SPECIALな冒険記   作:冴龍

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続きを待っている読者の方がいましたら、大変長らくお待たせしてすみません。
まだ更新予定の話の何話かが途中だったり見直していますが、進行状況的に更新中に書き切れると考えたので更新を再開しようと思います。
もし途中で止まってしまったらごめんなさい。

一年以上も更新が止まっていましたが、その間でも感想や評価を送ってくれる読者の方がいて本当に嬉しいです。
しばらくは更新し続けるので、読んでくれる読者の方が楽しんで頂けたらなによりです。


やって来た少年達

「こりゃひでぇや…」

 

 荒れた様子のエンジュシティを目の当たりにして、訪れたゴールドは少しだけ表情を曇らせる。

 来る前に見聞きした報道や聞こえて来る会話などからある程度想像はしていたが、実際に目にするとその酷さは想像以上だった。

 

 ロケット団が暴れていたと思われる場所は、倒壊こそしていなかったが多くの建物が破壊されており、道路にはガラス片や壊された建物の一部が瓦礫として転がっていた。

 付近には警察や町の人達がポケモン達と協力し合って、それらの瓦礫の撤去や逃げ遅れた人や負傷した人はいないか忙しなく動き回ってもいる。

 普通の一般人なら、あまり現場に近付いたり彼らの作業の邪魔をしないようにするところだが、目的があってこの町に来た彼は周りに気を付けながら進んでいく。

 

「さて、探すとするか」

 

 育て屋老夫婦に持たされた写真に写っている少女の姿を確認しながらゴールドは呟く。

 急かされる形で大急ぎで駆け付けたが、既に事件は落ち着いてから一日以上過ぎている。

 こういう緊急事態では避難所として機能するポケモンセンターにいるだろうと最初は考えていたが、そこでは彼女らしき姿は見られなかった。

 

 もしかしたら事件に巻き込まれてまだ現場――最悪取り残されている可能性が。

 

 そう考えて、こうして現場にまでやって来たゴールドは、彼女の姿は無いか周囲を見渡していた時だった。

 どこからか何かが崩れる様な音と共に誰かが張り上げる声が響き渡った。

 

「ロケット団だ!! 止めろっ!」

 

 聞こえた声と音にゴールドは反応して振り返ると、どこから現れたのかドリルポケモンのニドキングが、目にするものは手当たり次第に破壊して暴れ回っていた。

 トラブル発生と見た彼は正義感も手伝ってすぐに向かおうとするが、暴れるニドキングから離れる様に走る数匹のオドシシに跨る見覚えのある黒い服を着た集団にも気付く。

 暴れるニドキングよりも逃げる集団を追い掛けるべきか彼は一瞬迷うが、直後に頭上を何かが衝撃波を撒き散らしながら通り過ぎ、発生した暴風に煽られてゴールドは倒れ込んだ。

 

「な、何だ?」

 

 急なことに理解は追い付かなかったが、すぐにそれが何なのかわかった。

 体を起こしている間に、逃げていたオドシシの集団が砕けた地面と一緒に打ち上げられる様に蹴散らされたのだ。

 そしてその中心には、彼には見覚えのあるポケモン――カイリューが空気が震えていると錯覚する程に荒々しい雄叫びを上げながら立っていた。

 

 まさかと思った時、少し離れていたところで暴れているニドキングの方でも動きがあった。

 文字通り”あばれる”によって理性の枷を外したニドキングに、現場にいた警察と彼らが連れるポケモン達は手を焼いていたが、滅茶苦茶に暴れて近付くことが困難なドリルポケモンに一匹のカポエラーが勇敢に飛び込んだ。

 曲芸師の様な軽快な動きで背後に回り込んだカポエラーは、荒れ狂うニドキングの肩に飛び付くと、即座に全身を使ってその腕に関節技を仕掛けた。

 鈍い音を響かせた直後、ニドキングは悲鳴を上げるが、すぐに空いている方の腕でカポエラーを引き剥がすと力任せに放り投げる。

 

 受け身を取れなくてカポエラーは激しく建物に叩き付けられてしまうが、そのカポエラーの横を入れ替わる様に骨らしきものを手にしたブーバーがニドキングへ駆ける。

 気付いたニドキングは怪力に任せて、建物を殴り付けることでコンクリート片などをブーバー目掛けて飛ばす。

 正面から真っ直ぐ突っ込むブーバーは、散弾銃の様に飛来して来る瓦礫を機敏な動きで隙間を掻い潜る様に避けていく。そして避けながら手に持った”ふといホネ”を投げる”ホネブーメラン”と、掌に発生させた”めざめるパワー”を楔形の光弾として手裏剣の様に放った。

 

 威力も飛ぶ速度もそれぞれ異なる攻撃に、ニドキングは体を仰け反らせて、時間差で飛来する光弾と骨を上手く躱す。

 だが、その隙を突くかの様に何時の間にか横から滑り込んだゲンガーが、ブーバーの攻撃を回避したことで無防備になった胴目掛けて正面から”シャドーボール”を撃ち込む。

 そしてゲンガーとは真逆の方向から飛び込んだサンドパンが、”シャドーボール”を受けて怯むニドキングの頭と同じ高さにまで跳び上がると、その首筋目掛けてアクロバットな動きで”きりさく”の一閃を決める。

 流れる様な連携と息付く間を与えずに次々と繰り出される連続攻撃に、あれだけ暴れていたドリルポケモンは地響きを立てながらその巨体を崩す。

 

「す…すげぇ…」

 

 短時間の内に様々なことが起きたが、瞬く間にそれらが鎮圧されたことにゴールドは唖然とする。

 彼が知っているのはカイリューだけだが、今の戦いを見ただけでも参加したポケモン達のトレーナーが誰なのか容易に想像出来た。

 

「これ以上はダメだから! 後は警察の仕事!」

 

 どこからかこれまた聞き覚えのある声がゴールドの耳に入る。

 数匹のオドシシを蹴散らしたカイリューの方へ改めて視線を向けると、まるで怒っているかの様に興奮しているカイリューを青い帽子を被った少年――アキラがエレブーと一緒に必死で止めていた。

 

 予想通りの人物、更にはまだ底が知れない彼らの強さの一端を見せられた気分ではあったが、知り合いがいることにゴールドは少しだけ安心感を覚えた。

 けどアキラが連れているポケモン達のお陰でロケット団を抑え込むことは出来たが、今の騒動の影響か現場は慌ただしくなっていた。

 状況から見て、カイリューを止めている彼に挨拶するのも兼ねて微力でも手伝いに向かおうかとゴールドが考え始めた時だった。

 

「――見っけ」

 

 念の為、写真を見直して確認するが間違いない。

 さっきまでニドキングが暴れていた場所に、警察や有志の市民に混ざって動く長い髪を二つ括りにした少女――探し人であるミカンがそこにいた。

 思いの外アッサリと見付けることが出来たが、何故彼女が避難所では無くてこの場にいるのか不思議ではあったが、自分同様に何か目的があるのだろう。

 遠目でハッキリとは見えないが、まるで彼女が()()()()()()()()かの様に周囲の人と話し合っている風に見えるのも気になったが、すぐにゴールドは彼女の元へ向かった。

 

「そこのお嬢さん、俺も手伝うぜ!」

「? え、えぇ…」

 

 どことなくカッコ付けながら、ゴールドはミカンと思われる少女に声を掛ける。

 彼の人助けをしたい気持ちは本物ではあったが、ミカンを見つけると言う目的を達成したことや騒動が落ち着いたが故の余裕も生まれていたからか、彼女に良い所を見せたいという思惑も若干ではあるがあった。

 一方、唐突に現れた少年に声を掛けられたのに驚いているのか、振り返った彼女の表情は少し困惑していた。

 

「えっと、貴方は……」

「俺の名はゴールド。育て屋老夫婦に頼まれて――」

「こんなところで何をやっているんだゴールド」

 

 いざミカンに自己紹介をしようとした時だった。

 まるで遮るかの様なタイミングで、第三者の声が彼の名を呼ぶ。

 

 普段だったら、この空気を読まずに声を掛けた人物に対して大なり小なりで苛立ちを露わにするところであったが、今回ゴールドはそうはしなかった。

 一つは、折角声を掛けたミカンにそんな一面を見せたくなかったこと。

 そしてもう一つは、声を掛けた人物が何者なのかを知っているからだ。

 

 振り返るとゴールドの予想通り、何とか宥めたのか不満気な雰囲気を漂わせたカイリューを引き連れたアキラが立っていた。

 空気読めよ、と言いたいところだが、ゴールドの中で彼は真面目に分類されるのに加えて、自身よりも少し年上とは思えないくらいに考え方が固い人間だ。

 恐らく知り合いがチャラチャラした振る舞いで面識の無い少女に声を掛けるなど、軽薄なものだと考えているから止めているつもりなのだろう。

 今までの経験とアキラに抱いている人物像から、彼は勝手にそう決め付けていた。

 

「アキラさん、お知り合いですか?」

「知り合いと言えば知り合いですね。ミカンさん」

「え?」

 

 ところが、予想に反して会話のやり取りから二人は面識があったことにゴールドは呆気に取られる。

 だが、そんな彼を余所にアキラは話を進める。

 

「もう一度聞くけど、何でここにいるの? もしかしてロケット団の話を聞き付けて駆け付けてくれたのか? それなら悪いけど、ゴールドの出番はもう無いと思うぞ」

「いや、ロケット団とは別件の用事があって…」

 

 言葉に詰まるが、横で不思議そうにキョトンとした顔を浮かべているミカンの様子を窺ったゴールドは、とにかく今一番知りたいことを尋ねることにした。

 

「――ちょっとこの人と話していいかな?」

「? 良いですけど…」

 

 首を傾げるミカンを余所に、ゴールドは愛想笑いを浮かべながらアキラを引き摺って彼女から距離を取りつつ、耳元に囁く様な小声で話し始める。

 

「ちょっとアンタ、何時からあんな可愛い子と知り合ったんですか?」

「…何を言っているんだお前は」

 

 真剣な目で大真面目に尋ねるゴールドとは対照的に、アキラは冷めた目で露骨に呆れていた。

 普段の彼は性格的に軽い人間なのは知っていたが、いざ目の当たりにすると周囲や将来の仲間が呆れるだけでなく、チンピラ扱いしたり小言を言うのも良くわかる気がした。

 とはいえ、ここに来たという事は何か理由があるだろうから、状況も含めて教える事にはした。

 

「――ミカンさんと会ったのは最近だ。どうやら偶然この町に来ていたらしくてね。今この町のジムリーダーがいないから、彼女が代わりに暴れたロケット団の後始末や復興作業の現場指揮を担っていて、俺はそのお手伝いをしているってところ」

「…なんでミカンちゃんが復興作業とかを仕切っているんッスか?」

「ミカンさんはジムリーダーだからね。非常時の現場指揮やトラブルの対処も仕事の内だ」

「え? ジムリーダーって…マジ?」

「マジもマジだよ」

 

 予想通りのゴールドの反応にアキラは溜息を吐く。

 ジムリーダーの知名度はそこまで低い筈では無いのだが、彼はあまり興味が無いのだろう。

 

「まあ…手伝いをしているとは言うけど、警察への説明とかで一旦離れている先生――俺の師匠の代わりにミカンさんが俺達のお目付け役を担ってくれていることもあるから、自然と手伝う感じになっているところもあるけど」

「お目付け役って、どういうことなんッスか? 何か穏やかな感じじゃ無さそうなんだけど」

「リュット達の様子を見ればわかるよ」

 

 アキラが顔を向けて示した先にゴールドも目を向けると、さっきまで彼と一緒にいたカイリューが何時の間にか事件現場付近の上空を浮遊していた。

 続けて周囲を見渡して見ると、さっきニドキングを倒した面々も含めた何匹かのポケモン達が警戒した様子でうろついているのが至る所で見られた。

 ゴールドは知らないが、アキラが連れるポケモン達の多くは、ロケット団の様な悪事を働く存在に対する敵対心はとても強い。

 特にカイリューは過去の経験故に憎悪と呼べる感情が強く。さっき戦いを終えたばかりである筈なのに、まだどこかに残党がいないか探すのに躍起になっていた。

 

 既にロケット団の大半は撤退しているが、先程起きた出来事みたいに逃げ遅れて隠れているのや捕まった仲間の救出、何かしらの情報収集が狙いかは不明だが出没するロケット団はまだいる。

 しかもさっきのニドキングみたいに、下っ端程度の実力では言う事を聞かないポケモンを捨て駒と割り切って陽動に使うのだからタチが悪く、まだ完全な意味で終息した訳では無かった。

 

 そういう理由が重なり、アキラは手持ちの監督をしながら彼らの気が済むまでやらせるだけでなく、シジマが戻って来るまで復興作業の手伝いや警察の対処が難しい相手が現れた時の対抗する戦力の役割も兼ねることにした。

 だけど、”スズの塔”でロケット団本命との大激戦を繰り広げた影響で体を少し痛めていたこともあって、調子は万全とは言い難かった。

 それら要因から不安を抱いた彼の師であるシジマは、警察への説明の為にこの場から離れる前に、偶然訪れていたミカンに町の様子に気を配るだけでなくアキラ達のお目付け役も頼んでいた。

 

「随分と殺伐としているッスね。ミカンちゃんには荷が重く無いッスか?」

「勿論他人任せにするつもりは無いよ。それとさっきも言ったけどミカンさんはジムリーダーだ。さっき暴れていたニドキングだって、簡単に抑え込めるくらい強いよ」

 

 彼女が務めているジムはここでは無いが、専門とするポケモンのタイプは近年公式に確認されたはがねタイプだ。

 数こそまだ少ないが、既にはがねタイプの代表格にしてイワークの進化形であるハガネールをミカンは手持ちに入れている。

 はがねタイプの特徴は高い防御力だ。彼女が連れているハガネールなら、硬いだけでなくその巨体で相手を圧倒したり抑え付けることも出来る巨大戦力だ。

 今はアキラが警察がロケット団の対応に苦戦した場合に備えた用心棒みたいな役目だが、自分がいなかったら代わりに彼女が担っていてもおかしくはない。

 

「まあ、俺がミカンさんと知り合いなのはそういう事情があるって訳だけど、ゴールドの方はどうしてここに来たの?」

 

 一通り事情を説明した後、今度はアキラの方がゴールドに尋ねる番だった。

 彼の性格はある程度知っている。この町にやって来たのも、大方ロケット団に関する情報を耳にして、シルバーがそこいる可能性と正義感で首を突っ込んできたといったところだろう。

 そう考えていたが、ゴールドが語り始めた理由はアキラの予想とは違っていた。

 

「俺は前までお世話になった育て屋の爺さんと婆さんに頼まれて、二人の知り合いのミカンちゃんが無事かどうか探しに来たんですよ」

「――そうなのか。それなら早くその育て屋の人達にミカンさんが無事だったのを伝えないとな」

「そうッスね。どうも俺が今連れているトゲたろうがミカンちゃんと関係が――」

 

 そこまで喋った途端、ゴールドは何かを思い出したのか、少しずつ気まずそうな表情に変わり始めた。

 

「どうしたゴールド?」

「……ぁ~、ちょっと耳を貸してくれないッスか?」

 

 あまり周りに聞かれたくないのか、目に見えてゴールドは顔を強張らせると周囲を気にしながら手招きをする。

 そんな彼にアキラは怪訝な表情を浮かべながらももう一度耳を近付ける。

 

「実は俺、今ミカンちゃんに関係のあるポケモン――トゲピーを連れているんッスよ」

「そうなの? なら早くミカンさんに教えてあげたら? 今は忙しいから後が良いだろうけど」

「そうしたいのは山々なんッスけど、そのトゲピーがちょっと……博士曰く”不良”っぽくて」

「――つまりゴールドに”ソックリ”?」

「あぁ…いや…その……何て言えば良いんだろうなぁ」

 

 アキラの指摘にゴールドは大量の冷や汗を掻きながら態度がハッキリしなくなるが、細かく挙動を観察しなくても図星だと判断するのは容易だった。

 まだゴールドは自覚していない様子だが、彼の手で卵から孵したポケモンは潜在能力を最大限に発揮した状態で生まれるという特徴があることをアキラは知っている。

 加えて生まれながら彼の感情や芯の強さも受け継いでいる。

 それが彼が持つ図鑑所有者としての代名詞、”孵す者”の所以だ。

 ただし、能力の制御が出来ていないのか定かではないが、性格は孵させた当人ソックリになるという問題がある。

 

 戦いの時は心強いのだが、平時でのゴールドは手の掛かるトラブルメーカー気質だ。

 そんな彼と性格が同じ――それも愛らしいポケモンとして人気のあるトゲピーがだ。まるで遠い記憶にあるピッピが主人公のギャグ漫画みたいな話である。

 

「リュットとかの我の強い面々を手持ちにしている俺から良い抑え方や性格の治し方を知りたいと思っているなら、その期待には応えられないよ。ポケモンの行動や考えをトレーナーの都合で抑えるってのは、デリケートなものだから」

「そんなことは言われなくてもわかってるけど、冷たい事は言わずに知恵を貸してくれよアキラ先輩~」

「調子の良いことを言うな。大体、俺はお前の先輩じゃない」

「アキラの兄貴~」

「兄貴でも無い。ふざけているならまともに取り合わないぞ」

「かぁ~~! 冗談が通じないっスね! どんだけアンタの頭は化石みてぇに固いんだよ!」

 

 思わずゴールドは暴言紛いな不満を口にするが、アキラは気にせず流す。

 彼のふざけた縋り方を見ると、最近は地元に貢献しながら趣味名目でサイクリンロードを爆走しているであろう暴走族の知り合い達を思い出してしまうのだ。

 本気で困っているのならふざける余裕は無い筈だろうから、「実はあまり困っていないのでは?」と言うのが彼の認識であった。

 

「二人ともどうしたのですか?」

「いやっ! ただ久し振りに会ったので色々積もる話がありまして!」

「そうですか」

 

 ゴールドが口にした咄嗟の嘘にミカンは納得するが、改めて彼はアキラに小声で話し始める。

 

「頼むッスよ。何か良い方法は無いのか?」

「変に誤魔化そうとするのは無理だと思うから、正直に言うのが一番だと思うよ。生まれた時からその性格ならもう仕方ない。すぐに如何にかする何て無理だ」

「正直に言ったらどんな反応されるのかが目に見えてるから頼んでいるんッスよ。博士にだってすっげぇ怒られたんだから、折角会えたミカンちゃんに嫌われたくねぇよ…」

 

 徐々にゴールドは本気で縋り始めるが、それでもアキラは呆れた眼差しを向ける。

 トゲピーの両親がどういう性格をしているのかは知らないが、全く正反対の性格だったら自覚していない彼の”孵す者”としての能力を除いたとしても、もう突然変異として扱うしかない。

 だけど正直に話したくない理由が、”折角会えた女の子に嫌われたくない”などアキラにとっては論外ではあるが。

 

 どうしようかと真面目に考える気が失せた頭でぼんやりと考え始めるが、唐突に彼は弾かれたかの様に空を見上げた。

 その直後、彼らの上空を何かが軽い衝撃波と巻き上げた砂埃を撒き散らしながら高速で通り過ぎ、二人の体も発生した暴風に煽られて倒れる。

 

「うぇ…またかよ」

「リュットの奴、また何か見つけたな。ミカンさん、リュットを追い掛けます!」

 

 突然の事態にゴールドは混乱していたが、アキラはたった今上空を通過したドラゴンポケモンの行動を察する。

 この数年の間で昔と比べれば大人しくはなっているが、それでもロケット団みたいなのが相手の場合、多少は後先考える様にはなったもののそれでも止めなければ度が過ぎるくらいカイリューは暴れる。

 そしてそう時間が経たない内に、少し離れた場所で何かが地面に叩き付けられて砕ける音が響き渡った。

 大方ロケット団の残党でも見つけて、先制攻撃を仕掛けたのだろう。ロケット団の悪事を止めるのはありがたいことだが、さっきと同様にやり過ぎない様に早く止めに行った方が良い。

 

 そんなことを考えながらアキラが走り始めたのと同じタイミングで、別の場所でバラバラに動いていた他の彼の手持ち達もカイリューの元へ急ぐ。

 加勢を考えるのもいれば、アキラ同様に暴れているであろう仲間を抑えることを頭に浮かべるなど理由は様々だ。

 だが、カイリューとの合流を急ぐ彼らの目指す先で、突如として大量の砂を巻き上げた竜巻の様なものが起こった。

 

「な! なんだありゃ!?」

 

 アキラの後を追っていたゴールドは驚き、走る速度こそ緩めなかったがアキラは眉を顰める。

 竜巻の勢いはすぐに弱まったが、それでも付近に吹き荒れる砂混じりの嵐はまだ収まった訳では無かった。

 今起こっている”すなあらし”は、間違いなくポケモンの力によるものだ。

 あれだけの規模と威力の”すなあらし”を起こせるとしたら、それなりに力を有したポケモンと言えるだろう。

 もしかしたらカイリューはとんでもないのを相手にしているのでは無いかと、彼は警戒を強めると徐々に見えてきた砂嵐の中に浮かぶ二つの影に目を凝らす。

 

「…嘘だろ?」

 

 砂嵐の中心で対峙している二つの影、一つはカイリューではあったが、もう一方の姿にアキラは驚く。

 

 カイリューと同じ二本足で直立し、鎧を彷彿させる屈強な外見をしたポケモン。

 よろいポケモンのバンギラスだったのだ。

 

 誰が連れて来たのかまではまだ確認していないが、まさかカイリューが敵と認識した相手がバンギラス程のポケモンを戦力として引き連れているのかとアキラは更に警戒を強める。

 だけどカイリューが対峙しているバンギラスに彼自身、直感的に既視感と言える不思議なものも感じてもいた。

 まるで一度戦ったことがある様な――それが一体何なのか思い出そうとした時、バンギラスの少し離れた後ろで背を向けて走る存在にアキラは気付く。

 

 赤い髪に黒っぽい服を着た少年。

 それらの特徴を見て、すぐに思い浮かぶ人物はアキラの中では一人しかいなかった。

 

「待てシルバー!!」

 

 アキラよりも先に、ゴールドが彼の名を大きな声で呼ぶ。

 しかし、シルバーは彼の声にも荒々しく吠えながらカイリューと激突するバンギラスも顧みることなく走り去るのだった。




アキラ、ゴールドと合流するだけでなくシルバーにも遭遇する。

アキラはゴールドの軽い振る舞い、ゴールドはアキラの頭の固さにそれぞれ呆れていますが、あんまり深くは捉えていないので何やかんやで上手くやっていくと思います。

更新頻度と更新時間は最後に更新した時と同じになります。
次回は27日に更新します。

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