SPECIALな冒険記   作:冴龍

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打倒伝説

 カスミ達を背に乗せたスイクン、エンテイ、ライコウが放った水・炎・雷の三タイプの攻撃を、仮面の男はデリバードと共に避ける。

 ジムリーダーをも凌ぐ力を持つ伝説のポケモンを三匹同時に相手取ることになったが、仮面の男は全く懸念していなかった。

 かつて一度は支配下に置いていたホウオウを解放されてしまったが、それでも実力では三匹を相手に優勢で戦えていたからだ。

 

 優れた知識や戦術眼を持つトレーナーであるジムリーダーと手を組んだのも、自分達には足りないものを補うためなのは容易に想像出来た。

 以前とは異なることが多いのは確かだが、大人しく退くつもりは仮面の男には一切無かった。

 

「デリバード!!!」

 

 名を呼ばれると同時に放たれた猛烈な”ふぶき”に、三匹は一斉に技を放って対抗する。

 彼ら伝説のポケモンが本気を出せば、各タイプに応じた強大なエネルギーが発生し、周囲の空気が押し出されてしまってトレーナーはまともに呼吸が出来なくなる。

 過去に戦った経験からそのことを知っていた仮面の男であったが、すぐに知っている過去との違いに気付く。

 

 スイクン達の背に乗っていたカスミ達が、何時でも呼吸が出来る様に小型の酸素ボンベを用意しており、三匹が本気を出せる準備を整えていたからだ。

 更に各々が”しんぴのしずく”、”もくたん”、”じしゃく”などの三匹と同タイプの技の威力を上げるアイテムも所持しており、三匹が放った技はデリバードが放つ”ふぶき”を完全に押し返す。

 

「よっしゃ! 今回は行けるぞ!」

 

 チョウジタウンにあった秘密のアジトや”うずまき島”でマチスは二回仮面の男と対峙したが、どれも抵抗こそ出来てもまるで勝てる気がしないという経験を味わってきた。

 だけど今は、仮面の男が最も得意としているタイプであるこおりタイプが相手でも優勢に戦えている。

 それがわかるだけでも、彼が勝機を見出すには十分だった。

 

「ふん、技を押し返した程度でいい気になるな」

 

 空中でデリバードと共に体勢を立て直すと、仮面の男は三匹目掛けてモンスターボールを投げると、放たれたボールからデルビル、ゴース、アリアドスの三匹が飛び出した。

 一見場違いに思える面々であったが、三匹とも先程まで戦っていたオーキド博士の手持ちを圧倒していたことに加えて、とんでもない強さのデリバードを連れているトレーナーの手持ちだ。

 油断出来ないと三人が身構えた直後、デルビルとゴースの体が眩い光に包まれて、その姿を変化させた。

 

「進化だと!?」

 

 カツラは驚くが、瞬く間にデルビルはヘルガー、ゴースはゴーストへと進化し、各々がスイクン達に攻撃を仕掛けて彼らに回避を強いた。

 

「貴様らジムリーダーなら良く知っている筈だ。進化したばかりのポケモンは通常よりも力を発揮出来ることをな」

 

 本当なら邪魔者と戦うことなく思惑通りに事を進めるのが一番だが、どれだけ策を駆使したとしても計画通りにいかないことがあることを仮面の男はこの数か月で嫌という程に思い知らされた。

 その為、計画が最終段階に進んだ段階から、進化の可能性が残っている面々が何時でも好きなタイミングで進化出来る様に鍛え直していた。

 どれだけ大きな力を発揮したとしても、今進化した手持ちだけでは伝説のポケモンを退けることは難しいが、それでも無視出来ない存在になることは違いなかった。

 

 ところが追撃を仕掛けようと一番近い位置にいたマチスが乗るライコウに三匹が狙いを定めた時、ライコウが放った強力な電撃攻撃を躱すべく彼らは散り散りになる。

 

「けっ! 何が来ようと知ったことじゃねえ!」

「そうよ。例えどんな困難が立ち塞がろうと、私達は絶対に諦めないわ!」

 

 最初こそ仮面の男の行動には驚いたが、だからと言って彼らが戦いの行く末に悲観的になる理由にはならなかった。

 今はアキラが引き受けているが、当初はホウオウやルギアを相手に戦うことになっても彼らは挑むつもりだったのだから尚更だ。

 逆に三人の戦意は高まったが、仮面の男は目立った反応は見せず、そのまま新たに繰り出した手持ちを率いてジムリーダー達やスイクン達と戦うのだった。

 

 

 

 

 

 スイクン達とカスミ達が仮面の男と戦い始めたことに、ルギア達を牽制し続けている手持ち達の元へ戻ったアキラもすぐに知る。

 仮面の男で最も厄介なのは、伝説のポケモンを圧倒出来る程に強力な氷技を巧みに使いこなす卓越した技術だ。以前の戦いから対策は考えてきたが、それでも解消し切れない問題があった。

 だけど、その厄介な氷や解消し切れない問題も、スイクン達なら解消することが出来る。

 ならば、スイクン達に仮面の男の相手を任せて、自分の方は巨大な力の塊である伝説のポケモンを相手にした方が良い。そうアキラは考えていた。

 

 元々伝説のポケモンとは戦うつもりだったし、アキラとしても手持ち共々、体が大きいポケモンと戦うのには慣れているので適材適所とも言えた。

 彼らが仮面の男と戦い始めたのだから自分もすぐに動くべきではあったが、その前に彼にはやることがあった。

 

「シバさん」

 

 アキラが連れている手持ち達と何時の間にか肩を並べてルギアとホウオウを牽制している格闘ポケモン達のトレーナーである大男に、彼は話し掛ける。

 今までどこにいたのか、今はシジマに師事しているが彼の元で学びたかったこと、そして最後に戦った時よりも自分達は強くなれたこと。

 聞きたいことや話したいことが山程あった。

 

 だけど、今はそんな悠長な時間は無い。

 なので手短に今一番知りたいことを尋ねた。

 

「俺達に…力を貸してくれませんか?」

「無論だ」

 

 アキラからの問い掛けにシバは即答し、少し離れたところにいたキョウもシバに目配せをする形で肯定する。

 本当ならすぐにでも彼と思う存分戦い、今まで何があったのかを話したかったが、今はそれどころではない。

 それに伝説を相手に腕試しをする以外の目的が彼には出来ていた。

 

「お前やレッドが強くなったことは、あの少年から聞いている」

「…はい」

 

 シバからの問い掛けにアキラは静かながらも力強く肯定すると、彼らは二匹の伝説のポケモンと対峙している手持ち達へ向き直り、これから自分達が戦う敵に目を向ける。

 

 それ以上話す必要は無い。

 言葉で伝えるよりも、今目の前で証明すれば良いだけだからだ。

 

 そのことを強く意識すると、何時になくアキラは胸の内から闘争心が強く沸き上がった。

 強い感情が影響したのか、彼は今まで以上に頭を働かせながら、こちらを睨み続けるルギアとホウオウの二匹を鋭敏化した目の視界に収め、その動向を事細かに見ていく。

 

「…どうした? 何時までも牽制しているだけでは、伝説のポケモンを従える我らを倒すことは出来ないぞ」

「仕掛ける気が無いのなら、こっちから仕掛けるわよ」

 

 カーツとシャムがアキラ達を煽るが、彼らは気にせず何時でも戦える状態を維持し、アキラはルギア達の動向を伺いながら手持ち達に何かを伝えていく。

 そして一通り手持ち達に伝え終えたタイミングで、アキラはルギア達の背に乗っているカーツ達に目を向ける。

 

「――予想が当たっちゃったな」

「…何がだ?」

「今日初めて見るホウオウは知らないけど、ルギアは以前戦った時よりも手強く感じられない。寧ろ戦いやすくなっている」

「なん…だと?」

「理由は簡単。言う事を聞かせる為に考える力を奪って、単なる指示待ち状態。それだけで前よりも相手にしやすい」

 

 確信した様に、アキラはカーツにハッキリと告げる。

 野生だった頃のルギアなら、こちらの反撃を恐れずに攻撃していただろう。

 考え無しに思えるが、そっちの方が厄介さでは上なので、こうして手持ち達にこの後の動きを伝えるどころか、さっきみたいにカスミ達と会話を交わす時間は無かっただろう。

 

 ではトレーナーが付いて、その指示に従っている今の方が良いのかとなるとそんなことも無い。

 今はカーツやシャムに従っているルギアとホウオウだが、無理矢理言う事を聞かせる為なのか、明確な意思らしい意思が見受けられなかった。

 だけどアキラとしては、トレーナーか誰かの指示が無ければ動かないことよりも、トレーナーである二人がルギアやホウオウの肩に乗っていることの方が戦いやすいと判断した最も大きな理由だった。

 

 すぐに会って間も無いポケモンの力を理解するのと同時に引き出すことは簡単では無い。

 肩に乗っているのは何かしらの考えがあるのではないかと当初アキラは思っていたが、露骨に危うい場面以外では自分達が振り落とされない程度にしかルギア達は体を動かしていない。

 どうも二人は、肩に乗っているのは指示を出しやすくする意図はあってもそれ以上の工夫は無く、ルギア達の力を十分に引き出せていないのに元から高い能力の所為で力を引き出した気になっている。

 だからこそ、最初に戦った時と比べると今のルギアは行動に大幅な制限が掛かっており、以前よりも手強くないとアキラは感じていた。

 

 一方のカーツは、ゴールドとほぼ同じことをよりにもよって忌々しく思っているアキラに言われたことで、さっきまでの強気の態度から一転して怒りが爆発寸前であった。

 

「戦いやすくなっているだと…貴様は伝説のポケモンが何故伝説と言われているのか知らないのか」

「知っているよ。律儀に一対一で戦うなら厳しい相手だけど、今はルール無用の野良バトル――極端に言えばどう戦おうと勝ち負けが全てだ」

 

 ルール無用の野良バトル

 

 アキラが良く知る元の世界やこの世界での公式ルール下でのポケモンバトルとは大きく異なる形式にして、今のアキラと手持ち達が最も力を発揮することが出来る戦い方。

 

 ルール無用の何でもありなのだから強いのは当然と思われがちだが、自身の行動や選択次第では勝とうが負けようが自分が破滅する結果を齎しかねない諸刃の剣だ。

 故にアキラは度々この言葉を口にしてはいるが、無数にある選択肢の中でやって良いことやダメなことを分けるなど、自身や手持ち達に決まり事をしている。

 だけどその自由度の高さと選択肢の多さを上手く使いこなせれば、その効用は計り知れない。

 

「もう、時間稼ぎも危うくなったら退くつもりも無い。お前達が倒れるか…俺達が倒れるか、そのどちらかだ」

 

 両手の骨を鳴らして、アキラは強気の言葉を口にしながら気合を入れる。

 今仮面の男と戦っているカスミ達への横槍を防ぐべく彼らの注意を引き付ける目的もあるが、ここでの戦いの結果次第では全てが決まることもあって、本気でアキラはこの場で伝説のポケモン――ルギアとホウオウを倒すつもりだった。

 

 確かに伝説のポケモンは、能力や覚える技などは一般的なポケモン――それこそカイリューさえも凌駕する。

 公式ルールに則って一対一で戦えば、今の自分達では最終的に倒すことは出来ても手持ちを何匹も倒されることを強いられるだろう。

 

 当然単純なスペックだけでなく伝承に記録されている様な固有能力を持ち、加えて怪獣みたいに巨大な体も有しているので、ゲーム感覚で挑めば間違いなく痛い目に遭うことは重々承知だ。

 にも関わらず彼らが伝説のポケモンが相手でも手持ち含めてアキラ達が強気なのは、”どんな能力を持っているのか全く分からない未知数の存在”ではなく、”他よりも強大な力を持った図体がデカイポケモン”という認識があるからだ。

 

 これにはタイプ相性や能力、覚える技など伝説のポケモンに関する情報をアキラが元の世界で覚えていることも含めて多くを知っており、手持ち達と共有していることや実践していない机上論の段階なのが大半ではあるものの、それらの情報を元にした対策をある程度練れていること、何より一度は戦った経験があることも大きかった。

 

 勿論、伝説のポケモンの多く――今回相手にするルギアやホウオウには、データや数値、理屈では説明出来ない超常的な力があることは知っているが、それでも防御不能の即死に直結する様な恐ろしい力は無い。

 そこまでわかっていれば、気持ちの面で気取られることは無い。

 問題は特別な力が無くても伝説と謳われるだけのことはある桁違いに高い能力を有するという点だが、ここまで突き詰めれば後は戦い方次第だ。

 

 アキラは腕に付けていた盾を外すと、入れ替える様に背中に背負っていたランチャーを抜き、突き付ける様にその砲身を向ける。

 ルギアとホウオウが低い唸り声を上げて威圧するが、アキラどころか彼が率いるポケモン達は怯まなかった。

 ロケット団に対して怒りの表情を滲ませる者、伝説のポケモンと戦うことに好戦的な笑みを浮かべる者、これから始まる戦いの激しさを考えて鋭い目付きで真剣に備える者。

 表情は様々であったが共通しているのは、誰もが伝説のポケモンを相手に臆するどころか倒してやるという気概に満ちていた。

 

「どちらかが倒れるかだと? 倒れるのは貴様らだ!!!」

 

 怒鳴り声を上げるカーツのその言葉を切っ掛けに、ルギアとホウオウは彼らを迎え撃つべく技を放とうと口を開く。

 だが、敵の動きは承知の上だったのか、サンドパンを筆頭とした何匹かがすぐさま仕掛けられる”めざめるパワー”を光弾状で素早く撃ち出したり投げ付け、ミルタンクに至っては拾った瓦礫の欠片を勢い良く投擲して、それらが顔面に集中的に当たったことでルギア達の気が散ってしまう。

 

「そういう同じことを繰り返すから伝説が相手でも戦いやすいんだよ」

 

 さっきと似た様な形で妨害が上手くいくのを見て、アキラは淡々と理由を改めて口にする。

 その隙にカイリューとブーバーは一気に踏み込む形で駆け出すと同時に”こうそくいどう”とその”ものまね”で加速。

 あっという間に距離を詰め、”げきりん”を纏った拳と勢いを付けた”メガトンキック”を、それぞれルギアとホウオウの体に叩き込んだ。

 

 いきなり痛打を受けた二匹だが、ルギアはすぐに持ち堪えてカイリューを跳ね返す様に胸を張り、ホウオウは一歩退いた上で虹色に光る片翼を勢い良く振るってブーバーを吹き飛ばすことで、伝説としての力を誇示する。

 

「当てやすいから狙っちゃうのはわかるけど、攻撃するならさっきも言った様に顔や翼の付け根、足とかにある関節だ」

 

 跳ね返されたものの特にダメージを負うことなく体勢を立て直して合流する形で着地した二匹に、アキラは改めて巨大な敵と戦う際に狙うべき箇所を伝える。

 勿論こうして言わなくても二匹はわかっているが、最初ということもあって自分達の力を見せ付ける意図があることはアキラも理解している。

 今のところはこちらの攻撃や妨害は上手くいっているが、前よりも戦いやすくても相手は伝説のポケモン。個々の力では負けているので、数と連携を意識しなければ勝つことが困難な相手には変わりない。

 

 そうして彼らが集団になって固まったところをルギアとホウオウ、それぞれがもう一度”エアロブラスト”と”せいなるほのお”の同時攻撃を仕掛けようとする。

 すぐにアキラ達も各々対応しようとするが、その前にシバとキョウが手持ち達を率いて動いた。

 

 キョウが率いる毒ポケモン達は、ホウオウに対して毒を中心とした相手を状態異常にする技で攻撃しながら”かげぶんしん”で翻弄することで、さっきアキラのポケモン達がやった様に”せいなるほのお”を見当違いな方へ外させる。

 シバの方は、エビワラーやサワムラーがフィールドを砕いて巨大な岩の壁を作り出して放たれた”エアロブラスト”を少しだけ防ぐが、すぐに粉砕される。

 だが壁の後ろにいたハガネールがその巨体でアキラ達を守る様に”すなあらし”を起こしながらとぐろを巻くという二段構えで待ち構え、壁を破壊したことで少しだけ弱まっていた”エアロブラスト”の威力を更に減らすことでダメージを軽減させた状態で受け止めた。

 

「シバさんありがとうございます」

「何、少し伝説のポケモンの力が見たかっただけだ」

 

 今のアキラ達なら自力で何とかしていたが、伝説のポケモンの実力を測る目的がシバ達にはあった。

 結果的に助けた様なものだったが、アキラはシバ達が動いた理由は全然気にしていなかった。

 

「アキラ、お前が伝説を倒したい様に俺達も伝説を倒して、磨いてきた実力を確かめたい。この意味がわかるか?」

「ルギアとホウオウ、協力し合って戦うとしても倒すのは早い者勝ちってことですか? そういう話なら乗りますよ」

「話が早くて助かる」

 

 どこか満足気なシバと嬉しそうに彼の提案に乗るアキラ、伝説のポケモンを率いる悪の組織を相手にしているとは思えないまでに二人は楽し気な様子だった。

 まるで自分達は彼らにとって都合の良い単なる腕試しの相手なだけで、敵としては眼中には無い様な扱いにカーツとシャムは尚更苛立つ。

 その緩んだ認識を改めさせてやると意気込んだ時、あることに気付いた。

 

 何時の間にかゲンガーとドーブル、ヤドキングがルギアの足元にまで接近していて、何やらコソコソと怪しい動きをしていたのだ。

 

「あいつら! 追い払えルギア!!」

 

 慌ててルギアは踏み付けようとするが、ドーブルはヨルノズクに”へんしん”、ヤドキングは”うずしお”の渦巻く水をその身に纏って、ゲンガーは軽々と飛び跳ねる様に素早く動いてせんすいポケモンから離れ、三匹はそのまま次とばかりにホウオウへと向かった。

 当然ホウオウと肩に乗っていたシャムは二匹の接近を許すつもりは無かったが、彼らに気を取られ過ぎて再び音も無く接近したキョウのクロバットの奇襲や他の毒ポケモン達からの様々な毒攻撃を浴びせられる。

 そんな苦しむホウオウに近付いたヨルノズクは、空中で元のドーブルの姿に戻ると手にした”まがったスプーン”を振って”やどりぎのタネ”をばら撒いていく。

 ばら撒かれた種はホウオウの体に触れるや瞬く間に芽を出して、にじいろポケモンの体の至る所に蔓が絡み付いていく。

 

「ッ! 下らない小細工を仕掛けて!!」

 

 ホウオウの肩に乗っていることで自身にも絡み付きそうになる蔓を振り払いながらシャムは声を荒げる。

 カーツが乗るルギアに目を向けると、そちらも足元から大量に芽吹いた”やどりぎのタネ”の対処に四苦八苦しているのが見えた。

 再びヨルノズクに”へんしん”して離れていくドーブルと入れ替わる様に、今度はゲンガーとヤドキングが仕掛ける。

 

 竜巻状の水から出たヤドキングは掌にさっきまで身に纏っていたのと同じ大きな”うずしお”を起こすと、それをホウホウ目掛けて投げ付ける。

 本来なら”うずしお”は相手を渦の中に閉じ込めて動きを封じる技だが、ホウオウの体が大き過ぎて渦巻く水は弾けてしまい大量の水をぶつけるだけの技となってしまったが、水技が苦手なホウオウには十分だった。

 大量の水を浴びて水浸しになったホウオウに、続けてゲンガーが”10まんボルト”を放ち、水を被ったことで通りが良くなった電気技で何時もよりもダメージを受けてしまう。

 

「この程度で、ルギアとホウオウが倒せるものか!」

「我らを舐めるのも大概にしろ!!」

 

 体に絡み付く”やどりぎのタネ”をルギアやホウオウは引き千切ったり、燃やしたりすることで無力化しながら肩に乗る二人は怒るが、この後に取るべき自分達の行動や彼らの動向を観察するのに意識を向けていたこともあって、アキラはまともに取り合わなかった。

 それは何も彼だけでなく彼の手持ち達も同じで、一部は呆れや蔑んだ目を向けており、ゲンガーに至っては”良く聞き取れません”と言わんばかりに耳に手を当てるなど一切気にしてなかった。

 

「それだけで伝説を倒せるとは思っていないよ。まあ、倒す為の布石なのには変わりないけど」

 

 先程から受けたダメージを回復させるべく”じこさいせい”をする二匹に目を向けながら、アキラは視界に収めた彼らの動きを呼び動作も含めて余すことなく細部まで観察していく。

 どうもカーツとシャムは自分に怒りを募らせているからなのか、リベンジに燃えていることとそれを可能にするだけの強大な力を手にしたことによる過信によって、冷静な判断力が幾分か失われている。

 バレない様に仕掛けさせたり、その注意を惹かせる為に他の手持ちに動く様に伝えたこともあるが、先程の軽い攻防で見せたカイリュー達の攻撃の意図やゲンガーとヤドキング、ドーブルがやった工作行為は”やどりぎのタネ”を仕掛けたことくらいしか認識していない様に見える。

 

 上手く行き過ぎている気はするが、アキラがやることは決まっていた。

 

 相手にこちらが何をやったのか悟られる前に一気に叩く。

 

「様子見や下準備は良し。後は、力で捻じ伏せるだけだ」

 

 アキラがそう告げた直後、彼の言葉を合図に彼のポケモン達はアキラも含めた横に一列に並ぶだけでなく、サンドパンを含めた何匹かにある変化が起きた。

 

 サンドパンの体から茶色のオーラの様なものが発せられ始め、それらはサンドパンの両手の爪に纏う様に収束していく。

 ゲンガーも同様に体から紫色のオーラを溢れさせ始め、手元へと集められたオーラは押し固められていく様に形を成していった。

 ヤドキングも手を高々と上へ伸ばすと、手の先から水が渦巻き始めると同時にどこからか冷気も引き寄せていき、少しずつ水が凍らせていく。

 ドーブルもまた、”まがったスプーン”を上へ放り投げるとゲンガーみたいに自身の体から桃色のオーラを発して、それらを宙を舞う”まがったスプーン”に少しずつ纏わせていく。

 カポエラーも、その丸い手の先に生み出した光る何かを独楽の様に高速で回転させると、それはまるで周囲から光を吸い込んでいく様に見る見る大きくなっていく。

 

 見たことない光景に対峙していたカーツとシャムは警戒を強め、近くにいたシバやキョウは興味深そうな視線を向けるが、すぐに彼らが何をやっているのかが明らかになった。

 

 そしてサンドパンから発せられたオーラが収まると同時に、まるで露払いをするかの様に両手を振ったねずみポケモンの両手には、茶色から一転して黄緑色の輝きを放つ鋭くて大きな鉤爪が形成されていた。

 ゲンガーも、その手に洗練された形状をした紫色に光る刀の様なものを作り上げ、力強く握ると同時に振り心地を確めるかの様に片手で得意気に振る。

 ヤドキングの方は、粗削りながらも氷で形作られた長い棒の先に短めながら幅広な刃が備わった薙刀と呼べるものが出来上がり、浮いていたそれを手にすると同時に柄尻に当たる部分を力強く地面に打ち付けてその姿を見せ付ける。

 ドーブルは、その頭上に鮮やかな桃色に輝く()()()()()()巨大なスプーンを形成し、ミルタンクに”へんしん”することで巨大スプーンを掴むやすぐさま構えた。

 そしてカポエラーの手で光りながら高速回転していたそれが止まると、カポエラーの手には自身の体と同じ大きさの赤黄色に光る手裏剣の様なものが握られていた。

 

「なっ…何だそれは…」

 

 思いもよらない光景にカーツは言葉を失う。

 自らの拳や尾を振るうエレブーとバンギラス、カイリュー以外は”ふといホネ”を持つブーバーの様に、皆その手に”得物”と呼ぶべきものを手にしていたのだ。

 ヤドキングはまだわかる。氷で何かを作り出したりするのは、仮面の男が良く使う手だ。

 だが、それでも他のポケモン達が手にしたり作り出した得物がどの様な技や技術で生み出されたのか全く見当が付かなかった。

 

 明らかに動揺している姿が愉快なのか、紫色の輝きを放つ刀を手にしたゲンガーは楽しそうにサンドパン同様にその切っ先を向け、ヤドキングも既に構えているミルタンク同様に真剣な目で氷の薙刀を両手でしっかりと握って準備を整え、サンドパンやカポエラーは真っ直ぐ敵を見据える。

 

 動揺している二人とは対照的に、シバは感心した様な声を漏らし、キョウは面白いとばかりに笑みを零す。

 先の軽い攻防でアキラが強くなったのは理解出来たが、どうやら単に強くなっただけでなく思い掛けない技術まで身に付けていることを察したので、この戦いで他にも何かを披露するのでは無いかと楽しみにしていた。

 

「準備は良い?」

 

 ほぼ戦闘準備を整えた手持ち達にアキラは声を掛ける。

 カイリューと”ピントレンズ”を改めて調節しながらサンドパンがアキラと共にルギアを見据え、ホウオウには好戦的な目で”ふといホネ”を手に持つブーバーと同じく得物を持ちながら首に巻いた()()()()()()を整えるカポエラー、真剣な目付きで身構えるエレブーとバンギラスが相手にすることを意識する。

 彼らに対してルギアとホウオウが空気が震える程の大きな声で吠えるが、やはり彼らは意に介さない。

 

「――行くぞ」

 

 アキラが手にしたロケットランチャーを突き付ける様にルギアとホウオウを示すと、それを合図に彼が連れるポケモン達は一斉に動き始めた。

 

 エレブーやサンドパンなどは拳を握り締めたり、鋭い爪を構えながら前へと駆け出し、ヤドキングらも作り出した武器を手に後に続く。

 カイリューやブーバーなどの好戦的なのは、突撃しながら雄叫びや気持ちが高ぶった声を上げ、ゲンガーも生み出した得物を片手に”大物狩りだ”と言わんばかりに嬉々として突っ込んでいく。

 

 彼らの目的はただ一つ、目の前にいる自分達の敵を倒すこと――例えそれが伝説と呼ばれるポケモンであってもだ。




アキラ、シバやキョウと共闘の上でルギアとホウオウとの本格戦闘開始。

アキラの手持ち達が個々に生み出した得物は、一部独自設定もありますが原作内で描かれていたポケモンの技やその応用を利用することで生み出しています。
もう一歩も退くつもりが無いので、後先考えずに全力で彼らは今持てる限りの力や技、作戦を駆使して伝説のポケモンと仮面の男に挑みます。

以下は各々が手にしたり用意した得物について

ブーバー、棍棒(”ふといホネ”)、アキラの手持ちで最初に武器を使い始めたポケモン、形状は一般的なガラガラが持っているホネよりも何故か少し大きい。

サンドパン、鉤爪、BWに登場するドリュウズの爪の二~三倍のサイズの上に籠手の様に爪だけでなく手や腕の一部も覆っている。

ゲンガー、刀、日本刀寄りの形状で、刀身や柄だけでなく鍔も生み出すなど全体的にデザインが無駄に凝っている。

ヤドキング、薙刀、薙刀と表現していますが形状は偃月刀寄り、他と違って氷を利用して生み出したので少し粗削りではある。

ドーブル、巨大スプーン、形状はミュウツーの”念のスプーン”に近いのだが軸が捻じれているなど微妙に形状や構成方法は異なっている。

カポエラー、巨大手裏剣、形状は四枚刃、一番得物には不向きに見えますが、ドーブルと似た様な事情や理由がある。

それぞれの得物を合体させることで必殺技を繰り出すことは、出来ません(多分)

ちなみにエレブーとバンギラスは基本素手。

今話で今回の更新は終わりになります。
次回の更新については、度々言っておきながら毎回区切りが良さそうなところを何とか見出してそこまでの更新再開になっていましたが、次はどれだけ話数が嵩んだり時間が掛かっても三章が終わるところまでと決めています。
なので次の更新時は三章の終盤まで更新します。

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