SPECIALな冒険記   作:冴龍

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窮地

 レッドとグリーンがピジョットと戦っていたのと同じ頃、先に離れたイエローとナナミは一部のポケモン協会の関係者達と協力して、今回の試験を観戦しに来ていたトキワシティの人々や逃げ出した一部のポケモン達を危険から遠ざけようと避難誘導を行っていた。

 

 今自分に出来ることはこれしか無い。

 戦う事に対する苦手意識と襲い掛かって来たピジョットの血走った目付きと姿が強く印象に残っており、イエローは自分自身にそう言い聞かせていた。

 

「他に建物に残っている人は?」

「いません!」

 

 そして、ようやくトキワジムから人々が離れたことを確認する。

 これで残っているのは、自分達と戦っているレッドとグリーンだけだ。

 この時イエローの脳裏には、戦っているレッド達に加勢するという選択肢が浮かんでいた。

 

 しかし四天王との戦いを乗り越えたとはいえ、未だに残る戦うことへの苦手意識、そして何の躊躇も無く襲い掛かって来たピジョットへの驚愕と恐れにも似た感情が入り混じって中々決心出来なかった。

 どうするか迷っていた時、突然眩い光が周囲に広がった。

 イエロー達がいる場所では建物が光を遮っていたので影に隠れたが、余程放たれた光は強かったのか影が一際濃かったのや光がレッド達がいる方向から放たれたことにイエローは嫌な予感を感じ取った。

 

「レッドさん…」

 

 衝動的にイエローは駆け出す。ナナミの制止の声も無視して、建物の角を飛び出すと、信じられない光景が広がっていた。

 レッドとグリーン、そして彼らのポケモン達が、まるで吹き飛ばされたかの様に仰向けに倒れ込み、その中心でピジョットが所々赤く光る翼を広げて勝ち誇っていたのだ。

 

 

 

 

 

「な…何なんだ…今のは…」

 

 傷付いた体を起こしながら、レッドはたった今ピジョットが起こしたことを振り返る。

 ポケモン達で囲み、そしてあらゆる方向から攻撃なり取り押さえるなりしようとしたが、ピジョットが吠えた瞬間、纏っていたオーラが目が眩むような強い光を放ちながら衝撃波の形で周囲に拡散したのだ。

 青白い光の衝撃波を受けたポケモン達は成す術も無く吹き飛び、レッドとグリーンも巻き込まれた。

 

 ピジョットがこんな技を使って来るなど、レッドは知らない。

 ひょっとしてこれも、アキラが追い掛けている奇妙な現象だからこそ成せることなのだろうか。

 さっきの衝撃波を放った代償なのか、ピジョットの体は藍白のオーラに包まれていなかったが、それでもまだ体の随所が赤く光るだけでなく通常のピジョットよりも大きいままだ。

 ポケモン達も全員が戦闘不能に追い込まれた訳では無いが、それでも多くは大きなダメージを受けたのか意識を失っている。

 

 次にピジョットが何を仕掛けてくるのか見当も付かないが、このまま倒れているのは危険だ。

 しかし、体を動かそうにも手足の痺れが何時も以上に酷くて動けそうにない。

 そうしてモタモタしている間に、周囲を見渡していたピジョットの狂気に近い眼差しが、レッドに向けられた時だった。

 

 ピジョットが目に見えない衝撃波を受けてよろめいたのだ。

 攻撃を仕掛けた方へ目を向けると、額に赤い宝玉を浮かべた薄紫色のポケモンが上体だけを持ち上げながら、とりポケモンを見据えていた。

 

「ブイ…」

 

 ピジョットに攻撃を仕掛けたのは、レッドのイーブイが進化したエーフィだった。

 エーフィに進化したのは試験に向けての特訓の最中という偶然の形だったが、もうロケット団に改造されたことで得た負担の大きい進化と退化を起こすことが無い新しいイーブイの進化であるとアキラに教えて貰い、今回のジムリーダー試験の手持ちに加えていた。

 

 そのエーフィが、レッド達の危機に力を振り絞って、自分達の敵であるピジョットと戦う意思を見せていた。

 しかし不意を突く形でエーフィはピジョットに一撃を与えること出来ていたが、完全に起き上がれていないのを見る限りでは、とてもじゃないが戦える様な状態では無い。

 

 だがピジョットは、弱っているエーフィに狙いを変えたのか体中に力を籠める。

 これ以上ダメージを受けたら、エーフィは無事では済まない。

 レッドが何とかしようとしたその直後、突然ピジョット目掛けて無数の光線や岩が迫り、とりポケモンはそれらを避ける形で飛び上がった。

 

「レッドさん! 今助けに行きます!!」

「い、イエロー!?」

 

 攻撃が飛んで来た方にレッドが顔を向けると、何とイエローが手持ちのポケモン達を率いて、果敢にも突撃していた。

 イエローが戻って来たことにレッドは驚くが、イエローは自分達がピジョットを倒せるとは少しも思っていなかった。無謀かもしれないが、少しでも距離を取らせてその間にレッド達を助けようと考えていた。

 甘い考えであることはわかっていたが、彼のピンチに大人しくしていられなかった。

 飛び上がる形でイエローのポケモン達が放った攻撃を避けたピジョットは、標的をイエローに変えたのか真っ直ぐ斜めに急降下して、イエロー達に迫った。

 

「ドドすけ”トライアタック”! オムすけ”れいとうビーム”!」

 

 三つの首が同時に放つ三角形を模った光線と冷気の光線がピジョットへと飛んでいくが、一直線に突っ込んでいたピジョットは避けていく。

 そして翼を広げながら鋭い爪が並んだ趾をイエローに突き出してきたが、イエローを守ろうとゴローニャが勇敢にも跳び上がって体を張って防ぐ。

 ピジョットは一旦離れようとするが、逃がさないとばかりにゴローニャはピジョットの趾を掴む。

 現在確認されている中でもカビゴンに次ぐ重さにピジョットの動きは鈍るが、ピジョットは血管の様に広がった筋が赤く光る巨大な翼を大きく羽ばたかせると、ゴローニャを掴んだまま飛び上がっていった。

 

「ご、ゴロすけ!?」

 

 まさかゴローニャが空中に連れ去られるのは、イエローにとって予想外だった。

 ゴローニャを掴んで飛び上がったピジョットは、勢いを付ける様に空中で一回転すると、ゴローニャを彼ら目掛けて放り投げた。

 慌ててイエロー達は避けるが、ゴローニャは地震の様な揺れを起こしながら地面を大きく凹ませると何度も弾みながら遠くへと転がっていく。

 その揺れにイエローとポケモン達は足を取られて倒れ込んだりバランスを崩すが、倒れ込んだイエローにピジョットは再び襲い掛かった。

 

「っ!」

 

 ピジョットが向ける血走っているとも言える鋭い目付きに、イエローはさっきまで抱いていた恐怖を思い出して体は固まってしまう。

 そんなイエローを黄色い小さな姿が守る様に割り込むと、眩い光と激しい音を伴って電撃を放ち、ピジョットを退けた。

 

「あっ、ありがとうチュチュ」

 

 最近手持ちに加わった片耳に花を乗せたピカチュウにイエローはお礼を口にする。しかし、一旦は退いたピジョットは標的を他の手持ちに変えて、一方的に蹂躙していく。

 ドードリオは三つある頭を揃って踏み潰され、バタフリーとラッタは巨大な翼の”つばさでうつ”で叩きのめされ、オムスターの”ハイドロポンプ”も”オウムがえし”で跳ね返されて返り討ちに遭っていた。

 

「チュチュお願い!!」

 

 このままでは皆が危ない。

 イエローの頼みに応えたピカチュウは再び電撃を放つが、直前に察知したピジョットは足元で踏み潰しているドードリオを踏み締める形で飛翔した。

 思っていたよりも速い動きにイエローは驚くが、飛び上がったピジョットは助走を付けるかの様に弧を描くと瞬く間にイエローとピカチュウとの距離を詰めた。

 

 攻撃に転じるのも早くて、ピカチュウは完全に避けるタイミングを失ってしまった。

 それに気付いたイエローは、急いで慌てるピカチュウを守る様に抱え込むと横に体を跳ばして避けようとする。

 だが、それで避けられる程ピジョットは甘くは無かった。

 

 彼らが避けたタイミングで、反射的にビンタをする様に翼を振るい、ピカチュウを抱え込んだイエローの体を叩き飛ばしたのだ。

 

「!? イエ――………え?」

 

 ピジョットの攻撃を受けて体が宙を舞ったイエローにレッドは焦るが、直後に目も疑う光景に言葉を失った。

 イエローが被っていた麦藁帽子が飛び、その下から長く結われた金色のポニーテールが露わになったのだ。

 

 それを目にした刹那、レッドは目に映る光景がゆっくりと進む様な錯覚を覚えた。

 今まで彼は、イエローの麦藁帽子の下がどうなっているのか見たことも考えたことが無かった。

 自分と同じ様に少年らしい短髪だろうと勝手に思っていたのだ。故に麦藁帽子の下から出て来たのが、女の子の様なポニーテールをしているのか理解出来なかった。

 

 全く予想していなかったイエローの麦藁帽子の下に秘められていた謎をこの状況で知ってしまい、レッドは唖然としていたが、ピジョットの”つばさでうつ”で飛ばされたイエローは彼のすぐ近くにまで体を転がした。

 庇われたピカチュウは腕の中からイエローの体を揺するが、気絶しているのかイエローは動かない。

 

 その間にもピジョットは体勢を立て直す様に身を翻すと、イエローへと迫る。

 気付いたピカチュウは、イエローを庇う様に進んで前に立つと体の奥底から力を引き出した様な雄叫びを上げながら渾身の電撃を放ち、ピジョットの体を逆に吹き飛ばして返り討ちにした。

 

 しかし、限界を超えた力を引き出したからなのか、ピカチュウは自らの技の反動で倒れ込んでしまう。

 しかもそれだけの力を引き出したにも関わらず、ピジョットはすぐに立ち直ってしまい、再び彼らに狙いを定めた。

 

 このままではイエロー達が危ない。

 

 今の自分に出来ることなど高が知れていることはわかっている。

 それでもレッドはイエローの元に急いで体を這わせようとしたが、突然複数の影が彼らの目の前に降り立った。

 それはレッドにとっては見覚えがあるだけでなく、心強い存在だった。

 

「…アキラ」

 

 倒れているレッド達の前に、ロケットランチャーを携え、カイリュー以外の手持ちを引き連れたアキラが現れたのだ。

 

「ここは…トキワシティか?」

 

 レッドとは対照的に、アキラは今自分がいる場所に困惑する。

 カイリューとピジョットが一体どこへ飛んで行ったのか。行方を捕捉するのに手間取ったが、何とかヤドキングを中心としたエスパータイプとその力を扱える手持ちが協力し合う事で発揮する長距離移動”テレポート”で今いる場所にやって来たのだ。

 すぐに周囲の状況を確認しようとしたが、目の前からピジョットが迫っているのを見て、彼は即座に判断を下した。

 

「散るんだ!」

 

 声を荒げると同時にアキラのポケモン達はそれぞれの方向へと動き、アキラも動こうとしたが、自分の少し後ろでレッドとイエローが倒れていることに今更気付く。

 彼はすぐにポケモン達を呼び戻そうとしたが、今声を上げても既に動いている彼らが戻るのには間に合わない。四天王との戦い以降、アキラの反射神経を含めた状況判断能力は桁違いに向上していたが、今回はその判断の速さが仇になってしまった。

 

 ピジョットと倒れている二人の間にいるのは自分だけ

 そして自分が避ける為に動けば、二人は間違いなくピジョットに襲われる

 

 無意識の内に視界に映る光景全てが体感的にゆっくりと見える様になっていた為、アキラはある程度余裕を持って状況を把握出来るだけの思考を行えていたが、彼は焦っていた。

 手持ちは間に合わない。一緒に逃げる為にレッド達へ手を伸ばそうにも距離が微妙にある。ロケットランチャーにはモンスターボールを装填しているが、撃ち出す時間も無い。

 

 様々な考えが浮かんでは消えていく極限状態の中で、アキラは一つの決断を下した。

 

 低空飛行で突っ込んでくるピジョットが数メートルにまで迫ったタイミングで、アキラは背負っていたロケットランチャーを盾の様に構えて思いっ切りピジョットにぶつけたのだ。

 

 硬く鋭い嘴と金属で出来た砲身が激しくぶつかり、甲高くも重い音と共にもまるで車がぶつかってきたのでは無いかと彷彿させる衝撃が、瞬間的にアキラを襲う。

 

「ふんっがぁああぁぁぁぁっ!!!」

 

 歯を食い縛りながら両腕だけでなく体を支える足腰にも力を入れて、アキラは体が壊れても構わない覚悟で自分が持てる限りの力の全てを引き出そうとする。

 この時程、アキラは自分の鋭敏化した目と超人的な反応速度、そして自らの体を壊しかねないまでに大きなを力を発揮出来ることに感謝したことは無かった。

 こうした無茶が出来るだけの力があるからこそ今回の選択を取った面もあるが、仮に無かったとしても自分は同じか近い選択を取っていただろう。

 

 何が何でも彼らを守る。

 

 腕だけでなく、全身が衝撃と限界を超えた負荷で激痛と共に悲鳴を上げていたが、それでもアキラは強い決意と共にぶつかってきたピジョットの勢いを少しでも弱めようとする。

 周りがゆっくりに感じられる影響でアキラにとっては長い時間の様に思えたが、第三者視点から見た両者の激突は一瞬だった。

 

 彼がロケットランチャーを盾代わりにぶつけた直後、確かにピジョットの動きは止まったが、それも僅かな時間だ。

 ぶつけた衝撃でピジョットの嘴にぶつけた砲身は、凹んだかと思えばあっという間に砕けてしまったのだ。

 ギリギリまで粘っていたアキラは咄嗟に体の軸をズラして避けようとしたが、どれだけ超人的な反応速度と感覚を活かしても車に掠る様にピジョットにぶつかり、彼の体は跳ね飛ばされた。

 

 だが、無茶をした甲斐はあった。

 

 真っ直ぐ突撃してきたピジョットの軌道を上にズラしたことで、一時的にレッド達から離れさせることが出来た。

 代償として愛用していたロケットランチャーが壊れたり、両腕を始めとした体中が痛くて倒れ込んだまま動けないが、十分価値があった。

 

 後は彼ら――手持ちのポケモン達がやってくれる筈だ。

 

 意図せず上昇する形で飛行していたピジョットは宙に留まるべく翼を広げたが、動きを止めた直後にサンドパンの必中”スピードスター”による狙撃を受ける。

 嫌な攻撃にピジョットは怯むと、ヤドキングを筆頭とした”サイコキネシス”を使えるポケモン達がピジョットの体を念で捕まえると同時に強引に引き寄せた。

 さっき戦った時と比べると明らかに弱っているのを彼らは感じ取っていたのだ。

 

 引き寄せられるピジョットに対して、ブーバーは拳に雷のエネルギーを溜め込みながら駆け出していた。引き寄せられている勢いに加えて、相性抜群の”かみなりパンチ”を叩き込もうと目論んでいたのだ。

 

 ところがいざ腕を突き出そうとした瞬間、危機が迫っているが故の馬鹿力を発揮したのか、ピジョットはまたしても念の拘束を振り解いて、ブーバーの首を足で鷲掴みにしたのだ。

 予想外の攻撃と首の圧迫感に一瞬息が止まったが、即座にブーバーは空いている方の手を向けて”めざめるパワー”を放とうとするがそれは出来なかった。

 中途半端に止まってしまったことで、”かみなりパンチ”のエネルギーが体中を駆け巡って集中力を阻害されたのだ。その影響で”めざめるパワー”のエネルギーもまた、中途半端になってしまったのだ。

 

 そのままピジョットはブーバーを地面に叩き付けようとしたが、サンドパンが”きりさく”で斬り付け、ピジョットはブーバーを手放すと同時に何歩か下がる。

 すぐに咳き込むブーバーを守る様にサンドパンは両者の間に割り込んで爪を構えると、ゲンガーもブーバーが背中に背負っていた”ふといホネ”を手に取ると高々と振り上げた姿勢で対峙する。

 二匹に対して、ピジョットも息を整えると負けじと翼を大きく広げて威嚇する様に吠えるなど、互いに一歩も退こうとはしなかった。

 

 一見すると二匹が協力すればピジョットを倒せそうに思えるが、ゲンガーとサンドパンは、今の自分達では倒すのにかなり苦労することを理解していた。

 彼らの真の狙いは時間稼ぎだ。

 今ヤドキングとドーブルの師弟コンビが、アキラや倒れているレッド達を念の力で少し離れたところに引き寄せている。

 

 勿論、ピジョットから距離を取って、少しでも安全を確保する意図もある。

 だが何よりもアキラが、この事態を想定して持ってきている回復道具を使って、倒れているカイリューの治療を行っているのだ。自分達の最大戦力にして頼れる仲間であるカイリューが復帰するのも近い。

 自分達はその時までの時間稼ぎに徹すれば良い。いざとなれば”みちづれ”で仕留めるのもゲンガーは選択肢の一つに入れていた。

 

 一方、二匹のすぐ後ろで蹲っていたブーバーは、暴発に近い不発で終わった自らの技の副作用に苦しんでいた。

 全身を駆け巡る痺れを伴った指す様な痛みには、堪え切れずに呻き声を漏らしていた。

 だけど、これよりも苦しい経験はあったことを自分に言い聞かせて、ひふきポケモンは根性で立ち上がろうと体に力を入れる。

 

 すると、何故か体は思っていた以上に軽々と流れる様に起き上がらせることが出来た。普通なら痛みを感じている時、体の動きは重くなったかの様に鈍るものだが、真逆の感覚にブーバーは困惑する。

 

 しかし、呑気に考えている暇は無かった。ピジョットは翼を振り下ろすと見せ掛けて足の力だけでジャンプするとゲンガーとサンドパンに跳び掛かったのだ。

 サンドパンの攻撃を仕掛けるのは可能だったが、それだけで止めることは無理と判断して二匹は左右に散る。

 狙いを外して無意味に地面を踏み締めたピジョットだったが、すぐ目の前にいるブーバーに気付くとひふきポケモンに対して”つばさでうつ”を振るった。

 咄嗟にブーバーは後ろに下がるべく地面を蹴ったが、何故か思っていた以上に早く体を動いた。

 

 全身を痺れる様な痛みがまだ走っているにも関わらず、逆に俊敏になっている体。

 訳がわからなかったが、ブーバーは不敵な笑みを浮かべると痛みを無視して、今度は逆にピジョットの懐に飛び込んだ。

 まるで”ものまね”で”こうそくいどう”を発揮しているのに近いスピードを発揮しているのを感じながら、ひふきポケモンはとりポケモンの顔面を殴り付ける。

 その威力にピジョットは怯むが、刹那の間にブーバーは同威力のパンチを数発決める。

 度重なる連戦で相手が弱っていることもあったが、それでも今のブーバーは速かった。

 

 これはいける。

 

 そう確信した直後だった。突然、ブーバーの体は急に重くなるを通り越して硬直してしまう。

 動かせないことは無いが、それでもまるで錆びたブリキのオモチャ並みだった。

 

 ブーバーの異変にサンドパンとゲンガーは気付くが、既にピジョットが体勢を立て直して避けるどころか動けないブーバーに襲い掛かった。

 

「よくやってくれた皆!」

 

 諦めの考えがブーバーの脳裏を過ぎった瞬間、聞き覚えのある声と共にひふきポケモンの姿は影に隠れる。

 見上げるとさっきまで倒れていたカイリューが、ブーバーを飛び越える形で宙を舞っていた。

 ピジョットとの攻防や未知数の衝撃波を受けたことで戦闘不能に追い込まれていたが、”げんきのかたまり”をアキラが与えたことで復活を遂げたのだ。

 そしてその右腕には、最近使う様になった技特有の黄緑色の一際濃いオーラが溢れていた。

 その技の名は――

 

「”げき…りん”!!!」

 

 腕を痛めているにも関わらず、前線から少し離れた場所にいたアキラは、まるで自分が攻撃を仕掛けているかの様に痛んでいる腕を突き出した。

 今カイリューと一心同体の感覚を共有している訳ではないが、思わず感情が高ぶったのだ。

 だけど、不思議とカイリューも彼と同じ様な腕の振り方で、”げきりん”のエネルギーを放っている右拳で思いっ切りピジョットを殴り付けた。

 

 右拳をぶつけた瞬間、カイリューが腕を突き出した方角に”げきりん”のエネルギーが黄緑色の光と共に生じた衝撃波と爆風が一直線に突き抜けた。

 爆風の余波はアキラ達がいる場所にまで広がったが、舞い上がった土埃が収まると、カイリューが腕を伸ばし切った方角の地面は一直線に抉れ、その先には白目を剥いて気絶したピジョットの姿があった。

 

 動く気配は無かったピジョットだったが、徐々に体中から発光している赤い光が収まっていき、それに伴って体も目に見えて縮んでいく。

 まだアキラのポケモン達は構えていたが、殆どは勝利を確信していた。中でもブーバーは手柄をカイリューに取られた気分だったが、あまり気にしていなかった。

 痺れと痛みで、未だに回復の兆候が見られない動きがぎこちない手を見つめ、ゆっくりとだがまるで確信したかの様に握り拳を作る。

 

 そして倒れているピジョットの体から禍々しい赤い光が消え、最終的に本来の大きさに戻ったのを見届けて、ようやくカイリューは伸ばし切った腕を下げて勝利の雄叫びを上げた。

 

 遂に彼らは勝ったのだ。

 

「や…やった…」

 

 彼らの様子にアキラは息を荒げながらも一安心する。

 今回も危うい戦いだった。

 多少の被害を被ったが、結果的に見ればサイドンの時と比べれば遥かに少なく済んだ。

 ところが気持ちが落ち着くにつれて、感情が高ぶるあまり体を動かしてしまった影響で再び体中に痛みが走り始め、アキラは体を屈めてしまう。

 

「アキラ…」

 

 意識を取り戻したニョロボンに支えられて、レッドはアキラに歩み寄る。

 気付いた彼は顔をレッドに向けるが、痛みを無視し切れなくて表情はぎこちない笑顔だった。

 

「レッド…勝ったぞ」

 

 額に汗を滲ませ、息を荒くしながらも精一杯の笑顔を浮かべて、アキラはレッドにそう告げるのだった。




アキラ、レッド達のピンチを救うと同時に無事に戦いを制する。

原作よりも早くイエローの帽子の下に秘められた秘密を知るレッド。
今後ちょっとだけ面倒なことに、なるのかならないのか、そんな感じです。

今回の出来事含めて、オリジナル章を中心に原作本編には出ないオリジナル設定や展開が今後出てきます。
そうなると「メガシンカ」や「リージョンフォーム」みたいに今回の現象などに関する「名称」を付ける必要性が出てきますが、基本的にはポケスペ原作やゲーム以外の色んなポケモンをモチーフにした作品や媒体などで既に登場している名称や関連するのを付けようと考えています(もしかしたら微妙に変わったりするかもしれませんけど)
決着は付きましたが、もう一話続きます。

次回についてですが、諸事情で更新は27日になった直後に更新したいと考えています。
もし遅れたりしたらすみません。

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