SPECIALな冒険記   作:冴龍

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間違って前話と同時に投稿してしまいました。
混乱した方がいましたら申し訳ございません。


リベンジマッチ

「俺は”ポケモン入れ替え”を使って、バトルゾーンにいるカメックスとベンチにいるミニリュウを入れ替える。それから”ポケモン育て屋さん”を使って、ミニリュウをハクリューの段階を飛ばしてカイリューに進化させる」

 

 口頭で自分の動きをレッドに伝えながら、アキラは忙しなくプレイマットの上にあるカードと自分の手札のカードを動かしていく。

 一方のレッドは、うんうん唸っていたが状況的に早くも自分の負けを悟っていた。

 

「進化させたカイリューの技を使うにはエネルギーは最低四つ付けないといけないけど、”ダブルエネルギー”を俺は付ける。これで既にあるエネルギーと含めて四つのエネルギーが使える扱いだ。と言う訳で”ドラゴンスマッシュ”」

「コイントスは…するまでも無いな」

 

 アキラのカイリューが使った技は、本当はコイントスを行い裏表の結果次第では付けているエネルギーを全て捨てなければならない設定だ。

 しかし、コイントスをしなければ技が決まらない設定では無い為、技のダメージとして設定されているダメージ数によってレッドのギャラドスはHPが0になった。

 レッドの場にはギャラドス以外のポケモンは存在していない。つまり実戦でのポケモンバトルに置き換えるなら、手持ちがいない状況なので勝敗は決した。

 

「よし勝った!」

「また負けた…」

 

 肩を落とすレッドに対して、アキラは満足気だ。

 実戦でのポケモンバトルではアキラの連戦連敗だが、カードゲームでは逆に連戦連勝だ。それも実戦とは異なり、毎回アキラはあまり苦戦せずに勝っている。

 尤も、何故こうも一方的に勝てているかの理由を彼はわかっていた。

 

「レッド、実際のポケモンバトルとは違って、カードゲームは運要素が強いんだ。自分が望んでいるカードを引き当てる工夫をしなきゃ」

「いや…それはわかっているんだけど」

 

 レッドがカードゲームで勝てない最大の理由。

 それは自分の手持ちがモデルのカード全てをごちゃ混ぜにしたデッキなのだ。

 

 アキラも今使ったカイリューみたいに、手持ちポケモンと同じカードを入れたデッキを構築しているので、気持ちとしてはわからなくもなかった。だけど、ポケモンカードでもレッドに負けたくなかったのである程度は勝ちを意識した構築をしていた。

 

 具体的には、今回使用したデッキには電気と水のエネルギーカードが必要なカイリューが入っているので、同じ系統のエネルギーカードが必須のエレブーとヤドランを投入しているといった感じで、加えるカードや傾向を絞って上手くデッキが回る様に複数に分けていた。

 

 もう記憶は薄れているが、物語みたいに”自分の願ったカードを引く”とか出来る訳が無いのだ。

 そこまで考えて、アキラはこの世界も自分達の世界では架空の世界に分類されることを思い出した。それなら、”カードを信じればデッキは応えてくれる”くらいは有り得るかもしれない。

 

「あれこれ言ってる癖にブルーのカメックスがモデルのカードを使いやがって」

「このカメックスは使いやすいんだよ。技のダメージもだけど、水のエネルギーなら自分の番に何回でも付けて良い特殊能力付きなんだから」

 

 アキラが持っているカードに描かれているカメックスは、知っている人が見れば彼女のカメックスがモデルになっていることがわかる。

 前回のポケモンリーグの表彰台に立った面々の手持ちポケモンがカード化されているので、レッド以外にもグリーンやブルーのポケモン達もカード化されている。

 

 カメックスの強力さもそうだが、グリーンのリザードンがモデルになっているカードが持つ技は、現在出ている全カード最大の火力に設定されている。

 レッドの手持ちをモデルにしたカードもそうだが、どうやらリーグ入賞者の手持ちがモデルになっているカードは、全体的に他よりも強くて使いやすいように設定されている。

 

「そういやアキラのポケモン達もカードのモデルになりたがっていたな」

「あぁ、危うくバーットにリザードンのカードを燃やされ掛けたよ。同族のカードよりも強い上にグリーンのリザードンがモデルなのが気に入らないらしい」

「はは、でも次のポケモンリーグでアキラが勝ち抜けば、アキラのポケモン達もカードになれると思うぞ」

「確かに…そうだな」

 

 楽し気にレッドは話していたが、アキラは気にならない程度に意味有り気に同意する。

 三年に一度行われるポケモントレーナーの頂点を決める大会。

 他の地方でも同様の大会が行われているので、全トレーナーの頂点と言う訳では無いが、それでも一地方の頂点を決める場だ。

 出来ることなら、公式の場でのレッドに勝つことも含めて、頂点に立ってみたい願望が無い訳では無い。

 

 しかし、次回行われる大会は不幸にも次に起きるであろう事件の最終決戦場になってしまう。

 

 早い段階で解決すれば何とかなるかもしれないが、首謀者は他の出来事の記憶が薄れているにも関わらず覚えている程に強力な存在だ。あまりにも厳し過ぎる。

 警察やエリカなどのジムリーダーに教えることを何回も考えたが、証拠が全く無いのとどうやって知ったのかを上手く有耶無耶に出来る自信は無い。

 ジョウト地方で暗躍しているロケット団に遭遇するなりして、団員を警察に突き出せばまた話は変わるだろうけど、果たしてそう上手くいくか。

 

 自分が目指す目的も含めて目指す先は遠いが、一歩ずつ、時には大きく飛躍してでも着実に近付いて行く。

 その為にも――

 

「良し。今度は俺がリベンジする番だ」

 

 カードをデッキケースに戻して、アキラは腰に付けたモンスターボールを示す。

 レッドも応じて部屋の隅に並べていたモンスターボールを準備し始める。

 

「先に出て準備していてくれ。俺はちょっと服とか着るから」

「オッケイ~」

 

 鼻歌でも歌い始めそうなノリでアキラはレッドの部屋から出ていく。

 彼がいなくなったタイミングで、レッドは彼が去って行ったドアを静かに見つめる。

 その眼差しは憂いを帯びていたが、しばらく見つめた後、彼は静かに溜息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 マサラタウンから少し離れた草が少し生えている程度の荒れ地で、アキラは体を解しながら気合が入れていた。

 

 鋭敏化した目や反射神経を活かしたいが、まだ上手い具合に先読みを伝え切れないので、その辺りはまだ十分では無い。

 だけど、何やかんやあったがジョウト地方のジムリーダーでは()()()()()を除いて最強と呼ばれているイブキを打ち負かしたのだ。

 そしてポケモンカードでもレッドに勝った。この勢いに乗って今日こそレッドに勝つ。

 

「おっ、来た」

 

 準備が整ったのか、普段の服装――青と黒を基調とした服と帽子を被っている自分とは対照的な赤と白の服と帽子を被ったレッドがアキラの元にやって来た。

 既に準備は整っているので、お互いすぐにモンスターボールを手に取り、レッドは叫んだ。

 

「使用ポケモンは三匹!」

「三匹か…」

 

 レッドの宣言にアキラは少し考えるが、すぐに返事をする。

 

「先に三匹が戦闘不能になった方が負けだな。賞金の設定額は五千円で良いか?」

「えっと……良いぞ!」

 

 金欠気味なのもあって若干レッドは迷ったが、すぐに了承の返事を返す。

 何時もならフルバトルなのだが、基本的なシングルバトルのルールを真っ先にレッドが言い出した点を考えると体調の関係で長期戦は望ましくないのだろう。

 

 フェアじゃなきゃ勝っても意味が無い。

 

 正々堂々とした勝負なら、どんな敵が相手でも実践しているレッドの言葉だ。

 仮に自分がレッドみたいにサカキなどの強大な敵と戦う立場だったら、どんな手段や策を講じてでも勝とうとするので絶対に言えるものではないが、こういうスポーツや互いの力量を認め合う場で何より大切にすべき精神だ。

 アキラも不調であるレッドに勝っても嬉しくない。本気且つ全力のレッドに勝ってこそ意味があるのだ。

 

「先に言っておくけど、あの三匹は出しておくね」

 

 初めにアキラは、少し離れたところにいるヨーギラスやバルキー、ドーブルの三匹のことをレッドに示した。

 最近加わった彼らに、レッドという強者がどういう戦いをするのかを見て貰いたいのだ。

 説明役にサンドパンやヤドキングを出したいところだが、それではレッドに誰が抜けるかを教える様なものなので、後で解説をするとしても今回は自力での理解力を高めて貰う。

 

「おっ、話には聞いていたけどヨーギラス以外は初めて見るな」

「余計なことはしないから、彼らにどういう戦いをするか見て貰いたいんだ」

「全然構わないよ」

 

 アキラの言葉にアッサリとレッドは了承する。

 普通なら三匹も出ていたら怪しんだりするが、彼が何か細工をする筈が無いと信じている。

 

 距離を確認し合った両者は、合図があった訳では無いがほぼ同時にボールを投げる。

 

「頼むぞピカ!」

「今度こそ勝つぞヤドット」

 

 レッドはピカチュウ、アキラはヤドキングをそれぞれ繰り出した。

 ドーブルが見ていることや先発はサンドパンなどが多かったので、不意を突くことも兼ねて少し変えたのだが、このまま続行だ。

 他にも試合展開と自分次第だが、レッドが繰り出すであろう残りの二匹が何なのか大体予測出来た。

 

「相手はみずタイプだ! 一気に決めるんだピカ!!」

 

 レッドの指示でピカチュウが電撃を放ってきたが、ヤドキングは素早く”ねんりき”を発揮しながら払う様に腕を振ると、飛んで来た電撃は軌道を変えて外れた。

 ヤドンの頃より反応速度が速まったことと念の力が強くなったお陰で、多少相性が悪くても今みたいに力任せに防ぐことがヤドキングは可能だ。続けておうじゃポケモンは光らせた目を力ませて念の波動を放ち、ピカチュウを吹き飛ばす。

 

 吹き飛ばしたことでヤドキングとピカチュウとの間に距離が生まれる。

 この状況でレッド達が次に仕掛けて来るであろう一手を、アキラは過去の経験を元に予測する。

 

「”でんこうせっか”!」

「”うずしお”で防御!」

 

 体勢を立て直したピカチュウは距離を詰めようと高速で移動するが、回転を始めたおうじゃポケモンを取り囲む様に強い水の渦が発生する。

 イブキとの戦いでは”うずしお”や”たつまき”などの技に苦戦したが、同時に攻防では中々有用だった為、アキラは覚える余裕があるポケモンに積極的に活用方法を教えていた。

 

 その中で特にヤドキングが、この攻防一体の戦法に興味を示した。

 まだまだ念の補助が無ければ、”うずしお”を純粋なみずタイプの技として扱うには威力が不十分など至らない点も多いが、それでも何とか今回の戦いまでに実戦レベルには仕上げられた。

 突っ込んだピカチュウは渦の勢いに負けて掻き回された挙句、渦が止まると同時に放り投げられる。

 

「”でんこうせっか”を真似るんだ」

 

 一瞬だけ目付きを鋭くさせると、ヤドキングは”ものまね”を使うことで本来覚えない”でんこうせっか”を発揮する。

 びしょ濡れになっていたピカチュウは迎え撃とうと立ち上がるが、おうじゃポケモンは正面からでは無く背後に回り込むと回し蹴りで軽々と蹴り飛ばした。

 

「下手に応用が効く強い技を使ったら、俺が利用するのを忘れた?」

 

 挑発的にアキラはレッドに問い掛ける。

 それはレッドもわかっていたのだが、使うタイミングを見誤ったとしか言いようが無かった。

 

「”かげぶんしん”で避けるんだ!」

「”みずでっぽう”!」

 

 威力より速攻と考えて、ヤドキングは口から水流を放つ。ピカチュウはモロに浴びてしまうが、怯まず”かげぶんしん”で回避すると同時にアキラ達の攻撃の中断させた。

 厄介ではあるが、何回も戦っているお陰で既にアキラ達は”かげぶんしん”の見分け方はわかっている。

 すぐに本物を見分け様としたが、囲まれている危険な状況なのにアキラは気付くも、レッドの方が先に動いた。

 

「”10まんボルト”!!」

「”サイコウェーブ”で弾くんだ!」

 

 四方から電撃が飛んでくると同時に素早く胸の前で両手を合わせたヤドキングは、集中力を高めながら自らの体を回転させて念の竜巻を起こす。

 ミュウツー程のパワーは出せないことや”うずしお”同様に自らの体もコマの様に回転させる必要があるが、それでも十分なパワーだ。

 ヤドキングが起こした”サイコウェーブ”は、ピカチュウが放った”10まんボルト”は弾くだけでなく、逆にピカチュウを渦に引き摺り込もうとする。

 

「何時ものことだけど、今日も前より手強いな」

 

 最後にアキラと戦ったのは、自分が四天王のシバと戦う前だった。

 あの時は珍しく自分の圧勝で終わったが、あれから数カ月経っているのだ。短期間とはいえ四天王との戦いを経験するだけでなく遠い地方のジムリーダーに弟子入りしてまで教わっているのだから、急成長してもおかしくない。

 

「でも、俺だって負けちゃいない」

 

 念の竜巻である”サイコウェーブ”の強力さは、ミュウツーと戦った経験があるレッドはよく知っていたが、そのミュウツーと戦っていたが故に学んだこともあった。

 

「ピカ、”かみなり”を落とすんだ!!」

 

 荒れ狂う竜巻に抗いながら、ピカチュウは目の前にそそり立つ竜巻よりも高い高度から”かみなり”を落とすと、なんと渦の中心部にいたヤドキングに直撃させた。

 

「これを当てるのかよ!」

 

 もう少し攻略に時間を掛けるかと思ったが、アッサリと突破されてアキラは驚く。

 

 確かに正面からの力押し以外で突破するには、渦の力が弱い真上が狙い所だが、完全な無防備では無い。渦は途中でうねるなどで微妙に曲がっていたりしている為、途中で当たることなく掻き消されることの方が多い筈だ。

 にも関わらず運が良かったのか狙ってやったのか定かではないが、レッドとピカチュウはいとも簡単に”サイコウェーブ”の攻防一体を破った。

 本当に彼らは、毎回やることがこちらの予想を超えて来る。

 

 相性の悪いでんきタイプの大技を予期せず頭から受けたのが大きなダメージとなったのか、ヤドキングは回転を止めるだけでなく片膝を付いてしまう。

 ミュウツーの様な規格外のパワーなら跳ね返すなど出来たかもしれないが、渦そのものを起こすのと制御に力を注いでいる今のヤドキングにそこまでを実現させるパワーは無かったのだ。

 

「一気に決めるんだピカ!」

「ヤドット交代!」

 

 ピカチュウが攻撃を仕掛ける前に、アキラはヤドキングをボールに戻す。

 まだ十分に戦えるが、流れを持っていかれたら後は早い。相性が悪いこともあるが、先の展開を考えればヤドキングには()()()()()()()()()()()

 それからアキラは流れる様に別のモンスターボールを投げ、炎を滾らせたブーバーを送り出す。

 新たに飛び出したブーバーは、ヤドキングを狙っていたピカチュウの電撃を”ふといホネ”で防ぐと反撃すべく駆け出す。

 

「”みがわり”!」

 

 ブーバーが手にしたホネで”ホネこんぼう”を振り下ろした瞬間、ピカチュウは”みがわり”の分身と分裂する形で回避する。

 即座にブーバーは距離を取って構え直すが、向き直ってすぐに違和感に気付いた。

 

「ん?」

 

 そしてそれはアキラも同様だった。

 

 ピカチュウが()()いるのだ。

 

 ”みがわり”を使ったのだから疑似的に二匹いるのは当然だ。だが本来”みがわり”で生み出した分身は、本物と比べて色が薄かったり透明度が高い外見をしていて、よく目を凝らせば本体との区別はつく。

 ところが今レッドのピカチュウが生み出した分身は、単細胞分裂でもしたのかと思ってしまうまでに本物と同じ外見をしており、瞬時に見分けるのが困難だった。

 

「本物は――」

 

 これが前にレッドが言っていた”秘策”なのかもしれない。

 確かに最後に戦った時の自分なら見分けることは難しかっただろう。だけど、目の感覚が鋭くなった今の自分なら見分けられる。

 ドーブルが”へんしん”を使って変化した姿に違和感を抱く様に、本物と分身を比べると分身はエネルギーの塊故か()()()()と呼べるものが読みにくいからだ。

 

「…お前から見て右側の奴が本物だバーット」

 

 判断するのに数秒の時間を要したが、幸いレッドとピカチュウは過信しているのか、余裕を持って動いていたのも助かった。

 それさえわかれば問題無いと言わんばかりに、迷っていたブーバーは伝えられた通り、右側にいるねずみポケモンに突撃する。

 

「嘘!? もう見破ったのかよ!」

 

 何時までも騙せないとは思っていたが、初見でアッサリ攻略されるとは思っていなかったレッドは驚く。

 すぐに本物と分身は同時に”10まんボルト”を飛ばしてきたが、二匹分の電撃をブーバーは”みきり”で全て避け切ると本物のピカチュウに迫る。

 咄嗟に本物とひふきポケモンの間に分身が割り込んで本物が逃げる時間を稼ごうとするが、ブーバーの回し蹴りの様な蹴りを受けて分身は掻き消される。

 

 邪魔な分身を消したブーバーは、”ふといホネ”で殴り付けようとするが、本物のピカチュウは尾の”たたきつける”で握り締めている手首を叩いた。

 その的確な攻撃にひふきポケモンは思わず武器を手放してしまうが、すぐさま足技主体の戦い方に転じる。

 

 以前も手首を痛めたらすぐさま足技に切り替えていたが、シジマの元で鍛錬を積んだお陰なのか、以前までの適当な力任せなものではなく流れる様な連続攻撃を繰り出す洗練された動きだった。

 まるでかつて戦ったシバのサワムラーみたいな足捌きに、アキラが格闘系のポケモントレーナーに弟子入りをしたのが本当なのをレッドは改めて実感する。

 

「”かえんほうしゃ”!」

 

 十数秒に満たない攻防であったが、巧みに距離を取り続けるピカチュウの動きから反撃の芽を潰すべく、ブーバーは口から炎を放つ。

 炎は広範囲に広がっていくが、ピカチュウは更に後ろに下がるどころか逆に炎に突っ込み、呑み込まれる前に大きくジャンプして躱す。

 

「”たたきつける”だ!」

 

 走りながら跳び上がった勢いを利用して、ピカチュウは体を前転させる。

 技名から尾を叩き付けてくるのが容易に想像出来た。迎え撃つべく”ふといホネ”を拾ったブーバーは構え、アキラはタイミングを見図ろうと目を凝らすが、次の瞬間信じられないことが起こった。

 回転している間にピカチュウの背丈より少し短いギザギザした尾が、何の前触れも無く何故か通常の倍以上に伸びたのだ。

 

「伸びたぁっ!?」

 

 後少しで迎え撃つ準備が出来ると思っていただけに、これは完全に想定外だった。

 まさかこれもレッドの”秘策”。その考えが頭を過ぎった瞬間、尾が長く伸びたことでブーバーも迎え撃つタイミングを見誤り、脳天に尾を振り下ろされた。

 その瞬間、鈍い音だけでなく何か固いものをぶつけた様な音――まるでブーバーが今手にしている”ふといホネ”をぶつけた様なのがアキラの耳に聞こえた。

 

 一瞬だけとはいえ、ブーバーの意識が飛ぶ重い一撃。

 だが、ひふきポケモンは根性で踏み止まると無我夢中で尾を叩き付けてからまだ宙を舞っているピカチュウを”ほのおのパンチ”で殴り飛ばした。

 利き腕では無い左腕での攻撃だったが、”みがわり”でHPを削っていたことも要因にあったのか、地面を転がったピカチュウはあっさり伸びてしまう。

 

「…ただ尾が伸びた訳では無さそうだな」

 

 何とか勝ち星を拾ったが、頭に大きなダメージを受けた影響なのかブーバーの様子は安定していない。

 可能性が有るとしたらまだ見たことが無い”アイアンテール”と言う名のはがねタイプの技だが、攻撃する瞬間に尻尾が伸びる効果があの技にあっただろうか。

 

 それにレッドは技名を”たたきつける”と伝えていたこともあって、アキラは少し混乱する。

 前兆を見抜けなかったことを考えると、何かしらのエネルギーが関係していることが考えられるが、素直にレッドは教えてくれないだろう。

 

「よく頑張ったピカ。ゆっくり休んでいてくれ」

 

 労いの言葉を掛けながらピカチュウをボールに戻すと、すぐにレッドは次のポケモンを召喚する。

 

「いけゴン!」

 

 出てきたのはでっぷりとしたお腹と巨体の持ち主にして、アキラがあまり相手にしたくないカビゴンだ。

 物理特殊問わずにあらゆる攻撃を耐え抜く動く要塞には、野生の頃から今に至るまでアキラは散々手こずらされて来た。

 しかも今ブーバーは消耗しているだけでなく、頭を強く打っている状態。レッドがカビゴンが出してくることは予想していたことなので、出来ることなら万全の状態で相手したかったが仕方ない。

 

「気をしっかり保つんだバーット! 何時でも仕掛けられても良い様に――」

「”じしん”!」

 

 何時だったか、彼が覚えさせたいと言っていた技をカビゴンは仕掛ける。

 動くのも怪しい巨体で両足で地面を強く踏み締めた瞬間、強烈な揺れと地面が波打つ程の衝撃波が周囲に広がっていく。

 

 まともな回避の手段がジャンプして避けるくらいしか無い技なので、ブーバーは揺れと衝撃波に巻き込まれない高さにまで跳び上がる。

 次にカビゴンは、”かいりき”で地面から剥がした岩なのか土の塊を投げ付けてきたが、予想通りなのでブーバーは”みきり”で軽く避ける。

 

「”ホネこんぼう”!」

 

 地面に着地したブーバーは、俊敏な動きであっという間に距離を詰めて、数少ない狙い所であるカビゴンの顔を”ふといホネ”で殴り付ける。

 ところが殴った瞬間、鈍い音では無く、何か硬いものがぶつかり合った様な音が響く。咄嗟にカビゴンが、”かたくなる”で防御したのだ。

 だが、構わずブーバーは振り抜いた勢いを利用して、流れる様に”いわくだき”を意識した回し蹴りを再び顔面に叩き込む。

 これには全身を硬化させて防御していたカビゴンは思わず下がるが踏み止まった。

 

「腕を硬くしたまま”メガトンパンチ”!」

 

 すぐにカビゴンは腕以外の硬化を解くと、腕のみを”かたくなる”の効果で硬くしたまま強烈なパンチを叩き込んだ。

 ブーバーの体は吹き飛ぶが、幸いギリギリのタイミングで”ふといホネ”で防御することには成功していた。ところがピカチュウに頭を殴られたのが響いたのか、上手く受け身が取れずにひふきポケモンは叩き付けられる。

 

「チャンスだ! ”のしかかり”!」

 

 地響きを鳴らしながら、ダメージが蓄積して動きが鈍っているブーバーにカビゴンは突進する。そしていざ仕掛けようとした時、ブーバーの目から怪しい眩い光を放たれた。

 最近あまり使わない”あやしいひかり”だ。浴びた瞬間頭が真っ白になったカビゴンは、”こんらん”状態の一歩手前の状態になってしまったのか足が止まる。

 

「今だ! もう一度”いわくだき”!!!」

「ゴン! 後ろに”ころがる”だ!」

 

 立ち上がったブーバーは拳を握り締めて駆け出すが、レッドの呼び掛けで立ち直ったカビゴンは距離を取る様に体を丸めて後ろに転がった。

 ブーバーは追い掛けることはせずにホネを構えて備えるが、それからカビゴンはひふきポケモンを中心に円を描く様に転がり続ける。

 

 アキラもカビゴンの動きに注視する。”ころがる”と言う技を使っているとはいえ、本来の素早さなら実現不可能なスピードでカビゴンは移動しているのだ。

 さっきのピカチュウの様に、何かこちらの考えが及ばないことを仕掛けてくるかもしれない。

 

 今までレッドと戦った時の記憶を振り返り、考えられる可能性を一つずつアキラは浮かべていく。

 その間に自然と時間が経っていき、”ころがる”カビゴンの勢いが徐々に速くなってきていた。それに伴ってカビゴン程の巨体と重量によってもたらされる地面の振動も大きくなっていく。

 

「嫌な揺れだ…」

 

 こうして立っているだけでも、微妙に不快で負担を感じる。

 健全状態のアキラでさえもそう感じるのだ。ただでさえ頭に大きなダメージを受けているブーバーにとって、この揺れはかなり煩わしいどころか地味に()()()()を受けていた。

 その時、転がっていたカビゴンの体が弾み、”じしん”程では無い揺れが生じた時、ブーバーは足を取られるかの様にバランスを崩し掛けた。




アキラ、レッドとのリベンジ戦は互いに一進一退の様子。

お互いに昔よりも力が付いていますが、レッドは更に身に付いた力を活かせる様に発想力やセンスなどを磨き、主人公の方は過去の対戦経験と研究を戦いに反映させて自分達の強みを押し付けられる様にしていると言った感じです。

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