SPECIALな冒険記   作:冴龍

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昨日は感想や一言が今までに無いくらいたくさん送られてビックリしました。
送られた感想や一言は、読者がどういう風に内容を受け止めているのかがわかるだけでなく、一つ一つが凄く励みになります。
これからも頑張って書いて行きたいと思っていますので、よろしくお願いします。


燻る炎

 音を立てて、ホネらしきものが床を転がり、続く様に持ち主も鈍い音と共に膝を付く。

 その姿に見守っていたアキラは目を瞠ったが、すぐにこの場で自分がやるべきことを思い出すと厳粛な声で宣言した。

 

「勝負あり。この戦いは、サンットの勝ちだ」

 

 今アキラは、師事を仰いでいるシジマの許可を貰い、タンバジム内で自らの手持ち同士での模擬戦を行っていた。

 

 二年以上前に経験したポケモンリーグでの経験を機に始めたものだが、その内容はトレーナーである彼は特に指示は出さずに手持ちの自主的な判断の元で行う形式だ。

 目的は純粋な手持ちのレベルアップに見守っているアキラ含めて、仲間の戦い方の理解など多岐にわたる。何時もクジ引きで適当に対戦相手を決めてから彼らの戦いぶりを観察していたが、今回の勝負の結果に少し驚いていた。

 

 戦いの組み合わせは、サンドパンとブーバー。

 両者とも手持ちに加わった時期は殆ど変わらず、サンドパンの方が相性で有利な技を覚えているとはいえ能力と勝負勘で勝るブーバーの方が勝ち星は多い。勿論サンドパンも負けっ放しでは無いが、それでも大抵は運が良かったりギリギリの攻防の末の辛勝ばかりだ。

 なので今回の様に運などの要素で片付けられないまでにサンドパンがブーバーを追い詰めたのは、手持ち同士で戦わせる模擬戦を行う様になってからは初めてのことだった。

 

「…バーット?」

 

 勝敗を宣言したにも関わらず、ブーバーはサンドパンが与えたダメージを堪えながら立ち上がろうとしていた。

 確かにまだ倒れてはいなかったが、それでも膝を付いた体は”どく”状態である証の紫を帯びており、息をするのも苦しそうだった。

 

「そこまでだバーット。勝敗は既に決している」

 

 今この場を取り仕切る審判でもあるアキラはブーバーに改めて告げるが、ブーバーは意地でも戦う意思を消さない。サンドパンもブーバーの戦意に応じて、静かに両手の爪を構えてひふきポケモンを見据える。

 

「スット、ヤドット、抑えてくれ」

 

 だが、アキラがこれ以上戦うのを許さなかった為、念の力が二匹を軽く包み込む様にその姿勢のまま拘束したことで強制終了させられた。

 それからブーバーは、念の力での拘束が切れたタイミングで緊張の糸が切れてしまったのか、はたまた毒のダメージが限界に達したのか倒れてしまう。

 

 するとタイミングを見計らっていたかのように、タンバジム内での手伝いをしているバルキー達が動き出す。彼らは急いで倒れたひふきポケモンを持ってきた担架に乗せると、その場から去る様に運んでいく。

 今日行う模擬戦最後だったので、ブーバーがいなくなったのを機に集まっていたアキラのポケモン達も適当に解散し始めて、各々好きな様に休み始める。

 構えていたサンドパンも一息つくと、見守っていたエレブーやヨーギラスと合流する。

 

「サンット、最後まで()()()くれてありがとう」

 

 サンドパンにアキラは感謝の言葉を伝えるが、サンドパンは気にしていないことを手を振って応える。あの時、サンドパンがアキラの判定に応じて気を抜いていたら、ブーバーの性格を考えると後が面倒になるところだった。

 

 手持ちの中では屈指の実力者であるブーバー。それだけの猛者を正面から打ち破るまでに強くなったサンドパンの急成長。

 それは四天王の戦いの後から目指し始めた相手の「急所」を正確に突いていくことに力を注ぎ始めたからだ。

 

 以前から考えていたものの、実現させることが困難であることなどの理由で断念していたが、目の感覚が鋭敏化したなどの要因もあって実現の見通しが立ったのだ。

 人間の目などの体構造と同じ様に、ポケモンにも種ごとに異なっているが急所と呼べる弱い箇所が存在している。もし急所を狙って攻撃することが出来る様になれば、威力が小さい攻撃でも大きなダメージを効率良く与えることが可能になる。

 

 当然、急所を狙ったとしても、相手が素直に狙い通りに当てさせてくれる筈は無い。

 そもそもどこが急所なのかは、観察眼が鋭くなったことで感覚的にアキラは理解出来ても、具体的に伝えたり理解出来るだけの知識が彼とサンドパンには無かった。

 

 そこでアキラは、タマムシ大学の図書館や市販に売られている様々な種類のポケモンの詳しい体の構造図が載っている本を可能な限り用意して、サンドパンと一緒にイメージを共有出来る様に一緒に覚えることを始めたのだ。

 いきなり全種類のポケモンを覚える訳にはいかないので、今は良く手合わせをするレッドの手持ちと模擬戦で戦う仲間達に絞ってはいたが、その成果はさっき行われたバトルでもわかる様にかなりのものだ。

 他にも”どくばり”や”スピードスター”、最近使える様になった緑色の光弾――シジマ曰く”めざめるパワー”などの技を長距離からでも正確に狙い撃つ練習も重ねている。

 

 鍛え上げた技術で的確に相手の弱点を突いて仕留める。

 

 派手さは欠けるが、それが最近のサンドパンの戦い方の軸だ。

 先程の模擬戦で鮮やかな立ち回りを見せていたことからなのか、ヨーギラスはサンドパンに輝く様な憧れの眼差しを向けており、ねずみポケモンはたじたじになっていた。

 微笑ましい光景ではあったが、アキラは手にしたノートに記した内容に目を細める。

 

「問題はバーットだな」

 

 「模擬戦3」と書かれたノートにある試合内容と勝敗の記録を見てアキラは呟く。

 ブーバーはこの記録を取り始めた頃から、当時のハクリューと並ぶ高い勝率を誇り、正に手持ちでは一、二を争う実力を持った存在だった。ところが、ここ最近はサンドパンを始めとしたメンバーが大分力を付けたこともあって、カイリュー以外はかなり拮抗する様になった。

 

 身になるかは別として手持ちの誰よりも鍛錬を重ねているにも関わらず、強くなるどころか負ける頻度が増えてはプライドが高かろうと無かろうとショックだ。シジマの元に弟子入りしてから、やたらとブーバーが過剰なまでに鍛錬を重ねているのも、それが原因だろう。

 後、己の不甲斐無さなのか思う様にいかない現実に苛立っているのか、イライラ気味であることも少し気になっている。

 

「――そろそろ触れる時かな」

 

 明確な原因と言えるものではないが、ブーバーには他の手持ちとは違う面がある。

 今までは触れると嫌がられるのと支障が出る程の問題にはならなかったが、自分も含めて修行する余裕のある今の時期の内に改善することをアキラは決めた。

 

 

 

 

 

 タンバジムから少し離れた荒波が打ち付ける岩場で、ブーバーは目の前に広がる大海原を眺めながら腕を組んで立っていた。

 

 バルキー達に担架で運ばれてから治療を受けていたが、意識を取り戻してから大人しくしているのが嫌で、ある程度回復したことを良い事に勝手に抜け出したのだ。

 まだ模擬戦のダメージと疲労は残っているが、ひふきポケモンの意識は痛みでも青い海でも無く、自らがこれまで辿って来た軌跡に向けられていた。

 

 野生で生まれ、当時つるんでいた同種の元に向かおうとした際、頭に石をぶつけられて今の仲間達に出会った。当初アキラのことは見下していたが、追い詰めた際に見せた彼の鋭い目付きを見て、野生で生きるより彼に付いて行った方が更なる力を得られると踏んで付いて行く道を選んだ。

 

 強い力を求めるのは種として――否、ポケモンが持つ本能だ。

 

 けど一瞬だけ光るものを見せたとはいえ、普段は自分を含めた我が強いポケモン達を率いている割には、根性以外頼りなかった当時のアキラに付いて行くのはある種の賭けだった。

 いざとなったらモンスターボールを壊して野生に帰るか、もっと強く鍛えてくれそうな別のトレーナーの元に行く考えも頭にあった。

 

 だが、数々の戦いや交流を経験していく内にアキラは大きく成長していき、ブーバー自身もその恩恵に預かることで昔とは比較にならない力を身に付けることが出来た。

 更に今まで敬遠していた人間社会に触れたおかげで、新しい知識や技術、概念を知る事で視野も広まった。

 

 確実に強くはなっている。

 

 しかし、仲間との模擬戦とはいえ、現実は勝つ回数が増えるどころか逆に減っている。

 理由として、他の仲間達が自らの長所などの強みを理解して、持ち味を活かす戦い方を自覚したことが大きいことはわかっている。

 

 エレブーは以前なら可能な限り攻撃を避けていたが、最近は自信を持って正面から攻撃を受け止めて、反撃に活かす場面が増えた。

 

 ヤドンはヤドキングに進化したことで、反応速度が良くなっただけでなく今まで殆ど使わなかった水技も扱う様になった。

 

 カイリューは、進化してからは未だに模擬戦では”がまん”が解放されたエレブー以外には負けなしという驚異的なまでの力を得た。

 

 そしてサンドパンも、自らの特技や長所を踏まえた戦い方を意識したことで、初めて今回の完全敗北を突き付けるまでになった。

 

 まさか姿や心構えが変わっただけで、ここまで実力が拮抗するとは思っていなかった。

 今まで他の仲間達に勝てていたのは、早い段階から自主的に鍛えるといった強くなることを明確に意識して日々を過ごしていたことなど、スタートダッシュで勝っていただけなのだろうか。

 

 珍しく弱気な考えばかりが頭に浮かんでいたが、要らないところでトレーナーの影響を受けてしまっていることにブーバーは嫌気が差す。

 

 だが条件が同じになったのなら、更に鍛錬を重ねれば良いだけの話だ。

 もっと己を追い込むこともそうだが、折角今いるこのジムには自らが得意とする接近戦では無類の強さを誇る格闘ポケモン達がいるのだ。

 彼らの技や動きを我が物にするべく、これまで以上に目を光らせよう。

 その上で今目指している憧れの力を実現することが出来れば、必ずや仲間達の中で一際抜きんでた力を身に付けられる筈だ。

 

 己を鼓舞することでブーバーは決意を固める。

 そうと決まれば話は早い。タンバジムへ戻るべく振り返ったら、何時の間にか名目上は自分達を率いるリーダーであるアキラが後ろに立っていた。

 

「――まだ休んでいて良いのにもう特訓を始める気?」

 

 自らが物思いにふけり過ぎて周囲への意識が疎かになっていたことを知り、ブーバーはアキラの問い掛けに対して舌打ちで返すと背を向ける。

 初めて会った頃なら、彼は突然仕掛けるかもしれない攻撃に少し怯えた素振りを見せていたが、今では慣れたからなのか随分と余裕だ。

 自分よりも強いポケモンを指揮する立場ならこれくらいは当然のことだが、この様子では自身が何か悩んでいることに気付いているだろう。

 

「さっきの戦いの負けが、かなり堪えたのか」

 

 思い出させる様な口調で語りながら、アキラはブーバーの隣に並ぶ。

 いなくなったと聞いて探しに来たが、やはり普段は表立って見せないだけでブーバーなりに悩んでいたらしい。早々に一番触れられたくない点を触れられて癪だったこともあり、ブーバーはさり気なく打ち払う様にアキラの顔面目掛けて裏拳を繰り出す。

 不意打ちと言っても良い攻撃だったが、さり気なく彼は少し距離を取っていた為、空振りで終わった。

 

「そう腐るなバーット。最近サンットが目に見えて強くなってきたのは、一緒に過ごしてきたお前もわかっているだろ」

 

 サンドパンと一緒に勉強していたアキラだけでなく、他の手持ちもサンドパンが強くなっていることを感じていたのだ。ブーバーが気付かない筈が無い。

 しかし、ひふきポケモンは顔を向けることも嫌なのかずっと彼に背を向けるだけだった。

 

 仲間達だけでなく、頼りなかったアキラさえも昔と比べればポケモントレーナーとして自分達を導いていくのに相応しい能力を身に付けつつある。

 皆がそれぞれ順調に成長しているにも関わらず、自分だけは最近何もかも上手く行かない現状も相俟って、苛立ちは増す一方だ。

 

「……なぁバーット、俺がシジマ先生のところに来た理由を憶えているか?」

 

 アキラの問い掛けに、ブーバーは背を向けたままだが一応頷く。

 独学で鍛錬を積んでも強くなるには時間が掛かるから、実力があるだけでなく経験豊富な指導者の元で学ぶのが理由だった筈だ。そこまで思い出して、ブーバーはアキラが次に言いたいことを何となく察したのか目線だけ彼に向けた。

 

「バーット、確かにお前は今までのやり方でも強くなってきたけど、そろそろ更なる上を目指すには限界ってことだ」

 

 そう断言すると、ブーバーは不貞腐れる様に再び無視を決め込む。

 手持ちの中でも強さへの渇望が特に強いことは、ブーバーが自分が考えたやり方以外でも日々鍛錬を積み重ねていることからもアキラは理解している。

 中身は大体がテレビの真似事だったりとするが、そんな方法でもある程度の成果や効果は出ていた。そういう形はどうあれ鍛えようとする心構えは悪いどころか寧ろ推奨すべきだが、取り組む姿勢と意識に問題があった。

 

 今ブーバーはシジマが鍛え上げたポケモン達から色々学んでいるが、その基本的な姿勢は”指導を仰ぐ”と言うよりは”技を盗む”と言った方が正しい。

 ブーバーなりのプライドがあることや彼らの技術を物にして強くなる目的があることはわかるが、あまりにも殺伐としている。過去にレッドのおかげで”メガトンキック”を完成させて感謝の意思を伝えたことはあるが、あれはレッドのお節介な面が大きい。

 だけどアキラが気にしている一番の問題はそこでは無い。

 

「別に命が懸かった戦いとかに限らなくても、困ったことがあったら素直に周りに助力を求めたり相談することは悪い事じゃない。お前は頭は良いんだから、それが今一番早く強くなる方法なのはわかっているだろ」

 

 諭す様に伝えるが、それでもブーバーはそっぽを向いたままだ。

 

 ブーバー最大の問題。

 

 それは今みたいに弱みを見せたくないのか手の内を晒したくないのか、平時はトレーナーである自分を含めて他の手持ちにさえ協力を求めたり相談することをあまりしないことだ。

 

 別にブーバーは、他の手持ちと仲が悪い訳では無い。

 寧ろ昔と比較すれば、大きな戦いの際は互いに協力し合ったり、一緒にテレビを見たり悪ふざけをしたりするなどよく一緒に過ごしている。戦いに関するものに限定されるが、指導や指摘を受けて納得出来るものや自らの役に立つと判断すれば、聞き入れる柔軟性はある。

 しかし、どうも他の手持ち以上に「身内は仲間であると同時に最大のライバル」と考えている節があるのだ。

 

 このことは、昔ブーバーが覚えている”テレポート”を主軸した逃走訓練をした時、他の面々と比べるとブーバーは乗り気では無かったことから何となくアキラは察していた。

 仲間をライバルと捉えて自己研鑽に励むことは悪い訳では無い。だがブーバーの場合だと色々やり過ぎなのだ。

 

「まあ…何と言えば良いのか。手の内を隠したい気持ちはわからなくも無いけど、このまま頑なに隠し続ける方が長期的に見ると俺達全体だけでなくお前にとっても()()()()だぞ」

 

 自らの手の内や戦い方を誰かに教えたくない気持ちはわからなくはない。

 アキラもレッドにはノートに纏めた内容は基本的には見せないし、”ものまね”を利用した新技習得過程の方法も簡単には明かしたくない。だけど、四天王との戦いに備えていた時の様に自らの手の内を教えた方が自分達にとって”プラス”になる時もある。

 

 流石に今のままでは、今後強くなるには”マイナス”とハッキリ言われてぐうの音も出ないのか、ブーバーは不機嫌なオーラを放ちながらも反抗的な空気は鳴りを潜める。

 

「――まだ考えている途中だし実現出来るかはわからないけど、俺はお前達の力と技を受け継がせる”後輩”……大袈裟に言うと”後継者”みたいな存在を今後手持ちに加えるのを考えている」

 

 構想段階である考えをブーバーに伝えると、ひふきポケモンは彼が語り始めた内容に興味を示す。あまりそうは見えないが、仲間であるエレブーも名目上はヨーギラスとは先輩後輩に加えて師弟関係でもある。

 後継者――早い話、ブーバーも誰かの上に立ち、面倒を見る時が来ることを示唆するものだ。

 意味を理解していくにつれてブーバーの態度が少しずつ変化していくのを感じ取ったのか、アキラは慌てて弁解する。

 

「面倒事を押し付けるとかそういう訳じゃないから、今言った様に実現出来るかはわからない。それに継承させたいと言っても、全部は無理だろうし」

 

 ヨーギラスの進化形であるバンギラスは、能力的には防御力に優れているという点はアキラが連れているエレブーと共通している。

 だがそれ以外は体格にタイプ、覚える技も含めて大きく異なっており、エレブーが覚えていることや戦い方の全てを受け継がせることは無理だ。

 けどアキラとしては、各手持ちの長所や基本動作などを教えることは出来ると考えている。

 

「まぁ…手に入れた力や技術を誰かに伝えていくとかは別として、自分の助けになる奴を自分の手で鍛えて強くするのって悪くない考えだと思わない?」

 

 アキラとしては別に自分達のやり方は一子相伝の奥義では無いし、教えた方が何かの役に立つか、自分達の助けになるのなら喜んで教える方だ。

 なのでエレブーがヨーギラスに今まで自らが培ってきた技術や経験を教えていく様に、ブーバーにも今まで磨いて来た力や技術を誰かに伝えて欲しいと考えていた。

 

「だから、俺自身も考えていくけど、バーットの方でも――」

 

 それからアキラは何か色々と構想みたいなことを口にするが、既にブーバーは別の事に意識が向いていて彼の話を聞いていなかった。

 

 手持ちと一緒に変わっていく

 

 アキラが何時も自分自身に言い聞かせる様に口にしている言葉が、ブーバーの脳裏を過ぎる。

 その言葉は、ただ一緒に成長していくだけでなく、ポケモントレーナーという一つのチームを率いる者として相応しい存在に常になろうとする彼なりの決意でもある。

 

 悔しいが彼の言う通り、今のままでは更なる強さを得るどころではない。

 将来自分にもヨーギラスの様な存在、誰かの上に立つことも考えると、今の自分も彼の言葉通りとまではいかなくても変わっていかなければならない。

 強くなる形で変わることを目指していたが、目標は同じでもやり方を変える時が来たのだろう。

 

「お~いバーット、話聞いてる?」

 

 真面目に語っていたアキラだったが、肝心のブーバーが話を聞いていないことに今更気付く。

 頭の中の世界へトリップしていたブーバーだったが、意識を目の前の現実に引き戻すと肩を竦めて、人間で言う”降参”を意味するジェスチャーを始める。

 途中から話を聞いていないことはすぐにわかったが、もう少し渋ることを予想していたアキラは、思ったよりも早くブーバーが話を受け入れたことに少し拍子抜けしていた。

 

「無理しなくても良いけど、いきなりだと流石のあいつらも驚くぞ」

 

 今まで変なところで一人でトレーニングすることを好んでいたのに、突然一緒に鍛錬したり素直に手助けを求める様になったら逆に戸惑われるだろう。

 何よりゲンガーがネタにして弄って来るのが目に見えている。

 彼に心配されるまでも無く、そのことはブーバーも良くわかっている。

 まだ抵抗感はあるので、いきなりでは無く日常生活の中でさり気なく少しずつ自分も周りも慣れていく過程は考えている。

 

 今度こそブーバーの気持ちが落ち着いたと見たアキラは、もう一回ひふきポケモンに語った構想の詳細を話そうとしたが、そのタイミングにタンバジムの方角からサンドパンが彼らに駆け寄って来た。

 

「どうしたサンット?」

 

 何事かと思ったが、彼が持っている目覚まし時計も兼ねている時刻確認用の時計を抱えていた。

 それを見たアキラは、休憩の時間がもう終わりだと言う事に気付く。

 

「もう時間か。話の途中だけど、そういうことだ。悩まずお願いすれば、一緒に戦っている時みたいに俺達は力になるから」

 

 ところがさっき負けたことに思うところがあるのか、ブーバーはサンドパンの姿を見ない様にそっぽを向いていた。その姿に彼は苦笑するが、「終わったら話の続きをするつもりだから」と言い残してサンドパンと一緒にタンバジムへ戻っていく。

 残されたブーバーだが、彼が考える時間を与える為に敢えて自分にタンバジムに戻るよう促さなかったことには気付いていた。

 

 彼らの姿が見えなくなったタイミングで、ブーバーはタンバジムの敷地にあるポケモン用の鍛錬場へと歩き始める。このまま鍛錬を休んで静かに考え続けても良かったが、体を動かさずにはいられなかった。

 

 先程の提案と話を聞いてから若干躊躇ってはいるが、教え合うまではいかなくてもちゃんと自分から進んで必要と感じたことを教わる事から始めようとブーバーは考えていた。

 誰よりも強くなることを目指すだけでなくテレビで活躍している様な力を欲していたが、今は焦るよりもワクワクする気持ちの方が強かった。

 

 近い将来、自分にもエレブーの様に誰かを教える時が来る。

 自らが培ってきた技と技術を教えて鍛え上げた後輩であり仲間である存在。

 彼らを率いるリーダーとして自分が先陣を切っていく。

 そんな光景がブーバーの脳裏に浮かぶ。

 

 何時になるかはわからないが、その時が来ることを考えると無性に楽しみになってきたのだ。

 丁度良く集団を率いるリーダーとして、良い参考例にして反面教師が身近にいる。

 

 彼の手持ちとして付いて行くことで得られる恩恵と利点、これからも大いに利用させて貰うつもりだった。




アキラ、伸び悩むブーバーに今後の方針を伝えることで上手く意識改革を促す。

今のところブーバーは、アキラとは別の意味でスランプ気味ですが、この2.5章では他の手持ち以上に成長すると思います。
勝利への執念や目指しているものがあるなどの要因がありますが、とにかく色んなことに手を伸ばしたり、挑戦するなどの試行錯誤を重ねていきます。
もう「仕方なく手持ちに加えるポケモンとして選んだ」頃からは考えられないまでに、ブーバーはアキラ達には必要不可欠な存在です。
サンドパンも昔の様にやられっ放しでは終わらなくなったりと、彼らが確実に成長していくのを書くのは楽しいです。

ちなみに模擬戦を始めてからの主人公が連れているポケモン達のパワーバランスは、こんな感じでイメージしています。
初期)ハクリュー≧ブーバー≧エレブー≧ゲンガー>サンドパン≧ヤドン
現在)カイリュー>ブーバー>エレブー≧ゲンガー=ヤドキング≧サンドパン

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