Harry Potter Ultimatemode 再会と因縁の章 作:純白の翼
グラントの自己紹介を聞き終えた瞬間、俺は思わず立ち上がった。
「何!?あの、リトル・ハングルトン周辺を活動拠点にしている英国最大のギャング組織『スマイル』のBチーム総隊長、グラント・リドルだと!?」
グラント以外のメンツは、首を傾げている。
「え、何々。どうしたの?」エリナが聞いてくる。
「ああ。マグルの村にリトル・ハングルトンという場所があるんだが、そこは大変治安が悪いんだ。殺人鬼や窃盗犯、ゴロツキがいるかなりヤバい場所なんだよ。数年前からそんな連中が、原因不明の変死体となって発見される事件が立て続けに起こったんだ。それと同時に、ある勢力が拡大して、リトル・ハングルトンを影から支配をしたんだよ。その勢力の名前が……」
「『スマイル』ってわけか。」ゼロが続ける。
「そのうちの一人の総隊長がよりにもよって俺らと同い年とは。警察が法で裁けなかったわけだが、今まではその理由が分からなかった。グラント、お前、今まで何回も魔法使っただろ。」
「ああ。使ったけど。」
「まあ、ここで何かをしたわけじゃないから、俺は何も言う事はないけどな。」
「そうなんだ。……ってそれよりも、ツッコミたい事が山ほどあるんだけど!」
ロンがハリーに向かって喚く様に言う。
「エリナ・ポッターの事は知ってるけど、ハリー・ポッターが実は生きてたなんて!僕、びっくりしたよ!マーリンの髭!!」
「そこは驚く所なのか?俺は、よく分からん。」
「おじいちゃんに報告しないと。生き残っていたポッター兄妹に戦闘一族の末裔、ブラック家の現当主にマグルのギャングの事を。」
シエルが今思い出したように呟く。ゼロはふと疑問に思った。イドゥンについてだ。
「なあイドゥン。差し支えない程度で良い。質問させてくれ。ブラック家って星座やギリシャ神話から名前を取っているような気がするんだけど、何故に北欧神話の女神から名付けられたんだ?」
「その事ですか。母が北欧神話かぶれだったのです。そして、ブラック家の家訓に北欧神話から名付けてもいいというルールが設けられたのですわ。」
「それでいいのかブラック家。」
ゼロが溜息をついた。そんな下らない家訓を加えるなと思った。
話題は、世間話に移っていった。というか、エリナとグラントは本当に魔法界の事を知らなかったようだ。俺は、イギリスの事情は知らないけどね。だから、コミュニケーションで情報を収集するのだ。
また、エリナに至っては引き取られ先の家族からは冷遇されていたという。ただし、露骨にそうしていたのが伯父だけで、伯母と従兄は影でサポートをしていたようだ。俺だけ、何か苦痛を逃れたような感じがして、大変申し訳なく思った。まあ、5人がかりで知識を教え込んだわけだ。
「本当に何も知らなかったのね。」
シエルは、エリナとグラントが余りにも魔法界の事情に疎かった為に、かなり驚いた。
「うん。ハグリッドが教えてくれるまでは、ボク、自分が魔法使いだってこと全然知らなかったんだ。両親の事も、ヴォルデモートの事も……」
エリナがその名を言った瞬間、ハリーとグラント、イドゥン以外が息を飲んだ。
「どうかしたの?具合悪いの?」
『ヴォルデモート』の名を呼ぶ奴は殆どいないに等しい。いるとしたら、かなりの勇者だろう。あの変態ヘビが消えて10年経った現在でも、魔法族はその名を呼ぶことを恐れている。基本的には『例のあの人』や『名前を言ってはいけないあの人』と呼ぶのがベターだ。飽く迄イギリスの話だけど。日本では知名度は高くない。まあ、死の飛翔なんてプレティーンな名前を付けている時点で、頭が相当イカレているキモい奴には変わりないけどな。
エリナがヴォルデモートの名を言っても平然としていた俺は、不思議そうにしているエリナにそれを説明した。
「エリナが闇の帝王の名を言ったからだよ。英国魔法界ではその名はNGワードなのさ。他の国では知らんけど。」
「あ、そうなんだ。ごめんね。さっきも言ったけど、本当に何も知らないんだよ。名前を言っちゃいけないってことは、つい最近知ったばかりなんだ。ボク、学ばなくちゃならないことがいっぱいあるんだよ……」
「安心しなよ。俺なんて、1ヶ月半前にイギリスに戻って来たんだ。この国の事情はあんまり知らないから。」
俺はエリナを慰めようとする。しかし、エリナはずっと気にかかっていた事を、初めて口にする。
「きっとボク、クラスでビリだよ。そうに決まってる。」
しょんぼりしているエリナを見て、ショックから立ち直ったロンが慰めるように言った。
「そんな事はないさ。マグル出身の子だって沢山いるし、そういう子でもちゃんとやってるから。」
ロンが言った。
「そうだ。今までのホグワーツの最優秀成績者の名簿リストを見てみると、必ずしも純血が際立って優れているとも言い切れない。寧ろ比率としては、7割が半純血を占めているんだ。勿論、純血やマグル生まれの中にも凄い人は沢山いるけどな。」
ゼロが、続けてエリナを労る。
「それでハリー。何で日本にいたのですか?」イドゥンが聞いて来た。
「やっぱりそれ聞くの?」
「当然ですわ。日本というのは、侍や忍者がいると聞いております。彼らの実態を詳しく知りたいと思いまして。」
まだいると信じられてるのかよ。仕方ない。日本の事情を話すか。マホウトコロに、俺が今まで何をやって来たか、マグル界との関係、文化、その他諸々話した。それを聞いた周囲の反応。
「そうですか。もう侍や忍者はいませんでしたか。」イドゥンは残念そうにしていた。
「凄いわね。日本の魔法も。陰陽術って奴ね。」シエルは感心している。
「日本の食べ物って美味しいんだね。きっと。」エリナは、食べ物に興味を示している。
「マホウトコロとホグワーツの教育課程は終了させているのか。しかも、魔法使いが怠ってしまう身体能力までご丁寧に鍛えていたとは。」
ゼロは、俺が今までやってきた事に大変驚いていた。
「そんなに凄いのか?」グラントが聞く。
「古くからの名家と言われる家系でも、そこまでのスパルタ訓練はしない。それをやり抜いてきたハリーは異常だ。組み分けされた寮は問答無用で寮対抗杯でトップになれるかもな。」
「日本でのマグルとの関係って、パパが聞いたら理想郷を夢見ているような感じになるだろうなあ。」
ロンの父親は、かなりのマグル贔屓らしい事が、彼の発言から分かる。
話をしている間に、汽車から見える風景が変わっていた。田園風景が去り、広大な野原や、そこを通る小道などの横に、所々牧場があるのが見える。
12時半が経った頃、通路でガチャガチャと音がして、車内販売の販売員のおばさんがやってきた。
「車内販売よ。何かいりませんか?」
エリナとシエル、グラントにゼロは腹を相当空かせていたようで、勢い良く立ち上がると通路に出ていった。ロンは耳元を赤らめて、サンドイッチを持ってきたから、と口ごもった。
彼の家、つまりウィーズリー家はお世辞にも裕福であるとはいえない。よって、ロンはまだ小遣いを貰っていない。
ロンはデコボコの包みを取り出して、それを開いた。同じように席に座ったままの俺とイドゥンを見て、ふと尋ねることにしたようだ。
「2人はいいの?」
「俺は、弁当を持っている。自分で作ってきた。」
「私も、家の者が作ってくれましたので。」
弁当を広げる。イドゥンは、サンドイッチを持って来ていた。俺は、持参した2段式の弁当箱を開いた。おにぎりの段と、おかずの段に分かれている。割り箸で食べる。
エリナ、シエル、グラント、ゼロは両腕いっぱいの買い物を空いている席にドサッと置いた。
「お腹空いてるのか?」と俺が問いかける。
「敢えて抜いてきた。車内販売が美味いと聞いて。」とゼロ。
「ボクは、朝用意して貰えなかったんだ。」とエリナ。俺は、一瞬眉を顰めた。
「少し分けようか?」
「良いの!?ありがとう!」エリナに、俺が持ってきた弁当を食べさせる。
「寝坊したんだよな、俺。」とグラント。
「甘いものは別腹なのよ。」シエルは、大の甘党のようだ。
その後4人が買い込んだ菓子を7人で分け合ったり、(余談だけど、シエルの分は全て彼女の胃袋の中にダ○ソ○の如く瞬時に吸引された)、エリナとグラントが魔法界の菓子に大変驚いたり、食事(という名のおやつタイム)を満喫した。
車窓から見える風景。それは、荒涼とした風景がそこに広がっていた。整然とした畑は、一切ない。森や曲がりくねった川、うっそうとした暗緑色の丘が過ぎておく。
そこから視線を内側に戻したその時、扉をノックして丸顔の少年が半泣き状態で入ってきた。要約すると、ペットのヒキガエルが逃げ出したらしい。このコンパートメントにもいないからヒキガエルはいないよと伝えると、しょげかえって出ていった。
「僕のペットのスキャバーズなんて、逃げようともしないけどね。まあ、ヒキガエルなら、僕ならすぐに逃がしたいけどさ。」
「あいつにとっては、大事な存在なんだろう。本人がいないから聞かなかった事にするが、あまり言うなよ。」
ロンにそう注意しておく。少々不貞腐れた。だが、しばらく時間をかけて気を取り戻す。ロンは自分のペットのネズミを指差した。ネズミはロンの膝の上でずっとグーグー眠っている。
「へえ。ロン、そのネズミちょっと触っても良い?」
「どうぞ。」
エリナがネズミを手で抱っこした。胸の辺りにネズミが触れた。それはすぐに終わり、エリナはネズミを太ももで膝枕した。ネズミは起きて、エリナにスリスリしていた。
「スキャバーズを手懐けるなんて、エリナって凄いなぁ。」
「そ、そうなのあな?良く分からないけどね。」
「そう言えばなんだけど。昨日、スキャバーズの体の色を黄色に変えようとしたんだ。上手くいかなかったけどね。ちょっとやってみようっと。」
ロンはトランクから杖を取り出した。あちこちがボロボロと欠けていて端から何やら白いキラキラするものがのぞいている。
「それ、大丈夫なのか?芯がはみ出ているが。」
「大丈夫だよハリー。なるようにはなるって。」
「イヤ。直した方が良い。貸せ。」
ロンから杖を半ば無理矢理引っ手繰った。右手で、桜の杖を持つ。
「
「ほらよ。」杖を手渡した。
「ありがとう!」ロンがお礼をした。改めて魔法を使おうとする。
そこに、さっきの少年が栗色のボサボサした髪の少女と共に入ってきた。正に、杖を振り上げようとした何とも言えないタイミングでだ。
「ねえ、ヒキガエル見なかった?」
なんとなく、威張った感じの話し方だった。ボッチだなこいつ、と俺は悟った。
「見なかったって。さっきもそう言った筈だけど?」
その態度が少し気に食わないのか、ロンは素っ気なく言い返した。もう少し丁寧に言えばいいのに。ま、相手も人の事が言えんからな。だが、その少女は聞いてもいない。むしろ、ロンが出した杖を注視していた。
「魔法をかけるの? それじゃ、見せてもらうわ」
「お陽さま、雛菊、溶けたバター。デブで間抜けなネズミを黄色に変えよ!」
だが、何も起こらなかった。ネズミは、何にも変化なしだ。
「あまり上手くいかなかったようね。私も練習のつもりで色々試したんだけで、どれも上手くいったわ。私の家族は魔法族じゃないから、手紙が来たときは本当に驚いたわ。偏差値の高いパブリックスクールに行く予定だったんだけど、魔法学校からの入学の誘いなんて、断るわけないじゃない?それに、最高の魔法学校だって聞いていたら尚更ね。 ……教科書は全て暗記したわ。それで予習が足りるといいんだけど。私、ハーマイオニー・グレンジャー。貴方達は?」
清々しいまでのマシンガントークだ。一気にこれだけを言ってのけた。ある意味才能だな。一方のエリナは暗記、予習という言葉に顔色を悪くした。だが、同時にホッとした。周りの皆も同じく唖然としている。俺とイドゥンは、殆ど表情を変えていない。
「予習としては完璧だと思うな。兄さんに頼んで予習をつけてもらったけど、そこまで構えなくていいって言ってたからな。俺は、ゼロ・フィールド。」
「イドゥン・ブラックです。」
ゼロとイデゥンが自己紹介をしたのを見て、残る5人も自己紹介をした。何と、グレンジャーは俺とエリナの事を知っているようだった。俺に関しては、死んだと思われていた人間が生きていたような言い方をしたので、正直あまり好きになれなかった。
「どこの寮に入るか知ってる?私、グリフィンドールが良いわ。だって、著名な魔法使いの多くはそこ出身だし、何よりダンブルドアの出身だって聞くから。でも、レイブンクローも悪くないわ。他2つは、劣等生と闇の魔法使いばかりの寮だからありえないわね。」
この言葉を聞いたシエルが不快感を少しだけ露わにした。俺も、あまり良い感情を持ってない。ハッフルパフは性格が良いし、闇に通じる魔法使いも殆どいない。スリザリンは、合理性と機知に富む部分は高く評価している。今の純血主義は大いに気に食わないがな。
それを言い終えると、グレンジャーはまた出ていった。シエルがムスッとした顔でこう言った。
「さあて、着替えようかな。じゃあ、男子は外で待っててね。なるべく早く済ませるから。のぞき10ガリオンよ。」
シエルの言葉により、俺、ロン、ゼロ、グラントは出ていった。つーか、シエルの顔が怖かったよ。数分後、ホグワーツの制服に着替えたイドゥンとシエル、エリナと入れ替わるように俺達男子が入った。しばらくして、7人共着替え終わっって、全員コンパートメントに再び入った。