終盤の数話を除けば、第2.5章はほぼ書き上がっていますが、どんどん長引いて行くので更新中に残った数話を書き上げることにして、更新を再開しようと思います。
もし更新中でも書き上げられずに中途半端なところで更新が止まったらすみません。
その場合は書き上がり次第、すぐに更新して現在の章を終わらせます。
こんな調子ですが、更新が滞っている間も読んで頂けたり感想を送ってくれる読者の方がいるのには本当に感謝しています。
面倒なことになってしまった。
まるで連行される犯罪者の様に、武術服を着たトレーナー達に両腕を抱えられたアキラは自分の置かれている状況に頭を働かせる。
まさか図書館でこの町のジムリーダーにして、今こうして自分を引っ張っている集団を先導する様に歩いているイブキに遭遇するとは思っていなかった。
しかも声を掛けられた直後に、こうしてどこかに連れて行かれることになるのも予想外だった。
理由が分からなかったので当初は抵抗しようと思ったが、イブキ以外の誰もが申し訳なさそうな表情と目線を向けていたので下手に抵抗することはしなかった。
やりたくは無いけど力関係などでは彼女が圧倒的に上だから逆らえないのが、彼らを良く知らないアキラでも察することが出来たからだ。
そのままズルズルと引き摺られる様にアキラが連れて行かれた先は、彼が修行しているシジマの格闘道場に似ていたが、より巨大で龍の像があるなどドラゴンに関わりが有りそうなイメージを連想させる建物だった。
「フスベジム」と書かれた看板が掛けられているのを見ると、どうやらイブキがリーダーを務めているジムなのは間違いなかった。
ジムの中にまで連れて来られてようやくアキラは解放されたが、ずっと彼に背を向けていたイブキがマントをはためかせながら振り返った。
「お前がアキラだな」
「――違うのですけど」
開口一番に名を聞かれたが、アキラは不信感と嫌悪感を露骨にして否定する。
ここまで連れて来たからには、恐らく彼女は何かしらの確信がある筈だ。誤魔化しは通じないことはわかる。
だがそれでも強引に連れて来られたこともあって、アキラは素直に答える気にはなれなかった。
彼の喧嘩を売っている様な返事に苛立ったのか、ただでさえ機嫌の悪いイブキは鋭い音と共に手に持った鞭を床を打ち付ける。
「恍けたことを言うな。お前が何者なのかは見当が付いている。それに証拠もある」
イブキの手には図書館で広げていた「ポケモン育成3」と書かれたアキラのノートがあり、そこの表紙には律儀に自分の名前が書かれていた。
誤魔化す以前に自らの凡ミスに気付き、アキラはへそを曲げたかの様に目線を余所に向ける。しかし、イブキは構わず話を続けた。
「このフスベシティは、ドラゴン使いを目指す者以外でもドラゴンポケモンに関する情報を求めて訪れるトレーナーは多い。丁度お前の様にな。何時か来るだろうと考えて網を張らせていた」
イブキが語った内容に、アキラは何気なく目線をある方向へ向ける。
その先には、さっきまで図書館で自分の隣に座っていた青年が申し訳ない表情を浮かべており、イブキの言う”網の意味”を彼は察する。
カイリューでやって来たら目立つと言う推測は正しかったが、まさかここまで自分みたいな特定人物が来ることを待ち伏せしていたのは想定していなかった。
彼女の様子を見る限りでは、自分がカイリューを連れていることを含めて、色々誤魔化しようが無いところまで知っているだろう。
「……俺をここに連れて来た目的は何ですか?」
「目的だと?」
まだ理性が勝っているのか、下手をすれば手に持った鞭で容赦無く打ち付けてきそうな怒気の籠った空気がイブキの周囲を取り巻く。
何時鞭を振るわれても避けられる様にアキラは腕の動きに注視するが、彼女は彼を連れて来た目的を口にする。
「兄者と最後に戦ったのはお前だろ」
「兄者?」
一瞬誰のことかわからなかったが、すぐに彼女が言っている意味をアキラは理解する。
ハッキリ憶えていないが、イブキは数カ月前にアキラ達と激戦を繰り広げたカントー四天王を名乗っていたワタルの従妹だったか兄妹弟子のいずれかの関係だ。
外見はあまり似ていないが、ドラゴン使いとして知られているのと彼女が羽織っているマント、傲慢にも近いやたらとプライドの高い態度。そして先程から感じる彼女に対する嫌悪感。
あらゆる要素で、数カ月前に戦った四天王ワタルの面影を感じた。
「誤魔化そうと考えても無駄だぞ。カントー地方にあるクチバシティと言う街の近くにある海の上で青い帽子を被った少年とマントを羽織った青年、双方が連れていたカイリュー同士が戦ったという話。そしてカイリューを連れている少年で該当するのはお前しかいない」
わざわざカントー地方に出向いて聞いたとしか思えない内容にアキラが微妙な表情を浮かべる。
まだまだポケモンの育成技術や知見が発展途上なのも相俟って、半ば伝説みたいに扱われている程に育成難易度が高いカイリューを連れている人物などそう多くは無い。
しかもアキラの年でカイリューを連れているトレーナーは、カントー地方では殆どいないのだ。外見の情報も相俟って容易に特定されるのは無理ない。
「兄者ってワタルのことですか?」
「そうだ」
「…確かに俺はワタルとは戦いました。ですが、厳密に言って最後に戦ったのは俺ではありません」
「イエローと言う麦藁帽子の小僧が最後に戦った相手だと言うのか。話を聞く限りでは小僧程度の実力に兄者が負ける筈が無い」
そこまで調べられているのを知ると同時に、アキラはカツラやイエローでは無く自分が目を付けられた理由を察した。
要するにイエローの実力でワタルを打ち負かすのは有り得ないから、強大なドラゴンポケモンに対抗できる同じドラゴンであるカイリューを連れている自分が目を付けられたのだろう。
確かにイエローが連れている手持ちポケモンのレベル、普段の実力を考えると実際に目にしなければ、ワタルが率いる強力なドラゴン軍団を相手を打ち負かしたという話は信じにくい。
「……何で俺なんですか?」
「数カ月前まであった兄者からの連絡が途絶えたのだ。我が一族の情報網を駆使してもその行方が掴めない。ならば、最後に戦ったであろうお前なら何らかの形で兄者の行方を知っているのでは無いかと踏んだのだ」
「いや、
高圧的なイブキの問い掛けに対してアキラは即答するが、自分が行方を知っている可能性が高いと判断した彼女の考えが
不可抗力ではあるが、ワタルが潜伏していると思われる場所をアキラは知っている。けど、確かめたことが無いので確実にいるという保証は無い。そもそも
後、今のところは静かにしている様ではあるが、また一地方を相手に喧嘩を売れるだけの力で暴れ始めたら面倒極まりないので下手に刺激したくないこともある。
とはいえ、仮に知らなかったとしても今のイブキの様子では、実力行使に出てでも自分に知っている限りの情報を吐かせようとするだろう。
「そもそも、会ってどうするつもりなのですか? 貴方の兄者とやらは指名手配されているのですよ。自首する様に説得してくれるのですか?」
あの事件以降、カントー四天王を名乗っていた四人はお尋ね者扱いだ。
だが顔写真はキクコ以外は何故か無くて似顔絵は証言を基にした絵だったり、証言以外でのハッキリとした物的証拠があるのはクチバシティの港を吹き飛ばしたワタルだけだったりと証拠が乏しい。
その為、指名手配と言っても犯人扱いと言うよりは最重要参考人として探している形だが、それでもお尋ね者であるのには変わりない。
これにはさっきまで強気だったイブキは、一転して気まずそうにゴニョゴニョとハッキリしない小さな声で弱々しく答えた。
「兄者がやったのも、何か深い考えがある……筈」
深い考えどころか、自分達に賛同する存在以外を消して自称理想郷を建国しようとするロクでも無い考えなのだが、アキラは思わず頭に浮かんだことを口にしてしまいそうなのを堪える。
自首を促しそうにないなら、ワタルがいるかもしれない場所を教える意味は無い。そもそもワタルが身内の言葉であっても素直に耳を傾けるとは思えない。
そんなことを考えていたら、怯み気味だったイブキが唐突に話を変えて迫った。
「とにかく教えろ! お前の知っている事全てを!」
「いやだから、最後に戦ったのは俺ではありません。大体あいつは光の中に消えて――」
「あいつ!? 光の中に消えた!?」
まるで消滅したかの様な表現をしてしまい、アキラは自分の失言に気付く。どうもワタルが関わると感情的になると言うべきか調子が狂う。
だが彼よりも感情的になったイブキは、腰に付けたモンスターボールからハクリューを出すと先程よりも威圧的な表情でアキラに迫る。
それに対してアキラも手持ちが入ったボールに手を伸ばすなど、一触即発だった。
これには周りで見ていたイブキ以外のジム関係者はマズイと感じたのか、何人かが彼女を遮る様に立ち塞がって落ち着く様に伝え始めたが彼女は全く意に介さなかった。
「イブキ様、落ち着いて下さい! えっと、勝手に連れて来ておきながらこう言うのも申し訳ないけど、君はもう帰った方が…」
「ですね」
「こらリュウ! 余計な事を言うな!」
弟子兼ジムトレーナーと思われる青年の勧めに、アキラは素直に従った方が良いと判断する。
一緒に持ってきたであろうリュックなどの荷物を受け取り、フスベジムから出る準備を始める。勿論、青年と同じ立場の人達が必死に止めているイブキとハクリューの動きにも注意して何があっても良い様に備えることは忘れていない。
身内を心配することは悪いことではないが、幾ら何でも私情が入り過ぎだ。
加えて腰に付けているモンスターボールの中にいるカイリューも、イブキの態度が気に入らないのか「俺を出せ」と言わんばかりに揺らすので長居は無用だ。
ドラゴンタイプの技の多くが門外不出扱いであまり知りたかったことは知れなかったが、氷タイプの対策はある程度の情報を得られただけ良かった。
「あっ、俺のノート」
荷物は戻ってきたが、中でも大切な手持ちの育成計画などが記されたノートがまだイブキが持っていることを思い出す。
振り返ると弟子の何人かが取り返そうとしていたが、イブキはまるで子供の様に持っている腕を高く伸ばしたり逸らしたりとあの手この手で妨害していた。
「あの、そのノートは
他人から見ればただのノートだが、アキラにとっては血と汗の結晶とまでは言わなくても重要なものだ。
気紛れで書き留めている内容もあったりするが、それでも纏めたらそれっきりという訳では無い。当時記したノートの内容を軽く見直す時も度々あるのだ。
扱いとしてはある意味虎の巻に近い。本で良さげと感じた内容や試行錯誤の結果だけでなく手持ちの今後の育成計画も書いているので返して貰わないと困るし、ぞんざいに扱われることもなるべく避けたい。
ところがイブキは、アキラを一瞥するや唐突にハクリューを伴って、突然背を向けて歩き始めた。
「え? あの…」
「癪ではあるが、取引といこうではないか」
「……取引?」
突然イブキが語り始めた内容がアキラには理解出来なかった。
だが、彼を置いてきぼりにイブキは手にしているノートを掲げると続けた。
「お前が勝ったらこのノートを返そう。負けたらお前が知っている兄者に関する情報全て教えろ」
「へ?」
あまりにも唐突且つぶっ飛んだ提案に、思わずアキラは間抜けな声を発するだけでなく目が文字通り点になった。
「何を言っているんだこの人?」と思わずにはいられなかったが、ノートを人質(?)にしてでも手段を選ばなくなったということなのだろうか。
少しずつ彼女の発言と状況の理解が進むにつれて、アキラは思わず「ドラゴン使いは総じて無茶苦茶で大人気ない連中ばかりなのか」と悪態をつきたくなったが、何とか取り返すべく説得を続ける周りの人達を見るとそういう事は無さそうなのに少し安心する。
ドラゴン使いというよりは、自分はイブキやワタルなどの一族とは性格や考え方を含めた面で相性が悪いのだろう。
「……わかりました」
顔を俯かせながら返事を返した直後、彼の周りにいた弟子やジムトレーナー達の何人かは唐突に体を強張らせた。
被っている青い帽子の鍔の影で目元が隠れていたが、アキラの周りの空気が一変したからだ。
そして顔を挙げた彼は、射貫く様な鋭い眼差しを露わにした。
「力尽くで取り返させて貰う為にも、そのバトルの申し出を受けます」
抑え気味の口調と言葉遣いではあったが、アキラを良く知らない者でも彼がかなり怒っているとわかったが、イブキは怯むどころか逆に好戦的な笑みを浮かべる。
大人気ないことは承知の上だが、思惑通りに彼を釣り出せたのだ。後は自分が勝てば、彼が持っているであろうワタルの情報を引き出すことが出来ると考えていた。
「使用ポケモンは六匹――と言いたいところだが、どうやら今の貴様は四匹しか連れて来ていない様だから、今回は四匹だ」
勝ちに行くつもりなら、数の差を考慮せずに挑めば良いが、流石に数で上回った上での勝利を収めることはイブキのプライドが許さなかった。
こちらから喧嘩ならぬ戦いを吹っ掛けたのだから、対等な条件の上での完全な勝利を望んでいた。
アキラの方も、今サンドパンがヤドキングと共にヨーギラスを始めとした後輩達の新人教育の為にクチバシティにある家に待機させていることもあったので、この提案は素直に有り難かった。
「こちらが今連れている数に合わせてくれるのには感謝します」
「ふん。例え何匹だろうと私は勝つつもりだ」
「それは俺もです」
頭が少しばかり冷えたこともあって、アキラは最低限の礼を伝えると詳しいバトルのルールを確認し合った。
使用ポケモンはイブキの提案通り互いに四匹。そして道具の使用はポケモンに持たせる形も含めて一切無し。
一通り確認し終えたアキラは、イブキが立っている逆側のフィールドへと移動する。
彼らがポケモンバトルすることは止められないと察したのか、周囲にいたジムトレーナー達は既にフィールドから離れており、準備をしてきたと思われる審判も慌てて位置に付く。
「え~…お互い準備は良いですか?」
「当然だ」
「何時でも良いです」
審判の確認に応えたアキラとイブキは、互いにモンスターボールを手に取って試合開始の合図を待つ。
「で、では――試合開始!!!」
両手に持った紅白の旗を掲げて審判は試合開始を宣言すると、ほぼ同時に両者はモンスターボールを投げ込んだ。
「ギャラドス!」
「――エレット」
イブキが投げたボールから巨大な青い龍が大きな声で吠えながら姿を現すが、僅かに遅れてアキラが放ったボールからは雷が生き物の姿をした外見のでんげきポケモンが登場する。
モンスターボールの中から今回のバトルに至った経緯を見て来たのとアキラが抱いている感情が伝搬しているのか、普段の優しくもどこか抜けた雰囲気は一切無く、引き締めた表情でエレブーはギャラドスを見据える。
互いのポケモンが出揃うのを確認すると、アキラは余裕を持って今まで考えて来たギャラドス対策を思い出しながら、静かにその動きを見抜こうと目を凝らす。
「ギャラドス! ”りゅうのいぶき”!!」
「”でんこうせっか”で飛び込むんだ!」
先手を打ったイブキに命じられると同時にギャラドスの口から黄緑色の息吹が放たれる。その勢いはまるで光線の様に速かったが、エレブーは”でんこうせっか”で飛び込む形で躱す。
それからは流れる様に腕から電流を放ちながら跳び上がり、”かみなりパンチ”をギャラドスの顔面にアッパーする形で叩き込んだ。
いきなり相性の悪い攻撃を顔に受けたギャラドスは思わず怯むが、エレブーの攻撃はそれだけでは終わらなかった。
殴り付けてから勢いのまま、でんげきポケモンは空中で体を巧みに捻らせて、ギャラドスの頭部の突起にしがみ付いたのだ。
「”10まんボルト”!」
アキラが技名を叫ぶ形で合図を出すと、エレブーは最大パワーで全身から”10まんボルト”を放つ。
相性が最悪である電撃を0距離から浴びせられて、ギャラドスは気が狂ったかの様な悲鳴を上げながら悶え苦しむ。
「ッ! ”かいりき”で振り落とせ!」
焦ったイブキの指示にギャラドスは、電撃を浴びながら何度も自らの頭を激しく振ることでエレブーを引き剥がす。
飛ばされたエレブーだが、空中で受け身を取って体勢を立て直すと難なく着地して次に備える。
「いいぞエレット。修行の成果が出ているぞ」
シジマの元で学んだ体の使い方や受け身などの技術が、実戦でも活かされていることにアキラは少しだけ表情が緩む。
褒められたエレブーは照れ臭そうに引き締めた表情を崩すが、その余裕がイブキ達の神経を逆撫でした。
「”はかいこうせん”で吹き飛ばせ!!!」
「壁を張って!」
反撃とばかりにエレブー目掛けてギャラドスの口から”はかいこうせん”が一直線に飛ぶ。
強力なエネルギーが迫るが、エレブーは”リフレクター”と”ひかりのかべ”を盾を構える様に二重に発動して直撃から身を守る。
「エレット、もう一度”10まんボルト”だ」
”はかいこうせん”のエネルギーが途切れ、壁が消えたタイミングでアキラは更なる攻撃を伝える。
先程の攻撃によるギャラドスの消耗具合や一連の攻撃パターン、そして動きから遠距離攻撃が有効だと彼は判断していた。
しかし、いざエレブーが電撃を放出しようとした時、イブキとギャラドスは即座に動いた。
「”たつまき”!」
ギャラドスは巨大な体をとぐろを巻く様に回転させると、技名通りの巨大な風の渦を瞬く間に起こしたのだ。
何の備えもしていなかったエレブーを竜巻はあっという間に引き寄せる形で吸い込み、でんげきポケモンは訳もわからないまま体を激しくかき混ぜられる。
「”ハイドロポンプ”!」
急停止する形でギャラドスが回転を止めると弾ける様に竜巻は消えるが、平衡感覚を滅茶苦茶にされたエレブーはすっかり目を回しており、正しく状況を認識出来ていなかった。
そんな投げ出される様に宙を舞っているエレブーに大量の水流が襲い掛かった。まともにギャラドスの攻撃を受けてしまったエレブーは、そのまま水流に押されるままに天井に叩き付けられてしまう。
放たれた水流が止まるとでんげきポケモンの体は重力に従って落ちていくが、空中で体勢を立て直すと両足でしっかりと踏み締める様に着地する。
「まだ戦えるのか」
イブキは驚いているが、アキラにとっては当たり前の光景だ。
多少は先程発揮した”リフレクター”や”ひかりのかべ”の効力が残っているが、エレブーの気持ちの持ち方が一番大きい。
最近はヨーギラスを始めとした後輩達に良い姿を見せたいのか、良き先輩として振る舞うだけでなく”守り”を教える師としての自覚が芽生えてきているのだ。
耐え抜かなければヨーギラスに見せる顔が無いのだろう。トレーナーである自分の空気に当てられただけでなく、普段以上に気合が入っている。
「ならば、もう一度”たつまき”…」
「させるなぁ!!」
イブキはもう一度同じ技を命ずるが、今度はアキラの方が早かった。
さっきは初めて見る動きだったので対応が遅れたが、一連の流れからその動きがギャラドスの”たつまき”を放つ動作であることを理解した。
それさえわかれば、目の感覚が鋭敏化している今のアキラなら予備動作などが見られた時点で手を打つことが出来る。
エレブーは再び”でんこうせっか”の瞬発力と加速を活かして距離を詰め、今にも体を回転させようとするギャラドスの動きを止める様に”かみなりパンチ”を胴体に打ち込む。
「堪えるんだ!」
「止めを刺せ!!!」
一番苦手なでんきタイプの攻撃を再び受けて、ギャラドスの動きは鈍ったが、止まる様子が見られなかったことからアキラは間を置かずに次の攻撃を伝える。
エレブーは雄叫びを上げながら、空いていた片方の腕にも一際眩い紫電を走らせて再び”かみなりパンチ”を捻じ込む。
拳に込められた電撃が一度ならず二度も全身を駆け巡り、ギャラドスは大きな音を立てながらその巨体を崩した。
「くっ! まだだ! この程度小手調べだ!」
イブキは声を荒げながら、すぐさま倒れたギャラドスをモンスターボールに戻す。
普通なら既に倒れているか大きなダメージを負ってもおかしくない攻撃を受けても耐え切るエレブーの打たれ強さは、彼女にとって想定外だった。
次からは念入りに倒す。そう意気込み、次のボールからはハクリューを繰り出した。
「”たつまき”!」
投げ付ける様に渦が生じている尾を振るうと、小さかった渦はあっという間に巨大化して文字通り強烈な竜巻となった。
さっきギャラドスが起こしたのと比べれば小規模ではあったが、それでも威力と規模は十分だった。
エレブーは先程の様に簡単に竜巻に引きずり込まれない様に堪えるが、下手に体を動かすことが出来なかった。
そしてその隙をイブキ程のトレーナーが見逃す筈は無かった。
「”はかいこうせん”!」
ハクリューの頭部にあるツノが輝きを放ち、細くも鋭い光線が”たつまき”の暴風に抗うのに必死な無防備なエレブーを吹き飛ばす。
正面から”はかいこうせん”を受けてしまったでんげきポケモンは、伸びていく光線に押される形でアキラが立っている場所からそれ程離れていない壁に轟音と土埃を舞い上げながら叩き付けられた。
「っ、エレット…」
”はかいこうせん”は、一般的なポケモンの多くが覚えることが可能な汎用性に優れた技の中で最も強力な技だ。
それをある程度のダメージを蓄積した無防備な状態で受けてしまっては、流石に防御に自信があるエレブーでも厳しい。現に土埃が晴れていくにつれて、蜘蛛の巣状に凹んでいた壁に体がめり込んでいる姿をエレブーは露わにした。
「やっとか。随分と手間取ってしまった」
ようやく互角に持ち込んだことでイブキは満足気に呟き、審判もまた戦闘不能を告げようとしたが、アキラは制止させた。
「待って下さい。エレットはまだ戦えます」
「何をい――!?」
アキラがそう伝えた直後、壁にめり込んでいたエレブーが動き始めたのだ。それも痙攣などではなく、大の字状に埋め込まれた体を引き抜こうと壁の一部を崩しながらだ。
並みのポケモンなら、あれだけダメージを受けた状態で”はかいこうせん”が直撃すれば、その時点で戦闘不能と言っても良い筈だ。
エレブーという種は、そこまで防御力に優れている訳では無い。しかし、彼が連れているエレブーの常識外れの打たれ強さにイブキは驚きを隠せなかった。
だが、その動きはぎこちない。めり込んだ壁から抜け出しはしたが、顔を俯かせながら両腕を力無く垂らしてフラフラとした足取りでフィールドに戻る。
その姿に大方虚勢を張っているだけだろうとイブキは考えるが、彼女の予想はまたしても裏切られることとなった。
力無く垂れていたエレブーの右拳が突如強く握り締められたのだ。
直感的にイブキは危険なのを察するが、気付いたら全身から激しく電力を走らせたエレブーは、一瞬でハクリューの懐に飛び込んでいた。
反応し切れない速さに、ハクリューは何も出来ないままエレブーのアッパーで顎を打ち抜かれて、体は真っ直ぐ天井へと打ち上げられた。
まるでさっきの意趣返しの様に、ハクリューの頭は天井に突き刺さる様に埋まると、残った体は力無く宙ぶらりんとなった姿を晒した。
「な…なな…」
「一点に集中させるとえげつない威力だな」
イブキは信じられなくて言葉を失っていたが、アキラはエレブーの暴れっぷりに感心しつつどこか誇らしげだった。
アキラ、紆余曲折あってイブキとのガチ勝負に挑む。
原作ではカツラがワタルと最後に戦った相手とイブキに見られていましたが、本作ではアキラが最後に戦った相手と認識されている扱いになっています。
それとこの作品についてのことなのですが、最近は以前まで続けていた更新頻度などが少しきつくなってきたので、今回の連続更新の間は二日に一回のペースで夕方の18時に更新していくことにします。
次の連続更新の時も今回と同じ頻度で更新するか、以前の更新頻度に戻るかについては、申し訳ございませんがその時の状況次第になります。