太い茎が巻貝状に丸まった奇怪な植物が群生し、太古の時代に栄えた竜の遺骨が数多眠る原始的な世界。人の文明の跡がほんの僅かに見られるこの古代林に、一人の狩人と一頭の鳥竜が対峙していた。
方や濃い紫色をした、獰猛さと攻撃性を感じさせる刺々しいフォルムの防具を着用し、両手にそれぞれ防具と同じ濃い紫色の小柄な盾と小振りの剣を携えた狩人が。方や藍色の翼と黄金色の毛鱗を持つ、満身創痍の鳥竜がいた。翼には痛々しい切り傷が無数に刻まれ、頭部にもいくつかの損傷が見られる。足元にも若干のふらつきを見せながら目の前の敵に一層の敵意を向ける。
「ホロロ、ロォォ」
しかしそれらの搦め手すらも眼前の狩人には通じない。鱗粉を避けるように回り込まれ、音波の当たらぬ間合いへ近寄られ、小振りの剣によって幾重もの手傷を負わされていた。切り傷から血液が流れ落ち、体力は徐々に擦り減らされていく。最早逃げ延びるだけの余力が残っているかも怪しい。我が身の重傷に掠れた息をつくホロロホルルに残された道はこのまま朽ち果てるか、自らの命を狙う外敵を討ち取るか、二つに一つだった。
「……あと、もう少し」
狙うは虫の息となったホロロホルル。一呼吸を加えたのちに携えた剣を構え、狩人は駆け出す。
「ホロロッ!!」
対するホロロホルルも無抵抗ではない。間合いを詰め寄せた狩人目掛け、傷付いた翼を広げて大きく薙ぎ払う。翼による攻撃は二度、三度と続けるが、狩人には避けられてしまう。この攻撃が無駄だと分かるや、ホロロホルルは次の攻撃の為に翼を羽ばたかせて滞空し、先端の欠けた鉤爪で狩人の構えた小さな盾を啄む。回避後の硬直を狙われ、腕に構えた盾で爪を受け止めている狩人の姿にもう一押しを加えようとして、両足が地に着いた。着いてしまったのだ。
「……よし。ここだな」
流れる血の跡が増えた我が身に鞭打ったホロロホルルの攻勢は、そう長くは続かなかった。これが、回避と防御に専念して待ち続けていた狩人の狙い。翼による攻撃の大振りな動作も、滞空したのちに繰り出された足の鉤爪による攻撃も、ホロロホルルの僅かに残った体力を消耗させ切るには十分。これだけ出血した体で暴れさせれば此方は少しの間耐えていればいい。後は相手の方から勝手に大人しくなってくれる。狩人側の攻勢が始まったのだ。
「はっ!」
狩人は両足を地面にしっかりと踏んばらせて腰を捻り、左手に持った剣を大きく振り抜く。刃が狙う先はホロロホルルの片足。弱った体の動きをさらに封じ、確実に仕留めていくのだ。片足に刻まれた傷の痛みに堪らず倒れ込むホロロホルルへ、続けて追撃。羽に、胴に、額に。小振りな剣から放たれる斬撃が倒れ込んだ夜鳥へ容赦なく叩き込まれていく。
「キアアァ"ァ"ッ!! ッア"ァ"ァ!!」
新たな傷の痛みに苦しみもがき、パサパサと羽を暴れさせる。これが最後の抵抗だとしたら、何という物悲しさだろうか。新しい傷を負わせていく度に、夜鳥の悲痛な叫びはやがてか細いうめき声へと変わり果てていく。
「クルルル、クゥゥ……」
「…………」
その姿を見続ける事に忍びなさを感じた狩人は、剣の狙いを首へと定め、振り下ろす。目の前の夜鳥を狩るべき対象として今まで付けてきた傷の中で、最も大きな傷が刻まれる。傷口から多量の血を流し、程無くしてホロロホルルは絶命した。
「っ、ぅ……」
緊張がほぐれ、小さく呻く。回避と防御に専念していた狩人の方も、決して無傷ではない。携行していた薬品で和らげても襲う身体の痛みに顔を顰めながら剣に付着した血液を落とし、腰に納める。頭部を覆う防具越しに物憂げな瞳で見つめるのは、先程まで生きていたモンスターの亡骸。ホロロホルルの亡骸。戦いを制したのは、狩人であった。
彼の名はアラン。過酷な自然の世界で生き、人間の力をはるかに凌駕する強靭な
さて始まりました。こうして投稿してしまった以上はもう後戻りはできません。大人しく一人だけの世界で書き続けていれば良い物を……。
これも更新が止まるなら、私に物書きとしての才能も資格も無いでしょう。とにくかくにも頑張ります。頑張らせて頂きます。