Harry Potter Ultimatemode 再会と因縁の章 作:純白の翼
第0話 引き裂かれた兄妹
1981年10月31日。一見何も変わらない日常があるように見えた。一人の男がいた。名を『闇の帝王』と称されるヴォルデモート。男は、ある一軒家を目指していた。一見簡単なことのように思えたが、実はあの腹黒く、それでいてこの男をも凌駕する欲望と傲慢さを持つ老人アルバス・ダンブルドアの差し金で、簡単に見つからなかった。
だが、密かにダンブルドアの一味を裏切っていた配下は、すぐにヴォルデモートにターゲットの居場所を報告した。途中で子供がぶつかってきた。いつもなら殺すつもりだったが、それ以上の獲物が居るので無関心を貫いた。
『ここか。』ヴォルデモートはほくそ笑む。
『忌まわしきジェームズ・ポッターめ。今まで、散々俺様をコケにしおって。挙句の果てに、駄犬や人狼と組んで俺様の左腕を切り落としおった。だが……』
密かに連れ添っていたネズミを見る。
『友を信じ過ぎた事で、貴様は破滅するのだ。今に見ていろ。家族共々、貴様の兄がいる場所にまとめて送ってやる。
家をこじ開ける。中には、若い男女がいた。
「……やはり、来たか。死の飛翔。それに、成る程な。ピーター。自分自身の……心の弱さに屈してしまうとは。僕にも非はあったってわけだね。」
若い男ジェームズ・ポッターは、妻であるリリー・ポッターに2人を連れて逃げろと叫んだ。全てを悟ったような表情となるジェームズ。彼は、杖を持っていなかった。だが、ヴォルデモートとネズミを見つめるハシバミの眼は、とても悲しそうであった。
「覚悟するが良い。ここを、貴様らの墓場にしてくれる。」
「アンタは、とても哀れな奴だな。」
「この期に及んで、そんな事を言えるのか?」
「ピーター。決して見つかるなよ!シリウスとリーマスに!」
「…………ワームテールよ。俺様の帰りを待つのだ。」
ヴォルデモートは、ネズミを解放した。
「覚悟しろ。終わりだ。」
ヴォルデモートは、杖から緑の閃光を放つ。そして、ジェームズは倒れた。まるで、糸が切れたマリオネットの様に。ヴォルデモートはすぐさま2階へ駆け上る。
『こんなので、俺様の行く手を遮るとはな。』
バリケード張ってあった。だが、ヴォルデモートにしてみれば障害物にもならなかった。
「どうか――どうか、この子だけは!」
リリー・ポッターは、子供の命だけは助けてくれと懇願した。
「退くが良い。1人しかいない様だが、もう1人も見つけて始末してくれる。」
「この子は――エリナだけは許して!ハリーも!私だけにして!」
ヴォルデモートは、リリーの行動を嘲笑った。
「リリー・ポッター。貴様は死ぬ事は無かったが――もう1人の子供の隠し場所を吐かないなら、後でじっくりと俺様が探してみせよう。だが今は、貴様も夫の元へ送ってやろうではないか。
リリーを死の呪文で殺害した。赤ん坊は1人だけだった。もう片方はどこかに隠されたに違いない。この際どちらでも構わん。どちらも始末してしまおう。隠された方も、後でゆっくりと殺す。
赤ん坊が突然泣き出す。不快そうに見つめるヴォルデモート。
「コイツが、俺様の天敵に?笑わせる。何の力も無い、孤児院にいたゴミ共と同じ様に泣き喚いているだけの、只の赤子に過ぎないではないか。」
だが、それも全て終わる。杖を向けるヴォルデモート。
「同じ日に生を受けた片割れも、両親と同じ所に送ってやろう。お辞儀も出来ぬ赤子よ。
そう決めたヴォルデモートは、目の前の無抵抗の赤子を殺そうという言語道断の悪行を平然とやってのけた。しかし、赤ん坊には効かなかった。
「な、何!?」
そればかりか、緑の線光が跳ね返って来たのだ。男が密かに習得したあの秘術のおかげで死にはしなかったが、逃げるしかなかった。なぜなら、今の男はそこら辺のゴミ虫にも劣る生命体と化したからだ。
男が狙いを定めたのは、女の赤ん坊だった。こうして、男を破った赤ん坊は『生き残った女の子』と呼ばれるようになった。
*
ゴドリックの谷のポッター家よりある程度離れた場所。ここには、ヴォルデモートの配下たる死喰い人が50人いた。だが、次々と殺されて行っている。不気味な姿をした、何かを纏った様な、正体も分からないその者によって。
「何なんだコイツは!」
「知らん!我々の、大いなる闇の力が全く通用しないのだ!」
「うおおおおおおおおおおっ!」
その者が咆哮を上げる。絶望とも、悲しみとも取れるそれを。声からして男であろう。男の左手から、炎を纏ったピラニアを出して、死喰い人に襲わせる。更に、男の両腕が翼に変化した。その風圧だけで、死喰い人達を即死させていく。
「どうなっているんだ!動物を出したり、あの一族の能力を出したり、すり抜けたり!」
「こ、こいつ……一体何者なのだ?」
そんな言葉を洩らした死喰い人が1人、また1人惨殺されていく。逃げようとしたが、出来なかった。
30分後、その者の周りには死喰い人の死体が転がっていた。地面は、血の海と化していた。
「そうか……俺は今…………地獄にいる……!」
*
「急ぐんだ!シリウス!まだ間に合うかもしれないよ!」
「頼む!生きていてくれ!ジェームズ、リリー、エリナ……そして、ハリー!」
2人の男が、ポッターの家に入り込む。
「
黒髪で、左眼に包帯を巻いている男シリウス・ブラックが呪文を唱える。もう1人のライトブラウンの髪の男、リーマス・ルーピンの方に顔を向け、互いに頷く。
2人は、辺りを見渡す。すると、床に横たわるジェームズを発見した。
「ジェームズ!……すまない。俺の提案が、君をこんな目に遭わせてしまった……」
自分の提案がこんな最悪な事態を引き起こしてしまったと嘆いている。
「シリウス。それを言うなら、私だって同罪だ。ピーターを守り人にするという提案をしたから……とにかく、リリー達はまだ生きてるかもしれないよ。探してみよう。」
リーマスは、そんなシリウスを慰める。
「ああ。分かっている。行こうか。」
2人は、2階へ駆け上る。1階と違って、争った形跡はない。精々、バリケードに使ったであろう備品や赤ん坊用のおもちゃが散らかっているだけだった。
「準備は良いか?リーマス。」
「いつでも大丈夫。」
1つの部屋のドアを開けた。そこには、ベビーベッドにもたれかかったリリーが倒れていた。
「リリー!」リーマスがリリーに触れる。彼女の身体は、氷の様に冷たかった。
「何て事だ!ヴォルデモート!ピーター!よくも!」
シリウスが、怒りと憎しみの混じった声となる。その時だった。ベビーベッドからひょっこりと赤ん坊が出て来た。
「エリナか!」
「良かった!エリナは生きているみたいだ!……だが、この額の傷は?それに、ハリーはどこだ?」
リーマスがエリナを抱いていると、突然泣き声が聞こえた。
「……隣の部屋か!」
シリウスは、急いで隣の部屋に駆け込む。物置を開けると、大きな声で泣いていた男の赤ん坊が出て来たのだ。
「ハリー……生きてたか!偉かったぞ!あいつをやり過ごして!でも、もう大丈夫。俺やリーマスがいるからな。」
ハリーと呼ばれた赤ん坊を抱えるシリウス。リーマスと合流する。
「どうしようか?」
「考えがある。俺の妹に事情を話して、2人を匿って貰おう。」
「アリエス……だったっけ?確か、同い年の子供がいた筈だよね。メイナードが、その子の後見人をしていたんだから。」
メイナードの名が出た瞬間、シリウスは左眼を隠している包帯をクイッと整える。
「……早速、やろうか。戻りたくはなかったが、グリモールド・プレイス12番地へ。」
「おお!シリウス!リーマス!来ておったか!」
大男が、2人の元に現れた。
「ハグリッドか。」
「何があったかは……説明しよう。」
シリウスとリーマスは、ルビウス・ハグリッドに事情を話した。驚愕するハグリッド。
「ピーターめ。よくもそんな事を……俺が出会ったら、殴り飛ばしてやる。」
ピーターへの怒りを露わにするハグリッド。
「だから、俺の実家に預けようかと思ってたんだ。それをやろうとした矢先に……」
「君が来たってわけさ。」
「そう言う事だったか。ダンブルドア先生は、もう手を打ってあるそうだ。リリーの姉一家、ダーズリー家に行く様にしろとの事だ。」
ダーズリーの名が出た瞬間、2人共反対の姿勢を見せる。
「ハグリッド……正気か?」
「私もリリーから聞いているだけに過ぎないが……あの一家がハリーとエリナを素直に歓迎するとでも思ってるのか?」
「シリウスの言う通りだ!冗談じゃない!」
「……俺だって、何でダンブルドア先生がこんな事を考えているのかは分からん。正直、他の不死鳥の騎士団員からも反対の声が上がっている。だが、先生様には何かしらの考えがアリなのは間違いねえ。そこにいる限り、2人共安全だ。」
2人共、当然の如く難色を示したが、ダンブルドアからの指令を理由に渋々ながら同意し、2人の赤ん坊をハグリッドに引き渡した。
「ただな、誰かしらを近くにいられる様にするともおっしゃっていた。来るべき日まで、素性を明かさない事を条件に。俺の方から、お前さんらを推薦しておこうと思っちょる。」
「分かった。それならば、このオートバイを、俺の相棒を連れて行ってくれ。」
シリウスは、ハグリッドに自分のオートバイを貸した。
「ありがとうよ。使わせて貰う。」
ハグリッドは、オートバイに双子の赤ん坊を乗せ、空の旅に出た。
それを見届けたシリウスはすぐさま、裏切り者であり、かつての友に復讐する為に、その裏切り者を、ピーターを追跡しようとした。
「シリウス!」リーマスが声を掛ける。
「ピーターの事は……俺が後始末を付ける。だから……放してくれ!リーマス!」
「そう言うわけにはいかない!私は、君を止める!」
リーマスが杖を構える。
「仕方が無い。骨の5,6本は覚悟して貰うぞ。」
シリウスが、左眼の包帯を外した。右眼は灰色だが、左眼はルビーレッドだった。そして、杖をリーマスに向けた。
『『
赤い閃光が、相殺し合った。
「ハァッ!」
サバイバルナイフを左手に、逆手持ちにしたシリウス。リーマスに襲い掛かる。
「そう簡単にやられないよ!」
笛の形状をしたハンマーでシリウスの攻撃を防ぐリーマス。
「それはどうかな?」左眼を見せつけるシリウス。
「まさか!?」
「そう。幻術だ。」倒れ込むリーマス。
「悪く思うなよ。ケジメは付けに行くんだから。」
シリウスは、走り去っていった。
「待て……シリウス!早まるな!戻って……来るんだ!」
リーマスは、意識が遠退いてしまった。彼はシリウスの執念の前に、成す術が無かったのだ。裏切り者に引導を渡す為、そして何より亡き親友の無念を晴らす為にシリウスは走った。
一方、ハグリッドはオートバイで双子の赤ん坊を乗せて空の旅に出る。
「待て。」
しかし、透き通るほどの銀色の髪、万物を威圧する七色に光る眼を持った男が立ち塞がる。
「誰だ!?」
「俺の名はマクルト。全知全能の神だ。男の赤ん坊を、引き渡して貰おうか。我が組織が、それ相応に育てよう。」
「断る。ハリーは、ダンブルドア先生様の命により、ダーズリー家に行くんだ!それに、どこの馬の骨とも分からん奴に、引き渡す気はねえ!」
「フン。どいつもこいつもダンブルドアか。下らん、全く以って下らん。あの老いぼれの実態を見抜けぬお前が、奴を知った気でいるな。目障りなんだよ。」
「俺の前で!2度と!アルバス・ダンブルドアを侮辱するな!」
「どうとでも言え。狸ジジイの捨て駒である半巨人よ。」
虹の眼の男とハグリッドが空中で激突する。終始、虹の眼の男が圧倒していたが、必死に抵抗したハグリッドはどうにか退けた。
「ハア……ハア……あいつは、危険過ぎる。例のあの人以上に…………!?ハリー?」
しかし、呪いを受けていない兄が、オートバイから手紙と一緒に落ちてしまった。深い樹海に墜落したので、生存は絶望的だった。ハグリッドは探そうとしたが、尊敬するダンブルドアからの仕事を優先した。そして、伯母の所に連れていかれた選ばれた妹は、ダンブルドアに幸運を祈ると言われ、伯母の家に置き去りにされた。
こうして、史上最悪と言われた男は破滅した。女の子は、彼女の世界の者から英雄として崇められた。女の子の家族の死をその世界の人々は嘆き悲しむ結果となってしまった。闇は晴れていく。しかし、一時的な物に過ぎないだろう。「生き残った女の子」と称された妹と死んだとされ、存在を黒き闇に葬り去られた兄。2人が齎すのは、光か、闇か。希望か、絶望か。それはまた先の話になる。とにかく、今は史上最悪の男の失墜を喜ぶべきなのだ。
「生き残った女の子、エリナ・ポッターに乾杯!!!」
11月3日。樹海にて。
「会長。3日前、ヴォルデモートが破滅したと聞きましたが。」
白い服を着た男性が、20代後半ほどのイギリス紳士の格好をした男にそう語り掛ける。
「確か、生き残った女の子によるものだよ。ポッター家の子だそうだ。アルフレッドが世話になった先輩のね。」
「という事は、奥様や息子夫婦、アルフレッド様も安心なされている筈ですよ。」
「イヤ。奴は、ヴォルデモートは死を異常に恐れていた。何かしらの手段で生き永らえている可能性が高い。尤も、何も出来ない状態にまで弱体化したのは本当だが。」
「まさか。という事は、あの男はまた戻って来ると?」
「その通りだ。ポッター家の子と連絡手段を取りたいものだ。リリー・エバンズがマグル世界の出身だった筈だから、彼女の情報を集めないとね。」
会長と呼ばれた男は、白い服を着た数人の男女とそんな会話をしている。
その時だった。何かの泣き声が聞こえて来た。
「近いですね。行ってみましょう。」
その団体は、声が聞こえる方へ向かう。そこには、衰弱しながらも泣き叫んでいる赤ん坊がいたのだった。
「これは……」
女性が、赤ん坊を抱きかかえる。若干冷たい。
「会長。今すぐ、本部に戻りましょう。この子は、衰弱しています!一刻も早い処置をしなければ!」
「分かった。戻ろうか。」
一団は、ブライトンにある拠点に戻った。リーダー格の男は、赤ん坊が持っていた手紙をじっくりと読む。
『つまり、この手紙が本当ならば、ポッター家の子なのか?』
「予想外の展開だが、ポッター家の子を保護出来たのは幸運だったな。それにしても、ダンブルドア。奴が絡んでいたとは。」
不快そうな顔をする男。彼はこう考える。ダンブルドアは、正義の為ならば年端も行かない子供すら平気で犠牲にする様な男だと。
「それで、あの子はどうなっている?」
「少しずつですが、確実に衰弱しています。そして、性別も男の子でございます。」
「という事は、双子の兄であるハリー・ポッターだな……医療チームに伝えておいてくれないか。必要であれば、アレを使っても良いと。」
「左様でございますか?」
「人の命がかかっている。例え、禁忌と言われようとも。私が、責任を全て取ろう。」
「了解致しました。」
男性は出て行った。遠い地で、人生を全うさせよう。これからは、平和な世界で生きるべきだ。
「もう誰も、死なせるものか。このアラン・ローガーの名の下に。だから、ハリー・ポッター。生きろ。」
アランは、赤ん坊にそう願ったのであった。その後、医療チームの奮闘の甲斐もあって赤ん坊は体調が少しずつ良くなっていった。彼は、保護された団体によって1982年初めに日本へ送られたのであった。無論、戸籍も取得して。
そもそも、今作を書こうと思ったのは、ロックマンゼロシリーズのおまけ要素であるアルティメットモード。これをハリー・ポッターでやってみるとどうなるのかなと妄想したからです。文章が上手く纏まっているか分かりませんが、宜しくお願い致します。