SPECIALな冒険記   作:冴龍

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ロケット団が集まっている建物は、単行本22巻で描かれたブルーとシルバーが脱走した施設をイメージしています。


戦場の森

「――今何か結構ヤバイ音がしたな」

 

 雪が積もる森の中を手持ち達と一緒に走りながらアキラは、かなり離れた場所から聞こえた音を気にする。

 戦いによって生じた爆音や掛け声などで周囲が騒がしいのにも関わらず聞こえたのだ。先走ったカイリューは大丈夫なのだろうか。

 そう心配していたのだが、怒りの雄叫びと共に再び爆発の様な大きな音が遠くから聞こえたのでどうやら大丈夫らしい。

 

 まだ何も見えていないが、恐らくカイリューはこの森の先にある建物を攻撃している筈だ。

 現場に向かう前にポケモン協会から提供された情報を確認したが、山の中にある火口みたいな場所に建てられた大きな建物にロケット団が集まっていることはわかっている。

 映っていた写真にはカイリューが苛立つ様な何かがある建物には見えなかったが、聞こえた音から推察するに恐らく侵入を阻むバリア的なのが張られているのだろう。

 三年前にロケット団がエスパーポケモンで作り出したバリアでヤマブキシティ全体を覆っていたという記録があるので、ロケット団が同じことをやっている可能性は十分にある。

 

「おっと!」

 

 何かの技が飛んでくるのに気付き、反射的にアキラは回避も兼ねて近くの窪みへとサンドパンと共に転がり込む。

 気が付けば、あらゆる方向から攻撃が飛び交い、そこら中からロケット団とその手持ちがアキラ達に押し寄せていた。

 現場に急行した際に目にした苦戦を強いられている警察達の姿から、ロケット団の注意を自分達に向けさせることも兼ねて突撃したが、突出し過ぎたかもしれない。

 実際、正面からだけでなく後ろからも倒し損ねたり置いてきぼりにした団員達が戻って来て、徐々に包囲網が構築されていた。

 

 だけどアキラは勿論、一緒に突撃した手持ち達はあまり気にしていなかった。

 挑んでくる敵は全て薙ぎ倒す。それだけだ。

 

 一緒に窪みに体を屈めていたサンドパンは、両目に取り付けたポケモン協会から提供されたアイテムである”ピントレンズ”を調節すると、狙い澄ました”どくばり”を一発だけ発射する。

 毒針は狙撃先にいたビリリダマに命中すると、刺激を受けたボールポケモンは爆発。周囲にいた他のポケモンや団員を巻き込むのが見えた。

 

「何回見ても正確な狙撃だな」

 

 的確な狙撃を披露するサンドパンを褒めるが、他のアキラの手持ち達も各々の戦い方で押し寄せて来るロケット団のポケモン達を圧倒していく。

 ヨルノズクの姿をしたドーブルは念の力を込めた強風を起こして小さなポケモンを吹き飛ばし、カポエラーは体操選手の様に機敏な動きで攻撃を避けながら力強い足技で周囲の敵を次々と蹴り飛ばしていき、バンギラスに至っては進化したことで得たあらゆる攻撃を弾く頑強な巨体とパワーを存分に活かして思う存分暴れる。

 そんな三匹に負けじと古参の面々も攻撃の手を強めるが、ロケット団も数を背景に被害度外視でとにかく押し潰そうとする。

 

 森の至る所であらゆる技が飛び交い、頻繁に爆発や殴打時の鈍い音が聞こえるなど、戦いは正に”大軍勢vs少数精鋭”が繰り広げる激戦と言える状況だった。

 だけどそんな状況でも、アキラは飛んで来た技を盾で防げる様に構えながら立ち上がるとサンドパンと共に森の中を再び駆け出す。

 

 ロケット団の軍勢を相手にするのだから、これ程までに戦いが激しくなるのは想定済みだ。

 そしてこうもロケット団が手段を選ばずに猛攻を仕掛けて来るのが、戦っているカイリュー達を止める事もそうだが、彼らを率いるトレーナーである自分を狙っていることにもだ。

 

 通常トレーナーが連れているポケモンは、トレーナーと一緒に過ごすのに慣れているので指示が無いかその身に何かがあると動きが鈍るか動揺してしまう。

 それが一般的なものであることは間違いでは無いのとアキラの場合、この後ポケモンリーグにも駆け付ける予定にもなっているから、不安要素を排除するという意味では理に適っている。

 しかし、何事にも例外は存在する。

 

 仮にアキラがロケット団の狙い通りに行動不能に陥ったとしても、彼のポケモン達が止まる事は無い。

 寧ろ歯止めを掛ける存在がいなくなって、攻撃が過激化して尚更酷い事になるだけだ。

 だけど敵の攻撃が自分に集中すればする程、その分手持ち達に向けられる攻撃の手が緩んだり隙が生まれる。

 アキラはそれを知っているので、避け切れそうにない攻撃や技は盾を活用して防いだり流したりしながら、ロケット団の狙いを自分に集中させるべく手持ち達と同じか少し前の位置で動き続ける。

 

 そんな中、団員の何人かが激しい攻防を上手くすり抜けて、暴れるポケモン達を率いるトレーナーであるアキラとの距離を詰めた。

 

 ポケモンは強いが、猛威を奮っているポケモン達のトレーナーは子どもだ。大人と子どもなら、体格や力の差で如何にでもなる。そう考えての行動だった。

 好き勝手に暴れたお返しとして直接痛め付ける、或いは人質にして暴れているポケモン達を封じる、利用方法は幾らでも浮かぶ。

 そして拳を握り締めてアキラを殴り付けようとした次の瞬間、彼に迫った団員は振るわれた盾によって金属音と共に殴り飛ばされた。

 

「トレーナーを直接潰す。ルール無用の野良バトルなら確かに有効だけど、当然反撃するに決まっているだろ」

 

 思ってもいなかった抵抗に驚きの表情を浮かべる残りの団員に、アキラは金属光沢を放つ紺色の盾と共に鋭い眼差しを向けながら告げる。

 ”スズの塔”や他の現場で同じ様なことをしようとした団員は片っ端から返り討ちにしていたのだが、そのことを伝えられていないのだろうか。それとも聞いているけど何とかなると思っているのだろうか。

 こうしてこの場に立つからには、ポケモンだけでなくトレーナー自身も狙われて自衛の為に戦う事になるのは織り込み済みだ。

 今のアキラはその為の準備をしてきただけでなく、実現出来るだけの力を有していた。

 

 シジマの元で身に付けた体捌きに鋭敏化した動体視力や身体能力、装備に物を言わせて、アキラは仕掛けて来るロケット団を無慈悲に打ち負かしていくが、彼らの周囲が一瞬だけ暗くなった。

 対峙するロケット団を意識しながら原因に目をやると、上空をドラゴンらしき姿をした存在がカイリューがいるであろう方角へと飛んでいくのが見えた。

 その途端、後ろから包囲網を狭めていたロケット団の攻撃の手が弱まったにも関わらず騒がしくなってきた。

 

「アキラ!」

 

 近くにいた団員数名とポケモン達を打ち負かして、ようやく追い付いたと思われるレッドが自身の手持ちを引き連れて来た。

 彼らが追い付いたのを見て、アキラは後ろはもう気にする必要が無いことを察する。

 直に警察も追い付いてくれるだろうから、自分達がここに来た役割を果たさなければならない。

 

「行くぞ皆! リュットに追い付いて一気に終わらせるぞ!」

 

 手持ち達に発破を掛け、アキラは雪が積もる森の中を再び走り始めるとその後を追い掛ける様にレッドと彼のポケモン達も続いていく。

 敵の狙いが時間稼ぎと消耗が狙いなのはわかっているが、一刻も早くこの戦いを終わらせて、本命がいるポケモンリーグ会場へ向かわなければならない。

 だからこそ、彼らは止まる訳にはいかなかった。

 

 

 

 

 

「撃ち落とせ! あのカイリューを撃ち落とすんだ!」

 

 空を飛んでいるドラゴンポケモンを指差しながらロケット団の一人が叫んでいたが、直後に近くにいたポケモン達を狙った”はかいこうせん”で吹き飛んできたポケモンの下敷きになる。

 ロケット団の拠点になっている建物周辺を飛びながら、カイリューはバリアの外に陣取って撃ち落とそうとするロケット団達を片付けるのと同時並行で度々突破を試みていた。

 だが、どれだけ攻撃しても建物を囲む様に展開されたガラス状の壁は破れる気配は無かった。

 

 性質的には”リフレクター”などの防御技に近いことは既に察していたが、力任せで突破するのは無理なのを何度も突き付けられて苛立ちを募らせていた。

 飛びながら突破方法を考えていた時、遠くから見覚えのあるドラゴン――リザードンが真っ直ぐ飛んでくるのにカイリューは気付く。

 

 不倶戴天の敵であるワタルや奴と共にいる同族程では無いが、リザードンと彼のトレーナーであるグリーンにカイリューはあまり良い印象は抱いていない。

 だけど、今は気に食わないなどと言っている場合では無かった。互いに視線を交わし合うと、やることはわかっているとばかりに頷く。

 それから二匹のドラゴンは、激しくなる攻撃を掻い潜って一気に急降下していくのだった。

 

 

 

 

 

 カイリューがリザードンと手を組んで突入していた頃、レッドとその手持ち達が追い付いたことで、アキラ達の攻める勢いは更に増していた。

 戦いの余波による衝撃や爆発が頻繁に起こる森の中を突き進む二人は、傍にサンドパンやエーフィを伴って先にあるロケット団の拠点を目指していく。

 

 大人数を相手にした大規模で破壊的な攻撃をアキラのポケモン達が中心となって実行していき、一掃し切れなかったり個々に挑んでくるのはレッドのポケモン達が可能な限り相手していく。

 ロケット団の方も多くのポケモンを繰り出すなどの数の利を生かして攻め出たり、予め作っていた防御用の陣地に籠城するなどして抵抗するが、それでも彼らを止めることは出来なかった。

 

 そんな中、これ以上の進撃を阻止しようと巨大な鋼の実の様な姿をしたポケモンであるフォレトスが、何匹かのクヌギダマを率いて共に”こうそくスピン”しながら二人目掛けて突進する。

 しかし、フォレトスはレッドが連れているカメックスが放った”ハイドロポンプ”であっという間に返り討ちに遭い、残ったクヌギダマ達もブーバーが投擲した”ほねブーメラン”やカポエラーの”まわしげり”で一蹴される。

 

 敵を一掃し終えた”ふといホネ”がブーバーの手元に戻ろうとしたが、途中で別の攻撃が当たって中途半端なところで落ちてしまう。

 武器を取り損ねたひふきポケモンに、好機とばかりに何匹ものロケット団のポケモンが跳び掛かったが、フシギバナが”つるのムチ”を何本も伸ばして、ブーバーに迫った敵を薙ぎ払う様に打ち払う。

 

 フシギバナの援護にブーバーは目線だけだが軽く礼を伝えると、すぐに手をかざす様に腕を伸ばす。

 すると手を伸ばした先に転がっていた”ふといホネ”は、まるで引き寄せられる様に動き始め、そのままブーバーの手元に収まる。

 

「お前のブーバー、”サイコキネシス”を面白い使い方するな」

「映画を見て思い付いたらしくてね」

 

 以前は見なかった力を使うブーバーに感心するレッドにアキラは少し呆れ混じりで答える。

 何時も投げた後の”ふといホネ”の回収に手間取っていたので、そういった問題を解消する為にブーバーは”サイコキネシス”を新たに習得していた。

 単純な接近戦以外での戦いの幅は間違いなく広がったのだが、当の本人は攻撃手段よりも得物の回収や映画で見た場面の再現の方をどちらかと言うと重視していた。

 ちょっと呆れながらも”ふといホネ”を手に再び突撃していくブーバーの姿を見届けた直後、アキラは鋭く光る何かを視界の片隅で捉える。

 

「っ!」

 

 危険を察知するや常人離れした反射神経で体を横に跳ばした刹那、左腕に付けている盾から引っ掻く様な金属音を響くも上手く力を逸らして、振るわれたストライクの鋭い鎌による一閃をアキラは防ぐ。

 すぐさま一緒にいたサンドパンが入れ替わる形でストライクと戦い始めるが、今度は小さなポケモンを連れた団員達が一気にアキラに向かう。

 相変わらず子どもだからと侮っている様子にアキラは顔を顰めるも、すぐにこの後にすべきことを頭に浮かべ、即座に判断を下す。

 迫る団員達を鋭敏化した目の視界内に入れ、次に取るであろう動きを見抜く。ポケモンの相手は手持ちに任せ、団員の方は直接手を出して来た者にのみ限定して、少しだけ紺の塗装が剥がれてきた盾を力任せに振るう事で殴り倒していく。

 

 当然残ったポケモン達は主人の敵討ちとばかりにアキラを襲おうとするが、そこはレッドが連れていたエーフィが念の衝撃波を放って阻止するのだった。

 

「やっぱり俺も盾貰った方が良かった! そうすりゃもっと! アキラを手助け出来た!」

「俺みたいにっ! 振り回すのはっ! 止めた方が良いっ!!」

 

 仲間がやられているのを目にしている筈なのに、懲りずにドンドン来る団員達を背負い投げや大振りの蹴りを織り交ぜながら頻繁に金属音を響かせて片っ端から倒しながらアキラはレッドに忠告する。

 大体自分の場合は、理由は何であれ肉体のリミッターが常時外れているからこうした無茶が出来るだけだ。本来なら幾ら鍛えていても、ここまで無双することは出来ない。

 そもそも今自分がやっていることは、状況的に正当防衛と認められるとしても間違いなく乱暴なだけでなくやり過ぎなのを咎められても仕方ない類だ。

 世間的に良く知られている模範的なトレーナーであるレッドがやっても良い様な行為では無い。

 

「別に良いじゃないかっ! 一緒に戦っているんだからっ! 少しは俺達を頼れ!」

 

 息つく間もなく戦っているが故に気分が高揚しているからなのか、それとも考える暇が無いのかレッドは直球で伝える。

 アキラが考えていることは、レッドは何となくわかる。

 

 こんな乱暴なことを直接実行するのは自分の役目。

 

 こうしてロケット団と戦う以上、その戦いが”ルール無用”で”勝つか負けるか”のどちらかしか許されない過激なものになることは必至だ。

 仮にこの戦いでのやり過ぎな対応について問い詰められたら、全て自分がやったことだとアキラが言うのは容易に想像出来た。

 そうなったら確かに好戦的な手持ちを連れている彼なら、やりかねないと見る者は多いだろうし、批判を含めた矛先を自分に向けることが出来るからだ。

 

「本来ならやっちゃいけないとか考えているんだろうけど、”ルール無用の野良バトル”だろ? それに俺なんてロケット団との相手は手持ちに全部任せているから、ポケモンの相手はポケモン、人の相手は自分と決めて、可能な限り自分の手で団員を倒しているアキラと比べれば数倍はワルだぜ」

 

 状況も相俟って余裕はあまり無い筈なのに、アキラに追い付いたレッドは得意気に告げる。

 性格もそうだが、彼なりの手持ちとの関係や付き合い方が一部の人に快く思われていないことが要因にあるのか、彼は自己評価が低い。

 積極的にロケット団を荒っぽい手段で倒していくのも、先手必勝なのもあるが友人や親しい人達に被害が及ぶのは勿論、なるべく先に自分が倒すことで他が同じ様な手段で手を下すことになるのを未然に防ごうとしているのだろう。

 だけどレッドとしては、アキラのまるで庇うかの様に自分だけ泥を被ろうとするのが不満だった。

 

 それに、こうも無差別で余裕の無い大規模な戦いを繰り広げている時点で、全てのルールやマナーを守って戦うのは困難を通り越して不可能だ。

 あるとしたら程度の問題。こういう戦いに参加している時点でやっていることは皆同じだ。

 

「……面倒なことになるかもしれないよ」

「その時は一緒に謝ろうぜ」

 

 コガネシティの宿舎でのやり取りと同じ気楽な返しにアキラはどう反応したら良いのか若干困るが彼の言う通り、その時はその時だと思う事にした。

 大変な状況であるにも関わらず、形は何であれ何時も自分を助けてくれるレッドに内心で感謝しつつ、少しだけアキラは口元を緩める。

 

「直に警察も来るだろうけど、仕事しやすくする為にもっと派手にロケット団を片付けるか」

「乗った!」

 

 アキラの提案にレッドも元気良く賛同する。

 そして二人は、先行しているカイリュー達に追い付くべく、再び手持ちのポケモン達と共に前へと走り出す。

 

 ロケット団の大軍勢をたった二人と十数匹のポケモン達で相手にする。

 この世界にやって来たばかりのアキラどころか、三年前に冒険に旅立ったばかりの頃のレッドも、そんなことをするとは夢にも思わなかっただろう。

 だけど彼らは今、昔なら想像もしていなかったことをこなしていた。

 

 そして彼らにやられっぱなしのロケット団だが、彼らも別に弱い訳では無い。

 だが、幾ら数を並べてもタイプ相性が有利だろうと、レベル差や気迫など様々な要因であっという間に蹴散らされる。

 並みのトレーナーなら苦戦必至の相応のポケモンなら流石に一撃でやられることは無いが、それでも間髪入れずに他のポケモンが次々と繰り出していく猛攻には耐えられない。

 中にはとうとう逃げ出そうとする者も出て来たが、多くは逃げ切る前に吹き飛ばされたポケモンや技の余波に巻き込まれたりしていた。

 

 ポケモンが倒せないならトレーナーの方を倒そうと考える者もいたが、狙われることも戦っている彼らは織り込み済みであった。

 レッドは彼自身が上手く逃れつつもポケモン達が上手く立ち回って彼を守り、アキラに至ってはまだ少年と言える年齢なのに自らロケット団を叩きのめす武闘派。

 個々に規格外な存在が協力し合い力を合わせた結果、まるで未曾有の大災害に襲われる様な事態にロケット団は見舞われていた。

 

 そしてアキラとレッドとしても、さっさとロケット団を片付けたかった。

 それは急いでポケモンリーグに向かうこともそうだが、何より先行して向かったカイリューとリザードンに加勢したいからだ。

 

 そうして戦い続けて、ようやくロケット団の攻勢が弱まり、カイリュー達が攻め込んだ建物に近付いて来たのが見えた時だった。

 視線の先から無数の泥の塊らしいのが飛んできて、それらは地面や木の幹に触れた瞬間、次々と爆発する。

 

 ”ヘドロばくだん”

 

 最近確認された技に関しての記載があった本で見た特徴とほぼ同じだったのでアキラはすぐにわかった。

 

 前を進んでいた二人のポケモン達も、避けたり防いだりと個々に対応するが、飛んでくる数が多い。

 レッドも避けながら木の陰に隠れようとするが、積もっている雪に足を取られて動きが鈍る。

 咄嗟にアキラは荒っぽい方法だが、彼を体が隠せそうな場所目掛けて蹴り飛ばすと同時に盾を防御出来る面積が広い向きに素早く切り替えて”ヘドロばくだん”に備えるも、構えた直後に爆発によって彼の体は吹き飛ぶ。

 

「アキラ!!」

 

 雪の積もった地面を転がっていくアキラの姿にレッドは焦る。

 ”ヘドロばくだん”そのものは盾で防いでいたが、流石に直撃時に生じた爆発の衝撃そのものは幾ら何でも耐えられなかった。

 

「皆! 急いでアキラを頼――」

 

 誰でも良いから手持ちの力を借りようとしたが、その前にアキラのポケモン達は動いた。

 ブーバーとカポエラーは自分達の姿を見せ付けるかの様にアピールすると、すぐさまロケット団の集団へと殴り込み、エレブーとバンギラスの師弟も普段の温厚さをかなぐり捨てた様な雄叫びを上げながらロケット団目掛けて猛ダッシュで突撃する。

 当然、ロケット団の注意や目標は彼らに変わるが、ブーバー達は”みきり”で攻撃を最小動作で避けながら接近するや見敵必殺とばかりに格闘技を叩き込んでいき、エレブー達は屈強な体に物を言わせてその身に受ける攻撃を意に介さず、力任せに次々とポケモン達と巻き込んだ団員達を宙に打ち上げて一掃していく。

 

「行動はやっ…」

 

 アッサリと助けを求める必要が無くなったことにレッドは少し笑ってしまう。

 かなり強引ではあったが、彼らもアキラの危機に気付いて即座に自分達に注意を向けようとしたのだろう。

 

 こういうトレーナーに何かあったとしても、状況に応じて各々が独自に判断して即座に動けるのもアキラの手持ちの特徴にして強みであった。

 レッドもマサキに頼んでボックスに留守番させているニョロボンなども手持ちに加えた六匹以上で挑みたかったが、大乱戦が予想される状況で六匹以上のポケモン達を的確に導いたり事前に彼らに迫る危機を察知することは出来ない。そもそも自分の身に何かあったら、動揺も重なって手持ち達は満足に動くことは難しい。

 けどアキラの場合だと、六匹以上の手持ちが同時に戦うことになってもあまり目立った問題は生じない。

 これは彼の手持ちの多くが自己判断出来るくらい頭が良く我が強いこともあるが、ポケモンもトレーナー自身もルール無用の野良バトルを想定した状況や戦い方などの必要な鍛錬を積んでいるからでもあり、レッドでも近い経験をしているだけなので真似をするのは容易なことでは無かった。

 

「いててて…」

 

 一方の吹き飛んだアキラは、痛そうに雪の上で倒れていた体を起こしていた。

 体が宙に浮いた瞬間に可能な限り受け身を取ったことや経験上痛みなどには体が慣れていたのでダメージは少ないが、やっぱりそれでも少し体の動きはぎこちなかった。

 加えて盾で防いだとはいえ爆発の衝撃が直に腕に伝わったので、その痛みや痺れもまだ腕に残っていた。

 そんな彼にゲンガーとヤドキングが駆け寄るが、ゲンガーは心配するよりも「早く立て」と言わんばかりに彼を急かす。

 

「わかってるわかってる」

 

 ゆっくりしている暇が無いことはアキラもわかっている。

 並みの人間以上の力を発揮出来るとはいえ、それでも人の体はポケモンと比べれば貧弱だ。

 だけどこうして手持ちと共に戦いの場に立っている以上、それを言い訳にはしない。

 彼らと並んで戦いに加わるからにはこうして狙われたりすることを考えたからこそ、シジマの元で自らの体も鍛えて来たのだ。

 今踏ん張らなくて何時踏ん張る、とアキラは自らを鼓舞する。

 

「大丈夫なのかアキラ」

「大丈夫大丈夫。それよりもいい加減にリュット達の加勢に向かわないと」

 

 駆け寄ってきたレッドにアキラは何とも無さそうに振る舞う。

 もう目を凝らす必要が無いくらいロケット団が拠点としている建物は見えていた。

 そしてその建物周辺で頻繁に爆発が起きたり技が飛び交っているのもハッキリとわかる。確かにカイリュー達は強いが、それでも色々と心配であった。

 戦いの場がここだけなら幾らでも無茶はやらせても良いが、これ程の規模でも前座とも言えるこの戦いで余計な消耗をするのは避けたい。

 

「……まだいるのかよ」

 

 気を引き締めて向かおうとした矢先に、多くのポケモンを連れたロケット団の集団が向かって来るのが二人の目に入る。

 ここに来るまでの間に確実に百人どころか二百人以上は倒している筈なのに、まだまだ戦力を出せるロケット団の無駄に多い団員数にアキラは呆れる。

 ブーバー達は少し離れたところに行ってしまったので、今この場にいる面々で如何にかするしかないだろうと思ったが、向かって来るロケット団の集団も他を片付けて戻って来たアキラとレッドの手持ちの連合チームがすぐさま殴り込みを仕掛けたことで瞬く間に阿鼻叫喚となり、その光景に二人は何とも言えない表情を浮かべるのだった。




アキラ、レッドと共に暴れに暴れまくってロケット団を追い詰めていく。

今のアキラは、必要と判断したらかなり荒っぽいこともやりますが、あまり良い選択では無いのも自覚しているので、なるべくレッドを始めとした友人や知り合いが同じ様な荒っぽい手段を取ってしまうことを望んでいません。
レッドもその辺りの彼の考えや懸念は理解していますが、何かあった際の責任や矛先などを彼が一人で引き受けようとする姿勢には少し困っています。
でもどっちも無理に押し通したり咎めたりはせず、ちゃんと互いに言い分を聞いた上で妥協したり考えを受け入れますので、程々にバランスは取れています。

次回、カイリューが過去に一区切りを付けます。

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