斯くして一色いろはは本物へと相成る。   作:たこやんD

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お待たせしました!

いつの間にかお気に入りが50件超えててめっちゃ嬉しいです!

今回はなんと、オリキャラが初登場です!
初回、ということでキャラの紹介がメインになります。
なのでいろはの出番は少ないです、というかほとんど番外編みたいなものになってしまいました...

というか人生で初めてキャラクターというものを作ったのですが...
人ひとりの人格を形成するって、予想以上に大変な作業ですね(-_-;)

上手くできたかはわかりませんが、今後はこの子との絡みのシーンもちょくちょく出していきたいので、好きになってくれるとうれしいです!


長めだしだいぶ重めなキャラ紹介になるとは思いますが、、、どうぞ!



4話 斯くして一色いろはは温もりになる。

 とてつもなく眠い。そして何もかもがダルい。

 何の変哲もない、そんな朝だ。

 

目を覚まして布団から出るのがダルい。

 制服に着替えるのがダルい。

 学校用に薄い化粧を整えるのがダルい。

 靴を履くのがダルい。

 自転車を漕ぐのがダルい。

 

 そしてなにより…

 

「…茉菜の相手が一番ダルいです」

 

「えぇ~、いいやんこんぐらい~」

 

 そう言って例のごとく私の腕にしがみついて暖を取っているこの子は、真鶴 茉菜(まなづる まな)。私の数少ない友人の一人だ。いや、まぁ友人というより…手のかかる妹?みたいなものかな。…ごめんなさい調子乗りました友達です。

 駐輪場で茉菜に会ったのが運のつきだった。自転車から降りるや否や、この子は私の左腕にこれでもかと引っ付いてきたのだ。

 

「チサちゃんの腕あったかいけんクセになるんよ~」

 

まぁ別に、私も寒かったから嫌とかじゃないんだけど…その、重いし。

 あとほら、私にはない二つの暴力的な膨らみがさっきから私の腕をがっちりホールドしてるんですけど。何その重量感、羨ま…じゃなくてけしからん。

 ちょうどその間に腕を挟み込んでくるのやめてくれませんかね。

 なに食べたらこんなに大きく…愛媛には何かすごい食材でもあったりするのかな?

 

茉菜はこんな神奈川県みたいな名前して、実は中学校までは愛媛で暮らしていたらしい。そのことが私の友達になった遠因でもあるんだけど...。

 

「あったかいのはいいけど、その…周りの視線が痛いから、ね?」

 

 見ると、近くを歩く人たちがたまにチラチラこちらに目を向けてくる。

 私も茉菜も顔だちはいい方なので、こういうことをしていると自然と人目を引いてしまいがちだ。自分で言うのも恥ずかしいけど。

 そのことは今しがた周りを見回した茉菜も自覚していると思うのだが、それでもなお、茉菜は私の腕から離れようとはしない。むしろさっきよりも密着度が増してる気がするんですけど...。

 

「またまた~、チサちゃんそういうの気にせんやろ~?」

 

 う...。

 痛いところを突かれてしまった…。

 

 そう、実のところ私は周りの視線など全く気にしてはいない。というか、興味がない。

 かといって、茉菜のことが嫌で拒絶しているのではなく、ただの低血圧。朝はとにかくいろんなことがダルいのだ。

 

 そんなことは約1年間すぐそばで学校生活を送ってきた茉菜にはお見通しのようで、さっきの発言の効果はほぼ皆無だった。

 

 そんなこんなで私たちはそのまま、校舎の昇降口へ吸い込まれていく有象無象たちの流れに任せて歩いた。

 そしてここからいつも通りの学校生活が始まる。

 そんな、なんの変哲もない朝である。

 

 と、こんな面白みのない私の頭の中をいくら晒しても仕方がないので、ここで少し私自身の話をしよう。

 自分でも嫌というほど理解しつくした、茅ヶ崎 智咲(ちがさき ちさき)というどうしようもない人間のお話を。

 

 

   × × ×

 

 

 私には父がいない。

 そりゃあ私の遺伝子の半分はどこかの男の人から受け継いでいるから、探せばどこかにはいるのかもしれないが。そんなのを父と呼んだりはしないだろう。

 母は結婚することなく私を生んだ。17歳の時だったらしい。別にそのことに対して不満があるわけではなく、年が一般的な親子ほど離れていない分仲は良好だし、参観日とかは親が若々しいと女子としてはステータスだし、むしろ良かったと思っているぐらいだ。

 

ただ、母はかなり男クセが悪い。

 私を産んだのは17の時だから、そりゃあまだまだ女としては終わってないというか、むしろ始まってすらいないまである。そんなこんなで私の家には、小さい頃からいろんな男の人が出入りしていた。

 

まだ私が何も知らない無垢な女の子だった頃は、入れ替わり立ち替わりやってくる、時には優しそうなお兄さんだったり、時には気のいいおじさんだったりする男の人たちのことを少し嬉しく思っていたりもした。

 しかし、そう無知でいられたのも初めのうちだけだった。

 まだ小さかった私に対して最初は気を遣っていた男たちも、慣れてくると次第に態度が変わってきた。そのほとんどが、まるで私なんていないかのような態度を取り始めたのだ。

 

いや、それも違うか。

 

あの人たちは最初から私には興味を示していなかった。優しいと思っていたのも、気がいいと思っていたのも、後になってみると全部私から話しかけていて、そんな無邪気な目をした私に最初はみんな愛想よく振る舞ったのだ。

 それすらもわたしに対する愛情ではなく、母に対するもっとおぞましい何かがそうさせてただけなんだけど。

 

 そうして次第に私を空気扱いし始めた男たちに合わせるように、男が来ているときは母も私のことはいないものとして扱った。

 そうして部屋の隅でおもちゃをいじくっていた幼少期の私は、いろんなものを見て、聞いて、感じた。まぁ今思えば子供に何見せてんだよって話なんだけど…。

 

 小学校の中でだんだん年上の数が減ってきたころ、それに伴って私も次第に無知な女の子ではいられなくなった。

 

ああ、私の家は普通じゃないんだ…。

 

そんな風な自覚が芽生えてからしばらくは、色々なことを考えて、周りとの接し方もわからなくなっていた。ショックを受けたとかそういうのではなかったけど、どうにも周りの人間が全て作り物のように思えてきた。

 

誰よりも早くから、人間の醜い…“本物”の部分を見てきたからだろうか。それこそが人間の本質なのだと理解してしまったとき、ソレの扱い方が分からなくなってしまったのだ。

 周りの誰よりも長くソレを見てきた私だったが、結局のところ、見てきただけだった。随分と長い間見てきた。そのことに変わりはないが、ただそれだけだ。見てきただけ。

 

 しかしいつだったか、私は考えることをやめた。

 

 考えなくても、簡単なことではないか、と。

私は今まで何を見てきた?とても黒くて禍々しい物?

 いや、それだけじゃなかったはずだ。

 私は見てきたはずだ。

 ソレを何でもないように扱い、手のひらで転がす母の姿を。

 

 それに気付いてからは簡単だった。

 母に倣い、完璧な仮面を張り付けた。

 何事もそつなくこなし、人当たりがよく、他者の気持ちが理解できて、親しみやすい。そんな人間を演じることは、なんら難しいことではなかった。

 母からもらった整った顔立ちと豊かな表情。そして“小さい頃から変わらない”明るい性格を以てすれば、みんなが求める“私”はすぐに作り上げることができた。

 その反動なのか頭の中で理屈をこねくり回すようになったのだが、それはかえって好都合だった。

 見たものを考えて、理解して、演じる。

 

 それから中学を卒業するまでの数年間、私の人生は輝いていた。

 しかしそれはただ、自我を燃やして光を放っていただけだった。

 

 そして完璧な仮面は、悲しいほどに…完璧だった。

 

 際限なく、分厚く、広くなっていったその仮面は、ついに自重に耐え切れなくなって、崩壊をはじめた…。

 

 それからの私は、とにかくその仮面を補強することで必死だった。分厚いその内側から崩れていく仮面を、どうにかして取り繕った。

 幸か不幸かそれはすべて仮面の内側でのことだ。誰もそんなことには気が付く様子もなく、中学生が終わるその時まで、私はみんなの求める茅ヶ崎智咲を演じきった。

 そのころにはもう分厚かったあの仮面は、繋がっているのが不思議なぐらい薄く薄く、ただ私の内と外を隔てるだけの一枚の殻になっていた。

 

 そして春休みのあの日。

 

 ついにその殻も、粉々に砕け散ることになったのだ。

 

 

 砕け散った殻の中に残っていたのは、小さく…幼い少女のように感じられる“私”と、崩れ落ちた仮面の残滓だった。

 

 

 しかしそこには、ある日私が醜いと評し、理解したつもりでいた黒くて禍々しいソレは、残っていなかった......。

 

 

   × × ×

 

 

 とまぁ、そんな感じで総武高校に入学しました私は、ボッチだった。

 そりゃまあ…当然か。

 

「えっと、茅ヶ崎さん…だよね?」

「うん」

「じゃあ茅ヶ崎さん、アドレス交換しよ!」

「無理。別に私あんたに興味ないし」

 

 入学初日の放課後、連絡先を交換する流れになっているクラスの中でひとり早々と帰り支度をする私に話しかけてきた、秦野とかいう女の子。それに対する私の返答により、高校生活1日目にして私のボッチが確定した瞬間だった。

 

 別に彼女のことが気に食わなかったわけではない。ただ、興味がなかったのだ。他人のことも、他人から見た自分のことも...。

 

 

 そうしてボッチ生活を初めて2週間の私の心に、早くも変化が訪れた。

 春休みの“あの日”から文字通り誰にも興味を引かれなかった私だが、あるクラスメートがどうしても気に食わないという気持ちがあることに気が付いた。

 自分が有象無象のやからにどう思われようが知ったこっちゃない。ましてやその他人のことが気に食わないなど、あるはずもなかった。

 

 しかししばらく観察しているうちに、あることに気がついた。

 彼女、

 

名前は確か一色…だったかな?

 

 は、始まって2週間のうちに着々とファンを増やしていき、今じゃ学年の男子で彼女を知らない人はいない程らしい。

 しかしそのせいもあって女子にはいい顔をされておらず、さらにこのクラスのトップカーストに君臨する秦野に目を付けられたために、クラスに実質的な彼女の居場所はないように思われた。

 

 そしてその二つの状況の最大の要因となっているのは…

 

「あ、…くん、えぇ~どうしよう……うん、じゃあ………ね?」

 

 吐き気のするほど甘ったるい猫なで声。

 殴り飛ばしたくなる上目遣いのしっとりと濡れた目。

 誰に対しても徹底的なまでにふりまくあざとさ。

 

 彼女を構成するその要素たちが、男子を惹きつけ、女子を逆撫でる。

 

 

 そして私は誰よりも…それが気に食わない。

 

 

 どうしてこれほどまでに黒い感情が湧き上がってくるのか…

 いや、それはとうにわかっていた。

 

「一色さんといい茅ヶ崎さんといい、うちのクラスって変なの多いよね~」

「それな~」

 

 クスクスと笑い合う声が聞こえる。

 

 あぁ…

 

 あの張り付けられた笑顔の裏には、どんな顔が隠れているのだろう。

 

 いつからそれは外せなくなったのだろう。

 

その仮面の内側で、何を思っているのだろう。

 

 醜くもがいているだろうか。

 

彼女のあざとさに満ちた笑顔は、過去の私を見せつけられているようで…

 ひどく不愉快だった。

 絶対にこいつとだけは仲良くできないと思っていた。

 

 

『ねぇ、茅ヶ崎さん』

 

 

 そう彼女に声をかけられるまでは...。

 

 

   × × ×

 

 

 やっぱり過去なんてものは思い出すもんじゃないな。私の人生、わりと黒歴史多いし。特に“春休みのあの日”と“いろはとのくだり”はどうにも避けて通りたくなる。

 それに、トラウマも過去の恥ずかしい話も、そういうものはもう、今の私の糧になってそっと蓋をしたのだ。

 いつかその記憶すらも愛おしくなり、優しくひも解いていける時がくるまで、何よりも大切にとっておきたいと思うから。

 

 だから今は、腕にひっついているこの友人と…

 

 私をあの場所から連れ出してくれた恩人の隣で

 

 

 変わらぬ日常を謳歌していようと思う。

 

 

 ……ぇ

 

 …ねぇ

 

 

「ねぇチサちゃん!聞いとる?」

 

左腕が話しかけてきた。

 

「ほう…ついに私の腕にも寄生獣が…。あ、でも左腕だからミギーじゃなくてヒダリー?」

 

 最近読んだ漫画に、そんな名前のがいた気がする。

 あいついたら絶対日常生活楽だろうなぁ~、朝とか自分で動く必要なくなるじゃん?

 

「も~、何ぶつぶついいよん?てかさっきの話聞きよった?」

 

「え?あ、なんだ茉菜か…」

 

「なんだ、って…。チサちゃんひどいし~」

 

 んー、これじゃあ寄生獣というよりひっつき虫?

 なにそれ全然役に立たなそう…重いだけじゃん。

 

 あぁ、それより、茉菜なんか言ってたな。

 

「話がどうしたってー?」

 

「あ~、やっぱり聞いてないじゃん!」

 

「ごめんごめん…で、何だって?」

 

 うー、と小さく唸るように私を見ていた茉菜は、意に介してない私の様子に諦めたのか、私の腕にかけていた体重を緩めると、ちょっとばかし真剣な目つきになって二度目になるであろう話題を振ってきた。

 

「だから、いろはちゃんのこと!昨日はちょっとおかしかったし、大丈夫かなぁ」

 

「あー、そのことねー。私も昨日の夜考えてたんだけど、やっぱりただの男関係のトラブルってわけではなさそうだったよね」

 

「んー、心配だよね…なんかここ最近はやけに生徒会の仕事も根詰めてる感じやったし」

 

「まぁでも、いろははちゃんと、誰かに頼れる人だから大丈夫だとは思うけどね」

 

「それはそうだけど…、それなら私たちのことも頼ってほしいやん?」

 

 茉菜にそう言われて、昨日のことが一瞬フラッシュバックした。

 

 

『えー?そんなことないよ~』

 

 

そう言った彼女の顔には、私たちにはめったに見せない、外用の笑顔が張り付けられていた。

 

 彼女は普段私たちといる時は、あざとさとは程遠い自然体で接してくる。

 そんな彼女はとても清々しい笑顔で私に笑いかけ、心底楽しそうな悪戯っぽい微笑みで茉菜をいじるのだ。

 

 しかしごく稀に、彼女は私たちの前で仮面をかぶる。

 そうすると、いつも見ていて目に焼き付いているはずの彼女の素顔は、途端に霞がかかったかのようにぼやけてしまうのだ。

 

それでも、仮面に隠れてしまった彼女の顔は見えないが、その奥で優しく、泣きそうな顔をしているのは、見えなくてもわかる。

 

 それは私が、私たちが、彼女の…一色いろはのことを、誰よりも近くで見続けてきたからだ。

 彼女が私たちに顔を隠すときは、決まって彼女が手一杯になっている時だ。そんな時でも彼女は、私たちに心配かけないようにと気を遣って、隠れてしまうのだ。

 

 しかし私はそこまで分かっていてもなお、その仮面の先に踏み込むことができない。昨日も、あの生徒会選挙の時だって…。

 

 それでも…

 

 と、私は思う。

 

 今は他の人が担っているであろう役割。

 彼女の仮面を溶かし、その心に触れることができる役割に。

 選挙の時も、おそらく今回も…、私の友達に最も近付いたそんな羨ましい誰かさんが果たしたであろう役割を。

 

いつか私もそこに選んでもらえるように…

 

 今日も少しだけ、ほんの少しずつでいいから、彼女の“本物”を知れたらいいな、と。

 

 気合いを入れ直すように、あいている右手を、強く握った。

 血の巡りが悪くなり、少しずつ手が冷えていくのがわかる。

 

 

 するとすぐに、その温もりはやってきて…

 

 

 

「智咲、茉菜、おはよ!今日寒いね~、…あ、茉菜ズルいわたしも~」

 

 

 そう言って腕にしがみついてくるいろはの目はまっすぐで、

 

 いつも通りの、飾り気のないとびきりの笑顔を湛えていた。

 




いかがだったでしょうか!

智咲と茉菜はいろはの友人という立ち位置で、今後も活躍してもらうつもりなので、少し背景を持たせときたいな、と思いこの話を書きました。

話の途中で出てくる
”春休みのあの日”と”いろはとのくだり”
は、また時間があれば番外編、という形で書きたいと思ってます。


オリキャラとか超不安で正直ビビッてるのですが、
ご指摘、感想など待ってます!


それでは引き続き作品ともども、よろしくお願いしますm(__)m

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