狩人の証   作:グレーテル

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新キャラとの初めての実戦です。
今回、誤用表現のある箇所があります。ご了承ください。


第10話「歪な共同戦線」

 地続きの道を、一台の荷車が進んで行く。二人の狩人と二匹のオトモアイルーを乗せた荷車は、ユクモ村と縁のある狩猟場、渓流へと向かっていた。

 

 「グァッコ、カコッ」

 

 まるまるとした体に二本の脚と短い羽、長い首を持つ小型の鳥竜種が平たい嘴を開いて鳴き声を出している。御者のアイルーに手綱を握られた丸鳥(がんちょう)ガーグァが狩人達の乗る荷車を牽引していた。

 

 「陸路を行くとはな。狭い道を行くから少し不安だったが、案外力があるんだな。あのガーグァってモンスターは」

 「…………」

 「向こうでは飛行船で移動する事が多いんだ。村と近い狩猟場は海に囲まれていて、船を使って近付く事も……いや、何でもない。忘れてくれ」

 

 荷車に乗る狩人、アランは同乗するハンターのサヤカに話題を振るも、彼女はそれに答える気配はない。村を出てからじっと目を閉じ、ベースキャンプへの到着を待っていた。アランが話を持ちかけた途端に瞼を開いて睨み黙らせる。慣れ合うつもりはないらしく、その瞳には拒絶の意思が表れていた。

 

 「ハンターさん、到着しましたニャ。ベースキャンプですニャ」

 

 御者のアイルーの言葉と共にがたがたと揺れていた荷車がぴたりと止まる。視線を移すと、そこには抉られた岩が生み出す天然の天井に古代林のベースキャンプから見える開けた景色を比較するが、簡素なテントと赤と青の納品・支給品ボックス等、アランにも馴染みのある物が設置されていた。

 

 「……クエスト、忘れてないでしょうね」

 「渓流にいるジャギィノス五頭の討伐。サブターゲットはジャギィ十頭の討伐、だろう?」

 「今回はこの辺りの地形を覚えるのが目的。あいつらじゃ小手調べにもならないから」

 

 柄を強く握り、武器の具合を確かめていたサヤカが素っ気ない態度でアランに確認を促す。ユクモ村が抱えている、いくつもの問題。それはアランが龍歴院で聞いていた時とは、少々事情が異なっていたようだ。

 ユクモ村の付近に位置するこの渓流で、泡狐竜タマミツネが姿を現したのは聞いている。が、それに触発されてかお零れに肖ろうとする小型モンスターのジャギィや、上質な水源を求めて大型の海竜種である水獣(すいじゅう)ロアルドロスが出現したとの事。

 上質な木材であるユクモの木が採れるこの渓流が、これら様々なモンスター達の終結する危険地帯とされている為に村の人間が立ち入りできる状況ではなくなってしまっていたのだ。林業を再開できる目途が立っていない以上、ユクモ村を成り立たせている経済の一角がその機能を停止せざるを得なくなっている。

 それだけで村が衰退する事はないだろうが、どちらにしても大きな打撃となってしまう事は想像に難くない。今回のクエストは鳥竜種の小型モンスタージャギィノス、並びにジャギィを討伐し、村の人間達が林業を再開できるようにする為の安全地帯の確保だった。

 

 「それにしても、珍しい武器を使うんだな。君は」

 

 一しきり具合を確かめてから腰へ納刀された、柄に繋がれた大きな塊。短いリーチと高い破壊力を誇り、防御の要である盾を持たず、しかしその見た目に反した高い機動力を持つ打撃武器。

 ハンマー。それが彼女、サヤカが扱う武器だった。防具と同じ迅竜ナルガクルガの素材で製作されたヒドゥンブレイカーに素直な感想を持ったアラン。龍歴院が擁するハンターの武器事情を知っているだけに、記憶の中を辿ってもそれらしき形跡はない。この武器を扱うハンターに出会うのはこれが初めてかもしれない。

 

 「……それが、何か問題?」

 「いいや、問題はない。ただ相手の使う武器は把握しておきたい。いざ攻撃を仕掛けようとして、味方を巻き込んでしまったら大変だから」

 

 パーティを組んでモンスターを狩猟する際、気を付けなければいけない事の一つが同士討ちである。モンスターを狩る為に製作された武器が持つ大きな刃や弾丸は、人体に当たればひとたまりもないのだ。そして、その同士討ちが発端となってパーティ内の雰囲気が嫌悪になり、まともな連携も取れなくなる、という事態は決して稀有な例ではない。

 ましてや初めて組むパーティであれば尚の事で、一層の注意が必要になる。

 

 「そっちが近寄らなければいいだけの話じゃない。そんなの」

 「……分かった。以後気を付ける」

 

 彼女の言葉で確定してしまった。現段階ではガッシュの時のような狩りは望めない。リリィナだけを連れた方がまだ効率が良いかもしれない程、彼女との協力体制が出来上がっていないのだ。今回は地形を覚える事が目的だと言っていたが、そんな悠長な事はしてはいられない。いつタマミツネがこの渓流に現れるのかも分からないのだから。

 

 「ハンター殿、オトモ殿。セッシャ達がついていますゆえ、心配は御無用ですニャ。此度のイクサも無事、大勝を得られましょうぞニャ」

 

 思案を巡らせるアランと、その傍らにいるリリィナに話し掛けるミケ柄のアイルーが一匹。傷跡によって塞がれた片目、文献で見た事のある意匠の甲冑と背負われた抜身の太刀。オトモ武具、武者ネコ装備に身を包んだアイルー。彼の名はハンゾー。アラン、リリィナと共に今回のクエストに同行するサヤカのオトモアイルーなのだ。

 

 「ハンゾー。黙ってて」

 「ニャ? しかし主、ハンター殿は主の力に……」

 「黙って」

 「ニャう……承知、ですニャ?」

 

 友好的と捉えられるオトモの言葉を、主人のサヤカが封殺する。彼女、サヤカにオトモがいる。それが意外だった。そして、オトモのハンゾーは彼女の持つ拒絶的な雰囲気に気圧されていない。それどころかサヤカに意見しようともしている。その意見も黙らされては、釈然としないと言った様子で小首を傾げている姿からも、萎縮していないだろう事は目に見えて明らかだった。

 

 「それにしても、まさかオトモがいたとはな。ハンゾー、ってい―――――」

 「先に言っておくけど」

 

 青い支給品ボックスを開け、中身を取り出すサヤカに話しかけようとして遮られた。緑色の薬液が入った瓶。ギルドから支給される専用アイテムの応急薬を手に、サヤカはアランを睨みつける。ユクモ村で初めて会った時と変わらない拒絶と敵意を宿し、ハンゾーを後ろへ隠すようにしてアランの前に立ち塞がった。

 

 「ハンゾーに何かしてみなさい。その時は……」

 

 握っている応急薬の瓶が軋んでいる。手を出せば潰す、そう言っているのだろう。華奢な体躯の少女だからと侮ってはいけない。彼女もハンターなのだ。幾多の大型モンスターを狩猟して鍛え上げられたその肉体には見た目からは想像もできないほど高い身体能力を持っている。場合によっては成人男性すら捻りかねない。

 

 「肝に、銘じておく」

 

 無論、アランとしてもそんな真似をするつもりはない。もしそうなれば彼女との信頼関係の構築も絶望的になり、何より無害な動物に危害を加える事はアランとしても抵抗があった。彼女の後ろにいるハンゾーと隣にいるリリィナを見る。この小さな体を傷つける場面を想像すれば、それだけで虫唾が走りそうになる。

 

 (庇っている……あのオトモは、仲間として見ているのか? だとしたら、誰にでも俺の時と同じ反応という訳ではない、と)

 

 数歩分の距離を置いて警戒しているサヤカに気の落ち込みを感じつつ、アランも支給品ボックスの中身を見る。応急薬が二つと携帯食料が二つ、残っていた。それぞれ四つずつ入っている手筈になっているので、そうすると彼女は自分の分だけを受け取っている事になる。

 

 「全部取っている、って事は無いんだな」

 「後から文句言われるのが面倒なだけ。さっさと支度してくれないかしら」

 「分かってる……ほら。元気ドリンコ、いるか?」

 

 アランはポーチに入っている黄色い液体の入った瓶、スタミナ回復アイテムの元気ドリンコを二つ取り出し、サヤカに見せた。

 

 「な、何よ。急に」

 

 アランの突然の行動に、サヤカは思わず後ずさりする。警戒は解かないまま、彼の手にある二つの瓶をちらりと見た。

 

 「ハンマーはスタミナが生命線だろう? 多めに持っておいて損はないはずだ」

 「余計なお世話よ。ジャギィノス相手に随分と舐められたものね」

 

 混じりけのないアランの善意だったが、サヤカには見くびっていると捉えられてしまったようだ。よくよく考えてみれば、確かに小型モンスターのジャギィノスを相手に手持ちのアイテムを渡す程の長い時間を掛けるのは可笑しい。

 

 「そんなつもりはなかったんだが……。そうか、悪い事をした」

 「ハンゾー。行くわよ」

 「あ、主……?」

 

 アランを一蹴したサヤカがベースキャンプから繋がるエリア1への小さな道へ向かっていく。その後ろにいたハンゾーが置き去りにしてよいのかとサヤカを見るが、サヤカに待とうとする意思は見られない。その様子にハンゾーは大人しく諦め、アラン達へ小さくお辞儀をして後について行った。

 ユクモ村に来てから、謝ってばかりいる。元気ドリンコをポーチに戻しながらアランはそんな事を考えていた。正確に言うと、彼女といる時だが、どちらにしてもそう大差はない。

 

 「ガッシュのようにはいかない、か……」

 

 ナルガネコヘルム越しにリリィナの頭を軽く撫でてから彼女らの後を追う。アランの言いつけもあって今まで黙っていたが、サヤカの言葉を聞けば聞くほどリリィナは不機嫌になっていた。

 

 

 

 

 

 小さな滝から流れる水に浸された高い段差の目立つ場所、エリア1。雷光虫らしき群生する小さな光と、野良個体のガーグァが水中へ平たい嘴を啄ませている穏やかな光景がそこには広がっていた。ここならば、命を脅かす捕食者が来る事もないのだろう。実際かなり狭い地形であり、とても大型モンスターが入り込めるような場所ではない。加えて前述の通り水も豊富にあるここは、食物連鎖の最底辺にいる彼らにとってまさに楽園なのだ。

 

 「ハンター殿ー! こちらですニャー!」

 

 エリア1の北、手に持つ地図にあるエリア4へ向かう出入り口でハンゾーが手を振っていた。初対面にも関わらず友好的で、道案内をしようとする親切さもある。ハンゾーはそんな性質を持ったオトモだった。

 

 「待っていてくれたのか。助かるよ」

 「いえ、お気にニャさらず。こたびのお力添え、まことに感謝ニャり」

 (ふむ……隷従させてる、って事はなさそうだ。俺が嫌われているだけか?)

 

 導かれるままにハンゾーへ近付いて、エリア4へと入ったアランとリリィナ。先のエリア1とはうって変わり、起伏や傾斜があまり見られない広い平面と、打ち捨てられたいくつかの廃屋の目立つ景色が広がっていた。ここならば大型モンスターが現れる可能性も高いだろう。

 

 「……来てたのね」

 「ああ、彼が案内をしてくれたからな」

 

 そして今は、大型モンスターではなく、数等の小型モンスターがたむろしていた。紫色の体色に細長い尾と小さなエリマキを持つ鳥竜種のジャギィと、一回り大きな体躯に垂れ落ちた長い耳を持つ雌の個体のジャギィノス。今回のクエストのターゲットとサブターゲットだ。

 

 「ギャオ、ギャオッ」

 「グォウ、グワォッ」

 

 こちらの存在に気付いたようで、威嚇の声と共に一目散にこちらへ向かってきた。先頭にジャギィが二頭、その後ろにジャギィノスが一頭。その後方には更に数頭が控えている。

 

 「ハンゾーは下がってて」

 

 ヒドゥンブレイカーに手を伸ばしたサヤカがジャギィへ向けて吶喊する。両手でしっかりと柄を握り、振り上げる。ハンマーの背がジャギィの顎を打ち上げ、その体を大きくのけ反らせる。真横にいるもう一頭のジャギィの噛み付きを横転で避け、ヒドゥンブレイカーを握る両手にぐっと力を込める。

 

 「せぇいっ!」

 

 二頭の陰に隠れているジャギィノスの動向に視線を向けながら、初撃を当てたジャギィへ一気に踏み込んで脇腹へヒドゥンブレイカーの槌頭をめり込ませると、薄紫の体躯が宙を舞い地へ横たわる。たったの一撃で肋骨を折られてしまったのだろう。痩せた横腹に大きな窪みを付けられたジャギィはびくびくと痙攣していた。続けて左足を軸にその場で回転し、腰の捻りと回転の遠心力を乗せたアッパースイングをもう一頭のジャギィの顔面へ叩き込む。皮が剥け、目を潰されたジャギィが無残に打ち捨てられ、瞬く間にジャギィの亡骸が二つ出来上がった。

 

 「グォウッ」

 

 ジャギィが蹴散らされている間に、その陰に控えていたジャギィノスが体を横へ向けてタックルを仕掛けようとしていた。全体重を乗せたタックルを危な気なく避けたサヤカは、先のようにヒドゥンブレイカーの柄をぐっと握って力を溜める。タックルを避けられ、体勢を立て直したジャギィノスが噛み付きを出してくるが、それも難なく回避する。転がっての回避ではなく、力を溜めながらの移動による回避で、だ。一拍の間を置かねば攻撃が出来ないが、その鈍重さからは想像できない程の高い機動力をハンマーは持っているのだ。

 

 「ウォウッ、ウォアァッ!」

 

 体を横へ向けた二度目のタックルも歩行による回避運動で避け、ヒドゥンブレイカーを天へと振り上げる。サヤカの両目が注視し、狙うのはただ一点。体重を乗せたタックルを躱されてよろめいているジャギィノスの首。

 

 「っだあぁ!!」

 

 大きくのけ反らせた全身の筋肉が持つバネの勢いを使い、ヒドゥンブレイカーをジャギィノスの首へと一気に振り下ろす。V字に曲がった首が地面と槌頭に挟まれ、呻き声を上げる間もなく絶命するジャギィノス。お世辞にも頑丈とはいえない小さな鳥竜種の身体ではハンマーの一撃を耐える事は難しく、たった一回の被弾によって骨を砕かれてしまう。ジャギィ達にとって、彼女の攻撃は全てが致命傷に繋がるのだ。

 

 「ギャオゥッ、グォアッ!」

 「ウォアッ、グォウッ!」

 

 振り下ろしたヒドゥンブレイカーを構え直すサヤカに警戒し、威嚇するジャギィとジャギィノス。ジャギィが三頭とジャギィノスが二頭。それがエリア4に残っているこのクエストのメインターゲットとサブターゲットだった。

 

 「あれは俺がやろう」

 

 サヤカの前へアランが躍り出る。その手に持つのは、一振りの剣と小さな瓶。

 

 「まずは、こいつだな」

 

 蓋を開け、中に入っている赤色の薬液をツルギ【烏】の刀身へ流し掛ける。少量ではなく、瓶一つ分の薬液全てを刀身の両面へ流した。ぽたぽたと刃先を伝って地面へ垂れ落ちていく程、たっぷりと。そうして薬液の掛かったツルギ【烏】の刀身を盾に接触させ、さながら火を点けるマッチ棒の如く、一気に振り抜く。盾との摩擦で生まれた火花を種火に薬液が燃焼し、赤い炎を燃え上がらせる。この燃焼によって薬液の成分を刀身に蒸着させると、ツルギ【烏】は淡く点滅する赤い光を纏わせた。

 龍歴院が開発した試作品。片手剣の火力向上を目的に製作されたアイテム。名は、会心の刃薬。

 

 「……?」

 「まあ見ていろ。リリィナはそのまま待機だ」

 「にゃ。旦那さん、頑張ってにゃ!」

 

 自分の使う武器を燃やして何をしようとしているのか。アランの行動に怪訝な顔をするサヤカと、主人への信頼を隠そうともせずに手を振っているリリィナ。

 

 「ニャむむ……何やら面妖なワザを使いますニャあ。ハンター殿は」

 「いや、これを使うのは今回が初めてなんだ。少し不安だったが、何とかなりそうだ」

 

 会心の刃薬が施されたツルギ【烏】をまじまじと見つめているハンゾーへ、アランはもっと良く見せてあげようと少しだけ剣を近付けて見せる。無論、サヤカがそれを黙って見ている訳がないので、本当に僅かな距離だが。

 改めて、アランはゆっくりと歩を進めていく。威嚇し、縄張りを荒らす者を包囲せんと隊列を成すジャギィの群れへ。あっという間に、アランは囲まれた。獲物を追い詰め、勝ちを確信したジャギィ達が小賢しく飛び跳ねてはアランを見ている。その内の、一匹のジャギィが噛み付こうと向けてきた牙を、身を捻ってあしらう。続けてもう一匹のジャギィとジャギィノスも加わってアランを襲うが、これも躱す。三方から挟み撃ちを仕掛けてはいるが、統率者のいない彼らには連携というものはない。牽制も本命もない、それぞれが身勝手に襲い掛かる不揃いな爪牙なのだ。

 

 「ギャオッ、ギャオウッ!」

 「グォワァッ!」

 

 三対一という数的優位にあるにも関わらず、中々仕留めきれないジャギィ達にしびれを切らしたのか、控えていたジャギィとジャギィノスが攻撃に参加する。これで状況は五対一。アランはより不利な状況へ陥っていく。

 

 「ニャニャっ!? 包囲されてしまいましたニャ! あれではハンター殿は……っ!」

 「終わりね。大口叩いて囲まれて、そのまま餌にでもなるつもり? それで救援に来たなんて、良く言えたものね。まったく……」

 

 アランの姿を遠巻きに見ていたハンゾーが大袈裟に驚き慌て、サヤカは冷淡に吐き捨てる。このまま取り囲まれて食われる、それで終いだ。サヤカはそう思っていた。

 例外があるとすれば、ハンゾーと同じく見守っているオトモのリリィナだった。ハンゾーのように露骨な狼狽をする事も無く、リリィナは主人の動向をじっと見ていた。旦那さんなら何の心配もない。ナルガネコヘルムから覗く彼女の両目からはそんな言葉が浮かび上がるようだった。

 

 「はあぁっ!!」

 

 数に任せて一斉に飛び掛かるジャギィ達をギリギリまで引き付けてから、その場で一回転。回転の勢いを乗せて振り抜かれたツルギ【烏】の刃がジャギィ、ジャギィノスの喉や顎へ深い切創を刻み、更にその深部、表皮を切り裂いた先にある筋肉を会心の刃薬が持つ高熱によって加熱させる。跳躍した勢いを相殺され、地へと寝転ぶジャギィの群れ。ほんの一瞬きの間に、状況は逆転していた。喉を切られた個体はそのまま絶命し、何とか生き伸びたジャギィノス達も間髪置かずアランのツルギ【烏】に喉を裂かれて事切れた。

 サヤカとアランの戦果を合わせて、ジャギィが五頭とジャギィノスが三頭。初めてパーティを組んでの狩りとしては、出だしは順調といえる。恐らく。

 

 「あいや、お見事ですニャ! ハンター殿!」

 「あれでも、俺は役立たずか?」

 「……今日は、地形を覚えるのが目的。私はそう言った筈よ」

 

 ツルギ【烏】を納刀し、サヤカを見る。対するサヤカも、アランへと感嘆の拍手を送るハンゾーと、やはり大丈夫だったと自慢げに頷くリリィナを交互に見比べては否定する。まだだ、まだ認める訳にはいかないと。

 

 「ターゲットはまだ残っているの。遅れないで」

 

 討伐したジャギィの亡骸から剥ぎ取った素材をポーチへ詰め、エリア4の北にあるエリア5へ続く道の入口で立ち止まっている。サヤカはアランの動向を窺っていた。

 

 「遅れるな、か」

 

 小さく、サヤカへ聞こえないように呟くアラン。先程のように置き去りにしていく気配はなく、あくまでこちらが動くのを待っているように見える。彼女の思惑は分からないが、アランは彼女が自分の事を待っているのだと、そう捉えた。

 この後も順調に討伐数を重ね、アランとサヤカ、リリィナとハンゾーはメイン、サブ共にターゲットを達成させてクエストを成功させたのだった。それでも、彼女との距離は未だ遠いのは言うまでもない。




今回誤用している、蒸着という言葉。本当はもっと難しい工程を経ている表面加工技術なのですが、この小説では『液体を燃焼させて、蒸発した液体の成分を付着させる』くらいの大雑把な意味合いで捉えて下さい。

で、今回登場した会心の刃薬の個人的な解釈が『熱』でした。表皮を斬りつけ、筋肉へ高熱を加える事で追加ダメージを与える、といった具合です。溶岩を泳ぐモンスターもいますが、流石に甲殻ではなく直接肉を焼かれたらダメージはあるだろう、と。
火や氷のような各属性は甲殻や鱗に影響を与える物と考えて、その上でこのアイテムがどういった働きをするのかを私なりに考えた結果こうなりました。

次回、他の刃薬も独自解釈が出て来ます。無理矢理な感はありますが、どうかご容赦ください。

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