ようやく落ち着いてきたので、今日から何話か更新を再開しようと思います。
今回も更新が止まっている間も感想や評価を送ってくれる読者の方がいて本当に嬉しかったです。
ようやくポケモンSVを遊ぶことが出来たことやしばらく書けなかった反動で創作意欲が湧いたことも相俟って、前回更新予定の分に加えて下書きが出来ていた数話分を今回更新します。
今回の更新でも読んでくれる読者の方々が楽しんで頂けたらなによりです。
朝の日差しが差し込むとある部屋の一室で、アキラは黙々と身支度をしていた。
肘や膝などにプロテクターを身に付け、黒いシャツの上に複数のポケットが付いたチョッキの様なものを着込み、腰には何時ものリュックサックでは無く動きやすさを重視したウエストバッグやホルスターを取り付ける。
そして最後に、それらに上乗せする様に彼は着慣れた青を基調とした上着を羽織り、軽く自身の動きを確かめた後に首を横に向けた。
視線の先にはポケモン達を回復させる備え付けの装置が置かれており、アキラは装置に乗せられているモンスターボールの中にいる手持ちの様子を個々に確認しながら腰に付けて行く。
鋭い眼差しで応えるのや力強く頷くなど反応は様々であったが、皆この後始まるであろう戦いに向けた準備は万端であった。
手持ち達が入ったボールの固定を終えると、アキラはテーブルの上に置かれていた円形の盾や剣の様に縦長な盾の向きに切り替えられる紺色の塗装がされた可変式の盾をゆっくり静かに手に取り、それを布袋に入れて左肩から背中側にぶら下げる様に背負う。
必要な準備をほぼ終え、支度に見落としが無いか確認するべくアキラは鏡に映る自分自身と向き合った。
「――随分と遠くにきたものだ……」
ガラスに映っている己と向き合いながら、アキラは自分自身に問い掛ける様にぼやく。
三年前の自分が今の姿を見たら、一体何があったのかと思うことは間違いないだろう。
体を鍛える必要があることを昔の自分は考えてはいたが、常人離れした身体能力を発揮出来る様になったり、まるでバトル漫画のキャラみたいな装備を整えるとは想像したことは無かった。
それだけでない。元の世界へ戻る糸口を掴むという自分の目的の為にも行動範囲を広げる必要があったので強い手持ちを連れることは望んでいたが、ここまで曲者揃い。しかもあのヤナギに”歩く災害”と言われる程の力を自分達が手にするとは夢にも思わなかった。
ここ最近の出来事を振り返りながら、アキラは小さな手帳サイズの黒いケースを取り出す。
中には三年前に開催されたポケモンリーグを終えた後、少しズラせば四天王との戦いを終えた後の退院記念に撮った写真の二枚が入っている。
貰った当初は自室に飾ろうと思っていたのだが、屋根裏部屋では置いてある机含めて飾るのに良さげな場所が無かったので、頑丈なケースに入れて持ち歩いていたが何時の間にかお守り代わりになっていた。
それにアキラは、静かにあらゆる想いを込めて、まるで願を掛けるかの様に祈った。
そうして思いにふけていた時、彼がいる部屋のドアがノックされる。
「アキラ、準備は出来たか?」
「あぁ、出来たからすぐに出る」
部屋の外から呼び掛けられたのを機に、アキラは予定の時間がもう近いことを部屋に置かれている時計から確認する。
ポケモンリーグが開催される前に全てを終わらせるという当初の目的はもう果たせなかったが、ここまで関わったからには最後までやり抜く。
ポケモン協会からの警察への加勢依頼を了承したのも、そういう責任感にも近い気持ちがあったからだ。
決意を固めて、アキラは愛用している青い帽子を被ると、写真が入ったケースを懐に入れながら近くに置いてあったアタッシュケース状のものを手に持って部屋の外に出る。
外では一緒にチョウジタウンの外れに向かうレッドが待っていたが、アキラの姿を見るや少しだけ驚いたかの様に目を見開いた。
「…どうしたレッド?」
「いや、随分と本気なんだなって」
一見するとリュックサックを背負っていない以外は普段のアキラと変わらないが、良く見れば単に複数のポケットが付いたチョッキや少し隠れているが体の各部にプロテクターが付いているのが見えるなど、物々しい雰囲気すら感じられる姿だった。
レッドもロケット団との戦いに備えてはいるが、それでも彼程に身に付ける装備を整えてはいなかった。
「…まあ、動きの邪魔にならなければ、今の俺は色んなものを多く持てるからね」
今背負っている盾を始めとした多くの装備が持てるのは、間違いなく一年前のカントー四天王との戦いを切っ掛けに爆発的に向上した身体能力のお陰だ。
一体何が原因でこうなっているのか未だわからないが、師のシジマの話によれば今の自分は肉体のリミッターが解除された状態、言うなれば常時火事場の馬鹿力を発揮している様なものらしい。
無理は禁物ではあるが、手持ちが強くなったのと同じくらいアキラにとっては大きな力だ。
もし無かったら、もっと持ち歩く装備を減らしていたし、ロケットランチャーを片手で撃てる様にすることや盾と同時に持ち歩く発想も浮かばなかっただろう。
「それに、今日は今まで経験した中で……一番長い一日になるだろうからね」
アキラが話す内容を理解しているレッドも、真剣な面持ちで頷く。
この後二人は、チョウジタウンの外れに集結している警察の元に加勢して、ロケット団の軍勢に戦いを挑む。
それが終わったら今度はポケモンリーグが行われるセキエイ高原に急行してヤナギの動きを監視、事が起これば加勢するという予定だ。
カントー四天王と最終決戦を繰り広げた一日ですら少し休む間はあったのだ。ロケット団相手でもどれだけの時間が掛かるのかわからないのにそっちが終わり次第、すぐに過去最強の敵との戦いに備えるハードスケジュール。
今アキラが複数のポケット付きのチョッキを着込んでいるのは、手持ちの回復道具などを多く持つ為だ。どれだけ自分達が強くても消耗は避けられないので、それらを見越してだ。
「――そういえば今回はロケットランチャーは持って行かないのか?」
「持っているよ。今はこんな状態だけど」
レッドの指摘にアキラは手に持っていたアタッシュケース状の物を彼の前にブラ下げて見せる。
「え? あれってそんな風に変形出来るの?」
「流石に何時も”重火器です”と言わんばかりの状態で持ち歩くのは不味いだろ。それに持ち運びや置き場所にも困っていたから変形機能も追加で付けて貰った」
目的地に着いてすぐに戦うなら問題は無いが、持ち出したとしてもすぐに使うとは限らない。
オマケに見た目も威圧感が有り過ぎるので、必要時以外は携行がしやすくて武器だと認識されにくい形状に変形出来る様にカツラに改良して貰ったのだ。
「俺もカツラさんに頼んで何か作って貰おうかな?」
「ちゃんと持ち運びについて考えた方が良いよ。いざって時に動きが鈍くなるから」
タマムシ大学でアキラが今の盾を貰った際にレッドも残った盾を色々試してみたが、結局は動きが鈍くなるのや躱した方が速いということで貰う事は無かった。
そのことを思い出したのか、レッドは顔は悩ましいと言わんばかりのものに変わる。
「う~ん、やっぱり俺は身一つで十分かもな」
「その辺りはトレーナーとしての考え方次第だよ」
ポケモンとの関係や付き合い方と同じで、考え方は千差万別だ。
とはいえ、アキラみたいな手持ちとの関係や考え方をしているトレーナーは殆どいないだろう。
「…アキラ、さっきからずっと難しい顔を浮かべてるぞ」
「するに決まっているだろ。今日一日起きる戦いの行く末は、俺達の頑張りに懸かっていると言っても良いからね」
勝てば、ロケット団や仮面の男の野望を阻止出来る。
負ければ、ロケット団や仮面の男であるヤナギの勝利に直結する。
過程こそサカキやワタルなどと遜色ない規模ではあるが、そこまでしてでも叶えたいヤナギの目的は、彼らと比べれば小規模且つ細やかなものだ。
だが勝ち逃げされてしまえば、その後のカントー・ジョウト地方に悪影響を残すのは確実。
何かしらの成果を出す必要があるのだ。
そしてその成果を出すには、自分達の力が懸かっている。
今まで経験した中でもトップクラスに責任重大な使命を託されたこともあって、何時になくアキラの目は鋭く表情も強張っていた。
その為か、彼らの会話はそれ以上続かず、どこか空気は重かった。
彼としては気を引き締めているつもりであったが、レッドの反応は違っていた。
「…アキラ、気合を入れているつもりなんだろうけど、お前の悪い癖がまた出ているぞ」
「悪い癖?」
「前に…言ったっけ? まあ、とにかくお前は色々考え過ぎなんだ」
レッドに言われたことがわかっていないのか、アキラは強張らせた表情の代わりに困惑したかの様に目を白黒させる。
確かにどうすればロケット団を止めることが出来るのか、ヤナギを倒す方法は無いか考えを張り巡らせているが、それが悪い癖だと言われてもイマイチわからなかった。
だけどレッドから見れば、アキラの考え過ぎるというのは長所であると同時に彼の短所でもあった。
”石頭だ”、”融通が利かないだ”の文句を彼に言う時はレッドにもあるが、裏を返せばそれだけ彼は真面目なのだ。
様々な可能性を真面目に考慮して考えるからこそ、アキラはあらゆる努力を厭わないのと念入りに備えることで、これまでの戦いを勝ち抜いたり生き延びてきた。
しかし、ある種の用心深さ故に不必要なことまで考えてしまうのが、無自覚に彼の精神的な負担になっている。
「確かに俺達はポケモン協会から頼まれたからこれから警察の加勢に行くけど、例え頼まれなくてもアキラは戦っていただろ」
「まあ首を突っ込んでいただろうね」
「だから誰かに頼まれたとか余計なことは考えず、普段通りにやっていこうぜ」
「そうしたいけど、今回は警察とかの味方が多いから普段通りにやったら大変なことになりそうな気がするんだよ。それに、警察とこんなに大きな戦いで共闘をするのは初めての経験だから」
「あ~、やっぱり気にしていたか」
今までのアキラとレッドが経験して来た戦いは、誰かに依頼されたからではなくて、どちらかと言うと自分達が戦いたいから戦うというかなり個人的なものが多かった。
だからこそ、今回みたいにポケモン協会からの正式な頼み――言うなれば仕事として依頼されたことや自分以外にも味方が大勢いるということも相俟って、途端に責任や重圧、そして自分達の強大過ぎる力が齎す周囲への被害などを必要以上に意識してしまう様になったのだろう。
最近は周りを気にしている余裕が無い激戦続きだったのや手持ちの影響を受けたのか、荒っぽい事も何食わぬ顔で多少やる様にはなったが、それでも普段の彼は性分的に真面目な方だ。
カイリュー達の方はそんなアキラの懸念などお構いなしに暴れるのは目に見えるが、このままでは彼は戦うことは出来ても普段通りに本領を発揮して戦うことは出来ない。
「考え方を変えようアキラ。加減して負けるのと、やり過ぎて勝つんだったら、どっちを選ぶ?」
「後者」
「だろ?」
極端過ぎる問い掛けではあったが、アキラが即答してくれたことにレッドは満足だった。
不安を抱くことや悩むことは悪い事ではない。だけど、だからと言って一番の目的を忘れてはいけない。
何ならそんな難しくは考えずに、立ち塞がる目の前の敵全てを全力で倒すくらいの気持ちで挑んだ方が楽だ。
「もしやり過ぎたら、その時は俺も一緒に謝るから」
アキラの肩に手を乗せて、レッドは気楽にそう告げる。
あまりに楽観的過ぎて本当に大丈夫なのかと思えるレッドの言葉にアキラは苦笑いを浮かべるが、彼が言いたいことはわかった。
自分達が警察に加勢する理由を突き詰めていけば、一番の目的はロケット団と仮面の男の撃破だ。
警察と上手く連携出来るのかなど他のことを気にし過ぎて、一番成さなければならない目的を忘れてはならない。
少々オーバーな表現だが、敵だけでなく味方の屍すら踏み越えていくくらいの気概――カイリューが抱いているであろう気持ちや考えで挑んでいくべきだろう。
心と体が納得すれば話は早く、固くなっていた肩が少し柔らかくなる様な錯覚を少しだけ感じつつ、アキラは意識や気持ちを切り替える。
「時間も押している。そろそろ行こう」
「あぁ、マサキも困っていたから、これで解決すれば良いんだけど」
少し表情が和らいだアキラの促しにレッドも気合を入れる。
警察と協力してロケット団を一網打尽にする当初の目的は変わらないが、ここに来てもう一つこの戦いで重要な目的が彼らには出来ていた。
それはここ一年近くジョウト地方を悩ませていたポケモン転送システムの不調だ。
端的に言えば、その原因にロケット団が関与している可能性が高いことが発覚したのだ。
オーキド博士経由で知らされたが、どうやら転送システムの状態を表示する画面そのものに細工が施されていたらしく、実際は問題が発生していたのに表面上は正常表示にされていたらしい。
実際のシステムの状況と画面に表示された内容の相違から、今までの原因不明の不調はシステムを動かすエネルギーを奪われていたことがわかった。
そしてエネルギーが奪われている経路を探った結果、丁度ロケット団が集結している付近と一致することもわかり、ロケット団を倒せば一気に多くの問題を解決出来る可能性が出て来たのだ。
「そういえばマサキが俺達に感謝しているらしいけど、何でだろうな?」
「さあ?」
廊下を歩きながらレッドはその件に関して話題にするが、アキラにはわからなかった。
ちなみに二人はすっかり忘れているが、マサキが画面の細工に気付くことが出来たのは、レッドがジムリーダーの試験を受ける前日にした会話をレッドが彼に伝えたお陰であった。
直接マサキに会っていたら思い出していたかもしれないが、オーキド博士から聞いた事なので詳細な理由まで二人はわからなかった。
それから二人は人目に付かない様に静かに建物から出ると、そう間もない内に彼らの姿は音も無く消えるのだった。
アキラとレッドが静かに姿を消した頃、彼らとは別動隊として動くことになっているゴールドとクリスの二人は、セキエイ高原で行われるポケモンリーグの会場を訪れていた。
三年に一度行われる祭典であることや一時期話題になっていたロケット団の活動が沈静化気味なのも関係しているのか、会場は観客・参加者問わずに多くの人でごった返していた。
「本当にこんなに人がいるところで事件を起こすつもりなのかしら?」
「やるかもしれないからこそ、オーキドの爺さんや協会理事のジジイは俺達に頼んだんだぜ。仮面の男に限らず何かが起こる前提で考えた方が良いぜ」
会場内を見回る様に歩きながら、ゴールド達は観客席へ移動していく人達を見て行く。
ロケット団がチョウジタウンの外れに集結しているという情報は一般には知られていないが、それでもあらゆる脅威を想定しているのか、制服姿の警備員の姿が多く見られた。
作戦ではエキシビジョンマッチ終了後、ジムリーダー達が席を外す際に回復と称して手持ちポケモンをヤナギから手放させた後、さり気なく別室に隔離して拘束すると言うものだ。
仮にエキシビジョンマッチ中に何かが起きたとしても、すぐ近くには何時でも戦えるジムリーダー達が控えている。
そして観客席にもロケット団が紛れ込むのを防ぐのと同時に、警備員以外にもいざという時に避難誘導を行う私服警察が何人も配置されている。
限られた時間内や表になっていない事情を考慮すれば、考えられる限りの警備は万全――なのがクリスの認識だ。
しかし、彼女とは対照的にゴールドは必ず何かが起こると見ていた。
仮面の男の正体がヤナギだとすれば、今までの経験的に多少の邪魔があっても何かを仕掛けて来そうだからだ。
堂々と正面から悪事を働くのか、それとも何か小細工を仕掛けてから動くのか。どちらにせよここから遠く離れた地にロケット団の全戦力と思われるだけの数を動かしているのだから、何かある筈だ。
「俺もっかいコントロール・ルーム付近を見て来るわ」
「また見に行くの? 出入り口に警備の人が二人いるのは見たでしょ?」
「しゃあないだろ。アキラからしつこいくらい言われてただろ」
『単身ならともかく部下を使って裏工作をする可能性があるから気を付けろ。絶対にだ』とゴールドとクリスは、アキラからこれ以上無く念押しでしつこく言われていた。
コントロール・ルームは、ポケモンリーグが行われる会場のシステム全てを司っている部屋のことだ。大勢の人が集まる会場をパニックに陥れるのに、建物の設備を不調にさせるのは確かに考えられる手だ。
さっきも異常は無いか見て来たのだが、ゴールドを一人にする訳にはいかないのでクリスも付いて行くことにする。警備員は大幅に増員されているので、心配は無い筈だが念の為だ。
「そういやオーキドの爺さんかお偉いさん達から何か連絡はあったか?」
「いいえ。まだ戦いは始まっていないんだと思うわ」
警察を通じてだが、アキラとレッドがロケット団と戦い始めたらポケモン協会関係者かオーキド博士のいずれかを経由して二人に連絡が入ることになっている。
集まった警察達が合流したアキラとレッドがロケット団に仕掛ける予定時刻はまだ先ではあるが、予定通りに始まるとは二人とも考えていなかった。
「名目上は警察の方々の助力だけど、レッド先輩達は大丈夫かしら…」
「クリス、あの二人が向かったんだ。仮面の男とか伝説のポケモンが相手でも無い限りすぐに終わらせてくるさ」
「でも相手はロケット団の大軍団よ。勝てるとしてもそれなりに時間が掛かりそうな気はするけど」
「いやいや、あの二人はマジでそこらの奴が束になって敵う相手じゃない」
レッドのポケモンを的確に導く技術と有する能力を爆発的に引き出す判断力。
アキラが率いる地形を大きく変える程の強大な力を発揮するポケモン達とそれらを巧みに纏め上げる統率力。
どちらも状況を問わずにどんな敵が相手でも戦えるが、一対一の戦いならレッド、多勢を相手にするのならアキラと言えるくらい役割分担も出来る。
今回は敵の数が多いので、周囲の敵を一掃するべく凄まじい光景になるのがゴールドには容易に想像出来た。
「ひょっとしたら半分くらいは警察のお世話になる前に病院のお世話になるかもな」
「それは…ちょっと不味いんじゃないかしら?」
ゴールドのぼやきに、クリスは思わず顔を引き付かせる。
彼女の認識からすれば、最早ポケモンがトレーナーを狙うとかでもしないとそんな事態にはならないし、あの二人がそんなことをするとは思えなかった。
だけど、ロケット団との戦いがどういう物なのか良く知っているゴールドは、こちらにその気が無くても結果的にそうなってしまうことを理解していた。
特にアキラの手持ちの荒っぽさと戦闘時の規模の大きさは間接的、或いは意図的であろうとなかろうと巻き込んでそうなっても不思議じゃない。
アキラはクリスに似て真面目で良識はあるが、経験故か彼女と違ってやる時は容赦しない。
と言うより、自分のやり方が一般的なのから外れているのを一応自覚しているが、それでも真面目に考えた結果、そうなってしまうと割り切っているとゴールドは見ていた。
普段は荒っぽい手持ち達を抑える側に立っているが、それはやり過ぎると自分だけでなく周りにも迷惑が掛かるからだ。やり過ぎても問題が無かったり、そう動いた方が良いと判断したら、荒いことでもあまり躊躇わず実行する。
如何にも悪い事や荒っぽい事とは縁が無さそうな顔をしているが、やると決めたら超えてはならない一線ギリギリで敵を倒していくのだから、敵対する相手から見たらアキラはレッドよりもずっと恐ろしい存在だ。
だからこそ、そんな彼らでさえまともに戦えば負ける可能性の方が高い仮面の男の危険性は良く理解出来た。
今の自分とは比べ物にならない雲の上の存在達が繰り広げる戦い。もし始まれば付いて行くので精一杯なのは目に見えていたが、それでもゴールドはいざ戦いが起きたら足掻けるだけ足掻くつもりだった。
気を引き締めて、ポケモンリーグの会場内の見回りを再開したゴールドではあったが、そんな二人を始めとした周囲の様子を窺う不審な人影があることには気付いていなかった。
「――事前に可能性は伝えられていたが、当初の想定以上に警備が厳重だな」
「エキシビジョンマッチが終わるまでには、コントロール・ルームを制圧しなければならないというのに厄介だ」
訪れてから確認出来た状況も考慮して、次に取るべき策について彼らは話し合う。
会話の中で出て来たコントロール・ルーム制圧を達成するには、その部屋へ繋がる出入り口にいる警備員を片付けなければならない。
その点に関しては問題は無いが、常駐以外にも巡回している警備員もいるので、頃合いでも無いのに騒ぎになることは避けたかった。
配置されている警備員の数、巡回時間や頻度の把握。当初の想定よりもやらなければならないことが山の様に出来ていた。
「時間はそこまで残されていない。あの御方の目的が達成出来るか否かは、我らの働きに懸かっている」
事前に伝えられているジムリーダー以外の要注意人物であるゴールドとクリスの二人に目を向けながら、忌々しそうに呟く。
オーキド博士がポケモン図鑑を託したという少年少女達。脅威度はジムリーダーよりもずっと低いが、その子ども離れした実力や危機的状況であっても辛くも逃れて来た運の強さには何かを感じざるを得なかった。
その中で最も優れた実力者であるレッドは、アキラと同様にここから遠く離れた場所にいる。
中々戻って来れない様に様々な策を施してはいるが、それでもあの二人を相手にどこまで通用し、そしてどれだけ時間を稼げるかは未知数だ。
だけど彼らは、如何に困難な状況であったとしても、どんな手段を使ってでも目的を達成するつもりだった。
それが自分達の才能を見出して、今日まで鍛えてくれた存在への恩と忠誠に報いる唯一の方法だと信じているからだ。
決意を新たに、怪しげな人影は再び人気のない場所へと消えるのだった。
アキラ、レッドと共に警察の加勢に向かい、ゴールド達も万全の状態でセキエイに待機。
戦いが最終局面で且つ大規模なものになることから、アキラは激戦を想定した装備や持ち物を整えた完全武装状態です。
他にもゴールドやクリスにも自分の目が届かない分、可能な限り元の世界で憶えた出来事を想定される事態として伝えるなど、出来る限りのことをして備えています。
戦う前段階でやれることはやったので、後は敵を倒していくだけです。
明日に次話を更新します。
次回、歴代で一番アキラ達が暴れます。