りかぶるアランにサヤカも続く。柄をぐっと握り、力を溜めた一撃をタマミツネの脇腹に加えた。

 

 「グ……ッェオ」

 

 槌頭がめり込む感覚に手応えを感じた時だった。サヤカのハンマーの一撃を受けたタマミツネが多量の涎を吐きだしたのだ。頭部と背に並ぶヒレはぺったりと垂れ萎びており、怒り状態の時に見せていた紅色は一転して蒼白になっている。

 アランとサヤカの攻勢を受けて身じろいでいるが、その動きは先程の俊敏さを微塵も感じられない程鈍く、どこか気だるげなのだ。

 

 「これは、まさか……」

 「効いてきたみたいだ。一気に畳み掛けよう」

 

 タマミツネの豹変ぶりにサヤカが訝しみ、アランは口角を小さく上げる。アランが考えていた、タマミツネの機動力を攻略する為にベースキャンプで打ち合わせた即興の戦略。タマミツネを疲労状態へ持ち込んだ後に、一気にダメージを稼ぐ事。

 サヤカのハンマーによる打撃と、アランの用いた減気の刃薬の効果がここに来て現れたのだ。

 

 「グ、グゥ……」

 

 前脚の肩付近に張り付いているアランを追い払おうと、タマミツネは顎を開け、その奥に見える牙を向けた。ぐらぐらと揺れている、上手く狙いの定まらない牙は距離を離したアランにあっさりと避けられ、虚しく空を食むだけに留まった。

 アランに手傷を負わせず、タマミツネはならばとサヤカへ狙いを変える。もごもごと顎を動かして口内に溜めた滑液に空気を入れ、それを風船のように膨らませてからサヤカに吐き出し、泡は一瞬でぱちりと弾けた。少し前の時と同じくサヤカを絡めてやろうと吐きだした泡はあっさりと霧散し、そのお返しとばかりにサヤカのヒドゥンブレイカーがタマミツネの頬を殴り抜いた。

 

 「グウ、ゥッ」

 

 アランとサヤカの挟撃に堪らなくなったのか、そこから抜け出そうとしたタマミツネが体に残っている泡を使って滑走し始めた。一度距離を離してからアラン達へ向き直ろうと、地面に爪を突き立てて反転しようとした時、再びタマミツネに災難が訪れた。

 

 「グ、グッ……ギャウゥ!?」

 

 反転しようとした体があらぬ方向へ滑り続け、それを修正する為に前脚の爪で何度も地面を引っ掻きながら、それでもタマミツネは盛大に横転した。疲労状態の影響か、反転した際に生じる遠心力に引っ張られた事により起こった事故だった。タマミツネはアラン達から逃れる筈が、逆に彼らにつけ入るチャンスを与える事になってしまったのだ。

 

 「大型モンスターは大きな力を持ってるが、その分だけエネルギーの消費も激しい。タマミツネの動きは素早いが、疲れた時なら速く動けはしない」

 「疲れてるせいであの泡も上手く制御できなくなって、思うように動けなくなる……」

 

 サヤカの呟きにアランは頷く。そして二人は裏方へ回していた戦力も投入させる事にした。

 

 「ハンゾー!」

 「リリィナ!」

 「お任せあれですニャ! 主!!」

 

 横転した体を起こそうと四肢をじたばたと暴れさせているタマミツネへ、アラン達は一気に畳み掛けた。アランのツルギ【烏】が前脚へ、ハンゾーの武者ネコノ太刀が背中のヒレへ、リリィナのブーメランが尻尾へと向かっていく。

 

 「はああああぁぁっ!!」

 

 タマミツネの頭へ張り付いたサヤカも、ハンマーによる猛攻撃を仕掛けていく。両足を大きく開いて重心を低くさせ、ヒドゥンブレイカーの柄の端を両手で握り、縦方向に連続で振り回す。そうして数度の打撃を加えてから前のめりに体を傾け、ありったけの力を込めて振り下ろした。

 

 「グ、グ……ギャウゥ」

 

 アラン達の攻勢に晒されていたタマミツネが起き上がり、大きく首を振り回してアラン達を払い除ける。尻尾に生える毛が散り、頭部に打撲跡を刻まれ、鱗が剥げた姿は痛々しく、遭遇した当初に見せていた優雅さとは遠くかけ離れていた。

 余りの劣勢ぶりに辟易するかのように、タマミツネは涎を垂らしながらくたくたになっている足取りでエリア6に続く道へと向かおうとしていた。

 

 「エリア移動……? 餌を食べて体力を回復するつもりなのか」

 「さっきみたいに動き回られたら厄介ね。急いで後を追いましょう」

 「あぁ……水を差すようで悪いが、武器の切れ味は大丈夫か? 不安ならここで研いでおいた方が良い」

 「切れ味? ん……少し心配ね。待ってて、すぐに終わらせるから」

 

 タマミツネを追跡する為に、アランは新たに会心の刃薬を付与し、サヤカはヒドゥンブレイカーの切れ味を回復させてからエリアを後にする。

 

 

 

 

 

 「グム、ォウッ……モグ……」

 

 かつて、水獣ロアルドロスを狩猟する際に訪れたこのエリア6で、一頭の竜が一心不乱に水面へと頭を突っ込んでいた。エリアの南にある大きな滝のすぐ傍、小さな魚達が集まっている小さな池にタマミツネは陣取っていた。

 

 「モゴ……ッゴゥ、ム……」

 

 アラン達との交戦で消費したスタミナを回復させる為に食糧を摂取していたのだ。池に棲む小魚達を捕まえ、そのまま丸呑みにしているのだ。大型モンスターの大きな体を支える為には、小魚の一匹や二匹ではとても足りない。次々と小魚を捕らえていく折、タマミツネは二匹同時に飲みこむ事もあった。

 

 「にゃぐぐ……彼奴め、腹ごしらえをしているとは! ここはセッシャにお任せくだされニャ!」

 

 言うが早いか、ハンゾーがアラン達を背後に四足歩行で駆けていく。アイルーである彼は人間のアランとサヤカよりも足が速く、あっという間にタマミツネのすぐ傍まで接近する事が出来た。タマミツネは小魚を捕まえる事に夢中になっているのか、ハンゾーの接近に気付きもしない。

 

 「うにゃああーっ!」

 「ッグ、ギャウァッ!?」

 

 雄叫びと共に繰り出すハンゾーの大車輪が、タマミツネの頬を何度も斬り付ける。そこでようやくタマミツネも気が付いた。アラン達が後を追ってきた事を。

 

 「コオオオォォォッ!!」

 

 先程受けた手傷と大事な食事を邪魔された事が重なり、一気に怒り状態へと移行するタマミツネ。ヒレを紅く変色させ、食事を邪魔したハンゾーに目もくれる事無くアラン達へ目掛けて突進を敢行した。白いシャボン玉に混じって赤や緑のシャボン玉をぷかぷかと浮かばせながら、タマミツネはエリア中を縦横無尽に駆け回る。アラン、サヤカ、リリィナが散開し、タマミツネの動向を警戒する中、地上を泳ぐ独特の軌道と、泡が生み出す機動力でアラン達の追撃を振り切っていた。

 

 「む、またもや面妖な泡を! セッシャが成敗して……ゴニャッ!?」

 

 先程と同様に、タマミツネが撒き散らす泡を弾こうとハンゾーが武者ネコノ太刀を振りかぶった時だった。エリアを横断するように流れる小さな川の底に転がっている小石にハンゾーがつまずいたのだ。そうして盛大に転んだハンゾーが、たまたま宙に浮かんでいた赤いシャボン玉に体当たりをする形で泡を浴びてしまったのだ。

 

 「ハンゾー! うぁっ!?」

 

 滑走し続けるタマミツネが目を付けたのは、ハンゾーに気を取られているサヤカだった。せっかく訪れたチャンスをみすみす逃すはずが無く、すぐさま突進を仕掛け、サヤカを突き飛ばした。

 

 「く、このっ!」

 

 地面を転がるサヤカへすかさず畳み掛けるタマミツネ。起き上がろうとしているサヤカへ詰め寄り、大きく顎を開く。その奥に覗く牙が狙うのは、体勢を立て直す暇も与えられないナルガ装備の少女だった。

 

 (駄目、避けられない―――――)

 

 お世辞にも、防御力に優れているとはいえない装備での被弾。それが大型モンスターの物ともなれば、致命傷は免れない。

 

 「おおおおぉぉああっ!!」

 

 サヤカが迫り来る痛みに耐えようと、ぐっと瞳を閉じた時だった。横から強引に割り込んできたアランがタマミツネの頭にしがみついたのだ。

 

 「グゥ、ッギャウ、グウアア!!」

 「こい、つ……っ!」

 

 傷を負わされただけでは留まらず、更に顔にしがみつかれたとあっては疎ましい事この上ない。サヤカの事も忘れてタマミツネは首を振り回し、アランを振り落そうと我武者羅に暴れ始めた。それに対してアランは頭部のヒレを鷲掴みにして食らい付き、タマミツネはアランを払い除けようと更に激しく暴れている。

 

 「な、ぁ……っ!?」

 

 大型モンスターに素手で掴み掛る。それがどれだけ危険な事か、ハンター稼業を営んでいる者なら誰でも分かる筈だ。そんな行為は決して勇敢などではなく、危険の域を超えた無謀な行いである事を。

 そして、その無謀を彼は行った。自分の身を危険に晒す事も厭わず。

 

 「ふぅ、まったく……。さっきから危なっかしいネコだにゃ。突っ込み過ぎると危ないから、気を付けないと駄目だって何度も言ってるにゃ」

 「にゃぐ……面目ありませんニャ。セッシャの不覚に、またしても主が……」

 「くよくよする暇があったら旦那さんを手伝うにゃ。ほら、駆け足!」

 「は、はいですニャーッ!」

 

 いつの間に近付いたのか、リリィナがサヤカの傍に立っていた。彼女の小脇には武者ネコヘルムにバッテン印の絆創膏が貼られたハンゾーが抱えられており、彼をすぐさまアランのサポートへ向かわせた。

 

 「ほら、今の内にゃ。ぼさっとしてないで、一旦体勢を立て直すにゃ」

 

 リリィナがサヤカの手をくいくいと引っ張り、離脱を促す。が、サヤカはタマミツネに掴み掛っているアランから視線を外せなかった。彼は未だにタマミツネとの取っ組み合いを続けており、そこに加勢したハンゾーの武者ネコノ太刀がタマミツネの後ろ足を斬り付ける。纏わりつく者が増えた事に手を焼いているかのように、タマミツネは苛立たしげな唸り声を上げていた。

 

 「……不思議、って顔をしてるみたいだから、教えてあげるにゃ。旦那さんは言ってたにゃ。ハンターさんもあの村の一部だって。あの村の為に、あの村で暮らすハンターさんの為に、旦那さんはここにいるにゃ」

 「ユクモ村の為に……? 私の、為に……?」

 

 赤い泡を浴びているハンゾーの大車輪がタマミツネの尻尾を斬る中、サヤカはリリィナの言葉を聞き、ベースキャンプで話していた時の彼の言葉を思い出す。彼は命懸けで己の言葉が真である事を証明しようとしていた。

 

 

 

 

 

 「うおおおぉああ!!」

 

 ハンゾーも加わったタマミツネとの攻防は、アランとハンゾーに軍配が上がった。背を後ろへ反らし、頭を大きく振りかぶってタマミツネの顔へ目掛けて振り下ろす。アランはガルルガヘルムを使った頭突きを、タマミツネの左の眼球へお見舞いしたのだ。

 

 「ギュオ"オ"オオアアァァッ!!」

 

 凄まじい苦痛に苛まれたタマミツネが、今まで聞いた事のない、おぞましい悲鳴と共に横たわる。

 これで体勢を立て直すだけの時間は稼げただろうか。内心に心配しつつも、アランは目の前の竜から目を離さない。むくりと起き上がり、恨めしそうにこちらを睨むタマミツネに次の手を考えていた時だった。

 

 「…………っ、ぁ」

 

 再びアランの身体を襲う、力が抜けていく感覚。たった一歩ですら動くのも億劫になる程の倦怠感に全身が包まれていく。防具が水浸しになったのも関係しているのか、思ったよりも効力が切れるのが早かった。

 

 「駄目だ……今、は……」

 

 アランは急いでポーチを開け、ビンを探す。半透明の黄色い液体が入った二つ目のビンを取り出したのとほぼ同じタイミングで、タマミツネの突進がアランを弾き飛ばした。

 

 「っあ……!?」

 

 通常時よりも威力の増した突進を受け、手に持っていたビンが宙を舞い、地面を転がる。

 

 「うにゃああーっ! ハンター殿に手出しはさせ―――――」

 「グオォアア!」

 「ぐにゃああーっ!?」

 

 アランの救援に駆けつけるハンゾーが武者ネコノ太刀を振りかぶり、タマミツネの尻尾に薙ぎ払われた。二度、三度と地面をバウンドし、サヤカとリリィナのいる場所まで転がされていた。

 

 「グルルル、グオオォ……!」

 「う、ぐ……っ」

 

 怒るタマミツネは身動きが上手く取れないアランへと前足を振り下ろす。かろうじてツルギ【烏】の盾で遮るが、タマミツネは盾ごとアランを押し潰そうと前足に力を込めた。

 

 「何とかして……う、くぅ……」

 

 徐々に迫る自分の腕と、タマミツネの鋭利な爪。刻一刻と苦境に追いやられていく状況に、アランは自力での脱出が困難になっていく。抵抗が弱くなっていくアランに、今度こそ確実な勝利を確信したタマミツネは次第に冷静さを取り戻していき、視界の端に映る邪魔者共へと意識を向けた。

 

 

 

 

 

 「旦那さん!」

 「あのままだと拙い事になりそうね。早く助けに―――――」

 

 ナルガネコ手裏剣とヒドゥンブレイカーを構えるリリィナとサヤカへ向けて、タマミツネが泡を吐く。アランを助けようとするサヤカ達を、タマミツネから見れば折角のチャンスをふいにしようとする者達をけん制しているのだ。

 

 「私達を近付けさせないつもり!?」

 「もう、本当に厄介な泡だにゃ!」

 

 未だに伸びているハンゾーを抱え、泡を回避するリリィナとサヤカ。何とかしてつけ入る隙がないかと目を凝らすが、こちらを妨害する事に専念して泡を吐き続けているタマミツネの布陣には一向に隙らしい隙が生まれない。

 

 「……セッシャに、お任せ下されニャ。彼奴めに、近付かずに近付いてご覧にいれますニャ」

 

 リリィナに抱えられていたハンゾーが意識を取り戻した。それと同時に、サヤカ達にとって気になる事を呟いていた。

 

 「どういう事? 何か作戦があるの?」

 「一つだけ、ありますニャ。その為には、彼奴めの注意を逸らす必要があるのですニャ」

 

 彼女たちからすれば、ハンゾーにはこの状況を打開する策があるとも捉えられる。そして、タマミツネの意識さえ別の物に移す事が出来ればより成功に近付くという。ハンゾーの言葉を聞き、真っ先に動いたのはリリィナだった。

 

 「なら、その役目はワタシに任せるにゃ。あいつの気を引くには、いい物があるにゃ」

 

 ハンゾーが何をするかまで聞く事なく、リリィナはタマミツネの気を引く為にサヤカ達から離れた。ナルガネコ手裏剣を納刀し、代わりにポーチから取り出したのは一組のポンポンと、小さなホイッスル。

 

 「……コレはあんまり使いたくなかったけど、今は旦那さんを助ける為にゃ。ワタシのとっておき、応援ダンスの技にゃーっ!」

 

 ナルガネコヘルム越しにホイッスルを咥え、両手にポンポンを持つ。そうしてリリィナはぴょこぴょこと小刻みなジャンプを繰り返し、身振り手振りを大きく利かせてホイッスルを鳴らした。

 

 「グオゥ、コオォッ」

 「ーっ、ーっ! ーっっ!」

 

 当然、タマミツネの意識はリリィナへ向けられ、リリィナを狙い始めた。タマミツネの口から吐き出される泡を、リリィナは器用にもダンスを続けながら細かく移動して避けている。それが余計癪に障ったのか、タマミツネはハンゾーとサヤカの事も忘れてリリィナを集中狙いし始めていた。

 

 (む……意外と間抜けな奴で助かるにゃ)

 

 内容は分からないまま囮役を引き受けたが、とにもかくにも、ハンゾーの秘策を阻止される訳にはいかない。

 

 (待っててにゃ旦那さん、絶対に助けてみせるにゃ……!)

 

 危機に陥った大切な主人をを救う為、そして主人の願いであるタマミツネの狩猟を成功させる為、リリィナはさらに大きなホイッスルの音をエリア6に響かせた。

 

 

 

 

 

 「教えてハンゾー! もう時間がないの!」

 「主。セッシャを槌に乗せ、彼奴目掛けて撃ち出すのですニャ!」

 「……は?」

 

 リリィナがタマミツネを引き付けている一方、ハンゾーから伝えられた秘策がそれだった。余りにも突飛過ぎる内容に、サヤカは理解が追い付いておらず、只々目を丸くしていた。

 

 「さあ主、セッシャを撃つのですニャ!」

 「え……えぇっ!?」

 

 いつの間にやら、ハンゾーはサヤカのヒドゥンブレイカーの槌頭に乗っていた。手に持つ武者ネコノ太刀が狙いを付けたのは、無論タマミツネだ。まるで獲物はまだかと待ちわびているかのように、両手で握ったハンゾーの武者ネコノ太刀、その刃先がきらりと光る。ハンゾーは本気だった。

 

 「うぅ……信じてるわよ、ハンゾー!」

 「承知ですニャ! 彼奴めに一泡吹かせてやりますニャ!」

 

 こうしてサヤカが戸惑っている間にも、アランはさらなる窮地へと追い込まれている。一刻も早くアランを救い出さねばならない以上、もたもたしている場合ではない。サヤカも覚悟を決め、ハンゾーが乗ったハンマーを大きく振りかぶった。

 

 「いっけええええぇぇぇぇっ!!」

 

 重量武器であるハンマーを軽々と振り回すサヤカの、渾身のフルスイング。ハンマーに載ったハンゾーの小さな体は、さながら大砲から発射された砲弾の如く、真っ直ぐな軌道を描いて飛翔した。

 

 「ウニャアアアアアアァァァァーッ!!!!」

 「グ? ッギ―――――」

 

 溢れる闘志と、気合に満ちた雄叫びが、小さな体に秘められた大きな力を更に高める。音を抜き、空を裂き、放たれたハンゾーの一撃はタマミツネの鱗を易々と貫通し、背に並び生えているヒレの一つを千切り飛ばした。

 

 「オ、ッオオオ……オッ、ォ……」

 

 空を舞うヒレが、ぱしゃりと水しぶきを上げる。リリィナに意識が向いていた所へ舞い込んだ唐突な重傷にタマミツネは悲鳴を上げる事も出来ず、途切れ途切れの呻き声を上げ、激痛に体を痙攣させていた。

 

 「ひにゃあああーっ!? 着地の事は考えてなかったにゃああーっ!?」

 

 タマミツネに起死回生の一手を打った当の本人は、エリアを横断する川へと顔面着陸を行っていた。大きな水しぶきを上げ、大きくバウンドし、なおも勢いは止まらなかった。

 

 「にゃごっ、ゴニャゴニャゴニャゴニャアアーッ!!」

 

 あの爆鎚竜(ばくついりゅう)と見紛うかという勢いでごろごろと地面を転がり続け、東南にある採掘ポイントに盛大にぶつかる事でハンゾーはようやく停止した。

 

 「う、にゃうぅ……」

 「デタラメというか、らしいというか……とにかく、よくやったにゃ。グッジョブにゃ」

 

 ぐるぐると目を回しているハンゾーに労いつつ、ポンポンをポーチに戻したリリィナがぽつりと置かれていたビンを回収する。今のアランが動き続ける為に必要な物だからだ。

 

 「リリィナ、なのか……? とにかく……今の、内に……」

 「グウウオォ!!」

 

 タマミツネが硬直している間に脱出しようと、アランが這っていた時だった。激痛によるショックから立ち直ったタマミツネが、再びアランへ向けて爪を振り上げていた。お前だけは逃さない。散々手傷を負わされ、好転していた状況をひっくり返された怨念の宿った凶刃がアランに振り下ろされる。

 

 「まだ、来る―――――」

 「やああああぁぁっ!!」

 

 振り下ろされるタマミツネの爪を、ヒドゥンブレイカーが阻む。アランとタマミツネの間に割り込んだサヤカのハンマーが、タマミツネの爪との押し合いを挑み始めたのだ。両足が地面に食い込み、ヒドゥンブレイカーが軋みを上げる。重傷を負ってはいるが、それでも大型モンスターである。その力は強く、大きい。

 そんな大型モンスターとの力比べなど、とても人間の身体で出来る事ではない。タマミツネの身体から繰り出される凄まじい負荷に歯を食いしばり、サヤカはタマミツネの力に、同じ力で真っ向から立ち向かう。サヤカは一歩も引くつもりはなかった。

 

 「君は……」

 「早く下がって! そう長くは押さえられない!」

 「旦那さん、受け取ってにゃ!」

 

 サヤカがタマミツネを食い止めている内に、アランはタマミツネから離れる。直後、リリィナから投げられたビンを受け取り、その中身を見る事なく一気に飲み下した。何を持って来てくれたのかは、見なくても分かる。今のアランに必要な物、今のアランが動き続ける為に必要な物だ。

 

 「リリィナ……助かる!」

 

 再び感じる、体が徐々に軽くなっていく感覚。混濁した地面と鮮明に見える落葉の中に一人の少女の姿と一頭の竜を視認した。アランはツルギ【烏】を抜き、サヤカと押し合いをしているタマミツネの懐へ一気に潜り込む。刃薬の薄れた刃を一気に振り抜き、首を覆う淡白色の鱗を斬り付けた。

 

 「おおぉああっ!」

 「ギャウアァッ!?」

 

 再び劣勢に持ち込まれたタマミツネ。アランの剣に続くように投擲されたリリィナのブーメランが、アランが頭突きをしたタマミツネの左目を斬り付ける。追撃に二つ目のブーメランを投げられ、タマミツネは堪らず後ずさりする。泡による滑走ではなく、四肢を用いての後退だった。

 

 「何とか間に合ったみたいね」

 「ああ。君達がいなかったらどうなっていたか……本当に、助かった」

 

 手を軽く握り、自分がまだ生きている事に安堵するアラン。これもリリィナと彼女達との協力関係があってこそ出来た事。無意識の内にアランは小さな笑みを浮かべていた。

 

 「っ……そ、そう」

 「来るぞ!」

 

 肩をびくりと跳ねさせ、サヤカはアランから目を逸らす。対して、アランはタマミツネの動向に警鐘を鳴らしていた。ぐっと体を丸め、しかし目はアラン達を見ている。一拍の間を置き、タマミツネは口から泡ではなく、水を出した。今まで見せていた泡のような単発の物ではない。絶え間なく出続け、鋭く研ぎ澄まされた、細い刃のような水を。

 

 「水ブレス!? 拙い、回避して―――――」

 「いや、このまま突っ込む」

 「え、何を……!?」

 

 直接アラン達を狙うのではなく、周囲一帯の物もまとめて薙ぎ払うタマミツネの水ブレスに、アランは何の迷いもなく駆け出した。サヤカは己の目と、アランの正気を疑った。あれだけの事をしてようやく助けたのに、自分から死に飛び込もうとしているのだから。

 

 「死ぬ気!? 馬鹿な真似はやめて! 待って、駄目……アラン!!」

 

 サヤカの叫びも届かず、アランは真っ直ぐにブレスへと突っ込んでいく。サヤカの脳裏に、あの鋭い水がアランの身体を真っ二つにする場面が嫌でも浮かんできた。

 

 「っ……!」

 

 サヤカがアランを諦めた、その時だった。アランはタマミツネの水ブレスへ目掛け、飛び込むように跳躍する。ブレスが体に触れる寸での所で体を捻り、きりもみ回転しながらこれを回避していたのだ。水ブレスを通り過ぎ、前進していた勢いをそのままに、アランは更にタマミツネへ肉薄する。タマミツネは未だに水ブレスを出している最中であり、アランから逃れる事が出来ない。

 

 「おおおおぉぉああ!!」

 

 肘を引いてから振り上げる、右腕の盾を使った全力のアッパーがタマミツネの顎を強引に閉ざした。噛み合わされた歯と歯の間から水ブレスが吹き出し、タマミツネの頭ががくりと天を仰ぐ。

 

 「今だ! 奴の頭を!」

 「まったく、無茶して……!」

 

 タマミツネは頭を上げたまま動かず、何かしらの抵抗を見せる雰囲気はなかった。アランは終わりの時が近い事を感じ、サヤカもその時を迎える為に今まで以上に強い力を柄に込めた。

 

 「これ、で……!!」

 

 ハンマーは振り下ろされ、タマミツネの身体がゆっくりと横たわる。体に刻まれた数々の傷から、赤い血が川に混じって流れていく。

 

 「グゥ、オ……オオォ……」

 

 弱々しい呻き声を最後に、タマミツネはピクリとも動かなくなる。辺りには川のせせらぎだけが絶えず聞こえていた。その静かな音が、アラン達に告げていた。長きに渡って繰り広げられた狩猟に、遂に終わりの時が訪れたのだと。

 

 「やっと、終わったわね」

 「村に戻ろう。村長に―――――」

 「その前、にっ!」

 

 剥ぎ取りナイフを抜いてタマミツネに近付こうとした所で、アランはサヤカに肩を引っ張られた。今にも詰め寄って来そうな剣幕で、胸倉でも掴んでくるのではという雰囲気でもあった。

 

 「見てて危なっかしいから、さっきみたいな無茶はもうしない事。いいわね?」

 「いや、あれは―――――」

 「い・い・わ・ね!」

 「わ、分かった」

 「まったく。……本当に、危なっかしいんだから」

 

 ふん、と一つ息をつき、サヤカはタマミツネに近づいていく。彼女に少し遅れて、アランもタマミツネの亡骸に剥ぎ取りナイフを差し込む。使えそうな部分を採れるだけ採っていくような愚はせず、鱗やヒレ、尻尾に生えている毛を少量だけポーチに入れて、それで終わりである。

 残りは、ここに置いていく。このタマミツネを自然に還す為だ。遺体に残っている血肉が土を豊かにし、ヒレや骨は小さな生き物たちの棲み処になる。そうして豊かになったこの土地を求めて、新たな生き物達が集まり、新たな生命の営みが繰り返されていく。

 モンスターの存在が、出現した一帯の生態系や人間達の活動に影響を及ぼしているからこそ、ハンターは狩猟に出向いている。中にはその枠に収まらない者もいるが、ハンターズギルドの理念に則れば、モンスターのことごとくを駆逐する為にハンターを差し向けているのではないのだ。

 

 「これだけあれば、十分ね」

 「リリィナ、村へ戻……ん?」

 

 クエストクリアの報告をする為の素材を手にするサヤカと、彼女の言葉に頷くアラン。後はベースキャンプへ戻り、帰りの竜車に乗るだけだ。アランは振り返り、そこに居るリリィナの姿に小さく声を漏らした。

 

 「はぁ、またこのパターンかにゃ」

 「にゃ……にゃぐぐ……」

 「ま、結構頑張ってたから、今日の所は目を瞑っておくにゃ」

 「せっしゃにぃ……おまかせあれ、ですにゃあぁ……」

 

 未だに目を回しているハンゾーを、リリィナが肩に担いでいた。ハンゾーの中ではまだタマミツネと戦っているのか、時折武者ネコノ太刀を振っているかのような仕草をしていた。が、肝心の武者ネコノ太刀はハンゾーの背にあり、つまるところハンゾーは何も持っていない手をぶんぶんと振っている事になる。

 

 「早く行こうにゃ。旦那さん」

 「分かってる」

 

 珍しく、リリィナがアランにそう催促していた。アランの防具が水に濡れているのが気になってしょうがないのだ。そわそわとしているリリィナに短く返し、アランは踵を返してサヤカと共にエリア6を出ていく。

 ベースキャンプへ戻る道中、ハンゾーを担ぐリリィナはアランの背中から目を離さなかった。

 

 

 

 

 

 ベースキャンプへ辿り着いてから少し経った時の事。迎えの竜車に揺られ、一行はユクモ村への帰路についていた。村へ着いた時にはすっかり日が落ちており、灯台の火の柔らかな光が村を照らしていた。

 

 「いっ、たぁ……結構貰ってたみたい。明日は大人しくしてた方が良さそうね」

 

 竜車から降りたサヤカが、軽く肩を回しながら顔を顰めている。腰に納刀したハンマーがずっしりと重く感じる程、体もくたくたになっていた。

 

 「とりあえず、細かい後処理はコノハに任せて、あなたも今日は休んで―――――」

 

 しばらくすれば空腹感も訪れるだろうが、とにかく今は休眠を摂りたい。そう思ったサヤカがアランにも休養を促そうと、まだアランが乗っているだろう竜車の方へと振り返った時だった。

 

 「……アラン? アラン!!」

 

 竜車から降りたすぐ傍で、アランが力無く倒れ、指の一本も動かさずに横たわっていた。




これぞ勝利の鍵、名付けてハンゾーバズーカ。
……というのはさておき、過去作品でオトモ同士による合体技があったので、ならばハンターとオトモによる合体技みたいなものがあってもいいんじゃないかな、と思ってためしに取り入れてみました。

今回のお話もそうですが、少々文字数が多くなってきているような気がします。もう少し削りたいと思いつつ、ついつい色んな所をいろんな風に書きたくなってしまい。その結果がこれです。
上手く行かないものですね。

※追記。『モンハン商人の日常』の作者、四十三さんからイラストを頂きましたので、こちらにて掲載させて頂きます。満月を背に佇むタマミツネと、それに立ち向かうサヤカとハンゾーのコンビですね。とても格好良い、素敵なイラストをありがとうございます。

【挿絵表示】

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