SPECIALな冒険記   作:冴龍

18 / 147
無謀な挑戦

「なんだ? 人の顔を見て固まって、何かあるのか?」

 

 さっきから自分の顔をジロジロ見てくるアキラに、グリーンは不愉快そうに聞いてきたのを機に彼はハッとした。まさかこんなところでレッドと肩を並べる存在である彼と会うとは微塵も思っていなかったので、思わず唖然としてしまっていた。

 

「すみません。見覚えのある顔であったもので」

「見覚え?」

 

 彼の言葉を疑うグリーンは、どこかで面識があったのかを思い出そうとするが、すぐにアキラが何者なのかや自分を知った理由を察した。

 

「――思い出したお前はニビジムでミニリュウを使っていた奴か」

「あれ? 俺を知っているの?」

「あんなバトルを目にすれば嫌でも覚える」

 

 小馬鹿にしたような口調に、アキラは内心溜息を吐く。

 グリーンの様子から察するに、第三者から見てもあのジム戦は相当酷かったのが容易に想像できるが否定できない。言い返そうにも未だに全然ミニリュウ達を手懐けていないのだから、やるだけ惨めだ。

 

「ポケモントレーナーならちゃんと手懐けろ」

「そうしたいのは山々だけど、どうも手持ちに加える前から人間不信みたいでまだまだ時間が掛かりそうでね」

「――野生とほとんど変わらないな。それでもトレーナーか?」

「こっちにも事情がありますので」

 

 口で言うのは簡単だが、実際に手懐けようとしてもすぐに如何にかするのは無理だ。

 アキラの中でグリーンは冷静で大人びた印象のイメージが強いが、初期のグリーンはここまで嫌な奴だったのかという疑問が浮かんだが、腰のボールに入っているミニリュウがざわめき始めた。

 カスミがくれた少し変わったベルトのおかげで勝手にボールを転がして飛び出すことは減ったが、このままグリーンと話しても何の益にもならないし精神衛生上良く無さそうだ。

 

 エレブーは理解していなかったが、サンドはグリーンの言葉の意味がわかっているのか目を細めていたので、アキラは早々にこの場から退散しようとする。しかし、ボールに入っている面々が一斉に強くボールを揺らして激しく自己主張をし始めた。

 

 ボールを揺らしているのは手持ちの中でも好戦的な面々なので、気にせずこのまま無暗に戦わずスルーした方が良い。次のクチバシティまでの距離がわからないだけでなく、オコリザルの問題も解決していないのだから消耗は避けるべきだ。それにカスミには何とか勝てたが、レッドには一度も勝てたことは無い。

 

 その事を考えると、彼と同等以上の実力があるグリーンに挑んでも勝算の見込みは薄い。

 加えてこちらから勝負を仕掛けておきながら、手持ちの何時もの悪癖が出たら今の彼にバカにされるのは目に見える。後こっちからバトルを挑んで負けてしまったら、いくらか賞金を払わなければならないのも躊躇う要因だった。

 

 もう一度アキラは、さっきからボールを揺らして自己主張をしている手持ちと外に出ている二匹の様子を窺う。

 サンドは意図を理解したのか腕に力瘤を作る様な仕草を見せると、よくわかっていない様子のエレブーも同意する様に首を縦に小刻みに振る。どうやら差はあれど、皆やる気満々だ。

 

「――本当に頭が痛い問題だ」

 

 財布を取り出して中身を確認すると、アキラはグリーンに振り返る。

 今から自分がやろうとしていることに、少し無謀なものを感じながらではあったが。

 

「試しにバトルでもしない? 色々と気難しいのが多いけど、ジムリーダーを負かしてバッジも手に入れられるくらい強いよ」

 

 細やかに挑発する様に手にしているバッジが入ったケースを見せ付けると、彼の提案にグリーンは興味を示した。

 

「バトルか……俺も最近誰ともバトルしていなかったし、腕試しには丁度いいか」

 

 不敵な笑みを浮かべて、グリーンは彼のポケモンバトルの申し出を受け入れる。

 

 これでもう後戻りはできない。

 

 こちら側から仕掛けたのだから、負ければ少ない財布の中身のいくらかを渡さないといけない。だけどもし勝つことが出来れば、賞金が手に入る可能性だけでなく大いに自信が付く。

 カスミの屋敷でレッド達と一緒に特訓をした日々を思い出しながら、アキラはエレブーとサンドをボールに戻して彼と距離を取る。

 

「使用ポケモンは何匹にする? お前の好きな数で来な」

「五匹で、まだそれだけしか揃えていないから」

「いいぜ。俺も五匹だから実質フルバトルだな」

 

 お互いモンスターボールを手にして、それぞれの一番手を決める。

 

「言い忘れていたが、俺はマサラタウンのグリーンだ。お前の名は?」

「――アキラだ」

 

 大声で名を聞いてくるグリーンに、アキラも大声で自身の名を伝える。

 そしてそれから少し間を置いてから、二人は同時にボールを投げた。

 バトル開始だ。

 

「いけスット!!」

「ゴルダック!」

 

 アキラはゲンガー、グリーンはゴルダックをそれぞれ戦いの流れを掴むための一番手として繰り出し、飛び出した二匹は対峙する。

 

「スット、”ナイトヘッド”だ!」

 

 先手必勝と言わんばかりに、彼はすぐにゲンガーの得意技である”ナイトヘッド”を命ずる。

 が、ゲンガーは少しも動かず立ち呆けていた。

 

「――あれ? どうしたのスット?」

 

 気が抜けたアキラはゲンガーの様子を窺おうとするが、その前にゲンガーは片方の手を鼻らしき部分に突っ込みながら振り返り、もう片方の手を振って彼にタンマの合図を送る。

 どうやら鼻をほじくり終えるまで待って欲しいらしい。

 予想していなかったゲンガーの行動にアキラは思わずズッコケ、グリーンは露骨に呆れる。

 

「変わってないどころか余計に悪化しているじゃねえか」

 

 意気揚々とこちらから挑んでおきながら、この体たらくにアキラは肩を落とす。

 手持ちでは一番素早いのと多彩な技を覚えているが故にゲンガーを一番手に出したが、まさか初見の相手でもここまで気が抜けているとは思っていなかった。

 

「まあいい。――よく見てろポケモントレーナーってのはこういうものだ」

 

 グリーンはアキラに格の違いを見せ付けるべく意気込むと、ゴルダックは額にある宝玉の様なものを輝かせ始めた。何かを仕掛けられるのにゲンガーは気付いていたが、距離があったため油断していたのか、目に見えない衝撃波を受けて吹き飛ばされてしまった。

 

 すぐにアキラはゴルダックが放った技が、エスパータイプの技であるのを察して息をのむ。どくタイプを有しているゲンガーにとって、エスパータイプの技は相性が悪い。ましてや相手はグリーンのゴルダックなのだから、威力も相当なものだ。

 吹き飛んだゲンガーはゴム玉のように何度も草むらを跳ねて、かなり離れた距離で止まったが、うつ伏せで倒れているのに微動だにしなかった。

 

「まずは一匹」

「……はぁ…」

 

 瞬殺されてしまったゲンガーに、恐れていた事態になってしまったことに彼は溜息をつくと同時にもっとしっかりと指導すれば良かったと後悔する。

 ところがボールに戻すべく駆け寄ると、大分痛そうな表情を浮かべながらもゲンガーは起き上がった。

 

「スット大丈夫か? まだ戦えるかもしれないけどお前にゴルダックは分が悪い。一旦ボールに戻ろう」

 

 みずタイプであるゴルダックと相性の良いでんきタイプのエレブーが入ったボールをちらつかせるが、ゲンガーは戻ることを拒否して再びゴルダックの前に立った。

 グリーンはゲンガーの動きに注視するが、何の予兆も見せずにシャドーポケモンは仕返しに”サイコキネシス”を放ち、さっきの己の様にゴルダックを吹き飛ばした。ゴム玉の様に跳ねはしなかったが、草の上を転げたゴルダックはすぐに立ち直るも、視線の先にゲンガーの姿は無かった。

 

「上だゴルダック!」

 

 グリーンはゴルダックに呼び掛けるが、上を向いた時点でゲンガーはゴルダックの頭を飛び越えていた。無防備な後ろに回り込み、至近距離で”ナイトヘッド”を背中に食らわせる。どうやら鼻をほじくるのを邪魔されたのに腹を立てているらしく、追撃を仕掛けるなど容赦しなかった。

 

「実力はあるんだけどな…」

 

 自分勝手な行動であるにも関わらずゴルダックを押しているゲンガーの姿に、アキラは自身のトレーナーとしてのレベルの低さを改めて実感する。

 今指示を出しても素直に聞いてくれる可能性は低いので、取り敢えず黙って様子を窺いながらゲンガーを調子に乗らせる方を優先させた。

 

「”ねんりき”で動きを封じろ!」

 

 事態を打開すべく、グリーンはよろめくゴルダックに先程ゲンガーを吹き飛ばした”ねんりき”を命ずるが、念じる前にゲンガーの飛び蹴りを顔に受けて集中を乱された。更に”したでなめる”を受けて後ろに倒れ込んだゴルダックに、馬乗りになって顔を殴り付けるなど攻撃の手を緩めない。

 このまま一方的な展開になると思いきや、咄嗟の”みずでっぽう”の噴射でゲンガーは高々と打ち上げられた。

 

「決めるんだゴルダック!!」

 

 倒れたままではあるがゴルダックは集中力を高めて”ねんりき”を発揮すると、ゲンガーの体を念の力で何度も地面に叩き付けた。ゲンガーは抵抗を試みるが、手足をジタバタさせても宙を振るだけで、他の技を出そうにも地面に叩き付けられる所為で集中出来ない。何度も叩き付けられたことで最終的にゲンガーは耐え切れなくなって力尽き、ボロ雑巾のように放り投げられた。

 

「――手こずらせやがって」

 

 予想外の抵抗にグリーンは苛立ちを口にする。

 表情には出していないが、さっきゲンガーの一方的な展開になった時、内心では焦っていた。よく考えればアキラは個数は不明だが、ジムバッジを所持しているにも関わらず、未だに今戦ったゲンガーなどの手持ちポケモンの何匹かを従えられていない。

 

 初めは彼に負けたジムリーダーのレベルが低いだけだと思っていたが、彼や戦ったジムリーダーのトレーナーとしてのレベルが低いのでは無くて、連れているポケモン達が強過ぎてトレーナーに求めているレベルが高過ぎるという可能性がある。そう考えれば、この不釣り合いな強さもある意味納得だ。

 

「戻ってくれスット」

 

 ゲンガーをボールに戻して、アキラは溜息を吐く。

 一体どうすれば、彼らは素直に従ってくれるようになるのか。未だにトレーナーとしては、ダメダメな自分自身に彼は頭が痛かった。

 だけど今はバトル中だ。悩みを頭の片隅に置き、相手がゴルダックなのを考えてアキラは次のポケモンを出す。

 

「出番だぞエレット」

 

 繰り出したのは、みずタイプのゴルダックに有利なでんきタイプであるエレブーだ。

 バトルの為に出たことに気付いたのか、エレブーは少し体を強張らせる。カスミの指導のおかげで、相手が強面だったり威圧感があるのでなければ臆病な面はあまり表には出なくなっている。

 加えて”がまん”が解かれた場合じゃなくても秘めている力はかなりのもので、今のところ素直に従ってくれる手持ちの中ではかなり頼りになる。

 

「戻れゴルダック」

 

 新たに出てきたポケモンがでんきタイプだと気付いたのか、早々にグリーンはゴルダックを一旦ボールに戻す。「やっぱり」と思いながらアキラは、次に出されるであろうポケモンが何なのか考えつつ、緊張で早々に冷や汗を流すエレブーと共に警戒する。

 

「――いけゴーリキー」

「げっ」

 

 交代で出されるポケモンの名前に、アキラは嫌そうに顔を歪める。

 かくとうタイプのポケモンの多くは、威圧感のある風貌なのでエレブーの臆病な性格が露わになる可能性が高い。どうかエレブーが戦うことを放棄したがる厳ついのが出ませんようにと願うが、人生そう上手くいかないことを彼はここでも思い知らされることとなった。

 

 出てきたゴーリキーは最初はバランスを取るために体を屈めていたが、起き上がるにつれて、アキラの予想以上に威圧感溢れる顔を露わにしたのだ。

 今のエレブーではまともに戦うのは難しいかもしれないと危惧するが、丁度エレブーもゴーリキーの威圧感に圧されているのか、構えながらもこっそり後ろに下がり始めていた。

 

「悪いけど交代はしない。踏み止まれ!」

 

 酷だと思いながら、彼は踏み止まる様に声を上げて伝える。まともにバトルにならないならボールに戻すべきだが、それでは何時まで経ってもエレブーの臆病な性格は修正できない。

 逃げたい気持ちはよくわかる。

 だけどこの先のことを考えると自分もそうだが、何時までも今のままではダメなのだ。しかし、彼の指示は死刑宣告に近いのか、顎が外れたのかと思うほど唖然とした表情で口を大きく開けて凍り付いているエレブーの姿には、思わず憐れみを抱いてしまう。

 

「”きあいだめ”から”けたぐり”だ」

 

 そんな彼らを余所に、グリーンは淡々と指示を出す。

 ゴーリキーは体中に力を漲らせて雄叫びを上げると、かいりきポケモンは更に威圧感を増す。エレブーは恐怖で後退りするが、勇気を出して何とか途中で踏み止まる。

 最後の希望としてアキラに目線で必死に訴えるが、非情にも彼は首を縦に振ってくれなかった。

 

「――辛いと思うけど、チャンスが来るまで()()してくれ」

 

 他人が聞いたら無責任な台詞だが、彼の狙いを危機的状況故かエレブーは素早く把握する。

 だけど、それでも怖いものは怖い。

 極力痛い思いをせずに上手いことこの場をやり過ごす方法をエレブーは考え始めたが、その前に力み終えたゴーリキーが真っ直ぐ突っ込んできた。

 腰に”けたぐり”を叩き込まれ、でんげきポケモンの体はくの字に曲がって吹き飛ぶ。

 

「続けて”からてチョップ”!!」

 

 追撃に容赦の無い手刀が襲い掛かる。エレブーは頭を抱えて体を丸めた状態で受けるが、持ち前の打たれ強さで何とか耐える。すぐにゴーリキーは、空いた片腕からも”からてチョップ”を繰り出してきたが、それも堪える。しかし、それで攻撃は止むことはなく、今度は両腕を交互に動かして連続で”からてチョップ”を振り落とし始めた。

 

「まずい…大丈夫かな」

 

 逆転の切っ掛けが掴めるまでは一方的な展開になるのは予想してはいたが、これほど強烈な攻撃なのをアキラは想定していなかった。この猛攻にエレブーが耐え切らなければ全て水の泡だ。

 ゴーリキーのあまりにも強烈な猛攻に、アキラはエレブーの打たれ強さを過信したのが間違いだったのでは無いかと思い始めたが、すぐにその考えは掻き消した。

 

 ボールに戻さなかったのは、性格を修正する以外にもエレブーなら絶対に耐えてくれると信じているからでもある。トレーナーである自分がこうすると決めて、成功を信じていなければ誰が信じる。それにエレブーは、ミニリュウでも耐え切れなかったカスミのスターミーの猛攻にも耐え抜いて、最終的には勝利に貢献したのだ。今回もこの猛攻に必ず耐えてくれる筈だ。

 当たり所さえ悪くなければの話ではあるが。

 

「何をやっているゴーリキー! 早く片付けろ!!」

 

 アキラがエレブーが耐えるのか耐えないのかヒヤヒヤしているのに対して、グリーンは楽勝と思った相手が一向に倒せそうにないことに苛立っていた。

 ”からてチョップ”の猛攻をエレブーが思った以上に耐えているのに、ゴーリキーは焦っていた。集中力が散漫になってきたことで”からてチョップ”の威力と狙いは、打ち込み始めた時と比べると格段に落ちてきている。一旦休ませるべく手を止めたいが、主人であるグリーンの指示無しで勝手にその様な行動を取るのは許されない事だ。

 その為ゴーリキーは攻撃を続けるが、彼のトレーナーは攻撃の勢いが衰えていることに全く気付いていなかった。

 

 連続攻撃を仕掛けてそろそろ一分近くが経過するが、それでもエレブーは丸くなったままで力尽きる様子は無い。ゲンガーと言い、このエレブーと言い、アキラが連れているポケモンは変わっているのが多い。

 このまま耐え続けても逆転の可能性は考えにくいのだが、何を狙っているのか焦っているグリーンには全く見当がつかなかった。

 

 その時だった。

 

 絶え間なく連続で手刀を振り下ろしていたゴーリキーが、突然グリーンの視界から消えた。

 

「――なんだと?」

 

 突然の出来事に一瞬だけ目を疑うが、答えはすぐ目の前に出た。

 

 

 上からゴーリキーが降って来たのだ。

 

 

 何故ゴーリキーが落ちて来たのか、グリーンは訳が分からなかった。

 あまりに不可解過ぎる。

 しかし、謎の答えもまた目の前にあった。

 

「よしいけぇエレット! 必殺の倍返しだ!!!」

 

 機は熟した。

 待ち望んでいた展開になったのを理解したアキラが声を上げると、エレブーも同調するかの様に両腕を振り上げながら雄叫びを上げ、ゴーリキーに襲い掛かった。

 今のエレブーには、先程まで浮かべていた怯えの表情は無い。

 正気なのか疑いたくなる白目に、その目は変わっていた。

 

「受け止めろ!」

 

 咄嗟に受け止めるように命じるが、エレブーが倍返しで放つお返しのチョップは受け止められる様な代物では無かった。呆気なく両腕を交差させたガードは破られて、打ち込まれた一撃にゴーリキーは悶絶するが、休む間もなく今度は高々と蹴り上げられた。

 ほぼ万全の状態であったカスミのスターミーでさえ、”がまん”が解かれたエレブーを止めることは出来なかった。こうなってしまってはエレブーを止めることは、アキラが知る限りでは誰にも出来ない。

 

 これで五分だと、アキラはエレブーの勝利を確信する。

 宙に打ち上げたゴーリキーに飛び付き、空中で勢いを付けて地上目掛けてエレブーは投げ飛ばそうとしたが、ゴーリキーはしがみ付いて離れようとしなかった。

 

「あれ? どうなってる?」

「いいぞゴーリキー! そのまま”ちきゅうなげ”だ!」

 

 離れないゴーリキーにアキラは呆然とするが、グリーンはこの状況を利用して逆転を賭けた”ちきゅうなげ”をゴーリキーに命じた。

 突然エレブーが凶暴になってやられかねない状況に追い込まれたが、思いもよらないチャンスが巡ってくれた。これを逃す手は無いのはゴーリキーも考えていたので、考えが一致した主人の命令にかいりきポケモンは素早く対応する。

 

 エレブーは力任せに投げ飛ばそうとするが、ゴーリキーは意地でも離れようとしない。そして二匹が組み合ったまま地面に落ちるか落ちないかのところで、ゴーリキーは力を込めてエレブーを地面に叩き付けた。

 

 その瞬間、グリーンはゴーリキーが勝ったのを確信する。

 ところが、”がまん”が解かれたエレブーの力は、彼の想像以上だということを思い知らされることとなった。

 

 叩き付けられたかの様に見えたエレブーだったが、直前に両足を伸ばして力強く地面を踏み締めてダメージを大幅軽減すると、体の一部を握ったままで離れていないゴーリキーを逆に地面に叩き付けたのだ。

 これには勝利を確信していたグリーンと、逆手に取られて焦っていたアキラも唖然とする。

 逆”ちきゅうなげ”とも言える攻撃で背中から叩き付けられたゴーリキーは、そのまま伸びてしまい、エレブーは荒々しく勝利の雄叫びを上げる。

 

「くそ、戻れ! ゴーリキー」

 

 悔しそうに舌打ちをして、グリーンはゴーリキーをボールに戻す。

 予想外の展開が続いているとは思っていたが、まさかこうも呆気なく倒されるとは微塵も考えていなかった。何とか悪い流れを断ち切ろうと次に彼が出したのは、先程ゲンガーと戦ったゴルダックだった。

 

「ゴルダック、”ねんりき”であいつの動きを封じて時間を稼ぐんだ!」

 

 この時グリーンは、エレブーが突然強化された理由が”がまん”なのに気付いていなかったが、何らかの要因があると考えて少しでも反撃の糸口を探るべく時間を稼ごうとする。

 

 しかし、エレブーは新しい標的を見つけるや”でんこうせっか”のスピードを活かして、その勢いのままに躍り掛かる。そして眼球が飛び出したのでは無いかと錯覚するほどの勢いで、強烈なラリアットをゴルダックの顎に打ち付けた。

 実際に眼球は飛び出さなかったが、あまりの威力にゴルダックの息は一瞬止まる。

 そのままあひるポケモンは仰向けに倒れるが、流れるように腹部にエレブーの肘打ちを受けると溜め込んだ息を漏らして力尽きた。

 

「バ…バカな…」

「これは…流石に予想外過ぎる…」

 

 僅か数分で立て続けに二匹をエレブーに倒されて、今度こそグリーンは動揺を隠せなかった。カスミもグリーンと同じく”サイコキネシス”で動きを封じようとしたが、”でんこうせっか”で先制されて意味を為さなかった。”がまん”が解かれたエレブーの力が、どれだけ恐ろしいものなのかをアキラは改めて実感する。

 

 これで残りのポケモンの数は四対三。

 数の上では有利に立つことが出来たが、レッドと同等の実力を持っている彼がこのまま何もせずに終わるはずは無い。アキラが気を引き締めている間、グリーンは何とか気持ちを落ち着かせて、目の前のエレブーを倒す方法を考えていた。

 

 ゴルダックが倒された今、彼の手元で戦えるポケモンはリザードにピジョット、そしてストライクの三匹だ。内二匹はひこうタイプが混ざっているため、でんきタイプのエレブーには不利だ。

 尤も今のエレブーに、タイプ相性は関係無さそうに見えるが万が一も考えられる。

 そうなるとあまりやりたくない消去法で選ぶことになるが、リザードで行くしかない。

 

 バトルをする前、確かに自分は挑んできたアキラのことを以前抱いた印象のままで侮っていたことは認める。既に二匹やられてしまっているが、ここからは一切容赦はしない。勝つのは自分だと意気込み、祖父から授かったポケモンの進化系であるリザードを出す。

 

「リザード! ”リフレクター”だ!」

「”リフレクター”?」

 

 飛び出してすぐにグリーンが命じた技にアキラは疑問を抱く。

 彼のイメージからすれば、”リフレクター”はエスパータイプが使う様な技だ。それをリザードが覚えることが出来るものなのか。疑問を抱くアキラを余所に、リザードは素早く物理攻撃を防ぐ壁を炎で形成する。

 エレブーは壁が作られたことに気付いていないのか、リザードに飛び蹴りを仕掛けるが鈍い音を響かせて”リフレクター”に防がれる。勢いを付けて放った蹴りが防がれてしまった影響か、衝撃と反動でエレブーは体のバランスを崩すと、グリーンは続けてリザードに技を指示した。

 

「”ほのおのうず”で奴の動きを封じろ!!」

 

 僅かな隙も見逃さず、リザードは目の前に張った”リフレクター”では守られていない範囲から”ほのおのうず”を放つ。反応が遅れたことで、エレブーはそのまま渦巻く炎に包まれてしまう。

 すぐに脱出しようともがくが、拘束力が強いのか体をくねらせるだけで身動きが出来なくそのまま炎に焼かれる。

 

「エレット! 頑張って耐えてくれ!」

 

 ”ほのおのうず”は一定時間の間相手の動きを抑える拘束技であるため、身動きができないのは当然であり、逃れさせようにもボールに戻すこともできない。

 彼からエレブーの姿を見ることはできるが、炎越しであるため黒焦げになっているかのように真っ黒に見える。やられていないか心配だが、今彼ができることはエレブーを応援して少しでも持ち堪えさせることだけだ。

 

 一方のグリーンは、”ほのおのうず”がエレブーを抑えている時間を使ってエレブーの攻略、残るアキラの手持ちに対する対処法を考えていた。

 彼のジム戦は見ていたので、まだ出していない三匹の内二匹はミニリュウとサンドなのは予想できていたが、残りの一匹が彼にはわからなかった。

 

 あれから二週間以上は経っているのだ。自分同様に、新しい手持ちを加えていると考えるのが自然だ。

 ゴーリキーとゴルダックがやられた今、もしいわタイプのポケモンをバトルに出されでもしたら苦戦は必至だ。

 

 目まぐるしい勢いで、グリーンは目の前の戦いとこれから行うであろうバトルの戦略を練り直すが、エレブーを包んでいた炎の勢いが弱まった。

 効果持続時間を過ぎたのか、弱まった”ほのおのうず”の中から体の至る箇所に煤の跡を残したエレブーが、リザード目掛けて突っ込んできた。だが”リフレクター”の効果がまだ持続していたことで、直線的に迫ったエレブーはまたしても壁に弾かれた。

 

「”でんこうせっか”で後ろに回り込め! 後ろはがら空きだ!」

 

 ”ほのおのうず”の所為で、まだ”リフレクター”があったことを見落としていたアキラだったが、すぐに壁が張られていない後ろに回り込むようにエレブーに伝える。

 今のエレブーはちょっとした暴走状態だ。

 なのでこちらの指示に従ってくれるのか不安だったが、聞こえていたのか一瞬にしてエレブーはリザードの後ろに回り込む。

 

「しまった!」

「いけぇ!!!」

 

 リザードは急いで防御の姿勢を取ろうとするが、エレブーが仕掛けたパンチの方が速かった。

 一撃で倒されなくても大ダメージなのは確実。

 やられるのをグリーンとリザードは覚悟し、アキラはまさかの三タテに期待を抱く。

 

 が、何故かリザードの顔に当たる寸前のところでエレブーの拳は止まった。

 

「………どうした?」

 

 さっきまでの切羽詰まった状況から一転しての静寂にグリーンは目を疑う。

 あのまま攻めていれば、リザードは手痛い攻撃を受けていたのに、そのチャンスを放棄する理由がわからなかった。しかし、エレブーのトレーナーであるアキラはすぐに事情を察した。

 

 時間切れだ。




アキラ、グリーンに勝負を挑む。そしてエレブーまさかの大暴れ。
ようやくある程度手持ちに慣れた状態でのバトルに漕ぎ着けることが出来てホッとしてます。
初期のグリーンはゲームでのライバルにあった嫌味な一面があるから、今の大人な彼の態度を知っていると少し驚く。

バトル描写は色んなポケモン作品は勿論、独自解釈やオリジナル要素も織り交ぜて書いていきます。
後、使用する技も今は覚えない技でも初代などでは覚えられるのなら覚えることができると解釈しています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。