SPECIALな冒険記   作:冴龍

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手持ちの可能性

「ッ! まだ痛むか…」

 

 まだ引かない痛みに、アキラは手に持っていた鉛筆を動かすのを一旦止めて表情を歪める。

 痛みの原因である片目に浮かんだ大きな痣。

 数日前にボールから出したオコリザルに付いて行くのか付いて行かないのか聞こうとした時、返事代わりに殴られたものだ。

 

 殴ると言う形ではあったが、オコリザルの返事は「アキラには付いて行かない」だった。幸いすぐにサンドパンが取り押さえてくれたお陰で、それ以上は痛め付けられずには済んだ。

 

 その後のやり取りで、取り敢えず一発だけでも殴れたのに満足したのか。オコリザルはマンキー達を連れて、アキラの元を去って行った。

 本当にこの世界にやって来てから痛い目に遭ってばかりだが、これで24時間神経を張り詰める必要が無くなったと考えれば、一回殴られる程度安いものだ。

 

 ちなみにグリーンとはバトルの途中だったが、思わぬ形で中断させられたので引き分けにすることで話は纏まった。流石にあんな風に横入りされた後で、続きをする気にはなれなかったのだ。

 オコリザルに殴られた事に関しては笑われたが、特に気にせず互いに持っていた道具でポケモン達を回復させて、それぞれの目的地へと向かうべく別れた。

 

「アキラ君」

 

 痛む片目を手で押さえながらアキラは振り返ると、すぐ後ろに彼の保護者であるヒラタ博士が立っていた。 

 今アキラは、クチバシティにあるこの世界での身元保証人である博士の自宅兼研究所で過ごしており、ここに辿り着くまでの疲れを取るべく体を休めていた。

 

 ここでの彼は博士の助手の様な立場なので、本当ならのんびりと休養を取る訳にはいかない。けれども片目に大きな痣が浮かんだ状態では気が引けるのか、まだ博士から手伝いは頼まれていなかった。

 

「調子はどうかね?」

「片目が痛む以外は結構疲れは取れてきました」

「そうか……何か書いておるのか?」

 

 ヒラタ博士はアキラの目の前に置かれているノートの様なものに興味を示す。

 少し書かれてはいるが、ノート自体はまだ真新しい新品だ。

 アキラは一旦ノートを閉じて、「手持ち記録ノート」とマジックペンで書かれた表紙を見せた。

 

「早速博士が勧めてくれたことを試しています」

 

 早速と言っているが、今やっていることを勧められたのは大分前だ。

 ニビ科学博物館に居た頃から、ヒラタ博士はミニリュウを手懐けるのに苦労していたアキラに観察日記の様なものを書くことを勧めていた。今日まで忙しかったのとやる気力が無かったのでやってこなかったが、ようやく落ち着いてきたので軽い気持ちで書き始めたのだ。

 

 初めは乗り気ではなかったのだが、ノートに記している内に次々と今まで思い付くことが無かったことが頭の中に浮かび上がり、自然と鉛筆を走らせる手が止まらなくなった。頭の中で考えるだけでなくこうして文字として書き残せば、後で忘れても思い出せるだけではない。思考の整理や今まで気付かなかったこと、彼らへの更なる理解などにも繋がることに、アキラは博士がノートに書くのを勧めた理由を理解した。

 

 有用と分かれば活用しない手は無い。

 ノートには連れているポケモン達についてわかったこと以外にも、今後の育成方針と観察して気付いたことや必要と感じたことも書き残していくつもりだ。ただ、後から自分が見てもわかるなら良いが、まだ書き始めたばかりなので書き方や纏め方は酷かった。なのでより良くノートを上手く書き纏めるコツは無いのか尋ねようとした時、二人の近くに小さな男の子が寄ってきた。

 

「おじいちゃん、今遊べる?」

 

 この場合指している「おじいちゃん」とはヒラタ博士のことだ。

 この自宅兼研究所で博士は、目の前に立っている孫とこの子の親である息子夫婦と一緒に暮らしている。部外者である自分が余所の家で寛いで良いものかとアキラは最初戸惑ったが、別に構わないどころか逆に歓迎された。

 どうやらこの世界は旅に出る人が多いのが関係しているのか、人助けを義務まではいかなくても当然の事と考えている節があるらしい。勿論お世話になる分、軽い家事などの手伝いをアキラはしている。

 

「すまん。おじいちゃんはやることがあるんじゃ」

 

 申し訳なさそうにそう告げると、ヒラタ博士は研究室ならぬ仕事部屋へと戻って行く。

 祖父がいなくなったのを見届けると、博士の孫は残念そうに顔を俯かせる。

 まだやって来て間もないので、アキラには彼との接点はあまり無い。だけどあまりにも落ち込んでいるので、自分が代わりに相手してあげることを伝えようとした直後、しょんぼりとしていた彼の肩を叩く存在が現れた。

 

 アキラが連れているゲンガーだ。

 ゲンガーは落ち込んでいる孫に、軽快な音楽が流れているテレビを指差す。

 すると彼はさっきまでの暗い空気を振り払うと、ゲンガーと一緒にドタバタと音を立てながらテレビの前に駆け付ける。テレビの前には他のアキラの手持ち達も陣取っていたが、喧嘩はせず皆公平に楽しめる様に見る位置を調節していた。

 

「あいつら、すっかりエンジョイしているな」

 

 今アキラの手持ちは、家の外に出たり暴れたりしないことを条件に自由に過ごしている。

 始めは皆バラバラに過ごしていたが、見ての通り博士の孫がよく見る戦隊ものなどのテレビ番組に興味を示し始めて、今では揃って一緒に録画を見る程にハマっていた。

 ゲンガーやエレブーがこういうものに興味を示すのは何となく予想出来たが、まさかブーバーやミニリュウも興味を示すとは思っていなかった。時折彼らが番組の真似らしき動きをしているのを見掛けたこともあった。彼らを惹くものがあるらしい。

 

 アキラも今後の為にヒントを得るべく一緒に見たことはあるが、意外と楽しめたくらいで結局有益な何かを得ることはできなかった。ただ今の様に普段は見られない他者を思いやったり、協調性などが見られる様になったことから、良い影響を与えているのは何となくわかる。

 

「静かにしないとな」

 

 今流れている話は、録画されているのではなく今週初めて放送される内容だ。

 一応後で見れる様に録画はされているが、テレビに座っている彼らは初めて見る話だからなのか真剣な目付きだ。またアキラは一人になったが、集中したかったこともあるので今の状況は逆に好都合だ。

 手を止めていたノートの続きを書くのに、彼は取り掛かる。

 

 頭の中では理解できたり浮かべることは出来ても、それを文字として記すのは意外にも難しい。

 平仮名だらけなのも面倒だから、書けない漢字が出てきたら素直に用意した辞書で調べる。

 取り敢えず今は丁寧に書こうとせずに大雑把でもいいから少しずつ、自分の頭の中にある内容を文字として、アキラはノートに記していく。

 

 リュット 公式名ミニリュウ

 タイプ ドラゴンタイプ

 出会った場所 トキワの森

 今のレベル31

 覚えている技 れいとうビーム、たたきつける、こうそくいどう、はかいこうせん、まきつく、でんじは、りゅうのいかり

 性格と特徴

 かなり怒りっぽく好戦的。

 最初は信用されていなかったが、最近は言うことを聞かずに勝手に動いたりする場面は減ってはいる。だけどそれでもまだまだ多い。

 覚えている技は連れているポケモンの中でも豊富な方で、レベルの高さとタフな面も合わさって手持ちの中では一番強い。

 特に”こうそくいどう”で勢いを付けた”たたきつける”は強力。

 

 最初にアキラは、この世界で初めて手にしたポケモンであるミニリュウについて軽く纏めた。

 手持ちに加えた当初は、言う事を聞いてくれないどころか逆に襲ってくるなど散々振り回されてきたものだ。だけどそう言った経験を積んだおかげで、今は多少のトラブルには上手く対応出来る様になれた気はする。

 何より手持ちだけでなく、自分も彼らを率いるのに相応しいトレーナーに変わる必要があることに気付く切っ掛けを作ってくれた存在でもある。

 

 覚えている技がゲームで可能とされる4つを大きく上回っているが、多くの技が使えるのはそれだけ戦いの幅を広く出来ることにも繋がる為、もっと覚えられる可能性はある。

 レベルに関して「今」と書いてはいるが、数日前のカスミの屋敷でレッドのポケモン図鑑を通じての数値だ。なので、今はもうちょっと上がっているかもしれない。レベルが30を超えているのにハクリューに進化しないのは気になるが、多分標準的なレベルで個体によって微妙に違いがあるのだろう。

 

「カイリューに進化するのは時間が掛かりそうだな」

 

 今の時代ドラゴンタイプは、()()()()三種しか確認されていない扱いの希少種だ。

 その為、他のタイプとは異なり専門の育成本や一般向けに詳細な内容を纏めた本は殆ど無い。

 ジムリーダーでありハナダシティ有数の家柄であるカスミの屋敷でも写真付きでの軽い解説本しか置かれていなかったのだから、ミニリュウの育成に関してはしばらく手探りが続くだろう。

 ついでに憶えている限りのミニリュウの各能力をレーダーチャートで記して内容を一通り見直すが、我ながら随分と雑な纏め方だ。その内に改善されるだろうと前向きに考えて、彼は次のポケモンについて記した。

 

 スット 公式名ゲンガー

 タイプ ゴースト・どくタイプ

 出会った場所 ニビ科学博物館

 今のレベル26

 覚えている技 したでなめる、ナイトヘッド、あやしいひかり、サイコキネシス

 性格と特徴

 自分がイメージしていた通りのイタズラ好きで、事あるごとにイタズラを企んでいる。

 ミニリュウと同じくらいこちらの指示を度々無視するが、自分で戦い方を組み立てたり攻撃技以外の技も上手く使いこなすなど頭が良いところもある。

 ただし調子に乗りやすく。油断する場面が多い。

 

 次に書いたのは、譲られる形ではあったが実質二番目に手持ちに加わったゲンガーだ。

 ミニリュウ同様にゴースの時から色々やられたものだが、そう言った経験が自分を成長させる糧になっているのだから、人生何があるのかわからないものだ。

 手持ちの中で唯一の最終進化形態なだけあって能力は非常に高いが、特筆すべきは頭の回転が良いことだ。覚えている技はいずれも破壊力に乏しいが、相手を状態異常にさせるものが多く、それらを最大限に活かすべく機転を利かせることでパワー不足を補っている。

 

 問題は調子に乗りやすく、油断して一発貰いやすいことだ。

 能力的にも打たれ弱いのでここを改善できれば、長く戦うことが出来るはずだとアキラは見込んでいる。

 

「もうちょっと冷静になって欲しいものだな」

 

 トレーナーの指示が無くても本能的に戦うのではなく、自分で考えてバトルの流れを組み立てて戦うことが出来るのだ。

 その辺りは、他のポケモンとは一線を画している。

 だけど人間顔負けの知能があることが、調子に乗りやすい原因かもしれない。

 番組の展開に盛り上がっているゲンガーを含めた他の手持ちの様子を窺うと、彼は続きを書く。

 

 サンット 公式名サンドパン

 タイプ じめんタイプ

 出会った場所 トキワの森

 今のレベル19(進化したから22以上かも)

 覚えている技 ひっかく、すなかけ、ものまね、きりさく、どくばり

 性格と特徴

 優しく素直でとても面倒見が良い。

 ”ものまね”を使うことで、技のバリエーションの少なさをある程度カバーすることが出来る様になった。

 サンドの時は使える技の数、能力が手持ちの中では一番低かったが、進化したことで大幅に強化されたと思われる。

 同時に新しい技を幾つか使える様になったので、近々詳しく見る予定。

 

 三匹目は最近進化したサンドパンについてだ。

 身の丈に合わない高いレベルと性格に難がある手持ちばかりであったアキラにとって、素直に言うことを聞いてくれるだけでなく度々自分の力になろうとしてくれるサンドパンの存在はとても有り難かった。

 バトルの実力に関してはサンドの時は力不足な場面が目立っていたが、マンキーの群れを相手に無双したことから、サンドパンに進化したことで飛躍的に強くなったのが推測される。

 

 レベルは前述の二匹と同じくサンドの時に確認したものだが、サンドパンに進化した今はもう少し上がっている筈である。”きりさく”などの強力な技に、カスミに覚えさせて貰った”ものまね”を上手く使いこなせば、更に伸びる余地が十分にある。

 ポケモン図鑑などのハイテク機械無しでは、どれだけ能力が向上したかは感覚的に感じ取るしかないが、これで手持ちに加えてからの課題は解消されたと見て良いだろう。

 

「本当に…本当に良かった」

 

 日々の努力が報われたのを自分の事の様に嬉しく思いながら、アキラは手持ちの四匹目について纏め始めた。

 

 エレット 公式名エレブー

 タイプ でんきタイプ

 出会った場所 おつきみ山近く

 今のレベル20

 覚えている技 でんきショック、かみなりパンチ、でんこうせっか、がまん

 性格と特徴

 イメージに反してかなり臆病。

 有している能力は高いはずだが、戦う相手が怖い顔だとレベルに関係なく怖がって実力を十分に活かせない。

 何故かすごく打たれ強く、それを生かした”がまん”のコンボは非常に強力。後、目を離すとトラブルの元を引き寄せてくるので要注意。

 

 四匹目は、最近色々な意味で頭を悩ませているエレブーの事を書いた。

 言うことは聞いてくれるには聞いてくれるのだが、すぐに忘れられることが多い。

 しかも目を離せばトラブルを引き寄せてくる以外にも、おっちょこちょいな面もあるので視界の範囲に居ても危なっかしい。

 

 バトルする相手次第ではあるが、秘められたポテンシャルをフルに発揮した時の実力は、今アキラが連れているポケモンの中では最強と言っても過言ではない。

 止められる場面はあるが、今のところ”がまん”解放中のエレブーの猛攻に耐える、逆に返り討ちにする場面には遭遇していない。ゲームでは全くと言って良いほど使い道が無かった”がまん”だが、まさか発揮すれば確実に相手を仕留める最強の技になるとはアキラは思いもよらなかった。

 問題は痛い目に遭いたくない臆病な性格なのに、痛い思いをしないと力を発揮できない矛盾だ。

 

「如何にかしたいけど、どうすれば良いんだろう」

 

 出来れば負担を軽くしてやりたいが、残念ながら今のアキラには解決する為の妙案は無かった。

 思わず溜息をついてしまうが、大分先になると思っていたサンドの力不足が意外にも早く解消されたのだ。この問題もその内解決するだろう。

 

「さて、最後はっと」

 

 バーット 公式名ブーバー

 タイプ ほのおタイプ

 出会った場所 ハナダシティのカスミの屋敷近く

 今のレベル23

 覚えている技 かえんほうしゃ、ほのおのパンチ、あやしいひかり、えんまく、テレポート

 性格と特徴

 野生の時は怒ったり余裕そうな表情を浮かべたりと感情が豊かで頭も働いていたが、現在はバトルをする時以外、静かに過ごしている。

 捕まえた時とグリーンとの戦いを見る限りでは、それなりに強いのは考えられるが詳しいことをまだわからない。

 何故か”テレポート"を覚えている他、何時も腕を組んでいたり目付きが悪い。

 

 最近手持ちに加わったブーバーについて、アキラは今の段階で分かっている限りのことをノートに書くが、結構わかっていないことが多かった。

 オコリザル同様に襲撃を止めさせる為に捕獲したが、付いて来る意思があるにも関わらず、何故かこちらの言う事にはあまり耳を傾けてくれない。同じ言うことを聞かないミニリュウやゲンガーでも、何日も一緒に居ればどういう性格をしているかはある程度は把握できた。しかし、ブーバーは寡黙過ぎて理解する為の情報が圧倒的に少なかった。

 

 現時点でわかっていることは強いのは勿論、野生の時はゲンガーの様に知恵を働かせていたことから頭が良いこと、何故か”テレポート”を覚えていることだ。本来のレベルアップでは覚えない技を手持ちに加えた時点で覚えているのは、ミニリュウとエレブーの例はあるが、ブーバーの”テレポート”は一体どこで覚えたのか全く想像できなかった。

 

 一応”テレポート”を覚えることができるわざマシンはこの時代に存在しているが、だからと言ってブーバーがわざマシンを使って覚えたという確証は無いので、あくまで可能性だ。

 

 ”テレポート”は、その名の通り戦闘から離脱する技だ。

 つまりゲンガーがゴーストだった時に、音も無くその場から立ち去る事が出来たカラクリは、この技によるものだ。使えば容易に戦闘状態から離脱できるので、もしブーバーが言うことを聞いてくれていたらオコリザル達から逃げるのに苦労はしなかったのではと思ってしまうが、済んでしまったことは仕方無い。

 今は他の手持ちの様にブーバーは何を考えていて、どういう性格なのかを知る方が優先だ。

 

「纏めて気付いたけど、綺麗に分かれているな」

 

 軽く手持ちの事を一通り纏めたアキラは、自分が連れているポケモンの特徴を改めて確認する。

 まずサンドパン以外の手持ちは、能力が高い代わりに何かしらの問題点を抱えている。

 いや、この場合は自分がまだ未熟だからそう見えるだけだろう。

 今は手を焼く程度で済んでいるが、しっかり改善しなければ今後命取りになる可能性が高い。

 

 今は五匹だが、手持ちの傾向は素直に言うことを聞いてくれるのがサンドパンとエレブーの二匹、その時の機嫌次第だが基本的にあまり聞いてくれないミニリュウにゲンガー、ブーバーの三匹に分かれている。

 最後に迎える六匹目が、どういうポケモンになるのかはまだわからない。

 だけど、前者の二匹の様なポケモンを迎えることが出来れば、凄く助かるのは間違いない。

 

「そんな!」

 

 六匹目について考えていたら、博士の孫とアキラのポケモン達が信じられない様な声を上げた。

 遠目で見てみると戦隊ヒーロー定番の巨大ロボが、新必殺技で敵怪人に止めを刺したと思いきや健在だった上に、飛び散った体の一部から新しい怪人が誕生して二対一に追い込まれていた。

 逆転と思いきやまさかの絶望的な展開に、見ていた孫とアキラのポケモン達は唖然としていた。

 

 アキラも興味を抱いてちょっと見るが、二体の怪人に痛め付けられて機体の至る所から火花を散らしながら、巨大ロボが倒される場面で続きは次回に持ち越された。物凄く続きが気になる終わり方で、しかも次回予告は逆転を匂わせつつもかなり不穏な終わり方だった。予告が終わった途端、孫を含めて見ていたアキラの手持ち達はお通夜みたいな雰囲気に変わる。

 彼らの様子から、相当あの番組にのめり込んでいるのが手に取る様にわかる。

 

「――さてと続き続き~」

 

 重苦しい空気に耐え切れなくなったアキラは、棒読みな声を出しながら取り敢えずノートの続きを書くことで忘れようとする。

 

 話を戻して、アキラが六匹目に考えているのはみずタイプだ。

 今の手持ちのバランスでは、じめんタイプやいわタイプには不利だ。ならばくさタイプでも同じだが、くさタイプは弱点が多い。それにみずタイプなら水の中を自在に動けるし、旅の上で必須とも言える水上移動、所謂”なみのり”ができる。

 

 この点をアキラは()()()()()()も含めて重視していた。

 一応ミニリュウも水の中でも活動出来るが、ここは本職の方が良いだろう。

 走り書きではあるが、手持ちに加えたいみずタイプのポケモンの名前をメモ程度で記す。

 

 ラプラス、カメックス、スターミー

 

 思い付いた順ではあるが、真っ先に浮かんだポケモン程アキラにとって手持ちに加えたいと考えているみずタイプだ。名前だけでなく、憶えている限りで三匹の能力をわかりやすくレーダーチャートで描く。

 

「…やっぱりラプラスだよな」

 

 最初に浮かんだラプラスは、覚える技も豊富で能力も高く彼もゲームで愛用していた。

 この世界に来てから読んできた本の内容を見る限りでは、人間の言葉を理解出来るほどの知能を有するだけでなく、人懐こく温厚な性格している個体が多い。

 正に今のアキラにとって理想的なポケモンだ。

 

 しかし、問題は生息地の殆どが不明なことだ。

 と言うのも過去に人間が絶滅寸前にまで追い込んだ所為で数が激減して、ミニリュウ以上の希少種となっており、密猟者から守る為にその多くは一般には知られない様にされている。

 僅かに一般に知られている生息地も当然保護地区扱いで、そこにいるラプラスを捕まえようものなら即警察のお世話になる。一般的なトレーナーが手にするには、極稀に保護地区以外で出現する個体を”保護”名目で捕獲するなど入手方法は限られている。

 

 ゲームでの知識が通じるかはわからないが、一応アキラは保護地区では無いと思われるラプラスがいる場所は知ってはいる。

 しかし、そこまで行く手段が今は無い。

 可能性は無いとは言えないが、現状はあらゆる要素全てが運任せになるので残念ながら手持ちに加えるのは現実的ではない。

 

「カメックスも悪く無いんだけどな」

 

 次に浮かんだカメックスは、性格の面を除けば加えたい理由はラプラスとほぼ同じだ。

 後に出てくるブルーの手持ちと被ってしまうが、この際被ってしまうなど言っていられない。

 

 能力は防御寄りではあるが、バランスや覚える技も悪くなく、体格的にラプラスよりはバトルの時の指示は出しやすいだろう。

 ところが、ここでも生息地不明の壁が立ちはだかる。

 ラプラスの様に隠されている訳では無いが、明確な生息地が未だに不明なのだ。余計なところまでゲームの設定が反映されているらしく、ゼニガメやカメールも同じなので、このカメックス系統を探すのも運任せと言っていいだろう。

 

「――消去法になるが、スターミーくらいか…」

 

 最初に浮かんだ二匹はいずれも生息地が不明で探しようがないが、三匹目に浮かんだスターミーにはこの問題は無い。ハナダシティで過ごしている間にカスミが連れていたのを見ていたが、良く考えてみればスターミーも十分に魅力的だ。

 

 基本能力値は二匹と比べても攻撃的な方で、覚える技の範囲もラプラスと重なる部分も多い。

 進化前のヒトデマンはセキチクシティ付近の海岸に生息しているのが、この世界では広く知られている。場所はちょっと遠いが、それでもラプラスやカメックスなどと比べれば現実的だ。

 

 問題は無機質な印象が強く、表情が読みにくく接するのに苦労しそうなこと、変わった体をしているので指示が出しにくそうな点だ。進化させるのに”みずのいし”が必要な点も厄介で、これに関しては入手方法が未だ不明なので道中で偶然見つけるくらいしかない。

 

「他にはギャラドスにゴルダック、ヤドランにパルシェン――」

 

 ここまで記したアキラは、突然溜息を吐きながら机にうつ伏せになった。

 

 今思い付いたポケモン達は、全てカントー地方のポケモンだ。

 本当ならジョウトやホウエン、シンオウにイッシュもアキラは知っているのでそこのポケモンも候補に加えたい。しかし、残念なことにそれらのポケモンはカントー地方に生息していないどころか殆ど知られていない。

 研究者であるヒラタ博士でも、オーキド博士が発表した150種以外のポケモンがいるのではないかと考えているがそこまでだ。徐々に考えが上手く纏まらなくなったので、アキラは頭に浮かんだことをノートに淡々と書きながら簡単に整理する。

 

 前々から思っていたことだが、何故ポケモンは年を追うごとに新種が確認されて数が増えているのか。それは新しく出現しているのではなく、元々いたのに知られていなかっただけなのかもしれないとアキラは最近考える様になっていた。

 漠然と何十種類いるのかは知られていたが、身近過ぎて皆知っていて当然の空気があったのかもしれない。そこにオーキド博士がポケモンは150種と正式に発表したことで、初めて身近なポケモンに150種に該当しない種類がいることがわかって新しく加えられた。そんなことが連鎖的に広がったのだろう。

 

 でなければシルバーやルビーが、幼い頃からジョウトやホウエンのポケモンと一緒にいる説明がつかない。

 だが他地方のポケモンを欲しても、現時点では如何にもならない。仕方なくアキラは、カントー地方内に範囲を絞って他のみずタイプ候補について考える。

 

「ギャラドスは凶暴過ぎるから論外。ゴルダックはイマイチインパクトに欠ける。ヤドランは鈍足過ぎるし、パルシェンに至ってはゲームでも使ったことないからわからないな」

 

 他にもみずタイプのポケモンはいるが、ゲームでは捕まえるだけで使ったことは無い。

 ポケモンの中でもみずタイプは種類が豊富だが、いざ手持ちに加えるのを選ぼうとすると、どこか妥協せざるを得ない。あまり”これ”と言えるみずタイプの候補が三匹以外にいなく、アキラは図鑑所有者で最初からみずタイプを手にしていた面々は運が良いとさえ思えてきた。

 

 今はこうして問題しか浮かばないが、捕らぬ狸の皮算用だ。エレブーやブーバーの様に、手持ちに加える気は無かったが予想以上に良かったこともある。贅沢言わずに、みずタイプを見つけたら真っ先に捕まえに行くくらいの心構えで今後を過ごした方が良いかもしれない。

 

 一通りノートに書き込み、一息つきながらアキラは鉛筆を置く。

 その時だった。

 背後から気配を感じて振り返ると、ヒラタ博士の孫とゲンガーにエレブー、ブーバーが何故か立っていた。さっきまでの暗い様子は無く、何故か皆真剣な目付きだった。

 

 どうしたのかと尋ねようとした時、突然立っていた面々はさっきまで見ていた戦隊ヒーローの名乗りを上げながら登場ポーズらしきものを決めるのだった。

 あまりに突然過ぎる出来事にアキラの頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされたが、ミニリュウとサンドパンがさっき放送していたのとは別の回を視聴している姿を見たことで、目の前の状況を理解することが出来た。

 

 どうやら録画していた別の回を見て、さっきまでの絶望感を忘れて戦隊ごっこをやりたくなったのだろう。見る限りではレッドポジションはブーバー、イエローポジションはエレブー、ブラックポジションはゲンガーと綺麗に分かれている。

 

 子どもならレッドポジションになりたがるものだが、見栄えを重視したのか孫はブルーポジションに収まっていた。ここまで見て、彼はピンクポジションがいないのに気付いた。戦隊ヒーローは基本五人構成なのだが、ポーズを決めたのは一人と三匹。サンドパンとミニリュウはテレビを見ることに夢中になっているからなのか加わっている様子は見られないが――

 

「やいお前! ピンクを返せ!」

「へ?」

 

 孫の唐突な台詞に、アキラは困惑するが徐々に理解が進む。

 恐らくピンクがいないのは、連れ去られたというシチュエーションなのだろう。意図を理解し、咳払いをして悪役風に返事をしようとした時、彼は自分のポケモン達の異様な雰囲気に気付いた。

 皆それぞれ戦隊ヒーローに成り切っているのか、バトルをする時でも殆ど見ない真剣な目付きをしている。

 

 物凄く嫌な予感がする。

 

 冷や汗が流れるのを感じて、急遽アキラは静かにさり気なくその場から退散しようとした。

 

「逃げるぞ!」

 

 孫の言葉に、ゲンガーは真っ先に反応してアキラに飛び掛かってきた。

 

「ちょっと待てちょっと待て!! お前らが本気になると洒落にならない!」

 

 何とか避けるが、今度はブーバーがテレビでレッドが使っていた武器のオモチャを構えて立ち塞がった。

 こういう時だけ本気でやるな!と思わず言いたくなったが、変にノリノリの彼らを刺激するとどうなるかわからない。エレブーは構えたままの姿勢だが、やる気満々な二匹と違い今の状況がわかるのか苦笑いを浮かべていた。

 

 助けは期待出来そうに無い。

 ブーバーの攻撃を避けると、アキラはすぐに彼らの包囲網から離れる。

 

「あれ? あの子俺よりもあいつらのことを手懐けてない?」

 

 そんなことが頭を過ぎったが、すっかり戦隊ごっこに夢中になって追い掛けてくる二匹からアキラはとにかく逃げるのだった。




アキラ、博士と合流して休みながら自身の置かれている現状を整理。
手持ちのポケモン、一部がテレビの影響を大いに受ける(ここ重要)

今回は各手持ちの設定説明を組み込みながら、色々と後に繋がる要素を散りばめたつもりです(所謂総集編回です)
後付けだとしてもポケモン世界では、新種のポケモンはどういう感じで発見されているんだろうと思いながら個人的な考えも書きました。
地元じゃありふれた種が、実は新種だったって流れは実際にあるみたいです。

作中で描いた戦隊の展開、知っている人がいたら嬉しいです。

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