SPECIALな冒険記   作:冴龍

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乱入者

 遂に恐れていた事態が現実のものになってしまったのだと、倒れ伏せながらアキラは辛うじて理解していた。

 カイリューが”たたきつける”を放った瞬間、彼は突如吐き気を通り越して激しい頭痛、連鎖する様に体の至る箇所から筋肉だけでなく骨まで軋む様な痛みに襲われた。

 

 それらの激痛に精神が耐え切れなかったアキラは、体から力を抜いてしまいカイリューから振り落とされてしまった。

 更に今頃になって感じるとてつもない疲労感で、思考さえもままならない。カイリューが体を屈めて何か言っているが、もう頭の中には彼から見える世界や彼が何を考えているかが浮かばない。

 

 繋がりが切れてしまったのだ。

 

「ハァ、まだだ…ハァ、リュットはまだ戦えるんだ…ハァ…なのに…」

 

 自分がダメになってしまっただけで、カイリュー自身はまだ戦える。

 それに最後まで戦い抜いて見届けると言っておきながら、ここで力尽きる訳にもいかない。

 しかし、今まで経験した中で一番の死んだ方がマシと思ってしまう激痛と混濁する意識は、最早根性などの精神論では如何にもならなかった。口に出さなくても体が、これ以上戦うどころか動くことすら無理であると叫んでいた。

 

「ハ…ハハハハ……ハハハハハハ!」

 

 意外な形で訪れた結末に、最初ワタルは唖然としていたが、ボロボロになって蹲っている彼の姿を見て壊れた様に笑い始める。

 さっきまでカイリューに背負われる形で乗っていた彼が、どうしてこうなったのかは知らない。だけど、彼のカイリューが慌てた様子を見せていることから明らかにただ事では無いことなのは理解していた。

 

 今の彼らには、さっきまで強気で自分達を圧倒していた面影は無かった。

 耳を澄ませば何かブツブツと言っているのが聞こえるが、そんなのはもう知った事では無い。

 だが、今確信して言えることがあるとするのならば――

 

「――俺の勝ちの様だな」

 

 冷や汗を隠しながら、ワタルのカイリューは散々一方的にやられた分のお返しを込めた、最大パワーでの”はかいこうせん”を放つ。

 気付いたアキラのカイリューは倒れていた彼を抱えて避けるが、直撃は避けられても光線が爆発した際の爆風と衝撃波に巻き込まれて吹き飛んでしまい、岩肌が目立つ山の急斜面を転がり落ちていくのだった。

 

 

 

 

 

「この山…斜面がキツ過ぎる」

 

 アキラとカイリューがワタル達と激戦を繰り広げていた頃、イエローは彼らの後を追うべく岩肌が目立つ山を登っていた。頂上に近付けば近付くほど、激しい戦いが繰り広げられているのか爆音が轟く度に、斜面どころか山そのものが揺れている様な錯覚を覚える。

 自分がどれだけ彼の力になれるのかは全く分からない。だけど、一刻も早くアキラに加勢をしなければならない。

 

 そうして登っている内に、彼らは頂上の一歩手前まで辿り着き、イエローは気持ちを落ち着かせるのに努めた。

 自分はワタルと同じ力を持つだけで、今回戦いに参加した中で一番弱い。

 少しでも力になるべくここまで来たが、自分が出ても助力どころか逆に足手まといになるかもしれない。でも皆が戦っているのだ。自分だけ逃げる訳にも戦わない訳にもいかない。自らを奮い立たせて頂上に足を踏み入れようとした瞬間、閃光と共に一際大きな爆発が生じた。

 

「っ!」

 

 麦藁帽子が吹き飛ばされない様にしながら、イエローとポケモン達は転げ落ちない様に伏せた。

 

 爆風に吹き飛ばされて大小様々な岩が斜面を転がっていくのを音で感じ取りながら、イエローは改めて気持ちを落ち着けようとする。

 ここから踏み出せば、もう最後まで戦い抜く以外道は無い。

 勇気を出して顔を持ち上げたイエローとポケモン達は、スオウ島に山の頂上に立つ。そこは火口から立ち上るガスと先程の爆発で舞い上がった土埃が広がっており、ワタルと彼が連れているカイリューの姿はあったが、アキラと彼のカイリューの姿は無かった。

 

 その事実に、イエローは体を強張らせる。

 あれだけワタルを圧倒していたアキラが今ここにいないという事は、負けてしまったのだろう。カツラにもミュウツーと言う心強い存在がいたが、時間制限の関係上最後まで戦い抜くことはできなかった。ワタルとカイリューはかなり疲れているのか、揃って片膝を突いて息を荒くしているが本当に自分は彼に勝つことは出来るのだろうか。

 

「随分と手こずらされたが、それまでだったな」

 

 イエローが来たのに気付いたワタルは、苦戦こそしたが結果的に自分の方が彼より上手だった様に振る舞う。あれだけハンデを背負っていた相手に攻略法が見出せなかったさっきまでの己を隠す虚勢の意図もあったが、イエローとポケモン達は体を固くして身構える。

 

 ミュウツーを始めとした強力なポケモンを連れたトレーナー達と連戦して、まだ立っているのだ。警戒しない方がおかしい。緊張で強張る彼らの様子に良い傾向だと思いながら、ワタルはすっかり疲労し切っているカイリューに手をかざす。

 

「少しは回復してやらないとな」

 

 すると、ワタルの手がほのかに光り始めた。

 見覚えのある――否、馴染みのある現象を目の当たりにして、イエローは驚く。

 話には聞いていたが、彼もまたポケモンの気持ちを読み取り、そしてその傷をも癒すことが出来るトキワの森の力の持ち主。ブルーは同じ力を持つ者でないとワタルに対抗することは難しいと語っていたが、本当に自分は同じ力を持つからと言って彼と渡り合えることはできるのだろうか。

 

 光を浴びている内にカイリューが受けていた傷は目に見えて消えていくが、それでもまだ多くの傷を残したままワタルは手を下す。

 イエローはまだ良く知らないが、ポケモンを癒す力は癒す側の体力次第だ。ワタル自身、ちゃんとカイリューを万全にしたかったのだが、先程のアキラとの戦いでかなりの体力の消耗を強いられた。例えるのなら赤色だった体力ゲージが緑色に近い黄色になった程度、完全回復には程遠い。

 

「ふふ、まあいい」

 

 だけど、それでもイエローを倒すのには十分だとワタルは考えた。

 先のクチバ湾での戦いを考えると、今自分の目の前に立っている()()の実力は、この島に攻め込んできたメンバーの中では最弱だ。ある程度の回復を終えたカイリューは、幾つか傷を残しながらも体に力を漲らせる。

 

「カイリュー! ”かいりき”だ!!」

 

 ワタルの命でカイリューが地面を殴り付けると、その強大なパワーからもたらされる揺れで大小様々な地割れが生じる。

 イエローも揺れに翻弄されるが、もっと恐ろしいのは割れ目から溶岩の様なものが噴き出したことだ。赤く熱された岩から彼らは逃げ惑うが、カイリューはあっという間にイエロー達との距離を詰めてきた。

 

「ゴロすけ! ドドすけ!」

 

 接近してくるカイリューにゴローンとドードーが挑もうとするが、ドラゴンポケモンの腕の一振りで呆気なく片付けられる。自分達がカイリューを止めるには弱点を突く必要があると咄嗟に考えて、イエローは続けて声を上げた。

 

「オムすけ”れいとうビーム! ピカ”10まんボルト”!」

 

 冷気の光線と強烈な電撃が放たれるが、当たる直前にカイリューの体は突如濃い緑色のオーラに包まれる。

 

「”げきりん”!」

 

 再び身に纏った強大なエネルギーによって、カイリューはその身に受けた特殊技の威力を大幅に軽減する。素の状態でも実力差は明確なのだ。本気を出せば彼らなど軽く捻り潰す様なものだ。

 少しでも足止めするべく、キャタピーが糸を吐いて動きを封じようとするが、簡単に引き千切られてしまう。

 

 再び本気を出したワタルのカイリューに、イエローは可能な限り頭を働かせる。

 自分のポケモン達の能力では、正面から挑んでも勝ち目は無い。もし万全状態であったのなら限り無く0に近かったかもしれないが、今のワタルのカイリューはかなり消耗している。修行中にグリーンから学んだことを思い出しながら、すぐにイエローは別の作戦を思い付く。

 

「ピカ、”フラッシュ”!」

 

 直視できない強い光を放ち、ピカチュウはワタル達の目を眩ませる。

 ダメージを与えない時間稼ぎの小細工ではあるが、視界を封じたことで生まれた隙が彼らにとって何よりも貴重だった。

 

「ゴロすけ、”いわおとし”!」

 

 立ち上がったゴローンは近くにあった岩を手にして、カイリュー目掛けて幾つも放り投げる。”げきりん”のオーラを纏っているが、次々と岩が頭や体に当たって、カイリューは怒りの矛先をゴローンに変える。身の危険を感じてがんせきポケモンは身構えるが、カイリューの背後から勢いに乗ったドードーとラッタが跳び上がった。

 

「”ドリルくちばし”! ”ひっさつまえば”!」

 

 いずれも二匹が覚えている中でも最高威力を有する技だ。

 当たればレッドやグリーンらが連れていたポケモンでも大きなダメージを受けるが、それだけの技を無防備な背中に仕掛けても、ドラゴンポケモンにダメージを与えるどころか目立った傷すら与えられなかった。

 

「その程度のパワーでドラゴンの体に傷を付けられると思ったか!」

 

 鬱陶しそうにカイリューは、背後で嘴や前歯を突き立てる二匹を払い除ける。

 イエローに迫るドラゴンをオムナイトは小さい体ながらも精一杯の”れいとうビーム”を浴びせて止めようとするが、本来なら致命的なダメージになる氷技でも”げきりん”の力を発揮している今のカイリューには、あまりダメージになっていなかった。

 

「っ! ピカ!!」

 

 窮地に追いやられたイエローの呼び掛けに、ピカチュウは応える。

 最早今のカイリューを止めることが出来るのは自分しかいない。

 ピカチュウは頬の電気袋から激しく火花を散らせると、雄叫びを上げながら今持てる限りの力全てを注ぎ込んだ”10まんボルト”を放つ。

 ピカチュウが放った最大出力の”10まんボルト”は、オーラという形でカイリューが纏っている”げきりん”の鎧を貫き、ようやくダメージを与えることに成功する。

 浴びせられた電撃の威力にカイリューは苦しそうに悶えるが、苦し紛れに振るわれた荒々しいオーラを纏った巨大な尾の一撃が、イエロー達に襲い掛かった。

 

「うわあぁぁぁ!!!」

 

 手持ちのポケモン達と一緒に、イエローは箒で掃かれた埃の様に吹き飛ばされ、彼らは岩肌に叩き付けられたり無造作に転がる。

 

「悪あがきは止めるんだな。ピカチュウはともかく、それ以外のお前が連れているポケモン程度では、カイリューを止めるどころかまともにダメージを与える事すら叶わない」

 

 余裕が出来てきたのか、息が落ち着いてきたワタルは立ち上がろうとするイエローを見下ろしながら告げる。

 

 実力差は明白だ。

 

 だが、逃げるか挑むかのどちらを選んでも、彼はイエローをこの場で始末するつもりだった。さっきのアキラもそうだったが、中途半端に仕留め損ねるとどうなるのかわからない。生かしておくには危険過ぎる。

 もうワタルは、一切の出し惜しみも手加減もするつもりは無かった。

 体を強く打ち付けたイエローは、右腕が激痛と共に変な方に曲がっているのに気付いていたが、息を荒くしながらもゆっくりと立ち上がる。

 

「まだ戦うか」

「僕は…ハァ…諦めない」

 

 単純にこのカントー地方を守る為にも、諦める訳にはいかないという訳では無い。

 例え戦いに勝てる力が無くても、彼が聞く耳を持たないとしても、故郷の力を恐ろしい目的の為に利用するのを何としてもイエローは止めたかった。

 

「何で…何でカイリューを癒した力をこんなことに使うの?」

「力をどう使おうと俺の勝手だ。俺は森から授けられたこの力で、愚かな人間どもを滅ぼす!」

 

 人間の身勝手な都合な傷付くポケモン達、どれだけこの力で癒しても彼らの心の傷や怒りまではワタルには癒すことは出来なかった。にも関わらず人間達は、ポケモン達には構わず好き放題自然を荒らした挙句、壊した自然を戻すどころか自分達さえも住めない状態にして放置だ。普通に考えればわかることなのに、自らの首を絞めていると言うことにも気付かず、生態系の頂点に立っていると思い込んでいる人間達。

 いずれ自滅していくのだ。自分達はポケモン達の為にも、それを少し早めているだけだ。

 

「違う! トキワの森の力はそんなことの為に――」

「黙れ! ロクに力を持たない奴が俺に意見するな!」

 

 イエローの言う事に耳を貸さず、右腕のオーラを一際濃くして、カイリューは拳を振り上げる。

 

 何を成すにも力が無ければ何も出来ず、そして誰も耳を傾けてくれない。

 

 今までワタルはそれを強く経験してきた。

 目の前の麦藁帽子には他の人間には無い行動力はあったが、力が無いのならば所詮口先だけだ。

 

 身の危険を感じたイエローだったが、避けようにも体が思う様に動かない。

 さっきはアキラ達のおかげで直撃は免れたが、その彼はここにはいない。

 今度こそやられてしまうのを覚悟したその時、突然カイリューの足元が崩れた。

 

「!?」

 

 予想外の出来事に、ワタルは一瞬ではあったが動揺を露わにする。すぐに彼を肩に乗せてカイリューが飛び上がったおかげで、崩れていく足場から逃れるが、何の前触れも感じなかったことに彼らは不可解なものを感じていた。

 まさか倒した筈のアキラか、他の四天王を退けた誰かが加勢に来たのか。

 あらゆる可能性が彼の頭の中を駆け巡っていくが、少し離れた岩肌が陥没する様に崩れていき、そこから特徴的な屈強な体付きをした二匹のポケモンが姿を現した。

 

「新しいポケモン…」

 

 腕の痛みを堪えながら、イエローは呟く。

 自分達以外の誰かが、この場に来たのだろうか。だけど、今現れた二匹を連れているトレーナーにイエローは心当たりは無かった。

 空を飛んでいるワタルとカイリューは、新たに姿を見せた二体――ニドキングとニドクインに意識を向ける。さっき足元を崩したのも、恐らくあのポケモンだ。この島には野生のポケモンは生息していないので、あの二匹は確実に野生では無い。どこかにトレーナーが身を潜めているはず――

 

「真下がガラ空きだ」

 

 真下――さっきまでカイリューが立っていた場所から聞き覚えの無い声が、ワタルだけでなくイエローも耳にする。

 声が聞こえた方へワタルは急いで振り返るが、その真下から黒い影が一直線に迫っていた。

 

「”ダブルニードル”」

 

 カイリューは迎撃しようとするが、構えた瞬間、体の二箇所を貫かれる様な衝撃を受ける。直後に意識が遠のいたからなのか、カイリューの体から”げきりん”のオーラが消えてそのまま落ちていくが、その最中にワタルは飛び出した影の正体とその下に誰かいるのをハッキリと目にした。

 砂埃が晴れると、さっきまでワタルとカイリューが立っていた場所にサイドンを引き連れた黒いスーツを着た男が立っていた。

 

 

 

 

 

「っ…うぅ…」

 

 意識はハッキリとしないのに感じる激痛、動かそうにも体は糸が切れた様に動いてくれないのにアキラは苦しんでいた。

 混濁する意識の中で、彼今自分が置かれている状況を理解するのを試みていたが、頭痛が激しくてどうにも頭がハッキリしてくれない。

 体に掛かる負荷が限界を超えて倒れてしまったところまでは辛うじて思い出せるが、何故こんなことになったのかさえ、よくわかっていなかった。

 

 とにかく少しでも痛みが和らいでくれるか、落ち着いて思考が出来るまでになって欲しい。

 そう願っていたら、ボヤけながらも自分の目の前に何かが残像の様に見えてきた。それらは人なのかポケモンなのかその時点ではわからなかったが、視界が安定するにつれて曖昧だった聴覚も機能し始めたのか、頭の中に別の声が聞こえてきた。

 

「――は――ですか?」

「こう――は――」

 

 断片的だが、近くにいるのはどうやらポケモンじゃなくて人らしい。

 一旦瞼を閉じて目に力を入れてから開くと、今度は視界も含めて全ての感覚が鮮明になった。

 

「あっ、アキラ。気が付いたのか」

「レッド……」

 

 良く知る友人が目の前にいて、横になっていたアキラはぼんやりと彼の名を呟く。彼の後ろではカツラが、持ってきたと思われる応急処置用具を広げていた。

 自分がここにいるのと彼らがここにいる理由が、まだ頭がフワフワしているからか彼は上手く理解出来ないでいた。

 

「悪いなアキラ。クチバシティでの戦いでも大変だったはずなのに、ここまで駆け付けて来てくれて」

 

 シバとの戦いを制した後、急いでレッドはカツラとイエローの加勢に向かったが、その途中で座り込んで休んでいるカツラとアキラの手持ち達を見つけた。クチバシティで別れたはずの彼の手持ちがいただけでも驚きだったが、それから間もなく山の斜面から岩と共にアキラを抱えたカイリューが転げ落ちてきたのだ。

 さっきまで軽い応急処置などでドタバタしていたが、やって来た経緯などの詳しい事情はカツラから少し聞いている。

 

 自分を抱えながら転げ落ちてきたと言うカイリューだが、休息を取って幾分か回復した仲間達の手によって、傷付いた体に”キズぐすり”を至る所に噴き掛けられている。傷を負ったことによるダメージ以上にかなり疲労している様子ではあるが、それでも全く動けないアキラとは違って、仲間と無駄口を叩き合うだけの余裕はある様に見えた。

 

 クチバシティからの連戦で、アキラとカイリューは互いに体を酷使しているであろう認識は少しあった。だけど、見てわかる通りカイリューにはまだ戦えるだけの余力はあったのに、自分の方が先に限界を迎えてしまったことで、折角の勝つチャンスをふいにしてしまった。

 

「ごめん。レッド、リュットはまだ戦えるはずなのに、俺自身の体が……耐え切れなかった…」

 

 もっと走り込んで戦いに付いていけるだけの体力を自分が身に付けていれば、知識ばかりでなく戦いの最中に受ける負担に耐えられるくらい体も鍛えていればと、後悔の気持ちが湧き上がる。

 

「気にするな。お前は十分にやったよ。後は俺達に任せろ」

 

 そう伝えると、レッドはアキラに施した応急処置がある程度終えたのを確認すると、屈めていた体を立ち上がらせて山の頂上を見据える。恐らく戦っているであろうイエローの事が気になっているのだろうけど、アキラの目は見逃さなかった。

 レッドの不調気味の手足、痺れているだけでなく力の入り具合が明らかにおかしく見える。

 この状態で、何事も無い様に動けている事自体が不思議なくらいだ。

 

「レッド、立っているのも辛いんじゃないのか?」

「あぁ、でもだからと言ってここで待っている訳にはいかない。皆が戦っているんだ。最後まで俺は出来る限りの事を尽くす」

 

 ハッキリと告げる彼を見て、アキラはある事を思い出した。

 体が限界に近いとわかっていても、皆が戦っているのに退く訳にはいかないレッドの姿。

 色々異なっている点もあるが、置かれている状況と台詞の内容がさっき自分がエリカに告げたのにそっくりだ。

 

『変なところがレッドに似てきましたわね』

 

 あの時彼女に言われた言葉が脳裏に浮かび、アキラは溜息にも似た息を吐く。

 

「はぁ~、影響は受けていないって思っていたけど、こんなところでレッドの影響を受けているのを自覚する何て…」

「アキラが俺の影響を受けている? どっちかと言うと、俺の方がお前の影響を受けていると思うんだけどな」

 

 アキラが呟いたことに、レッドは反論する様に付け加える。

 ポケモンバトルでの戦いの流れや勉強の仕方、彼のトレーナーとしての心構えはレッドから見れば学ぶことが多い。今までの自分だったらやらなかったであろうことや試みをやっている時もあるので、どちらかと言うと自分の方がアキラの影響を受けているとレッドは認識していた。

 

「いやいや、俺は確実にお前の影響を受けているよ」

「そう謙遜するな。それを言うなら、俺だってお前の影響を受けているよ」

 

 グリーンがレッドと互いに影響を与え合った様なものと考えれば丸く済む話なのだが、アキラは自分はそんな存在じゃないと考えていたので、若干話しが拗れた。

 そんな軽くどうでもいい言い合いが続くかと思われたが、すぐにそれを止める者が現れた。

 

「何くだらないことを言い合っているんだお前ら」

 

 キョウと共にキクコを退けて駆け付けたグリーンと、同じく辛うじてカンナに勝った後に彼と合流したブルーは、呆れた様子で二人のやり取りを見ていた。状況は一刻を争っているのにも関わらず、低レベル且つどうでも良い事の押し付け合い、口を挟まずにはいられなかった。

 

「「いやだってさ」」

 

 にも構わず、レッドはアキラを指差し、体を動かせないアキラは視線でレッドを強調する。

 そんな彼らの様子にグリーンは勿論、ブルーも溜息をつくのだった。




アキラが戦線離脱した後、イエローがワタルに挑むも危うい場面に謎の人物参戦。

イエローのポケモン達が呆気なく片付けられていますけど、原作でもピカチュウ以外は終盤の進化を除くと、実力差が大きいのかまともに対抗出来ていないんですよね。
一応今小説では、修行中は身近にグリーン以外に教えて貰えたりバトルの相手がいるなどのおかげで、原作よりは強くなっているとは扱っていますが。

レッド達三人の戦いの流れは描写していませんが、最初から本気の四天王に苦戦こそしたけど、レッドは実力、グリーンはキョウと共に機転を利かせて、ブルーは上手く上着に化けさせたメタモンでの不意打ちなど、過程は変わっているけど大体が原作通りの形で決着という風に考えています。

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