SPECIALな冒険記   作:冴龍

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頑丈の意義

 密猟者から逃れるべく、バンギラスを含めて大勢でテレポートしたアキラ達だったが、少し地響きを鳴らしながら彼らは開けた道らしき場所に着地した。

 

「よし。何とか逃げれたな」

 

 今回は上手く着地出来たアキラは、誰も欠けていないことを確認するとすぐに自分達が飛んだ場所がどこなのか、周囲を見渡す。辺りと今立っている場所を見る限りでは、車が通れるほどの広さである程度人の手が加えられたと思われる道にいることはわかった。

 

「となると、この道で街の方へ歩いて行けば、いずれ人がいる場所に辿り着けるってことかな」

 

 そうとなれば密猟者のことを、この辺りを管理している人達に早く知らせるべきだ。

 幾ら力が付いたとしても、ここがシロガネ山に近い森であることを考えると変に正義感で戦うべきでは無い。勝てたとしても手持ちの消耗が激し過ぎて、野生のポケモンと戦ったり逃げることに支障が出る可能性がある。

 

 他にも問題があるとしたら、今一緒に居るバンギラス親子だ。

 密猟者が彼らを狙っていることを考えると今野生に帰るのは危険なので、事態が収まるまで人がいる場所までの同行を求めるべきか。

 

 悩むアキラと周囲を警戒する彼のポケモン達が放つ緊迫した空気に、生まれたばかりではあっても敏感に感じ取ったのか、ヨーギラスは今にも泣き出しそうなまでに表情を崩し始めた。それに気付いたバンギラスは、抱えている我が子を安心させようとあやし始め、傍にいたエレブーもあたふたしつつも間抜けな顔を見せたりとヨーギラスの不安を逸らそうする。

 彼らの様子に戸惑いながらも、サンドパンに事情説明も兼ねて親子の説得を頼もうとした時、またしてもアキラの直感が何かを察した。

 

「サンット!」

 

 掛け声に応じたサンドパンは、早撃ちガンマンを彷彿させる速さで、気配を感じた先に威力と速度に優れた単発”スピードスター”を放つ。しかし、放たれた攻撃は目に見えない力で軌道をズラされる。

 

 何時の間にか彼が睨む先には、さっきの密猟者の二人がポケモンを引き連れて立っており、すぐさま他のアキラのポケモン達も臨戦態勢に入る。逃走手段の一つである”テレポート”をしても簡単に追い付かれることは想定していたが、こうもアッサリだと驚きを隠せなかった。

 

「何で追い掛けて来れたんだ? 的な顔をしているな」

「ただの”テレポート”で飛べる範囲はたかが知れているからな。追い掛けるのは楽なもんさ」

 

 ポケモンの技に関して一定以上の知識と理解があると考えられる二人の台詞に、アキラは警戒を最大にする。よく考えれば、一般人どころか並みのポケモントレーナーは立ち入る事が固く禁じられているシロガネ山近辺に彼らはいるのだ。連れているラフレシア、ゴローニャ、フーディンを見ればわかる様に、危険な場所であることを気にしないだけの高い能力がポケモンとトレーナー自身にもあるはずだ。

 

 ハクリューにブーバー、ゲンガーの三匹は今にも挑みそうだったが、迂闊に手を出せない相手だとわかっているのか機会を窺う。

 出来れば戦いは避けたかったが、こうなったらもう戦いに勝つか、大きな隙を作ってヤドン達の念のサポートを受けさせた特別強力な”テレポート”で離脱するしかない。その為にもまずは最初の攻防を制する必要があるのだが、こういう硬直状態は先に仕掛けた方が有利になる時もあれば不利になる時もある。もし不利だった場合、出来る限り仕掛けた後のカバーをしなければならないので、アキラは頭をフル回転させる。

 

 その時だった。

 

 森の中から、突然スピアーがアキラを突き刺そうと針を構えて飛び出してきたのだ。

 

「っ!?」

 

 アキラは驚くが、奇跡的な反応のおかげで倒れ込む形ではあったが、辛うじて避ける。

 このタイミングに仕掛けてきたのを見ると、恐らく奴らの手持ちなのだろう。彼が不意打ちされたのに手持ち達の間に動揺が走るが、最前線の三匹が意識をこちらに向けた隙を密猟者達は見逃さなかった。

 

「”いわなだれ”! ”サイコキネシス”!」

「”はなびらのまい”!」

 

 各タイプで上位に位置する技が繰り出されて、前線を担っていた三匹は揃って、その威力と余波で吹き飛ぶ。彼らの様子から見てかなり大きなダメージを受けていることを悟ったアキラは、急いで対応しようとするが、邪魔する様に再びスピアーが襲ってくる。

 すぐさまサンドパンが相手することを買って出てくれたが、中々優位には立てず、爪と毒針がぶつかり合う度に激しく火花を散らす。

 

 サンドパンへの指示か、ハクリュー達の立て直しのどちらを優先するべきかアキラが迷っている間に、ゴローニャが倒れ込んだ三匹に飛び掛かるが、ヤドンが”ねんりき”を発揮して空中で静止させると同時に吹き飛ばす。飛ばされたゴローニャにフーディンは巻き込まれるが、まだ花弁と共に舞っているラフレシアは、再び攻撃を仕掛けようと動きを見せる。

 

「エレット、防御を頼む!」

 

 スピアーとサンドパンの攻防を気にしながら命ずると、すぐさまエレブーは最前線に出ると同時に”リフレクター”と”ひかりのかべ”を二重に発動して追撃の攻撃を防ぐ。

 しかし、完全に防げたのはそこまでだ。

 

 発動直後なら”リフレクター”と”ひかりのかべ”は、それぞれの性質に応じた攻撃を完全に防いでくれる。だがエレブーがまだ上手く扱えないことが関係しているのか、ある程度のダメージ軽減効果を残してくれるが、すぐに壁は消えてしまう。

 壁が消えるタイミングを見計らって、密猟者が連れているポケモン達はでんげきポケモンに猛攻を仕掛ける。

 

 ラフレシアの嵐の様な大量の花弁、立ち直ったフーディンは強烈な念の波動を放ち、それらの攻撃にエレブーは晒される。先に発動した”リフレクター”と”ひかりのかべ”が持つ効力のおかげでダメージは軽減されているが、それでも耐え切れるかわからない程、密猟者達のポケモンの攻撃は激しかった。だけどエレブーは、両腕で顔を守りながら体勢を崩すことなく持ち前の打たれ強さを遺憾なく発揮して、少しも下がらずにその場に踏み止まって耐え続ける。

 

「止めだ! ゴローニャ”すてみタックル”!!」

 

 ラフレシアの”はなびらのまい”が途切れたタイミングで、ゴローニャは自らの体重と勢いを上乗せしたタックルをエレブーにぶつける。

 ぶつかった瞬間、一際鈍い音が周囲に響くが、エレブーは吹き飛ぶどころか体勢を維持したまま滑る様に後ろに後退するだけだった。

 

「何っ!?」

 

 まさか耐え切られるとは思っていなかったのか、密猟者達は驚きを露わにする。

 耐え抜いたエレブーは、チャンスと見たのかアキラの指示も待たずにすぐさま右拳に力を籠めると同時に紫電を走らせて、すぐ目の前にいるゴローニャを”かみなりパンチ”で殴り付ける。

 

 でんきタイプの攻撃はじめんタイプには無効。

 それはポケモンの世界の常識ではあるが、レッドのピカチュウみたいに桁違いのパワーを持つのなら、その常識を覆すことは出来る。

 だが、エレブーの”かみなりパンチ”には、ゴローニャのじめんタイプによるでんきタイプ無効を覆せるだけのパワーは無かった。タイプ相性については、アキラが時間を掛けて手持ち全員に教えていたが、慌てていたことや簡単に覆される場面を度々見てきたエレブーはすっかり忘れていた。

 

 しかし、でんきタイプは無力化されても、そのタイプエネルギーを纏わせた拳をぶつけられた時に生じる物理的なダメージまでは無力化する事は出来ない。

 たった今でんげきポケモンが仕掛けた渾身の”かみなりパンチ”は、言うなればでんきタイプのエネルギーを纏った”メガトンパンチ”の様なものであり、その物理的なダメージにゴローニャは表情を歪める。

 タイプ相性を考えれば、あまり褒められた攻撃では無かったが、それでもそのパワーに防御の優れたゴローニャさえ堪らず下がろうとする。

 

「”いわなだれ”だゴローニャ!!」

 

 タイミング良く伝えられた命令を受けて、ゴローニャは追撃を防ぐ意図も含めて置き土産に”いわなだれ”を仕掛ける。大量に迫る無数の岩に恐怖を感じたエレブーは慌てながらも軽快に避けていくが、メガトンポケモンが放った岩の幾つかは後ろにいたアキラ達も襲った。

 

「えっ!? ここまで飛んで来るの!?」

 

 ”キズぐすり”などでダメージを受けたハクリュー達の体勢立て直しの真っ最中だったので、飛んでくる岩にまだスピアーと戦っているサンドパン以外は必死に避けていく。その場にぼんやりと立っていたヤドンも、ブーバーが避けながら担ぎ上げてくれたおかげで難を逃れるが、ヨーギラスを抱いているバンギラスだけは違っていた。

 腕の中に子どもがいるのが足枷になっているのか、攻撃も回避もせずに我が子を守るべく体を丸めるが、運悪く岩が頭を含めて何個かぶつかって倒れ掛ける。

 

「わあーー!! 倒れちゃダメ倒れちゃダメ!!!」

 

 あのまま倒れてしまったら、抱いているヨーギラスを潰してしまう。

 運良く”いわなだれ”が丁度止んでくれたので、大慌てでアキラは珍しく焦りの形相を浮かべたハクリューやゲンガーと一緒にバンギラスを支え、ブーバーも担いでいたヤドンを放り投げて彼らに加勢する。幸いバンギラスは、倒れる様に見えてはいたものの片膝が付くだけで済むが、ただならぬ事態なのを感じ取っていたヨーギラスは、とうとう大声で泣き始めた。

 しかも、それはただの泣き声では無く”いやなおと”混じりの泣き声だった。

 

「いっ!?」

 

 近距離にいたアキラは、声にならない悲鳴を上げながら防衛本能で両手で両耳を抑えるが、それでも防ぎ切れない。当然アキラのみならず、ハクリュー達や親であるバンギラスも被害を受けるが、ヨーギラスの泣き声の範囲は戦っていたエレブーや密猟者達にも及ぶ。

 

 安心させようと不快音交じりの泣き声に耐えながらバンギラスはヨーギラスをあやすが、それでも泣き止まない。戦いどころでは無いと判断したエレブーは、耳を抑えながらヨーギラスを泣き止ませるべく戻ろうとしたが――

 

「うおおぉ!! み、耳が…」

「泣いている奴を黙らせろ!」

 

 ヨーギラスの泣き声に苦しめられるのに耐えかねた彼らは、原因であるヨーギラスを攻撃するのを命ずる。三匹が今にも技を放ちそうなことにエレブーは気付くと、方向から見て自分を狙っていると勘違いして避けるべく体を動かそうとするが、一瞬だけ泣いているヨーギラスとバンギラスに目が向く。

 

 避けたら、あの攻撃はどこに飛ぶ?

 

 不意にそんな疑問が、エレブーの頭の中に浮かんだ。

 他の仲間と違って頭は良くないことを自覚しているので、そのまま後ろに飛んでいくとエレブーは単純に考える。そうなったらアキラ達はまた巻き込まれるが、何だかんだ言って彼らは大丈夫だろう。

 

 だけど、あの親子はどうなる? 

 

 簡単に考え、僅かな時間でそこまで思考が至り、密猟者達のポケモンがそれぞれ技を放ってきた直後、エレブーは衝動的に動いた。

 その場に踏み止まり、体を大きく広げて、放たれた攻撃全てを背で受け止める。

 一際強い光と衝撃が激しく体を叩くが、それら全てにエレブーは耐え抜く。

 

「よし! よくやってくれたエレット!!」

 

 ダメージを軽減しているとはいえ、彼の打たれ強さは本当に頼もしい。

 エレブーが攻撃を受け止めた時に生じた轟音に驚いたのか、あまり好ましくは無いがヨーギラスは黙る様に泣き止む。エレブーが時間を稼いでくれたおかげで、大ダメージを受けたハクリュー達の回復も済んだ今が反撃のチャンスだ。

 まだ耳は本調子に戻らないもののアキラはすぐに反撃を命じようとしたが、体中から煙を上げながらエレブーは両足を交互に力強く踏み締めて構え直した。

 

「……エレット?」

 

 反撃の為に気合を入れているのかと思ったが、エレブーの構えが攻めでは無くてさっきと同じ守りの構えなのにアキラは気が付いた。こういう時はすぐに反撃に出るのが最近のエレブーの戦い方だったが、今回彼は反撃よりも防御を行うことを選んでいた。

 

 体のどこかを痛めてしまって動こうにも動けないのかと思ったが、足腰に力が入っているのを見るとその可能性は低い。

 ”がまん”を発動していることも考えたが、他の戦い方にも慣れてきたエレブーが指示無しで”がまん”を実行するとは思えない。

 最悪なのは相手の実力に怖気づいていてしまっていることだが、怯えている姿には程遠く、その背中はとても頼もしく見える。

 

「…あれ? エレットってあんなにカッコ良かったっけ?」

 

 場違いではあるが、穏やかではあるものの臆病でおっちょこちょいなエレブーの姿を知っているだけに、アキラは目の前のエレブーが本当に何時もの彼なのか思わず目を疑ってしまった。

 今のエレブーは、まるで別人の様に体中に力を漲らせている。

 それも攻撃を仕掛ける為では無くて、続けて仕掛けられてくるであろう攻撃に耐える為だ。

 

 アキラが連れているエレブーは、普通の個体とは違って並みのいわタイプ以上の打たれ強さを有しており、それを上手く活かす術も身に付けている。しかし、幾ら相手の攻撃に耐えることで強大な力を発揮できるとしても、好んで苦しくて辛くもある痛い思いなどしたくはない。それはエレブーが、本来の種に多く見られる血の気が多い荒っぽさとは真逆の気が弱くて臆病な性格であったとしても、まともな感覚を持つ生き物なら当然だ。

 

 それなのに何故、自分達の前に立っているエレブーは、あまり好まない筈の我が身を盾にしていると言ってもいい行動を積極的に取るのか。今まで見せたことが無いエレブーの行動の意図がアキラには理解出来なかったが、でんげきポケモンは少しだけ首を後ろに向ける。

 彼の目付きがハクリューやブーバーに見られる鋭いものであったことには驚いたが、その目線の先にバンギラスと守られる様に抱えられているヨーギラスの姿があったのに彼は気付く。

 

「――今日会ったばかりなのに、何か思うところでもあるのかな」

 

 その目付きと視線の先を見て、アキラはエレブーが今の行動を取っている理由があの親子にあることを何となくではあるが察した。

 攻めることなら手持ちの誰でも出来るが、相手の攻撃全てを引き受けてひたすら耐え抜く事のみならず、要塞の如く不動なのを保ち続けられるのはエレブーにしか出来ない事だ。何が彼を突き動かしているのかは知らないが、痛い思いをしたくない自らの臆病な気持ちを抑えてでも、エレブーは我が身を盾にしてでもあの親子を守ろうと勇気を出しているのだ。

 彼のトレーナーとして、その頑張りに報いられる様に全力を尽くさなければならないと、アキラは気合を入れる。

 

「あのエレブー、厄介だな」

「高値は付きそうだけど、今あの堅さはムカつく以外の何物でもないな」

 

 エレブーの打たれ強さを脅威と判断したのか、密猟者達のポケモンは再びエレブーに対して集中攻撃を始めた。先程よりも規模が大きい攻撃が迫るが、それでもエレブーは一歩も退こうとせずに見据える。

 

 これ以上痛い思いや怖い思いをしたくない。

 

 それがエレブーの偽らざる本心だ。

 今までどんなに褒められても意識がすぐに飛ばず、長く痛い思いを感じてしまうタフな自分の体が素直には喜べなかった。

 だけど、今日出会った親子のおかげでようやくその意義を見出せた。

 

 さっきは自分が避けたから、彼らは危険に晒され、あの子は泣いた。

 

 壁技は連続では使えない為、今敵の攻撃を一切後ろに通さない様にするには、アキラが言っていたこの頑丈な体でひたすら防ぎ続けるしか自分には術が無い。

 

 この打たれ強い体で誰かを守る。

 

 今でなくてもアキラや仲間達と一緒に過ごした二年の間に、それを見出す機会は幾らでもあったし、無意識にそれに近い行動もしていた。けど力を引き出す為に耐えることはしても、アキラを含めて皆自力で乗り切るので体を張って守る必要が無かったのと自らの臆病な性格、そういう指示であることを言い訳にずっと目を逸らしてきていた。たまにテレビでそういう展開が来るのを見る度に、その後の展開に慌てながらも自分がこういう役目を頼まれる時が来るとしたら絶対に嫌だと思っていたが、今は違う。

 今自分が置かれている状況だと、物語ではほぼ必ず盾になった者は倒れる流れではあったが、エレブーは絶対に倒れるつもりは無かった。

 

 恐怖や痛みに負けそうになる自身を鼓舞する様に”がまん”が解放された時の様な雄叫びを上げて、エレブーは襲い掛かる攻撃全てをその身一つで引き受ける。並みのポケモンなら既に戦闘不能になってもおかしくない程の激しい攻撃だったが、確固たる意志を抱いたでんげきポケモンは耐え続ける。

 

「ふざけた堅さだな!」

「こうなればデカイのをぶちかましてやる!」

 

 激しい攻撃でアキラは良く聞こえなかったが、埒が明かないと判断した密猟者はラフレシアに何かを命ずると、ラフレシアは巨大な花弁に光を集め始める。

 すぐにアキラはそれが”ソーラービーム”なのを察するが、思いの外チャージが早くてラフレシアは”ソーラービーム”を放ってきた。

 

「リュット”はかいこうせん”!」

 

 アキラの指示を受けて、持ち直したハクリューは”はかいこうせん”を放ち、他の二匹の攻撃を踏み止まって耐え続けるエレブーに迫る”ソーラービーム”に対抗する。

 バトルは更に激しさを増すが、今がチャンスとばかりにブーバーとゲンガーが駆けて行き、アキラも彼らの意図を正確に読み取る。

 

「スット、”あやしいひかり”! バーット……”ホネこんぼう”?」

 

 多少迷いながらもアキラは二匹に指示を出し、彼らもそれらを忠実に実行する。

 密猟者達は勿論、エレブーに攻撃を集中させていたフーディンとゴローニャも、突然仕掛けてきた二匹に対応できなかった。

 

 最初にゲンガーが放った”あやしいひかり”をまともに受けて、フーディンとゴローニャは”こんらん”状態によって無防備になる。その隙だらけの二匹をブーバーは、脳天や顔面に容赦なく手にした”ふといホネ”や自らの蹴りを叩き込んでノックアウトさせる。ハクリューの方も”はかいこうせん”で”ソーラービーム”を相殺した後、大技によくある反動をモノともせず続けて放った”れいとうビーム”でラフレシアを氷漬けにして仕留める。

 

「よし!」

 

 これで奴らが連れている手強い三匹は倒した。スピアーの方も、ヤドンが”ねんりき”を発揮したことで勝負は付いている。

 しかし、密猟者は三匹がやられたと見るや、すぐにボールに戻してラッタやベトベトンまでも出してきた。

 

「クソ、まだやるしかないか」

 

 自らの体を盾にして攻撃を防いできたエレブーの限界が近いので終わりにしたかったが、新たなポケモンの出現を見て、まだまだ戦いが続くことをアキラは悟る。

 純粋に盾に徹していたエレブーは、傷や痣だらけの姿でありながらもう一度構え直そうとするが、体の至る所が激しく痛んで片膝を付いてしまう。普段だったらここで気が抜ける事が多かったが、今回はそれは許されない。

 

 まだ戦いは終わっていない。

 

 あの子に不安を抱かせない為にも、自分は絶対に倒れる訳にはいかない。

 

 初めて抱いたであろう屈したくない意思を胸に、ボロボロの体を震わせながらエレブーは立ち上がるが、そんな彼を守る様にハクリュー達三匹が前に出る。

 後ろで手当てを受けている間に、彼が体を張って敵の攻撃を防いだりチャンスを作ってくれたのだから、アキラ同様にこれ以上余計な負担を掛けさせたくは無かった。物真似では無いが、今度は自分達が体を張ってでもエレブーを守ろうと決意を胸にしていた三匹は、新たな敵を前に構える。

 双方は様子見も兼ねた睨み合いを再び始め、周囲は再び静けさに包まれるが、それはすぐに破られた。

 

「何っ!?」

 

 何と何の前触れもなく、ラッタは牙を剥き出しに飛び出し、ベトベトンは口から大量のヘドロを吐き出したのだ。

 この時アキラ達は気付いていないが、既に彼らはアイコンタクトと呼ばれる高度な意思疎通技術で指示を受けていたのだ。

 完全に不意を突かれた為、防御が間に合わない。

 前線の三匹は正面から受け止めようとしたが、突然目の前の大地が盛り上がった。

 

「何だと!?」

「えっ!? なにこれ?」

 

 謎の現象にアキラと密猟者達は、驚きを露わにする。

 そして瞬く間に土が盛り上がったことで出来上がった壁によって、飛び掛かったラッタは弾かれ、ヘドロの濁流はせき止められる。

 誰もが目の前で起きたことが理解できなかったが、どこからともなくまるでリズム良く歌っている様な声が聞こえてきた。

 

「ん? これって…」

 

 密猟者達も気付いたのか、お互い聞こえてくる声がどこからするのか探し始める。

 近付いてきているのか徐々に声はハッキリと聞こえてくるが、すぐにその正体が姿を現した。

 盛り上がった土の周りから、ディグダとダグトリオの群れが歌う様に声を上げながら顔を突き出したのだ。

 

「げっ! さっきのディグダとダグトリオ!」

 

 アキラは一歩下がるが、それは密猟者の方も同じだった。

 彼らも追い回された経験があるのか、顔を青ざめて逃げようと反転するが、その先もディグダとダグトリオが頭を出していて逃げられなかった。

 

「おいどうするんだよ」

「か、囲まれた」

 

 出てきたディグダとダグトリオの群れはリズム良く声を出しながら、モグラ叩きの様に頭を地面から出したり引っ込めたりしながら密猟者の二人にジリジリと迫る。

 そして彼らは、同時に体を回す様に一回転すると”じわれ”を放つ。

 囲まれていた密猟者とそのポケモン達は、四方から放たれた”じわれ”に巻き込まれ、轟音と砂埃が晴れると完全に伸びた姿を晒していた。

 

「ありゃりゃ…」

 

 まさかの結末に、アキラと手持ち達は唖然とする。

 さっき彼らに追い掛けられていたのは、自分を密猟者の仲間と勘違いしたものなのだろう。

 その証拠と言えるかはわからないが、彼らは動けないエレブーやハクリュー達の足元から現れると、何故か胴上げの様な行動を始めたのだ。何が何だか訳が分からず、されるがままに胴上げされる四匹をアキラやサンドパンは呆然と眺めていたが、一匹のダグトリオが彼の前に現れた。

 

 追い掛け回されたこともあって一瞬身構えてしまったが、ダグトリオはバンギラスと向き合うと何やら会話を始める。

 

 一度暴れると地形を滅茶苦茶にして自然を破壊するバンギラス。

 土を耕して草木が育ちやすい自然を作るダグトリオ。

 

 基本情報を考えると相容れない関係に思えるが、目の前にいる二匹の様子を見ると、そんな事は無さそうな親しい関係であるのが窺えた。

 種は違っていても仲が良かったり協力したりする野生のポケモンは存在しているのだから、特におかしい訳では無いだろうと、眺めながらアキラは思う。ヨーギラスはダグトリオに興味を抱いている様子だったが、話が済んだもぐらポケモンはアキラの前まで進む。

 彼らを守ったことに感謝しているのか、頭を下げるとそのまま他の仲間達と共に土の中へと姿を消すのだった。

 

「まぁ取り敢えず……一件落着かな?」

 

 確認を取る様に呟くと、手持ちの六匹とバンギラスは同意する様に頷く。

 気になることはあったり予想外の出来事続きだが、無事に危機を乗り越えられたみたいだ。

 ではこの後、伸びている密猟者達の始末をどうするかにアキラは思考の比重を移そうとしたが。

 

「?」

 

 気が緩み掛ける直前だったので、再び何かを感じたアキラは周囲を見渡す。

 まだ何かあるのかと思ったが、しばらく警戒しても何も起きなかったので、何かを気の所為であると彼は片付けて警戒を解く。

 しかし、本当は気の所為では無く、明確に向けられた視線があるのに彼は気付いていなかった。




アキラ、エレブーが自らの長所の意義を見出し、野生のディグダ・ダグトリオ達が加勢したおかげで難を逃れる。

最初エレブーの頑丈設定は、手持ちに個性を付ける程度のつもりでしたが、先を考えたり話を進めている内に意図せず、どんどん当初の軽い気持ちから難しい形へと流れていってしまいました。
臆病な部分はたまに出ると思いますけど、今回の件はエレブーにとってはかなり大きい出来事になると思います。

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