「アキラ、本当にこの町なのか?」
「は、はい。この町に着いてから”運命のスプーン”は元に戻っているので、恐らくここが目的地だと思います」
シジマの問い掛けに、アキラは手に持った”運命のスプーン”を見ながら自信無さげに答える。
今二人は、スプーンが先を示し、そして元に戻った場所である木造建築が目立つ古風な町であるエンジュシティにカイリューに乗ってやって来ていた。
まさか師も一緒に来てくれるとはアキラは思っていなかったが、この町でロケット団が何かを起こすことを考えると心強くもあった。
どれだけ力を身に付けたり強くなったことを自覚しても、頼りになる存在は有り難いものだ。
「ロケット団か知らないが、このエンジュシティで何かが起こるのか…ならばマツバに会って話す必要があるな」
「マツバって、この町のジムリーダーですか?」
「そうだ。今回は着くまで場所はわからなかったが、もし場所がわかってもいたらマツバにも備える様に連絡出来ただろう」
予め向かう場所がわかるのなら、事前にその町や近くにいるジムリーダーに連絡して警戒を促すことが出来る。
そうすれば、万が一ロケット団が何か事件を起こしても迅速な解決が可能だ。そしてシジマとしては、ジムリーダーも何時でも動ける状態にすることで、強いとはいえまだ子どもであるアキラが戦いに遭遇する際の危険も減らすことが出来ると考えていた。
今のジョウト各地の状況は、当初のシジマの想定を軽く超えていたが、それらに関わるアキラの働きも彼の予想を超えていた。
わかってはいたがこの町に来る前の彼の様子を見れば、もし戦いに関わる許可を出さずに止める様に言っていたとしても、アキラとポケモン達が止まる事は無いとシジマは改めて理解した。
なので今回彼がアキラに付いて来たのは、もしロケット団と遭遇したら彼がどんな風に戦っているのかをこの目で確かめることも意図にあった。
エリカの話では単に考え無しに戦っている訳は無く引き際も見極めているらしいが、もし無謀だったり危ない戦い方をしているのなら、その辺りを指摘したり意識して改善する様に注意をしておかなければならない。
そんなことを考えながら、シジマはアキラを連れてエンジュシティにあるマツバがジムリーダーを務めるエンジュジムへと足を動かす。
「あっ、先生待ってください」
歩き始めたシジマの後をアキラが追い掛けようとした時、彼のすぐ傍を何台ものボックスカーが少し異様に速いスピードで走り抜けていき、思わず彼はその場から飛び退けた。
この世界にも車は存在しているが、ポケモンやより高性能な個人用のエアバイクなどが存在しているので、何人もたくさん乗れる大型の車が複数走るのはかなり珍しい。
「あっぶないな。どこの団体さんだ」
車のナンバーを覚えようと目を凝らすが、既に通り過ぎた車は曲がってしまって見ることは出来なかった。
観光客なら観光バスを利用する筈だ。ボックスカーが何台もなると身内やご近所付き合いの集団なのかもしれない。しかし、どこか違和感を感じるところもあったが、道の向かい側で待っているシジマを待たせる訳にはいかないので急いで合流して付いて行く。
エンジュシティにあるジムは観光客で賑わっている場所から離れたところにあるのか、歩いて行く内に人通りは少なくなっていく。
町の様子は以前訪れた時と変わらず、観光客が多く賑わっており、警官かどうかはわからなくても周辺を警備していると見られる人が何人も見られた。
他の街を見て回って気付いたことだが、この警戒している人が何人も見られるのはエンジュシティに限らず、ジョウト地方最大の都市であるコガネシティなどの多くの街でも似た様な感じだ。
どこの町もロケット団に事件を起こされるのを未然に阻止し、かつてのカントー地方のヤマブキシティの様に町が丸ごと占拠される事態を防ごうとしている。
このジョウト地方でのロケット団の暗躍が何時かは終わってくれることをアキラは知ってはいるが、自分以外は誰も何時終わるのかわからないロケット団の脅威に怯えたり、神経を尖らせている。
全てを信じて貰えるのなら、ヤナギが黒幕だということを皆に教えて、その拠点があるかもしれない場所へジムリーダー達やレッド達と一緒に殴り込みに行って全てを終わらせたいくらいだ。
だけど、それは元の世界で漫画と言う神様的な視点だったからこそ知る事が出来た情報と結果だ。そんな自分にしか正しさや正確さが理解出来ない情報など論外だし、何故そう考えたのかと言う誰もが納得出来る過程や客観的な証拠が無ければ、信じて貰うのは難しい。
結構証拠が有りそうなマチスやナツメ、キョウさえもロケット団の幹部どころか関わっていた証拠が不十分扱いだったのだから、余程確固たるものでなければならない。
色んな考えがアキラの頭を過ぎっては消えていくが、今回の戦いも早く終わって欲しい。
そう彼が願った直後だった。
突然、何かが爆発する様な大きな爆音が周囲に轟いたのだ。
アキラとシジマは急いで音がした方へと振り返ると、その方角に見える町から黒煙らしきものが空へと昇っているのが見えた。
しかも爆発は一回だけでなく、最初より小さいがその後も爆発する音が連続で轟き続けていた。
「どうやら、お前が言うスプーンが示すのは本当だったみたいだな」
「…えぇ」
あまり嬉しく無い形での証明にアキラの返事も歯切れが悪かった。
人々が行き交う町の中での爆発、記憶にある町そのものが壊滅するレベルの人為的な大地震と比べればマシかもしれないが、それでも大きな被害であることには変わりない。
そして最初に起きた爆発と同じくらいの大きさの爆発が再び起こったタイミングで、アキラとシジマは今も黒煙が上がる町の方角へと走り始めた。
「アキラ! お前はマツバのところへ行ってこの事を知らせるんだ! さっきの道を真っ直ぐ進んだ先に大きな建物があるからすぐにわかる筈だ!」
「え!? 先生は!?」
「俺はジムリーダーだ! 自分のジムがある町では無いが人々を守る義務がある!」
「……わかりました。気を付けてください先生」
それからアキラはモンスターボールからカイリューを出すと、素早くドラゴンポケモンの背に飛び移って彼らは空へと舞い上がった。
反対方向へ飛んでいく彼らを見届ける間も無く、シジマは何が起こっているのかわからずに立ち止まっている人々の間を抜けて、今も尚爆発音や破壊の音が響く現場へと急ぐのだった。
「え!? マツバさんはいない!?」
訪れた自分の対応しているお坊さんの様な姿のジムトレーナーからの説明にアキラは動揺する。
カイリューに乗って数分も経たない内にエンジュジムに着いたアキラは、声を上げながら固い鉄製の扉を何度も殴り付けて、居るであろうジムリーダーマツバを呼ぼうとした。
しかし、代わりに出て来たのジムトレーナーが言うには、ジムリーダーであるマツバは数日前に仕事の依頼で町を発っており、現在は不在だと言う。
「えっと、君はジム戦希望者なのかな?」
「全っ然違います!!! さっきエンジュシティの町で爆発が起こって大変なことになって、今先生――タンバジム・ジムリーダーのシジマ先生が対応しているんですよ!」
「え? 町が大変?」
相手の察しの悪さに焦っていることも重なって、アキラとカイリューは揃って似た顔付きの苛立ちを見せる。
何が起こっているのかを詳しく説明しようとした時、別のジムトレーナーが慌ててやって来た。
「大変だ! 今エンジュシティの町中でロケット団が暴れているって警察から連絡が!」
「え? ロケット団が何で?」
どうやら対応しているジムトレーナーの察しが他より悪いだけらしい。
自分の運の無さにアキラは肩を落としそうになったが、改めて説明する。
「だから言っているじゃないですか! 今さっきエンジュシティで爆発があって、それの対応の為にタンバジム・ジムリーダーのシジマ先生が動いているんです!」
「えぇ? 何でタンバジムのジムリーダーがこの町に来ているの?」
「そんなことは如何でも良いだろ。俺達も急いで行くぞ!」
応援を要請する連絡もあったのか、エンジュジムに所属しているジムトレーナーらしき人達が何人も煙が上がっている方角へと走って行き、彼らの姿を見届けていたアキラとカイリューは互いに顔を合わせる。
「俺達も行こう」
彼の言葉にカイリューも両手を鳴らしながら同意する。
カイリューとしてはロケット団が何の目的で暴れているのかは知らないが、あの黒い服を着た連中が性懲りも無く悪事を働いていることを考えるだけでも腸が煮えくり返る様な怒りが込み上がっていた。
今回も容赦はしないし逃がすつもりも無い。文字通り血祭りに上げてやる。
息を荒くするドラゴンポケモンの背中にアキラは乗ろうとしたが、唐突にその動きを止めた。
「…ちょっと待って」
今にも飛び出しそうなカイリューにそう告げると、アキラは真剣な目で頭を働かせ始めた。
被害の規模はわからないが、確かに今も騒ぎが続いているエンジュシティの町中でロケット団が起こした出来事は大事件だ。
だけど、その目的や狙いが全くわからない。
今は全盛期よりも団員の数は減っている筈だ。一部の団員が勝手に暴れ始めたとしても、町中で派手にやる理由がわからない。
それらの疑問に加えて、元の世界でこの世界を漫画として読んでいた時の記憶をアキラはエンジュシティでの出来事だけでなく、近い時期に起こる出来事まで含めて頭に浮かべた。
ヤナギの最終的な目的はセレビィを手にすることだ。
それにはホウオウとルギアの力が必須であること、そしてエンジュシティはこの二匹の伝説のポケモンと縁が深い町だ。けど直接的に関係があるのは、この町で一番の観光名所であると同時に少し離れたところにある”スズの塔”と”焼けた塔”だ。
中でも”スズの塔”は、観光本やこの世界で読んだ本などの資料でも、ホウオウが降り立つ場所とされていて神聖視されている。
「まさか…」
そこまで考えたことである可能性に気付いたアキラは、その視線を未だに煙が上がるエンジュシティの町では無く、更なる先に薄らと見える塔らしき建物へと向けた。
「町に向かった部隊より報告が有りました。陽動作戦を開始したとのことです」
「よし。そのまま警察共の注意を引き付ける様にしろ」
連絡を受けた団員からの報告にカーツは指示を出すと、改めて周囲で動いている部下達の動きを見る。彼が今いる”スズの塔”の周辺では、黒尽くめの服の集団――ロケット団がある目的の為に数多く動いていた。
警備をしていた者は数名いたが、それらはカーツとシャムの手によって負かされて、今は適当なところに縛り上げられて放置されている。
彼らがロケット団の新首領である仮面の男から任された任務、それはホウオウが降り立つとされる”スズの塔”を攻撃することで、塔を住処と認識しているホウオウの帰巣本能を怒らせることで刺激して自分達の前に呼び寄せることだ。
あくまでも仮説なので、本当にホウオウが降臨するとは限らないが、万が一姿を見せたら捕獲することも目的にあるので動員している団員達はかなりの数だ。
エンジュジム・ジムリーダーであるマツバの留守を狙ったのも、伝説のポケモンとの交戦も想定に入れている関係上、下手に実力者と戦うことで消耗することを防ぎたかったからだ。
そして先程の連絡を送って来たのは、警察などの他に障害になりそうな存在の注意を引き付ける為に陽動作戦を実行している団員達だ。
何も知らない者からすれば、突然ロケット団が町を襲うのにパニックになりながらも対処に手一杯になり、本命が別にあるまで考えは回らないだろう。
それがカーツが陽動作戦を実行した理由でもあった。
今回の任務で彼らが最も警戒しているのは、ジムリーダーとは違って行動の自由度が高いだけでなく神出鬼没なアキラだ。
これまで得た情報が正しければ、もしアキラが今この町に来ていたら、何かしらの事情が無い限り間違いなく騒ぎが起きている町の方へ向かうだろう。
仮に町への襲撃が陽動だと気付いても、目の前で暴れているロケット団を見過ごす訳にはいかないだろうし、目的まで理解していなければ”スズの塔”が本命だとは思わないだろう。
だけど油断は禁物。
今は全ての作戦が順調且つ上手くいっているが、まだアキラの目撃情報は無いのだ。
何が起きようと任務をやり遂げるまでは一切気を緩めるつもりは無い。
そう決意を新たにしていた時、陽動部隊からの連絡を担当していた団員が声を上げた。
「大変です! タンバジムのジムリーダーであるシジマらしきトレーナーが警察に加勢しているとの報告が!」
「何!?」
全く予想していなかった報告にカーツは驚きを露わにする。
エンジュジムのジムリーダーであるマツバが今町にいないことは確認済みだが、何故遠く離れたタンバジムのジムリーダーがエンジュシティにいるのか。
そこまで考えた時、最近知ったある情報がカーツの脳裏を過ぎる。
タンバジムのジムリーダーのシジマは、今彼が最も警戒しているアキラが師事している人物だ。
海を越えた先のタンバシティでジムリーダーを務めているシジマがエンジュシティに来る理由など、弟子のアキラがエンジュシティで何かが起こる事を教えて連れて来た以外に考えられない。
「他に何か報告は!? シジマと一緒に青い帽子を被った少年、事前に教えたポケモンを率いる少年は見たのか!?」
「いえ、その様な報告は…」
「クソ!」
想定外の事態が起こることは頭に入れていたが、まさか警戒対象が二名に増えるとは思っていなかった。
警察だけならまだしも、自分達でも本気を出したジムリーダーが相手では苦戦は必至だ。ジムリーダーが警察に加勢したのなら、今町で陽動として暴れている下っ端達ではまず勝てない。
思っていたよりも時間を稼ぐことは出来ないかもしれないが、カーツが問題視しているのはシジマが現れたのにも関わらず、彼を連れて来たと思われるアキラの姿が報告されないことだ。
師匠と弟子、師の方が姿を見せているのに弟子の方が姿を見せない理由は一体何なのか。
その理由についてカーツが急いで考え始めた、その時だった。
何かが”スズの塔”の近くに轟音と共に土を舞い上げて落ちてきたのだ。
「――まさか…」
半信半疑ではあったが、悪い可能性の方に思考が傾いていたカーツは土煙の中に紛れて見える巨大な影に冷や汗を流す。
やがて衝撃で舞い上がった土が収まると、余程の勢いだったのか蜘蛛の巣状に割れた地面の中心に、三点着地の姿勢で降り立ったドラゴンポケモン――カイリューがその姿を見せた。
「…来てしまったわね」
「あぁ……
カイリューが姿を見せた時点で、カーツとシャムは悟った。
最も警戒すべき存在――アキラがこの場に現れたのだ。
体を起き上がらせたカイリューは、目の前に大勢いるロケット団の姿を目にしたからなのか荒々しく息を吐くが、背から降りたアキラはロケット団の数よりもまだ何も起きていなさそうなことに少しホッとしていた。
今この間にも、エンジュシティではロケット団が暴れるなどの被害は出ているが、それでもまだ記憶にある町全体が崩壊する様な大災害は起こされていない。
これから奴らがその大災害を起こすところだったかもしれないが、何がともあれアキラの視線は大勢いるロケット団の中でも異なる服装をしている男女二人へと向けられる。
前にカイリューが片付けたロケット団や今目の前に大勢いる下っ端達とは明らかに違う雰囲気。
イツキとカリンとは違って、アキラは名前を殆ど憶えていなかった。元の世界で該当する話を見れば思い出せるかもしれないが、知らないと言っても変わりないくらい思い出せないとなると、恐らく元の世界ではあまり印象に残る活躍をしていないからだと思われる。けど、一目でアキラはその二人が、ロケット団三幹部に相当する存在だと察した。
「ロケット団、何が目的かは知らないけどここが本命だな」
アキラの確信を突いた発言に、ただでさえ動揺していた団員達だけでなく、幹部であるカーツとシャムにも緊張が走った。
何故目的も知らない筈なのに、この”スズの塔”が本命と彼は考えたのか。偶然にしては明らかにおかしい。まさか奴も”スズの塔”に関して、普通は知られていない情報を知っているからこの場所が怪しいと見て駆け付けたのか。
様々な考えがカーツの頭の中を過ぎっていくが、まさかアキラが忘れ気味であるとはいえ今のロケット団を率いるリーダーの目的やここが伝説のポケモンと縁が深い場所だと知っていたからこそ来たとは、夢にも思わないだろう。
「…シャム」
「えぇ、総員戦闘態勢!!」
アキラが幹部と見た女――シャムが声を上げると、周囲にいた団員達は各々自らが連れている手持ちポケモンを出す。
それらの動きに注意しながら、アキラはポケギアを取り出して一緒に来ているシジマに連絡を試みていた。
自分一人で動いているのなら、後で何があったのかを報告するだけで良いが、今回は急いでいたとはいえ一緒に来ているのにシジマに知らせること無く”スズの塔”に来てしまった。
だからこそ、ロケット団が他にいることを教えるついでに状況報告もしようと考えていたが、通信状態が悪いのか出る暇が無いのか知らないが繋がらなかった。
後で怒られそうな気はするが、今自分達が駆け付けていなかったら、奴らは記憶にある様な大災害を人為的に起こすだろう。そのことを考えると、後で師からの雷が落ちようと説教が待っていることなど気にならない。
ポケギアでの連絡を諦めると、彼はカイリュー以外の手持ち全員をモンスターボールから出す。
今回アキラは、大規模戦闘を想定して六匹だけでなく全ての手持ちである九匹を連れている。そしてこれから起きる戦いは、以前の様に偶然ロケット団を見つけた訳でも無ければ、ウバメの森の様に後輩の三匹の成長を促す時でも無い。
出て来てから戦う気満々である手持ちポケモン達の調子を確認したアキラは、次に目の前に立ち塞がるロケット団の大軍勢に目を向ける。
下っ端達が出したポケモンの数は、パッと見でも百に迫るのでは無いかと思える程だ。ところが一匹一匹詳しく観察していくと、どれも以前カイリューが叩きのめした団員達が連れていた個体よりレベルが低く見えた。
戦いは何が起こるかわからないもの、油断してはいけないと思っているが、正直に言うと一年前クチバシティで市街戦を繰り広げた四天王の軍勢の方がずっと手強い印象だ。
だけど相手はロケット団の大軍勢だ。過去の経験や状況的に、一年前のクチバシティでの決戦と同じだ。出し惜しみは一切しない。
「好きに暴れて良いけど、互いの背を守ったりするのは忘れない様にな」
アキラが伝えた言葉にゲンガーは喜び、ブーバーも模擬戦のダメージや疲労が抜けていない筈なのに敵を見据えながら体の各部の凝りを解す。
最近はカイリューや後輩の面々ばかりが戦っていたので、ようやく自分達にもロケット団と戦う機会が来たことに気合が入っていた。
新世代の三匹――特にサナギラスはロケット団が用意した戦力の数に緊張していたが、すぐにでも彼らを守れる位置取りでエレブーとサンドパンも堂々とした様子で構える。
ロケット団の軍勢の動向と何時でも戦える準備を整えた手持ち達の様子にアキラは注意を向けていたが、妙に一部の手持ちに気合が入っているのが少し気になった。
カイリューやゲンガーならわかるが、そこまで好戦的では無いエレブーやサンドパンも何時も以上に真剣で体に力が入っているのだ。
一体何故なのかとアキラは少し考えるが、彼らとロケット団を交互に見ている内に唐突にある事を彼は思い出した。
それは三年前、自分がこの世界にやって来て間もない頃にこの世界で出会った保護者と一緒に登ったオツキミ山でロケット団と遭遇してしまった出来事だ。
あの時は、今回の様に自分から首を突っ込んだ訳では無い不運な遭遇だったが、今と同じかそれ以上の数のロケット団を相手にして命辛々逃げ切った。
当時の経験をしたのは、自分以外にこの場ではカイリューとゲンガー、そしてサンドパンにエレブーの四匹だけだ。
あの頃は進化する前のミニリュウとゴースは自分本位に好き勝手に暴れ、エレブーはとにかく自分の身を守ることしか頭に無く、サンドに至っては力不足でアキラと同じく逃げ回るしか無かった。それが今では、感情を高ぶらせながらも仲間達と足並みを揃え、自分よりも誰かを守ることを考え、そして共に戦うのに十分な力を身に付けた。
感傷に浸っている様な状況では無いのだが、今の彼らの気持ちを考えるとアキラは何だか感慨深くなった。
彼らはあの時成し遂げられなかったことを成し遂げたいのだ。
そうだと考えたアキラは、手持ちの後ろに立つのではなく自分もまた彼らと共に戦うという意思を表明するべく、横一列に並んでいるポケモン達の列に加わった。
彼の不可解と言える動きに、対峙するロケット団達と彼らが連れるポケモン達の緊張が高まるが、彼の視線は幹部格と見た男女に向けられていた。
今この場で自分達が一番警戒すべきなのは、幹部格の手持ちポケモン達だ。
見た感じでは下っ端のポケモン達よりはずっと強いが、それでも今のカイリュー達ならば問題無く倒せるレベルだと直感的に彼は感じていた。
まずは下っ端達の壁を突破して、真っ先に幹部が連れているポケモン達を倒す。
そして、三年前は逃げることしか出来なかったロケット団を自分達の力だけで打ち負かす。
「皆準備は良いか? ――行くぞ!!!」
アキラが合図の掛け声を上げた瞬間、カイリューは翼を大きく広げると同時に”ふといホネ”を手にしたブーバーと共に雄叫びを上げながら先陣を切り、少し遅れてゲンガーや他の手持ちポケモン達も駆け出す。
筈だった。
カイリュー達が動いた瞬間、突然彼らの体はまるで何かの発作が起きたかの様に跳ね上がる様な挙動を起こしたのだ。
彼らの異変にアキラが気付いた直後、カイリューが、ブーバーが、戦意を漲らせて戦おうとしていた全ての手持ちがモンスターボールへと戻っていく。
「……え? なん…で?」
全く予想していなかった事態にアキラは唖然とした言葉を漏らすのだった。
アキラ、過去を乗り越えるつもりで挑もうとするも思っていなかった事態に唖然とする。
次回、久し振りの大規模な戦いになります。