SPECIALな冒険記   作:冴龍

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屈辱の経験

 ネイティオが放った念の波動は、一直線に起き上がろうとしているサナギラス、そしてその後ろにいるアキラへと飛んでいく。

 サナギラスに決まれば大ダメージ確実。仮に避けられても念の波動はそのまま後ろにいるトレーナーへと及ぶ。

 威力とタイミング、そして狙いもこれ以上無いイツキ達にとっては会心の一撃だった。

 

 起き上がったサナギラスは避けようとしたが、急にその場に踏み止まった。

 何故避けることを止めたのかと思いきや、サナギラスの体はドーム状の青い光に包み込まれていき、その青い光がネイティオの”サイコキネシス”を完全に防ぐ。

 それはさっきからドーブルが使っていた技である”まもる”だった。

 ヨーギラスの時は全く使う気配が無かった技をこのタイミングで使われたことにイツキの苛立ちは増すが、ネイティオの攻撃を防いだサナギラスはその目を細めた。

 

 進化したお陰なのか以前は扱いに困っていた技をイメージ通りに使えたことは、サナギラスとしては素直に嬉しいことであった。

 だけど先程自分が防いだ攻撃は、もし自分が何もしなかったり”まもる”が使えなかったら、そのまま後ろにいたアキラを巻き込んでいたかもしれないものだったのに彼は気付いていた。

 この戦いはルール無用の野良バトル、トレーナーがポケモンの攻撃に巻き込まれたり受けてしまっても、ちゃんと対策をしなかった方が悪いと言われても仕方ない勝負だ。

 

 そのことについては、後ろにいるアキラも意識して注意しているのとサナギラス自身も良く言われて理解しているので文句を言う気は無い。しかし、幾ら注意していても、このまま戦い続ければさっきみたいなのが何回も起きる可能性がある。

 そして師匠の様に自分が全て防ぎ切れる保証も無い。ならば一刻も早く目の前の敵を倒さなくてはならない。

 そう考えたサナギラスは体中にある孔から砂混じりの風を噴き出して気合を入れ直すと、再び外殻の下に隠れた鋭い顎を剥き出しにしてイツキのネイティオに再び飛び掛かった。

 

「ヤバ、なんか怒り始めたみたい」

 

 今すぐにでもネイティオを倒そうとするサナギラスの姿をイツキは怒り始めたと勘違いするが、そう解釈しても無理が無い程にだんがんポケモンの攻撃は激しさを増した。

 とにかく目の前の敵を倒すことしか頭に無いとしか思えないまでのサナギラスの猛攻にネイティオは徐々に疲れを見せていた。

 それはイツキのネイティオがあまり鍛えられていないからでは無い。寧ろ他のトレーナーが連れているポケモンと比べれば、数段鍛えられている。

 しかし、技が体の動きをあまり必要としないエスパー系が主軸で長時間激しく体を動かすことに慣れていないので、今の様に休む間もなく激しく体を動かして避けていく戦いには若干弱かった。

 

 一方の攻め続けるサナギラスの方は、我武者羅ではあったが進化したばかりなのも相俟って力とやる気に満ちていた。

 また幼いながらも格闘寄りの思考と戦い方を軸に鍛錬を重ねてきたこともあり、激しく体を動かす戦い方に慣れているだけでなく、今のペースで戦い続けられる体力もある程度身に付けていたのがこの土壇場で活かされていた。

 

「カ、カリン。何かちょっとヤバイかも」

「っ、しょうがないわね」

 

 サナギラスの鋭い牙が並んだ顎が避け続けるネイティオの体をかすり始めたのを見て、イツキはカリンに助けを求める。

 実際はちょっとどころでは無いのだが、カリンは面倒に感じながらもブラッキーを向かわせようとするが、それを阻止せんとカポエラーが回り込んで邪魔してくる。

 それを見たカリンはまだ余裕のありそうなヤミカラスを向かわせようとするが、三つの戦いそれぞれに気を配っていたアキラが口を開いた。

 

「ギラット、ネイティオの首に”かみつく”」

 

 自分の首を指差しながら、アキラは静かに()()()をサナギラスに伝える。

 ここまでの攻防で、彼はネイティオに大きなダメージを与えられるであろう部位を鋭敏化した目のお陰で把握した。

 あまりにも細か過ぎる内容の指示やアドバイスは手持ちの無用な混乱を招くが、十分に観察出来たことやそこまで細かく狙いを絞る必要も無い事も重なり、大雑把でも狙えると判断したのだ。

 

 彼が伝えるアドバイスを信頼しているサナギラスは、すぐに狙いをネイティオの首に絞り込む。

 進化したばかりの体ではあったが、その時ばかりは上手く横に転がす形で回り込むと、再び跳び上がって真横からせいれいポケモンの首に噛み付いた。

 その衝撃に今まで無表情だったネイティオは思わず目を見開くが、サナギラスは踏ん張る様に歯を噛み締めながら、背中の孔から砂混じりの風を噴射して噛み付いたまま自らの体を飛ばす。

 

「え? ちょ!?」

 

 突然のことにイツキは動揺する。

 何故ならサナギラスと首を噛み付かれたネイティオとの距離が一気に詰められたからだ。”すなあらし”を利用したジェット噴射の勢いを維持したまま、サナギラスはネイティオを木の幹に叩き付ける。それもネイティオのトレーナーであるイツキも、意図せず巻き添えにする形でだ。

 首を噛み締められるダメージと体を木に叩き付けられたダメージが重なり、ネイティオは危機感を抱く。しかも二匹と木の幹に挟み込まれる様に押し潰されたことで、イツキは伸びてしまったのか、ズルズルと体を滑らせて地面に伏せるが動く様子は無い。

 トレーナーが行動不能になったことを察したせいれいポケモンは、どう反撃するべきかを自力で急いで考え始めるが、答えを出す時間すら与えられずにネイティオの体は持ち上げられる。

 それからサナギラスは首に噛み付いたまま、ネイティオを荒々しく振り回し、何度も跳び上がっては地面に叩き付けていく。

 

「…あっちは終わりだな」

 

 サナギラスとネイティオの攻防に運悪く巻き込まれたことで気絶したイツキを見る限り、他の手持ちがいる可能性があったとしても勝敗は決したと見て良い。

 噛み付いているサナギラスも、あの様子ではネイティオが気絶するまでその攻撃を続けるだろうとアキラは見た。

 これで残る相手は、カリンが連れているブラッキーとヤミカラスの二匹だけだ。

 

「バルット、”いわくだき”!」

 

 意識を切り替えてアキラがそう伝えると、頭部の突起で独楽の様にバランスを取っていたカポエラーは体を跳び上がらせる。

 ブラッキーは身構えるが、カポエラーは二本ある足で地面を踏み締めるとさっきまで足代わりにしていた頭部の突起でブラッキーを突き飛ばした。

 

 蹴りでは無く頭突きの形で繰り出された”いわくだき”の威力に、相性の悪いタイプの攻撃であることも相俟ってブラッキーは下がる。

 既にこれまでの攻防でげっこうポケモンの息は上がっており、カリンは本格的に危機感を抱いていた。タイプ相性を考慮すればイツキに任せるべき相手ではあったが、相手を変えようにも彼らはそれを許してくれなかった。

 それどころかイツキの方は、戦いの巻き添えになる形でノックアウトされてしまった。

 

「冗談じゃないわ」

 

 ブラッキーは相性の悪さもあって防戦気味。ヤミカラスの方は、守り一辺倒ではあるがドーブルとの戦いに手間取っている。

 このままでは仮にカリンが三匹を倒すことが出来ても、控えているであろうカイリューを始めとした後続には勝てない。

 予行演習と軽く考えていた任務が、まさかこんなことになるとは夢にも思っていなかった。

 

「ヤミカラス! 一旦ブラッキーの援護に回って!」

 

 カリンの呼び掛けにヤミカラスは応じて、ブラッキーの援護に向かおうと体を反転させる。

 攻撃を防ぐ”まもる”を解いたドーブルは、”まがったスプーン”を振って光弾や念の支配下に置いた小石を飛ばすなどで反撃をするが、鳥ポケモン特有の動きで軽快に避けられてしまう。

 元の姿ではヤミカラスに攻撃を当てても、ダメージはそこまで期待出来ない。かと言ってミルタンクの姿では、一撃を加えることが困難なのも既にわかっている。

 何より簡単に距離を取られるのが厄介さに拍車を掛けていた。

 他の対抗手段を模索しようとした時、ドーブルの脳裏に先程のアキラの言葉が浮かぶ。

 

 自信を持つんだ

 

 言われなくてもそのつもりだ。

 この戦いが、自分達が先輩達に頼らなくても戦える様にする為に必要なものであることにも、ドーブルは挑んだ時からわかっている。

 苦戦はしているが、今の自分の力には自信はある。切っ掛けさえあれば、あんな黒い鳥ポケモンくらいすぐにでも仕留めることは出来る。

 だけど、今のままではジリ貧であるのは嫌でも察している。

 

 倒せない敵では無い事はわかっているが、一体どうすれば良いかと考えを巡らせた時、ある方法がえかきポケモンの頭に浮かぶ。

 しかし浮かんだのは良いが、すぐにその方法は確実性だけでなく安定性にも欠けていることにも気付く。

 

 この土壇場で、練習したどころか思い付きをぶっつけ本番で行って実現出来る程、世の中は都合良く無い。

 だけど、戦いの中で常に様々な可能性を考えるのは当然だが、逆転する為には時にはどんなに些細だったりぶっ飛んだ方法でも有効と判断したら実行していくことの必要性を、ドーブルは教わっているヤドキングだけでなくちょっと先輩面をしているゲンガーからも同じことを聞いていた。

 

 どうするべきかドーブルは迷ったが、周り――他に戦っている二匹へ少しだけ目を向ける。

 姿が変わったヨーギラスとバルキーの二匹は進化したお陰なのもあるが、奇策に頼ることなく持てる力を存分に振るって戦いを優位に進めている。

 

 彼らの姿を見て、ドーブルは決意を固める。

 他の二匹は乗り越えたのだ。今の自分の力に自信があるのなら、失敗することばかり考えずに勝つ可能性が高いと考えた方法の実現に挑むべきだ。

 そしてドーブルは、空を飛ぶヤミカラスに対して()()()()()()鋭く細めた目を向けた後、再び姿を変えた。

 

 それは慣れたミルタンクでは無く、ヤミカラスと同じ姿だった。

 ドーブルは”スケッチ”と呼ばれる特殊な技のお陰で、通常では”メタモン”などの極限られたポケモンしか覚えることが出来ない”へんしん”を覚えている。

 だが、ドーブルが使える”へんしん”は、本家であるメタモンが使うのと比べると異なる部分が幾つかある。

 

 中でも最も大きい点は、目の前に対象となるポケモンがいたとしても、ドーブル本来のタイプであるノーマルタイプ以外のポケモンへ変身した場合の再現性が不十分なことだ。

 故にドーブルが”へんしん”を使ったとしても、同じタイプで野生の頃から慣れているミルタンクしか姿だけでなくその能力を十分に発揮出来ない。

 その為、不慣れな姿へ”へんしん”することは控えていたのだ。

 

 まさか自分と同じ姿になったことにヤミカラスは驚愕するが、その動きが止まった一瞬の隙にヤミカラスに変身したドーブルは小柄な体とスピードを活かして体当たりをする。

 ただぶつかっただけなので、ダメージはそれほどではない。それどころか逆に真似ているヤミカラスの姿が崩れ始めている始末だが、ドーブルはこの結果に満足していた。

 最初からこの姿でヤミカラスを倒す気は微塵も無い。ただ隙を作れればそれで良かったのだ。

 

 空中でもみ合っている間に再度”へんしん”を使い、片腕でヤミカラスを掴みながらドーブルはミルタンクへと変わる。

 最高の結果を得られたドーブルは一瞬だけ笑みを浮かべたが、すぐに目付きを変えると空いている腕にあらん限りの力を籠めて、ヤミカラスを地面に叩き付ける様に殴り付けた。

 

「ヤミカラス!? ッ!」

 

 ヤミカラスが追い詰められたことにカリンは驚くが、タイミング悪くブラッキーは独楽の様な高速回転による遠心力を加えたカポエラーの強烈な蹴りを受けて、木に叩き付けられる。

 

「”つきのひかり”よ!」

 

 叩き付けられたブラッキーはカリンの指示を受けて、月明かりから消耗した体力とパワーを回復させる。

 今この場で手持ちのエースであるブラッキーがやられてしまうことは、彼女としては何としてでも避けなければならない。

 

 ある程度力を取り戻したブラッキーは、逆さまの状態から立ち上がって追撃を仕掛けようとするカポエラーに対し、”でんこうせっか”で体当たりする。だがカポエラーは技を決められた瞬間、ブラッキーの体を掴み、その勢いを利用して体を一回転させると投げ飛ばす。

 進化して体格が変わったとはいえ、バルキーの時に学んできた技術が使えなくなった訳では無いからだ。

 ブラッキーは空中で体勢を立て直して構えるが、カリンは悔しそうに周囲を見渡す。

 

 イツキのネイティオは、動かなくなるまで首に噛み付かれたまま地面へ何度も打ち付けられた挙句、無造作に放り投げられている。

 しかもトレーナーである彼も、戦いに巻き込まれたことで伸びてしまっている始末。

 ヤミカラスは何とかカリンの元に戻っていたが、ミルタンクに”へんしん”したドーブルにマウントを取られて散々殴られたことでもう這い蹲る様な有様だ。

 

 三匹共本気で挑んできてはいるが、後ろに控えているカイリューと言ったより強い存在が出て来ることも無く、補欠とも言える三匹の更なる成長の為に自分達が踏み台にされたことがカリンには屈辱的であった。

 横一列に並ぶサナギラス、カポエラー、ドーブルの後ろでこの戦いを見守っているアキラに、カリンはあらん限りの怒りと悔しさを込めた目で睨むが、彼は全く動じない。

 こんなことをしても、悪足掻きにしかならないことは彼女はわかっていた。幾ら感情的になっても、自分には目の前の絶望的な状況を覆すことが出来るだけの力と手段も既に無いからだ。

 

「ヤミカラス!!!」

 

 カリンが叫ぶ様にくらやみポケモンの名を呼ぶと、ボロボロであったヤミカラスが力を振り絞って大きな鳴き声を上げる。

 その声の大きさに三匹は身構え、アキラも警戒したが、カイリューだけは鬱陶しそうな目付きで周囲を見渡す。

 すると、ウバメの森の木々が突如として騒めき始めた。何が起こっているのか見上げてみると、空を埋め尽くすまではいかないが森から飛び出した多くのヤミカラスが上空に集結していた。

 どうやらカリンのヤミカラスは、この森に棲んでいるヤミカラス達のボス、或いは支配下に置いていたらしい。

 

「リュット!」

 

 もう十分だ。

 そう判断したアキラはカイリューの名を呼ぶ。それを許可と受け取ったドラゴンポケモンは、その口内を光らせると”りゅうのいかり”を薙ぎ払う様に放った。

 青緑色の光が夜のウバメの森を照らす様に広がり、瞬く間に光線の様な炎を受けたヤミカラスの群れは、吹き飛ぶか弾かれる様に落ちて行く。

 撃ち漏らしたヤミカラスも、他の三匹の攻撃によって何も出来ずに落とされていく。

 だけど、戦いはこれで終わりでは無い。

 

「逃がすな!」

 

 ヤミカラスの群れを退けると同時にアキラは、腰に付けているボールからブーバーとゲンガーを繰り出す。カリンがネイティオをモンスターボールに戻し、気絶したイツキを抱えてブラッキーと共に逃げ出していたのだ。

 彼らは現段階で判明している限りでは、世間的に犯罪とされる行為は全くしていない。なのでロケット団とは違ってすぐに警察へ突き出すことは出来ない。

 だけどその背後関係を考えれば、ヤナギに自分達の情報や彼らを打ち負かしたことをそのまま知られるのは望ましくは無い。

 どうやって黙らせるかは難しいが、余裕があった時に口にしていた”エンジュシティ”に関する発言のことを考えると上手くやれば何とか出来るかもしれない。

 

 飛び出した二匹は、ようやく自分達に出番が来たことでやる気満々なこともあり、あっという間に追い付く。逃げるカリンの前に彼らは立ち塞がる様に回り込もうとするが、咄嗟に彼女は手にした何かを投げ付けてきた。

 ブーバーは背負っていた”ふといホネ”を素早く抜くと弾き返すべく殴り付けたが、ぶつけた瞬間それは破裂すると同時に大量の白色の煙が周囲に広がった。

 

「煙幕!?」

 

 初めて使われる道具にアキラは驚く。ブーバーが覚えている”えんまく”とは色は全然違うが、それでも視界を遮る程の量の煙が瞬く間にウバメの森の中に広がる。

 咄嗟にゲンガーの念の力で吹き飛ばそうとするが、真っ先に煙を浴びてしまった二匹は激しく咳き込むだけでなく目から涙を滲ませていた。

 

「ッ! 吹き飛ばすんだ!!」

 

 出ていたサナギラス達を咄嗟にモンスターボールに戻したタイミングでアキラが叫ぶと、カイリューは小さな翼を羽ばたかせる。それによって起きた突風は、広がりつつあった煙幕をあっという間に吹き飛ばす。

 何とかこちらにも大きな被害が出る前に煙幕を吹き飛ばせたが、まともに受けてしまったブーバーとゲンガーは苦しそうにまだ咳き込んでおり、カイリューも吹き飛ばすのが間に合わなかったからなのか目や鼻などの敏感な箇所が普段よりも水っぽくなっていた。

 

「…やってくれたな」

 

 苦しむ二匹をモンスターボールに戻して悔しそうにつぶやくと、アキラは少し辛そう鼻を啜る音をさせるもボールに戻る気が無いカイリューと共に煙が晴れた暗いウバメの森を駆けていく。

 夜の森の中なので視界は悪いが、聴覚に意識を集中させると茂みを掻き分けていく音が聞こえる。距離的にかなり離れてしまっているが、それに全ての感覚を集中させて、彼らはウバメの森の中を走っていく。

 

「………行ったかしら?」

 

 アキラ達がいなくなった後、先程までの喧騒から一転して静かになった暗い森の中にある茂みの中からカリンが顔を見せる。

 実はカリン達は、”けむりだま”を使って視界を遮ると同時にアキラのポケモン達を怯ませている間、近くの茂みの中に息を潜めて身を隠していたのだ。

 ポケモンバトルに関する知識や技術、そして研究を行う以外にも、彼女達は何かしらの情報を合法・非合法問わずに手に入れることを想定した潜入などの多岐にわたる訓練を受けている。このくらいの潜伏や逃走手段確保はお手の物だ。

 煙幕での視界の悪さやポケモン達の咳き込む音などの影響もあったが、念には念を入れてヤミカラスの群れ同様に適当に屈服させた野生ポケモンを大袈裟に音を立てながら森の中へと走らせることで何とか誤魔化すことが出来たが、そう長くは持たないだろう。

 

 予め用意していた”げんきのかたまり”などの回復アイテムを取り出すと、それを使ってカリンはイツキのネイティオを回復させる。

 騙されたことに気付いて、彼らが引き返してくる可能性は十分にある。今の内にここから逃げるべきだ。そう思っていたら、遠ざかっていた音が戻って来るのを耳にした。どうやらもう彼は戻って来たらしい。

 

「ネイティオ、”テレポート”よ」

 

 最早一刻の猶予も無い。

 カリンの命にネイティオは何度も頷く。普段は無表情なこのポケモンが焦った表情なのを見ると、彼もまたすぐにこの場から立ち去りたいらしい。

 それからネイティオは秘めている念の力を高めて、自身だけでなくカリンと気絶したイツキを”テレポート”の対象に加える。

 弟子入りした経緯も含めて持ち余した力を振るう場所を求めた暇潰しの一環だったとは言え、今回の任務を達成出来なかったことや敗北を”あの人”に正直に報告したら、何かしらの処罰が自分達に下る事は間違いない。

 多少過程を偽ったとしても、負けたこと逃げたことに変わりない。恐ろしいことになることは理解しているが、それでも報告しなければならないだろう。

 

「腹立つわ…」

 

 まだ成長途中である手持ちポケモンを更に成長させる為の踏み台にされたこと、そしてこうして逃げなければならないのは、今気絶しているイツキにとってもカリンにとっても初めて経験する屈辱だ。

 彼が自分達の師匠である”あの人”に目を付けられるのは確実だが、何時の日か必ずこの屈辱を晴らすことを決め、カリン達はウバメの森から静かに消える様に立ち去るのだった。




アキラ、イツキとカリンを打ち負かすも取り逃がす。

今まで逃げる立場ばかりだったので追い掛ける立場には不慣れです。
最近はカイリュー以外の先輩世代は戦っていませんが、今章でも変わらず戦う予定です。

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