SPECIALな冒険記   作:冴龍

112 / 147
乗り越える時

「イツキに同意するのは癪だけど、アタイ達を舐めるのも程々にしたら? それに戦っているポケモンとそんなに近いと、ウッカリ巻き添えを受けても文句は言えないわよ」

「ちょっと、”癪”ってどういうことだよ」

「そのままの意味よ」

「ふん。シャムとカーツはエンジュシティでロケット団の残党を使った派手な計画を進めているのに、何で僕達はこんな雑用をさせられなきゃいけないんだか」

「それはアタイも同感だけど、”あの人”の命令だから仕方ないわ」

 

 戦いを優位に進められているからなのか、イツキとカリンの二人は軽口を叩き合う。

 ウバメの森の祠のすぐ目の前で始まったアキラと彼らの戦い。序盤は互角ではあったが、徐々に調子が出て来たのか戦いの流れは二人に向いて来ていることを彼は薄々感じ取っていた。

 イツキが口にした内容も気になるが、今は目の前の戦況をどうするかをアキラは優先する。

 

 ヨーギラス、バルキー、ドーブル

 

 この三匹はシジマの元での修行やそれぞれが師事している先輩から色々教わったお陰で、並みのトレーナーが相手でも十分に戦えるだけの力を持っている。

 しかし、相手はヤナギが直々に鍛えたトレーナーだ。実力は一般的なトレーナーを凌駕してジムリーダーに迫ると言っても良いのは、苦戦している三匹を見てもわかる。

 

 既に後ろに控えているカイリューや腰に付けているボールの中にいる面々も、合図があればすぐにでも戦える様に準備を整えている。

 だが、アキラはまだ彼らが前に出ることを許可するつもりは無かった。

 戦っている三匹が、本当に自分達だけでこの状況を打開出来るのか不安を抱き始めているのが手に取る様にわかった上で敢えてだ。

 

 今の自分達の実力だけで勝てるかどうかわからない相手との戦い。

 今まで彼らが経験した戦いの多くは、何かしらのルール下で行われていたのや危険なものでもカイリューを始めとした経験も実力も勝る師や先輩達の助けがあったが、今回はそれらが無いのだ。

 だけど、だからこそアキラはこの場での戦いをチャンスと考えていた。

 何故彼がカイリューら主戦力を出さずに新戦力と言える三匹に今回の戦いを任せたのは、彼らは自力で身を守ることや今戦っている二人みたいな手強い無法者と戦う時の独特の空気、極限状況の経験がまだ乏しいからだ。

 

 ヨーギラスは生存競争の厳しいシロガネ山出身だが、親であるバンギラスと協力関係であるダグトリオ達に守られてきただけでなく、生を受けてからの経験そのものが少ない。

 バルキーも一番長く鍛錬を積んできてはいるが、早い段階でシジマの元に身を置いた為、野生で生き抜いて来た経験は少ない。

 ドーブルは他の二匹よりは長く野生の世界で過ごしてきたが、賢さ故に自力で身を守っていくのは難しいと判断して、素の自分よりも強くて数の多い他のポケモンの群れと協力し合う道を選んだ。故に本当の意味で自らの力だけで乗り越えてきた経験は少ない。

 

 舐めて挑んでいるとイツキは怒っているが、ある意味それは正しい。相手が何であれ、罵倒されても無理は無い。

 しかし、何時もカイリュー達ばかりを前面に出しては、数年遅れで手持ちに加わったヨーギラス達は経験も積めないし飛躍的な成長も望めないのだから難しいところだ。

 

「――大丈夫だ皆。…と言っても不安なのは不安だよな」

 

 息を整えてはいるが張り詰める様な空気を纏うバルキー、手にした”まがったスプーン”を突き出して警戒するドーブル、戦う構えを見せてはいるが怯えが抜け切れていないヨーギラス。

 そんな彼らの背を見ながら、アキラは相手の動向を気にしながら語り始めた。

 押されている現状を見る限りでは、三匹は自分達がイツキやカリンのポケモン達の相手するには荷が重いと感じているだろう。

 しかし、戦いを見守っていたアキラから見ると、確かに敵は手強いが今まで見て来た三匹を考えれば決して倒せない敵だと見ていた。

 

「皆、自信を持つんだ。今まで学んで来たこと、経験したこと、それら全てを発揮することさえ出来れば、今のお前達なら奴らを退けることは十分可能な筈だ。始めに言った様に”負けた後のことは気にしないで、思う存分戦うんだ”」

 

 オツキミ山でのロケット団との遭遇戦、ミュウツーとの総力戦、ヤマブキシティでの決戦、シロガネ山からスオウ島まで続く四天王達との戦い、そして自分の目的である紫色の濃霧が関わっているであろう戦い。

 それらは全て、アキラや手持ち達が望む望まない関係無く挑んだり経験してきた極限状況での戦い――真の意味での”ルール無用の野良バトル”だ。

 

 目の前の二人との戦いは、規模や緊張感は少し無くなっているがそんな通常のトレーナー戦ではまず経験することが出来ない戦いを()()()()()()()()()()()()チャンスだ。

 本当ならかつての自分達みたいに同じ苦労はさせたくないが、まだまだ敢えて厳しい経験をしなければ短期間での成長は望めない。

 それに、昔とは良い意味で異なる点も今はある。

 

 アキラは信頼などのあらゆる意味が籠った目線を後ろにいるカイリューに向けるが、カイリューはさり気なく目線を横にズラして気付いていないフリをする。

 ”切り札”としてなら悪い気はしないが、戦う事を許されないどころかいざと言う時の”保険”扱いなのは少々不満らしい。

 だけど、彼が三匹に任せる選択に踏み切れたのも、彼らの力を信じているからだ。昔は逃げることさえ必死だったが、今では彼らが戦いに出れば負けは無いは言い過ぎではあるが、少なくとも逃げ切ることは出来る。

 カイリュー自身もアキラの言う事を無視して戦わずに控えているのは、後輩達の成長を促す為という彼の考えが今後の自分達の力になることを理解しているからだ。

 

 そしてアキラに励まされた三匹は、それぞれ反応を見せる。中でもヨーギラスは、確かめる様に自らの手に目を向ける。

 本当に今の自分自身に、アキラが言う様にこの状況を自力で乗り越えられる力があるのか向き直っているのだろうか。

 

「何が”自信を持つんだ”だよ。舐めプしてる癖にカッコ付けやがって!」

 

 けどアキラの今のやり方や考えは、イツキ達にとって腹立たしいものであった。

 トレーナーとしての才能、そして実力にも自信がある自分達が、よくわからない年下の少年に遠回しに”格下”扱いにされるなど屈辱以外の何物でもない。

 

 彼の手持ちであるネイティオも同じ気持ちなのか、イツキの怒りに応えて再び得意のエスパー技を放つ。

 咄嗟にドーブルは、”まがったスプーン”を振ることで形作った”まもる”による光の壁でネイティオの攻撃を防ぐと、続けて素早くスプーンを振るって今度は”ふぶき”を放った。

 

 こおりタイプの大技ではあるが、ドーブルの素の能力が低いが故にその威力は低い。

 しかし、それでも大規模な雪が混じった暴風はネイティオのみならず他の敵の動きを妨害するのには役に立った。

 だがいち早く立ち直ったブラッキーが、小さな牙が生えた口を開かせてドーブルに跳び掛かる。

 えかきポケモンは身構えたが、両者の間に小さな姿――ヨーギラスが突如割り込んだのにドーブルは驚く。

 ところがヨーギラスの表情は突然割り込んだにも関わらず、堂々としているどころか緊張と恐怖を抑え込んだ強張らせたものだった。しかし、それでも幼いいわはだポケモンは、目の前に迫るブラッキーから目を離さずに真っ直ぐ見据えた。

 

 あらゆる衝撃と轟音を伴った攻撃。それら全てをその身に受けても尚屈することはなく、何があろうと自分よりも後ろに通そうとしないあの大きく見えた黄色い背にヨーギラスは憧れた。

 だけど当時は、我が身を盾にしてでも攻撃を引き受けて耐え続けることがどういうものなのか、彼は理解していなかった。

 多くを経験していくにつれて、実際はとても怖くて痛いものだと身をもって学んだことやエレブーだけでなくアキラも自分にはまだ早いと言っていたこともあり、今は戦うのに必要な力を身に付ける事を優先することにした。

 

 しかし、力を身に付けるどころか総力戦とも言える戦いの度に仲間の足を引っ張ってしまう自らの力の無さを何度も思い知らされる現実に打ちのめされていた。

 一度相談したことで不安は薄まったが、戦っていく内にこの戦いでもまた力不足で足を引っ張ってしまうのでは無いかという不安が甦ってきていた。

 

 けど、さっきアキラが自分達にどうすれば良いかを語った時、彼の手持ちになってから経験したことや学んで来たことを振り返っていく内にヨーギラスはあることを思い出した。

 

 攻める時でも守る時でも、戦いは恐怖に負けない勇気を振り絞ることが大事

 

 少し恥ずかしそうにしていたが、それは師匠にして憧れの存在から教わった心構えとも言えるものだ。だけど言葉にすることは簡単だが、いざ戦いで「勇気を出す」ことを実践しようとしても難しいものだった。

 攻める時でも反撃を受けて痛い思いをする可能性が頭を過ぎると、不安や恐怖で行動が一歩だけ遅れてしまうのだ。これが憧れたあの背の様に自らの体を盾にしてでも攻撃を引き受ける場面だとしたら、抱く不安や恐怖は攻める時以上だ。

 

 それから様々な出来事を経験したり落ち込む機会が増えて、ヨーギラスはその心構えを忘れてしまっていたが、今なら何故エレブーが自分にどんな時でも「勇気を出す」ことの重要性を自分に教えたのかがわかる。攻める時でも反撃を受ける恐怖に負けては、体を張って守ったり攻撃を受け止めるなど到底無理だからだ。

 今思えばどうすれば早く強くなれるかだけでなく、どうやって不安や恐怖を抑え込んで勇気を振り絞ればいいのか聞けば良かったが、今この瞬間にもヨーギラスは自分なりに勇気を振り絞った。

 

 敵の注意を自分に引き付ける形でドーブルを守ると同時に反撃をする

 

 そう決めて両者の間に割り込んだところまでは良かったが、ブラッキーの動きが思いの外に早くてヨーギラスは焦っていた。

 このままでは、折角勇気を出して挑んだのにまた何も出来ないままやられてしまう。

 そこでヨーギラスは、予定を早めるのと同時にブラッキーの動きを少しでも相殺する目的で”たいあたり”を敢行することにした。

 

 足を引っ張ったり力になれない無力感を味わうのは、もう嫌だ。

 少しでも憧れた黄色い背の様に、皆の役に立ちたい。

 その一心で、少しでも”たいあたり”の勢いを付けようと背中の孔から砂混じりの風を噴かした時だった。

 思っていた以上に、まるで空を飛んでいるかの様にヨーギラスの体が浮き上がり、次の瞬間にはブラッキーにぶつかるどころか勢い余って大きく吹き飛ばした。

 

「なっ! なっ…」

「嘘でしょ…」

「やっぱり、()()()()()()()が最後の鍵だった」

 

 イツキ達が驚きを露わにしていたのとは対照的に、アキラは目の前で起こった出来事とその結果に納得していた。

 トレーナー達の反応を不思議に思いながらも、ヨーギラスは構わずブラッキーへ追撃を試みようとしたが、ここで彼は体の違和感に気付いた。

 体は動かせるのに手足を動かしている感覚が無いのだ。今なら何でも出来る様な力が体の底から溢れているのに、手足を動かせないのは奇妙な話だ。

 

「ギラット一旦下がれ!」

 

 アキラが叫んだ時、困惑している影響で動きが遅れていたヨーギラスは横からネイティオの”サイコキネシス”をまともに受けてしまう。

 油断したという考えがヨーギラスの頭を過ぎったが、不思議と威力は低く、痛みはあまり感じなかった。それに気付いたヨーギラスは、仕掛けて来たネイティオに対して”たいあたり”で反撃して逆に大きく吹き飛ばす。

 余裕が出来たことを確認して、すぐに下がろうとするがやっぱり思う様に下がれなくて体は後ろに倒れる――のでは無くて転がってしまった。

 

「バルット! ブルット! ギラットをカバーしてくれ!」

 

 アキラの呼び掛けに二匹は直ちに動くが、ドーブルは襲ってきたヤミカラスに邪魔されてしまい駆け寄れたのはバルキーだけだった。

 そのタイミングにもう立ち直ったネイティオとブラッキーが同時に襲撃してきたが、バルキーは焦っていなかった。

 確かに二匹は手強いが、自分が師事しているブーバーなら多少手こずりはしても、一匹だけでも奴らを返り討ちに出来ることを戦っている内にけんかポケモンは感じ取っていた。

 それ故に相手が手強く感じるのは、己がまだ未熟で学ぶべきことがあるからと受け止めていたが、そんなことを考える必要は無かった。

 

 既に自分には、この状況を乗り切るだけの力がある

 

 強さを得る為にひたすら己を磨いていくことも大事だが、今は自分の至らなさや未熟な点を考える必要は無い。

 アキラの言う通り、今まで積み重ねてきた鍛錬の成果――経験をこの場で存分に発揮する。それが今この場に自分に必要な心構えだ。

 

 己を鼓舞するだけでなく相手を威圧する意図も兼ねて、バルキーは師であるブーバーを脳裏に浮かべながら雄叫びを上げ、薙ぎ払う様に大振りで体を回転させながら蹴りを繰り出す。

 すると、バルキーの体は一回転どころか、気が付いたらバルキー自身も把握出来ないまでの勢いで体が回る。

 しかし、それは悪いことでは無く、寧ろその勢いで襲って来た二匹をバルキーは吹き飛ばした。

 

 気が付けば、目線が低くなっているのと手の形状が変わっていたが、全く問題は無い。

 今の姿の方が力で溢れているからだ。

 すぐに倒れている仲間を何とか抱えてアキラの元へ一旦下がるが、さっきまで冷静に戦況把握に努めていた時とは違い、彼の表情は嬉しそうだった。

 

「遂に進化出来たか。ギラット。バルット」

 

 アキラにそう告げられて、二匹はようやく自分の身に何が起こったのか理解し、頻りに体を触ったり体の隅々まで目を向ける。

 

 ヨーギラスの進化形、だんがんポケモン、サナギラス

 複数あるバルキーの進化形の一つ、さかだちポケモン、カポエラー

 

 ようやく次の段階――即ち進化した二匹の姿に、警戒することは忘れていないが、それでもアキラは嬉しかった。

 彼らは既にレベルなどの必要な要素は満たしていた筈にも関わらず、中々進化する気配が無かったからだ。元の世界のゲームから得た情報だけでなく過去の彼自身の経験や本から得た知識から、気持ちの面を乗り越えればと考えていたがどうやら当たりだった様だ。

 

 退く訳にはいかない戦いを彼らだけで乗り切る。

 その経験をさせるつもりだったが、ここで二匹が進化を遂げたのは良い事だ。

 タイミングを見計らっていた訳では無いが、後は彼らだけでイツキとカリンを退けることが出来れば言う事無しだ。上手く行けば、彼らは自分達の力だけでも困難な状況を乗り切ることが出来ると言う自信を身に付ける筈だ。

 今までとは違う新しい姿になっていることを認識したサナギラスとカポエラーは今の自らの姿に少し戸惑うが、ドーブルが一旦下がったのを見てまだ戦っている真っ最中なのを思い出す。

 

 体勢を立て直したネイティオは目を光らせると、カポエラーとサナギラスの二匹に念の衝撃波を放つ。

 サナギラスへのダメージはそこまで大きくないが、カポエラーに当たればエスパー技に弱いかくとうタイプには相性の関係で大ダメージを与える事が出来る。

 だが油断無く備えていたカポエラーは、目付きを鋭く細めるとギリギリではあるが攻撃から逃れ、サナギラスも前の姿からは考えられない俊敏な動きで体を転がして避ける。

 

「だぁ~もう! こんな時に進化するとか面倒過ぎるよ!」

 

 進化した直後のポケモンは平時よりも大きな力を発揮出来る。

 そのことを知っているイツキは面倒そうに頭を抱え込む。

 その直後、サナギラスは背中の孔から大量の砂と風をジェットの様に噴き出して弾丸の様に突進。外殻の下に隠れていた鋭い牙が並んだ大口を開けてネイティオに襲い掛かってきた。

 こちらの意識が別に取られたタイミングを見計らったかの様に見えるが、進化したことで身に付いた力を自覚して行動が大胆になっているだけだとイツキは見抜いていた。

 振る舞いは軽薄ではあるが、イツキは普通の大人では全く歯が立たないと言っても良い程ポケモンの扱いは上手い。それ故にポケモンに関する観察眼も鋭かった。

 

 不意打ちに近い攻撃だったが、ネイティオは軽くサナギラスの突撃を躱す。

 アッサリと避けられたことで、だんがんポケモンは勢い余って木に正面衝突してしまい、かなり痛そうな鈍い音が森中に響き渡る。

 だが木にぶつかったサナギラスは、地面に体を転がすもすぐに跳ね上がる様に起き上がってネイティオとイツキを睨む。

 

「バルットはブラッキー、ブルットはヤミカラスだ。ネイティオの相手はギラットに任せるんだ」

 

 三匹の様子に目を配り、アキラはそれぞれ戦うべき相手を改めて伝える。

 それが合図だったのか、三匹は決意を新たにイツキとカリンのポケモン達に戦いを挑む。

 

 カポエラーは頭の突起を軸に、体を独楽の様に回転させながらブラッキーを攻めていく。

 進化したばかりであるが故に初めて行う戦い方だが、記憶にあるシジマの手持ちであるカポエラーの動きだけでなく、本能的に体そのものもその動きが正しい事を知っていた。

 

「”まわしげり”!」

「”どろかけ”よ!」

 

 遠心力で威力と勢いを増幅させたカポエラーの蹴りが炸裂する直前に、ブラッキーの前足が飛ばした泥を顔に浴びる。

 高速で回転していたにも関わらず、ピンポイントに顔に泥を受けてしまったカポエラーは視界を潰されたことで蹴りの狙いがズレてしまう。

 外したタイミングを逃さず、ブラッキーはすかさず”だましうち”を叩き込んでカポエラーを押し退ける。進化したばかりで力を増してはいるが、そう単純に新たに得た力で倒させてはくれないのだろう。

 

 次にアキラは意識をドーブルの方に向けるが、彼女は空を飛べる小柄な体格を活かすヤミカラスに翻弄されていた。

 主軸にしているエスパー技が通用しないタイプなこともあるのか、”サイコウェーブ”の応用で支配下に置いた小枝や小石を纏わせた小規模な念の渦で防御をするが、これでは何時までも攻勢に出れない。

 そしてサナギラスの方は、ヨーギラスの頃と比べてネイティオの攻撃があまり痛く感じられなくて恐怖心が薄れたからなのか、先程とは一転して攻め続けていたが決定打は中々出ていない。

 

 指示やアドバイスを頻繁に飛ばしていたものの、それでもアキラは三匹の動きを現状では同時に捌き切れていなかった。

 だけど、同時に捌くことが無理なのは彼自身よくわかっている。

 味方と敵の双方の力量を理解して、トレーナーの助言が必要な手持ちを優先する。そしてドーブルはまだ大丈夫だ。逆転する可能性はまだ十分にある。

 どちらかと言うとネイティオやブラッキーは戦っている二人のエース格であるが故に何があるかわからない。そちらの方が今は優先だ。

 

「ちょっとイツキ、ちゃんと戦いなさい!」

「わかっているよ! このまま負けて”あの人”の大目玉を食らうなんて僕だってごめんだよ!」

 

 アキラが手を貸すべき手持ちの優先度や戦い方を考えていた時、イツキはサナギラスとネイティオの戦いに考えを張り巡らせていた。

 アキラは知る由も無いが、二人がこのウバメの森の祠にいるのは彼らが従う存在である”あの人”が進めている計画を実行する時期が近くなったので、予行演習も兼ねてこの祠付近を警備していただけだ。

 地元の人すら神聖視しているからなのか滅多に誰も訪れないので、彼がやって来た時はやっと退屈凌ぎが出来るかと思ったが、今は若干後悔に変わりつつあった。

 

 二人とも幼い頃からポケモンの扱いに関しては大人顔負けの才能を誇っており、その力を持て余していた。

 その為、その持て余した才能を磨くだけでなく存分に発揮する場所を求めて、”あの人”の元へ誘拐では無く自ら弟子入りをした経緯がある。

 暇潰しや刺激などの面白い事を求めたり、もっと強いトレーナーと戦いたいとは考えてはいたが、想像以上にアキラが手強くて逆に面倒だと感じていた。

 

 しかも今戦っている三匹は、イツキやカリンから見ればまだそこまで育っていない育成途中の補欠だ。その補欠に苦戦している現状も腹立たしいのに、仮に三匹を倒したとしても遥かに強大なカイリューが次に控えている。

 二人はポケモントレーナーとしては一般よりも実力があることを自覚しているので、認めたくは無いがこのまま単純に戦い続けても自分達が負けることを察していた。

 しかし、イツキはこの劣勢を一発で逆転する方法を考えていた。

 

 それはトレーナーであるアキラを狙う事だ。

 

 トレーナーを直接狙う行為は普通は禁じ手ではあるが、その有効性や相手に悟られずに狙うやり方などについてイツキとカリンは学んでいる。

 どうせ負かしたら連れて帰るなりして”あの人”に処遇を尋ねるのだ。しかも祠に関して何かしら知っている可能性があるのだから彼を逃がすつもりは無い。

 それに進化したことでサナギラスは一時期的に能力が大幅に向上しているが、まだ今の姿に慣れていないのかネイティオに中々決定打を決められていない。

 面倒ではあるが、こういう直線的なタイプは対処が楽ではある。

 

 そしてまた、サナギラスの体が突然攻撃を受けたかの様に弾かれる。

 対策を立てられていないからなのか、何回も同じ現象がサナギラスの身に起こるのをアキラは黙って見ているしか無いのかその表情を顰める。

 どうやら彼には、”みらいよち”と呼ばれる技に関する知識が無いらしく、イツキは彼の反応を見て、アキラが知らなそうな技や嫌がる技を中心にネイティオを導いていた。

 ”みらいよち”は時間差で攻撃を仕掛ける技だ。事前の仕込みが必要ではあるが、仮に見抜いてもどのタイミングで攻撃が炸裂するのかわからないのが最大の特徴であり、意図せずイツキは鋭敏化した目から得られる視覚情報を重視する今のアキラにとって天敵とも言える技を有効的に活用していた。

 

 攻撃を受けたサナギラスは早く立ち直ろうとしているが、まだその蛹の様な体に慣れていないのか手間取っていた。

 それを見たアキラはサナギラスの次の行動をカバーしやすい様に自らの位置を変えるが、彼の体が直線上にサナギラスと重なった時、イツキは声を上げた、

 

「今だ!! ”サイコキネシス”!!」

 

 その瞬間、ネイティオはこのバトルが始まって以来の威力の”サイコキネシス”を倒れているサナギラスと直線上に立っているアキラ目掛けて放つのだった。




新世代の二匹が新たな進化を遂げるもアキラは狙われていることに気付いていない。

12巻のうずまき島で、ジョウト御三家が同時に進化出来たのは気持ちが大きく影響するとシルバーが考察していましたので、二匹も必要な条件は揃っていたので後は気持ち次第でした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。