SPECIALな冒険記   作:冴龍

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新たな目標へ

「やれやれ、ワタルは負けたみたいね」

 

 スオウ島から弾けたエネルギーがカントー中に降り注いでいた時、一人遠くに逃れていたキクコは、空の光景からワタルが失敗したのを悟っていた。

 

 歯向かう者達を消耗させようと差し向けた軍勢のポケモンはやられてしまい、自分も敗北を受け入れてここまで来た。オーキドを見返そうと、長い時間と月日を掛けて練りに練って来た計画を孫とその仲間達に台無しにされた。

 その事実が頭に浮かぶ度に怒りが湧き上がってくるが、それは直ぐに萎びてしまう。

 

「もう年か…」

 

 普段の強気な顔付きから一転して、珍しく弱々しい表情を浮かべながらキクコは呟く。

 かつて輝いていた時代、青春とも呼べる時代が自分にもあったが、友人の一人が心を閉ざしてから自然と皆疎遠になってしまった。オーキドはその中でも最後まで付き合いがあったが、結局考えの相違で喧嘩別れをした。

 

 昔の友人達との交流を断ってまで、一体何を目指してここまでやってきたのか。

 急にオーキドを見返す為に今までやってきたことが、アホらしく思えてきた。

 

 気が付けば、スオウ島から放たれているエネルギーの影響によるものなのか、さっきまで荒地だった場所は草が広がる草原へと変わっており、座るのに丁度良さそうな岩にキクコは腰掛ける。オーキドは孫と言う形だけでなく、様々な形で自らの足跡やそこに居た証を残しているのに、自分はどうだ。

 

 何も残せていない。何一つだ。

 

「随分と無駄な時間を過ごしてしまったわね」

 

 もう昔の様にはやれない。ここらが潮時かもしれない。

 ポケモンを操る研究に力を入れたのも、四天王を結成したのも、もしかしたら何らかの形で自らが居た証を残したかっただけなのかもしれない。僅かに残っていた今日までキクコを動かしていた原動力である悔しさも消え去り、この後はどうしようか考えていたその時、老婆の頬を生暖かい空気が撫でた。

 

 異様な気配を感じて振り返ってみると、何時の間にか背後から濃い紫色の霧の様なものが広がっていたのだ。それに対して、キクコは驚愕を露わにしつつも逃げる素振りは見せず、そのまま広がってくる霧の中へと姿を消すのだった。

 

 

 

 

 

 青空が広がるタマムシシティに設けられたタマムシ病院。

 病院の規模や設備も含めてカントー地方最大の病院として有名であるが、その正面玄関の自動ドアが開き、中から包帯やギプスなどの治療の跡を窺わせる若い少年少女の集団が出てきた。

 

「また車椅子で生活かと思ったけど、思ったよりも軽くて良かったよ」

「俺達の中で一番ダメージが大きかったのに軽いって訳は無いだろ。それに入院して数日は車椅子だっただろ」

 

 出てきた集団の中で誰よりも体の至る所に包帯を含めた怪我の跡を残しているにも関わらず明るいアキラに、彼よりは目立っていないが頬に大きな絆創膏を貼っているレッドは苦笑する。

 初めて会った時から今に至るまでそうだが、彼は昔から手持ちの関係もあって日常的に怪我をするだけでなく、こういう大怪我を負う様な痛い目によく遭う。加えてあまりにも頻繁に怪我をしている所為なのか、言動からして負傷度合いの判断基準や感覚が少し麻痺気味だ。

 

「でも皆無事で良かったです」

 

 右腕を包帯で垂れながらもイエローは笑顔で話す。

 ワタルとの戦いで右腕が折れる大怪我を負ってしまったが、幸いそれ以外の怪我は擦り傷だけなど軽いものであった。一緒に出てきたグリーンも、多少治療の跡を窺わせながらもまだ癒えぬ打撲痕が目立っており、唯一ブルーだけは軽い治療だけで済んでいるので殆ど変わっていなかった。

 四天王との戦いが、どれだけの激戦であったのかを彼らの体に残っている傷が物語っていたが、これらの傷跡は時が経つにつれて消えていくだろう。

 

 スオウ島での戦いが終わって一週間、四天王軍団の襲撃によってクチバシティの被害はかなりのものだったが、今は各町からの支援を受けて早速復興準備に掛かっている。

 

 アキラ達五人もカツラと合流すると一緒に島を離れて、クチバシティで四天王軍勢との戦いを制した他のジムリーダー達と合流、そしてそのままタマムシ病院へと半強制的に入院させられて今日までこうして病院で過ごしていた。

 ようやく退院の許可が下りたが、外に出るとエリカを始めとした正義のジムリーダー達にオーキド博士、ヒラタ博士などの五人に関係のある人達が揃って待っていた。

 

「五人とも退院おめでとう! 元気そうで何よりじゃ!」

「退院おめでとうございます!」

「「「おめでとうございます! アキラ名誉総長!!!」」」

 

 オーキド博士達は嬉しそうにしていたが、彼らのお祝いの言葉は近くに勢揃いしていた柄の悪そうな集団の無駄に威勢の良い声に掻き消されてしまい、笑顔から一転してアキラは思わず頭を抱えた。

 

 無法者集団ではあるが、この前のクチバシティでの戦いも含めて、彼らの存在は何かと役立っているのをアキラは知ってはいるのだが、もう少し場の雰囲気を読んでくれないものか。

 今後彼らとはどう付き合っていくべきなのか悩んでいた時、両手に大きな花束を抱えた従者を連れたエリカが五人の前に進み出た。

 

「はい。お祝いの花束ですわ」

「ありがとうございますエリカさん」

「ありがとうエリカ」

「凄く綺麗な花束ね」

「感謝する」

「あっ、ありがとうございます」

 

 アキラから順に、レッド、ブルー、グリーン、イエローへ彼女は花束を一つずつ五人に渡していき、渡された五人は三者三様の反応を見せた。

 

「皆さんのおかげで、今回の事件は無事に収束する事が出来ました。カントージムリーダーの長として、そして皆の代表として改めてお礼を申し上げます」

 

 花束を渡し終えると、エリカは五人を前に深々と頭を下げる。

 世間では事件が収束したのはジムリーダー達の尽力と報道されているが、少なからずレッド達の活躍も取り上げられていた。前回リーグでの優勝者と準優勝者であるレッドとグリーンはジムリーダー達と同じ扱いだったが、それ以外のアキラを始めとしたトレーナー達は勇気あるトレーナーの内の一人という風に取り扱われていた。

 

 アキラとしては、自分は戦った大勢のトレーナー達の中の一人扱いでも構わなかったが、報道を見た一部の手持ちは有名になるチャンスを逃したのが大層不満だったので宥めるのに苦労した。

 

「大丈夫よ。その内勘の鋭い記者が取材を申し込みに行くわよ」

「前もそう言っていたけど、取材ってそう簡単に来るものかな?」

 

 入院している時も困っている自分を見兼ねたブルーとレッドはそう言ってくれたが、取材自体がどういうものかよくわからないアキラは少し懐疑的であった。

 手持ちの何匹かは真に受けてウキウキしているが、そもそも取材など受けたことが無いので、来たとしても正直どう受け答えをすればいいのかわからない。

 

 折角退院出来たと言うのに、次から次に問題がアキラに降り掛かって来る。

 それらの悩みから、彼は渡された花束から香る程良い甘い香りを味わうことで一旦忘れることにしつつ、空いている片手で目を軽くマッサージをする。

 

 一週間前の戦いを終えてからも、少し集中すれば相手の動きが手に取る様にわかる目の感覚を発揮できるままであった。どうしてこうも簡単に浸れるのかよくわからないが、この感覚がもたらす恩恵がどれ程のものかアキラは知っている。

 必ず使いこなす。そうすれば、自分は更なる高みへと登り詰めることが出来るだろう。

 

 ワタルとの戦いで体が限界を迎えてしまったのを考慮すると、使いこなす為にも自分の体を今以上に鍛えることは必須であり、それが今後の課題であるのは間違いない。

 

 手持ちと一緒にトレーナーも変わっていく。

 

 自らが定めたトレーナーとしてやっていく方針を思い出したアキラは、手持ちを鍛える様に自分も同じく今以上に鍛えていくべきだと、課題の克服を新しい目標に定める。

 自然と気合が入り、この集まりが解散されたら早速その計画を練ろうと考え始めるが、この場に来ていたポケモン大好きクラブ会長がカメラを取り出した。

 

「皆元気に退院出来たし、記念写真でも撮ろうではないか!」

「「「え!?」」」

「良いわね! 撮りましょう撮りましょう!!」

 

 会長の提案にアキラとレッド、イエローの三人は驚くが、彼らを余所にブルーは楽し気に面倒そうに離れようとするグリーンの腕を掴んで準備に取り掛かった。何やら記念写真を撮る流れになったことにイエローは戸惑っていたが、二年前もこんなことがあった様な気がするのをレッドとアキラは思い出す。

 

「ほらほら、ポケモン達も出して」

 

 ブルーに急かされるままに、彼らは手持ちをモンスターボールから出すが、総勢三十匹近くのポケモンが一堂に会するとかなり窮屈に感じられた。

 

 ブーバーやグリーンのポケモン達は面倒そうにしていたが、早く終わらせる為にも渋々と立ち位置に気を遣って並んでいく。ポケモン達の動きに合わせて、ブルーはグリーンだけでなくレッドの腕も掴んで彼らの間に挟まれる様に並び、イエローも顔を赤めながらもさり気なくレッドの近くに立つ。それらを見たアキラは、バランスを良くする目的で何気無くグリーンの横に移動する。

 

 その様子をジムリーダー達やオーキド博士とヒラタ博士らは笑顔で眺め、大好きクラブ会長は持っていた大きなカメラを構える。

 

「では…撮るぞ。1+1は何じゃ?」

 

 お決まりの台詞に二年前とは違い、グリーン以外の四人は笑顔で返事をすると、青空のタマムシシティでシャッター音が響いた。

 

 

 

 

 

 ―――――

 

 

 

 

 

「――これで、今回の講習会は終わりとなります」

 

 言葉遣いを意識しながら、アキラは前に整列しているコガネ警察署に所属している警察官達の前で終了を宣言する。

 

 ダブルバトルが終わってからすぐに、警察官の一人一人に課題の指摘や改善方法についての指導を行ったが、予定していた終了時間を何十分かオーバーしてしまった。だがその甲斐もあってか、半日程の時間しか掛けていないが、それでも講習会を行う前よりは参加者のポケモンへの理解とバトルの技量は上がっていると彼は確信していた。

 

「しかし、今日受けた内容だけで決して満足はしないでください。ポケモンの力を悪用する人は、今この瞬間も欠かさず力を磨いています」

 

 確かに可能な範囲で様々な事を教えたが、今回教えたのは基礎的な部分が中心で、応用も実戦レベルでは無い。

 何時も以上に力が入ったバトルも行っているが、それでも彼らのポケモン達のレベルは始める前と比較して2~3くらいしか上がっていないだろう。レベルが40代以上なら中々の上昇ではあるが、レベルが20代くらいではそこまで大きな上昇値では無い。精々強気なチンピラが連れるポケモン相手に、ほんの少しレベル差で優位に立てる程度だ。

 

「ポケモン犯罪と聞くとロケット団が真っ先に浮かぶと思います。実際に幾つかロケット団と対峙した場合を想定した内容も行いましたが、ポケモンを犯罪に利用する人は彼らだけではありません。そして――」

 

 力があればやれることが広がる。

 それがこの世界で、四年近く過ごしているアキラが強く感じた事だ。

 この世界での力とは、即ちポケモンに関することだ。

 ポケモンの扱いが上手いだけでも、他に取り柄が無い者でもある程度の地位が約束される。それで満足したり踏み止まる理性を持ち合わせていればいいのだが、満足しなかったり変に増長したりすると――

 

「そういう人達に限って、理不尽に強いという事がよくあります」

 

 ポケモンを使って悪事を働く者の多くは、ポケモンの扱いに長けた強豪トレーナーであったり、本人は大したことないのに中途半端に強いポケモンを連れている人間だ。

 彼らは真っ当なトレーナーとして十分にやっていけるだけの腕があるにも関わらず、それだけでは満足せずにポケモン達が持つ力を背景に、身勝手な望みを叶えようとする。ただ才能にかまけているのだったり、強いポケモンを扱っているだけの輩なら腕の立つトレーナーであれば十分に対抗できるが、残念なことに警察にはそれだけの人材は少ない。

 

 アキラは裏社会がどうなっているのか良くわかっていないが、悪事を働く者には力が何よりも大事な生きていく術だ。

 手段はどうであれポケモンバトルを生きる術にしている者と片手間にポケモンバトルを仕事に利用している者では、実力に大きな差が出てしまうのはある意味当然だ。

 虎の威を借りる腰抜けや臆病者はいなくも無いが、それでも執念が違う。

 

「ですが、警察が頼りにならないという現状や人々の認識を変えなければならないことには変わりはありません」

 

 無法者に近い知り合いに聞いたところ、警察は少し強いポケモンを使えば簡単に出し抜いたり負かすことが出来るという認識があるらしい。ロケット団以外で勢いや軽い気持ちでポケモンを使った悪事を働く者が多いのは、警察が世間にそう認識されているのも大きいだろう。

 ならば単純に法の番人である警察が、そういうポケモンを使った犯罪に強くなって世間の認識を改めさせれば、全体的に犯罪は減ってくれるはずだ。

 

 「ポケモンの力を使えば警察のお世話にはならない」と言う認識を「ポケモンの力を使ったとしても警察のお世話になる」に変える。

 それだけでも大きな抑止力になる。

 

 問題があるとすれば、社会的に犯罪とされる行為を明確な目的を持って行うサカキの様なタイプには通用しない事だが、まずは小物から片付けられる様にならなければ大物を仕留めることなど夢のまた夢だ。

 

「そういうことだ。ポケモンの種類が増えるにつれて、ポケモンを使った犯罪もまた増えるだけでなく多様化していくことだろう。我々はそれに対抗出来るだけの力が常に求められる」

 

 署長がアキラの言葉を引き継いで締めの言葉を伝えていくと、目の前に整列していた警察官達も表情を更に引き締め、背筋を伸ばす。

 

 疲労の色は多少窺えたが、それでも彼らはアキラだけでなく署長の話も真摯に受け止めていた。そして署長の話が終わると、彼の一声を合図に目の前に並んでいた彼らは頭を下げながら大きな声で今回の指導を行ったアキラに感謝の言葉を伝えた。

 

 本気の人もいれば社交辞令の人もいるだろうけど、自分よりも一回りも年が上の人達に感謝されるのは、どうも慣れそうにないのを彼は改めて自覚する。

 それからアキラは関係者の案内の元、屋内に設けられたバトルフィールドを後にする。

 

「君のおかげで、現状の改善に繋がるのを考えると、今回の我々からの依頼を引き受けてくれて本当にありがとう」

「すぐに強くなるのは無理ですが、継続して鍛錬を続ければ、今日教えたことは大きな力になってくれると思います」

 

 確かにほぼ予定通りには進んだが、これですぐに強くなるとは思っていない。だけど、改めて彼らが自らを見直し、手持ち達と向き合う良い機会にはなってくれたのではないかとアキラは思っている。

 ポケモンバトルは、常日頃から発達しているのだ。それまで主流だった戦術が廃れてしまうことは良くある。現状維持をしていては、発展していく周りから取り残されてしまう。だからこそ、強くなるのを求めなくても何事も継続して前に進むことは大切だ。

 

「また依頼する時はあるかもしれないが…」

「えぇ、予定が空いていれば喜んで引き受けます」

 

 本来なら、力があるとはいっても自分の様な一般人が首を突っ込まずに警察が解決してくれるのが一番だ。

 今は他にもやる事や考えていることがあるので、頻繁に引き受けることは無理かもしれないが、自分が今まで積み上げてきたものを教えることで改善されるのならば、予定が空いているのならやるつもりだ。

 

「帰りは?」

「寄るところがありますので、このまま歩いて帰ります」

「わかりました。本日は、我がコガネ警察署へのご指導ありがとうございました」

 

 署長を始めとしたコガネ警察署の上層部の人達に頭を下げられながら、アキラは警察署の正面玄関からコガネの街へ出る。警察署から如何にもお偉いさんの人と一緒にいるところを見ていたと思われる道行く人の何人かから好奇の視線が幾つか向けられていたが、彼は全く気にしていなかった。

 と言うよりも気にするだけの余裕が無かった。

 

「――はぁ~…やっぱり指導って疲れる」

 

 コガネ警察署から少し離れた後、アキラは大きく息を吐きながら肩から力を抜く。

 間違ったことを教える訳にはいかないし、ちゃんと相手にも理解できる様に考えなければならないので、()()()()()つもりではあったが本当に誰かを指導するというのは神経を使う。しかも一人でなく複数人、それも気心が知れた相手では無くて年上しかいなかったのも負担が大きかった。

 

 タマムシ大学で教鞭を取っているヒラタ博士やエリカとは少し違うが、彼らはよくこれだけ大変なことが出来るものだと正直に思う。こう言ってはあれではあるが、無事に何事も無く終われただけでも良かった。

 

「やっぱりこういうのは場数を踏まないと、慣れないものかな」

 

 機会があればまた依頼すると言っていた様に、今後もこういうポケモンバトルを教えに向かう機会が増えるかもしれない。個人的にはジムリーダーに依頼をしてダメだった時の第二候補くらいで見て欲しいが、現状のジムリーダー達の様子を考えるとフットワークが軽い自分が第一候補のままだろう。

 けど何かしらの理由があれば断る事も出来るので、そこまで悩む必要は無いと開き直り、彼はこれからの予定に意識を変える。

 

 今日の講習会が終わったらコガネ百貨店に寄ってノートや筆記用具、何か役立ちそうな本を探して買うことをアキラは考えていた。購入に必要な資金があるのか、改めて財布の中身を確認し始めたが、狙っていたかの様にボールが一斉に揺れ始める。放置していると転がり落ちる可能性があるので、仕方なく彼は六個あるボールを全て開く。

 

 ボールからはカイリュー、ゲンガー、サンドパン、エレブー、ブーバー、ヤドキングなどの今回の講習会の為に連れてきた()()()()()()()()()()()()が飛び出す。

 一体何が目的なのかアキラはわからなかったが、飛び出したカイリュー達は揃ってある方向に指差す。その先に目を向けると飲み物の自販機があったが、アキラはすぐに理解する。

 

「さっき買っただろ」

 

 どうやら彼らは、またきのみジュースが飲みたいらしい。

 そう何本も買う訳にはいかないので、サンドパンを始めとした面々はやっぱりと納得するが、ゲンガーを筆頭としたカイリュー、ブーバーの三匹は軽く文句を言い始めた。彼らの言い分としては、今日は頑張ったのだから特別にいいだろうということなのだろう。

 一理あるとは思うが、今ここでまた缶ジュースを六本も買ったらかなりの出費になってしまう。どうやって彼らを納得させようか、アキラが悩み始めた時だった。

 

「君」

 

 誰かが声を掛けてきたので、彼は顔ごと意識をそちらに向ける。

 そこには整ったジャケットを着た世間的にエリートトレーナーと呼ばれるトレーナーに近い格好をした青年が立っていた。

 

「今目の前にいるポケモン達は君が連れているのかな?」

「そうです…あっ、通行の邪魔になっていたのでしょうか?」

「いや、強そうなポケモン達だったから、出来れば彼らを連れている君にポケモンバトルを申し込みたいなって思って」

 

 どうやらアキラのポケモン達を見て、ポケモンバトルをしたいらしい。

 今は警察への指導を終えて疲れ気味なので断ろうとアキラは思ったが、出ていた六匹は目に見えてやる気を漲らせ始めた。

 先程までの流れを考えると、目的が丸わかりだ。

 少し間を置いて彼は青年からのバトルの申し込みを引き受けるべきか考えるが、手持ちの様子を見て、軽く息を吐きながら決めた。

 

「――良いですよ」

「本当か?」

「えぇ、賞金は…二千円前後でよろしいでしょうか?」

「そこそこの金額だね。良いよ」

 

 賞金に関しても、互いに財布の中身を確認し合って了承する。

 アキラは出ていた六匹をボールに戻すと、青年と一緒に戦う場所を確認し始めた。

 二人がボールを片手に距離を取り始めたのを見て、ポケモンバトルが始まると知った通行人の何人かは足を止め、彼らの周囲には見物人が集まり始めるが彼らは気にしていなかった。

 

「使用ポケモンは六匹、交代は自由! ポケモンに持たせる形での道具の使用も有り!」

「良いですよ! 問題ありません!」

 

 声を上げた青年のルール確認にアキラは答える。

 目から見える感覚から分析するに、あの青年は結構体を鍛えているのが良く分かった。恐らく連れているポケモン達も、エリートトレーナーであることを除いても比較的レベルが高いのがアキラには予測出来た。

 

 これが昔だったら、手持ちが万全でないと勝てるのかどうか不安を抱いていただろうけど、今はそういう不安は無い。昔より強くなったからだとアキラは考えてはいるが、だからと言ってやることや振る舞いは普段とは変わらない。

 

 さっきの講習会でも思った様に、周りは常に前に進んでいるのだ。

 現状に満足したりその維持に力を注ぐのではなく、常に前を向いて突き進まなければ取り残されてしまう。今までそうすることで乗り越えて来たというのもあるが、ポケモントレーナーの道は終わりが無いだけでなく、強くありたいのなら絶えず前に進み続けなければならない。

 そしてアキラとポケモン達は、それぞれ目指すものの為にもこれからも互いに力を磨き続けていくつもりだ。

 

「さぁ、思う存分暴れても良いぞ!!」

 

 意識を目の前に戻し、アキラは手にしていたモンスターボールから一番手を繰り出した。




アキラ、無事に四天王との戦いを制して、次の課題改善を考えながら記念写真を撮り、現代の彼は警察への指導を終えて早々に野良バトル開始。

この話で第二章完結となります。
第一章を書き上げるのに数年掛かったのを考えると、一年足らずでほぼ同じくらいの長さの第二章を書き上げることが出来て、正直驚いています(本当はもう少し短い予定でした)
やっぱりアキラも含めた周りとの関係がハッキリしているのと確固たる流れが出来上がっているのもあって、あまり悩んだり迷わずに済みました。

第二章はレッド達の活躍を描きながらも力が付き始めたアキラが動き始めるだけでなく、手持ちの現段階での一応の完成も含めて現代の彼らへと本格的に繋がる下地を書くのを意識していました。
テーマにするとしたら「覚醒」といったところですね。

ストックもここで尽きましたので、申し訳ございませんが再び毎日更新はここで一旦終了します。
次の投稿にどれだけ時間が掛かるのかはわかりませんが、可能な限り早めに書き上げるか、ある程度の話数でキリが良い所まで書いておきたいです。
出来ればこの小説の一周年くらいに、また十話くらい更新出来る様にしたいです。

ようやくドタバタしながらも彼らなりの信頼関係を築き上げたのや、まだまだ粗削りながらもアキラとポケモン達はかなり大きな力を今章で得たのとジョウトから技の範囲も広がるので、独自解釈などの形も含めて今まで以上にやれることや描きたいと考えていたことが増えると思います。

次も1.5章の様な間章である2.5章を挟んでから、第三章を描いていきます。軽い日常以外に描くのを決めている部分とまだどうするのか決めかねている話や流れがありますが、恐らく1.5章よりも長くなると思います。
後、最初に更新するであろう話で、第一話でさり気なく描いた伏線もどきを回収する予定です。

小説は趣味ではありますが、彼らの物語がこうして長くなっているのに気付くと、まだまだ描き続けていたいです。
更新表のトップに見掛けましたら「あ、また投稿しているな」感覚でも良いので、その時はまたよろしくお願いします。
そしてたくさんの評価や感想もありがとうございます。本当に励みになるのと、絶えず頑張っていこうと思う気持ちになれます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。

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