Harry Potter Ultimatemode 再会と因縁の章 作:純白の翼
今度はオリバンダーの店に行くことにした。想像に反して狭く、みずぼらしかった。扉を見てみると、はがれかかった金色の文字でこう書かれていた。『オリバンダーの店――紀元前382年創業 高級杖メーカー』と。埃っぽいショーウィンドウには、色褪せた紫色のクッションに、杖が一本だけが置かれている。
店に入ると、どこか奥の方でチリンチリンとベルが鳴った。古ぼけた椅子が一脚と天井近くまで山に積まれた細長い杖の箱が俺を出迎えた。俺は、古ぼけた椅子に座って待機していた。
「いらっしゃいませ。」
いきなりだった。柔らかな声を出す老人が目の前にいたのだから。
「ようこそいらっしゃいました。私がオリバンダーです。」
「こんにちは。私、ハリー・ポッターと申します。今日はよろしくお願いします。」
俺は驚いた。だが、すぐに冷静さを取り戻し、老人に挨拶する。目の前のこの人がオリバンダー老人なんだなと思った。
「エリナ・ポッターさんの兄上でしたか。よくぞ御無事で。しかし、全体的にお父様によく似ておられるのお。優しそうな表情ではあるが。目は、お母様に似ておる。」
またか、と心の中で愚痴る。どうも、生前の両親を知る人間は俺の中の両親だけを見ている。正直ウザい。
「それでは、杖腕はどちらですかな。」
「左利きです。」
「腕を伸ばしてください。そうそう。」
俺自身の肩から指先、手首から肘、肩から床下、膝から脇の下、頭の周りと寸法を取った。そして、オリバンダーは、俺に自分の店の杖の概要を話し始めた。
「ポッターさん。ここの杖は一本一本、強力な魔力を持った物を芯に使っています。一角獣の鬣、不死鳥の尾羽根、ドラゴンの心臓の琴線。一角獣も、ドラゴンも、不死鳥も皆それぞれ違ってきます。よって、オリバンダーの杖に同じものはない。もちろん、他の魔法使いの杖を使っても、決して自分の杖ほどの力は出せません。」
それは、その杖が他の魔法使いに忠誠を誓っているからそうなる。だが、手段はどうあれ他の杖の忠誠心を勝ち取ることが出来たならば、話は別だ。元々持っていた杖と同じ力を発揮出来るのだ。それに、一説によれば、以前の持ち主への忠誠心を完全に失う冷酷な杖も存在すると聞いている。
「では、まずこちらを。楠の木にドラゴンの心臓の琴線。17センチ。癒しの魔法に最適。お試しください。」
振ってようとすると、引っ手繰られてしまった。
「いかんいかん。紫檀に一角獣の鬣。21センチ。やや振りにくい。どうぞ。」
試してみると、またも引っ手繰られた。
「では、リンゴの木に不死鳥の羽根。22センチ。振りごたえがある。これを。」
俺は、次々に杖を試していく。しかし、どれも適合出来なかった。3桁は軽く行ったのにも関わらず、オリバンダーは寧ろ嬉しそうにしていた。
「難しい客じゃの。心配なさることはありません。必ずぴったりなものをお探ししますのでな。……さて、次はどうするかな。」
俺は、ある一つの箱に目をつける。見る限り、厳重に保管されていたのだ。自分の直感が、あの杖を使ってみたいと言っている。意を決して提案することにした。
「すみません。あの厳重に保管されている杖を試してみたいのですが。」
「あ、あれですか。先代がこの店を引き継いだときには既にあったと言われる杖をですか。いつ、何の目的で作られたかわからない、製作者も不明。木の材質は、今までにこれ以外で使われた事が無いのです。アセビの木にセストラルの尻尾の毛。30センチ。極端に頑固だが、義理堅い。ですが、あれは誰の命令も受け付けなかったのです。それどころか、気に入らない魔法使いに災いを与えるのです。」
「構いませんよ。それで駄目だったら、俺は所詮、その程度って事ですから。」
半ば無理を言う形で、アセビの杖を振ってみる。なんと、今までにない輝きを放った。
「信じられない。今までどの魔法使いの言うことも聞かなかったアセビの杖をこうもあっさりと手懐けてしまった。」
それだけではない。なんと、それぞれ別方向から杖入りの箱が俺の下に飛んできた。3本も、である。そう。まるで忠誠心を誓うかのように。
「おお、ポッターさんに付いていきたい杖が更に3本も。不思議じゃ。」
「別に珍しい事でも無いのでは?」
「いいえ。確かに一度に複数の杖に認められる魔法使いは少ないですがそれなりにおります。ですが、せいぜいメインで使う物を含めて2,3本が限度なのです。それを決めたものを含めて4本は前例が無いケースです。誰にも従わなかったのに、こんな事があるとは。実に不思議じゃ。」
「どんなものですか?」
「1本目が、セコイアに一角獣の鬣。18センチ。使い手に類稀なる幸運を与え、相手から幸運を奪う。2本目が、黒檀にドラゴンの心臓の琴線。24センチ。戦いや変身術に優れる。そして最後の3本目が、桜と不死鳥の尾羽。20センチ。金目の物や秘宝を使い手に齎す。この3つですな。」
「それで、値段は?ちゃんと払いますけど。」
「とんでもありませんポッターさん。
「とんでもない!ちゃんと払わせてください。」
交渉の結果、アセビの杖7ガリオンと、他3つの杖1つにつき3ガリオンで話の決着がついた。合計20ガリオンを支払い、店を後にする。ちなみに、余分な4ガリオンは、チップのようなものだ。
少し出費が掛かったが、まだ170ガリオンは残っているかな?買うものは揃ったし、ふくろうも手にした。そろそろ、義祖父ちゃんと合流しようかね。
俺は、この後義祖父ちゃんと合流した。教科書を見てみたが、内容はあまり変わっていないようだ。普段の授業はさして問題無いだろう。ホグワーツへは、禁書棚の閲覧とヴォルデモート及び死喰い人の情報収集、新術開発をメインに行動すればいいかと心の中で呟くのであった。
オリバンダーは、ハリーを見えなくなるまで見送った。一度に複数、それも4本の杖の忠誠心を手にするなど、前代未聞であるのだ。しかも、日本で元々2本手に入れていて、合計6本だ。
ハリー・ポッターに売った杖はいずれも、癖の多い杖達ではあった。特に最初のアセビの杖は、吟遊詩人ビードルの物語の中の三人兄弟の物語に登場する死の秘宝の一つ、ニワトコの杖に使われているセストラルの尻尾の毛と同じなのだ。即ち、兄弟杖と言われている。何の目的で作られたか分かっていない代物なのだ。一説によれば、ニワトコの杖への抑止力とも言われているが、真相は定かではない。故に、最初は売る事に躊躇した。
ニワトコの杖と違い、魔力増幅という形で持ち主を強くする効果はない。その代わり、使い手を一度選んだら、その使い手が死ぬまで忠義を尽くす特性がある。死ぬと、また新たな使い手を選択する。
不変の忠誠心を持つ意味では、杖の中でもかなり特異ともいえる。光や闇を問わず、どんな呪文にも適性を持つ。それにあの杖の使い手は、英雄にも支配者にもなってしまうと言われている。まさしく、『力そのものに善悪の概念はない、使う者の意思によって善にも悪にもなる』という言葉を地で行っている杖だ。
願わくば、英雄として明るい未来を作って欲しい。そう願わずにはいられないのだ。
オリバンダーは後に、エリナ・ポッターの杖選びを行う。先ほどのハリー程時間が掛かったわけではないのだが、彼女もまた難しく、同じくらい不思議な杖を入手することになっている。だが、それはまた別の話。
役割分担するとはいえ、杖を6本も持つなんて充分反則な気がします。