SPECIALな冒険記   作:冴龍

137 / 147
思い掛けない結果

 アキラのサナギラスがバンギラスに進化して仮面の男の右腕を噛み砕いていた頃、ルギアと戦っていたゴールド達の方は自分達の手持ちが一斉に進化した事に驚いていた。

 中でもクリスは今のベイリーフがチコリータから進化したのが数日前だったので、もう進化したことに驚きを隠せないでいた。

 そしてそれは進化した当の三匹も同じだった。必死になって戦っていたら、何時の間にか自分達の姿が変わっていたのだから。

 

 困惑する者が多い中、彼らの事情など知ったことではないとばかりにルギアはまた”エアロブラスト”を放つ。

 今度こそ仕留めるとばかりに力が込められていたが、進化したことに驚いていた三匹は、すぐに意識を切り替えて各々技を放ってルギアの攻撃を迎え撃つ。

 

 進化したことで力が増したからなのか、彼らの一斉攻撃は”エアロブラスト”の軌道をズラすどころか今度は相殺し、ルギアは目を見開く。

 

「理屈なんてどーでも良いぜ! 今ならあのデカブツに勝てるぜ!」

 

 一早くゴールドは状況を理解すると、この戦いの勝機を見出した。

 長時間に及ぶ戦いでゴールド達の消耗は激しかったが、ルギアの方はそれ以上に度重なる猛攻でかなり疲弊しているからだ。

 そこに進化した直後であるが故に、本来よりも実力を発揮出来る様になった三匹がいれば必ずルギアに勝てる筈だ。

 

 一度ならず二度も自身の技を無力化されたのとゴールドの威勢の良い声に、ルギアは怒りの声を上げるが、眼下にいる三人と三匹を意識し過ぎて体勢を立て直したレッドの手持ち達が再び挑んできたのに反応が遅れてしまう。

 

「よし! そのまま地上に引き摺り下ろすんだ!」

 

 レッドのポケモン達と彼らを援護するゴールド達が連れているポケモン達の猛攻を受けて、宙に浮いていたルギアは耐え切れずもう一度地上へ引き摺り下ろされる。

 

 攻勢を強める彼らの手持ちにルギアも当然抵抗するが、元々数で勝っている上に進化したことで力を増した三匹が加わった今では、消耗している状態で相手をするにはかなり厳しいのか徐々に押されていく。

 

 戦いの流れは、今自分達にある。

 

 そのことを戦っていた彼らは敏感に感じ取った。

 どんな形であれルギアとの戦いを終わらせて、その勢いで仮面の男と戦っているアキラに加勢する。

 そうすれば、全てが終わる。

 

 そう信じて、彼らと戦っているポケモン達は最後の一押しとばかりに気持ちに力を入れてルギアに挑んでいく。

 

「……ん?」

 

 そんな押せ押せムードの中で、最初にそれに気付いたのはレッドだった。

 アキラなりの言葉で言えば、”野良バトル”での実戦経験が豊富だからなのか、彼は戦いの場における空気の変化には敏感だった。

 

 どこからか地響きにも似た音が、近付いて来ているのか少しずつ聞こえてくるのだ。

 それが一体何なのか、知りたくても状況的にルギアから目を離すことは出来なかった。

 その為、自分が立っている砂浜周辺が少しだけ薄暗くなったタイミングでようやくレッドは音の正体を知った。

 

「――え?」

 

 目に入った光景にレッドは疑問の声を漏らす。

 見上げてしまう程に大きな波がレッド達が戦っていた砂浜に迫って来ていたのだ。

 

 ルギアと戦っているレッドだが、相手が伝説のポケモンであること以外に詳しいことは殆ど知らない。

 一応天候を操っていたことから、何かしらの大きな力を持っていることを想像することは出来てはいた。

 だけど、まさか自分達の相手をしながらこんな大きなことが出来るとは思っていなかった。

 

 だが、その考えは違う事にもすぐに気付く。

 仕掛けたと思われるルギアも迫る大津波に怪訝な眼差しを向けていたからだ。

 つまり、波を起こしたのはルギアでは無い。

 

 ならば、一体誰が起こしたのか。

 すぐに疑問が頭に浮かぶも、迫る大きな波を前に考えている時間は無かった。

 

 

 

 

 

「波!? ルギアが起こしたのか!?」

 

 同じ頃、サナギラスがバンギラスへと進化すると同時にその力で仮面の男の硬い腕を噛み砕かせることに成功していたアキラも迫る大津波に気付く。

 レッドは波を起こしたのはルギアでは無いことを悟っていたが、彼はルギアが秘めている力の詳細を知っていたので、ルギアが起こしたものだと考えていた。

 今このタイミングに横槍が入るのは色々都合が悪いだけでなく、状況的に物凄く邪魔だったので彼は露骨に忌々しそうな顔を浮かべていた。

 

「デリバード!」

 

 そんな突然の事態でも仮面の男は慌てることなく、片腕を噛み砕かれたばかりなのにも構わずプレゼントポケモンをモンスターボールから出す。

 まだ回復し切れた訳ではないが、それでも十分なのか出て来たデリバードは仮面の男を伴って飛び立つ。

 

「あっ! てめえ!」

 

 折角後一歩、それも千載一遇のチャンスを逃す訳にはいかなかった。

 進化したばかりのバンギラスも逃がすまいと仮面の男の足を掴むが、デリバードが仕掛ける大量の”プレゼント”攻撃とダメ押しの”ふぶき”を受けて思わず手放してしまう。

 まだ無事であるサンドパン達が飛び技などを仕掛けるが、それらの猛攻を強引に突破して、仮面の男とデリバードはあっという間にそう簡単に手の届かない高さにまで上昇する。

 アキラとしては更なる追撃を仕掛けたかったが、既に大津波はかなり近付いていた。

 

 アキラは泳げないを通り越して水に浮かぶどころか沈んでしまうというとんでもないカナヅチ体質だ。

 加えて手持ちの大半は水が苦手だったり泳ぐことも出来ない。巻き込まれる訳にはいかなかったので、止む無く追撃は諦めることにした。

 

「全員固まるんだ!」

 

 アキラが呼び掛けると、散らばっていた手持ち達は一斉に彼を中心におしくら饅頭の様に互いの体を密着させる。

 立ち塞がる敵は誰であろうと薙ぎ払えるだけの力を有するまでになった彼らだが、旅を始めた頃から欠かさず不利な状況や危機的状況になったら逃げる為の手段を磨いていたことで逃走や戦線離脱にも長けていた。

 一塊になった彼らは”テレポート”が使える面々の力によって、目前まで砂浜に迫った大津波から逃れる様に消えるのだった。

 

「皆逃げるんだ!」

 

 アキラ達はスムーズに離脱出来ていた一方、レッド達の方はそうでは無かった。

 本当なら空へ逃げる様に言いたかったが、ルギアに対抗する為に手持ちを多く出しているだけでなく皆バラバラであった。

 大津波が押し寄せて来るなど全く予想していなかったこともあったが、数で押そうとしたのが仇となり、上手く逃げることが難しくなっていた。

 ゴールド達も急いで手持ちをモンスターボールに戻していくが、多くの手持ちを出していたことで時間が掛かっていた。

 

「飛べないポケモンと泳げないポケモンを優先して戻すんだ!」

 

 本来なら全て戻したいが、万が一を考慮してかシルバーがボールに戻すべきポケモンの優先順位を伝える。

 それでも彼らはギリギリのところで手持ちの大半を戻すと、各々飛行能力のあるポケモンの力を借りてルギア同様に空へ飛び、押し寄せる津波から逃れるのだった。

 

「あっぶねぇ…」

 

 さっきまで自分達がいた砂浜が津波で流されていく光景をゴールドは冷や汗を掻きながら見下ろす。

 レッドとアキラが組んでいた時やさっきみたいに手持ちが進化したお陰で優勢ではあったが、こんなことを起こせるだけの力をまだ持っているルギアのことを少し甘く見ていた。

 

 だが、何とか逃れたものの危機はまだ終わっていなかった。

 先に飛んでいたルギアが、空を飛んでいる彼らを狙い始めたからだ。

 先程までの地上戦と比べると、飛べるポケモンは限られているので戦力はガタ落ちだ。

 加えて下はまだ押し寄せた大津波の影響が残っており、地上に降りるどころか落ちることも危険な状態だった。

 

 度重なる攻撃で傷や汚れが目立つルギアの首が飛んでいる四人に向けられ、何か攻撃を放とうと口を開いた時だった。

 ルギアの巨体は突如として起こった強烈な冷気の暴風によって押し退けられた。

 

「退け!!!」

 

 遠くから”ふぶき”を放ちながら飛行するデリバードを伴った仮面の男が、声を荒げながら四人を無視して真っ直ぐルギアに突っ込む。

 弱っているとはいえデリバードが放つ”ふぶき”の威力に、ルギアの体は抵抗虚しくそのまま海面へ激しく叩き付けられる。

 当然レッド達は突然戻って来た仮面の男を止めるべく挑もうとするが、デリバードが放り投げた大量の”プレゼント”が起こす爆発に遮られてしまう。

 

「っ! てめえ!!」

「黙れ! これ以上貴様らに構っている暇など無い!!!」

 

 声を荒げるゴールドに対して、もう彼らと戦う事さえ煩わしいと言わんばかりの態度を仮面の男は露わにする。

 ただでさえ予定が狂っているのだ。これ以上彼らと戦えば、致命的なまでに計画が破綻させられてしまう恐れがあった。

 海に落ちたルギアを見下ろして見れば、海面を激しく波立せて体勢を立て直したせんすいポケモンが、殺気を籠めた目付きで仮面の男を睨みながら飛び立とうとしていた。

 

 その瞬間だった。

 

 広い海の一点から眩い青白い光が海面を突き破って、一直線にルギア目掛けて飛んできたのだ。

 突如として放たれたその青白い光がルギアに当たった途端、青白い輝きを放ちながらせんすいポケモンの巨体と面していた海面は瞬く間に凍り付いていき、その動きを完全に止めた。

 

「………え?」

「マジかよ」

「噓でしょ…」

「っ…」

 

 あれだけ暴れていたルギアが、一瞬で動かなくなったのにレッド達四人は言葉を失う。

 青白い光が飛び出した海面付近から一直線に海が凍っていることから、光の正体が”れいとうビーム”なのにレッドは気付いていたが、それでもたった一撃でルギアの全身を凍らせてしまうのは予想外だった。

 驚愕のあまり四人はすぐに動くことは出来なかったが、仮面の男は氷像同然に凍り付いたルギアの前まで近付く。

 

「止めるんだ!!!」

 

 誰でも良いとばかりに切羽詰まった声でレッドが叫ぶ。

 何故なら仮面の男の手にモンスターボールが握られているのが見えたからだ。

 このままでは仮面の男がルギアを捕まえてしまうという考えが過ぎった時、遠くから爆音を轟かせて高速で飛翔する何かがレッド達を通り過ぎて、一直線に仮面の男へと飛ぶ。

 

 しかし、仮面の男は振り返りながらボールを握ったまま腕を振り、それを叩き落とす――否、粉々に打ち砕いた。

 

「言った筈だ。これ以上構っている暇など無い!」

 

 そう告げると、”こおり”状態のルギアの額にモンスターボールを放り投げる。

 ボールが氷の像と化したルギアの額に接触した瞬間、その巨体は瞬く間にボールの中へと収まり、ぶつかった反発でルギアが入ったモンスターボールが仮面の男の手元へと戻る。

 

 呆気なく仮面の男がルギアを手中を収めたことにレッド達は動揺するが、彼らから離れた崖の様な場所でロケットランチャーを構えていたアキラは悔しそうに舌を打つ。

 ”テレポート”で波が及ばない高所に移動していたが、ルギアが氷漬けにされたのを見て、もう今しか奴よりも先んじてルギアを捕獲するチャンスは無かった。

 だが撃ち出したモンスターボールが砕かれてしまったことで、そのチャンスも潰えてしまった。

 

「ルギアを捕まえてどうするつもりなの!」

 

 ルギアを目の前で捕まえられた衝撃から立ち直ったクリスが仮面の男に叫ぶ。

 彼女は仮面の男に今日初めて遭遇したが、どう考えても悪い人間であることは確信していた。

 そんな存在が伝説のポケモンを手に入れたのだ。どう考えても良くないことにルギアを利用するイメージしか浮かばなかった。

 

 ところが仮面の男は本当にもう相手にする気は無いのか、クリスの問い掛けを一切無視して彼らには目もくれず猛スピードで離れて行く。

 当然レッドとゴールド、シルバーの三人は後を追うが、仮面の男を伴ったデリバードは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()へと飛び込む。

 嫌な予感は感じたが構わず彼らも霧の中へ飛び込んで追うも、視界の先は白い濃霧に包まれていた所為で何も見えなかった。

 

 一体この霧は何なのか、何時発生したのか。

 

 様々な疑問を浮かばせ、それでも彼らは逃げる仮面の男を必死になって追っていくが、濃霧へと飛び込んでからは影も形も見えなかった。

 やがて白い濃霧は潮風に流されていくが、視界がハッキリする頃には仮面の男の姿はどこにも無く、見渡す限り海しか見えなかった。

 

 彼らは完全に見失ってしまった。

 

「逃げんじゃねぇえぇーーーー!!!」

 

 挑発の意図も込めてゴールドが怒りの声を上げるが、それでも何も起こることはなく大海原で彼の叫びが虚しく響き渡るだけだった。

 

 

 

 

 

 ゴールドの声が響き渡っていた時、彼らから遠く離れた海の上を仮面の男はデリバードと共に飛んでいた。

 ルギアが入ったモンスターボールを手にしていない方の腕はバンギラスに噛み砕かれたことで失われていたが、その腕は少しずつ、粒子の様なものが集まって腕の形を成していく形で再生していた。

 

 マントの下が人の体で無いことまでアキラに知られることは想定していたが、ここまで容赦なく、そして砕かれるのは予想外だった。

 今まで仮面の男が得た情報と直接会った中で感じたアキラの性格を考えると、思いっ切りが良いと言うよりは、予め()()()()()と考えるのが自然だった。

 思っていたよりも躊躇いが無かったのと驚きが少なかったのだから、本当に一体どこで知ったのか謎は深まるばかりだ。

 

 そんなことを考えながら、仮面の男は猛スピードで飛行する自分達に付いて行く様に移動する海面に色濃く浮かび上がる影を見下ろす。

 久し振りに彼を()()に出したが、本当なら彼までを出すつもりは無かった。

 何故なら、彼はレッド達と関係の深いある人物と繋がりがあるからだ。

 知る者に知られれば、確実に正体が露見してもおかしくない危険な一手。

 だけど、そこまでしなければ今回のルギア捕獲は出来なかった。

 

 可能ならばアキラに限らず情報漏洩を防ぐ為に全員始末したかったが、想定以上に消耗しただけでなく、正体が露見する寸前にまで追い詰められたのだ。

 あれ以上戦うのは危険だった。

 

 だが、それでもこの体が見せ掛けのものであるなどの危険な証拠は幾つか残してしまった。

 過去の例を考えれば、確固たる証拠でも無ければポケモン協会は動かないと見ているが、それもどうなるかはわからない。

 計画は既に最終段階、もう失敗どころか余計な時間を費やしてしまうことも許されない。

 しかし、それを阻止せんとばかりに知っていたかの様に仮面の男にとって重要なタイミングでアキラは立ち塞がる。

 それも今回含めて二回もだ。最早偶然では無い。何かしらの手を打たなければ、次も確実にやって来る。

 

「どこまでも邪魔をしおって…」

 

 次に対峙する時こそ、どちらかが倒れる戦いになる。

 勿論倒れる方はアキラだが、勝てたとしてもどれ程のダメージを受けるのかが全く想像出来ない。場合によっては、レッドが控えているか一緒になって挑んでくる可能性も高く、消耗した状態での強敵との連戦は流石に厳しいものがある。

 戦えば戦う程、相手はこちらの情報を得て、対抗する為に力を付けたり更なる対策を講じて挑んでくる。

 

 そこまで懸念要素に関して思案していた仮面の男だったが、海面に浮かび上がる影を見つめている内に仮面の下に隠れた表情を引き締めた。

 この先に起こるであろう戦いが自分にとってかなり厳しいものになること、アキラ達が邪魔しに来ることなどわかり切った事だ。

 

 ならば簡単なことだ。

 こちらも奴らが来ることを前提とした想定をして備える。

 それだけの話だ。

 

 この計画の為にあらゆる物を捨て、時には命さえも懸けて来たのだ。

 例えどれ程の悪事を重ねたり、後遺症を負ったり命を削ってでも、必ずやり遂げる。

 

 過去を思い起こしながら、仮面の男は決意を固めて、真っ直ぐ飛び去って行くのだった。




アキラ、とことん追い詰めるも仮面の男は目的達成を最優先して逃亡。

ルギアを一撃で仕留めたのは後々出てきます。
あれ以上アキラ達と戦えば、仮面の男は正体バレしても構わない段階にまで追い詰められていたと思います。

次回、アキラ達が今後について話し合います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。