本とペンと世界非常識   作:ラギアz

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始めまして。ラギアです。
今回はオリジナル作品です。諸事情により投稿は不安定ですが、恐らく消すことは無いと思います。

意見、ありましたらバシバシください。

序盤で、ヒロインも出てきてませんが・・・どうぞ、楽しんでください!!


プロローグ「本とペンで出来た世界」

 

逃げ回る。ただひたすらに足を動かし走る俺の後ろで、幾度となく土煙が巻き起こる。息は切れているし、筋肉も疲労し切っている。でもここで止まれば、すぐにあの大きい拳に押しつぶされるだろう。

「おいおい、逃げ回ってても勝てないぞ? 戦いってのはな…攻めてなんぼよ!」

「それが出来たら苦労しねーよ!!」

 本とペンを構えるあいつは、そう叫ぶと本にペンを走らせる。あいつの操るぬいぐるみの動きが、少しだけ鈍る。

 ああ、俺も本が欲しかった。

 何で俺は持てなかったのだろう。この世界の住人なら誰でも持っている筈の、自分だけの本を。

 そんな、今考えても仕方ない事が頭を覆い尽くす。

 やはりというべきか。戦いの最中に無駄なことを考えてしまった俺は、巨大化した拳を諸に喰らい、受け身も取れずに吹き飛ばされた。

 

 

 ―――この世界で、全ての人間に共通して言える常識とは何か。

 それは、皆が皆本とペンを持っていることだろう。その力を、扱えることだろう。

 自分自身しか書き込めない本。自分自身の本にしか書き込めないペン。それらは生まれた時から既に人は持っている。

 本とペンはセット。どちらかが欠ける事はない。ペンによって本が、本によってペンが生かされる。それ以外に、これらに使い道はない。

 その本には、所有者の名前が書かれている。

 その本には、目次がある。その目次に書かれていることが、自分の使える能力。力。

 例えば、目次に炎と書かれていた場合。所有者はその本に自分のペンで『炎の渦を発生させる』と書き込めば、実際に炎の渦が発生する。

 最早人生の運命を決めるのは、本の目次、そして分厚さによって決まると言っても過言ではない。ページは、能力を使うのに必要なエネルギー。ページが多ければ多いほど、本は分厚くなり重くなる。本の大きさは、ページに直結する。

 簡単に言えばMP。それがあるのが、この世界の常識。

 ……しかし、ただ一人は違った。

 彼は、本を持たない。彼には、ペンしかない。

 それでも彼には。元葉真には、誰にも無い力があった。

 

 

「惜しかったなあ! さっきの体育!」

「うるせえ嫌味か!!」

 昼休み、体育の授業が終わり俺は弁当を食べていた。そこに来たのは、恐らく毎日来ているであろう親友の照井章だ。

 奴は五月蠅い。茶髪の短い髪を掌で撫で付け、わざとらしく焼きそばパンを俺に突きつける。

「ま、お前は俺には勝てんよ。何せ、本が無いからなあ!」

「・・・焼きそばパン無理やり奪うぞ」

「止めてくれ。俺の楽しみなんだ」

 常識何てものは、結構軽々しく崩れ去る。俺は世界恐らく唯一人、本を持たない人。目次も無ければページも無い、人生真っ逆さまコースに一直線。

 になる筈が、俺は一つだけ他の人には出来ないことが出来た。

 俺は右腕を伸ばし、章の首元に腕を突っ込む。抵抗するのを押さえつけ、抜き取ったのは章の本。

 本とペンは、体の中にある。そしてそれは、他人では取れないのだが。

「おまっ・・・止めろよ! 他人にとられるの気持ち悪いわ!」

「ぬいぐるみに包まれて爆発しろや!」

 ……俺は、取れる。そして、更にそこへ『書き込む』事が出来るのだ。

 パララ、とページを捲り、白紙のページへ俺のペンである黒と金の万年筆を走らせる。 焼きそばパンを机の上に置き何とか取り返そうとしてくる章に背を向け、最後まで丁寧に書き終わると俺は口を開いた。

「[上書き]!!」

 上書き。またの名を、オーバーライド。

 緑色の本が淡い光を放つ。書いたページから色が失われると同時に、章の体から無数のぬいぐるみが飛び出した。

 オーバーライドは、人の本に書き込み能力を無理やりに発動させたり中断させたり出来る。今やったのは、章の能力である”ぬいぐるみ”を発動。

 奴の体からテディべア(特製1m)を生み出し、それで生き埋めにした。

「ング…ん……ぶっふぉあ!! おい真、いきなりは止めろよ!」

「悪いと思ってる。お詫びと言っては何だが、焼きそばパンは食っておいたぞ」

「はあっ…お前、ふざけんなよおおおおお!!!」

 章の叫びが虚しく教室に響き渡る。クラスメイトの視線を一心に浴びながら、そいつは俺へと飛びかかってきた。テディベアを投げつけて来るのを回避しつつ、俺は更に本に書き込み続ける。

「[上書き]」

 光が放たれる。そして再び、章の頭ににぬいぐるみが衝突した。

「てめっ・・・このやろおお!!」

「[上書き]」

「ぶふぉあっ・・・ちくしょおおおおおおおおお!!」

 何度も何度も、そいつは叫びながら俺へと殴り掛かってくる。身長172cmの俺より数cm高い章は同じように長い腕を振り回し、リーチで俺を追い詰める。昼休みの教室。まだ四月末、外は寒く屋上で食べる人はいない。学食に行く人も多いが、それでも教室にはある程度のクラスメイト達が残っている。

 うまくその間を縫いながら、俺と章は机の間を駆け巡る。

 全然捕まらず、このまま逃げ切れると思いきや、終わりは案外直ぐに訪れた。

 どすんっ、と前を見ていなかった俺は何かにぶつかる。慌てて離れ、そして俺より大きいその顔を見上げ。

「「せ、先生っ!」」

「またお前らか!!」

 体育教師の怒声と共に、その場に正座する事となった。

 

 昼休みも終わり、今度は五時間目。

 何やるのかと思えば、担任の先生が取り出したのはアンケートだった。どうやら、最近作られた宗教団体のアンケートらしい。学校長と交渉し、なぜかは分からないがやる事になったらしい。

 前の席の奴からプリントを受け取る。余談だが、俺は窓際の一番後ろの席。

 隣は居ない。ぺらりと一ページ目を捲り、内容に目を通す。

 名前は元葉真。ふりがなに”もとば しん”と書き込み、次に年齢や学校名を記入する。確かに、それは簡単なアンケートだった。睡眠時間や、宗教らしく信仰する神様は等。

 俺は、もう何十年前から神を信じてはいない。直ぐにばってんを付け、二枚目を見る。

 そこにあった質問は、全て本に関する質問だった。

 思わずため息を吐く。この本とペンが常識になった世界では、本自体がそいつの未来を表す。厚さや、目次に書かれて居る事などを聞きただす質問に俺は迷いなくゼロとシャーペンを走らせ、そのままアンケートを閉じた。

 何気なく、窓の外を見る。灰色の雲が空を覆う、文句なしの曇り。開けられた窓からは涼しい風が入り込み、制服の裾を揺らす。

 この春、晴れて俺は高校一年生になった。苦しく厳しい受験勉強を乗り越え、入ったのは家から電車で三十分の平凡な高校。それでも中学校の同級生は何人か来ているし、章もその一人だ。

 寂しくはない。でも、本を持たない俺としてはやはり物足りない日常。

 シャーペンを手の中で弄ぶ。出来ることなら、俺は空へと飛んでみたかった。

 本を持ってしても、誰にも出来なかった空を飛ぶという夢。疑似的な事は出来ても、翼をはためかせ飛ぶことは出来ない。目次に、刻まれない。

 母は他界。父は仕事。

 家に居るのは病弱な妹。大した使い道の無い俺に、明るい未来は無い。

 昔から、アンケートで聞かれるたびにそんなネガティブな考えが思考を覆い尽くす。自分でも嫌になる性格に、苦笑しかもらせなかった。

 

曇り空を、そっと見上げる。一層ネガティブな思考が溢れるのを、俺はため息と共に感じた。


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