SPECIALな冒険記   作:冴龍

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調整に手間取りましたが、この話で今回の更新は終了です。


龍の聖地

「……意外と書かれていないものだな」

 

 手に持った表紙が古そうな本に目を通しながら、目的の内容が書かれていないことにアキラは不満を呟く。

 隣に座っていた拳法家みたいな服装をした青年が席を立つが、アキラは気にも留めなかった。

 今彼は、ジョウト地方のフスベシティと呼ばれる町にある小さな図書館を訪れていた。

 

 フスベシティ、そこはドラゴン使いの聖地であると同時にドラゴン使いを目指す者全員が必ず修行すると言われる町だ。

 アキラもドラゴンポケモンの代表格であるカイリューを連れているが、だからと言ってドラゴン使いを名乗るつもりは微塵も無い。この町にやって来たのは別の理由だ。

 

 今までアキラは、ポケモンに関する資料や情報を集めるのにタマムシ大学の図書館を利用してきたが、そこにはドラゴンポケモンに関する資料は少ない。だからこそ、遠い地方出身者のドラゴン使いを目指すトレーナーも訪れるフスベシティにならドラゴンポケモンに関する情報――カイリューを更に強くするヒントが得られると見て訪れたのだが、目的は果たせそうに無かった。

 

 確かにドラゴンポケモンに関する蔵書数は、カントー地方トップクラスのタマムシ大学の図書館を大きく凌いでいる。

 ところがドラゴンポケモンの育成方法や生態、弱点であるこおりタイプに対する対処方法は山の様に見つかるのだが、ドラゴンタイプの技に関する本や記述があまり無いのだ。

 

 ドラゴン系のポケモンの多くが覚えられる基本的な技の一つである”りゅうのいかり”。

 その”りゅうのいかり”の亜種か、更に威力を高めた発展技に該当する”りゅうのいぶき”。

 少し方向性は異なるが、早い段階で覚えられるからなのか基本的な技の一つに分けられていると思われる”たつまき”。

 これらの技に関する記述はそれなりに見られる。

 

 しかし、”げきりん”は勿論、安定性の高い”ドラゴンクロー”や”りゅうのはどう”さえ、知っていれば何となく連想させる記述は見られるものの、ハッキリとした技名などは書かれていない。

 未だにアキラが連れているカイリューは、”りゅうのいかり”しか自由に扱えず、”げきりん”に至っては互いに一心同体とも言える感覚を発揮出来た時だけしか使えた経験は無い。だからこそ、具体的な引き出し方や制御方法を知りたかったが、何も書かれていないのではお手上げだ。

 

 折角氷の抜け道を通るという手間を掛けて来たのだから、少しは苦労に見合ったものが欲しい。そう思わずにはいられなかったが、理由もわからなくも無かった。

 

「……簡単に部外者に情報を渡す訳も無いか」

 

 ドラゴン使いとは一切の繋がりが無い部外者に教えるつもりは無いと言う事なのだろう。特にドラゴンタイプ最大最強の技である”りゅうせいぐん”は、技名どころかそれを連想させる記述や内容が一切無いのだ。描き方や解釈は異なる可能性はあるが、隕石そのものかそれに匹敵するだけのエネルギーを落とす技だから危険なのだろう。

 

 単純にシンオウ地方から登場する技だから無いという見方もできるが、そのシンオウなどの他地方の著者が書いたドラゴンポケモンに関する本が置いてあるのを見るとそれは無いだろう。

 原作ではシロナとその祖母が使えるのを仄めかす程度の記憶しか無いが、シンオウ地方の主要な伝説のポケモンはドラゴン関係だ。

 シロナと祖母もドラゴン使いの一族と何かしらの繋がりがあるから使えたのだろう。

 

 取り敢えず”げきりん”の引き出し方を探すのは一旦頭の片隅に置き、今は次に優先度の高いこおりタイプの対策をノートに書き留め始める。

 ドラゴンタイプの弱点は、同じドラゴンタイプとこおりタイプの二タイプだ。中でもタイプや技の豊富さで言えば、こおりタイプは天敵とも言える。だからなのか、ドラゴンポケモンのこおりタイプ対策は炎技での対処以外のことも記されているなど中々力が入っている。

 けど、これらの対策がどこまで有効なのかはわからない。

 

 何故なら次にロケット団やカントー四天王の様に、地方を揺るがす大事件を起こすチョウジジムジムリーダーのヤナギはこおりタイプのエキスパートだ。

 この世界では「最年長ベテランジムリーダー」として一般的に知られているが、サカキの様に最強のジムリーダーと称されている訳では無い。

 だが、原作で見せた数々の常軌を逸した実力を考えると、正直言ってまるで勝てる気がしない。

 

 自由に動き回れるだけでなく、伝説のポケモンが放つ炎以外では完全に溶かし切れない氷人形。

 まともな指示が与えられない状況下で伝説のポケモンを撃破及び捕獲する手持ちポケモン。

 いざとなったら伝説を一蹴できるだけの威力を持つ”ふぶき”などの氷技による全方位攻撃のゴリ押しでの突破。

 更にセレビィ捕獲と正体の露見を防ぐ為に非専門タイプも高いレベルに鍛える高い育成能力。

 これだけのことをこの世界のヤナギは、ほぼ独力で実現しているのだ。

 

 トレーナー歴たった数年の若者が、数十年間伝説のポケモンと戦うことを想定して執念染みた鍛錬と研究を重ねたであろう猛者に勝てるイメージがどうしたら湧く。

 だからと言って諦めるつもりは無いが、仮に対策全てを実現することが出来ても、想定している以上のパワーで上回られる可能性の方が高い。

 伝説のポケモンも、同格で無ければ倒せない扱い様な印象を受けたグラードン・カイオーガを除いても規格外なのに、どう対抗すれば良いのか。

 

 同じ常識外れの力で対抗するしかない。

 

 単純明快な対抗策が、閃く様にアキラの頭の中に浮かんだ。

 ヤナギの力は確かに、神様視点とも言える形で見たことがあるアキラから見ても常識外れだ。現実的とは思えないが、それでもポケモンが持つ力と技を極限にまで高めたことで実現出来ている範囲内に留まっている筈だ。

 ならば同じく常識外れとも言えるまでの力と技を身に付ければ良いのだが、頭に浮かぶのは簡単であってもいざ考えても殆ど浮かばない。

 

 腕を組んで悩むアキラの脳裏に、フワフワと気の抜ける形で一年近く前に従来のタイプにほのおタイプが加わった上に巨大化したサイドンの姿が浮かんだ。

 

 あれは絶対にダメだ。

 

 どういう理屈で実現しているのかがまだ具体的に判明していないどころか、あの禍々しい姿は誰がどう考えても物語には定番の”暴走”だ。

 仮にカイリューが同じ力を手にしたと仮定してみよう。過大評価かもしれないが、街一つが滅んでもおかしくない。

 それ以前にただ力任せに暴れるだけでは、怒りで我を失った伝説のポケモンを容易に対処出来るヤナギなら軽く捌くのが目に見えている。

 

「…やっぱり、()()が一番かな」

 

 手に持っていた鉛筆を手放し、アキラは右手を眺めながら握り拳を作る。

 次に浮かんだのは、負けられない戦いの要所要所で時たまに見せる桁違いの威力を持つカイリューの技だ。

 

 強大な光線、破壊的な竜巻、爆発的な鉄拳

 

 初めて見せたのは二年以上前のミュウツーとの戦い。次は真の進化を遂げた直後。そして互いに意識がシンクロした状態なのと最後にワタルの攻撃を掻き消した時の計四回だ。

 

 ポケモンは追い詰められた時や進化直後に意図せず、普段なら発揮しない凄まじい力やエネルギーを伴った技を発揮することが色んな本やトレーナーの経験談で示唆されている。

 冷静に考えると、どの場面にもある程度の共通点が見られるし、そういった事例に該当する場面は多い。あの力を自在に扱えれば、少しはヤナギとの戦いに役立つかもしれない。だが再現することは容易ではないだろう。

 

 もし窮地に陥ることで初めて発揮出来る可能性があるのなら、ぶっつけ本番にしか使えない為、安定性に欠ける。加えてデメリットなどのリスクがあまり明らかになっていない点もある。

 実際クチバシティで”爆発的な鉄拳”とも言える攻撃を繰り出した後、カイリューの右腕の動きに支障が出てしまい、その後のワタルとの戦いでは殆ど左腕だけで戦うことになった。

 そのことを考慮すると、負担や反動が通常の技以上に大きいことは判明している。

 

 何より一番の問題は、若輩も良い所の自分が偶然の形であるとはいえ見出しておきながら、この世界で何十年もトレーナーをやっている人がこの事実に気付いていない訳が無いことだ。

 半年前に戦ったワタルは若いからまだ知らないで済むが、サカキやヤナギなどの目的の為なら手段を問わないトレーナーが使ってこないのはおかしい。

 

 やはり偶発的な要素や無視し切れないデメリットなどと言ったどうしても実用性に欠ける問題点があるのだろう。

 それとも完全にモノにするのはかなり手間が掛かるだけでなく、難しいことも考えられる。

 だけどカイリューが今の姿に進化した直後に繰り出せた”破壊的な竜巻”と言えるだけの規模の”つのドリル”をやった後は特にデメリットなどの問題は見られなかった。

 

 これに関しては、カイリューに進化した直後だったから、とんでもない力を引き出せたと解釈することはできる。

 それからもアキラは考え続けるが、事例が少な過ぎてこれ以上考察のしようが無かった。

 仮にもう一度出来たとしても、カイリューへの負担が大き過ぎる。ただでさえ健康管理に気を遣っているのだから、自分から進んで体を壊す様な真似をする訳にはいかない。

 

 ならブーバーなどが使えるかとなるとわからない。鍛えれば使える様になるかもしれないし、使えないかもしれない。

 やはり、今のところはシジマの元で可能な限り鍛えての逃走も視野に入れた戦い方しか無いのだろうか。先が思いやられると溜息を吐きつつ、アキラは机の横に置いてあるまだ読んでいない本を手に取る。

 

 手に取った本のタイトルは「ドラゴンポケモンを手にする者へ」というものだ。如何にもドラゴンポケモンを扱うトレーナーに必要な心構え的なのを説いた本なのがイメージできる。

 さっきから流し読みばかりで真面目に中身に目を通していなかったこともあるので、この本はしっかり読もうとページをめくる。

 

 中身は予想通り、ドラゴンポケモンを手にしたトレーナーに向けた心構えや必要な準備などが説かれている内容だった。具体的には、ドラゴンポケモンを育成するには周りとの協力が必要なこと、多少の怪我は覚悟しなければならないことが書かれており、昔のアキラなら喉から手が出る程欲しかった本であった。

 

 今思えば、何かとアキラはミニリュウ関係で負傷する機会は多かったり、周りから手助けを借りて来たから納得だ。改めて彼は、保護者であるヒラタ博士や友人であるレッド、エリカなどの協力してくれた人達に心から感謝する。

 

 ところが読み続けていく内に、彼としては耳痛い記述が増えて来る。

 特に初心者が最初に選ぶタイプのポケモンでは無いことをご丁寧に指摘している点。今後ポケモンの研究が進んだり、世間にその強さが広く知られるにつれて、安易な理由でドラゴン使いを目指す者以外でドラゴンポケモンを求めるトレーナーが増えることを危惧している。

 

 こういったダメな例の幾つかに自分が該当していることに、アキラはたまたま最初に手にしたなどの偶然の要因を除いても当時の自分の浅はかさに苦笑を浮かべるしか無かった。

 

「…この本、シャガが書いたのか」

 

 何気なく今手に取っている本は著者を確認したら、知っている人物の名前が書かれていることにアキラは気付く。

 シャガと聞けば、牙みたいな髭を生やしたイッシュ地方のジムリーダーだ。遠い地方の人間である彼の著書が、このフスベシティの図書館に置かれていると言う事は、ドラゴンタイプのジムリーダーである彼もまたこのドラゴン使いの聖地と繋がりがあるのだろう。

 

 イッシュ地方、シャガ

 

 これらの名を最後に聞いたのは何時だったのか、わざわざ時間を掛けて思い出さなくても憶えている。

 何故なら、この世界に来る前に数時間前までその地方が舞台のゲームを遊んでいたのだから。

 

 背もたれに寄り掛かり、アキラは力無く少し汚れが目立つ天井を見上げるが、その目は遠い別の場所へ向けられていた。

 もう二年以上この世界で過ごしているが、元の世界も同じ時が流れているのだろうか。元の世界に戻ることは忘れていないが、実現する見込みはまだ薄い。

 だが、最近はそれらを目指すよりも懸念すべきことがあるのだ。

 

 それは自分がこの世界に迷い込んだ理由である紫色の霧の存在。

 

 当初は別世界に繋ぐ可能性があるのとポケモンにタイプの変化をもたらす不思議な霧という認識だった。上手く行けば、元の世界とこの世界を自由に行き来出来る様になるかもしれないと昔は期待していたが、今は大きな脅威になるかもしれない存在として警戒している。

 

 あれが将来的にポケモンに追加される新要素と言われたら、納得――出来ないのが本音だ。

 

 ポケモンのタイプを変化させるどころか、第三のタイプを付加させるのに加えて巨大化までして尋常じゃない力を発揮するポケモンなど聞いたことが無い。

 場合によっては、紫色の霧絡みでアキラが元居た世界にも何かしらの被害を与えるかもしれないのだ。紫色の霧の正体や詳細、そして元の世界と繋がった理由などを解明しなければ「留まる」か「戻る」のどちらの結果になっても不安でしょうがない。

 

 他にもカントー地方だけでなく、他の地方でもあの霧の目撃例があるのかどうか具体的にはわかっていない。もし他の地方でも目撃されているとしたら由々しき事態だ。

 今のところ世間的には都市伝説レベルの扱いだが、本格的にその存在と詳細を知った悪の組織が手を伸ばし始めたら最悪の一言に尽きる。

 

 サイドンが暴れていた時でさえ、自分だけでなくチャンピオンにまで上り詰めたレッドや色んな人達が協力し合ってやっとモンスターボールに収めたのだ。

 ジムリーダーであっても被害を最小限に留めながら食い止めることは難しいし、またあんなのが現れたら次も抑え切れるかどうかわからない。

 

 数年後にあるホウエン地方での戦い以降、この世界で悪の組織や関係者が起こす事件は軒並み一つの地方どころか世界が破滅してしまうのでは無いかと思ってしまう程に大規模なものばかりだ。

 そしてその多くが解決に導けたのはレッドの後輩達の努力もあるが、様々な要素が複雑に絡み合った綱渡りの結果なのだ。

 ただでさえ本来の流れでもギリギリだった敵が更に強くなるなど考えたくない。

 

 そもそも幾らそこら辺の大人を凌いでいるとはいえ、まだ子どもであるレッド達や彼の後輩達にその地方の命運を託す大役を任せるのは間違っている気はするが、中には本当に彼らじゃないとダメな場合もあるのでそこはしょうがない。

 どうしても彼らが戦うことが避けられないのならば、今後も起きるであろう戦いでレッド達や後輩の図鑑所有者達の負担を軽減したり、ある程度余裕が出来る様にしてあげたい。

 

 具体的に言えば、自分が「知っている」以上に敵が強くなるなどの不測の事態が起きても大丈夫と思える様に彼らが頼れる存在を増やしたい。手っ取り早く彼らの助けになるとしたら、犯罪などに真っ先に立ち向かう存在である警察だろう。ロケット団などに限らず、彼らもポケモンを使った犯罪関係ではジムリーダー達と協力し合っている。

 

 だが、それでもエリカが自警団を結成したのを見てもわかる通り、この世界の警察はポケモンを使う犯罪者が相手では正直言って頼りない。

 敵が強過ぎることもあるが、二年以上前の戦いでもロケット団に買収されたり結託するなどで、情報を流すどころか何かしらの工作を働く警察関係者も少なくない始末だ。

 

 だけど、何かしらの後ろ盾や有力者との繋がりの有無関係無く一番身近な存在でロケット団などの悪の組織と対峙する時に力になるとしたら警察しかいない。

 更に実力が優れた国際警察も存在はしているが、可能な限り現地の警察が迅速に対処した方が被害は少ないし、何より彼らも別の事件に力を注ぐことが出来る。

 

 警察などのレッド達――図鑑所有者達の力になってくれる存在に力を付けさせる様にする。

 それもまた、ただ力を付けて戦いに加勢する以外で、中途半端にこの先何が起こるかを知っているのを活かしてアキラがこの世界で出来ることかもしれない。

 

「――今はそんなことを考えても仕方ないか」

 

 無駄に壮大になってしまった考えを、一旦アキラは忘れることにする。

 そもそも自分がこんなことを考えている時点で、誰かも同じ危機感を抱いて動いている筈だ。

 悪のボスを打ち負かした訳でも伝説のポケモンを倒した訳でも無いちょっと強いポケモンを連れているだけのトレーナーが、勝手に頼りないから鍛えてやろうという発想自体、傲慢も良い所だ。

 今はシジマの元で修行を重ねて、今以上に力を付けながら自分がこの世界にやって来た理由を探したり、レッド達の手助けをしていこう。

 

 しかし、このまま「先を知っていることを活かしても、必ず限界が来る」ことはアキラにとって懸念すべきことだ。

 

 実際、この世界で数年後の出来事であるハートゴールド・ソウルシルバーを基にしたリメイクである第九章の途中までしかアキラは知らないのだ。

 所々記憶が曖昧な流れもあるが、自分が知っている限界までこの世界に留まったら、「~~団」と付く組織や集団がその地方の敵組織なのとポケモン図鑑を手にする者がその地方の命運の鍵を握る。その程度のことしかわからなくなるのだ。

 今は仕方ないとしても、先を知っているという何時変わってしまうかわからない曖昧な要素に何時までも頼っていてはダメだ。

 

 本当はレッド達に自分の素状を明かして、憶えている限りの今後この世界で起こる出来事を教えることでしっかりとした対策を建てて貰うのが一番良いかもしれない。

 でもやっぱり、信憑性やどこで敵側に知られるかわからないので、必要な時に少し小出しする以外はこのまま明らかにせず秘密にしていくのが良いだろう。

 

 頭を切り替えて、取り敢えず可能な限り使えそうだと判断した記述をノートに書き写す作業をアキラは再開する。

 物思いにふけて遅れた分を取り戻そうと時計が示す時刻を確認するべく顔を上げるが、周囲が少し騒がしくなっていた。

 

「…何だろう?」

 

 小さいとはいえ、彼がいるここは図書館だ。

 静かに本を読んだり集中して勉強をしたい人が大半なので、騒いだりすることは基本的に禁止だ。にも関わらず、何人もの利用者が囁く様な小声を発しているのが聞こえる。

 何かあったのかと意識だけでもそちらに向けようとしたが、その前にアキラは顔を顰めた。

 

 足早くこちらに近付いて来る足音。

 それだけなら気にしないが、何よりも敵意に近いものも伴っている様に感じるのだ。

 

 嫌な予感がする。

 

 昔感じたのと同じ胸騒ぎを感じたアキラは、手に持った鉛筆を動かすのを止めて席を立とうとした正にそのタイミングだった。

 

「おい」

 

 唐突に背後から声を掛けられて、アキラの体は固まる。

 威圧感のある低い声色であるのを考えると友好的では無いことは明らかだが、彼は思わず嘆息を漏らす。

 

 ここフスベシティはドラゴン使いの聖地であるだけなく、ある人物との縁が深い場所だ。

 だからこそ、こおりタイプや寒さへの対策も兼ねてわざわざカイリューで直接飛ばず、目立たたない氷の抜け道を通って来たのだが無駄な足掻きだったのだろう。

 

 振り返ってみると、そこには彼が予想していた通りの人物。フスベジムジムリーダーのイブキが、ドラゴンの様に鋭く、そして仇を見る様な目付きでアキラを見下ろしていた。




アキラ、ドラゴン絡みの情報を求めて密かにフスベシティを訪れるが、物事は思い通りにいかないことを思い知らされる。

自らの目的の為だけでなく、力を付けて悪の組織などの戦いに加勢する以外に「先を知っている」からこそ、自分に出来ることは何かあるのか。
色々悩んだ挙句切り上げたりしていますが、アキラは「自分も戦いに加わる」以外のことでレッド達やこの世界に出来ることは無いかを徐々に意識しつつあります。
そして次回、ドラゴン技についての情報を求めた彼がどうなるかは火を見るよりも明らかです。

当初は前回の話で連続更新を終了させようと思っていましたが、更新している間に今回の話が書き上がったので更新しました(ちょっと手間取りましたけど)
今回の更新ではあまり物語が進まなかったりバトルの描写はありませんでしたが、次回を機に色んな人達とバトルを繰り広げたり、主人公絡みの本作オリジナル要素も交えながら三章に入って行く予定です。
次回こそ、今回みたいに一年近く間を空けずに更新して一気に三章に入って行きたいです。

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