ヘラクロスを逃がしてしまった後、アキラは自らの気配が駄々漏れになっていることを自覚したが、どうやって気配を消せば良いのかわからなかった。
その為、彼はポケモンを探す前に自らの気配を隠す練習に少しだけ時間を費やした。
距離を取ったり、息を潜めてなるべく平常心で観察などの試行錯誤を繰り返していく内に、どうやら自分は距離を取った方が一番気配を隠せることがわかった。
隠し方を見出すまでに、フワフワの体毛を持ったモココや毒針を持ったコウモリの様な姿をしたグライガーなどの珍しいジョウト地方のポケモンに遭遇したが、いずれも逃げられてしまったのは些細な問題だ。
逃げられる度に今回連れて来ているバルキーの呆れの視線が突き刺さったが、慣れているのと自分が悪いことを理解していたので気にしなかった。けど、コツを掴んだからには反撃開始とばかりにアキラは気合を入れ直し、今はとあるポケモンの群れの様子を窺っていた。
「ミルタンクとケンタロスは一緒に群れを作るのか」
バルキーと一緒に隠れる様に森の中の茂みに体を屈めたアキラは、手にした双眼鏡から野原に屯っているポケモン達の様子を観察しながら呟く。
何か切っ掛けがあれば、すぐにでも怒りそうな荒っぽい雰囲気を醸し出しているもうぎゅうポケモンのケンタロス。対照的に全体的に穏やかな様子で寛いでいるちちうしポケモンのミルタンク。
ケンタロスは群れを作るポケモンなのは知っていたが、ミルタンクの様な他の種と一緒になって群れを作ることは知らなかった。
異なる種類のポケモン同士が協力し合うのは、バンギラスとダグトリオの群れの例で知ってはいる。けど、何も過酷な環境に棲んでいるシロガネ山のポケモン達の専売特許という訳では無いということなのだろう。
新しい手持ちはバルキーと戦わせなければならない事を考えれば、これだけの数を一度に敵に回すのは得策では無い。
しかし、彼にはそれ以外にも慎重になる理由があった。
「…ケンタロスか」
初めて戦った時、手も足も出なかったこともあるが、それ以外にもケンタロスを相手にした時の苦い経験は多いのだ。
経験豊富で育てるのが上手いトレーナーが連れているケンタロスは、ノーマルタイプ故の弱点の少なさに加えて高い攻撃力と素早さ、そして様々な技を器用に扱えるので手強い。
最近は強力な特殊技であっても相性が良いタイプで無ければ、それ程の威力を発揮しないなどの短所や主力技をある程度無力化する形での対策も進んできている。
アキラ自身も、自分なりにケンタロス含めたノーマルタイプに対する対策を考えるなど手をこまねいてばかりでは無い。だけど、これまで敗北したバトルの多くでケンタロスを相手にしてきた経験を思えば、自然と普段以上に警戒してしまう。
何時か改善しなければならないと考えながら、アキラは群れの一匹一匹を見ていく。
明らかに群れのリーダーらしいのはいるが、顔付きだけでも威圧感溢れるものだった。
強いポケモンを手持ちに加えるのは、単純に即戦力になる以外にもその後のトレーニングなどの育成に掛かる手間を簡略化出来るメリットがある。しかし、下手に群れのリーダーを捕まえると統率者を失って群れが暴走する事例も有るので狙う場合は慎重にならなければならない。
今様子を見ている群れは、町から離れていることや序列的にナンバー2らしき存在はいるので、その点の問題は無いだろう。けど、単純にリーダーを狙うのは面白くないのとバルキーの今の力量を考慮して、彼は群れにいる他の個体にも目をやる。
複数の仲間や何匹かの群れとは関係無さそうな別のポケモン達とも和気藹々としているミルタンク、温厚で協調性が有りそうだ。
喧嘩なのか腕試しをしているのか仲間と頭をぶつけ合っているケンタロス、片方は傷の数を考えるとかなり気性は荒そうだ。
群れからちょっと離れたところでは昼寝をしているのか、何匹かのミルタンクとケンタロスが寝転がっている。
「おっ、あのミルタンクは面白そうだな」
色々見ていく中で、群れから離れた場所で何やら特訓と思われることをやっているミルタンクをアキラは見つける。
双眼鏡越しではあるが、細かな動きまで見ることが出来るようになった彼の目からも見ても、ただ我武者羅に体を動かしている訳では無いことがわかる。中々ストイックそうで見所がある。
手持ちに加える最有力候補として、特訓らしき動きをやっているミルタンクを良く観察するべく彼は意識を向ける。
「……!?」
どうやって群れから引き離してタイマン勝負に持ち込めるか考えている最中、アキラは自分に向けられる気配を感じ取る。
それは久し振りに感じる明確な敵意だった。
「バルキーこっちだ!」
咄嗟に彼はバルキーの腕を引っ張って一緒に茂みから飛び出す形で体を横に動かすと、何かがさっきまで自分が隠れていた近くの木にぶつかって弾け飛んだ。
急いで確認するが、木は泥らしきものが付着しているのを見ると、飛んで来たのは泥みたいだ。
岩やエネルギーが飛んでくるよりは大分マシだが、飛んで来たスピードを考えると当たっていたら面倒なことになっていたかもしれない。
だけど問題は誰が自分達に気付き、そして攻撃してきたかだ。
飛んで来た先へ目を向けると、ミルタンクの一匹が鋭い目付きでこちらを見据えていた。
「マジかよ」
まさかあの距離から狙ったのだろうか。
最初は信じられなかったが、鋭敏になった目を通して見ても体の曲げ具合などから、あのミルタンクが投げ付けてきたことは確実だ。また気配を漏らして気付かれてしまったと思うが、何か違和感に近いものもアキラは目を通して感じていた。
しかし、その違和感が一体何なのか冷静に考える時間は無かった。
ミルタンクの攻撃を機に敵襲と判断したのか、数匹のケンタロスが雄叫びを上げながら突進してきたのだ。すぐさまバルキーは構えて戦いに備えるが、群れのリーダーが先陣を切っているだけでなく、複数相手となるとバルキーだけでは対処し切れない相手だ。
「仕方ない。悪いがバルキーは下がって……リュット、奴らの足元目掛けて”はかいこうせん”」
捕獲するつもりは無いので、アキラはバルキーに下がる様に伝えながら、すぐさまカイリューを召喚する。モンスターボールから出て来たドラゴンポケモンは、飛び出すや否や牽制攻撃だが口から”はかいこうせん”を放つ。光線が地面に炸裂した際の衝撃で何匹かは怯むも、先頭を走っていたリーダー格のケンタロスは構わず突進してくる。
アキラは迫るケンタロスに対して目を凝らして動きを予測しようとするが、すぐにフェイントも何も無い勢いに任せているだけの突進なのがわかった。
これならどこを狙えば急所なのかなど無駄に細かく考えなくても、カイリューのパワーならタイミングを伝えるだけで対処出来る。
「リュット、三秒後に右振りで”たたき――」
アキラが伝える内容に応じてカイリューが構えた直後だった。
カイリューの顔に泥の塊が当たり、ドラゴンポケモンの視界が不安定になるだけでなく鈍ってしまった。
「またか!」
飛んできた泥の塊と軌跡を考えるに、先程のミルタンクがまた投げ付けて来た様だ。
出鼻を挫かれたことで、カイリューはケンタロスの”とっしん”を正面から受けてしまう。
そのまま勢いに負けて巨体を吹き飛ばされ掛けるが、辛うじてカイリューは地面を強く踏み締めて持ち堪える。顔は泥まみれになっていたが、目がよく見えないことは関係無く、ケンタロスの首根っこを荒々しく両手で掴むと投げ飛ばした。
「リュット伏せるんだ!」
カイリューは顔の泥を拭おうとしていたが、邪魔しようとミルタンクが再び泥の塊を手に投げ付けようとしていた。今度はアキラが予め注意していたこともあって、ドラゴンポケモンは次に飛んで来た泥を辛うじて避ける。
威力とスピード、精度の高さはかなりのものだが連射が利かないのか、投げ終えたミルタンクはすぐさま足元から泥を掬い上げて塊を作っていく。
「一旦退こう! リュット! 退避だ!」
こんなに場が混乱してしまったら新しい手持ち探しどころではない。
ようやく顔の泥を拭ったカイリューはアキラの呼び掛けに応じて、彼がバルキーをボールに戻すと同時に彼の体を雑な形で抱え上げると飛び上がる。
空中に逃げれば、後は距離を取るだけだ。
そう思っていた矢先に、カイリューの背中に再び何かが当たり、ドラゴンポケモンは飛行体勢を少し崩す。アキラが振り返ると、またミルタンクが泥の塊を投げ付けてきたみたいだ。
さっきからやられっ放しなことにカイリューは完全に怒ったのか、息を荒げて体ごと反転させると、若干時間を掛けて口内にエネルギーを収束させ始めた。
「ちょっとリュット――」
アキラが止める間も無く、カイリューの口から放たれた”はかいこうせん”のエネルギーは、一直線にミルタンクに迫る。ただでさえ強い能力を秘めているカイリューが本気で放ったのだ。直撃を受ければ大抵のポケモンは無事では済まない。
しかし、突如としてミルタンクの正面を遮る様に鮮やかな光の壁が瞬時に形成され、激しい衝撃と閃光を周囲に広げながらカイリューの”はかいこうせん”を完全に防いだ。
「何?」
これにはカイリューは勿論、アキラも驚く。
今までの経験では、一度放たれた攻撃を防ぐには可能な限りの防御態勢を整えてから耐えるか、対抗して同等の威力の技をぶつけて押し合ったり相殺といったパターンが多い。
”リフレクター”などの何かしらの攻撃を防ぐ技を使ったと考えられるが、それでもアキラが連れている相棒にして切り札であるドラゴンポケモンが放った本気の一撃を防ぎ切ったのだ。
「――へぇ、結構面倒そうだな。あのミルタンク」
言葉だけ聞けば忌々しそうだが、呟いた本人の表情は笑っていた。
攻撃を防がれたカイリューは追撃を仕掛けたがっていたが、そこはアキラは我慢させる。
渋々ドラゴンポケモンは高度と飛行速度を一気に上げて、彼らは群れから離れていく。
短い時間だったにも関わらず、真っ先に彼らに気付いて執拗に攻撃してきたミルタンクが、まるで激しい戦いを繰り広げた後の様に汗を滲ませていることに気付かないまま。
しばらく空を飛んでいたカイリューは、森から離れた拓けた草むらに降り立つが、着地すると同時に抱えていたアキラを放り投げた。
何とか彼は転ばずに上手く地面に足を付けるが、ドラゴンポケモンは若干怒っているのか、普段でも悪い目付きが更に悪くなっていた。
「ごめん。完全に想定していなかった」
すぐにアキラは頭を下げて、自分の至らなさを謝る。
本当に予想外だったこともあるが、まさかミルタンクが遠距離攻撃、それもあんな形で仕掛けるとは思っていなかった。
こちらに落ち度があったとしても、あれだけ離れていたにも関わらず真っ先に気付くことが出来た危機察知能力。何かの技だとしても遠距離にも関わらず正確無比な投擲。正確な技名は不明だが、カイリューが力を籠めて放った”はかいこうせん”を防ぎ切った防御に関係する技を扱う。そして、こちらを狙う際の気の強そうな鋭い目付き。
全てにおいてアキラは、あのミルタンクが気に入っていた。
「ミルタンク…どんなポケモンだったかな」
少し興奮気味ではあったが、なるべくアキラは落ち着いて昔の記憶を頭の中に浮かべる。
記憶ではミルタンクの能力は、攻撃も悪くないがどちらかと言うと耐久面が優れていた様な気がする。本来なら連れているエレブーの様な守り向きだと考えられるが、気が強そうなのも相俟ってブーバーとの相性は良さそうだ。
いや、遠距離から正確に投げ付ける技術を有していることを考慮するとサンドパンも悪くない。
考えれば考える程、今の手持ちに加えたくなるが、彼としては一つだけ気になることがあった。
何故だかわからないけど、あのミルタンクに違和感を感じるのだ。
もう少し観察すれば、その違和感が何なのかわかったかもしれないが、今はどうやってあのミルタンクをバルキーとタイマンで戦う様に持っていくかが優先だ。
先程の出来事を考えればわかる通り、あのミルタンクが属している群れは敵がやって来たら集団で対抗する。幸いなことにカイリューを筆頭としたフルメンバーを連れてきているので、目的のミルタンクと戦っている間に立ち向かって来る群れの妨害を防ぐことは可能だ。
いっそのこと不意を突いて、力任せに目的のミルタンク以外の群れを倒すことも出来なくは無いと思う。
「いやいや、流石に幾ら何でも乱暴過ぎるな」
すぐにアキラは、「目的のミルタンク以外は殲滅」とも言える作戦を忘れる。
確かに群れの殆どを倒して、狙っているミルタンクを引き摺り出してバルキーとのタイマンに持ち込むことは出来るだろう。
だけどそんなやり方で手持ちに加えたとしても、恨みを買う事は必然。
寄せられる信頼はゼロ、下手をすればかつてのミニリュウの再来だ。
「いっそのこと群れごと捕まえるか?」
そんなバカな発想が浮かぶ程、アキラは困っていた。
一般的なトレーナーが手持ちを増やす過程で必ず行っている野生のポケモンとバトルを経由して捕獲と言う経験が、彼には圧倒的に不足している。
他にも捕獲に至るまでの過程に妙に拘っていることが、彼の悩みをより複雑で面倒なものにしていた。それはアキラもわかってはいたが、普段連れている手持ちの気質や彼自身の方針も考えると慎重にならざるを得ない。
腕を組んで難しい顔でアキラは考え込んでいく。
最初は彼の様子に苛立っていたカイリューだが、長丁場になると認識したのか呆れた様に脱力して座り込んだ。
ただ捕獲するのでは無くて、手持ちに加えた後を考慮してポケモン側の事情や過程を考えるのは良いことではあるが、度が過ぎると鬱陶しい。
変に拘らず堂々として良いものだと発破を掛けたいが、基本的に彼とは言葉が通じないのとこっちの意思を伝えるのも手間なのでこのまま静観する。
悩むアキラは、もう一度今の自分の手持ちがどういう流れで加わったのかを思い出していく。
カイリューは、トキワの森で荒んでいる時に遭遇して、命懸けの追い掛けっこを終わらせる為に落ちていたモンスターボールで捕まえた。
ゲンガーは、ニビ科学博物館で捕獲・管理されていたところをヒラタ博士経由で職員から譲り受けた。
サンドパンは、バトルこそはしなかったが、ハッキリとした手持ちに加えたい自らの意思に従ってボールを投げて捕獲した。
エレブーは、自分に興味を抱いたのか、他のトレーナーに追い掛けられていたことも重なり勝手に付いて来た。
ブーバーは、戦いを終わらせる為に捕まえたが、野生に戻るか一緒に行くかを尋ねたら後者を選んだ。
ヤドキングは、ゲンガーに仕返しをする以外に理由は定かではないが、多分自分達に興味を抱いたからボールに入ったと思われる。
一般的なポケモントレーナーのセオリー通りに捕まえたと言えるのはカイリュー、サンドパン、ブーバーの三匹だけで、他は何か成り行きで手持ちに加わったポケモンばかりだ。
しかも三匹の手持ちの迎え方もセオリー通りかと言うと、バトルをしなかったものやアキラが体を張った結果だったりと微妙に違う。
彼ら以外でポケモンを捕獲したのは、オコリザルやサイドンなどのカイリューやブーバーと同様に「戦いを終わらせる」ことを目的にバトルを挑んだ時だけだ。
「”バトルを挑む”か……」
ポケモンは本能的に強くなることを望んでいるとされている。
野生のポケモンを手持ちに加える時、ポケモンバトルで勝ち負けをハッキリさせることが望ましいのは、トレーナーに付いて行けば今以上に強くなれる見込みがあることをわかりやすい形で示せるからだ。中には、そのことを理解して積極的に戦いを挑むことで今の自分を打ち負かすトレーナーを探し、手持ちに加わる形で更なる強さを得ようとする野生のポケモンもいる。
あのミルタンクもそういうタイプだったら良いのだが、群れで伸び伸び暮らしているところを見ると望み薄だろう。
悩みに悩んだアキラは、この世界にやって来たばかりの手持ちを揃えようとしていた当時の記憶を思い起こす。
あの頃は今の様にあれこれ考えずに、直感的に自分が良いと感じた野生のポケモン相手に堂々と戦いを挑んでいたものだ。殆どはミニリュウとゴースに文字通りぶっ飛ばされてきたので、一匹もボールに収めたことは無かったけど。
だけど今では色々あって手持ちが揃い、トレーナーとして手持ちのポケモンとどう接するかの方針も定まって来たこともあって、理想的な過程に固執しているかもしれない。
「――此処は一つ、堂々と捕まえに行くか」
こうも悩むのなら、バカ正直に「お前がメンバーに欲しいから勝負だ」と正面から挑んだ方がいっそ清々しい。
ポケモントレーナーになって間もない頃に戻ったつもりでやっていこうと決めたのだ。
今危惧している問題は一旦忘れて、昔みたいに直感的に勝負を挑んでいく気持ちでやった方が上手く行くかもしれない。
「リュット、ちょっと考えがあるんだが聞いてくれないか?」
考えが纏まれば、後は行動あるのみだ。
欠伸をするまでにだらけていたカイリューだったが、アキラの表情から動く時だと察すると、彼の話に耳を傾けるのだった。
鼻息を荒くして、何匹かのケンタロスは群れと周囲に気を配っていた。
アキラ達を追い払う事に成功していたケンタロスとミルタンクの群れではあったが、一部は先程の出来事で気を荒くしていた。
ほぼ強襲同然の突然のことだったのだから当然のことだ。
さっきまでいた群れに属していないポケモン達は、このピリピリとした空気に耐え兼ねたのか姿を消している。リーダー格を中心に彼らが警戒し続けていたその時、空の彼方から見覚えのある巨大なドラゴンが飛来、ほぼ減速しないまま着地して衝撃で地響きと土埃を巻き上げた。
また奴らが来た。
すぐさま何匹かのケンタロスがリーダー格の呼び掛けに応じる形で前線に一列に並び、戻って来た襲撃者を迎え撃つ準備を整える。
着地時に体を屈めていたカイリューも体を持ち上げ、堂々とすることで威圧すると同時に万全の体勢であることを見せ付ける。その立ち上がったドラゴンポケモンの背から、アキラは滑る様に降りると前に進み出た。
ケンタロス達は息を荒げるが、警戒心を剥き出しにしている群れに対して彼は手にしたボールからバルキーを召喚すると声を上げた。
「俺はポケモントレーナーのアキラだ! 俺達はお前達の群れの中から新しい手持ちを迎えたいと考えてここに来た! 俺達に興味ある奴、それか戦いたい奴がいたら遠慮なく掛かってこい!!」
大きな声でアキラは堂々と自分がこの場にやって来た理由を伝える。
それを合図にカイリューは力強く両手の拳を打ち鳴らし、バルキーは即座にファイティングポーズを取る。
露骨なまでの挑発行為だが、群れのポケモン全てを相手にするよりは可能な限り戦う相手を選ぶことは可能だ。この挑発でまずケンタロス達が挑んでくることは想定しているが、あの目付きの鋭いミルタンクも挑発行為に乗って来てくれる筈だ。
もしこれで乗って来なかったら別の策を考える必要があるが、取り敢えず今はこれで良いと割り切っていた。
そしてアキラの予想通り、先程カイリューに投げ飛ばされたリーダー格であるケンタロスが前に進み出て威嚇する様に吠える。さっきのリベンジを挑むつもりだと感じたのか、カイリューはアキラの前に踏み出そうとしたが、両者が激突することは無かった。
ドラゴンポケモンはトレーナーであるアキラが、もうぎゅうポケモンは群れの仲間であるミルタンクに制止されたからだ。
その目付きと視覚を通じて感じる違和感から見て、ケンタロスを止めたミルタンクは彼が探していた個体の様だった。理由は不明だが、どうやらミルタンクはアキラ達がまた来た目的が自分にあることを察したらしい。
「俺はお前を手持ち――新しい仲間に加えたいと考えているけど、俺が勝ったら付いて来る気は無いか?」
あまりにアッサリと出て来たので、アキラはケンタロスよりも前に進み出たミルタンクに思わず尋ねてしまったが、彼の問い掛けにミルタンクは考える素振りを見せる。
しばらく考えた後、ちちうしポケモンは静かに群れに向き直って一声発した。
するとリーダー格のケンタロスを始めとした他の仲間達は下がり始め、ミルタンクはアキラが連れているポケモン達の様に構えた。
「リュット、ミルタンクは俺達が勝ったら付いて行くことを了承したのか?」
後ろに立っているカイリューにアキラは聞くが、ドラゴンポケモンは肯定する。
野生のポケモンらしく、勝負で決めることにした様だ。
「よし。バルキー頼む」
構えていたバルキーも、彼の呼び掛けに応じて前に進み出る。
ミルタンクの能力を含めた基本知識や目の前にいる個体特有の戦い方は、憶えている形ではあるがある程度知っている。遠距離からの攻撃に警戒しつつ、かくとうタイプが得意とする接近戦に持ち込む作戦に変わりはない。
しかし――
「やっぱり何か変に見えるな。どうしてなんだ?」
よく観察するだけでなく、見落としが無い様に目を擦ったりとするが、それでもアキラはミルタンクに違和感を感じる。
外見は確かにミルタンクなのと体の動きや力加減はわかるのだが、気を抜くと
そんなことを考えていた時、目を疑うことが起こった。
突然ミルタンクの体が崩れ始めたのだ。
「え?」
ミルタンクに起きた異変にアキラは驚きを露わにする。
だが、理解が追い付かない間にも
「……ドーブル?」
ミルタンクが変化した姿にアキラはその名を口にする。
尻尾の先が筆を彷彿させるえかきポケモン――ドーブル。
気の強そうな鋭い目付きは同じではあったが、ミルタンクが今目の前に立っているポケモンに姿が変わったことに、アキラは我が目を疑うのだった。
アキラ、手持ちに加える候補としてミルタンクに戦いを挑んだつもりが、実はドーブルだったことに驚く。
本作で頻繁に使われる”ものまね”などの「相手の技をコピー出来る技」は世代ごとにコピー出来ない技が異なったりしていますが、基本的には大体の技はコピー出来る扱いにしています。
他にも世代ごとに効果や扱いが異なっている技はどう扱うか考えるのは少々面倒です。
ですが、そういうちょっとした部分を辻褄合わせまではいかなくても、上手く独自解釈で可能性を考えたり、描いたりすることが出来るのが二次創作の醍醐味でもあります。
次回はドーブルとのバトルになります。